藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第7話 イベント(フランス校交流会)

 待ちに待った日曜日だが。

 

「起きた時に家にいなかったので、弟が神隠しに遭ったか心配していました」

「何も呪われるようなことしてないからね? 朝から野球ゲームやってないからね?」

 

 オカルトはまだまだ謎が多い。

 科学では証明できないことは今でも起こる。

 

「冗談です。ともかく、治まるのは夜になってからですよ?」

「ああ、わかってる。帰るまでに終わればいいくらいだし」

 

 電話越しに伝えられた通り、記録的な豪雨だった。

 やれやれと言われて電話が切れた。

 

 土曜日のうちに運び込まれた荷物を1つ1つ開封していく。同じく無茶をしそうな藤原さんも彼女の父親が来させないだろう。他の有志の生徒にも、準備は中止して早朝から行うと伝えてある。

 

 当日の朝からやって間に合うはずはない。

 

「ところで、なんでいるんですか?」

 

 気配を隠して近づいてきたが、隠しきれない闘志がこの関西弁な長身の女性にはある。その強さに噓偽りは決してなく、世界最強候補の1人だ。

 

「可愛い弟分の恋路が気になるやん?」

「わざわざこんな雨の日にですか。まさかあなたもラブブレイカーですか?」

 

 リア充撲滅隊みたいな有志団体の1つだ。

 規模は小さいし、今は2人いるかどうか。

 

「なんやそれ。お姉さんは現役男子高生と恋バナしたいだけや」

「冗談です。ヒーローのカップル率に絶望して入隊しないかどうか、ひやひやしてますけど」

 

 わりとまじで、略奪愛に目覚めないか心配ではある。

 

「その話はそれ以上するな。」

「……了解しました」

 

 そんな彼女は机を片手で軽々と持ち運んでいる。そして、指定した場所にわりと大雑把に置いた。

 

 やっぱり、あまり手先は器用ではないな。

 

「まあ、力仕事を手伝っていただけるなら、適任ですね。ぜひよろしくお願いします」

「任された。それにしても、ほんま姉弟やなぁ」

 

 どっちの姉に似ていると評したのか。

 もちろん、姉さんだな!

 

「そうそう。暇してるやつにも声かけといたから、どんどん集まるで」

「どこまで呼んだのかかなり心配になりますが……ヒーローが暇なのはいいことですね。もっと仕事回すように頼んでおきます」

 

 ますます個性的なメンバーが集まるのか。

 指示出しの骨が折れそうだ。

 

「おおきに。はぁ、あんたもずいぶんと染まったなぁ」

 

 目の前の大江和那さん含め、好戦的なヒーローには仕事をさせなければならない。それが雑用にしろ、もしくは戦いにしろである。さすがに、組織が自ら敵を作ることは減ったとはいえ、いまだ不安定な世界の均衡を保つために続いている。

 

「でも、まだ戻れる。」

 

 生まれた時からもう戻れなかった気がするし、託された力を捨てるわけにもいかない。

 

「ご忠告ありがとうございます。そもそも表にいたとしても『家』の関係上、これからも巻き込まれるでしょうに」

 

 青いヒーローでさえ勝てなかった敵がかつてこの世界にいた。その敵のターゲットにもし選ばれていたら、俺や姉さんなんて1秒もかからず死んでいただろう。ジオットの気まぐれで、姉弟は運よく選ばれなかっただけだ。

 

「このままやと、あの娘も巻き込むことになるんやで?」

「貴女が言うと説得力がありますね。まあ、俺も高校卒業までには決めますよ」

 

 大江和那さんは苦笑いをしただけで、それ以上忠告されなかった。

 

 

 

****

 

 わざわざ教員に聞いて調査したが、校長が会長を試すために口封じされていたらしい。3日前まで伝えないようにした責任はぜひ担ってもらおう。俺と四宮かぐやがコネを最大限に利用したことで、校長は胃痛に悩まされることになる。

 

「なんとかなったな」

「ええ」

 

 緑色を基調として統一感の溢れるパーティー会場は、フランスの留学生からも大きな称賛を得た。夏の近づきを感じさせる新緑を思わせ、和と洋の雰囲気を上手く組み合わせている。秀知院学園生徒も留学生も写真で会場を撮影していた。

 

 会長も、朝来てみたらほぼ完成の会場にただただ感嘆していた。

 

「四宮、筑紫。フランス語はいけるのか?」

「いえ、あまり得意ではありませんね」

「俺もさすがに英語でないと」

 

 学園生徒もフランス語履修生で構成されており、不慣れなフランス語で会話をしている。時折り、会話が詰まることもあるが、留学生たちも承知の上だろう。彼ら彼女らもここに来るまでにわからない日本語に囲まれている。

 

 この学園の英語教師の1人がフランス語をペラペラと話せるし、藤原さんの紹介の人も通訳に回ってくれている。

 

「挨拶では会長はフランス語で自己紹介していましたね」

「少しハンドブックで予習してきただけの付け焼き刃だがな」

「またまたご謙遜を」

 

「Bonjour.(こんにちは)『今日はお招きいただき、誠にありがとうございます』」

『こちらこそ、遠方から遥々お越しいただきありがとうございます』

 

 留学生がフランス語で話しかけてきた。まだ訛りがあるが、できるだけ聞き取りやすいようにゆっくりと、こちらが分かるような定形文だった。

 

