藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

36 / 43
第32話 第3回テーブルゲーム@秀知院学園

 テーブルトークロールプレイングゲーム、略してTRPGは動画投稿サイトを中心に、流行が再燃することがある。参加者はRPGのキャラクターとなって、進行役に従って物語を進めていく。

 

 デジタルのゲームと違って、自由度が高いことが長所であり、個人でそのストーリーを変更することが容易だ。進行中にストーリーを変えるならば、ゲームマスターはアドリブ力が試されるが、匙加減でどうとでもなる。

 

「あっ! 野生の風紀委員が現れました!」

 

 伊井野は、尊敬する千花の唐突すぎる発言に啞然とした。

 

「えっと、相手のポケモンはニドリーノとニドリーナです! そのHPはなんと30!」

「えー もう進化してるなんて」

「でも数はこちらの方が上だよ!」

 

 対して、1年で部長のマッキー先ハイや、3年のギガ子は、2年の不治ワラちゃんのノリについていけている。

 

「あの、その大きなサイコロは……?」

 

 そして、TRPGを行う場合、サイコロの出目によって、アナログ式に乱数を発生させ、成功の可否が決められることが多い。サイコロの種類を上手く組み合わせる場合があるが、今回は1~6の出目で行っている。

 

「ニドリーノに向かって、フシギダネはたいあたり!」

「わかりました! たいあたりは7以上で成功ですよ」

 

「おらぁ!」

 

 マッキー先ハイは抱えたサイコロを放り投げ、ごろごろと3つのサイコロが転がり、その出目は合計8。

 

「成功です!

 ダメージはサイコロ2つで行ってください!」

「そりゃあ!」

 

 その出目の合計は6

 

「ニドリーノの残りHPは24です!」

「全然だったよー」

「次は つっくんの出番だね!」

 

 ちなみに、『叩いて被ってジャンケンポン』や『あっち向いてホイ』という名の闇のゲームに負けて、俺は名前の文字を奪われた。人物設定的には、『千と千尋の神隠し』のように、テーブルゲーム部という名の魔境に迷い込んだ異世界人らしい。

 

「伊井野のニドリーノに向かって、俺でたいあたり」

 

「ひぃ!」

 

 伊井野に怯えられた。

 いや、実際には体当りしないから。

 

「合計6」

「残念、命中ならず!」

 

「次は千花の……不治ワラちゃんの番だな」

「では、進行お願いしますっ!」

 

「いや、川田先輩まで何しているんですか……?」

 

 俺が視線を逸らすと、部長のマッキー先ハイがやれやれ顔で答えてくれるようだ。

 

「校舎全域をフィールドとした秀知院RPGだよ」

「ポケモンマスター目指してみんなで旅をしています!」

 

 部室でフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメを手持ちに入れるために競った後、マサラタウンを旅立って、トキワシティという校舎から出て、ニビシティに向かっている最中だ。

 ここまでの道中も魔境だった。

 

「伊井野、モンスターボール分けてくれないか?」

「……はぁ?」

 

 ちなみに、トキワシティにあるファミリーマートでもモンスターボールが売っていたが、お小遣いでは買える値段ではなかった。どうやら、この世界は物価が高騰しているらしい。

 

「そろそろ、俺もポケモンを使ってみたい」

「えー つっくんはせっかくレベル8まで上がっているのに」

 

朝の起床判定に失敗し続けたおかげで、オーキド博士役の校長からピカチュウすら貰えなかった。そして、校長自身もミュウツーを手持ちに参戦するつもりだったようだが、仕事中に抜け出した校長を捜しに来た教頭先生に却下された。

 

 ともかく、俺がポケモンとなるしかなかった。

 

「そうそう。メガトンパンチだって覚えたじゃん」

「こっちはまだみずでっぽうとかしか使えないから、つっくんは私たちの最大戦力ですよ」

「当たったことがないし、これからも当たる気がしない」

 

 それにノーマルとかくとう技ばかり覚えそうで、ゴースで詰む。そして、俺が覚える技や、進化するのかどうかについては、不治ワラちゃんの気分次第だ。

 

 サイコロの出目からして、今日は運が悪い日だ。

 

「……よくわかりませんが、周囲の迷惑にならないよう気を付けてください」

「わかってる わかってる!」

 

 どうやら、巡回中の伊井野と大仏は、TRPG中の俺たちに関わることを諦めたらしい。

 

「あっ、ミコちゃんたち逃げないでください!」

「せめて、お小遣い置いていってください!」

 

 事情を知らないと、ただのカツアゲである。

 

「む~

 それじゃあ、次はディグダの穴に向かいます」

「おー いきなりクチバシティ行っちゃう?」

 

 ディグダの穴に行くことに、いあいぎりなんていらなかった。

 

「こことかどうでしょう!」

「体育倉庫みたいね」

「なんだかお宝の臭いがするね」

 

 それは、土と汗の臭いだと思う。

 

 この体育倉庫は、コンクリートの壁は厚く、風通しが悪いので蒸し暑い。数少ない光源は白熱電球1つであり、夕方であっても薄暗い。ごちゃごちゃしているとはいえ、まさにディグダの穴らしく、洞窟っぽさがあった。

 

