ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
《アステリオス・ザ・トーラスキング》戦です。
「全軍!体制を立て直せ!近くに麻痺している人がいれば、安全な場所に運んでくれ!それ以外はボスを迎え撃つぞ!」
三体目のボスに誰もが啞然としている中、いち早く我に返ったリンドが周りに指示を出す。
リンドの指示を聞いて、状況を理解し、次々と動き出す攻略組。
麻痺した人を運ぶ者、ボスに挑む者など、事前に三体目が出るのを知っていたおかげで冷静に行動できていた。
「俺たちも行くぞ!」
無論、キリト達も三体目が出ることは知っていたので、慌てることなく《アステリオス・ザ・トーラスキング》に向かう。
《アステリオス・ザ・トーラスキング》は自身に迫ってくる攻略組の面々を見ると、手に持っていた巨大なハンマーを上に上げた。
「か、回避ぃーーー!」
リンドの声を聞いて、ハンマーを回避しようとする攻略組に向けて、《アステリオス・ザ・トーラスキング》は思いっきりハンマーを振り下ろした。
威力もそうだが、攻撃範囲も先程の二体とは桁違いであり、回避できなかった者は高いダメージとスタン、或いは麻痺のデバフが付与された。
「怯むな!攻撃した隙をついて周りから攻撃しろーーー!」
一人のプレイヤーがそう言い、プレイヤー達が《アステリオス・ザ・トーラスキング》を囲む。
プレイヤー達が各ソードスキルで攻撃しようとした瞬間、《アステリオス・ザ・トーラスキング》が両手を上げ
『!?』
《アステリオス・ザ・トーラスキング》の周りに雷が落ち、囲んでいたプレイヤー達は雷によるダメージを食らい、麻痺が付与される。
「くっ、一旦下がるぞ!」
プレイヤー達が麻痺したのを見て、一旦距離を取ろうとする二人のプレイヤー。
《アステリオス・ザ・トーラスキング》は後ろに下がろうとしているプレイヤーを見つけると、両目を光らせる。
「避けろ!ブレス攻撃が来るぞ!」
事前情報により、目が光るとブレス攻撃をすると知っていたキリトは後退している二人のプレイヤーに向かって叫ぶ。
二人のプレイヤーもそれを知っていて、慌てて横に避けようとするが
「「ぐはっ!?」」
避けきる前にブレスが放たれ、攻撃を食らった二人のプレイヤーは高いダメージと麻痺が付与された。
あっという間に複数の麻痺者が出たことに、誰もが立ちつくしてしまう。
「(近づけば巨大ハンマー。囲めば麻痺付きの全方位攻撃。距離を取ればブレス攻撃。くっ、隙がなさすぎる・・・!)」
《アステリオス・ザ・トーラスキング》の攻撃パターンをトウガは冷静に分析したが、どの攻撃にも隙がなく、強力なソードスキルを当てることができないことに顔をしかめる。
「くっ!」
「あ、アスナ!?」
状況を打開すべく、アスナはキリトの制止を聞かず、《アステリオス・ザ・トーラスキング》に攻撃する。
攻撃された《アステリオス・ザ・トーラスキング》はアスナの方を向き、ハンマーを振り下ろすが、アスナはそれを躱す。
「(予想通り。こんな風に近づきながら攻撃すれば、ボスは遠距離攻撃をしてこない!少しの間だけでいい。攻略組の人たちの麻痺が回復するまで、私が時間を稼ぐ!)」
そう考えたアスナは次々と繰り出される《アステリオス・ザ・トーラスキング》のハンマーを躱していきながら、《アステリオス・ザ・トーラスキング》に少しずつ攻撃していく。
しかし、勇気と無謀は違う。
アスナが次の攻撃を繰り出そうとした直後、《アステリオス・ザ・トーラスキング》はハンマーを持ってない方の手で空中に飛んでいたアスナをはたき落とした。
「がっ!?」
下にはたき落とされたアスナは、起き上がろうとしたが、体が動かない。
アスナははたき落とされた衝撃でスタン状態になっていた。
《アステリオス・ザ・トーラスキング》はその隙を逃さず、目を光らせる。アスナに向けてブレス攻撃をするつもりなのだろう。
「まずい!」
「アスナ!避けて!」
ハルトとコハルが叫ぶも、アスナはスタンしていて動けない。
《アステリオス・ザ・トーラスキング》がアスナに向けてブレスを放とうとした直後
「うおーーー!」
横からキリトが飛び出して来て、アスナを抱え、ブレス攻撃を回避しようとした。
しかし、避けきる前にブレスが放たれて、キリトは攻撃を食らい、アスナと共に麻痺が付与された。
