ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
攻略後にも少しお話があります。
第五層迷宮区
本来なら、攻略組がボス攻略のために足を踏み入れるこの場所に、一つのレイドパーティーが足を踏み入れていた。
彼らは二つのギルドの争いを阻止するという目的のために、即席で作られたパーティーである。
本来なら、そんな即席パーティーでは、チームワークが上手く取れず、攻略するのは非常に困難であるはずだが、彼らは特に苦戦することなく、スムーズに迷宮区を進んでいた。
その訳はというと・・・
「攻撃モーション入った!タンク隊、前へ!相手は攻撃してからの隙が大きいから、防御した後にスイッチで弱点を攻撃!」
『了解!』
一体一体のエネミーの動きを把握しているため、どのタイミングで防御し、そこから攻撃するのかを一つ一つ丁寧に指示してくれるため、即席パーティーであるにも関わらず、非常にいい連携を取れていた。
「見事な連携である。即席パーティーであそこまで上手く連携ができるとは」
「あぁ、ギルドリーダーを務める者として、彼の指揮は参考になるよ」
互いにギルドリーダーを務めているオルランドとトウガは、ディアベルの指揮能力に感心しながら、迷宮区を進んでいた。
そんな感じで、次々とエネミーを倒していき、遂にボス部屋前まで辿り着いた。
全員がボス部屋の扉の前に立ち止まる中、ディアベルが皆に声を掛ける。
「全員、無事に揃っているな?俺とリーテンさんとオルランドさんとトウガがタンク役として囮になる。皆はその隙に攻撃して欲しいけど、全ての攻撃を防ぎきれるとは限らない。くれぐれも出過ぎないように注意してくれ」
ディアベルの言葉に全員が頷く。
「よっしゃー!クライン様の初のボス戦。気合い入れて行くぜ!」
「気合い入れるのはいいけど、途中でへばるなよ」
「遂にSAO初のボス戦!やってやろうじゃねぇか!」
「お、俺も足引っ張らないように頑張るっす!」
「フッ、張り切るのはいいが、周りに注意しながら戦えよ」
始めてのボス戦に気合い十分の者たちと、それらに苦笑いしながら注意を施す者たち。
そんな周りの様子を見て、大丈夫そうだなと思ったディアベルは、ボス部屋の扉の前に立ち
「準備万全だな。よし、行こう!」
そう言いながら、扉を開いた。
それに続いて、他のメンバーも次々と部屋の中に入り込む。
部屋の中は暗く、ボスの姿が見当たらない。
「皆はここで待ってくレ。オレッチが部屋の奥に行ってみル」
アルゴが真剣な表情で周りに言うと、部屋の奥に足を踏み入れたその時
「!? 戻れ、アルゴ!」
キリトが叫ぶと同時に辺りが明るくなり
ブー、ブー
「!? トラップだ!」
部屋中にサイレンの音が鳴り響き、それの正体を察したディアベルが周りに注意を呼びかける。
やがて、サイレンが鳴り終えると、部屋の奥から、巨大ゴーレムの顔らしきものが出現し、その上には《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》と表示されていた。
それと同時に、部屋のあちこちにゴーレムが出現した。
「まずい!囲まれた!」
「おそらく、大人数を前提とした仕掛けだナ。こんな仕掛け、βテストにはなかったゾ」
エギルが焦りながら叫び、アルゴは冷静さを保ちながら状況を分析した。
「全員落ち着くんだ!中央に固まって一体ずつ片付けるんだ!」
ディアベルが大声で周りに向かって指示する。
ディアベルの指示通り、中央に集まろうとしたが
「!? ハルト、下だ!」
ハルトの足元に円が描かれ、それに気づいたキリトが、ハルトに向かって叫ぶ。
キリトの声に反応したハルトは、すぐさま横に跳んだ。
すると、先程ハルトがいた円から巨大な石の手が伸び上がった。
「手!?」
「あれは!?巨大ゴーレムの・・・ボスの体の一部か!」
キリトが手の正体に気づいた。
五層のボスはこの部屋全体を使って攻撃してくるのだろう。
ボスの攻撃パターンに気付いたハルト達は、床から這い出てくる巨大な手に注意しながら、大量のゴーレムと戦っていたが
「!? シバ!」
「うお!?いつの間に・・・」
巨大な手を避けるのに専念してたシヴァタにゴーレムが攻撃してきたが、リーテンがそれを防ぐ。
「!? 避けろレイス!ぐぁ!?」
