ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
マテルを連れ去ったサーニャを追いかけていたハルト達は気付いたら始まりの町にいた。
「サーニャさんを追いかけてたら始まりの町に来ちゃったけど・・・」
「始まりの町・・・マテル・・・まさか!?」
「シロコイさん、何か心当たりでもあるんですか?」
コハルが一人呟くが、その隣でシロコイが何か気付いたかのように声を出し、何か心当たりがあるのか聞いた。
「ああ、俺の予想通りだと彼女たちはあそこに向かっているはずだ。ついてきてくれ」
そう言うと、シロコイは走り出し、二人も後に続いた。
やがて三人は一つの建物の前まで来た。そこにはサーニャとマテル。そして、マテルよりも幼そうな一人の少女がいた。
「あ!ニャーお姉ちゃんだ!」
「ごきげんよう、ミナ。元気そうで何よりですわ」
「うん!今日、ギンとケインと一緒にワーム狩りをしてきたんだ!」
ミナと言う少女と何気ない会話をするサーニャ。
そこに、新たな声がサーニャに掛かる。
「ニャーお姉ちゃん、おかえりなさい!・・・ん?ねぇねぇ、その子は誰?」
「・・・マテルなの」
「新しいお友達だね!あたし達より、ちょっぴりお姉さんかな?」
「そっかぁー、よろしくね!」
ケインと呼ばれた糸目の少年がマテルについて尋ねた。マテルが名前を言うと、ケインは隣で聞いてたミナと共に元気よくマテルに挨拶した。
「ミナ、ケイン。サーシャに知らせてきてくださる」
「「はーい!」」
サーニャが二人に向かって言うと、二人は元気よく返事をし、奥の建物の中に入っていった。
「ハハハ!相変わらず元気があっていいな」
そんな幼い少年少女のやり取りをシロコイは微笑みながら見守っていたが、ハルトとコハルはこの状況についてこれず、呆然と立ち竦んでいた。
呆然と見続けるハルトとコハルだが、シロコイは特に気にせずサーニャに話しかける。
「やはり、ここにいたか・・・」
「サーニャさん、今の子たちは?」
「来れば分かりますわ。こちらにいらしてくださいませ」
コハルの問いに答えながらサーニャは四人を建物の中に案内した。
建物の中はごく普通の木造建築物で、ハルト達がいる部屋には複数のテーブルに椅子と奥の方にキッチンがあるくらいだった。
しかし、部屋には複数の子供たちが追いかけっこなどで遊んでいて、その様子をハルト達は複数置かれてある椅子に座りながら見ていると、一人の女性が部屋に入ってきた。
「久しぶりね、サーニャ。ごめんね、待たせちゃって」
「構わないですわ。子供たちの様子はどうですの?」
「フフフ、みんなとても元気よ」
「それは良かった。ここ最近、ここに来る機会がなかったから心配してたけど、みんな元気そうで何よりです。お久しぶりですね、サーシャさん」
「シロコイさんも元気そうで良かったわ。MTDを辞めたって聞いた時は心配してたから」
サーシャと呼ばれた女性と親しそうに会話するサーニャとシロコイ。
サーシャはハルト達の方に気付くと二人の名前を尋ねる。
「えぇっと、それで・・・そちらの方達は?」
「僕はハルト、隣に座っているのは・・・」
「コハルです。よろしくお願いします」
「ハルトさんにコハルさんですね。私はサーシャ、この始まりの町で暮らしています」
二人の名前を尋ねたサーシャは自身の自己紹介をした。
「ところでサーシャさん、先程の子供たちはいったい・・・?」
「・・・今、この町で暮らしている小学生から中学生ぐらいのプレイヤーほぼ全員だと思います」
ハルトの質問にサーシャは暗い表情で答える。
「彼らはこのゲームが始まった時、パニックを起こして、精神的に問題を抱えていました。無理もないですよね。まだまだ子供なのに二度と現実世界に帰れないって言われてしまったんですから」
「子供たちだけじゃない。この世界には精神的な問題を抱えて始まりの町に居続けるプレイヤーはいっぱいいる。MTDはそんなプレイヤーの為に少しでも力になろうと日々活動しているのは知っているだろ?その活動の一つに、この施設の支援をしているんだ。だから、元MTDの俺はサーシャさんとは多少の縁があるんだ」
シロコイは分かった?的な表情をハルトとコハルに向けると、二人は頷いた。
それを見たシロコイはサーシャに続きをと目線で語ると、サーシャは話の続きを語り出した。
