ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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長くなりそうなので前編、後編に分けました。


ep.24 夕暮れの激闘(前編)

《闘儀の回廊》から出たハルト達。気づいたら、空は夕暮れで辺りは真っ赤に染まっていた。

 

「早くトウガさんに言われたアイテムを集めないと」

 

クエストを進める為にトウガから言われたアイテムを集めようと、ハルト達は指定されたアイテムがドロップするエネミーがいるフィールドに向かって走っていたが

 

「・・・っ!?」

 

スッ

 

「? どうしたのハルト?」

 

「何をなさっておりますの?」

 

突然ハルトが隣を走っていたコハルの前に片手を出し停止させる。

ハルトの奇行に戸惑うコハル達。しかし、その答えは木々の影から現れた存在によって明かされる。

 

「困るな。邪魔な、風紀委員が、自滅して、くれそうな、時に、助けに、行かれたら、せっかくの、計画が、台無しだ」

 

木々の影から現れたのは、体全体をローブで覆い、顔をローブに付いてあるフードで隠して、途切れ途切れに言葉を繋いでいる不気味な男だった。

突然現れた不気味な男に、警戒するハルト達。

 

「《黒の剣士》は、あちらに、譲ったが、トッププレイヤー、二人の装備に、噂の魔剣も、手に入る。いい仕事を、もらった、ものだ。それでは、お休みして、もらおうか」

 

男の右手には槍が持たれており、男の上に表示されているカーソルを見た途端、ハルト達は一気に警戒を上げた。

 

「まさか・・・この人って!?」

 

「オレンジプレイヤー・・・!」

 

男の上に表示されているカーソルはオレンジ色だった。

カーソルがオレンジになる条件。それは、圏外で犯罪行為を行うことである。

故に今、目の前にいる男は、犯罪を犯したオレンジプレイヤーであることが言える。

オレンジプレイヤー相手に冷静に戦えるのか。いや、それ以前に自分は人に剣を向けることができるのかとハルトが思っていると、サーニャがハルトに話しかける。

 

「・・・ハルト。差し出がましいとは思いますけど、申し上げておきますわ。このお方はNPCではございません。血の通った人間ですわ。ですが、あなた自身やあなたの大切な人を守る為には決断が必要な時もあるのではなくて?」

 

「・・・サーニャは・・・?」

 

「心配ご無用ですわ。あなたと初めてお会いした頃に申し上げた通り、既に覚悟は決まっておりますわ!」

 

そう言うと同時に、サーニャは男に向かって斬りかかった。

対する男は槍でサーニャの攻撃を防ぎ、鍔迫り合いへと持ち込む。

 

「武器は、それほど、興味ないが、レアなら、コレクションに、加えて、やっても、いい」

 

「お喋りをする余裕なんて、ないと思いなさい!」

 

男の余裕そうな態度に腹を立てたサーニャは《フィンスタニス》を槍ごと押し上げ、男の腕が上に上がり、まる見えになった男の腹目掛けて《フィンスタニス》を振ったが、男は後ろに下がることで躱した。

しかし、それっきりで男が動く気配はなく、異変に気付いたサーニャが警戒しながらも男に問う。

 

「いかがなさいました?トッププレイヤー二人の装備に私の魔剣も手に入るとおっしゃった割には、随分と苦戦なさっていますわね。掠り傷の一つも負わないようお気を付けあそばせ。ひとたび傷を付ければ、あなたは更に不利になりますわよ」

 

何処か余裕を持って、男に忠告するサーニャ。

対する男は、サーニャの言葉には反応せず己の槍を見た。

 

「やはり、刺突武器は、エストックに、限る。槍も、悪くないが、不慣れな武器を、いきなり、使うものでは、ないな」

 

「何をおっしゃっておりますの?」

 

男の発している言葉にサーニャは警戒するが

 

「!? 後ろだ!サーニャ!」

 

「え?・・・あうっ!?」

 

男に警戒し過ぎたせいか、自分に近づいてきている人物の接近に気付かず、いち早く接近に気付いたハルトが呼びかける頃には、サーニャはナイフのような物で斬られた。

 

「サーニャさん!?」

 

「隙だらけだぜ、お嬢ちゃん」

 

「え?きゃ!?」

 

更に、サーニャが斬られたことに動揺したコハルも、動揺した隙を付かれ斬られた。

 

「二人共!」

 