『あなた方が滞在する間に、忘れられないような素晴らしい思い出を手に入れられるよう、私たちは最善を尽くします』

『ありがとうございます』

 

 さすが四宮かぐやというべきか。間髪入れず、文章をフランス語で構成し、ペラペラと喋っている。

 

 これなら、翻訳機を持ってきた方がよかったな。まあ、サイボーグなら内臓すればいいのだが、生身の人間にとって、あれは少しサイズが大きい。『戦闘用高速言語』で容量をくっている影響もある。

 

『なにか必要があれば、遠慮せず私たちにお聞き下さい』

 

 そこで会話は終わったようだ。丁寧なやり取りだったが、フランス語でどんどん話しかけられそうだな。フランス語をペラペラ話せる日本人がいたのだと、向こうで留学生の女子たちがキャッキャウフフしている。

 

 今度、一般向けのAI翻訳機を買おう。

 

「やはりネイティブの発音は難しいです。義母音は普段から使わないとどうしても綺麗に出ないですから」

「こればかりは慣れですね。藤原さんは向こうでまるでネイティブのようにペラペラ話していますが、一体何者なんでしょう。あれは本当に生身の人間ですか?それとも特殊な生まれですか?」

「藤原書記にずいぶんと失礼だな……」

 

「冗談ですよ、少し混ざってきます。」

 

 話している内容は日本のマンガ。そして、海外企業相手のプレゼン並みにペラペラ。 

 

 

「……コンテンツは日本人向けで……有効な手段が……」

 

 会話に混ざろうかと思って、一度藤原さんに近づいた。でも、これはさすがに無理だと判断した。

 

 離脱するに限る。

 

「会長、まるで海外に単身放り出されたみたいな顔していますね」

「そそそそんなことはないぞ!」

 

 会長も留学生と折り紙について会話をしていたようだが、ジェスチャーと表情でなんとか乗り切った感じか。

 

「Bonjour Shirogane.(こんにちは、シロガネ)」

「ああ、はい」

 

 話しかけてきたのは、姉妹校の生徒会副会長。さらには校長がこちらの様子を見ているので、何か仕掛けてきたようだ。妖艶な雰囲気を持つ彼女は、学生でありながらディベート大会で優勝した実力者らしい。

 

『はじめまして。フランス校生徒会副会長ベルトワーズ・ベツィーさん』

『ふふっ、はじめまして。でもあなたには用はないの』

 

 超能力者ということは抜きにしても、何か武器を所持しているようには見えない。彼女が纏う雰囲気からも、戦いの素人ということは俺にもわかる。ずいぶんと腕が細いし手指は綺麗で、実力を隠しているようにも思えない。

 

 校長には会長を試す目的があるようだが、それは単に彼女とディベートをするということにあるのだろうか。

 

『ずいぶんと細い男だこと……』

 

 そこから始まったのは皮肉・挑発・人格否定

 

「ふむふむ」

 

 会長を徹底的に侮辱する罵詈雑言

 親や恋人、友人の悪口まで言っている。

 

 普段の生徒会長なら、冷静なままではいられなかっただろう。

 

「ははっ!エクザクトマン(それな)」

 

 笑みを見せて、躱した。

 会長が気にしないのなら怒る理由もない。

 

『なんですって!?』

 

 会長はたぶんほとんど分かっていない。

 日常会話から、かけ離れたスラングだし。

 

 だが。

 

『あなた! 強がっているのね!』

『先ほどから聞いていれば……』

 

 四宮かぐやが黙ってはいなかった。

『あ?お前、今なんて言った?』から始まる脅迫。

 

 言っている内容は、四宮グループの『恐怖』と立ち向かうことの『無謀さ』についてだ。どこからでも暗殺できるスナイパーにすぐ依頼できること、一般人の情報などすぐに明るみになること、一般の軍隊には流通していない兵器を保持していること。そして。

 

「四宮かぐや、そのくらいで大丈夫でしょう」

 

 俺やベルトワーズ・ベツィー以外がこの話を聞いていないとはいえ、一般人に向けて簡単に言いふらしていい情報でもない。

 

『……そういうわけで会長にはこれ以上近づかないでください、ね?』

『はい!わかりました!!』

 

 これでベルトワーズ・ベツィーも懲りただろう。

 言葉も立派な『凶器』ということだ。

 

 

「えっと……?」

「会長、違うんです! 今のは……」

 

 怒りに身を任せたとはいえ。

 まるで会長に出会って変わる前の四宮かぐやだった。

 

「軽蔑しますか……? 幻滅、しましたか?」

 

 天才である四宮かぐやは、常に『人を率いていく』という未来を期待され続けている。四宮グループを継ぐ一族の1人として、人の上に立つことが求められて、そのように教育されてきた。

 生まれながらに、権力を振りかざすことのできる立場だ。

 

 

「会長、フォローは任せましたよ」

「お、おう……」

 

 好きな人のために権力を使うだなんて、ずいぶんと人間っぽいことだ。そういう所は大事にしてほしい。四宮かぐやが『氷のかぐや姫』だった頃は、世界の情勢の影響もあり、お互いに常に警戒していた。

 

「そういえば。さっきのは話しても特に問題はない内容でしたから。ギリギリ」

「ギリギリだったんだな……」

 

 

 

 

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