今日は、朝から会長がどこか浮足立っていた。
俺は四宮かぐや攻略法を楽しみにする。
四宮かぐやは何を企んでいるのかと警戒する。
藤原千花はマイペース。
「会長、それ!」
会長がおもむろに見せたのは、携帯電話
現代で言うところの、スマホ
「会長って、今まで持ってなかったですよね!」
いち早く、藤原さんが反応した。
「まあな。少し思うところがあったんだ」
今や小学生でも持ち始めている携帯電話について、高2になってからようやく会長はスマホデビューしたことになる。今期生徒会結成直後、連絡先交換を提案した藤原さんだったが、生徒会長が持っていないから空気が重くなった。
その時の関係は冷えきっていたけれど。
特に『氷のかぐや』と俺が。
「ようこそ文明社会へ!」
彼女がマイペースに明るいのはその時から変わらない。藤原さんに至ってはスマホ無しでは生きていけないくらいだろう。まあ、それくらい持っていることが当たり前になってきたということだ。
「なるほど。言い得て妙ですね、会長」
「みょうだyo!」
なぜラップ。
ラッパーチカ?
「人を原始人みたいに言うんじゃない。すでにLINEだってインストールして、使い方もマスターしている」
「わ~それじゃあ、連絡先交換しましょう~!赤外線でいいですか~」
また徹夜したんだろう。
「あとで、つくしくんのも送りますね~」
「お、おう、頼む」
「スマホについては藤原さんには勝てませんね」
いわゆる友達招待も会長は知っているだろうが、藤原さんのペースに追いつけない。第一、文字を打つスピードが違うし、藤原さんが片手であることに対して、いまだ会長は両手でスマホを握っている。
四宮かぐや的にもお可愛いことだろう。
「それにしても。防水仕様とは会長らしいですね。機能性重視というか」
「ほう、よくわかったな」
それでいて、少し古い機種だ。
家計を少しでも圧迫しないためのチョイスだろう。
「そういえば。ご両親はNOZAKIの仕事だったか?」
「おおっ!いろいろ詳しそう!」
俺の出自を知っているのは、この学園では四宮かぐやとその幼馴染の早坂愛くらいだ。すでに維織様の立場が確立している以上、もう特に影響はないのだが、わざわざ明かすほど綺麗な話でもない。
だから、そう簡単に調べられるものではない。
「偶然カタログを読んでいただけで、石上会計ほど詳しくはないです。だから、会長も彼をスカウトしたのでしょう?」
「あいつは今日も来ていないがな」
「石上くんまた家でやってるんですね。みんなでやるのが楽しいのに~」
ところで、その四宮かぐやはどうして会話に乗ってこないのだろう。気になる異性との連絡先交換なんて、何よりも優先で行うべきことなのに。だって、タイムラインで逐一行動がわかるから。
藤原さんは、すぐ自撮り送ってくる。
生タコとのツーショット写真とか。
「きゃ~!かわいー!会長のアイコンかわいい~!」
「ああ。俺が子どもの頃の写真だな」
俺も自分のスマホを操作して、会長からの友達申請を受諾する。ついでに会長の子どもの頃の写真を見ている俺に、加えて、その話題を会長と共有している藤原さんに、四宮かぐやは嫉妬している。
天然と嫉妬がぶつかり合う。
2人は親友じゃなかったのか。絶交まである。
「へぇ~この頃から目つきわるいんだ~!」
「目つきに関しては結構なコンプレックスだから触れてくれるな」
本人にとってのコンプレックスは、会長は知らないが四宮かぐや的には『お可愛いこと』なので、さらに嫉妬の視線が強くなる。
ここまでで大体わかったが、お互いに連絡先交換をお願いされることを待っている。昨晩からずっと期待している分、会長は焦らされるときついものがある。
「ふむ。さすがにこれはあまり見せられないか―――3分後に変えよう」
こいつは ひでぇや。
3分間待ってやる、という幻聴が俺には聞こえた。
