ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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結構時間がかかった。

ハーメルンで投稿している人達の偉大さを感じた作者。


ep.1 始まりの世界

SAO正式版開始日。

 

「リンクスタート!」

 

自宅のベットの上でナーブギアを付けて、仮想世界にダイブするための合言葉を言うと、βテストの時と同じ、体が仮想世界へ移行される感覚を感じた。

しばらくの間、真っ黒の世界が続いたが、意識が戻るのを感じながら目を開けると、あの時と同じ《はじまりの街》の景色がハルトの目の前に広がっていた。

 

「戻って来たんだ、この世界に」

 

じわじわと喜びの感情が湧いてきたハルトだったが、すぐにコハルを探すことに気持ちを切り替えた。

辺りを見渡してみると、βテストの時以上の人がいたが、よくよく考えるとこの中から一人のプレイヤーを探すのは至難の業だ。

ハルトもこの状況に気づき、頭を抱えた。

 

「(そういえばどこで待ち合わせするか決めてなかったな・・・仕方ない、地道に探すしかないか)」

 

そう考えながら、ハルトはコハルを探すべく《はじまりの街》を歩き始めた。

《はじまりの街》には人がたくさんいて、見つけるのに結構時間がかかるかもしれないという不安もあったが、そんな不安はすぐに解消された。

広場の噴水の横にあの時と変わらず黒髪で翠色の瞳の少女が立っていたからだ。

 

「コハル!」

 

「あ!ハルト!」

 

コハルの下にハルトは駆け足で駆け寄った。

 

「よかった、すぐに見つかって。待ち合わせ場所決めておけばよかったね」

 

「うん、そうだね」

 

そんな感じの会話をしているとコハルは両手を合わせてきた。

 

「お願いがあるんだけど、また戦い方を教えて欲しいんだけどいいかな?」

 

「構わないよ。時間はたっぷりあるし、少しずつマスターしていこう」

 

「うん!」

 

二人は早速《原初の平原》へやって来て、βテストの時に最後に戦ったイノシシのエネミーと戦っていた。

ハルトの方は最初こそはうまく立ち回れていなかったが、徐々に感覚思い出していき、イノシシを次々と倒していった。

 

「あ痛!」

 

一方コハルはというと、βテストの時みたく上手く戦えずに、未だに尻餅を付いていた。

そんなコハルの様子に、ハルトはβテストの時と同じ感じのため息を吐いた。

 

「仮想世界なんだから痛みは感じないよ。まぁ、結構時間空いてから感覚を忘れているみたいだし、とりあえず、またモーションの練習からしてみよう」

 

ハルトの提案にコハルは頷き、二人でモーションの練習をしていると

 

「よう!お二人さん。初日から仲いいねぇ」

 

声を掛けられ、振り返ると紫の髪にバンダナを付けた男がいた。

 

「俺はクライン。よろしくな!」

 

「ハルトです。よろしく」

 

「コハルです。よろしくお願いします!」

 

一通り挨拶をし終えると、クラインが提案してきた。

 

「見た感じ、戦いの特訓をしてるみたいだな。ハルトは問題ねぇけど、コハルはモーションの基本がなってねぇな。ここは一つキリト先生にご教示お願いしたらどうだ?」

 

「「キリト先生?」」

 

クラインに案内され、付いてくと、その先に黒髪で若干イケメンの男がいた。

話を聞くとクラインはこの男キリトに戦い方を教えてもらい、一通りソードスキルの練習をするべくエネミーを探していたところ二人を見つけたという。

軽く自己紹介を済ませたところで、クラインが二人のことをキリトに話した。

 

「というわけでキリト先生。二人に戦い方を教えてやってくれねぇか。特にコハルはモーションすらまともにできねぇみたいだしな」

 

「あの、私からもお願いします」

 

クラインとコハルの言葉にキリトは仕方ないなという表情をしながらコハルの方を向いた。

 

「それじゃあ、コハル。準備はいいか?」

 

「は、はい!」

 

コハルがキリトに戦い方を教えてもらっている間、ハルトとクラインはソードスキルの練習もかねてイノシシを倒したりしながら時間を潰していた。

結構な時間が経ち、夕暮れで辺りが赤く染まった頃、クラインが口を開いた。

 

「そろそろ落ちるわ。5時半に熱々のピザを予約してるしな。お前らはどうするんだ?」

 