一歩遅れてハルトが二人を斬った男に剣を振ったが、男はそれを躱すと槍使いの男の隣に立った。

突如現れた男は、隣にいる槍使いと同じようなフードつきローブを羽織っており、その手にはコハルとサーニャを斬ったと思われるナイフが握られていた。

新たに現れたオレンジプレイヤーに警戒しながらも、ハルトは二人の安否を確かめる。

 

「大丈夫?二人共」

 

「大丈夫!ちょっと掠っただけだから」

 

「ええ、私も平気ですわよ。この程度、ほんの掠り傷ですわ」

 

特に異常が無さそうな二人にホッとするハルトだったが

 

「あるよ!策、あるよ!」

 

ナイフ使いの突然の大声により、再度、警戒する。

 

「何ですの?言いたいことがあるのならはっきりおっしゃったらどうかしら」

 

「掠り傷の一つも負わないようお気を付けあそばせ。ひとたび傷を付ければ、あなたは更に不利になりますわよ」

 

ナイフ使いの余裕な態度にサーニャは詰め寄るが、ナイフ使いは笑顔で先程サーニャが言ったことを口調ごと真似して言った。

それに腹を立てたサーニャが更に詰め寄ろうとしたが

 

「っ!? か、体が・・・!?」

 

「サーニャさん!?どうしたの!?いったい何が・・・っ!?な、なにこれ・・・体が・・・」

 

突如地面に倒れ、コハルも同様に地面に倒れた。

突然倒れた二人にハルトは混乱したが、二人のHPバーに表示されているものを見て目を見開いた。

 

「これは・・・麻痺毒か!?」

 

「せいかーい!」

 

ハルトの呟きにナイフ使い改め毒ナイフ使いが高い声で叫ぶ。

やられた、と苦虫を嚙み潰したような顔をするハルトに、毒ナイフ使いは笑みを浮かべながら喋り出す。

 

「SAOってのはな、スキルや熟練度を上げてくとこんなこともできるようになるんだぜ。まあ、そこにいる全身鎧野郎は斬ろうにも斬れなさそうだし、あんたは、そこに倒れている二人より全然隙がなかったぜ・・・俺ならばの話だがな」

 

「何!?」

 

どういう意味かと、ハルトが警戒した直後

 

ブンッ!

 

「なっ!?くっ!」

 

茂みから新たにローブを羽織った男がハルトに急接近し、ハルト目掛けて剣を振り下したが、ハルトは咄嗟に剣を前に出し男の攻撃を防いだ。

 

「ひゅ~、まさかサブヘッドの奇襲も通用しねぇとは。やはり、仕掛けておかないで正解だったぜ」

 

毒ナイフ使いが感心している中、ハルトは鍔迫り合いに持ち込みながら目の前にいる男を見る。

他のオレンジプレイヤー同様、顔はフードに隠れて見えないが、フードの隙間から薄っすらと白い髪が見えた。

 

「・・・お前、この中で一番強いな」

 

「お前は・・・!」

 

鍔迫り合いの中、話しかけてきた男をハルトは睨み付ける。

 

「だが、俺の敵ではないな」

 

「ぐっ!?」

 

急激に男の剣の押す力が強くなり、ハルトは剣を上に押し出され腕が上に上がってしまう。

その隙を付いて白髪の男はハルトの腹に蹴りを入れる。

強烈な蹴りに飛ばされるも、何とか体制を立て直して前を見るが、ハルトの正面にいた男の姿が見当たらない。

どこにいった、と警戒していると後ろから人の気配がした。

 

「!? 後ろか!」

 

キンッ!

 

「ほう・・・」

 

ハルトは咄嗟に体を後ろに回し攻撃を防いだ。

後ろからの攻撃を防いだハルトに、男は感心しながらハルトから距離を取った。

 

「ひゅ~、やるぅ~。さて・・・そんじゃ、本格的に狩りを始めるとしますか」

 

毒ナイフ使いの言葉と共に、ローブを羽織った男たちが次々と茂みから現れた。全員、フードで顔を隠しているが、フードの隙間から見える口元で嫌な笑みを浮かべていた。

ハルトとリーテンが迎え撃つべく武器を構える。

 

「ヘッド!指示、お願いしやぁす!」

 

毒ナイフ使いが後ろを向いて喋ると、一番後ろにいた男が静かに口を開いた。

 

「殺せ」

 

その簡潔な言葉が引き金となり、オレンジプレイヤー達は一斉に動き出した。

その内、二人の男がハルトに近づこうとしたが、その前にサブヘッドと呼ばれた男に制止させられる。

 

「どけ、こいつの相手は俺がする」

 

「え!?けどよ、サブヘッド!」

 