「私、最初の頃は攻略組の人達みたいにゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げをしていたんですけど、ある日、始まりの町で無気力に座り込んでいる子を見つけて・・・どうしても放っておけなくて一緒に暮らし始めたんです。それで、他にも同じような子供たちがいると思ったら居ても立っても居られなくなってしまって・・・気付いたら町中の子供たちに声を掛けて集めて、今はここでみんなのお世話をしているんです」
「サーシャはとてもいい先生ですわ。面倒見が良くて子供たちにも慕われておりますのよ」
「いえいえ、とんでもない。むしろ、子供たちに励ましてもらったり教えられることの方が多いぐらいですよ」
サーニャの言葉を照れくさそうに返すと、サーシャはマテルを見た。
「あなたがマテルちゃんね。上の層で戦っていたっていう話は聞いたわ」
「そう、適応して町を出ていった子供なの。だから、ここで世話になる必要はないの」
「それでも、もしもの時に頼れる場所があると心強いでしょ。マテルちゃんは最前線で戦える力を持っていて、自分で生活できて、コハルさんみたいに頼れる人いる。そうなのね?」
「・・・そうなの」
「うん、マテルちゃんが大丈夫なのは分かった。だけど、困ったことがあったら、誰かとお喋りしたいなって気分になったらいつでもここに来てね」
「・・・覚えておくの。それより・・・」
そう言いながら、マテルは部屋の入口の方を見ると
「さっきから覗いている子たちがいるの」
入口から覗き見している三人の子供がいた。
「見つかった!」
「もう!前に出過ぎるからよ!」
「わわ、押さないで!」
覗いていたのは先程のミナとケイン、そして活気のある少年だった。
「こら!小さい子たちを見ててって言ったでしょ!」
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫だよ。今はあの人たちも来ているし」
「ん?あの人たち?」
サーシャと子供たちのやり取りを聞いている中で、あの人たちという言葉に疑問の声を出すシロコイ。
自分たちの他にここに来ている人がいるのかと、そう思っていると
「あ!いたっす!コノハさん、こっちっす!」
「やっと見つけた・・・三人共、あまりお客さんに迷惑を掛けちゃダメだよ・・・って、ハルトさんにコハルさん!?」
「え!?コノハさんにレイス君!?」
「二人共、何でここに!?」
部屋に入ってきたのは、ギルド「紅の狼」のメンバーであり、防具を付けておらず私服姿のコノハとレイスであった。
予想外の二人の登場に驚きの声を上げるハルトとコハル。攻略組として最前線で活動しているはずの彼らが何故ここにいるのか。
そんなことを思っているとサーシャが話し始める。
「お二人には前にフィールドで危なくなった子供たちを助けてもらって、お礼に昼食をご馳走したんです。それ以降、こうして遊びに来ては子供たちの面倒を見てくれるんです」
「なるほど・・・」
「そうなんだ。フフフ、二人共優しいね」
「それにしても、コノハとレイスが攻略組なのは知っていましたが、まさか、あなた達とも知り合いだったなんて・・・ホント、この世界は驚きだらけですわね」
「全くだ。世界というのは意外と狭いものだな」
サーシャが説明すると、納得したかのように頷いたハルトとコハル。
その横でサーニャとシロコイが世界の狭さを感じるのであった。
「なあなあ、そいつ・・・マテルは最前線から来たってホント?」
コノハ達の話にひと段落ついたところで、活気がありそうな少年、ギンがマテルに話しかけてきた。
「・・・本当なの」
「すっげー!じゃあさ!武器とか見せてくれよ!」
「僕も見たいな」
「あたしもー!」
「・・・構わないの」
「やった!ワーム狩りで稼いだ金で美味いパンとスープを買ってきてるからさ、歓迎してやるよ!」
「こっちに来て!みんなを紹介するね!」
子供たちはマテルの手を掴むと、あっという間に部屋から出ていった。
その様子を見てたコノハはレイスの方を向き
「レイス、悪いんだけどあの子たちがマテルって子に何かやらかさないよう、様子を見に行ってくれない?」
「了解っす!こら~チビ達、待てっす!」
レイスに向かって指示すると、レイスは子供たちの方へ走っていった。
残ったコノハはサーシャに向かって頭を下げる。
「すみません、サーシャさん」
「いえいえ、こちらこそ、こうして手伝ってもらって申し訳ないです」
「気にしないでください。僕やレイスも好きで手伝っていますし」