「俺はもう少し狩りを続けるよ」

 

「私とハルトはキリトさんに教わったことを復習してから落ちます」

 

自身の問いに答えたキリトとコハルを見て、クラインは笑みを浮かべた。

 

「そっか。それじゃあまたな、キリト。今日は色々とありがとな。二人もまた会えたら一緒に狩りやクエストをやろうな」

 

「ああ、また会おうぜ」

 

「私もありがとうございました。これでもう尻餅を付かずに済みます」

 

「僕からもお礼を言います」

 

ログアウトするべくメニュー画面を開いたクラインと別の場所に移動しようしたキリトを見て、キリトから教わったことを復習するために狩り場に戻ろうとした二人だったが

 

「あれ?ログアウトのボタンがねぇな」

 

「「「え?」」」

 

クラインの発した言葉に思わず立ち止まる三人。

 

「そんなはずないだろ。ほら、ここに」

 

クラインの下に駆け寄りながらメニュー画面を開いたキリトだが

 

「あれ?本当に無いな」

 

キリトの言葉に再度驚くハルトとコハル。

それと同時に、ハルトに一つの不安が生まれた。

 

「ねぇ、それってつまり・・・」

 

ハルトが感じた不安。ログアウトすることができないということをキリトに聞こうとした瞬間

 

ゴーン、ゴーン

 

「な、何!?」

 

「これは・・・鐘の音?」

 

コハルの疑問にハルトが答えた直後

 

「「「「!?」」」」

 

彼らは突然転移され、辺りには静寂だけが残った。

 

 

 

 

気づいたら始まりの町の転移門前にいた。

ハルト達だけではない。SAOをプレイしている全プレイヤーであろう数がそこにいた。

けれども、みな突然の強制転移に不安気な表情をしている。

すると、空にWARNINGの文字が浮かび上がった。

突然の出来事にプレイヤー達は驚きながら空を見上げると、WARNINGの文字は突如形を変えていき、赤いローブ着た人らしきものに姿を変えた。

 

「プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ」

 

突然放たれた男の声に誰もが驚く中、ローブの男らしきものは言葉を続けた。

 

「私の名は茅場晶彦。この世界の支配者だ」

 

男の名を聞いて、辺りがざわめき始めた。

茅場晶彦。その人物は天才的な量子物理学者であり、このソードアート・オンライン及び仮想世界そのものを作り上げた人物である。

 

「プレイヤーの諸君は既にメインメニューにログアウトのボタンがないことに気づいているだろう。しかし、これはゲームの不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である。もし、外部からナーブギアの停止が試みられた場合、諸君らの脳はナーブギアによって破壊されるだろう」

 

ハルトは次から次へと放たれる茅場の言葉に頭が追いつけなかった。

ログアウトのボタンがない。ソードアート・オンライン本来の仕様。ナーブギアによる脳の破壊。どれも馬鹿げている。

だが、茅場が一部のプレイヤー達がナーブギアによって死亡したニュースの映像を見せられ、ハルトの思考は現実に引き戻された。

 

「諸君らがここから解放される条件はただ一つ。一層から百層までのボスを倒し、このゲームをクリアすることだ」

 

「なっ!?」

 

ハルトは茅場の正気を疑った。こんな状況の中、吞気に遊べと言いたいのか。

 

「ただし、充分に理解してほしい。諸君らにとってソードアート・オンラインはもはやゲームではなく、もう一つの現実であると。ヒットポイントがゼロになったら諸君らの脳はナーブギアによって破壊されるだろう。最後に諸君らにプレゼントを送ろう。アイテムストレージを開きたまえ」

 

様々な疑問が残っているが、ひとまず言われた通りにアイテムストレージを開いた。

中に入ってたのは手鏡だった。

戸惑いながらも手鏡を取り出し右手に置くと手鏡が急に光りだした。

 

「!?」

 

突然光りだし思わず目をつぶった。

やがて光がやみ、目を開いた。体は特に変化なく、顔も現実と同じ顔だった。

 

「ハルト、大丈夫?」

 

コハルが心配そうにハルトを見てきた。

コハルにも特に変化はなく、その様子にハルトは安堵した。

コハルの安全を確認したハルトはキリトとクラインの様子を確認するべく、二人の方を振り向いた。

 