「聞こえなかったか?・・・どけ」

 

男から放たれた威圧に仲間の二人はビビりながらヘッドと呼ばれた男に目線を向ける。

目線の意味を察した男は「はぁ~」とため息をつきながら周りの部下たちに指示を出す。

 

「好きにしろ。てめえらは手を出すなり、待機するなり好きにしておけ。残りはあの鎧野郎の相手。てめえら二人(槍使いと毒ナイフ使い)はそこで倒れている女二人を見張っておけ」

 

「・・・了解」

 

自分たちも戦いたかったのか、男二人は不本意な顔をしながらもサブヘッドの戦いを見守ることにした。

一方、ハルトは白髪の男と剣で打ち合っていた。

白髪の男は表情に何の変化はないが、ハルトは少し険しい表情だ。

男の攻撃は、今までの敵と違って一撃一撃が全て鋭く、少しでも目を放してしまえばあっという間に斬られると思うくらい速かった。

このまま打ち合っていても埒が明かないと感じたハルトは剣を構え直すと男目掛けて突こうとした。

白髪の男は剣を前に出して防ごうとしたが

 

「っ!?」

 

剣で突こうとした瞬間、ハルトはクイックチェンジで武器を剣からメイスに変えて、メイスで男の剣目掛けて突いた。

メイスの一撃を剣で受け止めるが、その衝撃によって、白髪の男は足を地面に付けながら後ろに下がる。

 

「・・・なるほど。同じ片手のみで使える武器でも、斬属性より打属性の方がパワーはあるな」

 

白髪の男は何処か納得しながら喋るが

 

「だが、パワーはあっても、速度がないだろう」

 

そう言いながら、クイックチェンジで武器を剣からレイピアに切り替えた。

ハルトが警戒する中、白髪の男はレイピアを構えた次の瞬間、凄まじい速度でハルトに迫り<ブルー・スター>を繰り出した。

<ブルー・スター>のモーションをしっかり見ていたハルトはどのタイミングでソードスキルが発動されるのか予想していた。予想してなかったのは

 

「っ!?」

 

その速さである。

驚異的な移動速度に驚きつつも咄嗟に体を捻らして躱したが、ハルトの体には僅かな切り傷が刻まれていた。

先程の<ブルー・スター>の移動速度。下手すれば、アスナと同等の速さであるかもしれない。

それと同時にハルトは気が付いた。目の前にいる男は自分と同じ戦闘スタイルだということに。

 

「《全属性使い》(オールラウンダー)・・・!」

 

全属性使い》(オールラウンダー)とは、斬、突、打の三つの属性を持つ武器全てを使いこなすプレイヤーのことである。

プレイヤーは本来、手に持つ武器とクイックチェンジ用の二つしか武器を装備することができず、最低でも二種類の属性の武器しか装備することができない。

故に、三種類もの属性を持つ武器を全て使っているプレイヤーは数少ない。

いたとしても、強化や熟練度を上げるのに苦労したりなど、デメリットも大きい。

ハルトはそこら辺のデメリットを、アルゴから教えてもらった熟練度やコルをたくさん貰えるクエストで、効率良く強化していくことで補っている。また、本人の実力もあり、攻略組。いや、トッププレイヤーで唯一の《全属性使い》(オールラウンダー)として名を上げている。

だからこそ、目の前にいる男が自分と同じ《全属性使い》(オールラウンダー)。それも、かなりの実力者であることに驚いていた。

 

「何を驚いている?お前がそうであるように、俺もまた、《全属性使い》(オールラウンダー)であることには何の不思議はないだろう?」

 

対する白髪の男は当たり前であるかののように喋った。

ならばとハルトは<ヴォーパル・ビート>のモーションをすると

 

「ハッ!」

 

地面に目掛けて<ヴォーパル・ビート>を繰り出し、その衝撃で生まれた砂塵に辺りは包まれる。

一方、視界が奪われたにも関わらず白髪の男は冷静だった。

 

「(ふん、目くらましのつもりか・・・)」

 

心の中でそう呟いたが、その隙を付いて討ち取ってやれる程自分は甘くはない。

しかし、次のハルトの行動は予想してなかった。

 

「何っ!?」

 

ある程度砂塵が晴れて視界が見えるようになった途端、ハルトは自身の武器であるメイスを白髪の男目掛けて投げつけた。

突然投げられたメイスに驚きつつも、白髪の男は咄嗟にレイピアを振り上げて、メイスを上に弾き飛ばした。

 

「自分の武器を投げるとは・・・!っ!?奴はどこに行った!?」

 