「うわぁ!?な、何すか・・・!?っ!?ソウゴさん!」
「大丈夫か!?ソウゴ!」
「大丈夫・・・とは言えないな・・・」
ゴーレムを相手していたレイスの足元に円が出現し、ソウゴがレイスを押すように円から退かしたが、ソウゴ自身、回避に間に合わず、結構なダメージを食らう。
ゴーレムを相手すれば、巨大ゴーレムの手に。巨大ゴーレムを相手すれば、複数のゴーレムに。
一向に《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に攻撃することができず、状況は最悪だった。
「くそ!このままじぁ、押し切られる!ボスは俺が引き受ける!皆はその間にゴーレム達を倒してくれ!」
「無茶だキリト!僕も・・・」
「ダメだ!お前やディアベルはこれからの攻略に必要な人間だ!無事に攻略することだけ考えるんだ!俺は悪名高いビーターだから問題ない」
そう言いながら、キリトは単身《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に近づこうとしたが、下から伸びてくる腕攻撃に翻弄されて、中々辿り着けない。
「どうしようハルト、このままじぁ!」
隣で叫ぶコハルの声にハルトは、答えることができずにいた。
このままこの状況が続けば、先にこっちが全滅してしまう。何とか打開しようとしても、いい案が中々思いつかない。
絶体絶命の状況の中、ディアベルがある物を見つける。
「アルゴさん。あそこの小さい部屋にあのレバー、βテストの時はなかったはずだ。何か分かるかい?」
「あ、あれは・・・他のダンジョンで見たけど確か、あのレバーを引くと階段部屋が出てきて、その先は床が開いて下に落ちるトラップだと思ウ」
「下に落ちる・・・そうだ!」
アルゴの説明を聞いたディアベルは、何か閃いたのか、周りに向かって大声で叫ぶ。
「皆!雑魚ゴーレムのヘイトを俺に引き付けてくれ!あの部屋に誘い込んであいつらを下に落とす!」
ディアベルの提案に皆が頷くと、それぞれの武器で攻撃していきながら、ヘイトをディアベルに向けた。
ディアベルはヘイトを向けられたゴーレム達の攻撃を防御していきながら、部屋に次々とゴーレム達を誘い込む。
「よし!半分以上は誘い込んだぞ!」
「後はギミックを起動させれば・・・」
未だにゴーレムのヘイトを向けているハルトに、ディアベルが話しかける。
「ハルト。頼みがある」
「頼み?」
突然のディアベルからの頼み事にハルトは立ち止まる。
すると、彼は衝撃的な言葉を発した。
「今までボス攻略を支えてきたのは君たちだ。もし、俺が戻ってこられなくなっても、今までと同じように戦ってほしい」
ディアベルの言葉にハルトは、訳が分からず固まる。
戻ってこられない、今までと同じように、何を言っているんだ。
これからこの状況を打開した後にボスを倒して、ギルドフラッグを手に入れ、攻略組をもう一度一つにする。それが、あの人の立てていた計画のはず。
言葉の意味が分からず、固まるハルトの横で、二人の会話を聞いていたアルゴが何か察したように低い声で喋る。
「まさか・・・仕掛けは、部屋の内側しか操作できないのカ・・・?」
アルゴの言葉に、ディアベル以外の全員が驚きの表情になる。
「ダメだディアベル!よせ!」
キリトがディアベルの下に近づこうとしたが、残っているゴーレムが邪魔で近づけない。
キリトがゴーレムの一体を倒したのを見て、ディアベルは安心したかのように微笑むと、部屋の内側にあったレバーを引いた。
その途端、彼のいた部屋の床が開いた。
「キリトさん、ハルト。後は頼む。ボスを倒してくれ・・・」
そう言いながら、ディアベルはそのまま穴に落ちていった。大量のゴーレムと共に・・・
同時に先程まであった部屋は、入口が閉じ、何の痕跡もない壁となった。
「そんな、ディアベルさん・・・」
コハルが絶望の声を上げる。他のメンバーもコハルと同じ気持ちなのか、黙って部屋があった場所を見続けていたが
「まだ、終わってないぞ!!」
突如、部屋中に鳴り響いた野太い声に誰もが反応し、声の主であるオルランドの方を向いた。
「戦いはまだ続いているぞ!我らがここに来た理由はただ一つ!ボスを倒すためだ!!なら、今ここで命を懸けた勇者の思いを踏みにじるでない!!」