「二人とも、だいじょ・・・誰?」

 

だが、そこにいたのは先程よりも少し背が縮み若干童顔の少年と、顔とバンダナは変わっていないが髪が茶色で短くなっている男が互いを見合っていた。

 

「え?二人ともそのアバターは?」

 

「ああ、これは俺のリアルの姿だ」

 

「俺も同じだ」

 

コハルの問いに答えるキリトとクライン。

二人の話を聞くと、リアルの姿のアバターになった理由はナーブギアを装着する前に行われた身体検査を元に作られたリアルの体をしたアバターに茅場が強制的に変えたかららしい。まるでここがもう一つの現実であるということを認識させるかのように。

ちなみに、コハルの姿がそんなに変わらなかったのはハルトと同じく前のゲームで作った自身のリアルの姿をしたアバターをそのままコンバートしたからである。

 

「しかし、なんでこんなことに・・・」

 

一通り話をした所でクラインが疑問を言う。

それは、全プレイヤー達が思っていることであり、その答えを知るべくプレイヤー達はこの騒動を引き起こした元凶を再度見た。

 

「諸君らは今、疑問に思っているだろう。なぜ、私がこのようなことをしたのかと。答えは一つ、私の目的はこの世界を作り、鑑賞するためだけだからだ。そして、全ては達成した・・・。以上でソードアート・オンラインのチュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈る」

 

その言葉を最後にローブの男は消え、辺りには静寂だけが残った。

 

「(これは・・・現実だ)」

 

まだ頭が追いついていないがこれだけは理解できた。

この世界で死ぬと現実世界でも死ぬ。

ハルトは冷静になり周りを見渡す。すると、先程までの静寂が嘘かのようにプレイヤー達の怒り、あるいは悲しみの声が辺りに響き渡っていた。

 

「い、嫌っ!」

 

「こんなの嘘だよ・・・お母さん・・・」

 

「・・・・・・」

 

ある者は信じ難い現実に絶望し

 

「クライン。こっちだ!」

 

「え!?お、おいキリト!?」

 

また、ある者はいち早く状況を理解し、行動していた。

そんな中、ハルトはコハルを探していた。すると、膝から崩れ落ちているコハルを見つけた。

 

「コハル!」

 

すぐさまコハルの下に駆け寄る。

だが、彼女もまた受け入れがたい現実に絶望しており、目から涙を流していた。

 

「私たち、帰れないの・・・?。閉じ込められちゃったの・・・?」

 

涙を流しながら、こちらに縋るように話しかけるコハル。

そんなコハルの様子を見て、ハルトはなるべく気持ちを冷静に保ちながら彼女の肩に手を置いた。

 

「ひとまず落ち着ける所まで行こう」

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「うん・・・」

 

広場から離れた二人は人がいないベンチに移動していた。

道中コハルの悲痛な声が何回も聞こえ、ベンチに座ってからも彼女は泣いていた。

ハルトは特に慰めの言葉を言わずただ黙って、けれども、離れることはせずコハルを見守っていた。

そして、ある程度コハルが落ち着いた所で話しかけた。

 

「ごめんなさい。こんな時、しっかりしなきゃいけないのに・・・」

 

「こんな状況だから仕方ないよ。迷惑なんて思ってないよ」

 

「・・・ありがとう、ハルト」

 

互いの顔を見て笑い合う二人。

 

「こんな時に人助けとは余裕だナ」

 

「!? 誰?」

 

急に話しかけられ、警戒するハルト。

声がした方を見れば、フードを被った金髪の女性がいた。

 

「オレっちの名はアルゴ。まぁ、そう警戒するナ」

 

少なくとも悪い人ではないと感じたハルトは警戒心を解いた。

それを感じ取ったアルゴは二人の方に近づいてきた。

 

「私たち、これからどうすればいいのかな・・・外から助けは来ないんでしょうか?」

 

「その可能性は低いナ。ナーブギアを無理やり外そうとして死亡した例もあるしナ。それより、これからどうするんダ。いつか必ず助けが来ると信じて始まりの町に居続けるカ、前に進むカ」

 

コハルの問いに答えると今度はアルゴから二人に問いかけられた。

アルゴは真剣な眼差しでハルトを見て、コハルもハルトに判断を委ねるのかハルトの方を見ていた。

ハルトの答えは既に決まっていた。

 