コノハとサーシャが互いに頭を下げ謝り合う。
すると、部屋にいた子供たちがこちらに近づいてくると、
「ニャーお姉ちゃん!こっち来てよー!」
「あら、呼ばれてしまいましたわ。少し失礼いたしますわね」
サーニャのことを呼び、それに応じたサーニャは子供たちの所へ向かうと、小さい子供たちと追いかけっこで遊び始めた。
子供たちと遊んでいるサーニャの表情は、いつもの冷静でツンとした様子は感じられない程、とても楽しそうであった。
「サーニャ、とても楽しそう」
「うん、普段は厳しくて少し近寄りがたいイメージがあるけど、根はとても優しい人だよ」
楽しそうに遊んでいるサーニャを眺めながら、ハルトとコノハは喋った。
「・・・サーニャには色々と助けてもらっているんです。度々ここに来てはアイテムやコルの援助をしてくれるんです。攻略組を目指しているなら、まずは自分の装備を充実しなきゃダメだよって何回も言っているんだけど、子供たちの自立に投資しているだけだからって・・・何も言わないけど、きっとそのせいで中々攻略組に追いつけなかったのに・・・魔剣を手に入れてからは、他のプレイヤーから妬まれているのに、彼女は何も言わずに援助を続けているわ」
サーシャは暗い表情になりながら喋ったが、ハルト達はサーシャの言葉のある部分が気になった。
「サーニャさんの剣・・・詳しい事は分からないけど、確か敵のHPを吸収できる特殊スキルが付属されているよね」
「うん、特にHPが高いボスや大量のエネミーに囲まれた時のアドバンテージは凄く高いと思うな」
サーニャの魔剣について述べるコハルとハルトであったが
「でも、どんなに凄い剣を持っていても、それだけで彼女を妬んでいい理由にはならないよ」
「ああ、ハルトの言う通りだ」
ハルトの言葉に、シロコイは賛同しながら頷き
「それに、彼女が強いのは魔剣のおかげだって言う馬鹿なプレイヤーもいるけど、その魔剣をあそこまで使いこなせたのは、紛れもなく彼女自身の実力だ」
サーニャの実力を高く評価した。
それを聞いてハルト達は笑みを浮かべていたが、ふと、ハルトがシロコイに聞いてきた。
「ところで、気になったんですけど、サーニャを追いかけている時、どうしてサーニャがここに来てるって分かったんですか?一回しか会ったことがないサーニャの向かっている場所を予想して当てれるって、相当彼女の事を知っていないとできないと思いますよ」
言われてみればそうだ。シロコイはサーニャと一回しか会ってないのに、マテルを連れていかれた時に彼はここに来ると予想し、それを当てて見せた。いくらシロコイは頭が良さそうとはいえ、流石に一回しか会ったことのない人間の行動を読むのは至難の業だ。
すると、シロコイは突如顔をしかめながらゆっくりと口を開いた。
「・・・初めて彼女と出会った時、小さい子供だと思われてここに連れてこられそうになった」
「「「あっ」」」
ポツリと呟いたシロコイの言葉に、思わず声を漏らしたハルト、コハル、サーシャ。
コノハだけが状況を読み込めず急にどんよりとした空気に「えっ!?えっ!?」と戸惑っている中
「ま、まぁ仕方ないですよ!サーニャだって悪気があった訳じゃないし、フィールドでこんなに背の低い人を見かけたら誰だって心配しますよ!」
「そ、そうですよ!確かに小さい子だと間違われてもおかしくないですけど、シロコイさんは立派な年上です!」
「そ、そうね!よく子供たちと一緒に遊んでいる様子を見てると、本当に19歳?って思うことがありますけど、子供たちと遊んでくれたり効率のいいレベル上げの仕方などを優しく教えてくれるシロコイさんの姿はまさしく大人だわ!」
「お前たち・・・フォローする気ないだろ・・・」
三人が必死にフォローするも、シロコイにとっては追い打ち同然であり、その場で鬱状態になるのであった。
ちなみに、その後サーニャに連れていかれそうになったシロコイは自身の歳を明かすもサーニャは信じず、その場で口論となり、駆けつけてきたシンカーによって誤解は解け、サーニャは勘違いしてしまったお詫びにMTDの仕事を手伝うのであった。
「あの時はあなたの話をしっかり聞かずに連れていこうとしましたし、私も反省しておりますわ」
シロコイが鬱状態になっている中、いつの間にか戻ってきたサーニャが喋った。
そこに先程部屋を出ていった子供たちとマテルが戻ってきた。
「先生!マテルって凄ぇんだ!」
「あたし達のレベルに合わせて安全にコルと経験値を稼げる場所をたくさん教えてくれたの!」
