藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第36話 体育祭中編

 御行パパさんは、ビールとカレーパンを持ってどこかへ行った。

 入れ替わるように、御行がやってきた。

 

「なあ、親父に何か言ったか?」

「恋愛事情ってやつ?」

 

 生徒会室内でのエピソードをいくつか紹介したくらいだ。いざ振り返ってみると、これがなかなか面白い頭脳戦が行われてきたものだと思う。さっさと付き合って、四宮かぐやの尻に敷かれてしまえばいいのに。

 

「さいっあくの、内容じゃねぇか!!」

「まあ、胸焼けしていたくらいだから、言いふらすことはないと思う」

 

 さて、俺は御行と合流して、千花やたちがいる赤組の応援席に戻ってくると、パネルの影で休んでいた石上と合流する。

 

 今となっては、生徒会役員の男子3人が『いつメン』として行動していることが多い。それをよく思わない者もいるのだが、周囲が応援に熱中していることもあって、いつもより石上に不平不満の視線が集まることは少ない。

 

 まあ、ほとんどの男子の視線が、あちこちに点在している女子のへそ出し体操服姿に向いている。もちろん俺も思春期男子としては、隣にやってきた千花のへそを目に焼きつけている。

 

「お、次は借り物競争か」

「よく漫画だと、『好きな人』って紙が入ってますよね」

「あ~ あるある!」

 

 御行や石上の呟いた内容に、TG部トリオも大きく頷いた。

 

「それで、ハーレム主人公は誰を選ぶかで苦悩する。これが正妻戦争か」

「それはますますフィクションの話だな」

「うわっ、あれってお姫様抱っこですよ。リア充砕け散れ」

 

 今は借り物競争をやっている。まるで見せつけるように歩いているTSUBASA君たち、他にもかぐやさんと伊井野が出場している。もちろん、普通にボールやタイヤを持って走っている人もいれば、観客席の子どもたちを集めて走っている人もいる。

 

「あっ! 次はかぐやさんの出番ですよ!」

「なんか面白いのを引き当てたら、誰を選ぶだろうな」

「い、いやー、誰だろうなぁー?」

 

 急に靴紐を結び直していて、誰でもわかるくらい御行は明らかに意識している。

 

「四宮先輩、こっちに向かってきてますよ!」

「みたいだな」

 

 借り物競争であっても手を抜かないのか、凄まじいスピードだ。

 それに応えるべく、御行がもはや飛び出してしまいそうだ。

 

「石上くん! 石上くん!」

「えっ、ちょっ!」

 

 石上の腕を取って、かぐやさんと走り始めた。

 

「なん……だと……」

「かぐやさんも石上くんもがんばれ~っ!」

 

 御行は絶望の表情を浮かべている姿を見て、マッキー先ハイとギガ子さんはご愁傷様といった表情を浮かべているし、両片想いはバレバレなのだろう。むしろ呑気に応援している藤ワラちゃんはなぜ気づかない。

 

 それにしても、石上もかぐやさんになんとか付いていけるくらいには、走れている。

 

『1位、かぐや様の借り物は、「後輩」でした~!』

 

 放送席からの声に、御行は深い安堵の息を吐いた。

 

「2人ともすごーい!」

 

 周囲も後輩の中から石上が選ばれたことより、かぐやさんの勝利を祝っているようだ。そんなことよりも、ぴょんぴょん揺れるチカがヤベーイ!

 

「あっ、次はミコちゃんの出番だ!」

 

 どうやら、少し伊井野が出遅れている。

 彼女は『1年』の箱から取り出して、こっちを向いた。

 

「川田先輩! 走って!!」

 

 ロープを飛び越えて、伊井野とグラウンド内で合流した。

 

「おんぶしてもいいが」

「自分で走れます!」

 

 相変わらず、心強い後輩だ。

 その細い腕を引っ張りながら走る。

 

「生徒会で続けーっ!!」

「がんばれ~!」

 

 御行たちの応援が聞こえる。

 ゴールテープをくぐり抜けた。

 

『1位、伊井野さんの借り物は、「先輩」でした~!』

 

「おめでとう」

「はぁ、はぁ……なんとか」

 

 肩で息をしている伊井野が、息を整えるのを待つ。

 人生で一番速く、走らされたことだろう。

 

「ところで、次が障害物競走なのだが、俺は走らされたのか?」

「ええ。藤原先輩には迷惑をかけられないですから」

 

 けろっとした表情なのだから、ツンデレの欠片もない。もちろん、俺は次の競技で支障をきたすほど柔な体力をしていないのだし、だから、伊井野は勝つために最善の選択をしたのだろう。

 

 彼女も、赤組の勝利のために本気らしい。

 

「それじゃあ。石上と、2人で、ゆっくりと応援席に戻ってな」

「……わかりました」

 

 そして、汗をかいてうっとうしそうに前髪をかきあげている石上を、手招きする。

 

「じゃ、よろしく」

 

「まあ、はい。てか、大丈夫か、お前?」

「べ、べつに、平気よ」

 

