藤原千花を独占したい   作:狩る雄

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第4話 第1回恋バナ@生徒会室

 女三人寄れば姦しい、と言われるように女子が3人も集まればキャッキャウフフである。それは男子高校生3人にあてはまる場合もあり、たまには恋バナというものをするのである。

 

 生徒の悩みを解決するべく、生徒会長は今日も相談を受けつける。

 

「どうぞ」

「あっ、ありがとうございます」

 

 女子メンバーが席を外しているから、お茶請けは俺の担当だ。同学年の田沼翼は少し中性的な容姿をしている男子で、どこか頼りなさがある。

 

 病院の院長の息子だったか、確か。

 

「普段は副会長や書記が淹れますので。恐れ入りますが、味と安全性の保証はできません」

 

 紅茶が四宮かぐや、コーヒーが藤原さんの担当であり、どちらもプロ級の実力を持っている。俺はコーヒーミルの使い方なんて知らない。

 

「安全性!?」

「冗談です。ただのインスタントコーヒーですよ」

 

 ちなみに先日、藤原さんが持ってきたコピ・ルアク(※ジャコウネコの糞から採られる未消化のコーヒー豆)で淹れたコーヒーでは、ひと悶着あった。だから、会長は思わず身構えてしまった。

 

「さて、恋愛相談ということだが……」

 

 会長はモテる。自分自身に魅力があると自負しているし、実際目つき以外は容姿が整っている。

 

―――こっそり外で聞き耳を立てている四宮かぐやとかな

 

 会長も恋愛経験ゼロのヘタレ童貞に過ぎない。恋愛百戦錬磨という学園生徒からの評価とは真逆。一目惚れした女性に半年間片想いし続け、いまだ相手に告白させたいなどぬかしおる。

 

 ここまで思考して、ブーメランすぎて内心泣けてきた。

 

「はい。クラスメイトの柏木さんという子がいるのですが」

「柏木渚さんですね」

 

 造船会社のご令嬢だな。この学園の有名どころだから憶えている。

 

「筑紫も知っているのか?」

「人伝手に聞きましたが、珍しいくらい真面目な人らしいですよ。成績も学年トップ10に入り、男女問わず表裏なく接するため、彼女の人気は高いかと」

 

 ライバルは多いぞ、という意味を込めて告げる。もちろん、四宮かぐやや藤原さんほどじゃないけど。

 

「そ、それで、相談なんですけど、僕、彼女に告白しようと思うんです」

「ほ、ほう……」

 

 告白したことのない、まして女子に告白させようとしている会長にその相談をしてしまったか。

 

「でも断られたらどうしようって、もう少し仲良くなってからがいいかなとか、なんかいろいろ考えちゃって、相談したくなって」

「どこまで仲良くなっているのですか?」

 

 尻すぼみになっていく彼から、少しでも情報を引き出す。好感度が足りないと告白には失敗する確率が高い。

 

「ば、バレンタインにはチョコをもらいました!」

「おぉ、どんなチョコだったんだ?」

 

 続いて、会長が尋ねる。

 そのチョコが本命か義理なのか。

 

「チョコボール……3粒です」

 

 3粒、たった3粒かぁ

 

 最近はバレンタインチョコを異性に渡すだけで『気がある』かもしれないと噂されるくらいだ。だから、女子同士のチョコ交換が主流である。柏木さんは波風立てないように、他の男子含めて複数人に軽いプレゼントをしたのだろう。

 

 それでも勘違いしちゃうのが思春期男子だ。俺も含めて。

 

「義理、なんですかね?」

「……まあ」

 

 残念ながら、それ以外はあまり具体的なエピソードはないようだ。友達評価はどうかわからないが、現状の好感度で告白したとしても失敗するだけなら止めるべきか。

 

 さて、会長の判断は。

 

「いや、本命だ。間違いなく惚れているな」

 

まるで意味が分からんぞ

 

「女というのは素直じゃない生き物なんだ。常に真逆の行動を取るものと考えろ」

「つまり、逆に本命!?」

 

 会長の言う『女』とは、四宮かぐやな気がする。

 むしろ藤原さんは真っ直ぐすぎる。

 

「で、でもこないだも……」

 

『ねー君って彼女とかいるの?』

『え、居ないけど』

『彼女いないってー!』

『居そうにないもんね』

『超ウケる!』

 

「……っていうことがありまして。からかわれたのかなと」

 

 同情するまである。

 空のカップにコーヒーを注いであげた。

 

「どんまい いつかいいことあるさ」

「ひどくないですかっ!」

 

「まあ、待て。その状況なんだが……」

 

『ねー君って彼女とかいるの?(いないなら付き合ってほしいな!)』

『え、居ないけど』

『彼女いないってー!(ホッとした!)』

『居そうにないもんね(だって高貴すぎるもの)』

『超ウケる!(フリーなんだ!)』

 

「……こういうことだ。」

 

