藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第33話 銭湯の入り方

 夕方、急に天気が変わり、激しく雨が降り始める。

 

 運悪く、今日は体育祭に向けて、インドアな生徒会メンバーも少し走っておこうと学園外まで出ている。そして、折り畳み傘は学園に置いてきてしまっている。今は、御行の先導によって、雨宿りできる場所まで案内されていた。

 

「おへそとられるぅ~!」

 

 おんぶしているのだが、千花は俺の背中にがっしりとしがみついている。いまだ雷が怖いらしく、視界を塞ぐことと、おへそを守ることを目的として、全身全霊で身体を押しつけてきていた。

 弾道上がりそう(※パワポケ的表現)

 

「よしっ、見えたぞ!」

 

 俺たちが飛び込むようにして入ったのは、少し古いタイプの銭湯だった。玄関の靴箱を見るに、今は空いているらしく、この雨の中をわざわざ来るのは物好きか、雨宿り目的だろう。スーパー銭湯なら、車でアクセスしやすいから、もっと人がいただろう。

 

 ていうか、スーパー銭湯の、スーパーってなんか凄そう。

 

「ここは俺がたまに来る銭湯だ」

「銭湯というのは、大衆浴場ですか……?」

 

 キョロキョロしている俺たちと違って、御行は慣れている手つきで靴箱に靴を入れている。御行の家の風呂は決して大きくはない。家計を少し圧迫するとはいえ、御行も圭さんも大きいお風呂でゆっくりしたい時があるのだろう。

 

「ここなら身体を温められるし、乾燥機も併設されているから服も乾かせる!」

「私が迎えを呼びますね。荷物を取りに、一度学園に寄らせますから」

 

 かぐやさん家の、あの黒塗りの高級車か。

 

「よしっ! いい機会だから皆で風呂に入って帰るか!」

「みんなでっ!?」

「みんなでですかっ!?」

 

「いやいや。男と女、別々に暖簾があるだろう?」

 

 かぐやさんや伊井野が勘違いして顔が真っ赤になったので、訂正しておく。御行関連になると、特にかぐやさんは冷静さを失うのだが、最近ますます効果が上昇している。そろそろ、告ればいいのに。

 伊井野はムッツリなだけだ。

 

「いつまで藤原先輩とくっついているんですか。あと石上こっち見るな」

「どう見ても、これは拘束技だろう」

「……見てねぇし」

 

 ちなみに今は、俺たちは体操着である。

 まあ、それだけは言いたかった。

 

「ほら。藤原先輩、危ないですから、離れてください」

 

「危ないんだったらっ!

 離れられないよっ!」

 

 迫真すぎる。

 

「かぐやさんがいっしょにお風呂入ろうって」

 

「えっ、かぐやさんと?

 あれっ、ここは銭湯?」

 

 キョロキョロし始めた千花を女子たちに引き渡して、俺は少し足早に男の暖簾をくぐった。

 

 ふぅ、危なかった。

 

 その後、御行や石上が代わりに受付をしてくれて、タオルまで借りてきてくれた。体操服を乾燥機に入れて、ワンコインすればお風呂上りには完全に乾いているだろう。そして、貴重品をロッカーに入れた。

 

「2人は銭湯に来たことあるのか?」

 

「僕はアニメや漫画で」

「石上は知識だけかよ」

 

「子どもの頃に来ていたはずだけど、覚えていないものだな」

「なら、ルールに詳しいのは俺くらいだな」

 

 たぶん母や姉と入っていたなんて、伝えられるわけがないだろう。幼い子どもは合法的に、天国へ行けたのだ。その頃の記憶がないということは、とても残念なことだ。

 

……もし仮に、前世の記憶でもあれば、しっかり覚えているのだろうか。

 

 

「おっと、2人とも。風呂に入る前には、もちろんかけ湯をしろよ?」

「あっ、はい」

「了解」

 

 急に仕切りだしたな、ここの常連。

 銭湯のプロか。

 

「くぁあ~~~っ!

