ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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十層編です。
新しいキャラが複数登場します。

※追記
妹に反応したハルトのシーンを少し変えました




ep.16 白銀の獣

第十層。

辺り一面に木造の建物が並んでおり、どこか江戸の町を思い浮かべる雰囲気だった。

 

「なんか、今までの雰囲気と全然違いますね・・・」

 

「そりぁ、この十層のテーマは和風だからナ」

 

周りを見渡すコハルの隣でアルゴが説明する。

 

「オレッチのオススメはこの辺りの和スイーツ食べ歩きだナ」

 

「和スイーツ・・・なるほど、強敵ですね」

 

和スイーツと聞いてテンションを上げるコハル。

その隣でハルトがアルゴに話しかける。

 

「和スイーツはさておき、確か十層はβテストでは突破できなかったんだよね」

 

「ハル坊の言う通り、βテストは十層攻略の途中で終わったから、フロアボスの情報とかは全くないナ。一応オロチ系。蛇人間型モンスターだろうと予想されてたけど・・・これに関しては地道に集めるしかないナ・・・」

 

アルゴが困ったような表情で喋っていたが、パンッ!と両手を叩いて、早速、二人に依頼をした。

 

「と、いうわけで!久々に基本のキの字。モンスターの調査を依頼しようカ!とりあえず、《夜藤の河原》にいるモンスターを倒していって、どんな感じだったか報告してくレ。集合場所はそうだナ・・・」

 

しばらく悩んだ後、アルゴは口を開く。

 

「実は今、別の依頼を受けていてナ。そいつに報告をする場所が《夜藤の河原》の東にある小さな祠の前なんダ。だから、お前たちも調査が終わったらそこに集合してくレ」

 

「私たちは構いませんけど、アルゴさんに依頼をした人は・・・」

 

「大丈夫。そいつはお前らのことを知っているから、お前らがいても嫌な顔はしないと思うゾ」

 

自分たちの知っている人が気になったが、アルゴの口ぶりから問題なさそうだったから、依頼を受けることにしたハルトとコハル。

それを確認したアルゴは

 

「それじゃ、頼んだゾ」

 

二人に一言言いながら、去っていた。

 

 

 

 

アルゴの依頼を引き受けたハルト達は、《夜藤の河原》にいるエネミーを倒していきながら、調査をしていた。

 

「中々強かったね」

 

「そうだね。他の層にも似たようなエネミーもいたけど、強さは全然違う。調査して得た情報を少しでも早く他のプレイヤーにも伝えないと」

 

一通り調査をした二人は、アルゴに言われたフィールドの東にある小さな祠を目指し歩いていた。

やがて、二人の目の前に階段が現れ、それを上りきると小さな祠が見えた。

 

「あった!祠ってこれのことだよね。アルゴさんや依頼主さんよりも早く着いちゃったね」

 

「とりあえず、二人が来るまでここで待ってよう」

 

「うん。・・・それにしても、凄く綺麗な景色だね」

 

そう言いながら、コハルは祠のある高台から下の景色を見る。

確かに、ここのフィールドには強いエネミーがいっぱいいたが、こうして高い所から見渡すとどこか幻想的な雰囲気を感じる。

辺りにたくさん生えている紫や青の光を放つ木。橋の下を流れる川の音。夜を照らしている三日月。

正に、風情があるっと言える景色だった。

そんな景色を眺めていると

 

「綺麗で懐かしい光景・・・あなたにとって、ここはそう見えるの?」

 

後ろから声を掛けられ、振り向くとマテルがいた。

 

「マテルちゃん!良かった・・・やっと会えた!」

 

「こんにちはなの。あなた達はいつも一緒なのね」

 

「そういうマテルは、相変わらず一人じゃないか。もし、困っていることがあれば、いつでも手伝うよ?」

 

相変わらず一人のマテルに、ハルトは少し心配そうな表情をしながら言ったが

 

「今は一人の方が効率的に動けるの・・・でも、心配してくれてありがとうなの」

 

一緒に行動することを断ったが、心配してくれた二人に礼を言った。

そこに、新たな人物がやって来た。

 