 駆けつけてきた石上は、伊井野を心配している。石上は捻くれているが優しいし、疲れて弱っている伊井野とは意外と上手くコミュニケーションを取れるのかもしれない。やはり、喧嘩するほど仲がいいというか。

 

「つくしくんっ! がんばろうねっ!」

「ああ。お互いに」

 

 すでに待機場所にいた千花から声をかけられた。

 競技は、障害物競争だ。

 

 さて、平均台、ダンボール製のキャタピラ、跳び箱が少し時間をかけて準備されている。100m走よりも走力が大きく関わってこないから、体育祭競技の中でも大番狂わせが起きる。今回は、小麦粉の中の飴探しが特に、あまり慣れないことだろう。

 

 千花は先に走りきったが、惜しくも2位か。

 でも、楽しそうだ。

 

「位置について、よーい」

 

 空砲の音で、クラウチングスタート。

 平均台を駆け抜け、キャタピラに入り込んだ。

 

「筑紫、そのまま本気だー!」

「つっくん、はやい!はやい!」

 

 御行の言う通り、本気でやっている。

 ジャンプ台を踏んで、跳び箱を飛び越え、着地と同時に走り出す。

 

 走り込む場所は、絶対に『左から2番目』。

 小麦粉に顔を突っ込んだ。

 

 これでもう目的は果たしたので。

 奥底から飴を見つけて、ゴールラインを駆け抜けた。

 

「つくしくん、カオまっしろだ!」

「千花はそこまで白くはないな」

 

 体操服の袖で軽く拭きとったが、どこまで取れたかはわからない。

 

 まあ、俺は上手く探せなかったからだな。

 いや~、奥底まで探さなければならなかったし。

 

「ほらアメ~」

 

 舌で飴を見せてきた。

 えっちぃ……

 

「こらこら。千花、はしたないぞ」

 

 眼鏡をかけたスーツの男性は、親しみやすい雰囲気が滲み出ている。

 

「ほら、タオルで拭きなさい」

「お母様、ありがと」

 

 同じくスーツの女性は、若々しくスリムな美人。

 そして。

 

「君が、つくしくんか~」

 

 胸の谷間を見せるほど、薄着の女性。

 

 でけぇぇぇ!

 これが、藤原三姉妹の共通事項か。

 

「……はい。川田筑紫と言います。はじめまして」

「豊実よ。おね~ちゃんって呼んでいいから」

 

 それは、義姉という意味だろうか。

 まあ、そういう誘いには慣れている。

 

「いえ、豊実さんと呼ばせていただきます」

「あら、ざんねん」

 

「こら、豊実。川田君に失礼だろう?」

「そ、そうですよ、姉様!」

 

 3人の言い合いが始まる。

 そして、千花の母親は苦笑いを浮かべた。

 

「君もこれで顔を拭いて」

「ありがとうございます」

 

 これってさっき千花が使ったタオルじゃないか。

 この女性には、お見通しということか。

 

「これは洗って、藤原……千花さん経由でお返ししますので」

「気にしないで」

 

 彼女が手のひらを見せてきたので、渋々だが渡すしかない。どうしても好意に甘えてしまうのは、千花の面影があるからだろう。

 

「万穂よ。いつも千花がお世話になっています」

「生徒会庶務、川田筑紫です。

 こちらこそ、お世話してもらうことがありまして、友人共々」

 

「ホントだね、いっぱいお世話したね」

 

 今の千花の声はなんだか重々しかった。

 

 校歌の件とか、ソーラン節の件とか。

 あと、最近は美術の授業で特に。

 

「藤原大地です。よろしく」

「はい、よろしくお願いします、大地さん」

 

 握手を相手から求められたので、両手で軽く握る。

 そして、相手からは目を離さない。

 

「硬くて、しっかりと鍛えているようだね。それと、目元が彼、いや、お姉さんというべきか、どこか彼女とよく似ている」

「はい、よく言われます」

 

 お互いに、程よいタイミングを見計らって、手を離した。

 

「姉さんたちの、弟ですから」

「ははは、確かにそのようだ。いい笑顔をするじゃないか」

 

 彼は、俺の亡き父親も知っているのだろう。

 

 俺は数回しか会ったことはないが、子どもながらに初対面で好印象を持てた相手ではない。その無表情の顔の裏に、何かを隠していることがよくわかり、もちろん、その考え方や思想も決して好感が持てるものでもなかった。

 

 目元はコンプレックスであるが、しかし3人姉弟だとわかる1番の証拠でもある。

 

「も~ お父様、つくしくんになに絡んでるの!」

「おいおい、引っ張るな引っ張るな」

 

 友達と親が会話することに恥ずかしがっている千花が、彼の腕を引っ張っている。娘とスキンシップを取るのは、父親としては嬉しいものらしい。だからこそ、そう簡単に嫁へ出したくはないものだ。

 

「今度、白銀くんたちと一緒に、ディナーに招待させてくれないかな?」

「ぜひ、参加させていただきたいです」

 

 そこで、本試験ということか。

 

「そうか。楽しみにしているよ」

「ええ。その時までには」

 

 千花と万穂さんがちょこんと首を傾げているが、豊実さんは小悪魔な笑みを浮かべていた。

 

 

 

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