「おおっ! マットがありますよ!」

「すごーい!おっきい!」

「たーのしー」

 

 女子3人でぴょんぴょんし始めた。

 TRPGのことはすっかり忘れられているようだ。

 

「でも、ここ熱いよねー」

「なんだか汗かいてきちゃった」

「だよねー」

 

 マットの上に座って女子がそんな会話をしている。

 

 疲れて、はぁはぁしている。

 制服の裾をパタパタしている。

 

「……まあ、一旦出るか」

 

 ずいぶんと丈夫で重い引き戸だ。加えて、金属製で錆びている。体育倉庫の構造的にも、いわゆる懲罰房や弾薬庫とも思えてくる。ガチャガチャと音を立てるだけで、簡単には開かない。

 

 サイコロの出目といい、今日は運が悪い日だ。

 

「ちょっと、待ってろ」

 

 まず、上下に動かして立て付けを隠してみるが、全く動かない。ここからは力比べをするしかない。だから、掴みづらい戸をなんとか持って、両手に力を入れるがビクともしなかった。

 

「あ~ 壊れちゃう~!」

「ちょっ! ミシミシいってるから!」

「ストップぅ!」

 

 その声で一度やめたが、体育倉庫が崩れそうなら、無理に蹴り壊すことも危険になってくる。俺たちだから良かったけれど、この体育倉庫は生徒会役員的には、建て直しの案件だ。

 体育祭が終わればすぐにでも申請しよう。

 

「助けを呼ぶしかないか」

 

 携帯を操作して、状況に適している人に連絡した。

 やりすぎないかが心配になるのだが。

 

「これは脱出ゲームですね!」

「制限時間は助けがくるまで」

「おーっ!」

 

 この状況でも、どうやらゲームに繋げるらしい。

 パニックになるよりはマシか。

 

 俺たちは懐中電灯代わりにスマホを用いて、備品を探り始めた。引き戸に鍵穴はないし、開けるためのヒントや順序の誘導はない。まして、脱出用の階段なんてものはないだろう。

 

「この綱引きで引っ張るとかは?」

「でも、引っかけるところがないよね」

 

「あっ! これ、去年玉入れに使ったやつだ~」

 

 そう簡単に、この状況を打開できるものは見つからないようだ。そもそも、脱出ゲームではないから、都合よく用意されているとは限らない。キーアイテムを手に入れるための謎解き要素もない。

 

手がないわけではけれど。

 

「つくしくんは何してるの~?」

「潤滑油を探している。この発電機の燃料は枯れているな」

 

 そもそも、火気厳禁の軽油やガソリンは危ないけれど。

 

「あっ、これじゃない?」

「自転車とかによく使うやつだね」

 

 マッキー先ハイ、ナイスだ。

 早速、引き戸の下に使ってもらった。

 

「……いや、これでも開かないな

 上にも使ってみるか」

 

 俺たちは視線を上に向けた。

 

「結構高いよね~」

「つっくん、マット置いて届きそう?」

「ギリギリ手は届くが、潤滑油の残りが少ないから、見えないところで作業するというのはな」

「じゃあ、肩車はどうだろ?」

 

 誰と誰がだろう。

 女子同士で肩車しても十分届く高さだ。

 

 ちらっ、ちらっと、女子たちの視線が交錯した。

 

「……千花と、俺ね」

「うんっ♪」

 

 今、君はスカートなのだが。

 にぱーっとしているから、良いのだろう。

 

「よいしょ……

わわっ! だいじょうぶ?」

 

 中腰で肩車をしている状態だから、少しバランスが悪い。いや、それ以外にも問題があるのだけれど。

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 柔らかい太もも、『もにゅっ』である。

 これはやばいって。

 

「天井、大丈夫そうか?」

「うん。ちょっと怖いけど」

 

 俺のスマホの通知音がする。

 少し、千花がびくっとなった。

 

「もう助けが来たのかな?」

「いいとこだったんだけどねー」

 

「それはどういう意味で……」

 

 嫌な予感がする。

 特徴的な甲高い音が外から聞こえてきた。

 

「きゃっ!」

 

 千花は大きい音が苦手だ。

 

 肩の上にいる千花がバランスを崩した。俺は、その身体を抱き込んで、俺が下になるようにマットの上に寝転んだ。

 結果的に、頭の向きはそれぞれ反対向きで、俺は顔に太ももが当たる。

 

「要請に応じ、助けに来たぞ」

 

「……どうも」

 

 顔はヒヨコのような何かで、その全身は金属でできている。そんな姿だが、ジナイダという名前の女子だ。彼女はコンクリートの壁を、レーザーで破壊して取り外したらしく、切り口はドロドロに溶解している。

 

 それにしても、と彼女は呟いた。

 

「グフフ、いやらしいですなオマエら!」

 

 彼女の機械でできた顔に、表情の変化はないけれど、声で笑っているとわかる。

 

「事故だから!」

「そうそう! 事故ですからねっ!」

 

 俺は、勢いよく飛び退いた。

 そして、千花と視線を逸らし合う。

 

「わかってる わかってる~」

「ね~」

 

 いまだ2人もニヤニヤとしている。

 今日は、運が良かったのか、悪かったのか。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。