「むぅー・・・」
「どうしたの、レイス?」
子供たちが機嫌良くマテルの事を話す中、レイスはマテルを睨むと、マテルに向かって指を指して宣言した。
「これで勝ったと思わないことっす!実践では俺の方が上っすからね!」
おそらく、自分の知らない情報を持ち、あっという間に子供たちの人気者になったマテルに嫉妬したのだろう。
コノハはそんなことを思いながら悔しそうな顔をしているレイスに「アハハ・・・」と苦笑いした。
そんなレイスの宣言に対してマテルは「覚えておくの」と返すのであった。
すると、シロコイがマテルに話しかける。
「マテル。君は数々のクエストの内容や効率のいい狩り場の情報にやたら詳しいけど、ひょっとして君は今まで行った場所やクエストの内容を全て暗記しているのか?」
「淑女のたしなみなの・・・大体のことは忘れないの」
「・・・本当に凄いな。今まで行った場所ならまだしも、そこにいるエネミーのレベルや手に入る経験値、更にはその場所で受注できるクエストの内容を全て覚えるなんて中々できないぞ」
「ええ、どうやら私はこの子を見くびっていたようですわ」
シロコイに賛同するかのようにサーニャもマテルを高く評価する。
「マテル、あなたは自分の身を守ることができるし、リスク管理もしっかりできるのですね」
「それほどでも・・・あるの」
「では、コハルを呼び出したのはどういう要件でしたの?」
「・・・十四層のダンジョンには巨大なキノコ型モンスターがいるの。その討伐クエストを請け負っているなら手伝いたかったの」
「えぇ!?私たちそのダンジョンに行くところだったんだよ!」
「グッドタイミングなの」
まさかの目的が一致したことに驚くコハル。
それを聞いたシロコイはハルト達に向けて喋った。
「決まりだな。マテルも連れて五人で巨大キノコに挑む。異論はないか?」
「ありませんわ。彼女は十四層をソロで歩き回れる実力はあるんですもの」
シロコイの提案にサーニャも賛成し、五人で討伐クエストを受けようと思った時
「あのー・・・もし、良ければなんだけど、僕たちも一緒に行ってもいいかな?」
コノハがおずおずと手を上げながら聞いてきた。
それに対して、シロコイは顎に手を当て、考えながらコノハに話しかける。
「・・・まあ、攻略組にいるってことは実力はあると思うし、別に構わないけど・・・どうして一緒に行きたいんだ?」
「うん。さっき僕たちのギルドリーダー、トウガ君からメッセージが来てね。トウガ君たちも今、十四層で儀式に関するクエストを受けているみたいなんだ。それで、さっきハルトさんから聞いた討伐クエストのことをトウガ君に送ったら、『ハルト達の手伝いをしてくれ』って返って来たんだ」
「手伝いをしてくれって、何か理由でもあるのか?」
「それは分からない。でも、トウガ君は考えなしでこんなことは言わない。きっと何か理由はあると思う」
きっぱりと言うコノハ。
それを見たシロコイはハルトの意見を聞くべく彼に話しかける。
「どうする、ハルト?」
「・・・連れていこう。戦力は少しでも増えた方がいいと思うし、トウガはギルドリーダーを務めているだけあって、それなりに賢いし、手伝えって命令したのにもきっと何らかの理由があると思う」
「そうだね。それに、トウガさんが受けているクエストと私たちが受けているクエストは、どっちも儀式に関係あるかもしれないし」
「そうか・・・なら、俺も連れていくことに異論はない。サーニャとマテルもそれでいいか?」
「構いませんわ。お二人は攻略組ですもの。戦力としては申し分ないですわ」
「戦力になるなら問題ないの」
「・・・皆さん、ありがとうございます」
「足手まといにならないよう精一杯頑張るっす!」
二人の同行も決まり、ひとまずはハルト達の今後の予定は決まった。
話を終えたと察したサーシャはパン!と手を叩き
「話は終わったみたいね。それじゃあ、みんな席について!新しいお友達の歓迎と応援の会を開きます!」
周りで遊んでいる子供たちに向けてそう言うと、子供たちは一斉に席についた。
「私たちには見送ることしかできないけど、お昼ご飯ぐらいはご馳走させてください」
「やったっす!サーシャさんのご飯を久しぶりに食べれるっす!」
「ちょっとレイス!?わざわざすみません、サーシャさん」
「ウフフ・・・気にしないで遠慮なく食べてくださいね」
サーシャのご飯を食べれることに喜ぶレイスを見ながら、サーシャに頭を下げて謝るコノハ。それに対して、優しく微笑むサーシャであった。