「・・・なんで来たの?」
「・・・分からない」
キリトの言葉を聞いたアスナは、キリトに向かって微笑んだ。
そんな様子の二人であったが、無情にも《アステリオス・ザ・トーラスキング》は二人目掛けてハンマーを振り下ろす。
「「はぁーーー!」」
だが、ハルトとコハルがそれぞれの武器で攻撃を受け止める。
その様子を見ていたキリトは、二人に向かって叫ぶ。
「ダメだ二人共!二人の装備じゃ、こいつの攻撃を防ぐことはできない!押し潰されるぞ!」
キリトの言葉通り、二人の武器は片手直剣とレイピア。対する《アステリオス・ザ・トーラスキング》の武器は巨大ハンマー。
徐々に押し返されて、HPが減っていく二人。
「うおーーー!」
すると、叫び声と共にトウガが盾をハンマー目掛けて叩きつける。
叩きつけられたことにより、ハンマーが上に押し出され、後退する《アステリオス・ザ・トーラスキング》。
しかし、またもや目が光り出す。ブレス攻撃のモーションだ。
この時、ハルト達は窮地に立たされていた。
放たれようとしている《アステリオス・ザ・トーラスキング》のブレス攻撃。避けることだけなら簡単だ。しかし、自分たちの後ろにはキリト達がいて、二人は麻痺で動けないため、攻撃を回避することができない。
二人を抱えながら避けようとしても、その前に攻撃されて自分たちも攻撃を食らい麻痺状態になってしまう。
絶体絶命だった。
周りは麻痺したプレイヤー達を安全な場所に運ぶのに精一杯で、こちらに向かおうしている人はいない。
いや、一人だけこちらに向かおうとしている男がいた。
その男はオルランド。
彼は仲間に抑えられながらも懸命にこちらに向かおうとしていた。
「無茶です!オルランドさん!」
「無茶で結構!戦友たちと姫君たちの盾になって倒れるなら本望!真の勇者なら今征かんでなんとする!!」
オルランドの決死の叫びが部屋中に響き渡った直後
「その通りです!」
オルランドの叫びに答えるかのように、一人の男の声が響いた。
その直後、ボス部屋に光る何かが飛んでいた。
光る何かは弧を描くように進み、ブレス攻撃をしようとした《アステリオス・ザ・トーラスキング》の頭に当たった。
その途端、《アステリオス・ザ・トーラスキング》は頭を抑えながら苦しみだす。
「あれは・・・チャクラム!?」
キリトが光る何かの正体に気付いた。
プレイヤー達は何が起きたのか分からないまま黙って《アステリオス・ザ・トーラスキング》を見てる中、チャクラムは投げたと思われる持ち主の手に戻った。
その人物は・・・
「すみません、遅くなりました!」
SAO初のプレイヤーの鍛冶屋であるネズハであった。
突然現れた鍛冶屋を前に、攻略組が呆然としてる中、ネズハはハルト達の方を向いた。
「ハルトさん達はお二人を安全な所へ移動させてください。ボスは僕が止めます」
ネズハと一緒にボス部屋まで駆けつけてきたアルゴの話によるとこうだ。
あの後、キリトはネズハにチャクラムを使えるようになるための条件。<体術>スキルの取得を達成させるため、例の<体術>スキルを獲得できる山の広場に向かった。
《自然洞窟》を抜けた辺りでキリト達と別れたネズハは、山道を進み広場にたどり着いたという。
そこで、クエストを受けて、三日ぐらいたったある日。丁度ボス攻略が始まった頃に突然、牛と共にアルゴが現れた。
アルゴの話は、三体目のボス《アステリオス・ザ・トーラスキング》の弱点はブレスを放つ直前に頭を攻撃することで、それができる武器はチャクラムしかなく、現時点でチャクラムを使える可能性のあるプレイヤーは<投剣>スキルの熟練度が高く、<体術>スキルを手に入れようとしているネズハしかいないという。
それを聞いたネズハは、すぐさま裏技を使って岩を壊し、<体術>スキルを手に入れた。
そして、大急ぎでボス部屋まで駆けつけて、今に至るという。
安全な場所でHPと麻痺を回復しているハルト達は、アルゴの話を聞きながら《アステリオス・ザ・トーラスキング》と戦っている麻痺していない攻略組、「レジェンド・ブレイブス」、キリトとアスナを除くH隊、「紅の狼」とザントを見る。
ネズハのおかげで、ブレス攻撃が来なくなり《アステリオス・ザ・トーラスキング》に高いダメージを与えれるようになったが、巨大ハンマーと麻痺付きの全方位攻撃がなくなったわけではなく、未だに苦戦を強いられている。