「え~、かわいいのに~」
「さすがに生徒会以外に見られるわけにはいかんだろう」
自分の子どもの時の自画像をアイコンにすることについて、あるかなしかと問われれば、なしという人が多いだろう。
「ぐすっ……ぐすっ……」
「かぐやさん、どうしたの?」
四宮かぐやが人前で泣く姿なんて初めて見たが、目が潤んでいるのは目薬か。今まで出さなかった『切り札』(嘘泣き)を使うほど、四宮かぐやは連絡先交換及び子どもの頃の写真が見たかったのか。
四宮かぐやは、会長のことになると急に子どもっぽくなる。
「会長はひどいです……」
「お、俺が悪かった! 四宮にも見せるから!」
向けられたスマホの画面を鷹の目が刺し貫く。
四宮かぐやの口元は三日月に歪められた。
「しまった!?」
「あらあら、会長」
まるで『お可愛いですこと』と言っているかのように、頬を紅潮させている。四宮かぐやはあの一瞬で脳内保存した画像を意識しているだけだが、負けを認めるしかない状況の会長からすれば勝ち誇った笑みに見えているだろう。
「はわわっ!ガラケーだからLINEできないかぐやさんの前でLINEの話ばかりするのかわいそうですよ~!だってまだガラケーですもん!!」
天然って怖いね。
聞こえようによってはガラケー批判している。
「金持ちなら買い替えろよ!?」
「幼稚園から使ってる携帯なんです! いまさら替えられません!」
まじか。意外だ。ガラケーでもLINEをインストールできる機種はあるけど、そこまで古いとできるか確証はないな。
「……電話、待っていますからね?」
「……俺の方こそ、メールが来るのを楽しみにしているからな?」
2人の戦いは延長戦にもつれ込んだ。
言い合いを続けながらも電話番号とメールアドレスを交換した2人を横目にして、俺は会長のアイコン画像をスクショで保存していた。これは、四宮かぐやに貸しを作る材料になる。
何事にも、抜け道というものはあるということだ。それは無音カメラで2人を撮っている藤原さんにもあてはまる。
****
(番外編 @男子トイレ)
女三人寄れば姦しい、と言われるように女子が3人も集まればキャッキャウフフである。恋バナだってすぐ始まるはずだ。ソースは藤原千花の行動力。
生徒の悩みを解決するべく、生徒会長は相談を受けつける。だがしかし、今日相談を受けるのは生徒会副会長であった。ちなみにこの学園で、四宮かぐやは恋愛百戦錬磨という噂がある。もちろん噂だけである。
「紅茶でよろしければ、どうぞ」
「ありがとうございます。あっ、美味しい」
男子メンバーが席を外しているとはいえ、お茶請けは四宮かぐやか藤原さんの担当だ。同学年の柏木渚はショートカットの美少女のはずで、成績も良く、裏表のない彼女はかなりモテる。
「では!このラブ探偵チカとワトソン役のかぐやが、恋という名の落とし物を見つけ出して差し上げます!」
「は、はい、よろしくお願いします」
ワトソン=助手と言ったところか。あの四宮かぐやを補佐として扱えるのはラブ探偵チカくらいだろう。
「それで。ご相談というのは?」
「円満に彼氏と別れる方法が知りたいんです」
予想以上に深刻だった。内容は先日相談を受けた『田沼翼と別れたい』というもの。ちなみに彼は俺たちを1日にして越えていき、『壁ダァン』を放課後の教室でやって告白に成功した。
1つのイヤホンで片耳ずつ共有して、盗聴している共犯者(会長)も、思わず顔に手を当てた。俺たちの現在地は男子トイレの個室である。
「勢いでOKしちゃったんですけど、でも彼のことよく知らなくて」
やっぱりか。
バレンタインデーのチョコボールは義理か。
隣にいる会長は目が泳いでいる。
「別れるということは早計ですよ。ただ自分が好きなのか不安なのでは?」
「そうそう!まずはいちゅーの彼の好きなところを考えるんです!」
意中ねぇ。
ラブ探偵チカはいるのだろうか。
