ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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みんなのトラウマ、チーフテンの登場だ。


ep.22 第十四層ボス攻略

第十四層迷宮区ボス部屋前

いつも通り、ここにはボスに挑むべく、大勢のプレイヤー達が佇んでいた。

しかし、ボスに挑むにしては、その表情はいつもより険しく、どこかピリピリしていた。

その理由はというと

 

「やはり、血盟騎士団が抜けた穴はでかいか・・・」

 

辺りを見渡しながらハルトは呟いた。

十二層の時、ギルド初のボス戦でありながらも、一人一人が高い戦闘能力を持って攻略に貢献し、十三層の時には、死人が出てパニックになっていた攻略組を「血盟騎士団」団長のヒースクリフが、高度な指揮能力とカリスマ性で立て直した。

そんな二層だけで大きな功績を残した「血盟騎士団」は攻略組の期待の星と化していた。

だからこそ、今回も「血盟騎士団」がいれば大丈夫だと思っていた攻略組にとって、「血盟騎士団」がいないという事実は攻略組の今後を左右する大きなプレッシャーとなっていた。

 

「ええ。一見、立派な演説に見えるけど、みんな何処かピリピリしてるわね」

 

「みんな、ヒースクリフさんが来てくれることを期待してたみたいだったから・・・」

 

アスナとコハルが、向こうで攻略組の士気を上げるべく演説をしているキバオウとリンドを見る。

場は見た感じ士気が高まっているように見えるが、士気の他に緊張感も高まっており、どこか不穏な空気を感じる状態だった。

その光景を、三人は不安な表情で見守る中、横からキリトが口を開いた。

 

「・・・それを見越しての不参加かもしれないな」

 

「どういうこと?」

 

キリトの言葉にアスナが疑問の声を上げる。

 

「末端は揺れているとはいえ、今のところ、攻略組のトップはALSとDKBの二大ギルドだろ。その事実を崩さない為に、ヒースクリフは今回のボス攻略に血盟騎士団を参加させなかったんじゃないか?」

 

「どうかしら・・・あの人って、普段から何考えているのか全然分からないのよね・・・」

 

キリトの意見を聞いても、あまり納得してないように喋るアスナ。

すると、トウガが四人に話しかけてきた。

 

「お前たち、今はボスに集中しろ。その男が、どのような思惑でSAOを攻略しているのかは知らないが、俺たちがやることは変わらない。誰一人、犠牲者を出すことなくボスを倒す。そうだろ?」

 

そう言うと同時に、ボス部屋の扉が開き、リンドの「突撃!」の声と共に一斉に部屋に入る攻略組の面々。

それを見たハルト達も、慌てながらボス部屋に入った。

部屋は、周りは緑で生い茂っているが、その所々には、遺跡のような石造りの建造物が置かれていた。

攻略組全員が入り終わると同時に、その部屋の中心に一体のエネミーが出現した。

見た目、馬みたいな形をしているが、上半身は人間の体。しかし、その頭には鹿の角のようなものが生えており、右手に巨大な剣を持っていた。

そんなケンタウロス擬きの上に、いつも通り名前が表示される。

《フォルス・ザ・セントールチーフテン》。それが、このケンタウロス擬きの名前だ。

 

「思ったよりでかいな・・・」

 

見上げながらシロコイが呟く。

それを聞いたサーニャは笑みを浮かべると

 

「大きい?結構でしてよ。魔剣の攻撃がよく当たりそうですわ」

 

そう言いながら、《フィンスタニス》を構える。

その横で、トウガも笑みを浮かべながら短剣を取り出し、クルクル回転させてから構える。

 

「大きい分、隙はたくさんありそうだな。一片たりとも見逃さん」

 

正史世界(SAOIF)だとリーファの立ち位置にいる少年(トウガ)は目の前の敵を好戦的に見据えた。

その後ろでコハルが

 

「みんな。スタン攻撃には気を付けてね」

 

周りに警戒するよう告げた。

各々が一歩も動かず、警戒していると、最初に動いたのは《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の方だった。

攻略組の存在に気付いた《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は持っている巨大な剣を思いっきり振り上げ、攻略組目掛けて振り下ろした。

 

「散開!!」

 

まともに食らえばスタンし兼ねない攻撃に、リンドは咄嗟の判断で全員に避けるよう指示を出したが

 

「征くぞ!レジェンド・ブレイブス!!」

 

「「「「うおおおーーー!!!」」」」

 