未だに戦局を保っているのは、現時点で最高級の装備をしている「レジェンド・ブレイブス」のおかげであった。
その様子を黙って見ていたハルト達であったが
「・・・ハルト」
「・・・何?」
座りながら、キリトは隣に座っているハルトに声を掛ける。
「お前・・・<体術>スキル持ってるんだよな?」
「・・・持ってるよ」
アルゴから聞いたのか、自分が<体術>スキルを持っているのをキリトは何故知っているのか疑問に思ったが、ひとまず質問に答えると、キリトは笑みを浮かべながら、ハルトの方を向いた。
「頼みがある」
ハルト達がそんなやり取りをしている中、エギルから声が掛かる。
「おい、四人共!もう回復したんだったら、手を貸してくれ!」
エギルの言葉に頷きながら、立ち上がるハルト達。
「よし!それじゃあ作戦通りに行くぞ!」
「うん。でも、できるかな・・・」
「大丈夫さ!俺もできたんだ。お前もできる」
「・・・ありがとう。やってみせる!」
「あぁ!アスナとコハルもサポート頼むな」
「正直言って、少し納得できない部分もあるけど、任せてちょうだい!」
「サポートは私たちに任せて、しっかり決めてください!」
一通り会話し終えたところで、四人は《アステリオス・ザ・トーラスキング》に向けて走り出す。
一方、攻略組の方では《アステリオス・ザ・トーラスキング》相手に奮闘していた。
すると、《アステリオス・ザ・トーラスキング》のハンマーがネズハ目掛けて振り下ろされた。
突然の攻撃にネズハは立ちつくしていたが、攻撃が当たる直前に「レジェンド・ブレイブス」の面々が前に出て、攻撃を受け止める。
さらに、エギルやトウガなどといったタンク担当のプレイヤーも続々と集まる。
まだ、回復しきってないのに助太刀してくれたプレイヤー達に驚くオルランドだが
「あんた達のガッツを見て、俺たちだけ休んでいるわけにはいかないだろ!」
「手伝わせてもらうぜ!オルランドさん!」
トウガとエギルが笑みを浮かべながら言うと、オルランドも笑みを浮かべて、大声で叫ぶ。
「ハハハっ!ここは勇者だらけであるな!ならば、押し返すぞ!」
『おう!』
オルランドの叫び声に応えながら、彼らは一斉に《アステリオス・ザ・トーラスキング》のハンマーを押し返した。
急激に押し返されたことで、ハンマーが上へ上がり、のけぞる《アステリオス・ザ・トーラスキング》。
その隙をついてハルト達が《アステリオス・ザ・トーラスキング》に向かって走り出す。
「ブラッキー殿!」
「やっちまえ!」
オルランドとエギルの声に応えながら、それぞれの武器を構えるハルト達。
まず、アスナとコハルがレイピアを持ち出し、地面を蹴ってジャンプすると、《アステリオス・ザ・トーラスキング》の頭目掛けて、<シューティングスター>を発動させる。
レイピアの鋭い一撃が《アステリオス・ザ・トーラスキング》の頭に刺さるが、HPはゼロにならない。
しかし、弱点を突かれた《アステリオス・ザ・トーラスキング》は両手で頭を抑えながらダウンした。
「キリト君!」
「ハルト!」
それぞれのパートナーの声に応えながら、ジャンプをして先程の攻撃でダウンした《アステリオス・ザ・トーラスキング》に近くハルトとキリト。
空中でしっかりとモーションを行い、そして・・・
「「いっけーーー!!」」
二人同時に空中で<レイジ・スパイク>を放った。
ソードスキルによって放たれた剣は、そのまま真っ直ぐ進み、《アステリオス・ザ・トーラスキング》の頭を突き刺した。
《アステリオス・ザ・トーラスキング》は頭を抑えながら大声を上げたが、頭の王冠が割れ、ポリゴン状に四散した。
「勝った・・・犠牲者もゼロ、完全勝利だぁーーー!!」
両手を上げて喜びを露わにするリンド。キバオウもまた、同じパーティーメンバーと喜びを分かち合う。
共に戦ったエギル達や「紅の狼」、「レジェンド・ブレイブス」の面々からも笑みが浮かんでいる。
プレイヤー達が雄叫びを上げる中、ハルトとキリトは互いのパートナーと目を見合わせる。
そして、互いに笑みを浮かべると口を開き
「「お疲れ(さま)」」
「「お疲れ(さま)」」
武器をしまい、拳を合わせた。
「皆さん!」
