藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第6話 第1回テーブルゲーム@生徒会室

 グローバル社会において、国や地域の垣根を超えて世界的に資本・人材・情報がやりとりされている。

 

 維織様が社長をやっているNOZAKIもITの大企業であり、グローバル企業の1つだ。まだまだ歴史が浅いとはいえ、『ツナミ時代』の中でも発展を続けた企業として有名である。もちろん、歴史ある財閥には敵わない。その時代で一強だったジャジメントグループ(旧名ツナミ)の解体後、四宮グループ含む4大財閥によって再び世界の均衡が保たれている。

 

 話が逸れたが。 

 教育現場でグローバル人材の育成が求められている。

 

「えっと、えっと。パーティーは月曜で~設営は日曜にしなきゃだし~」

 

 現在金曜日。

 昨日、校長から告げられたのは、『パリの姉妹校の生徒との交流会』

 

「飲料・食料品の発注は間に合いそうにありませんね。多少無理をしない限り」

「ええ。私たちの方で準備しましょう。学園としてはあまり借りを作りたくはないでしょうが」

「土産菓子か雑貨は、前日に生徒会で用意するとして」

 

 その準備期間はたった3日しかない。

 意趣返しに、コネはいくらでも使ってやろう。

 

 校長が意図的にその情報を隠していたことは明白で、防犯性の高いこの学園では長期間盗聴器を仕掛けられないことが悔やまれる。四宮かぐやの従者の早坂愛が近くにいないタイミングを見て、一時的に生徒会室に仕掛けるくらいが限界だ。

 

「あとは会場設営についてだが……」

「知り合いのデザイナーの方に過去の設営案をグレードダウンしてもらい、NOZAKIからその時の物品も貸し出しできるよう、すでに依頼しました」

 

 あのお姉様も宇宙開発事業で忙しいだろうが、息抜きに優先してくれるだろう。

 

 フランス人はパーティーが大好きと言われ、日本人より参加回数がまるで違っていて、パーティー会場に目が肥えている。普通のパーティーを行うだけでは、秀知院学園の格が低く見られてしまう。

 

「それは助かるな。経費の計算は石上に任せるとして……」

「フランス語を話せる先生も何人かいますし~、私の知り合いの講師の方も来れるか聞いてみますね」

 

 当日の進行もすでに煮詰めている。

 藤原さんの母親は元々外交官だったし、そういうコネもあるのだろう。

 

「なんだか上手くいきそうですね~!」

「ああ。なんとか形になりそうだ」

 

 これである程度は、目途は立った。そして、会長は重々しく息を吐いて、ソファに体重をかける。

 

「日曜はどうします~?」

「ん?会場設営の指示出し役2人と、買い出し役2人ずつと言ったところ、か……」

 

 会長の声が尻すぼみになっていった。

 そして、心なしか頬が緩んでいる。

 

「買い出しは面倒なことだな。四宮もそう思うだろう?」

「まぁ、そうですね」

 

 これは班分けである。

 

 気になる異性と同じ班になりたいというのは思春期男子なら当然のことだ。会長の頭の中では四宮かぐやと自分で買い出しに行くのがベストなどと考えているのだろう。放課後デート。それでいて、その配役を会長自ら決めることは、その意図を勘ぐられないはずはない。それは恥ずかしいことだ。

 つまり、自然とそうなることを求めている。ヘタレ。童貞。生徒会長。

 

「じゃあ!ゲームで決めるのはどうですか!?」

 

 最近は部活に行っていたことで満足していたようだが、藤原千花はゲーム好きである。

 

 それはNOZAKIの『実況パワフル野球スピリッツ』などのコンピュータゲームではなく、トランプやチェスのようないわゆるアナログゲームが彼女の好みの範囲に入る。そこには彼女の父親の教育の影響がある。

 

「ほう、どんなゲームで決める?」

「そうですねー、NGワードゲームにしましょう」

 

 4人で勝負するならPカード(麻雀)だろう。そういう赤いヒーローの理念は置いておいて。

 

 会話の中で『特定の言葉』を言ったら負け、というゲームである。メモ用紙や単語帳に書いたNGワードを、それがわからないように別の人に渡す。ゲーム中は自分のNGワードはわからないため、他プレイヤーはそれを言わせるように会話を誘導する。

 

「ルールはわかりました~?」

「ああ、簡単だな」

 