「ん?ハルトにコハルじゃねえか」

 

「ザントさん!お久しぶり・・・」

 

九層のボス攻略以来、久しぶりに再会したザントに声を上げながら振り向いたコハルだったが・・・

 

「久しぶりだなぁ。あれから随分と強くなったみてぇだが・・・」

 

初期装備の時と違い、下は普通の黒いズボンだったが、上はへそが出ている黒い服を着て、右腕の上の部分にトロールの骸骨のアクセサリーが付いており、おまけに背中には両手剣を背負っていて、如何にも顔に見合ったファンキーな装備であった。

 

「あぁ?なんだよ、人のことをジロジロ見やがって?」

 

そんなザントの新装備にコハルや、振り向いたハルトも中々強面に見合ったザントの姿に言葉が出なかったが、ザントから声を掛けられて「なんでもないです!」と言いながらとりあえず誤魔化した。

 

「まぁいい。・・・んで、そのクソガキは誰だ。見るからに弱そうだが」

 

「ザントさん!失礼ですよ!この子はマテルちゃん。これでも、今まで一人で行動してきたんですよ」

 

ザントの言い方に、少し怒りながらマテルを紹介するコハル。

マテルのことを聞いたザントは、「へぇー」と言いながらマテルの方に歩み寄る。

 

「ザントだ。こいつらとは・・・ただの知り合いだ」

 

「マテルなの。・・・あなたは・・・他の人たちと行動することが嫌いなの?」

 

合って早々、自身の本質を見抜いたマテルに、ザントは興味深そうにマテルを見る。

端から見れば、強面の男が幼女に言い寄っているという、事案ギリギリの光景の中、二人は会話を続ける。

 

「まぁ正解だ。正確に言えば、弱い奴らと行動するのが嫌いだ。・・・俺の本質を見抜くとはぁてめえ、只者じゃねえな?」

 

「見た感じあなたも私と同じ、効率的に行動をする人だと思ったの。でも、私を見ているあなたの目を見た時、あなたからは私を嫌っているように感じたの。・・・さっきより少し敵意はなくなったけど」

 

「なるほどな・・・少なくとも、そこいらの雑魚共よりはマシなようだな」

 

先程まで見た目で弱い奴認定していたマテルに対しての評価が少し変わったザントは、二人のやり取りを呆然と見ていたハルトとコハルに話しかけた。

 

「ところで、てめえらは、なんでここにいるんだ?見たところデートでもなさそうだし・・・攻略か?」

 

「いいえ、実は待ち合わせをしてるんです」

 

そう言うと、自分たちが受けた依頼について一通り説明するハルト

説明を聞いたザントは、「なるほどな」と頷いていたが、めんどくさそうな表情になり

 

「その依頼主、俺だ」

 

「「え!?」」

 

まさかの依頼主の正体がザントだった事実に驚くハルトとコハル。

 

「俺は今、アルゴの野郎にあるクエストについて調べてもらっている。βテストの時、そのクエストをクリアすれば強力な両手剣を貰えるって聞いてな。だが、あくまでβテストの情報だから、こうして、クエストがあんのかどうか調べてもらってんだ」

 

説明を聞いて納得したかのように頷いたハルトとコハル。

対するザントは、自身の依頼とハルト達に要求した依頼の集合場所を同じにしたアルゴに、少し呆れた表情をしていた。

すると、三人の話を黙って聞いていたマテルが話題を変えるかのように話しかけた。

 

「ところで、この祠には何が祀られているのか知ってる?」

 

「土地の神だろ。NPCがたまに供え物を持ってくるぜ」

 

「そう。例えば、この祠。貼ってあるお札を剝がすと中には宝玉が手に入るの・・・やってみる?」

 

説明しながら、マテルはお札を剝がすのか三人に聞いてきた。

 

「NPCって言っても、この土地に住んでいる人にとっては大事なお供え物なんだよね。持って帰るのは可哀想だよ」

 

「・・・持ち去ることに関して、ペナルティは存在しないのに?」

 

「こういうのは気持ちの問題だもの」

 

