新生徒会が始動したが、そのメンバーと役職は前期とほとんど変わらないものだ。そのため、毎年恒例の引き継ぎ作業が全くなく、慣れもある。だから、再始動してからとにかく忙しいというわけではなかった。
強いて言うなら、新規メンバーである伊井野に生徒会のことを教えるくらいだろうか。
「生徒会、辞めたいんですけど」
石上とは対照的に真面目っぽさが見た目からも感じてくる。お下げにしている髪はしっかりと手入れされていて、清潔感に溢れている。彼女は風紀委員を続けながら、生徒会会計監査を担うことになった。
「憧れの生徒会にやっと入れたのに、どうしてまた?」
今日は風紀委員室で教えているので、同席している幼馴染の大仏も心配しているようだ。今期は生徒会に入らなかったが、来期は伊井野生徒会長のサポートとして入るだろうから、聞き流す程度で生徒会の話を聞いてもらっている。
「いきなりどうした、ミコっち」
「ミコっち言わないでください」
「先輩、身内にはそんな感じなんですね」
このあだ名、お可愛いと思うけれど。
「それで伊井野、俺に相談か?」
「不本意ですが、生徒会では先輩にしか相談できないことなので」
御行は恩人なのでまだ壁があり、かぐやさんはまだ掴めないところが多いのだろう。そして石上とは犬猿の仲だ。消去法で、会計監査の業務を教えている俺というわけか。
「千花はどうなんだ?」
「藤原先輩には迷惑をおかけしたくないので」
伊井野から『何を当たり前のこと言ってるの』みたいな視線が向けられるが、どうやら俺にはどれだけ迷惑をかけても気にしないらしい。
「ここ最近、目に見えて嬉しがっていたが、どうした?」
「確かに私だって嬉しかったですけど!
でも私が憧れていた生徒会というのは……」
そこから、意外と夢見がちな伊井野から、青春ストーリーを語られた。
生徒会は徹底した実力主義であり、冷酷無比なリアリスト集団だった。そこへ入ってきた正義感溢れる少女は何度も地面に這いつくばることとなる。そして、悪に堕ちた親友のために涙を流す天使に慰められた。だから、少女は諦めなかった。やがて、少女の努力は少しずつ実り始め、闇に染まりきっていた生徒会は変わっていく。
少女は、革命を起こすような、光を纏う風だった。
「みたいな!」
「本当に想像力豊かね」
まずは、大仏がそう評した。
「友情・努力・勝利が揃っていて、挫折も乗り越えている。まさに王道だな。そういうのは好きだ」
「でしょ!」
伊井野は目を輝かせて机から身体を乗り出した。対して、大仏から、『この人も同類だったか』みたいな視線が向けられる。いやいや、大人になっても、ジャンプ漫画やニチアサの時間は楽しめて、ヒーローに憧れるものだろう。
まして、お可愛い天使が出るストーリーだ。
「で、やめたい理由は何だ? 詳しく」
「だって、生徒会は酷いヤリサーじゃないですか!?」
よく男の前で言えたな、そのワード。
「私たちは、会長と石上の酷い性欲に晒されているんです!」
「へぇー」
「同年代の思春期男子として、ないとは言いきれないな」
御行は付き合った以降の『願望』を語ってくる。
それがなかなかにディープだ。
「もちろんここで話した内容は黙っておく。それにしても、俺は信頼されているみたいだな」
「えっ、元とはいえ、風紀委員が未成年でそんなことしないでしょう。何を当たり前のことを言わせるんですか」
何を当たり前みたいに語っているのだろう。
感動的だな。だが無意味だ。
内心、かなり狙っている。
「まあ、結論は早まるな。誤解もあるかもしれない」
伊井野は机に身を乗り出していたが、ゆっくりと姿勢を元に戻した。
「でも、誰かに報告したことが石上たちにバレたら、報復に藤原先輩のあられもない写真がバラまかれてしまいます!? た、たぶん、スカートの中の写真とか!」
「大丈夫だ、俺が絶対に阻止してみせる」
「なんだかやけに真剣ですね、先輩」
千花のあられもない写真は、俺が独占してみせる。
さあ、その写真はどこにある。
「川田先輩! 頼れるのはもうあなただけです!」
「ああ。伊井野が協力してくれるなら百人力だな」
さて、千花のパンツの色について、そろそろ決着をつけることができる。
「もういっそ、朱に交じって楽しんじゃうってのはどうですか?」
「論理的におかしいでしょう!」
「そうだそうだー」
他の男に、千花のあられもない姿を見せるわけがないだろう。
「そう? 私的には結構熱いシチュだけど」
「それはあなたの趣味でしょ!?」
「そうだそうだー」
大仏も真面目そうに見えて、なかなかがっつり系が好きなのだろうか。
純愛派の俺とは相容れないようだ。
「私が求める愛の形は!