 この熱さよぉ!!」

 

「熱すぎるくらいだな」

 

 湯舟は家のものよりずっと広く、比較的身長の高い俺たちでも十分に満足できる深さのようだ。この歳になっても泳ぎたくなるくらいだ。お湯の温度や量すらケチりそうな、倹約家の御行が病みつきになることも頷ける。

 

「あ~ 染み渡る~」

「身体に効く感じですね~」

 

 御行は普段の疲れで、そして石上は慣れない応援団の練習で、かなり疲れている。特に肩こりが酷そうだ。ほんわかと天井を見上げて、昇天してしまいそうな表情をしている。

頑張っている証拠だ。

 

「海に行ったときも思いましたけど、川田先輩って引き締まってますよね」

「それな。男としては羨ましい限りだ」

「動きづらくなるから、あまり太くならないようにしているけれど、自然とな」

 

 これでも一応裏の世界をくぐり抜けてきたので、自然に鍛えられた。最も自信があることが逃げ足ということが、男としては情けないだろうが、それが必要不可欠な世界だ。

 

「2人もインドアにしては、かなりだろう?」

「毎日、長距離の自転車登校の賜物だな」

「僕は中学でちょっと部活やっていたのもありますが、とあるアニメの影響で筋トレを少し」

 

 御行は足を中心として、坂を上がるための立ち漕ぎの影響か、腕もよく鍛えられている。石上も筋トレを齧る程度には続けているらしく、腹筋と腕を中心として鍛えられている。

 

 まあ、2人とも痩せ気味で高身長であることもあって、すらっとした体型だ。

 

「……女子たちって、胸の大きさ確かめ合ったり、身体の洗いっこしたりするんですかね?」

「……千花主導でやりかねないな」

「……気になるな」

 

 この厚い壁の向こうに、天国がある。

 男としては意識せざるを得ない。

 

 先日の体育倉庫の事故は許してもらえたとはいえ、向こうにいる千花を意識せざるを得ない。あの柔らかい感触とか、鼻孔に届く甘い香りだとか、ふと思い出してしまう。

 

「とある漫画で、男子風呂と女子風呂が繋がっていることがありますよね」

「とある漫画だな」

「まあ、現実にはないだろう」

 

 間違って女子風呂に入っちゃったその主人公は、奇跡的に脱出を図った。つまり、逆も可能ということだ。

 

「石上が急に潜ったぞ!?」

 

 続いて、俺も潜った。

 

 水の中で目を開けることは楽なことではないし、目の健康にとって良いことではない。それがお湯の中なら尚更のことだ。プールや海の中で目を開けるということも含めて、良い子は真似してはダメなことだ。

 

「どうでしたか!?」

「どうだった!?」

「ダメだ。小さな穴1つない」

 

 むしろ人が潜り抜ける大きさの穴が開いていることがあれば、大問題だろう。

 

「まあ、そういうものだろう」

「まあな」

 

「どこか、壁には……」

「これとかどうだ?」

 

 身体を洗う段階でも、2人はまだ諦めていないらしい。すでに彼女たちの水着姿を見たとはいえ、それとこれとは話が別なのだろう。俺だって、千花と混浴したいけれど、理性が持たないことが予想できる。

 

 石上的には伊井野が気になるのだろうか、それとも思春期男子としてか。

 

「いや、元々シャワーがあった場所だろう?」

「そう言われてみれば……」

「まー、見えるわけないよな」

 

 この厚い壁にあるちょっとした穴では、天国を見ることすら叶わない。直接的に行くことは、異性の好感度をゼロにし、それに加えて、人生が社会的に終わってしまう。

 

 だから、方針を変えることにする。

 

「ところで、お風呂上がりの女子、見たくないか?」

「「……よしっ」」

 

 その発言と共に、2人は全力で身体を洗い始める。

 これが、思春期男子の元気の良さなのだろう。

 

 

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