中の物を持っていくことを拒否するコハル。

するとそこに

 

「あの~すみません。話を聞いていたのですが・・・」

 

一人の男性プレイヤーが話しかけてきた。

 

「その中にある宝玉、手に入れるつもりがないなら俺が貰っていいかな?」

 

男は祠に指を指しながら、ハルト達に聞いてきた。

それに対して、ハルト達は

 

「申し訳ないですけど、この中にある物はこの土地の神様を祀っている人たちの願いが込められています。安易な気持ちで持っていったらダメですよ」

 

男の方を向いて持ち去ることを否定した。

ハルトの言葉に、男は顔をしかめながらも喋る。

 

「祀っている人たちって言ってもNPCだろ?システム上のペナルティも存在しないみたいだし、いいじゃないか。せっかく十層まで上がって来たんだしさ、その記念品が欲しかったんだ。悪いけど、貰っていくよ」

 

そう言いながら、祠に手をかけようとしたその時

 

バシッ!

 

「てめえ・・・今、なんて言った?・・・」

 

「ひっ!?」

 

伸ばしていた腕を掴まれ、掴まれている方を見ると、怒りに満ちているザントがいた。

 

「十層へ上がった記念品だぁ?大した目的も攻略する気もなく、ただ、観光のつもりで来たってぇのかてめえは!?そんな中途半端な覚悟しかねぇ奴が十層に来てんじゃねぇ!!」

 

「ヒィーーー!」

 

ザントの怒声に、男は悲鳴を上げながら去っていた。

 

「ちっ!何が記念品だ。クソが・・・」

 

その様子を憎らし気に見つめていたザント。

その隣でマテルが問いだす。

 

「どうして・・・そこまでして、祠の中にある宝玉を守る理由が・・・」

 

「勘違いすんなよ。俺はただ、観光気取りで十層に来てたあの雑魚にイラついただけだ。別に神を祀っているNPCのためじゃねぇ」

 

ザントの答えを聞いたマテルは、まだ、答えを聞いてないハルトの方を見る。

マテルの視線に気付いたハルトは、微笑みながら答える

 

「NPCであってもこの世界の住人だからね。価値があるない以前に、大切なお供え物だったら持っていけないよ」

 

ハルトの答えを聞いたマテルは無言であったが、しばらくすると口を開いた。

 

「そう・・・あなた達もアインクラッドの住人なのね」

 

「ここにいる間は誰だってそうだよ。いつかは本当の家に帰るけど・・・それまでは、ね」

 

「だからこそ、今はこの世界で生きている一人の人間として、精一杯生きないと」

 

「まぁ、ようは、どこの世界だろうと自分を見失うなってことだ」

 

「・・・話せて良かったの・・・じゃあ、またね」

 

そう言うと、マテルは階段を降りて去っていた。

 

「・・・マテルちゃんからまたねって言ってくれたの初めてだよね!フフフ、嬉しいな」

 

「随分とお気に入りだな、あのガキ」

 

嬉しそうに微笑むコハルに、ザントが問う。

 

「もし、妹がいたらあんな感じかなって、どうしても気になっちゃうんだ」

 

「そうかよ・・・よく分かんね」

 

コハルの言葉について考えていたザントだったが、理解できない的な表情で返すのであった。

 

「そっかー・・・コハルはいいお姉ちゃんになれそうだね」

 

「お姉ちゃんだなんて、そんな・・・」

 

ハルトの言葉に照れくさそうにするコハル。

故に気付けなかった。喋っている時にハルトが少し複雑な表情をしていたことに。

 

「あ!アルゴさんが来たよ!」

 

階段を上ってこちらに近づいてくるアルゴに、コハルが気付いた。

 

「ヨ!調査はどうだっタ?」

 

来て早々、調査について聞いてきたアルゴに、ハルト達は調査結果を報告した。

 

「なるほど・・・オレッチが調べた情報と合ってるナ。情報の信頼性は大事だからナ。裏取りを手伝ってくれるのは助かるヨ。ありがとナ!」

 

調査結果を確認したアルゴは二人にお礼を言うと、ザントの方を見る。

 