オルランドの大声と共にネズハ以外の「レジェンド・ブレイブス」の面々が前に出て、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の一撃を正面から受け止めた。

 

「うっそぉー・・・」

 

「ハハハ!やるじゃないか!」

 

キリトが目を見開きながら驚き、シロコイが笑いながら称賛した。

正面から受け止めたことによって、互いに膠着状態になる「レジェンド・ブレイブス」の面々と《フォルス・ザ・セントールチーフテン》。その隙をトウガは見逃しはぜず

 

「ハァーーー!」

 

《フォルス・ザ・セントール・チーフテン》目掛けて跳びながら攻撃した。

 

「あなたばかりにいい恰好はさせませんわ!」

 

それに続くように、サーニャが《フォルス・ザ・セントールチーフテン》に近づいていく。

サーニャに気付いた《フォルス・ザ・セントールチーフテン》はサーニャ目掛けて剣を振り下ろすが、サーニャは<レイジ・スパイク>で素早く前方に移動するとともに回避し、同時に《フォルス・ザ・セントールチーフテン》目掛けて《フィンスタニス》を突き刺してダメージを与えた。

それを筆頭に他の面々も続々と動き出し、スタンに気を付けながら攻撃していく。

 

「よし、俺たちも行くぞ、ネズハ!」

 

「は、はい!」

 

シロコイの言葉に返事しながらネズハが取り出したのは

 

「弓!?」

 

チャクラムではなく、弓であった。

弓を取り出したネズハに驚いたハルト達だが、すぐにキリトが納得したかのように声を上げた。

 

「そうか!遠近感が掴めなくても、弓なら遠近感なんて関係ないし、威力も申し分ない」

 

チャクラムは元々、第二層でボスエネミーからドロップしたアイテムだ。弓や投剣と違って、弾数がないメリットがあるものの、今はもう第十四層。

とてもではないが、二層で手に入れた武器では通じないだろう。

だからこそ、ネズハは弓を使っている。矢の制限はあるものの、威力は投剣やチャクラムよりも倍近く高い武器を。

ネズハはゆっくりと弓を構えながら集中し、矢を放った。

放たれた矢は真っ直ぐに飛び、見事《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の体に命中した。

 

「や、やった!」

 

「ナイスショット!この調子で行くぞ!」

 

喜ぶネズハを褒めるシロコイ。

攻略は極めて順調だった。

《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の攻撃によってスタンしてしまったプレイヤーがいても、他のプレイヤーがカバーして、動けるようになるまで支えていた。

また、攻撃の大半を「レジェンド・ブレイブス」の面々が受け止めてくれて、最初は彼らに嫌悪を抱いていた攻略組の面々も、徐々に彼らを信頼していき、攻撃に専念するようになった。

 

「よし、このまま行けば・・・」

 

《フォルス・ザ・セントールチーフテン》のHPが半分を切り、犠牲者を出さずに倒せると安心しきっていたリンドだったが

 

「ブォーーー!!!」

 

突如、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は部屋全体を震わせる雄叫びを上げた。

それと同時にフィールドの脇に四つの結晶が出現した。

 

「な、何が起きたの・・・?」

 

「分からない・・・でも、警戒した方がいい」

 

突然の咆哮に警戒するコハルとハルト。

他の面々も《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の奇妙な行動に警戒している中、サーニャが《フォルス・ザ・セントールチーフテン》に接近し、一太刀与えたが

 

「!? 効いてない!?」

 

HPが減らず、平然とした様子で立っている《フォルス・ザ・セントールチーフテン》に驚愕の表情を向けるサーニャ。

その隙を狙って《フォルス・ザ・セントールチーフテン》がサーニャ目掛けて剣を振り下ろしたが、すぐに立て直し、冷静に回避するサーニャ。

体勢を立て直し、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》を正面から見据え

 

「なっ!?」

 

目を見開いた。いや、サーニャだけでなく、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》を見たプレイヤー達が一人、また一人と。

誰もが驚愕の表情でその場所を見る。

普段なら毒や火傷などのデバフが表示されるであろうHPバーの横。そこに描いてあったのは

 

「これは!?防御力アップのバフだと!?」

 

リンドが信じられないと言わんばかりに叫ぶ。

それはこの場にいる全員も同じ気持ちだった。何せ、今までのフロアボス戦でボスに防御力アップのバフ、しかも、攻撃が全く効かないほどのバフが付与されることなんて無かったからだ。

ここへ来て新しいギミックに戸惑いながらも、攻略組は懸命に攻撃し続ける。

しかし、懸命に攻撃し続けるが、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》にダメージを与えることができず、体力だけが消耗されていく。