昼食後、十四層に出発するハルト達をサーシャや子供たちが見送っていた。
「サーシャ、生活費の為にダンジョンに行くのもほどほどにね。無理は禁物ですわよ」
「分かっているわ。あなたこそ気を付けていってらっしゃい」
サーシャはサーニャにそう言うと、今度はシロコイの方を見る。
「シロコイさんも、無茶しないように気を付けてね。時間があったらいつでも遊びに来てくださいね」
「勿論です、サーシャさん」
シロコイの返事を聞いたサーシャは最後に私服から紺色のコートに着替えたコノハと強化はされているが見た目は初期装備のままのレイスの方を見て
「二人も、まだまだ子供なんだから、くれぐれも無茶しないように」
「はい。サーシャさんもどうかお元気で」
「また遊びに来るっす!」
二人の返事を聞き終えると、サーシャは子供たちと一緒に手を振りながら見送るのであった。
「みんな!元気でなぁー!」
「
シロコイとサーニャが大声で返しながら、ハルト達は十四層に戻るのであった。
薬師の所に戻ってきたハルト達は彼に話しかけると、《瞑想の森》の入口へ案内された。
ハルト達は森に入る前に薬師から示された道に従い、森に潜んでいるエネミーを倒していきながら《瞑想の森》を進んでいた。
しばらく歩いていると、森林から広い平地へ出た。
辺りには巨大な木が一本だけ佇んでいたが、その周りには巨大キノコが胞子をばら撒いていた。
「大きなキノコ!あれがボスだよ、きっと!」
「周りにモンスターを待らせて・・・斬りがいがありますわね」
「張り切るのはいいけど、やられるなよ!行くぞ!」
シロコイの叫び共に、各自、散開して巨大キノコに迫る。
すると、巨大キノコは体を縮めこむと、大量の胞子が体中から撒かれた。
「!? 離れろ!」
シロコイがいち早く気付き、ハルト達は巨大キノコから距離を取る。
ハルト達が距離を取り終えると、巨大キノコの周りには、大量の胞子で覆われていた。
「胞子!?」
「恐らく毒付きのね。全く、小さいのでも厄介なのに、あんな巨体から胞子が撒かれたらたまったもんじゃない」
「ですが、動きは止まりましたわ。胞子も風で大分流されましたし、今がチャンスですわ!」
「先手必勝なの」
動きが止まったのを気にサーニャとマテルが攻撃を仕掛けるが
「キシャーーー!」
「あうっ!」
「うっ!」
巨大キノコが自身の上半身を振り回し、サーニャとマテルを吹き飛ばした。
何とか防御に成功したサーニャとマテルだが、飛ばされた衝撃と、二人共軽装備の為、多少のダメージを負った。
その隙に巨大キノコは先程と同様、体を縮めこみ胞子を撒く体制に入ったが
「ハァ!」
そうはさせまいと、シロコイが矢を放ち、巨大キノコに刺さった。
すると、巨大キノコは胞子を撒くことなく、その場で怯み始めた。
それを見たハルトが剣で巨大キノコに攻撃すると、巨大キノコはダメージを負った。しかし、怯みから回復した巨大キノコはハルト目掛けて上半身を振り回したが、ハルトは危なく回避すると、コハル達の所に戻る。
その横では、先程までの光景を見て冷静に分析したシロコイが、そこから生み出した己の策をハルト達に伝える。
「俺が奴の胞子攻撃を抑える。その隙に二人程、巨大キノコのHPを削ってくれ。残りは周りのキノコを何とかしてくれ」
「なら、キノコ型エネミーと何回か戦ったことがある僕とコハルとサーニャ、それとマテルで周りのエネミーを何とかするから、コノハとレイスでシロコイさんと一緒に巨大キノコを倒してくれ!」
「お待ちなさい!私もボスを担当いたしますわ!やられっぱなしでは終わりませんわ!」
「さっきみたいに胞子が撒かれたら迂闊に近づけないだろ!そうなったら、《フィンスタニス》の効果は長く続かない!そうだろ!?」
「っ!?・・・分かりましたわ。ボスは任せましたわよ、コノハ、レイス!」
「任せてください!」
「やるっす!」
シロコイの指示に従い、ハルト、コハル、マテル、サーニャの四人は周りのキノコを担当することになった。
攻略組であるハルトとコハル、それに近い実力を持っているマテルは迫りくるキノコ達を次々と倒していき、サーニャも
「遅いですわ!」
特に苦戦することなく、次々と敵を倒しては敵から吸収したHPで回復していた。
すると、後ろからサーニャに向かって迫ってくるキノコがいた。
迫りくるキノコに気付いたサーニャは迎撃しようとしたが
「ヤァ!」
「なっ!?」