「それで、ザントの依頼なんだけど・・・一つ、厄介なことになりそうダ」

 

「厄介なことだぁ?」

 

アルゴの言葉に、顔をしかめるザント。

 

「そのことについては、まだ調べ終えてないんダ。だから、もうしばらく待ってくれないカ?」

 

「ちっ・・・分かった」

 

舌打ちしながらも了承したザント。

すると、アルゴは手を叩き

 

「さて!それじゃあ、もう一つ調査を頼みたいけどいいカ?」

 

「いいですよ。それで、何を調査すればいいですか?」

 

「《夕映の竹林》っていうフィールドに、黒い狛犬を一定の数倒すって条件を満たすと出現する白い狛犬のエネミーについてダ。見た目はこの辺りの白い狛犬と同じだけど、レベルや強さは桁違いのはずダ。早く攻略本に載せたいけど、ザントの件もあるから検証の時間がないんダ。だから、代わりに調査してくれないカ?」

 

アルゴの新たな依頼に二人は嫌な顔をせず引き受けた。

 

「よし!それじゃあ、頼んだゾ!・・・ザントもナ!」

 

何故かザントも含まれていることに、本人から抗議が入る。

 

「おい!なんで俺までやんねぇといけねぇんだ!?」

 

「もし、手伝ってくれたら、情報料はタダにするゾ」

 

アルゴの返しに、「ぐっ!?」と顔をしかめたザント。

嫌な笑みを浮かべるアルゴを睨んでいたザントだったが

 

「・・・てめえ・・・ろくな死に方しねぇぞ・・・」

 

「ニャハハハッ!これでも伊達に情報屋をやってないゼ」

 

「・・・なんか、ザントさんがあんな表情するのって見たことないね」

 

「こういう時のアルゴさんの交渉術はホントっ恐ろしいと思うよ・・・敵に回したくないな・・・」

 

普段、他人の言うことをあまり聞かないザントが、あそこまで振り回されている光景に、二人はアルゴの交渉の上手さと腹黒さに尊敬と恐怖を抱いた。

 

 

 

 

「わぁー・・・《夜藤の河原》とは随分違うけど、ここもいい雰囲気の場所だね」

 

「そうだね・・・エネミーがいなかったら散歩したくなるよ」

 

「てめぇら周りを警戒しろ。観光しに来た訳じゃねぇんだぞ・・・ん?・・・誰だ?」

 

辺りを見渡しながら歩き続ける三人は、何やらあちこち探し回っている女性を見つけた。

すると当然、三人に気付いた女性に話しかけられた。

 

「あ、あの!すみません!」

 

「きゃ!?」

 

「あ、驚かせてすみません。実は・・・」

 

勢い良く話しかけられたことでコハルは驚き、話しかけてきた女性は謝りながら話しかけた理由を話し始めた。

彼女の名前はユリエール。ギルド「MMOトゥデイ」のサブリーダーである彼女は、リーダーのシンカーを探していた。

その途中、足を滑らせ斜面を落ちてしまい、気付いた時には迷子になっていた。

なんとか、仲間と連絡を取ろうと、連絡が取れる場所を探していたが、中々見つからず、そんな時ハルト達を見つけたのだという。

困っているユリエールを見て、ハルト達はシンカー探しに協力しながら(ザントはめんどくさそうな表情をしていたが)、ユリエールと共に先に進んだ。

道中、フィールドにいる黒い狛犬たちを倒したり、シンカーの話で盛り上がったり、「MMOトゥデイ」の活動について聞いたりしながら、先に進んでいくと、広い空間に出た。

その時、白い狛犬が複数の黒い狛犬と共に出現し、ハルト達に襲い掛かった。

周りの黒い狛犬をザントとユリエールが対処し、ハルトとコハルは白い狛犬と戦った。

情報通り、レベルが高く、普通の白い狛犬と桁違いの強さだったが、激闘の末、何とか倒せたハルトとコハルであった。

 

「ユリエールさん!大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫です。ザントさんがカバーしてくれたおかげで、この通り、無傷でした」

 