 藤原さんに『ドーン』と言われ、会長は動揺しながら渡された紙を見た。藤原さんが提案したゲームなのだから弱いはずはない。天然でよく勘違いした思考もするが、頭の回転は速い。

 

 簡単そうに見えて、これは高度な心理戦である。

 すでにゲームは始まっている。

 

「じゃあ!本番行ってみましょう!」

 

 勝敗については、俺自身は『藤原さんと会場設営』ができる1位か2位を狙う。会長や四宮かぐやはむしろ3位か4位を狙っているだろうし、主催者の藤原さんは1位を狙ってくる。そう考えると、今回のゲームにおいてあまり本気を出す必要はない。

 

 とりあえず。

 四宮かぐやには『好き』って言わせるか。会長がその言葉を言わせるために誘導することは日常茶飯事なことで、あわよくば、どっちかがそのまま告れ。

 

俺が四宮かぐやに

四宮かぐやが会長に

会長が藤原さんに

藤原さんが俺に

 

さて、NGワードは。

四宮かぐやが『好き』

会長が『本気』

藤原さんが『ちぇけら』

 

 会長が藤原さんに渡したNGワードはずいぶんと勝たせないためのものだな。よほど誘導しないと、まず言わないだろう言葉だ。もっと日常的な単語にしないと、うまく繋げられない。

 むしろ、急にそういうジャンルについて発言すると、NGワードが何か勘づかれやすい。

 

「YO! YO! 早速スタートだYO!」

 

 なんでラップ。

 てか、先日同じようなことを思ったな。

 

「藤原書記、なんだその口調は……?」

「NGワードにオレッチがよく使う言葉を指定されてはたまらんYO! だから口調を変えてルンだYO!」

 

 俺ですらポーカーフェイスを崩しそうになったし、指定した帳本人である会長は激しく動揺している。いつ『チェケラ!』するかわからない状況だ。まるで、あらかじめ狙っていたかのような一致で、四宮かぐやは感心している。

 

「その動揺!語尾に関するものだったのかYO!」

「そ、それはどうかな……」

 

 まあ、ラッパーチカがお可愛いことだから会長ナイス。

 

「つくしくんYO!今何か言いたいことあるかYO! セイ!おーっ!」

 

―――君を撮影したい

 

 書いた本人としてはあらかじめ攻め方を考えていることなのだろう。だが、会長の願いを考えると、最下位になるわけにはいかない。

 

「お腹が空きました」

「お昼!いっぱいおにぎり食べてたルン!YO!」

 

 今まで一度も言ったことのないワードだ。

 加えて、会長の援護になるが、これでどうだ。

 

「それにしても。今日のお弁当も美味かったな。なぁ、四宮?」

「そうですね。あのタ……、あのおにぎりも」

 

「ずいぶんとタコさんウィンナーが気に入っているのですね」

「あれはいいものだYO!」

 

 こういう心理戦において、他プレイヤーはライバルであり、時には協力者。だから、1人1人を脱落させていくことは常套手段。

 

「……そうですね。今日も美味しい、お弁当でしたよ」

「そ、そうか。それなら作った甲斐があるというものだ」

 

 すでに出てきたワードは安全な言葉だ。例えば、お弁当から連想させるような『昼食』や『お昼ご飯』を誘っている可能性もある。

 

 記憶力の良い四宮かぐやも決して弱くはない。

 

「ところで、何か嫌いなものはあるのか?」

「いえ、特にはありません。藤原さんはどうですか?」

 

 自分に対する集中砲火を回避し、ラッパーチカに話題を振った。藤原さんはラップを続けている以上、会話しているだけで無自覚に地雷地帯を歩いていることになる。

 

「嫌いなものですか……そうですね……空気読めないってよく言われるんですよ」

 

「「ん?」」

 

 ノリノリのラップはどこにいったのだろう、俺たちの中に疑問が芽生えた。

 

「恋バナするときは混ぜてくれないですし~! 絶対地雷踏み抜くからって~!」

 

 目を潤ませながらそう告げる。

 やがて、顔を机に伏せた。

 

「……ちょっぴり疎外感を感じます。ほんとは、知らない間に、みんなに迷惑かけてるのかなって考えると悲しくて」

 

 藤原千花も、何かを失っている。

 その笑顔に影を落とすことなど一度もなかった。

 

「藤原さん……」

「それが嫌いなことです……よー」

 

 四宮かぐやが、藤原さんの頭を撫で始めた。

 ゆっくりと顔を上げる。

 

「みんな、迷惑なんて思ってませんよ。貴女のそういう裏表が無い所に助けられている人はたくさんいます」

 

 まあ、そうだな。

 

「かぐやさん……本当?かぐやさんは私の事、嫌いじゃない?」

 

 ん?