そんな劣情にまみれた形ではないのっ!」
「聞かせてもらおう、真実の愛を」
「先輩、真顔で真実の愛って言わないでください」
「これは中等部にいた頃のことです……」
そこから、意外と夢見がちな伊井野から、青春ストーリーを語られた。
生徒会選挙のこと以外にも、風紀委員での熱心な活動もあって、彼女は疎まれていた。この時唯一理解してくれて応援してくれたのは、大仏だけだった。そんな時、机の中に手紙が入っていた。最初はいつもの嫌がらせかと思ったらしい。しかし便箋には決して綺麗とは言えない文字で、こう書かれていた。
『君の努力はいつか報われる』と。
「名前も告げず、励ましの言葉をくれたあの人みたいに見返りを求めない、ピュアな想い! これこそが本当の愛の形なのよ!」
「素晴らしい愛の形だな」
「へぇー 先輩も感銘受けましたかー」
「あぁ……私の王子様……」
「再会できるといいな」
伊井野からの好感度は鰻登りだ。対して、大仏からの尊敬度が激減している気がする。
「さて、ステラの花言葉は『小さな強さ』『燃える思い』『見守る心』『知恵』『愛らしい』くらいか。これ告白じゃないか? もうこれは真実の愛じゃないか?」
「あーもう、先輩照れるじゃないですか~?」
その時の花を栞にしているらしく、胸の前で抱えるようにして両手で持って、身体をぐねぐねなさせている。
俺も、その愛の形をぜひ参考にさせてもらおう。
「とりあえず、一度論理的に整理してみましょう」
「ほう、論理的にか」
「論理的にね」
俺たちは一瞬にして、目がキリッとする。
大仏がそっと溜め息を吐いた。
「四宮先輩が『会長のヤリチ〇』発言、どう思いますか?」
「箱入り娘のかぐやさんは性知識に欠けている。つまり、何らかのソースから『ヤリチ〇』というキーワードを得て、使ってみたいと思ったのだろう。これはオフレコにしてほしいのだが、最近までかぐやさんは『チ〇チ〇』で笑うレベルだった」
伊井野はかぐやさんに親近感が湧いたようだ。
「なるほど!!」
「いや、内緒にしておきますけど……」
大仏から『うわぁ』って視線が、俺に向けられる。
「なら、『気持ちすぎて死んじゃう』というのは?」
「御行は、かぐやさんの手を握った程度で昇天するレベルの童貞だ」
絶滅危惧種!?と、伊井野は叫んだ。
「会長が四宮先輩を押し倒したのは!?」
「生徒会にアクシデントは付き物だ。童貞の御行はその後すぐに土下座したことだろう」
土下座してました!と言って、伊井野は賛同してくれた。
「じゃあ、藤原先輩を『ガムテープで拘束』したのは!?」
「俺に内緒でそんなプレイをしていたのか! よろしい、戦争だ」
お供します!と言って、伊井野と共に席を立った。
大仏は、頭を抱えて机に突っ伏した。
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なんだかいつもと違う空気を感じる生徒会室に、俺たちは勢いよく飛び込んだ。そして、立ち止まるしかなかった。
「四宮先輩、魚のように目が泳いでいますね」
「いや、四宮、お前にはペンギンが似合う」
いつもより数倍仕草が乙女漫画っぽい御行と石上が、かぐやさんに言い寄っている。しかも、俺たちにも気づかないくらい自分たちの世界に入ってしまっていた。
「そんな……私、溺れちゃいます」
この生徒会室でどう溺れるのだろう。
俺のいない間に一体何があった。
「選べるのは 1人だけですよ……?」
「どっちを選ぶんだ……? 俺と石上」
御行はまるでプロポーズかのように、水族館のペアチケットを差し出している。御行がかぐやさんを水族館デートに自ら誘うだなんて、風邪でも引いたのか心配になってくるけれど。
「……いい」
伊井野的にこの雰囲気は『アリよりのアリ』らしい。
「昨日!
すもう見たんですけど~!」
元気よく、千花がやってきた。
のこった~のこった~って言いながら、歩き回る。
お可愛いこと。
「あっ、プリンだー!」
「プリンですか!」
千花はテーブルの上のプリンに興味を示した。
花より団子らしい。
「食べていいっ? 食べていいっ?」
「……じゅるり」
2人とも涎拭けし。
「食べていいから」
「やったーっ!」
「ありがとうございますっ!」
御行の許可をもらえたことで、2人はがっつくように食べ始める。
「四宮先輩、なんか顔、赤くないですか……? 保健室に……」
「いや、保健室には俺が連れていく」
まだ続けたかったのか、そのムード。
「ここは僕が……」「いや、俺が……」
「もう、私、プリンみたいにとろけちゃいますよ……」
とろけるのか、御行以外のやつと。
「げぶぅーー
プリン食べ終わったので連れていきますよ?」
「あの、もう1個食べていいですか?」
食い意地の張った2人によって、かぐやさんの表情は一瞬にして真顔へ変わった。
「いや本当に大丈夫ですよ。熱なんてないですから」
「えっ、そうなんですかー?」
「あの、その、プリン……」
「診てもらうだけならタダだ。行くぞ、四宮……」
「会長……!」
「四宮先輩は任せましたよ、会長……」
御行はかぐやさんの腕を取って、この場から離れていく。いつもより積極的だから、このまま保健室でゴールインするかもしれない。元風紀委員として、認可したいと思います。
「やるよ。好きなんだろう……プリン……」
「うん……このプリン、好きなの……」
石上の積極的な餌付けに、伊井野はとろけた表情を見せた。将来が心配になるくらい、伊井野がちょろすぎる。
「いいな~
ねぇ、私ももう1つ食べていい?」
「俺も食べたいから、はんぶんこだな」
「わーい♪」
これが戦い方のお手本だ。
いつまでも千花のペースに乗せられる俺ではない。
あれ、何のために来たんだったか。