それぞれ喜びを分かち合っていると、四人に声を掛ける者がいて、振り向くと、ネズハが手を振りながらこちらに向かっていた。
「皆さんのおかげで、僕はやっとなりたかったものになれました。僕の背中を押してくれて、ありがとうございました!」
「や、やめろよ仰々しい」
お礼を言うネズハに対し、照れくさそうに返すキリト。
「これでもう・・・」
ネズハが何か言いかけたが、そこにエギルが声を掛ける。
「おつかれさん、コングラチュレーション!・・・だけで、済ませたかったが・・・」
エギルはこちらに歩み寄ってきて称賛の声を掛けてきたが、途端にエギルの表情と声質が変わる。
更に、エギルの背後には表情を険しくしてネズハを睨むプレイヤー達が立っていた。
エギルはそんなプレイヤー達を連れてネズハの前に立ち、口を開く。
「あんた、少し前まで鍛冶屋だったよな?」
「・・・はい」
エギルの質問に真剣な表情で答えるネズハ。
「何で戦闘職に転職したんだ?そんなレア武器まで手に入れて・・・鍛冶屋というのはそんなに儲かるのか?」
「!? (まさか!)」
この会話でキリトは悟った。戦闘中、疑問に思っていたこと。エギルが一層のボス攻略時と違って、弱い装備で戦っていたこと。それは、強化詐欺の被害に遭ったからなのだと気づいた。
「あんた知らないだろ。あんたに強化を依頼した剣が破壊されてから、俺と仲間たちがどれだけ苦労したか」
「やめろ。別に恨み言を言いたいわけじゃないんだ。ただどうも皆、俺と同じ経験をしていて、俺と同じ懸念を持っているようでな」
ネズハに詰め寄ろうとするプレイヤーを宥めてから、エギルは言葉を続けた。
「(まずい!)」
このままでは、ネズハの公開裁判が始まる。
そして、もし死刑という事になれば・・・
「聞いてくれ!このチャクラムは俺が」
すぐにキリトはネズハを庇おうと行動した。
しかし、ネズハはキリトの行動を止めた。
「いいんです、キリトさん・・・皆さんの、お察しの通りです」
「!?」
キリトはネズハが口にした言葉を耳にして目を見開く。
ネズハは膝を折って地面に着き、両手を床に着いて頭を下げる。
「僕が皆さんの武器をエンド品とすり替えて、騙し取りました」
「・・・それをコルに換えたのか?」
「はい、全て」
「・・・コルでの弁償は可能か?」
「できません。換金したコルは全て高級レストランの飲み食いとか、高級宿屋とかで残らず使ってしまいました」
すると、我慢の限界だったのか、後ろにいた一人のプレイヤーがネズハに詰め寄り、胸倉を掴んだ。
「お前ぇーーー!!分かってんのか!?大事に育てた剣を失くして、俺と仲間たちがどんな思いしたのか!」
「俺だって、もう最前線にいられないと思って・・・でも、仲間たちが武器の強化素材集めとか手伝ってくれて・・・迷惑かけまくってよ・・・」
「分かってんのか!?お前が俺たち攻略組からどれだけのモンを奪ったのか!・・・そんな俺たちが大切に育てた武器を、高級レストランの飲み食いに使っただぁ!?高い宿屋に使っただぁ!?挙句の果てに自分はレア武器を使って、ボス戦でヒーロー気取りかよ!」
武器を失ったプレイヤー達の悲鳴にも似た罵声がネズハに浴びせられる。
「・・・私、行ってくる!」
「待って、コハル!・・・大丈夫だから」
ネズハに罵声を浴びせているプレイヤー達の下に向かおうとしたコハルを止めるハルト。
コハルはハルトの方を向いて、どうして止めるの!?的な表情をしたが、彼の優し気な笑みと「大丈夫」という言葉を聞いて、ネズハの方を向いた。
すると、ネズハの胸倉を掴んでいたプレイヤーが震えながら口を開いた。
「やっちゃダメだけどよぉ・・・俺は今すぐあんたをたたっ斬りたくてしょうがねぇんだ!」
「・・・分かります。覚悟の上です。恨みもしません。どうか、皆さんのお気の済むように」
ネズハがそう言った直後、ネズハの胸倉を掴んでいたプレイヤーが、ネズハの頭を掴みだす。
更に、他のプレイヤー達もネズハを囲んで、怒りをネズハにぶちまける。
そして、一人のプレイヤーが鞘を掴み剣を引き抜こうとしたその時
「待たれよ」
声を掛けられ振り向くと、「レジェンド・ブレイブス」の面々が剣を抜いて、床に土下座をし続けているネズハに歩み寄っていた。
「(やっぱり、あいつらが黒幕で、この場でトカゲの尻尾を切るつもりか!?)」