「戦え!!」と叫ぶオルランドの熱い想いに、ハルト達は目を覚ました。
「ボスが攻撃してきたら、攻撃を回避しつつ隙を付いて攻撃してくれ!」
「周りの雑魚ゴーレムは俺たちに任せろ!」
キリトとエギルの言葉にハルト達は一斉に動き出した。
周りのゴーレム達は、エギル軍団が処理しており、残りのメンバーは《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》と戦っていた。
部屋そのものを使った変芸自在の攻撃に苦戦していたが
「下から来るぞ!避けろ!」
「ヤァーーー!」
他のメンバーが床に描かれている円を見て、攻撃がくるの知らせながら、戦っていたため、全員まともにダメージを食らうことなく、着実に《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》にダメージを与えていた。
すると、またもや床に円が描かれる。
次に狙われたのはザントだ。
「避けろ!ザント!」
キリトがザントに向かって叫ぶが、対するザントは笑みを浮かべ
「避ける必要はねぇ!」
そう言いながら、両手剣を構え、<オブス・ストライク>で一気に《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》の方に移動し、大ダメージを与えた。
すると、《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》は笑い声を上げると、今まで分裂していた手足がくっつき、一体の巨大ゴーレムとなった。
「ここから先はおそらくβテストと同じだ!攻撃が非常に強力だから、タンクが防御してその隙に攻撃!これで行くぞ!」
キリトの指示に頷くハルト達。
《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》が右手をキリト目掛けて振り下ろしたが
『おぉーーー!!!』
トウガ、リーテン、ネズハ以外の「レジェンド・ブレイブス」の面々が盾で防ぐ。
その隙を付いて、シヴァタとカズヤが<レイジ・スパイク>で《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》の右腕を攻撃する。
「「うおーーー!!」」
二人のソードスキルでHPが削れ、残り1/4になっていた。
「よし、一気に決めるぞ!」
「分かったわ。コハル!」
「任せて、アスナ!」
アスナの声に反応したコハルは、彼女と共に《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に近づき
「「ヤァーーー!!」」
二人揃って<シャーティング・スター>で《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に攻撃した。
その間にハルトとキリトも《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に向かって走り出す。
「キリト!今回のLAは譲るよ!その代わり、派手に決めてくれ!」
「あぁ!そうさせてもらうぜ!」
《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に向かって走り出す二人に《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》は腕を回して攻撃してきたが
「「はぁ!」」
二人はそれをジャンプして躱す。
攻撃により隙ができた《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に、ハルトは着地すると
「いっけーーー!」
<ヴォーパル・ビート>で《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》のHPを削る。
その隙にキリトも《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》の懐に着地し
「終わりだぁーーー!!」