 待てよ?

 

「ええ、まあ……『好き』ですよ」

「ドーンだYO!!」

 

 ひでぇ。

 ゲームとはいえ、友情を利用したぞ。

 

「今の話!嘘、だったんですか!?」

「ブラフだYO! 私が恋バナに混ざらないわけないYO!」

 

 いつもの笑顔だ。

 四宮かぐやはこれで4位になった。

 

「貴女って人は!」

「まあまあ! 私もかぐやさんのこと大好きですYO!」

 

―――どこまでが嘘だ?

 

 こう見えて、藤原千花という女は普段は決して嘘をつかない。これはゲームだから嘘をついた。

 

 『空気を読めない自分』を嫌っていること。その一例として恋バナが挙げられた。だが、そもそも、現在の彼女の友人からの評価は『他人の秘密は必ず守る』から、よく恋バナに誘われる。それが簡単でないことはわかっているだろうが、彼女の交友関係は広く深いものだ。

 

 だが、彼女の過去は知らない

 

 顔を隠す前に一瞬見えたあの瞳は、嘘のものではないかもしれない。

 

 

「藤原さんは強敵ですね。まあ、会長にも負ける気はありませんが」

「ああ。ここからは『本気』でやらせてもらおう!」

 

 ずいぶんと上手く釣れたな。

 何か思うようなことがあったのだろうか。

 

「ドーンだYO!!」

「はぁ!? うわ、まじかよ!」

 

 会長は慌てて、四宮かぐやが『本気』と書いた紙を見た。相変わらず、字が綺麗だな。

 

「これで割り振りは決まったが……」

「さあ!決勝戦を始めるYO!」

 

 本来の目的は忘れられているようだ。

 

「本気でやらせてもらう」

「望むところだYO!」

 

 勝負事で手を抜くのは失礼だったな。

 

 藤原さん好みに指定されているNGワードだから、もちろん攻め方もあらかじめ考えられている。だから、攻勢を緩めた時点ですぐに引き出される。逆に、こちらは会長が負けないように指定したNGワードだから、圧倒的不利。

 まあ、何の因果か、奇跡なのか、いまだにラップを続けていることにまだ勝ち目はある。

 

「ラップ、まだ続けるんだな。語尾が何とかという話だったか?」

「そうだYO! これは必勝法だYO!」

 

 さすがに乗ってこなかったか。

 本来、『よく聞け』という意味を含む『Check it out』を出させるように会話の内容の振り返りを行ったのだが。

 

「ああ。確かにそう言っていたな」

 

 それにしても、と言いながら、攻勢を緩めない。

 

「リズム感があるからか、上手いと思う」

「ありがとうYO!」

 

 まだ乗ってこないか。

 そもそも、『チェケラ』知っているのか?

 

「YO! 家族のこと聞いていいかYO!」

「まあ、いいけど……」

 

 こちらのNGワードを引き出すように攻めてきた。

 あまり単語を出さないようにしないと。

 

「まず母さんは女手一つで育ててくれたし、肝っ玉があるというか、昔はモテモテだったらしいけど、今でも十分若くて美人で心配になるくらい。姉さんはとにかく優しくて仕事もできる。実際のところ社長やれるまである。あと、あまり体力はないけどバスケが得意で中学の頃は3Pシュート成功数記録保持者。しかもプロ野球選手の彼氏持ち。あと一応、もう1人姉がいるけど」

「長いな!? NGワードは言っていないが!」

 

 会長の指摘でハッとする。

 

「少々、熱くなりましたね」

 

 しまった。

 上手く乗せられた。

 

「そういえばYO! いっしょに朝登校してるけどYO! どの辺りに住んでいるか聞いたことないんだYO!」

「ああ、言ってなかったか。『家』は混黒高校の近くで……」

 

四宮かぐやがクスッと笑みを零した。

会長が慌てて手で制している。

藤原千花が満面の笑みを見せた。

 

 ああ、なるほど。

 俺は、一番の『弱み』を狙ってきたか。

 

「ドーンだYO! 『ちぇけら』!」

 

 天才アナログゲーマーなのか。

 それとも、よく俺の事を知っているのか。

 

 

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