「な、なるほど……」
「例えば、真面目で努力家な所だとか、勉強ができる所だとか、実はすっごく優しくて困ってる人を放っておけない所とか、可愛い所だとか」
隣の会長の顔が真っ赤になっている。
暑苦しい。
「1つ良い所を見つけて、そこを良いなって思い始めたら、良い所がいっぱい見えてきて……どんどん」
プシューという音がイヤホンから聴こえた。
会長もプシューしている。
トイレの水を流す音でかき消す。
「ここからはラブ探偵チカの出番ですね!」
声のボリュームが大きい藤原さんが、意気揚々と名乗りを上げた。
「ではっ、その人が他の女とイチャコラしてる所を想像してみてください!」
気になる人が異性とイチャコラねぇ……
会長も顎に手を当てた。
藤原さんが別の男子とデートしたと仮定して………妨害するか連れ去るかだな。
「今の気持ちが嫉妬!彼の事が好きだからヤな気持ちになっちゃうって事なんです!嫌な気持ちの分だけ愛があるってことなんです!」
なるほどね。
俺は確かにムカムカする。
誰もがそのような気持ちを抱くわけではなく、数年前は姉さんとか超落ち込んでいた。三角関係時期の姉さんの落ち込みぶりはそう簡単にフォローできるものではなかった。
「だから、柏木さんにも彼を好きな気持ちはちゃんとあるんです。それを大事に育ててあげればいいんです」
「そうなんですね!私ちゃんと彼が好きなんですよね!」
ラブ探偵チカ、すっげぇ。
『別れたい』という相談をひっくり返した。
「でも、どうしたらもっと彼と自然に話せるようになりますかね?」
「そうですね……認知的均衡『ロミオとジュリエット効果』なんて使えるんじゃないでしょうか」
会長が関わると急に子どもっぽくなるけど、普段の四宮かぐやは頼りになるようだ。あと王道が好きそうだし、意外とロマンチックなところは、俺的に好感が持てる。
「うんうん。恋に障害はつきものですよ」
「でも、障害なんて……」
特に家庭環境にも問題なさそうだしな。
恋敵がいればいいのだろうけど。
そういう状況だと独占欲がどんどん高まるぞ。ソースはさっきの俺。
「誰もが立ち向かわなきゃならない強大な敵がいます!―――この社会です!!」
(((社会!?)))
「終わらない戦争!無くならない貧富の差!これほど強大な敵はいませんよ!」
それは、かつて世界に混乱を引き起こしたジオットのスケールの話だぞ。もちろん『最大の計画』の終息ともに彼が姿を消して以降、今の世界はそれなりの均衡を保っている。数年前までこの世界はずいぶんと危うい未来に進んでいた。俺たちは、『無謀さ』をわかった上で社会に立ち向かったヒーローから守られるだけだった。
四宮かぐやも、社会に喧嘩を売ることの『無謀さ』または『恐怖』を人伝手に聞いているはずだ。
「なるほど、2人でこの腐敗した社会に反逆すればいいんですね!」
早速2人で準備してきます、と言ったところでドタバタと駆けて行く足音が聴こえた。
えっ、何の準備するの。
サイボーグ? アンドロイド? 超能力?
「大丈夫です。平和を願う気持ち、それこそが真の意味で社会への反逆だと私は思いますから」
「……何を言ってるの?」
何か意味ありげな言葉を、藤原さんは呟いた。
もちろん、四宮かぐやは真意を問う。
「元々、2人は慈善活動に興味があるみたいですよ」
「……そう」
語り方が大袈裟すぎる。
たぶん、四宮かぐやは崩れ落ちたことだろう。
俺もトイレの個室で大きくため息をついた。
「とりあえず。解決でいいのか?」
「ええ。今の世界は平和ですよ。ヒーローのおかげで」
会長は首を傾げた。
後日、生徒会のサポートのもと、ボランティア部が新設された。スタート時は、件のカップルともう1人のたった3人の部活だが、早速緑の募金活動から始めているらしい。
男子1名、女子2名
俺にとっては既視感のある構成だった。
恋に障害はつきものだな