 

「マズいぞ!このままだと回復が間に合わない!」

 

キリトが焦りながら喋る。

このまま長期戦になってしまうと、回復が間に合わなくなり、死人を出すどころか、全滅し兼ねない。

打開策を考えていた攻略組だったが、ふと、シロコイが先程出現した結晶に目を向けた。

 

「あの結晶・・・まさか!」

 

何かに気付いたシロコイは、すぐさま弓を構え、結晶に向かって矢を放ち、矢は結晶に当たった。

すると、結晶の上に表示されていたHPバーが僅かだが減った。

からくりに気付いたシロコイは、すぐさま、この場にいる全員に向かって叫ぶ。

 

「全員!フィールドの脇にある結晶を破壊しろ!ボスの防御力が上がった原因は恐らくそれだ!」

 

シロコイの言葉に従い、攻略組は結晶を破壊するべく動き出した。

しかし、それを見逃すほど《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は甘くはない。

《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は結晶の一つに近づいてきているプレイヤーに向かって斬撃を放つ。

 

「させん!」

 

だが、斬撃がそのプレイヤーに当たる前にオルランドが防いだ。

 

「あ、あんた!?」

 

「我に構うな!征けぇい!」

 

防御したがHPがかなり削れたオルランドに庇われたプレイヤーが声を上げるが、オルランドは心配無用と言わんばかりに叫んだ。

それを見たプレイヤー達は好機と言わんばかりに一人、また一人と結晶破壊に励んだ。

その間、「レジェンド・ブレイブス」の面々はひたすらに《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の攻撃を防いでいたが、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の過激な攻撃により徐々にHPを削られていった。

 

「無茶だ!もういい、下がれ!」

 

リンドが下がるよう「レジェンド・ブレイブス」の面々に向かって叫ぶが、五人は引く様子はなく

 

「無茶で結構!一度は人の道を踏み外した身。大勢の者達の思いを背負い、戦い抜いてきた勇者たちの為に死せるというのなら本望!」

 

自分たちの胸の内を叫びながら、ただひたすらに攻撃を防いでいた。

その時、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》に迫る黒い影が現れ、持っている剣で攻撃すると《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は一瞬怯んだ。

その隙に、影の正体キリトは、何が起きたのかと啞然としてるオルランドの正面に立つと怒鳴った。

 

「バカ野郎!死ぬことは償いでも何でもないんだぞ!あんたらに武器を奪われた連中が、あんたらが死んだと聞いて喜ぶと思うか!?」

 

更に、駆けつけてきたアスナとハルトも、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》に応戦しながら、オルランドに向かって叫ぶ。

 

「あなた、言ったわよね!強化詐欺で大切な武器を奪ってしまった人たちに償いをしたいって。だけど、あなたが今やろうとしていることは、償いでもなければあなた自身への贖罪でもないわ!自分の罪から逃げているだけよ!」

 

「そうだ!あなたは生きるべきだ!死ぬことで、自分の犯した罪から逃げようとするなんて・・・そんなのは勇者じゃない!」

 

「!?」

 

自分たちを守るべく戦う戦友たちの 責を受けて

 

「・・・すまない。俺はまた過ちを繰り返すところだった・・・レジェンド・ブレイブス!一旦下がって回復するぞ!」

 

オルランドは本来の口調に戻りながら仲間たちと共に下がった。

そうしている間に、攻略組の奮闘により結晶を三つ破壊することに成功し、後一つとなったが

 

「ブォーーー!!!」

 

「クソ!流石に守りが固い!」

 

「他の三つが破壊された以上、向こうも後一つを守るのに必死なんだろうよ」

 

後一つだというのに、結晶に近づくことができない状況に悪態つくトウガとソウゴ。

守るべき結晶が後一つとなったことで、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》も必死に守っている。

何とか近づこうとするも、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の過激な攻撃により、攻略組は結晶に近づくことすらままならない。

しかし、遠距離からの攻撃ならば話は別だ。

 

「全員、離れろ!大技を出すぞ!」

 

SAOで数少ない弓使いであるシロコイは、結晶破壊に奮闘している攻略組に結晶から離れるよう叫ぶ。

言われた攻略組の面々は一瞬戸惑うものの、大技と聞いてすぐに離れた。

離れたの確認したシロコイは、弓を結晶にではなく上に向けるように構え

 

「行っけーーー!!!」

 