「無傷だったのは、あんたが状況をしっかり見て、俺の邪魔をしなかったからだ。少なくとも、状況を理解できずに、ただ、無駄に突っ込む猿よりかは100倍マシだったぜ」

 

ユリエールの言葉に、相変わらず、弱いプレイヤーを罵倒しながら喋るザント。

 

「それじゃあ、先に進んで・・・」

 

改めてシンカーを探そうとコハルが口を開いたその時

 

「ユリエール!」

 

ユリエールの名を呼ぶ叫び声が聞こえ、振り向くと、こちらに駆け寄ってきている一人の男性がいた。

 

「シンカー!どうしてここに?」

 

「僕のことはいいんだ。君が無事で本当に良かった・・・」

 

シンカーと言われた男性はユリエールの方に近づき、彼女の顔を見て安堵すると、今度はハルト達の方を見た。

 

「あなた方がユリエールをここまで連れてきてくださったんですね。ありがとうございます」

 

「あなたがシンカーさんですね。ユリエールさんから色々とお話を聞いています」

 

お礼を言ったシンカーに笑顔で対応するコハル。

すると、新たに二人の人物が現れた。

 

「どうやら、見つかったみたいだな」

 

「ほー、色々ねぇ・・・」

 

そこにいたのは、栗色の髪に背が小さい少年と、クラインがいた。

 

「あれクラインさん・・・と、誰ですか?」

 

「あー、俺の名前はシロコイだ。まあ、このフロアを探索していたら、たまたま、この二人と出会ってな。なんでも、人探しをしているみたいだったから、一緒に探していたんだ」

 

「へぇー、シロコイ君って言うんだ。凄いね。こんなに小さいのに十層を一人で探索できるなんて・・・でもね、危ないからなるべく一人で行動するのは避けた方がいいよ。シロコイ君はまだ小さいんだから・・・」

 

コハルが感心しながらも単独行動はなるべくしないよう注意する。

しかし、シロコイは体をプルプルと震わせており、その隣でシンカーが戸惑ったように喋る。

 

「あのー、すみません。・・・シロコイさんは・・・」

 

「俺、今年で19なんだけど」

 

「え!?」

 

目の前にいる幼く見える少年が、まさかの自分より年上という事実にコハルはその場で固まってしまった。

しばらく、呆然としてたコハルだったが、慌てて謝る。

 

「ご、ごめんなさい!年上だと知らないで、子供扱いしてしまって!」

 

「いや、気にしないでくれ。慣れている」

 

「・・・なんていうか・・・世界は広いですね」

 

「ああ、見た目はガキだってのによ」

 

気にしてない様子のシロコイ。その様子を見ていたハルトとザントは世界の広さを感じながら、シロコイを見ていた。

 

「色々と話してぇこともあるけど、とりあえず、外に出ようぜ。ここじゃ落ち着かねぇから」

 

一通り、自己紹介を済ませた所でクラインが言い、周りもそれに賛同して《夜藤の河原》に戻ろうとしたが

 

「!?・・・どうやら、まだ、終わってねぇ見てぇだな」

 

ザントが後ろを向きながら喋り、周りも後ろを見ると、そこには、人の下半身くらいの大きさの白銀の狼が刀を銜えながらこちらを睨んでいた。

 

「そんな!?アルゴさんの情報にはあんなモンスターはいなかったはずなのに!?」

 

「おそらく、正式版で追加されたエネミーだろうよ。しかも、この感じ・・・フィールドボスクラスか」

 

まさかのボス級のエネミーの登場に、それぞれ武器を構えるハルト達。

そんな中、狼はハルト達を・・・正確にはザントの方を見ていた。

それに気付いたザントは笑みを浮かべ

 

「てめぇら・・・手を出すな・・・俺がやる」

 

一人で戦うことを宣言した。

それに対して、コハルは慌てながら止めた。

 

「無茶ですよ!あのモンスターがどんな力を持っているのか分からないのに、一人で挑むなんて!私たちも戦います!」

 

「うるせぇ、奴の御指名は俺だ。喧嘩は買ったんだ。加勢なんてくだらねぇ恥を俺にかかせるんじゃねぇ」

 