叫び声と共に<ポブライズ・ビート>で《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》に攻撃すると、《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》は雄叫びと共に、その体をポリゴン状に四散させた。
「終わった・・・のカ?」
静寂と化した部屋にアルゴが呟く。
その一言をきっかけに辺りが次々と歓声に包まれる。
「うおーーー!!やったぜ!」
「勝った・・・勝ったぞ!」
クラインとエギルが勝利を嚙みしめており、他のメンバーも勝利の歓声を上げていた。
「お疲れ様、キリト君」
「いい戦いぶりだったよ」
アスナとハルトがキリトの方に駆け寄り、片膝を付いていたキリトにアスナが手を差し伸べる。
アスナの手を握り、引っ張ってもらいながら立ち上がったキリトは、そのまま周りに向かって話し始めた。
「みんなお疲れ様。おかげでこいつが手に入ったよ」
そう言うと、キリトはストレージから一本の白い旗を取り出した。
「これが、五層ボスの初回クリアボーナスで手に入るアイテム。名前は《フラッグ・オブ・ヴァラー》。本来なら、ディアベルが手に入るべきアイテムだったが・・・」
キリトのその言葉に、辺りが一斉に静かになる。
元々はディアベルがフラッグを手に入れ、ALSとDKBを融合させるという計画であった。
しかし、肝心のディアベルがボス攻略の最中、行方不明になるという事態に見舞われ、今キリトが持っているフラッグは、ギルド同士のバランスを崩しかねない最悪のアイテムと化した。
「くそ!どうしてだディアベル。あんたが、みんなの希望に・・・攻略組を率いるんじゃなかったのか!」
「キリト君・・・」
悔しそうに喋るキリトに、アスナが心配そうに声を掛ける。
他のメンバーもボス攻略の代わりにディアベルという大きな代償を払ってしまったことに、浮かない顔をしていた。
「・・・俺はあいつとは少ししか一緒にいなかったから、友達になる暇もなかった」
暗い雰囲気の中、クラインがそう呟いた。
「それでも、あいつが信念のためにああしたんだってことは分かるぜ。それに、もしかしたら、生きてるって可能性も・・・」
「!?・・・確かに、なくはないかもしれない・・・」
ハルトの言葉に皆が驚く中、ハルトは自身のフレンドリストのディアベルの名前の部分を見せた。
ディアベルの名前は連絡不可能のグレーになっていた。
「あの人は行方不明になっているだけで、きっと生きてるはず」
「・・・そうだな。彼は俺たちを先に進ませてくれた。なら、俺たちがやるべきことはただ一つ。彼が戻ってくるのを信じて、先に進み続けることだ」
キリトの言葉にこの場にいる全員が頷いた。
ディアベルの生存を信じ、先に進む。この場にいる誰もが、そう決意した。
「ところで、フラッグは誰が・・・」
キリトが誰かにフラッグを預けようとしたが、その前にクラインが口を開く。
「それはお前が持ってる方がいいぜ」
「うむ!キリト殿なら、任せて安心だろう」
「俺はギルドのリーダーだからな。持っていたら、余計な欲が出ちまう」
「それに、ALSとDKBでもないギルドが、こいつを持っていることがバレたら、最悪リンチだ」
「私はそもそも、フラッグをALSが独占させないために来たんです。持って帰るわけにはいきません」
「逆にDKBの俺も、持って帰るわけにはいかないな」
「存在自体が激ヤバアイテムだから、一番安全な保管場所はキー坊のストレージの中だナ」
皆それぞれ、キリトが持つべきだと主張した。
「・・・分かった。これは俺が預かっておくよ」
そう言うと、キリトはフラッグを自身のストレージにしまった。
少しだけ、部屋の雰囲気が穏やかになったところで、アルゴが周りに声を掛ける。
「さて、オレッチはそろそろ行くゾ。それと、もうじきALSがここに来ると思ウ。皆、先に戻っておいた方がいいゾ」
そう言いながら、アルゴは部屋を出て、六層に向かった。
それを見て、他のメンバーも次々と動き出す。
「僕たちもそろそろ行きます」
「また会おう!戦友たちよ!」
「私とシバも先に六層に入ってから、転移門で五層にいるそれぞれの仲間たちと合流します」
「それじゃ、またな!お疲れさん!」
「俺たちは一足先に六層を探索してよう・・・あまり、気に病むなよ」
「俺は一旦五層に戻る。じゃあな」