何とか攻撃を食らわずに済んだ白髪の男はまたもや驚愕した。

先程まで正面にいたはずのハルトの姿が見えなかったからである。

どこに行った?と前後左右見渡してもどこにもいない。下にもおらず、残りは上かと上を見上げると

 

「うおーーー!!」

 

そこには、先程白髪の男が上に弾き飛ばしたメイスを持ったハルトがいた。

そして、落下と共に棍を地面に叩きつけるように振る片手棍のソードスキル、<アビス・インパクト>でメイスを男の右肩目掛けて振り下ろした。

 

「ぐっ!?」

 

白髪の男もこの攻撃には対応できず、右肩に強力なソードスキルの一撃を食らってしまう。

白髪の男はハルトから距離を取って左手で右肩を押さえながら口を開く。

 

「・・・どうやら、俺はお前の力を見くびっていたようだな」

 

「これでも、一応はトッププレイヤーを名乗っているつもりだから」

 

「そのようだな・・・だから、ここからは俺も本気でやらせてもらおう」

 

男の纏う殺気が周囲を飲み込む。先程までの生易しいのとは違う、目の前の相手を殺すという意思がある本物の殺気。

それを感じたハルトは極力冷静さを保ちながらメイスを構え直した。

 

「はーい!ちゅうもーく!」

 

その時、先程の毒ナイフ使いの陽気な声が聞こえ、ハルトと白髪の男が振り向くとそこには

 

「いや・・・やめて・・・」

 

「ぐっ・・・卑劣な・・・」

 

「動くなよ~動いたら首をカッ斬っちまうぜ~」

 

「まるで、魔女に、買われている、子猫、だな」

 

毒ナイフ使いがコハルの首に、槍使いがサーニャの首にそれぞれの武器を突き付けた。

その光景を見てハルトはすぐに理解した。二人は完璧な人質であった。

 

「卑怯な・・・!」

 

ハルトが怒りを露わにするが、手を出すことができず、悔しそうな顔で人質になっているコハルとサーニャを見つめる。

一方、仲間たちのやっている事を黙って見ていた白髪の男は

 

「ふん、余計なことを・・・」

 

何処か呆れるように呟くと、再度ハルトの方を見た。

 

「さぁ、どうする?翠の剣士。貴様が少しでも動けば俺の仲間たちはすぐにでも貴様の仲間の首を狩るつもりだ。それとも、無能二人を見捨てて俺と続きをするか?」

 

手を広げながらハルトに問いかける。

男の問いにハルトは、白髪の男と人質になっているコハル達を交互に見たが、やがて、武器をストレージにしまうと頭を下げ、両手と額を地面に付けた。

 

「・・・僕の事は好きにしてくれても構いません。でも、二人の事は傷つないでください」

 

それは必死の土下座だった。己のプライドを捨ててでも、ハルトはコハルとサーニャの命を選んだ。

ハルトの土下座に目を見開くコハルとサーニャ。対する槍使いは無表情だが、毒ナイフ使いは「おお~」と興味深そうに笑っている。

そんな中、白髪の男は無言でハルトを見続けていたが、後ろに待機させていた仲間を手で招き寄せた。

そして、仲間二人が男の隣に立つと静かに口を開く。

 

「殺れ」

 

「「ラジャー♪」」

 

一言だけ述べられた指示を理解した二人は、待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべ

 

「がはっ!?」

 

土下座しているハルトの腹を思いっ切り蹴り上げた。

 

「ハルトさん!?ぐっ!」

 

「おっと、行かせないぜ」

 

リーテンがハルトを助けに行こうとしたが、他のオレンジプレイヤーに阻まれる。

そうしている間にも、ハルトは抵抗することもなく男たちに殴られていき、徐々にHPが減っていく。

 

「ヒャッハー!!いいねぇ!人間サンドバッグってのはよぉ!!」

 

「一度言ってみたかったんだよな~!こうして、拳を握って・・・歯を食いしばれ!!」

 

「ぐふっ!ガハッ!?」

 

一方的に痛めつけられるハルト。

その光景は正に惨いという言葉が似合う光景だった。

 

「やめて・・・やめてよ!こんなの、ひどすぎる!」

 

「よくもまあ、こんな非道を平気で行えますわね!恥を知りなさい!」

 

「何言ってんだ?こいつは自分の意思でサンドバッグになることを選んだぜ。それによう、好きにしてくださいって言ってんだから、好きにさせているだけだぜ」

 