ハルトがサーニャを守るかのように前に出て、サーニャに迫ってきたキノコ目掛けて剣を振り、ポリゴン状に四散させた。
サーニャが啞然とハルトを見ていたが、ハルトはそんなサーニャの視線に気付かず
「よし、次!」
敵を倒したが決して喜びはぜずに、ハルトは狙いを次のキノコへと定め、次々とキノコを倒していった。
「・・・・・・」
そんなハルトをサーニャは睨みながらも目の前のキノコを倒していった。
ハルト達が周りのキノコを引き受けている一方、巨大キノコ担当のチームはというと
「ヤァーーー!」
「食らえっす!」
コノハとレイスの素早い攻撃で着実にダメージを与えていた。
ダメージを食らった巨大キノコは何回目かの胞子を放とうと体を縮めこませたが
「そこだ!」
シロコイの矢によって、胞子を出す前に矢の攻撃を食らって怯んでしまい、その隙にコノハとレイスがソードスキルで攻撃した。
そんな戦法を何回か繰り返し続けていると
「キシャーーー!」
「うわっす!」
急激に速くなった巨大キノコの攻撃にレイスは回避しきれずに飛ばされてしまう。
「おっと!油断大敵だよ、レイス」
「す、すみません、コノハさん」
そこにコノハが前に出て、飛ばされたレイスを受け止めた。
「あのボス、急に動きが速くなりましたね」
「恐らく、HPをかなり削ったことで素早さが上がったんだろう」
コノハの隣でシロコイが喋りながら、向こうで戦っているハルト達の方を見た。
全員、ダメージは少ないが、増え続けていくキノコに苦い顔を浮かべながら戦い続けていた。
「・・・これ以上、時間は掛けていられない。HPは後少し・・・一気に決めるぞ!」
「「はい(っす)!」」
これ以上、ハルト達に負担を掛けさせるわけにはいかない。そう考えたシロコイは大声で二人に向かって叫び、二人も返事で応えた。
ケリをつけるべく、三人は走って巨大キノコに接近するが、巨大キノコは三人をまとめて倒そうと先程よりも速めに胞子を撒く体制に入った。
「マズいっす!このままじゃあ、攻撃する前に胞子を撒かれるっす!」
「問題ない。例え、胞子を撒いても・・・」
レイスが声を上げたが、シロコイは特に焦らず弓を構えると
「巻き終わるまでの間も無防備だろうっよ!」
胞子を撒き始めた巨大キノコに<ラージボア>で攻撃すると、巨大キノコは先程と同じように怯んだ。
「今だ!これで決めてみせる!」
巨大キノコが怯んでいる隙に、コノハは巨大キノコの下に走り出し、短剣で下から右斜め上に斬り上げた。
斬られた巨大キノコは即座に毒胞子を撒いたが、コノハは上に飛んで胞子から逃れた。
そして、巨大キノコの後ろに着地すると、隙だらけの背中を上から左斜め下に斬った。
コノハが短剣をしまうと同時に、Xの字に斬られた巨大キノコは地面に倒れ込むとポリゴン状に四散した。
同時に周りのキノコ達も全て消え、巨大キノコが倒されたことに気付いたサーニャが巨大キノコを倒したコノハを称賛した。
「
「あ、ありがとうございます。サーニャさん・・・」
「流石はコノハさんっす!ここぞという時に頼りになるっす!」
「あなたは迂闊でしたわよ!もっと、慎重に行動なさい!」
「は、はいっす・・・」
「アハハ・・・シロコイさんもマテルちゃんもお疲れ様」
「ああ、お疲れさん」
コハルからの労いの言葉にシロコイが返す中、マテルはというとサーニャの剣を見ていた。
「サーニャの赤い剣・・・《フィンスタニス》は斬った相手のHPを吸収して使い手を回復させる。そして、一定の時間内に攻撃し続ければ、攻撃力が上がる特性を持つ・・・合ってる?」
「・・・まさか、シロコイやハルトの他に、一発で《フィンスタニス》の特性を見破る者がいるなんて・・・マテル、あなたのおっしゃる通りですわ。《フィンスタニス》は敵の命を力に変える剣ですわ」
マテルの洞察力に内心では驚きつつ、サーニャは冷静に答えた。
「戦いの最中に回復できる剣かぁ・・・ポーションやスキルを持っていなくても、回復できるからボス攻略などの長期戦には打って付けだね」
「確かに・・・攻略組にとっては、大きなアドバンテージになるね」
《フィンスタニス》の性能を改めて称賛するハルトとコハル。
すると、二人の会話を聞いていたサーニャが警戒するかのように二人を睨む。
「まさか、あなた達もこの剣の譲渡を要求するんですの?」
「まさか。それはもうサーニャの剣だよ」
「その剣はただの武器じゃない。サーニャさんの相棒なんですよね?」
コハルの言葉に、サーニャはコクリと頷く。