「レジェンド・ブレイブス」が、リーテンが、シヴァタが、「紅の狼」が、ザントが、続々と部屋を出て、六層に向かった。
「俺も行くぜ、風林火山の仲間たちにも俺の武勇伝を話してやらねぇとな」
「俺も行く。お前たちはどうするんだ?」
エギルはハルトの方を見ながら問いかけた。
「・・・僕はもう少しここに残る。コハルは?」
「・・・ハルトが残るなら、私も残るよ」
二人の決意を聞き、エギルは何か察したように「そうか・・・」と吐いたが、これ以上は何も聞かずに、クラインと共に部屋を出た。
残ったのはハルト、コハル、キリト、アスナの四人。
「・・・まだ行かないのか?」
キリトが残っている三人に問いかける。
「ALSの人たちにギルドフラッグのことを話すんでしょ。どうせ暇だから付き合ってあげるわよ」
「ディアベルさんのことも、私たちがいた方が話しやすいですよね?」
「それに、僕らは悪名高いビーターと違って、攻略組の人たちからはあまり敵視されてないから、穏便に済ませれると思うよ」
「・・・はぁ、ありがとう。でも、向こうを刺激しないように頼むよ」
三人の言葉に呆れながらも、感謝と要望を伝えた。
「事情は分かったわ。納得はしてへんけどな」
数分後、ハルト達はボス部屋に入って来たキバオウ達に一通り(一緒に戦ったメンバーのことは除いて)のことを説明した。
「そんで、ディアベルはんを犠牲にしてまで手に入れたギルドフラッグ。ギルドにそっぽ向けとるあんたが、そいつを持ってどうするつもりや?」
若干トゲのあるキバオウの言葉にコハルとアスナが顔をしかめたが、キリトはフラッグをストレージから出しながら、堂々と話した。
「このフラッグをあんたの管理に委ねるつもりがないわけじゃない。でも、条件がある」
「なんや?」
「今後、エネミーからギルドフラッグがもう一つドロップした時、一つをALS。もう一つをDKBに無償譲渡する。もしくは、ALSとDKBが合併して、新ギルドができたら即座にこれを渡す」
キリトが出した条件に静寂が続いたが、それは、ほんの数秒で途切れた。
「できるわけねぇだろ!」
「あんなエリート面している奴らと仲良しごっこしろだと!?冗談じゃねぇ!」
「あいつらにも聞いてみろ!頭おかしいんじゃねぇかって笑われるぞ!」
プレイヤー達からの罵声が一斉にキリトに向けられる。
キリトがそんな彼らの罵声を無言で受け止めている中、ハルトはプレイヤー達の様子を見て、聞こえないように小さくため息を吐いた。
彼らはギルドフラッグの恐ろしいさをまるっきり分かってない。このアイテムが戦争の引き金になり、もし引かれたら、大勢のプレイヤーの命が消えることを。いや、もしかしたら、彼らは下に何千というプレイヤーがいるのを忘れて、この世界を普通のゲームだと認識してしまっているのではないだろうか。ゲームによくある、相手に負けたくないという気持ちのみを持って。
そんな風に考えていると、一人のプレイヤーが前に出る。
「俺、俺知ってる!そいつらは最初からディアベルさんを利用して、フラッグをパクって自分たちで真ギルドを作るつもりなんだ!」
「「!?」」
突然現れた男のあまりにも言いがかりな発言にコハルとアスナは絶句したが、ハルトは冷静に叫んだ男を分析した。
あの男は第一層の時にキリトをβテスターだと暴露し、第二層では「レジェンド・ブレイブス」の強化詐欺で曖昧な情報にも拘わらず、死人が出たと堂々と宣言した。
男は二層の時と違って、両目と口のところに穴が開いたレザーマスクを装備していた。二層の時もそうだったが、まるで、自分の顔が見られたら困ると言わんばかりに・・・
「こんな奴らの言うことなんて聞く必要ないっすよ。こいつらはディアベルさんを殺してギルドフラッグを奪った奴らなんすから」
「なんですって!?」
もはや、言いがかりを超えているような発言に、アスナが怒り声で反応する。
「こいつらは四人。こっちは大勢いるんだ。どうとでも・・・」
「このドアホウ!!」
キバオウの怒鳴り声が部屋中に響いた。
それと同時に、キバオウは男の胸倉を掴んだ。
「なんぼ重要なアイテムゆうても、それを手に入るために他のプレイヤーに剣を向けたら、ワイらはただの犯罪集団や!ALSはそんなことをするために存在するんやない!!」
そう言いながら、キバオウは男を力強く引き離すと、キリト達の方を向き、頭を下げた。