コハルとサーニャがやめさせるよう必死に懇願するも、毒ナイフ使いは止める気配はなく、笑いながらハルトが痛めつけられていく様を見ていた。

ハルトへの暴行は殴る蹴るだけには収まらず、次第には棍やレイピアなどで殴ったり刺したりなど、もはや過激を通り越して残虐と化していた。

 

「もういいよ!ハルト!ハルトが本気で戦えば、そんな奴らになんか負けたりしないんでしょ!?私は大丈夫だから、お願い!戦ってよ!」

 

コハルが泣きそうな顔でハルトに向かって叫ぶが、ハルトは笑いながら大丈夫だと返す。

やがて、ハルトのHPがレッドに達した時

 

「どけ、止めは俺がやる」

 

白髪の男が仲間二人を制止させた。

二人は物足りない顔をしながらも渋々指示に従い攻撃を止めるが、代わりにハルトの前に出た白髪の男はハルトの首を掴み体ごと上に持ち上げた。

 

「あぐっ・・・!」

 

「翠の剣士よ。冥土の土産に一つ教えてやろう。お前が我々に敗れた理由を」

 

人質を使っておいて何を。とハルトは思ったが

 

「お前が敗れた理由はただ一つ。弱い仲間を持ったからだ」

 

「「!?」」

 

男の言葉にハルトだけでなくコハルも目を見開いた。

ハルトは即座に反論しようとしたが、上手く声が出ない。

それは首を締め付けられて声が出ないせいなのか、それとも心では否定しても言葉では否定しきれないからなのか。

そんなハルトを見て、男は興味を無くしたかのように左手でハルトの首を押さえながら右手に持っているレイピアをハルトに突き付けた。

 

「それでは、そろそろご退場願おう。来世では無能に巡り合わないことを祈りながら・・・逝け!」

 

「やめてーーー!!!」

 

コハルの決死の叫びも空しく、男のレイピアがハルトの首を貫こうとしたその時

 

グサッ!

 

「何っ・・・!?」

 

レイピアを持っている右手に突如強い衝撃を受け、男の手元にあったレイピアが男の手元から外れ、外れたレイピアは空高く舞い、フィールドに突き刺さった。

己の身に起きた異変に気付き、白髪の男は咄嗟にハルトの首を掴んでいた左手を放し、距離を取りながら自身の右手を見る。

すると、右手には一本の矢が刺さっていた。

男は理解した。先程自分の手元からレイピアが外れたのは、己の手に矢が当たった衝撃でレイピアが手元からずれたからなのだと。

 

「あん?」

 

「何が、起きた?」

 

一方、止めを刺すと思われたサブリーダーが突如ハルトから距離を取ったのを見て、不思議がる毒ナイフ使いと槍使い。

故に、森の茂みから己に接近している存在に気が付かなかった。

 

「「うおおおーーー!!!」」

 

「ぐはっ!?」

 

「ぐぉ!?」

 

叫び声と共に短剣と槍の強力なソードスキルが二人組を吹き飛ばした。

コハルとサーニャは目を見開きながら、自分たちを助けてくれたと思わしき二人の少年の背中を見つめている中、二人はコハル達の方を振り向いた。

 

「無事か!?二人共!」

 

「まだ首はあるみてぇだな。まあ、コハルはともかく、銀髪はなくても良かったけどな」

 

「トウガさん!ソウゴさん!」

 

「あなた方!どうしてここに!?」

 

コハルとサーニャを助けた人物の正体は先程まで《闘儀の回廊》にいたはずの「紅の狼」トウガとソウゴだった。

ダンジョンにいたはずの彼らが何故ここにいるのかとサーニャの問いにトウガが答える。

 

「あの後、《闘儀の回廊》を出た俺たちは、黒猫団の面々を転移門に送っている途中にシロコイ達と会ってな。そこで、お前たちがオレンジプレイヤーの集団に狙われていると聞いて駆けつけてきたんだ」

 

「黒猫団の奴らは、どうせ来ても役に立たねぇから先に転移門に向かわせて帰らしたから安心しろ。今、いるのは、俺たちとシロコイ。後は・・・」

 

キンッ!