キリトがネズハに歩み寄るオルランドを見てそう考える。
そんなことを考えていると、オルランドはネズハの隣に立ち、この場にいる全員に聞こえる声でゆっくりと口を開く。
「この者は・・・いや」
言い直しながら、「レジェンド・ブレイブス」の面々は床に剣を置き、頭に被っていた兜を脱いだ。そして・・・
「こいつは、俺達の仲間です」
「レジェンド・ブレイブス」の面々が床に剣と脱いだ兜を置いて、土下座しているネズハの隣に一列に並び、膝を床に着け、ネズハと同じように手を付けて頭を下げた。
「こいつに強化詐欺をさせてたのは、俺達です」
「レジェンド・ブレイブス」の面々が、ネズハと一緒に地に膝を着けている光景を、プレイヤー達は呆然と眺めている中、リンドが彼らの前に出た。
リンドは「レジェンド・ブレイブス」の面々に話を聞き、どんな形で彼らに償わせるか考えていると、彼に向けてトウガが発言をした。
「ブレイブスの人たちの装備。換金すれば、被害にあったプレイヤー達の被害額を上回るんじゃないか?」
リンドはトウガの言葉を聞いて少し考えた。
彼らの装備は現時点で一番強力な装備だ。もし、そんな装備をコルに変えれば、多額のコルが手に入り、詐欺の被害にあったプレイヤー達にきちんと弁償できるかもしれない。
そう考えたリンドは、そのことを「レジェンド・ブレイブス」の面々と被害にあったプレイヤー達に伝えると、どちらも納得してくれた。
そんな感じで、強化詐欺の件は誰も死者を出すことなく、収まりそうだとと誰もがそう思ったその時
「そんなんで許されるわけねぇだろ!」
ボス部屋の中に、一人のプレイヤーの怒声が響き渡る。
他のプレイヤー達はこの場の雰囲気に合わない怒声を放ったプレイヤーを見る。
そのプレイヤーは黒いローブを被って顔が見えなかった。
「金銭的な損害は、そいつらのご立派な装備を売り払えば弁償できるだろうよ!けどなぁ!どれだけコルを積んでも、死んだ人間は帰ってこねぇんだよ!」
『!?』
プレイヤー達の目が一斉に大きく開かれる。
今までのやり取りを表情を変えることなく黙って聞いていたハルトやアスナ、「紅の狼」の面々も驚愕の表情で黒ローブの男を見る。
「オレ、俺知ってる!そいつに騙し取られたプレイヤーは他にもたくさんいる!その中の一人が、店売りの安物で狩りに出て・・・今まで倒せてた雑魚Mobに殺されちまったんだ!!」
土下座していたネズハと「レジェンド・ブレイブス」の面々が、呆然としながら怒鳴るプレイヤーを見上げる。
ハルトやコハル、キリトにアスナ、「紅の狼」の面々、他のプレイヤー達も怒鳴り続けるプレイヤーを呆然と見つめる。
「それが金で償えるわけねぇよなぁ!?」
黒ローブの男は、まるで止めを刺すかのように言い放つ。
その途端、周りから騒めきの声が立ち上がる。
「ひ、人が死んだ・・・?」
「な、なんてこった。それじゃ、これって・・・」
プレイヤー達の騒めきは次第に大きくなっていき、やがて、ある言葉を導き出す。
「間接的な・・・PK・・・?」
'PK'
その言葉が出てきてから、流れはあっという間だった。
「おい!さすがにそれはやべぇだろ!第一層の時とはワケが違うんだぞ!?」
「今回は犯人が分かっていて、罪も認めてるって事は・・・」
「おい馬鹿!何言ってんだ!」
強化詐欺を行ったネズハと、それをやらせたと言う「レジェンド・ブレイブス」。
彼らが間接的なPKを行ったのは、もはや決定的だった。
「責任取れよ、人殺し」
一人のプレイヤーによって放たれた人殺しという言葉。
それによって、プレイヤー達の怒りのボルテージが最大になった。
プレイヤー達の怒り満ちた叫び声が部屋中に響き渡る。
「そうだ!」
「死んだ奴に謝って来い!」
「命で償え!このクソ詐欺師共!」
「殺せ!」
大勢のプレイヤー達が叫び声と共にネズハと「レジェンド・ブレイブス」の面々を囲み、ボス部屋の中央へと連行していく。
ハルト達はその光景を黙って見ることしかできなかった。
コハルはこの光景に恐怖を感じたのか、涙目でハルトの腕を掴む。
キリトやアスナ、エギル達H隊や「紅の狼」の面々、一部のプレイヤー達もどうすることができず、ネズハ達を処刑してやろうと意気込むプレイヤー達を眺めていた。
誰もが諦め、ネズハ達が処刑されそうになったその時
キン!!