「つまらんことを聞かせてすまなかった。けど、こいつらだって攻略を共にする仲間や。アイテム欲しさに他人を見殺しにする奴らやないと見込んだから、ディアベルはんもこいつらを信じて組んだんや。DKBにはこっちから話を通しておくわ・・・合併は望み薄やろうけどな」
キバオウの言葉に、後ろにいるメンバー達も渋々納得した様子で黙った。
キバオウは後ろを向き
「ほな、帰るわ」
そう言うと、入口の方から出ようとしたキバオウ達だったが、ハルトが声を掛ける。
「待ってください。六層の転移門は既にアクティベートされているから、五層の圏内に戻るつもりなら、そっちから行って、五層の転移門で降りた方が早いですよ」
「そうか」
キバオウ達は反転し、向こう側の出口に向かおうとしたが、ハルトの前を通り過ぎようとした時、ハルトは「それと」と言い、キバオウの足を止めた。
「僕のフレンドリストにあるディアベルさんの名前は連絡不可能のグレーになっていました。今は連絡が取れないけど、あの人は生きてるはずです。そして、必ず戻ってくるはずです」
「そうか」
キバオウは目を瞑りながら立ち止まっていたが、やがて、目を見開くとハルトの肩に手を置いた。
「ディアベルはんの気持ち。裏切るんやないぞ」
「!?・・・はい」
ハルトの返事を確認したキバオウは今度こそ部屋を出た。
やがて、ALS全員が部屋を出て、辺りが静かになると、キリトは「はー」とため息を吐いた。
「ひとまず、考えた中では、マシな結末になったな」
「アスナが剣を抜くかと思って、ひやひやしちゃったよ・・・」
「コハルこそ、身構えてたじゃない」
互いに見つめ合いながら笑い合うコハルとアスナ。
いつの間に二人はこんなに仲良くなったんだろうと、ハルトとキリトは思った。
「・・・お疲れ様、キリト君」
「なんだよ、改まって・・・」
突然言われた、アスナからの労いの言葉に少し戸惑うキリト。
「言いたくなっただけよ・・・ねぇ、コハル。私たちはここでもう少し休憩していくから、先に帰っていいわよ」
「え?・・・うん、分かったよ。行こう、ハルト」
アスナの言葉に一瞬戸惑ったが、何かを察したコハルはハルトに声を掛けると、出口に向かった。
「それじゃ、僕らは先に帰るから・・・」
「また会おうね、アスナ、キリトさん」
「ああ、またな」
キリトの言葉を最後に二人は部屋を出て、六層へ続く階段を上り始める。
その途中、コハルがハルトに声を掛ける。
「・・・アスナ、凄く辛そうだったね・・・」
「無理もないさ、上手くいけばキリトはビーターから解放されてたし・・・」
そう言いながら、ハルトは顔を下に向ける。
「ディアベルさんだって、皆のために頑張ってたのに、どうしてこんなことに・・・!」
「・・・ハルト、自分を責めないで前を向いて。あなたは精一杯できることをやったんだから」
握り拳を作りながら、先のボス攻略であの場でディアベルを犠牲にするような手しか使うことができなかったことを後悔しているハルトに、コハルはそっと声を掛けた。
「いつだって、私にたくさんの勇気をくれるあなたは、私にとってヒーローなんだよ・・・だからね、一人で抱え込まないで、たまには私に頼ってね。私はいつだって、あなたの味方でいるから」
「コハル・・・」
ハルトの手を両手で握りしめて、真っ直ぐ見つめながら、微笑むコハル。
そんなコハルに対して、ハルトは微笑み返し
「ありがとう」
彼女の手を両手でそっと握り返しながら、精一杯の感謝の気持ちを伝えた。
ボス攻略を終えて、ハルト達と別れたキリトとアスナは、現在、圏内の中にある古城のテラスで食事を取っていた。
飲み物を買ってくるっという理由でキリトはアスナと一旦別れて、古城の中を歩いていた。
その時、キリトの背中に何か尖ったものが突き付けられる。
「イッツ・ショータイム」
それと同時に、キリトにとって聞き覚えのない男の低い声が聞こえた。
「・・・誰だ?」
極力冷静さを保ちながら、何とかこの状況を切り抜けようと考えたキリトだったが
「動かないほうがいいぜ。このナイフには麻痺毒が仕組まれているからな」
「!?」
男の言葉に絶句するキリト。
βテストでは、プレイヤーのスキルで何らかの毒を作れるスキルなんて存在しなかったはず。
だが、これはβテストの知識であって、今のSAOには何があるのか分からない。