 

ソウゴが説明している中、リーテンが戦っている方から何やら金属音が聞こえ、そちらに顔を向けると、そこには

 

「クソっ!なんだこいつ!?」

 

「攻撃が全然入らねぇ!」

 

「ハッハッハッ!この程度で俺を止められると思うなよ!!」

 

「あ、暑苦しい・・・」

 

高笑いしながらもオレンジプレイヤーの攻撃を次々と防御していき、完全に調子に乗っているカズヤと、そんなカズヤに若干引いているリーテンの姿が見えた。

一方、ハルトの方でも、ハルトから距離を取り、突然自身に向けて放たれた矢の攻撃に警戒する白髪の男。

すると、矢が放たれたと思われる茂みの方向から一人の少年。いや、見た目少年、中身青年のシロコイが現れた。

ハルトを庇うかのように、シロコイがハルトの前に立ちながらハルトに話しかける。

 

「待たせてすまない、ハルト」

 

「すみません、シロコイさん。助けてもらった上、この状況で言うべきではないと思うんですけど言います。待ってませんよ?」

 

「大丈夫ですか?ハルトさん」

 

「これで回復するっす」

 

「コノハ、レイス。君たちも来たんだね」

 

シロコイの言葉にツッコミつつも、レイスから手渡された回復ポーションを飲みギリギリ残っていたHPを回復するハルト。

 

「皆さん・・・私たちを助ける為に・・・」

 

「ふっ、当然だろ。俺たちはこの世界で出会った仲間であって、友達だからな。友を助けるのに理由なんていらないさ」

 

「つぅ訳で、後は俺らに任せてテメェらは麻痺が回復するまで休んどけ。特に銀髪は寝ている間に、まともな感謝の言葉でも考えてろ」

 

「ええ、悔しいですけれど、動けない状態では何もできませんわ。ここは、あなた方に任せますわ・・・あなた、後で覚えてなさい」

 

「やるか?銀髪」

 

「喧嘩なら後にしろ。今は、こいつらが先だ」

 

サーニャに喧嘩を売っていたソウゴだが、トウガの言葉で止める。

二人は目線を先程吹き飛ばした男たちの方に向けながら話す。

 

「どっちにする?」

 

「・・・短剣の方をやる。相手が麻痺毒を持っている以上、リーチが長いこちらの方が有利だ」

 

「そうか。なら、俺は槍使いだな。麻痺毒に気を付けろよ」

 

互いの戦う相手が決まったところでトウガとソウゴは武器を構える。

対する立ち上がった二人組はトウガとソウゴを睨み付ける。

 

「ああ~せっかくいいところだったってぇのに邪魔しやがって・・・これはぶち殺し確定だな」

 

「俺たちの、姿を、見た者は、生かして、帰さん」

 

殺意むき出しに喋る二人組に、トウガとソウゴは特に反応はぜず無言で見続ける。

しばらく、静寂が続いたが、先に動いたのは毒ナイフ使いからだった。

 

「シャァーーー!!」

 

奇声を上げながら、トウガ目掛けて毒ナイフを振ったが

 

「攻撃を仕掛けている人間の見た目に反しては中々無駄のない動きだが、見切れない速さではないな」

 

キンっ!

 

トウガは冷静に分析しながら短剣で受け止めた。

 

「隙、だらけ、だ」

 

その隙を付いて、槍使いがトウガの後ろから槍を突き刺そうとしたが

 

「ふんっ!」

 

「何っ!?」

 

トウガは槍の刃の部分を掴む事で自身への攻撃を防いだ。

 

「防御と言っても、何も武器だけで防ぐことが防御では無いだろ」

 

その程度も知らないのか?と言いたげな顔でトウガが言う。

その隙にソウゴが毒ナイフ使いに近づき、そのままジャンプすると

 

「おらっ!」

 

「ふべっ!」

 

毒ナイフ使いの顔面に強烈なジャンピングキックを入れ、そのまま吹き飛ばした。

 

「後は任せた」

 

「そっちも、うっかりやられんじゃねぇぞ」

 

一言だけ言葉を交わすと、ソウゴは先程吹き飛ばした毒ナイフ使いの追撃に向かった。

孤立したエストック使いは飛ばされた毒ナイフ使いを追いかけようとしたが

 

「悪いが、お前の相手は俺だ」

 

トウガが前に立ちはだかり、行かせないと決め込んでいた。

対する槍使いは特に焦った様子もなく

 

「作戦、変更、だ。お前を、殺してから、あの、男も、殺す」

 

そう言うと、男の持っていた槍が手元から消え、代わりに一本の細剣が男の手元に現れた。

 

「これは、レイピア・・・?いや、エストックか!?」

 

「正解、だ」

 

そう言った次の瞬間

 

「っ!?」

 

槍使い改めエストック使いの姿が消えたと思ったら、トウガ目掛けてエストックで突いてきた。

トウガは咄嗟に短剣を前に出し、自身を貫こうとしたエストックを防いだ。

 

「い、今・・・何が起きたの?」

 