コハルの援護をザントは容赦なく切り捨てると、両手剣を構え狼の方へ近づく。

両者、互いに睨み合っていたが、先に動いたのは狼だった。

 

「!?」

 

狼のあまりの速さに、ザントは驚きながらも、刀を両手剣で防いだ。

攻撃を防がれた狼は鍔迫り合いには持ち込まず、その場で一回転しながら後ろに下がったら、もう一度近づいてきた。

ザントはもう一度防ごうと両手剣を構えたが次の瞬間、狼は攻撃せず、素早い動きでザントの後ろに回り込んだ。

 

「!?(フェイントか!?)」

 

狼の意図を感じ取ったザントは慌てて後ろを向くが、防ぐ前に刀で斬られた

 

「ぐっ!?」

 

「ザントさん!」

 

思わず膝を付き、それを見たコハルが声を上げ、援護しようとハルト共に近づいたが

 

「来るんじゃねぇ!!」

 

ザントの叫び声に足を止めた。

ザントは両手剣を杖のように体を支えながら立ち上がると

 

「・・・面白れぇ」

 

笑顔で狼の方を見る。その狂気の笑顔にハルト達は息を吞む。

普段からザントは調子が良かったり、楽しんだりしている時に狂気の笑みを浮かべるが、あの笑顔は今まで見たどの笑顔よりも楽しんでおり、そして、狂気を感じる笑みだった。

 

「てめえ・・・俺と同じだな。強くなるために、色んなもん盗んで、自分を鍛えていく・・・俺もそうだぜ。色んな場所から、色んな技や技術、知識を盗んで強くなり続けようとしている・・・」

 

そう言いながら、両手剣を構え直し

 

「来いよ・・・てめえが人間から盗んで鍛え上げた技や知識を・・・俺に見せてみやがれ!」

 

その叫び声に応えるかのように、狼は「ヴォォォ!」と声を上げながら近づいてき、ザントに攻撃する。

ザントも両手剣で防ぎながら、狼の行動パターンを見極め、攻撃していく。

刀と両手剣が打ち合い続ける音が、フィールド中に響き渡る。

 

「スゲー・・・」

 

「動きが・・・見えない・・・」

 

シロコイとユリエールが声を漏らす。

今のザントと狼の攻防は、並大抵のプレイヤーは見えておらず、攻略組のハルトやコハルですら一瞬でも目を逸らしてしまえば、動きが追いつけないくらい、ザントと狼は激しい戦いを繰り広げていた。

そんな中、狼は何回かも分からない鍔迫り合いの末、一旦、後ろに下がろうと刀を下げらせ、体を上に上げたが、その際に隙だらけの腹が見えてしまった。

それを見たザントは

 

「戦いはなにも、剣だけじゃねぇ!」

 

そう言いながら、隙だらけの腹を足で蹴り上げた。

蹴り上げられた狼は、吹き飛ばされ地面に不安定な体制で着地したが、すぐに体勢を整え、一旦、動きを止めた。

それを見たザントも動きを止めた。

両者の間に静寂が流れる。しばらく、相手を見つめ続けていた次の瞬間、同時に動き出した。

それぞれ走り出しながら、相手の方に近づいていき、そして

 

「ヴォン!」

 

「オラッ!」

 

すれ違いざまに狼は刀の一撃。ザントは<ビースト・ランページ>を繰り出した。

両者の間にまたもや静寂が訪れる。

狼の方は無傷。ザントの体には刀に斬られた痕があった。

両者、体勢を整え、互いを見たが

 

パキーン!