金属音が部屋中に鳴り響いた。
その音を聞いて、プレイヤー達は驚きながら、金属音が鳴った場所を見る。
そこにいたのは、今までのやり取りを怒りもしなければ、驚きもせず、ただ黙ってこの光景を見ていたプレイヤー、ザントであった。
彼は片手に剣を持っており、剣先が床に着いていた。
先程の金属音は、彼が剣を思いっきり床に叩いたから鳴った音だろう。
ザントはプレイヤー達の視線を気にすることなくネズハと「レジェンド・ブレイブス」の面々の方に歩み寄る。
そして、彼らの前に立ち止まる・・・ことはなく、更に歩みを進め、一人のプレイヤー、この状況を作った元凶である黒ローブの男の前に立ち止まった。
「な、何の用だよ?」
黒ローブの男がザントに向かってそう言った直後、ザントは持っていた剣で黒ローブの男を斬った。
『!?』
突然のザントの奇行に誰もが目を見開く。
そんな中、ザントは剣を鞘にしまい、回復ポーションを取り出すと、左手で黒ローブの男の頭を掴み、ポーションを無理やり飲ませた。
「ぶはっ!何しやがる!?」
ポーションでザントによって削れたHPを回復した黒ローブの男は、ザントの手を振り払いザントを睨む。
ザントは黒ローブの男の言葉を無視し、周りを見ながら、自身の頭の上にあるオレンジ色のカーソルを指差す。
「このカーソルがオレンジになる条件。それは、圏外での犯罪行為。すなわち、窃盗や強盗、プレイヤーへの攻撃及びプレイヤーの殺害だ。そして、オレンジになった者はグリーンに戻すためのクエストをクリアするまで、圏内に入ることも三層に行くこともできねぇ。その意味が分からないほど馬鹿じゃねぇよなぁ?」
ザントの言葉に、ネズハ達を処刑しようとしていたプレイヤー達はハッ!とした。
もしここで彼らを処刑すれば、処刑したプレイヤーはオレンジプレイヤーになるだろう。
そうなれば、自分はカーソルをグリーンにするまで攻略に参加できなくなるなるし、最前線からどんどんかけ離れてしまう。
先程までの怒りの表情がなくなり、ザントの方を見続けるプレイヤー達に、ザントはある言葉を含めて喋る。
「さぁ、選べ。首は全部で六つだ。この中で、こいつらと同じ《人殺し》という二つ名付きのオレンジプレイヤーになりたい猿はどこのどいつだぁ?」
ザントの人殺しという言葉に、プレイヤー達は悔しそうな表情になる。
彼ら(ネズハ達)は人殺しをした悪だ。ならば、殺して償わせるべきだ。
しかし、彼らを殺せば、今度は自分が人殺しになってしまう。
頭が冷えたことで、その事実に気付いたプレイヤー達は怒りはあるもの、どう裁けばいいのか分からず、悔しそうにネズハ達を見る。
「誰も手を出す必要はない」
プレイヤー達が悔しそうな表情をしていると、リンドが声を上げながら歩いていた。
リンドはしばらく歩くと立ち止まり、「レジェンド・ブレイブス」のリーダーであるオルランドの前に立つ。
「オルランドさん・・・リーダーならば、自らの刃でけじめをつけるんだ」
リンドは一本の剣をオブジェクト化させると、オルランドの目の前に突き刺して言う。
先程プレイヤー達を黙らせたザントも、リンドの行動を止める素振りは見せず、黙ってリンドを見ていた。
そんな中、オルランドはリンドが床に刺した剣の柄を掴んで・・・コハルが止めようとしたが、先程のように腕をハルトに掴まれる。
「ハルト!?」
「・・・」
またもや、どうして止めるの!?的な表情をしたコハルだが、ハルトは先程までの優し気な笑みではなく、真剣に、けれども、どこかリンドを信じているかのような表情でリンドを見ていた。
オルランドは剣を持つと、ネズハに向かって誇らしげに笑みを浮かべた。
「ナーザ。そして、レジェンド・ブレイブスの皆。最後に六人で戦えて良かった・・・さらばだ!」
そう言いながら、自身の腹に剣を刺した。
鎧を装備してないため、オルランドのHPは急速に減り続けている。
キリトがプレイヤー達を掻き分けて、未だ剣を刺し続けるオルランドを止めようとするが、プレイヤー達が多くて、中々進むことができない。
オルランドのHPが残りわずかとなり、その命を散らしかけたその時
「・・・もういい、覚悟は伝わった」
リンドが自身の剣でオルランドが持っていた剣を弾き飛ばした。