「動きが・・・全く見えませんでしたわ」

 

先程の光景を倒れながら見ていたコハルとサーニャは何が起きたのかと呆気にとられていた。

 

「ほう、この、攻撃を、防ぐ、とは。だが、次は、どうだ?」

 

感心しながらエストック使いは次の攻撃を繰り出し、トウガはそれを防ぎながら自身も短剣を振り下ろして反撃していく。

トウガとエストック使いは、短剣とエストックで激しい剣戟を繰り広げていた。

目にも止まらぬ速さで剣戟を繰り広げる二人に、コハルとサーニャが圧倒されている中、何度目か分からない鍔迫り合いの最中、エストック使いが口を開く。

 

「どうした?防ぐ、だけで、精一杯、か?」

 

「・・・・・・」

 

エストックの使いの言葉にトウガは無言のまま短剣に力を入れる。

しばらく鍔迫り合いが続いていたが、エストック使いは力を入れていたエストックをふと後ろに下げる。そして、エストックをトウガ目掛けて突いたが、トウガはそれを予想してたかのように突きをしゃがんで回避すると

 

「お前のエストックは速いが、攻撃パターンやお前の動きを見切ってしまえば、どうということはない!」

 

そう言いながら、短剣で斬り上げた。

エストック使いは体を後ろに曲げることで攻撃を躱したが、その時、一瞬だけフードの奥に隠れていた顔が見えた。

 

「・・・赤目?」

 

それは、仮面の下で薄っすらと光り輝く赤色の目だった。その目には美しさはなく、おぞましい。けれども、何処か惹かれような何かを感じるものだった。

光り輝く赤色の目に見惚れ、思考が一瞬だけ鈍くなるトウガ。

その一瞬がトウガの反応を遅らせた。

 

「対応が、遅れたな」

 

エストック使いはその一瞬の隙を見逃さず、<スター・スプラッシュ>のモーションに入っていた。

 

「マズい!」

 

トウガは咄嗟に回避しようとしたが、八連撃もあるこのソードスキルの連撃を全て避けきるのは困難であり、エストック使いから繰り出された<スター・スプラッシュ>を全て避けきることはできず、何箇所かエストックによって体を貫かれた。

 

「ぐっ・・・!」

 

強力なソードスキルを食らい、その場に膝を付くトウガ。

すると、エストック使いがトウガに向かってエストックを突き付けながら喋った。

 

「一対一、なら、俺に、勝てると、思ったか?そう簡単に、俺を、出し抜けれると、思うな」

 

「そんな・・・トウガさんが一方的に押されているなんて・・・」

 

「先程、私と戦った時は手加減されておりましたのね・・・」

 

コハルが信じられないといった顔をし、サーニャが先程まで自分と戦ってた時に手加減されてたことに気付き苦渋の表情をしていた。

しかし、トウガは顔色を変えることはなく

 

「・・・確かにお前は強い。悔しいが、お前の実力は攻略組にも匹敵する。だが!その程度で絶望してやれる程俺は弱くないぞ!」

 

そう言いながら、エストック使いに斬りかかった。

再び剣戟を繰り広げる両者だったが

 

「(くっ、隙がなさすぎる!)」

 

エストック使いは槍の時と違って相当な手練れであり、男から繰り出される素早い攻撃に、トウガはソードスキルを発動させる暇もなく防戦一方であった。

 

「どうした?先程、までの、威勢は、何処に、いった?」

 

「ちっ、抜かせ!」

 

言葉では強気になっているトウガだが、実際はかなり焦っていた。

 

「(このままでは、奴のエストックに押し切られて終わりだ。強力なソードスキルを繰り出そうにも、奴のエストックが速すぎてスキルを出す暇がない。何とか奴がソードスキルを発動させる前にこちらからソードスキルで決めれればいいが、今の俺には、奴のエストックよりも早くソードスキルを発動させる技術は・・・)」

 

剣戟を繰り広げながら、打開策を考えていたトウガだったが

 

「(待てよ・・・この間、習得したあれなら行けるかもしれない)」

 

何か掴んだのか、その場で立ち止まり、エストック使いを正面から見据えた。

それを好機だと思ったエストック使いは、トウガに近づきながらの<スター・スプラッシュ>のモーションをし

 

「終わり、だ」

 

<スター・スプラッシュ>を放とうとした瞬間

 

「今だ!」

 

トウガはソードスキルが放たれるタイミングでジャンプし、<スター・スプラッシュ>を躱した。

すると、トウガは跳んでいる最中に空中で短剣を三振り程振った。

一方、自身のソードスキルを躱されたエストック使いは空中にいるトウガを見ると鼻を鳴らした。

 