 

「!?刀が・・・」

 

シンカーが驚いたように喋った。

すれ違った時のザントの強力な一撃が、狼が銜えていた刀を捉え破壊した。

しかし、武器を失ってなお、白銀の狼は戦い続けようと、ザントの方を睨んでいた。

ザントは無言で狼を見続けていたが、両手剣を背中にしまった。

 

「ザントさん!何を!?」

 

「決まってんだろ。こいつはもう武器がねぇ。なのに、こっちだけ武器を持ってても面白くねぇだろ。来いよ、強くなりてぇんなら俺を倒して証明して見せやがれ!」

 

ザントは叫び声と共に素手で狼に殴りかかった。

対する狼も己の牙でザント目掛けて嚙みついてきた。

 

「!?ちっ!」

 

素早い狼の嚙みつき攻撃に対応できず、ザントは殴りかかった腕を嚙まれたが

 

「甘ぇ!」

 

逆の腕で狼の脇腹にアッパーを繰り出した。

狼は上に吹き飛ばされたが、空中で体制を立て直すと今度は顔目掛けて嚙みつこうとしたが、ザントは咄嗟に両腕をクロスさせガードする。

そして、顔の代わりに両腕に嚙みついた狼を両腕を広げながら弾き飛ばし、バランスを崩して落ちていく狼に思いっ切り蹴りを入れ、向こうの岩に吹っ飛ばした。

蹴りのダメージと岩にぶつかった衝撃でダメージを食らった狼。対するザントも腕を嚙みつかれてダメージを負っていた。

しかし、ザントの表情は変わらず笑顔であった。

 

「いいぜ!もっとお前の力を見せてみやがれ!」

 

ダメージを負ってもなお、立ち上がる狼にザントは追撃しようと、狼に迫ったが

 

「!?」

 

ザントは動きを止めた。

狼に敵意がなくなったからである。

狼はゆっくりとザントの方へ歩み寄ると

 

「(すぅー)」

 

「お前・・・」

 

ザントの前で止まり、頭を下げた。

まるで、己の主を見つけたかのように

 

「・・・へっ、面白れぇ」

 

狼の行動を見て、察したザントは笑みを浮かべながら、自身に頭を下げている狼に問う。

 

「お前、俺と一緒に行きたいのか?・・・言っておくが、俺は弱ぇ奴が嫌いだ。お前が俺の足を引っ張ったり、ピンチになったりしても、俺は絶対に助けてやらねぇ。それでもいいのか?」

 

狼は何も言わず、コクリと頷いた。

それを見たザントは、狼に向かって力強く叫ぶ。

 

「いいぜ!お前は・・・ラピード!お前は今日から俺の相棒だ!強くなりてぇなら、しっかり俺についてこい!」

 

「ヴォン!」

 

ラピードは主人に応えるかのように吠えた。

ザントは用が済んだと言わんばかりの表情をしながら

 

「おい!終わったし、そろそろ行くぞ」

 

ハルト達に声を掛けたが

 

『・・・・・・』

 

ボス級のエネミーを戦ってテイムするという規格外のことをやらかしたザントを、ハルト達はただ呆然と見ているのであった。




・ザントの新装備
《トール・ジ・アノーイング・トロール》のアバター装備みたいな感じです。

・少し複雑な表情をしていたハルト
後のストーリーの伏線となります。

・ユリエール
ギルド「MMOトゥデイ」のサブリーダー。人がいいシンカーと違って、厳しいところもある。ちなみに本文中には描写されてないが、この時の髪の色は茶色である。

・シンカー
ギルド「MMOトゥデイ」のリーダー。人が良く、かなり面倒見がいいが、それ故に騙されやすい。

・シロコイ
オリキャラの一人。イメージは「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」のフィンみたいな見た目で、髪の色をアスナみたいな栗色にし、身長も149cmと一般男性よりかなり小さめ。CVは中村悠一。爽やかで活気のある人物だが、低身長のせいで、周りから子供扱いされることもある。

・<ビースト・ランページ>
オリジナルスキル。両手剣の星4くらいで、全体攻撃。両手剣を前方、扇形に思いっ切り振る。

・ラピード
オリジナルキャラもといオリジナルペット。白銀の毛に蒼い瞳を持つ狼。人間の下半身くらいの大きさで、その気になれば、人、一人乗せることができる。


ザント、ボス級のエネミーをテイム(物理)する!
茅場「・・・何これ?(困惑)」
ということで、十層編前半でした。
次回もオリジナルを混ぜつつ、SAOIFに沿ったストーリーを書いていきます。
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