「なら、譲れなんて言えませんよ。サーニャさんがこの剣を大切にしている思いが込められていますから」
「ええ、《フィンスタニス》は今や私の半身ですわ。それに、誰よりも使いこなしている自信がありますの」
自信あり気に言うサーニャ。その隣でシロコイが説明する。
「《フィンスタニス》は攻撃が少しでも途切れてしまうと、攻撃力が基準に戻ってしまうからな。絶え間ずに攻撃し続けることができる技術が必要なんだ。例え1%の奇跡が起きてサーニャが魔剣を渡したとしても、使いこなすには相当な技術と時間が必要になるだろうな」
「ええ、それを分かっていない愚か者たちには絶対に渡しませんわ。ましてや、私が魔剣を他人に渡すことなんて1%もありませんわ」
「愚か者たち・・・それは、今まであなたから剣を奪おうとした人たちなの?」
「マテルは子供なのに鋭いですわね・・・いえ、子供だからこそ遠慮がないのかしら」
どこか困ったようにマテルを見ながらもサーニャは言葉を続ける。
「売ってほしいという方達は大勢おりましたわ。中には、どうしても断るというのなら・・・と言って、私に剣を向けた方もいました」
「PKをけしかけられたんですか!?」
「軽い脅しのつもりだったのでしょうね。それなりの期間、パーティーを組んでいた方なので信頼していたのですけど・・・」
「ど、どうやって切り抜けたんですか・・・?」
コハルが恐る恐る聞くと、サーニャはニヤッと笑みを浮かべた。
それは、ザントの狂気を感じる笑みと違い、小さく、けれども、どこか冷たさを感じる。そんな笑みだった。
「笑って剣を突き付けてやりましたわ。『代償にあなたの命を貰いますけどよろしくて?』と・・・」
冷たい微笑みを浮かべるサーニャにハルト達は何も言えないでいる中、シロコイが真剣な表情で喋った。
「・・・サーニャ、分かっていると思うけど」
「ええ、この世界で他人に剣を向けることの意味くらい私も承知しておりますわ。冗談でそんなことをしたと思われるのでしたら、それこそ、私への侮辱でしてよ」
「・・・分かっているならいい」
「それより・・・ハルト。どういうおつもりですの?」
「どういうつもりって・・・何のこと?」
シロコイとの会話を終えたサーニャはハルトを睨んだ。
一方、睨み付けられたハルトは惚けるかのように返した。
「先程の戦いで私を庇うかのように動いていたでしょう?私をか弱いプレイヤーだと思っていらっしゃるの?」
「うーん、別にそんなつもりはなかったんだけどな・・・」
困ったように頭に手を当てながら喋るハルト。
すると、その隣でコハルがフォローするかのように声を上げる。
「あの!サーニャさん!ハルトはサーニャさんを邪魔するつもりも弱いと思っているつもりもないんです。ただ、ずっと私と一緒に戦っていたから、パートナーをフォローする動きが癖になっているだけなんです」
「それはお互い様だよ。コハルにだって、いつも助けてもらってるし」
「・・・私には《フィンスタニス》がありますの。無用な気遣いはかえって邪魔でしてよ」
「それでも、ハルトは目の前で人が傷つくことを放ってはおけないんです」
「それはコハルも同じなの。サーニャが魔剣を持っていなくても力になろうとするの」
「だね」
「ちょっと、二人共!?」
マテルとハルトに対して顔を赤めるコハル。
その様子を黙って見ているサーニャにシロコイが話しかける。
「諦めろサーニャ。こいつらのお人好しっぷりは、もはや病気レベルだ。お前が辞めろと言ったくらいでこいつらは止まらないぜ」
「お二人は超が付くほどのお人好しっすからね。まっ、だからこそ、俺はお二人の事は好きだし、トウガさんも友と読んで信頼しているんっす」
「だね。僕も二人の事は好きだし、トウガ君たちもそう。僕たちにとって二人は大切な仲間であって友達なんだ」
「・・・そう。サーシャみたいなお人好しが他にもいたんですのね」
シロコイに続き、レイスとコノハの言葉を聞いて、どこか呆れるように喋ったサーニャは後ろに振り向き
「さ、外に出ましょう。ここにいたら、キノコが体から生えてきそうですわ」
《瞑想の森》から出ようと来た道を歩き始めた。
その様子を見ていたハルト達もやれやれと笑みを浮かべながら戻るのであった。
《瞑想の森》を出たハルト達は森の入口に佇んでいた。
「後は薬師さんにドロップした素材を渡すだけだよね?」
「うん、早速渡しに行こう」
コノハとハルトが喋り、他の皆も薬師の所に行こうとしたが
「あなた方を見ていると昔の事を思い出しますわ」