「僕たちは前に進みたい。このまま何もせず《はじまりの街》で腐るつもりはありません。教えてください。どうすれば前に進めますか?」

 

ハルトの答えにアルゴは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

翌日、二人は《原初の平原》にやってきた。

アルゴの言ったことはこうだ。

前に進むためにまずは金を貯めること。そのためには稼ぎがいいクエストをクリアすること。

特別サービスだと言って稼ぎのいいクエストをいくつか紹介してもらった二人は早速クエストに挑んだが

 

「助けてくれぇーーー!」

 

他のプレイヤーの悲鳴を聞いて立ち止まるコハル。

見るとオオカミのエネミーに苦戦しているプレイヤーがいた。

このオオカミは素早いが攻撃力が低く、落ち着いて戦えば倒せるエネミーだ。

だが、βテスト及びキリト達との練習で戦い慣れている二人ならまだしも、慣れてないプレイヤーにとっては苦戦を強いるエネミーだった。

 

「ガァッ・・・!」

 

オオカミの攻撃でプレイヤーの体はポリゴン状に四散した。

それを見たコハルは恐怖で動けなくなった。

 

「ああ・・・ああっ!」

 

声を上げようとしても上手く出せず、一体のオオカミがコハルに向かって飛びかかる。

 

「させるか!」

 

が、ハルトが放ったソードスキル<レイジ・スパイク>により、飛びかったオオカミは吹き飛ばされ、そのままポリゴン状に四散した。

オオカミを倒したハルトはコハルの手を掴み、エネミーがいない場所に避難した。

 

「さっきのプレイヤーさん、本当に死んじゃったのかな」

 

「分からない。けど、ログアウトできない状況を考えると恐らく・・・」

 

安全な場所に避難した二人はそのまま会話をしていた。

 

「血も出ないし怪我もしてないのに・・・あんな風に消えていくなんて・・・」

 

未だに涙を流しながらコハルが喋る。

コハルの言葉を聞いてハルトはやるせない気持ちだった。

血も出てないのにあんな普通に出てくるエネミーと同じ感じで死ぬなんて、あんなのは人の死に方じゃない。何より、あの場で何もできなかった自分が許せなかった。

しばらく黙っていた二人だが、コハルが話しかけてきた。

 

「ハルトはその・・・大丈夫なの?怖くないの?」

 

「正直に言えば怖い。けれども、この世界には絶対に負けたくない。だから・・・」

 

そう答えるとハルトはコハルに手を伸ばした。

 

「強くなろうコハル。この世界で最後まで生き抜くために!」

 

「でも私、ハルトみたいに強くなれないよ・・・ハルトの足を引っ張っちゃうよ・・・」

 

そう言いながら顔を俯くコハル。そんなコハルの様子を見てハルトは言葉を続けた。

 

「そんなことないよ。いつか君は絶対に強くなれる。それに、その・・・今この世界で信用できるのはコハルしかいないと思っているし」

 

「ハルト・・・うん!私、強くなって見せる。ハルトに負けないくらい!」

 

そう言いながら、ハルトから差し出された手を握った。

仮想世界で突如始まったデスゲーム。

けれども、少年と少女は絶望することなく、一つの決意を胸にこの世界へ挑むのであった。

 

「(僕は強くなる!)」

 

「(私は強くなる!)」

 

「「(君と一緒に!!)」」




・クライン
SAOでキリトが最初に出会う男。頭に巻いているバンダナが特徴的だが、映画を見て取った方がイケメンになるんじゃないかと思っている。

・キリト
SAOの主人公。チートじみたゲームスキルを兼ね備えて様々な事件を解決している。IFでも活躍しており、この小説でも結構活躍させる予定。

・茅場晶彦
SAOを作ったヤベー奴。正直キリトよりも仮想世界やSAOを作った茅場の方がやばいんじゃないかと作者は思っている。

・「い、嫌っ!」

 「こんなの嘘だよ・・・お母さん・・・」

 「・・・・・・」
上から順にシリカ、サチ、リズベット。アニメとIF本編を基に考えた。

・アルゴ
SAOで情報屋をしていてIFでも密かに活躍している。

・<レイジ・スパイク>
星3の片手直剣スキル。攻撃力もそこそこある上、遠くに移動できる便利なスキル。

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