「ふん、空中に、跳んだ、からと、いって、俺の、攻撃から、逃れられると、思うな」

 

「お前の攻撃?もう避ける必要なんてないぞ」

 

「なに?・・・大口を、叩けるのも、今の内だ!」

 

トウガの言葉の意味を理解できなかったものの、エストック使いはトウガの着地した瞬間を狙おうとエストックを構えながらトウガに迫ってきた。

対するトウガは、特に焦った様子もなくニヤッと笑みを浮かべると

 

「なぜなら・・・お前は既に俺の攻撃範囲内(テリトリー)だ」

 

そう言いながら、着地と同時に短剣を振った次の瞬間

 

「ぐぉ!?」

 

トウガの近くまで迫ってきていたエストック使いが突然何かに斬られたかのような声を出し、動きを止めるとその場に膝を付いた。

トウガに近づいた瞬間斬られた様な感覚を身に感じたエストック使いは己の体を見てみると、案の定斬られたような跡があった。

あの一瞬で何が起きたのか。エストック使いやそれを見ていたコハルとサーニャも驚きながらトウガを見る。

一方、謎の攻撃を仕掛けた張本人(トウガ)はHPが半分以下になったエストック使いのHPバーを見つめると、独り言のように呟いた。

 

「HPバーには特に何もないな。やはり、そう簡単には麻痺らないか・・・熟練度とかをもっと上げれば麻痺を付与できる確率も上がるか?」

 

短剣ソードスキル<ラジオナイフ>。全方位攻撃を持つこのソードスキルは食らえば大ダメージは勿論のこと。低確率で相手を麻痺らせることができるソードスキルである。

しかし、それを発動させるモーションは極めて難しく、空中で三回素振りをした後、着地と同時に最後の一振りをしないと発動しない。

トウガが<スター・スプラッシュ>を空中に跳んで避けたのには二つの理由があった。一つは攻撃を回避するため。もう一つは<ラジオナイフ>でエストック使いにカウンター攻撃を仕掛ける為であった。

膝を付きながらトウガを見上げるエストック使いに、トウガは先程エストック使いがやった時と同じように短剣を向けながら宣言した。

 

「俺一人なら余裕だと思っていただろ?悪いが、こちらも毎日メンバー同士で一対一のデュエルをしていてな。そう簡単に俺を出し抜けれると思うなよ」




・「あるよ!策、あるよ!」
謎のブラックさん「無いよ!剣、無いよ!」

・白髪の男
オリキャラの一人。顔はまだフードに隠れて見えないが、隙間から薄っすらと白髪が見えている。CVは神谷浩史。オレンジ集団並びに後の「ラフィン・コフィン」サブリーダーで、その実力もハルトと同じくらいの強さを持っている。※一応言っておきますがテュフォン(SAOIFオリキャラ)ではありません。

・<ブルー・スター>
細剣の星4スキル。攻撃しながら前方に移動できるスキル。簡単に言えば、<シューティングスター>の星4バージョン。

・《全属性使い》(オールラウンダー)
文字通り(作者命名)、SAO及びSAOIFで三つの属性武器全てを使いこなせるプレイヤー。ハルトは片手直剣、細剣、槍、片手棍、斧の五つの武器を鍛えています。ちなみに作者はこの五つに加えて短剣も鍛えています。割と大変。


・<アビス・インパクト>
オリジナルスキル。SAOIFだと片手棍の星4。空中に空高く跳び、落下と共に棍を地面に叩きつけるように片手で振り下ろすソードスキル。自分の前方にいる敵を円形の範囲で攻撃でき、威力も中々ある。

・<ラジオナイフ>
オリジナルスキル。SAOIFだと短剣の星4。自分の周りにいる敵を攻撃することができる全方位攻撃を持つソードスキルで、低確率で相手を麻痺らせることができる。ただし、麻痺は人間のみにしか発動されないので、エネミーにやっても麻痺らない。


オレンジプレイヤー戦、前半戦終了!
終始戦闘シーンとなると、やっぱり時間が掛かるな。
次回、ソウゴVS毒ナイフ使い。ハルト&シロコイVS白髪の男。そして、あいつとあいつが遂に再会する!


<オマケ>
現在、SAOIF三周年前ということで、カウントダウンに合わせて『ソードアート・オンライン IF』のオリキャラを一日ごとに紹介しています。興味がある方はこちらのリンクからご覧ください。
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