ふと、サーニャが喋り出し、それから、彼女は自身の過去を明かした。
ロシア生まれのサーニャには、幼い頃、引っ込み思案だったサーニャに声を掛け手を差し伸べてくれた友達がいたと。しかし、ある日、その友達は引っ越してしまい、行方が分からなくなってしまった。サーニャはその友達の母親が日本人だというのを頼りに日本へ留学してきたのだと。日本語も友達と再会した時に驚かせたくて勉強したと。
サーニャの過去を黙って聞いていたハルト達だったが、ふと、ハルトがサーニャに問う。
「ねぇ、サーニャ。もしかして、そのお嬢様口調って・・・?」
「? 女性が使う丁寧な言葉のはずですわ。間違っておりまして?」
「そりゃあ、どっからどう見てもむぐ!?」
「いいえ!間違っていないと思いますよ!そうですよね、皆さん!?」
「あ、はい!その・・・とても優雅だと思います」
「心意気はいいと思うの」
レイスの口元を押さえながら必死に喋るコノハ。コハルとマテルも口を合わせた。
一方、当の本人が「そ、そうですの」と戸惑いながらも返す中、シロコイはサーニャに変な知識を教えた奴は誰だよ、と思いながら頭を抱えるのであった。
「その剣は手放さないほうがいいの。きっと、他の誰よりもあなたに相応しいの」
「私もそう思いますわ。ありがとう、マテル」
「礼はいいの」
マテルがサーニャに向かって喋り出し、マテルに感謝の気持ちを言うサーニャ。
すると、マテルはこの場から去ろうとした。
「それじゃ、この辺で」
「えっ!?もう行っちゃうの!?クエストもまだ途中なのに・・・」
「ダンジョンに行くのが目的でクエストが目的ではなかったの」
「そう、なんだ・・・」
残念そうな表情になるコハルにマテルは言葉を続ける。
「・・・また連絡するの」
「!? うん!また会おうね!」
「サーシャのホームにいつでもいらっしゃいましてね。ごきげんよう、マテル」
「ごきげんようなの」
サーニャみたくお嬢様口調で返しながらマテルは去っていった。
「不思議な子でしたわ。話すつもりのなかったことまで遂、口を滑らせてしまいましたわ」
「うん、僕も初めて会ったけど、不思議な子ではあるけど優しい子でもあると思うなぁ。子供たちにも優しくしてくれたし」
「・・・とってもいい子っすね。チビ達に人気だったのは、ちょっと悔しかったっすけど」
サーニャ、コノハ、レイスの三人がそれぞれマテルに対する印象を述べながらマテルが去った方を見続けていた。
そんな彼らに向かって、ハルトは両手をパンッと叩くと
「それじゃあ、薬師の所に行こう!」
仲間たちと共に薬師の所に向かうのであった。
「・・・・・・」
そんな中、シロコイはただ一人考え事をしていた。
本来、巨大キノコ討伐のクエストはあくまで儀式を行うために必要なクエストの一つだ。そして、《瞑想の森》は討伐クエストをクリアする為に攻略する必要があるダンジョンにすぎない。
しかし、彼女は攻略ではなく、ダンジョンそのものに用があると言っていた。
なら、彼女は何故ダンジョンだけに用があったのか。彼女にはレアなアイテムなどはドロップせず、巨大キノコ以外に特に珍しいエネミーもいなかった。しかも、討伐の報酬も受け取らずに去っていった。
彼女の目的は何だったのか。自分たちの知らない所であのダンジョンに彼女の目的を果たす何かがあっただろうか。
「彼女は一体何者なんだ・・・」
シロコイの小さな呟きはハルト達には聞こえず、風の音と共に消えていった。
・ギン、ミナ、ケイン
左から順にクソガキ、幼女、糸目。以上。
・サーシャ
SAOのプレイヤーの一人で、SAOに迷い込んだ子供たちを保護して、その世話をしたりしている非常にいい人。
・「小さい子供だと思われてここに連れてこられそうになった」
サーニャ、誘拐の前科あり。尚、被害者は19歳の模様。
・コノハの新装備
防具の上にキリトみたいなコートを羽織っている。コートの色は紺色。
・《フィンスタニス》
本文でもあった通り敵のHPを吸収して回復することができるチート武器。SAOIFでは実装されてない。というより、今の現状、特定のスキルレコードやスキルとかでポーションを使わずに回復できるから、そんなに重要な武器でないと思う
・「彼女は一体何者なんだ・・・」
ホントっ何者なんでしょうねぇ。運営は未だに教えてくれないし。
久しぶりに文字数10000を超えた。10000文字以上書くのにスゲー時間が掛かった。
次回で攻略パートは終わり、ボス戦に入ります。