そのまま矢を放った。

矢は遥か上空へと高く飛び、人の目では見えない場所まで飛んだと思った次の瞬間、無数の矢が一斉に降り注いだ。

<サジッタ・レイン>。それが、シロコイの放った弓のソードスキルだ。

雨のように降り注ぐ矢は、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》をも巻き込み、結晶にダメージを与えていったが

 

「くっ!削り切れないか!」

 

結晶のHPは僅かに残っていた。

このままでは、次の矢を放つのに時間が掛かってしまう。そうなれば、準備するまでの間、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の過激な攻撃を耐えなければならない。

今は回復し終えた「レジェンド・ブレイブス」の面々を中心に何とか耐え凌いでいるが、いつまでもつかは分からない。

すぐにでも結晶を破壊したいところだが、現状レイドメンバーで遠距離攻撃ができるプレイヤーはシロコイしかいない。

 

「・・・っ!」

 

いや、もう一人いた。

六人目の「レジェンド・ブレイブス」のメンバー、ネズハは弓を構えながら奥にある結晶を見据えていた。

しかし、ネズハの顔色は悪く、弓を持っている手は震えていた。その訳は

 

「(これを外せば、皆さんは・・・)」

 

ここで外してしまえば、仲間たちは、攻略組は更なる窮地へと陥ってしまう。

今まで感じたことのないプレッシャーにネズハは飲まれそうになったが、ふと、「レジェンド・ブレイブス」の面々とハルト達の顔を思い浮かんだ。

彼らはFNCを抱えていた自分を決して見捨てはせず、自分にやり直す機会を、勇者として生きる希望を与えてくれた。そして、自分を守ってくれた。罪を一緒に背負うと言ってくれた。

ならば、今度は自分が彼らを守る番だ。

 

「フゥー・・・」

 

いつの間にか手の震えが消え、呼吸を整えながら<シャドウ・スティッチ>のモーションを取り

 

「いっけーーー!!!」

 

叫び声と共に渾身の一撃を放った。

ネズハの放った光り輝く矢は真っ直ぐに結晶を捉え、見事命中した。

結晶は崩れていきながらポリゴン状に四散する。

その途端、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は突如苦しみだし、HPバーの横に表示されていた防御力アップのバフは無くなっていた。

 

「今だ!全軍、突撃!」

 

「おっしゃ!ここで決めるぞ!」

 

『うおおおーーー!!!』

 

攻撃が効くようになればこちらのもの。

リンドとキバオウの叫びと共に攻略組全員が再び攻撃に移り出した。

バフが無くなった《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の攻撃パターンは特に変わらず、攻撃パターンをほとんど見切った攻略組は先程のように次々とダメージを与えていった。

HPはほとんどなくなり、後少しというところでトウガが仕掛けた。

 

「これで終わらせる!」

 

そう言いながら、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》目掛けて走り、勢いよくジャンプして空中に跳んだ。

対して、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は空中なら避けれまいとトウガに向けて剣を振るったが、トウガはそれを体を捻らせて躱すと

 

「ハァーーー!」

 

空中で<サーペント>を発動し、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》の体を切り刻んだ。

しかし、トウガの放った<サーペント>では、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》のHPを削り切ることはできなかった。

倒しきれなかった《フォルス・ザ・セントールチーフテン》を見つめるトウガ。

だが、その表情に焦りはなく

 

「止めは任せるぞ」

 

パニャートナ(了解)

 

着地する直前に空中ですれ違ったサーニャに声をかけた。

入れ替わるようにサーニャが《フォルス・ザ・セントールチーフテン》を切り刻む。

一撃、二撃、三撃と、たゆまずダメージを与え続けることで徐々に攻撃力が上がっていき

 

「これで終わりですわ!」

 

《フィンスタニス》の効果によって最大まで強化された<ダークネス・フロウ>を《フォルス・ザ・セントールチーフテン》にぶつけた。

《フォルス・ザ・セントールチーフテン》のHPはゼロになり、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は雄叫びと共にポリゴン状に四散した。

 

「お疲れ様、なんとか犠牲者を出さないで倒せたな」

 

辺りが歓声に包まれる中、シロコイはサーニャに向けて喋った。

 

「ええ、危ない場面も何箇所かありましたけれど、あのお方たちのおかげですわね」

 

そう言いながら、サーニャは向こうでハルト、キリト、アスナの三人と喜んでいる「レジェンド・ブレイブス」の面々を見た。

 

「ハルト殿、キリト殿、アスナ殿。この度のボス戦。一度は地に落ちた我らに力添えなさってくれて、誠に感謝する」

 