もし、男の言葉の通りなら、ナイフが刺さると、キリトはしばらく麻痺して動けなくなるだろう。
ここが圏外であれば・・・
「ふん、ここは圏内だ。いくら麻痺毒を付与してあっても、何の意味がないぜ」
少し笑みを浮かべながら言うキリトに対して、男は呆れたようにキリトの言葉を否定した。
「おいおい、しっかりしてくれよ。圏内なのは城の中庭まで。城内は圏外だろ」
「なっ!?」
男の言葉に、またもや絶句するキリト。
確かに見た目はダンジョンぽい古城だが、エネミーは出現しなかったはず。
しかし、表示を見落として圏外に出てしまったっということも否定できない。何より、ここが圏外なら、男が持っているナイフに刺されたら麻痺状態になり、その間、何をされるのか分かったもんじゃない。
何とかこの場を切り抜けようと考えていると、新たに声が聞こえた。
「なら、試してみるかぁ?お前の首が飛んでも死なないかどうか」
「!?」
男の驚きの声が聞こえる。それと同時に、キリトは新しく聞こえた声の人物を知っているため、少しだけ安堵した。
声の主はおそらくザント。そして、彼は今、自分の後ろにいる男に何らかの事をしているのだろう。
キリトの予想通り、声の主であるザントは、キリトの後ろにいた黒ポンチョの男の首に横から剣先を突き付けていた。
首筋に剣先が突き付けられているにも拘わらず、男は低い声で笑いだす。
「ハハハ!こいつは驚いた。ここでまさかのサプライズゥゲストの登場とはなぁ」
そんな風に言いながら、笑っていた男だが、ふいに笑い声が止んだと思ったその瞬間、男はキリトに突き立ていたナイフをザント目掛けて振・・・る前に動きを予測していたザントによって、首を斬られた。
「!?」
当然、圏内のためHPは減ってないが、首を斬られたこともあり、思わず横に飛んだ男は切られた箇所に手を当てた。
その隙にキリトは振り向き、男の方を見る。
男は黒いポンチョを身にまとっていて、フードを深く下ろしているため、顔は見えないが、只者ではないと感じた。
黒ポンチョ男は自身の首筋に手を当てながら、またもや笑い出す。
「ハハハ!圏内とはいえ、まさか本当に斬りやがるとはなぁ!テメェ、相当クレイジィーな野郎だぜ!」
「安心しろ。自覚はしている」
互いに笑みを浮かべながら、見つめ合っていた二人だが
「今日はこのくらいにしといてやるよ。また会おうぜ、ブラッキーさん、クレイジー野郎」
「ま、待て!」
去ろうとした黒ポンチョ男を追いかけようとしたキリトだが、黒ポンチョ男の手から一つの球体が投げられ、それは瞬時に破裂し、大量の煙が辺りを満たした。
「くっ!?」
キリトは驚きながらも、即座に剣を振り回し煙幕を払ったが、黒ポンチョ男はどこにもいなかった。
静寂と化した城内を突っ立っている中、ザントが声を掛ける。
「あの野郎、強化詐欺の真犯人だな」
「・・・おそらく」
ザントの問いに、ぎこちない様子で答えるキリト。
それ以降、彼らは何も喋らず、キリトはアスナの下に。ザントは暗いフィールドの中へ消えていった。
・<オブス・ストライク>
オリジナルスキル。SAOIF基準だと、両手剣の星3くらい。両手剣を持ちながら相手に向かって突進する。
・<ポブライズ・ビート>
片手直剣の星4スキル。土属性を持っているが、単体攻撃の上に隙も大きいから、スキルが揃っていれば、使うことはほとんどない。
・ディアベル離脱
なお、SAOIFだとこれ以降、一回も登場しません。(竹内P(SAOIFプロデューサー)はそのうち登場するって言ってたけど、いつになるのかな・・・)
・《フラッグ・オブ・ヴァラー》
本文でも説明した通り、ギルドの力を一気に傾けることができるヤベーアイテム。
・遭遇、SAOのヤベー奴とオリキャラのヤベー奴
ある意味、五層編で一番やりたかったネタかもしれない。
SAO_UW13話を見て、思ったこと
・シノンさんあざとい
・リーファはエロ要因です
・豚君かっけー
ということで、五層編、無事に終わりました。
いやー学校が対面授業になって、書く暇が少なくなってしまったけど、何とか書ききれました。
次回は七層編・・・といきたいところですが、ここで二つほど番外編の話を入れたいと思います。
記念すべき番外編初のお話は正月イベントの話です。
お楽しみに。