それを見て、安堵の空気がプレイヤー達に流れる中、リンドに向かって口を開くプレイヤーがいた。
あの場で人が死んだと堂々と言った黒ローブの男である。
「いいのかよ!?そんなんじゃあ、死んだ奴が浮かばれな――」
「何を言っている」
リンドは黒ローブの男の言葉を遮って、笑みを浮かべながら「レジェンド・ブレイブス」の方を向く。
「強化詐欺の首謀者。オルランドはたった今死んだ!もし、生まれ変わって、一からやり直すなら、死ぬ気で追いついてこい!待ってはやらないが、攻略組は勇者を歓迎する!」
どこか、かっこつけているような感じで言ったリンド。
「ぶふっ!ブハハハハハ!!」
その様子を見ていたキバオウが大声で笑い出し、それにつられ、他のプレイヤー達も笑い出した。中には、先程までネズハ達を殺そうとしていたプレイヤー達も含まれていた。
「な、なんで笑ってんだよお前ら・・・」
「おい、お前」
状況が理解できない表情をしていた黒ローブの男だが、若干怒りが含まれた声を掛けられ、振り向くと、トウガが後ろに「紅の狼」の面々を連れながら立っていた。
トウガはこの場で笑っているプレイヤー達と違い、怒りに満ちた顔で黒ローブの男に話しかける。
「お前はさっき、強化詐欺が原因でプレイヤーが死んだと言ったな?」
突然の質問に黒ローブの男は戸惑いながらも返す。
「あ、あぁそうだ!あいつらが強化詐欺なんてしなければ、死人が出ることはなかった!だから――」
「なら聞くが、そいつの名前は知っているのか?名前だけじゃない。そいつの元の装備や死んだ時に使った装備。そいつの死んだ場所。レジェンド・ブレイブスは攻略組をターゲットにしていた。なら、同じ攻略組であり、その上、あの場で堂々と宣言したんだ。知っていて当然だろうな?」
黒ローブの男の言葉を遮り、更に質問をするトウガ。
すると、黒ローブの男は先程までの勢いが弱まり、口ごもりながら答える。
「え、えぇっと・・・俺も噂で聞いたことだから、そこまで詳しく・・・!?」
質問に答えていた黒ローブの男だが、突如トウガに胸倉を掴まれる。
トウガの表情は先程よりも更に怒りに満ちていて、細めていた眼を見開き、今でも黒ローブの男を殴りかねない表情をしていた。
「貴様・・・!よくもまぁ、そんな不確定な情報をこの場で流そうと思ったな!貴様の馬鹿な行いのせいで、この世界から六人もの命が消えるところだったんだぞ!」
トウガの怒り声を聞いて、再び静かになるボス部屋。
ソウゴとコノハ、駆け寄ってきたリンドが慌てて二人を引き剝がす。
リンドは「ゴホン」と咳払いすると、周りを見渡しながら言う。
「取り敢えず、死亡者の有無と強化詐欺との因果関係が判明するまで、俺がこの問題を預かる。それでいいな!?」
リンドの言葉に頷くプレイヤー達。
トウガも黒ローブの男を睨んでいたが、納得したかのように頷いた。
その後、プレイヤー達によるオークションが始まった。
アルゴとキバオウを筆頭に、場は大盛り上がりであった。
「取り敢えず、最悪の事態は避けられて良かったよ」
第三層に続く階段を上る最中に、ハルトが喋り出す。
リンドに三層のアクティベートを頼まれた、ハルト、コハル、キリト、アスナの四人は話しながら階段を上っていた。
「それにしても、エギルさんやトウガさんが強化詐欺のことを知っていたことには驚いたよ」
「全くだ!トウガの奴。俺たちが強化詐欺のことを知っていた上であんな質問したな・・・」
コハルがそう言うと、キリトはトウガがボス攻略前に質問したことを思い出し、複雑な表情で言う。
二人共、詐欺のことを知っていたからこそ、先頭に立ってネズハを問い詰めたり、罰を提案したりしたのだろう。
二人は装備の売却額の分配やLAで得たアイテムやコルの分配などで、ボス部屋に残った。
「エギルさんとトウガもそうだけど、あの場を治めてくれたザントさんにも感謝しないと」
「・・・そうだね」
ハルトとコハルは自身がオレンジになりながらも、「レジェンド・ブレイブス」の面々を守ったザントを思い浮かべる。
あの後、二人はボス部屋の入口から出ようとしたザントに「レジェンド・ブレイブス」の面々を守ってくれたお礼を言おうとした。