「へぇー その田沼翼君、ハーレムじゃないですかー」

「彼女たちの中からたった1人を選ばなきゃいけないなんて!?」

 

 ハーレム主人公()にとって、現実は非情だね。

 会長くらいの人気は田沼翼君にはないけれど。

 

「僕が柏木さんと付き合うことで彼女たちの絆は!」

「女同士の友情とはそういうものだ」

「そんな!」

「大丈夫だ問題ない。彼女にはお前がいる。お前が守ってやるんだ」

「会長っ!」

 

「それで。肝心の告白はどうするんですか? ていうか、明日告白しろ」

「ちょっ、命令!?」

 

 ハーレム願望の君は一度絶望してこい。純愛が至高に決まっているだろう(※個人的見解)

 

「告白か……筑紫はしたことあるか?」

 

このヘタレ童貞、デリカシーねぇな。

 

「……まあ、ありますよ。しかもストレートにいきました」

「ど、どうでした?」

「ど、どうだったんだ?」

 

 ホワイトデーのお返しの時だったか。

 前日はなかなか寝つけなかったなぁ。

 

『先月はありがとうございました。俺も好きです』

『うん、わたしも好きだよ~』

 

あぁ、あれは絶対友達としてって意味だよな。いや、むしろ甘いものが好きと同意したのかもな。だってスキンシップで動揺の欠片も見せないし、そもそも異性として意識してくれているのかどうか怪しい

童貞キラーだよ、ほんと

 

 言葉足らずだとは思ったけど、下手な言い回しよりは良いと思った。バレンタインデーのお返しという、ありきたりだが、王道の恋愛感情を籠めたはずだった。

 

 誤算だったのはホワイトデーのお返しをした人々の中の、ただの1人に過ぎなかったことだ。あーまじで独占したい。

 

「筑紫!それは勢いが足りなかったんだ!!」

 

―――そうだったのか!?

 

「……というと?」

「見ていろ」

 

ダァン!と扉を叩きながら

「俺と付き合え」

 

 壁ドンね。

 扉の向こうの四宮かぐやの反応をぜひ見たい。

 

「この技を『壁ダァン』と名付けよう。突然壁に追い詰められ、女は不安になるが、耳元で愛を囁いたとき、不安はトキメキへと変わり、告白の成功率が上がる」

「あなたは天才か!さすが恋愛百戦錬磨!」

 

 その設定まだ生きていたのか。

 

「ありがとうございます! 僕、勇気が湧いてきました!」

「ははは、そうだろうそうだろう」

 

「さすがあの四宮さんを落としただけありますね!」

「……いや、付き合っていないぞ?」

 

 思い詰めた表情をするくらい、毎日常に片想いしているのだろう。四宮かぐやのが行動しているまである。

 

「まあ、そういう噂で持ちきりですよね。そう言えば、副会長のことどう思っているんです?」

「ほら、ここ僕たちしかいませんし」

 

 あわよくば、この流れに乗じて語らせる。

 さっきの意趣返しだ。

 

「正直金持ちで天才とか、癪な部分もある。案外抜けているし、たまに怖い。あと胸もあれだけど……」

 

 まじで語り始めたよ。四宮かぐや本人がこそこそと聞いているけど、面白そうだから黙っておこう。

 

「でもそこが良いっていうか。可愛いし美人だし。お淑やかで気品もあるし、それでいて賢いとか完璧すぎんだろ。四宮はまじサイコーの女だよ!」

 

 そう言い切った。

 

「会長、変な顔」

「変ってなんだ!?」

 

 恋バナすること自体ほとんど無かったのか、会長はずいぶんテンションが高い。それを本人の前で言えないからってずっと抑え込んでいた愛が溢れているっていうか、でもそれを聞かれているっていうか。

 

「筑紫、お前わらって……?」

 

 会長がそう呟いたが、自分ではよくわからない。

 まあ、いいか。

 

「まずは玉砕覚悟で行った方がいいだろうな。じゃないと、話がややこしくなる。ソースはこの会長」

「……俺を出汁にするな」

 

「僕、頑張ってみます。お二人とも、ありがとうございました!!」

 

 『壁ダァン』してこい、って言いながら送り出した。同じ男子として失敗したらまた相談に乗ってやる。

 

「少し、彼の様子を見てきますが」

「ん、ああ」

 

 あの勢いなら今から告白するだろう。

 部活中のラブコメ大好きな藤原さんが嗅ぎ付けるかもしれない。一緒に野次馬したい。

 

「ついでに。さっきの話は副会長に伝えておきますね」

「ま、まてっ! この話は内密にするという暗黙の了解のはずだ!」

 

 たまには男子だけで恋バナするのも悪くない。そう思えた。

 

「冗談ですよ。俺からは言いませんって」

 

 一度生徒会室から出て、顔の赤い四宮かぐやとすれ違った。逃げていったけど。

 

 

 


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