頭を下げてきたオルランドにキリトが言葉を返す。

 

「礼を言うのはこっちさ。あんた達がボスの攻撃を防いでくれたおかげで、俺たちはスムーズに攻撃することができた。ネズハも、お前のあの一撃、最高だったぜ」

 

「ありがとうございます。これで僕も、ようやくレジェンド・ブレイブスの一員になれた気がします」

 

自身の持っている弓を見つめながら呟くネズハ。

すると、オルランドがきょとんとした顔でネズハを見た。

 

「何を言っている?ナーザ、貴卿はあの日、アインクラッドで本物の勇者になろうと六人で誓い合った時から既に伝説の勇者(レジェンド・ブレイブス)の一人であろう」

 

「そうだぜ、ようやくなんかじゃない。お前は最初からレジェンド・ブレイブスのメンバーだったんだ」

 

「そうよ。これは、あなた自身が努力して掴み取った結果なんだから」

 

「だから、これからは胸を張って、自分が伝説の勇者(レジェンド・ブレイブス)の一人であることを名乗ってほしいんだ、ネズハ。いや・・・ナーザ」

 

「オルランドさん、皆さん・・・ありがとうございます!」

 

FNCを抱え、足手纏い同然の自分を見捨てなかった仲間たち。自分にやり直すきっかけを作ってくれたハルト、キリト、アスナ。

伝説の勇者の名を取り戻した少年は目に涙を溜めながら、彼らに深々と頭を下げ、感謝を伝えた。

 

「ところで、サーニャ殿を人殺しと愚弄したあの者の姿が見えんようだが・・・」

 

オルランドが辺りを見渡しながら言う。

しかし、いくら探しても、サーニャを人殺しと呼んだ黒のレザーマスク男はいなかった。

 

「いないっていうことは、彼はレイドメンバーには選ばれなかったみたいだな」

 

「所詮は口だけ達者な小物ってことか」

 

「声だけが大きいだけの不届き者に実力が備わっていなくとも、なんの不思議もありませんわ」

 

シロコイが呟き、ソウゴとサーニャは黒のレザーマスク男を罵倒した。

 

「さて、私は一旦サーシャのホームに戻りますわ」

 

「そうだな・・・俺も久しぶりにシンカーさん達に顔を出すか」

 

サーニャとシロコイがそう言うと、二人はハルトとコハル、それに「紅の狼」の面々の方を向き

 

「ハルト、コハル、コノハ、レイス、そして、トウガ及び残りの紅の狼の皆さん。この度はお世話になりましたわ。ダフストレーチ(また会いましょう)

 

「君たちとまた一緒に戦える日を楽しみにしてるよ。それじゃ!」

 

別れの挨拶を言うと、二人はボス部屋から出ていった。

 

「では、我らも戻るとしよう。貴卿らと共に戦えて良かった。また会おう!戦友たちよ!」

 

「皆さん、お元気で」

 

そう言いながら、「レジェンド・ブレイブス」の面々も部屋から出ていった。

やがて、攻略組の面々も一足先に十五層に上がり、残ったメンバーも出ていこうとしたが

 

「待て」

 

トウガが呼び止めた。

ボスは攻略したにも関わらず表情が険しいトウガに、ハルト達が疑問に思う中

 

「悪いがハルト、キリト。お前たち二人は残ってくれないか?大事な話があるんだ」

 

トウガはハルトとキリトを真剣な表情で見ながら言った。

それに対して、アスナが少し不満気な表情になりながらトウガに問う。

 

「大事な話って・・・それは私たちが聞いてはいけない内容なの?」

 

「・・・すまないが、それは言えない。だが、二人を危険な目に合わせるとか、そういう話ではない。頼む」

 

頭を下げるトウガ。

 

「・・・分かったわ。そこまで言うんだったら、トウガ君を信じるわ」

 

「先に十五層で待ってるから」

 

そう言いながら、アスナとコハルはそれぞれのパートナーを残し、十五層へと上がっていった。

 

 

 

 

他のメンバーは既に部屋から出ており、ボス部屋に残っているのはハルト、キリト、トウガの三人だけだった。

 

「それで、話ってのはなんだよ、トウガ?」

 

キリトがトウガに用件を聞く。

 

「・・・お前たちも気付いているだろ。俺たちの敵はフロアボスや茅場晶彦だけじゃないことを」

 

「「・・・・・・」」

 