すると、ザントは「あいつら(「レジェンド・ブレイブス」)を庇った訳じゃねぇ。ぎぁぎぁ喚き続ける猿共がうるせぇから、鎮静剤を与えてやっただけだ」と言いながら、部屋を出た。何とも彼らしい理由だった。
「ところで、結局どうだったんだ?」
キリトがアスナに質問する。
どうだったんだ、とういうのは無論「レジェンド・ブレイブス」がネズハに強化詐欺を強要させていたかのことである。
「うーん、私もホントかどうか分からないけど、最初はオルランドさん以外の五人で始めたことなんだと思う」
キリトの質問に答えるアスナ。
「でも、アルゴさんがオルランドさんとコンタクトを取った時には、彼は気づいていたみたいなの。けど、五人のリーダーの役に立ちたいていう思いに足元を掬われたんじゃないかしら」
アスナがオルランドを持ち上げるような感じで答える。
それを聞いていたハルトも口を開く。
「それに、フィールドのボスの時もあの人はネズハを出張させた上に、客の振りまでして店を繫盛させようとしてた。子供っぽくて、暑苦しいところもある。けれども、仲間を大切にしようとする思いは人一倍ある。そんな人だと僕は思ったよ」
「うん、今日のボス攻略で私もそう思った・・・素敵な人だね」
ハルトの言葉に共感するコハル。
キリトも三人の言葉を聞いて、これ以上の詮索はタブーだと思い、何も言わなかった。
「ところで三体目のボスのLAボーナスって、どんなのかしら?」
そう言いながら、アスナはキリトに向かって聞く。
キリトは慌てながらも首を横に振る。
「いや、俺は取ってないぞ!俺と同時にアタックしたのは・・・」
そう言いながら、ハルトの方を向くキリト。アスナとコハルもハルトの方を向いた。
対するハルトは少し口ごもりながらも口を開く。
「そのー、実は僕も持ってないんだ」
「「「はぁー!?」」」
三人の声が階段中に響き渡る。
「お前も持ってないなら、ボスのLAはどこに行ったんだよ!?」
キリトが詰め寄りながら聞いてくる。
ハルトは三人の視線に気圧されそうになったが、両手をパンッ!と合わせて、申し訳ない表情で言う。
「ごめん!それは秘密!」
そう言いながら、早足で階段を駆け上がった。
「あ、待ちやがれ!」
「やっぱり、取ってたのね!待ちなさい!」
「勿体ぶらないで教えてよ!」
後ろからキリト、アスナ、コハルの追いかける声が聞こえる。
ハルトは歩きながら、後ろを向いて、三人の様子を見たら、更に下のボス部屋の方を見た。
ハルトは確かにLAを取った。しかし、持ってないのは、第二層ボス攻略の真のMVPに譲ったからである。
未だにボス部屋にいると思われるそのプレイヤーと彼の所属するギルドに向かって、ハルトは心の中で呟いた。
「(待っているよ、伝説の勇者・・・)」
願わくばもう一度彼らと共に戦いたい。不器用だけど、一人一人が仲間のことを思い合っている最高のギルドの人たちと。
そんな思いを抱きながら、少年は新たな地へと足を踏み入れるのであった。
・隙がない《アステリオス・ザ・トーラスキング》
初見時、作者が感じた印象(なお、戦い続けるとめちゃくちゃ隙があった)。
・チャクラム
残弾数がないことで有名な投擲武器。正直これがなければ、原作の第二層ボスはマジで詰むと思う。
・黒ローブの男
プログレッシブでも「オレ、俺知ってる!」で有名なお方。一体何者ナンダ?
・プレイヤーを斬るザント
彼はこれからもこんなクレイジーキャラで行きたいと思います。(まあ、斬った相手が相手なんで、一部の読者にとっては、むしろ、よくやった的な展開かもしれませんが)
・笑い出すプレイヤー達
当時、このシーンを見た時の作者の感想
「えぇ・・・(困惑)」
・キレるトウガ
そりゃ、場が上手く収まりそうな時に火に油を注ぐようなことすれば、キレるよな。
前編、後編に分けた意味ねぇ~(文字数を見ながら)
ということで、以上、第二層編でした。
最初はボス攻略も含めて三話で終わらせる予定でしたが、色々書いていくと楽しくなり、五話までかかりました。
次回からは第三層・・・ではなく第五層編となります。
三、四層をやらない理由はただ一つ。キズメルのストーリー長い上、ややこしい設定が多いから書きづらい。
ということで、次回は第五層編。新たなキャラは勿論。あの男の再登場もあります。
こんな小説ですが、これからも何卒宜しくお願い致します。