トウガの言葉に二人は返せずにいた。

二人共、トウガの言っていることが理解できたからである。

 

「プレイヤー同士の不安や怒りを煽り、互いに憎しみ合わせ、殺し合わせる。そんな奴らがこのSAOにいる・・・俺自身、確証はまだないから、あまり強く言えないが・・・」

 

黙っている二人をよそにトウガは言葉を続ける。

 

「この話をお前たち二人だけに言ったのは、お前たちも俺と同じようなことを考えていると思ったのと、このことを他の連中には話さないと思ったからだ」

 

二人は優しすぎる。きっと、アスナやコハルに心配、或いは危険な目に合わせないために隠すだろう。

トウガの予想通り、二人は顔をしかめながらトウガを見た。

 

「とりあえず、今は一つだけ忠告しておく。お前たち、ジョーというプレイヤーに気を付けろ」

 

「ジョー・・・ALSの黒レザーマスク男か・・・」

 

「ああ。これまで、幾度もなく攻略組同士での揉め事は起きてきたが、そのほとんどが奴の発した過激な発言から始まっている。俺も最初は偶然かと思っていたが、いくらなんでも回数が多すぎる」

 

トウガの言葉を聞きながら、二人はこれまでジョーの行ってきた事を思い返した。

一層の時、キリトを糾弾し、《ビーター》を名乗るきっかけを作る。二層の時、ネズハ及び「レジェンド・ブレイブス」が行った強化詐欺で何の証拠もないのに死人が出たと発言。五層の時、ギルドフラッグを手に入れたハルト達四人からフラッグを奪い取ろうと提案。六層の時、ハルトが苦労して手に入れた《精霊錫》で作った武器で戦ったことを非難。七層の時、オークションで《精霊錫》をアスナがDKBと連携して落札したと非難。そして、今日のボス戦前に、サーニャを人殺しと呼び糾弾。

これまでのジョーの行動は、その全てが攻略組の不安や怒りを奮い立たせるものばかりだった。それこそ、攻略組同士の衝突を望むかのように・・・

 

「トウガは・・・ジョーが攻略組同士に亀裂を生もうとしている奴らの仲間だと思っているのか?」

 

「ああ。だが、下手に奴を糾弾しても、さっきの俺みたいに逆にこちらが糾弾されて終わりだ。奴はALSの最古参プレイヤーだ。発言力は他のプレイヤーよりも大きいし、周りも奴を信頼している」

 

キリトの問いに一つ返事で答えながら、トウガは下手に手を出すなと二人に忠告する。

ジョーは攻略組の要になっている二大ギルドの一つ、ALS所属。対して、自分たちはソロ、或いは少数ギルドの人間。どちらの発言を信じるかは明らかだ。

トウガはそれを先程経験したからか、より真剣な表情で語る。

 

「とにかく、決定的な証拠がない以上、こちらも下手に動くことはできない。だが、警戒は怠るなよ。油断してたら、隙をつかれて寝首を搔かれるぞ・・・話は終わりだ。これを聞いてどう思うかはお前たち次第だ」

 

そう言うと、トウガはボス部屋から出ていった。

残ったハルトとキリトも、胸の内にある不安を残したまま、ボス部屋から出るのであった。




正史世界(SAOIF)だとリーファの立ち位置にいる少年(トウガ)
あの一枚絵にいるリーファの代わりに、一夏をキリト風にした黒髪のクール系男子(CV:福山潤)がいると思ってください。

・結晶破壊
十四層ボス、《フォルス・ザ・セントールチーフテン》一番の難所。ん?結晶は復活しないのかって?ハッハッハッ・・・マジでやろうとしたら死人出ますよ?

・<サジッタ・レイン>
弓の星3スキル。指定したターゲットに矢の雨を降らせる。

・<サーペント>
短剣の星4スキル。<ミスティ・エッジ>みたく移動しながら攻撃できる。

・<ダークネス・フロウ>
片手直剣の星4スキル。スイッチで使用すれば、回復することができる。雄一の欠点は単体攻撃であること。

・伝説の勇者の名を取り戻した少年
これからはネズハではなく、ナーザになります。

・ジョー
みんなお馴染み「オレ、俺知ってる!」の人。今回でようやく名前が出たが、果たして彼は敵か味方か・・・


以上、十四層編でした。
当時の《フォルス・ザ・セントールチーフテン》は難しいというよりめんどくさいって印象の方が強かった。
次回は番外編を挟まず、二十層編へ入ります。
新キャラも登場しますのでお楽しみに。
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