ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
二十五層編はボス攻略も含まれて二話のみとなっております。
まずは攻略パート。開始早々新キャラが登場します。
数多の激闘を乗り越えていき、遂にアインクラッドの1/4、二十五層へたどり着いたハルトとコハル。
アインクラッド全百層の内、三つしか存在しないクォーター・ポイントの一つでもあるこの層に対して、気を引き締めて攻略に挑む二人。
辺り一面、雪原のフィールドを進んでいる途中、アスナと会い、彼女から、今、攻略組が行っている迷宮区攻略に関してのクエストと、そのクエストの事でキリトからメッセージが届いたことを聞いた。
そして、彼女と共にキリトから指定された場所へ来たのだが・・・
「・・・それで、キリト君。どういうことか説明してもらおうかしら?」
「えぇっと、だな・・・」
笑顔。けれでも、その裏にかなり怒気を含みながら問いかけるアスナと、そんなアスナに圧倒されながらも何とか事情を説明しようとするキリト。
「ふむふむ。これが修羅場と言うものですね」
その横では、肩まで伸びている黒髪を三つ編みに纏めている女性が興味深そうに二人を見つめていた。
そんな三人の様子を部屋の隅で見ていたハルトとコハルは、ひとまず、アスナを落ち着かせると、キリトから事の経緯と呼び出した理由について聞いた。
黒髪の女性の名はスティラ。彼女は雪崩に巻き込まれそうになったところキリトに助けられた。
その直後、アルゴからキリトにメッセージが送られた。その内容は二十五層攻略に関わるクエストを手伝ってほしいとの事で、詳しい話は助っ人から聞いてくれと書かれていた。
メッセージを読んだキリトはアルゴが指定した場所へ向かったが、その途中、戦力は少しでもあった方がいいと思ったキリトはアスナにメッセージを送り、圏内のとある一軒家に呼び出したのだが・・・
「キリト君が私を呼んだ理由は分かったわ。でも、なんでスティラさんも一緒に連れてきたの!?」
「いや、だって・・・あのまま別れたら、また危険な目に合うかもしれないだろ?だから、圏内まで一緒に行動することになって・・・ついでに、人数は少しでも増えた方がいいかなって思って・・・」
「ついでにって・・・聞いた話、危険なクエストらしいけど大丈夫なの?」
アスナの問いに歯切れ悪く答えるキリトだが、アスナはあまり納得してない顔をする。
すると、横で聞いていたスティラが目をうっとりさせながらアスナに話しかける。
「分かります!これは嫉妬ですね!アスナさんはキリトさんを愛している!そうでしょう!」
「なななななな!何を言い出すんですか!?」
スティラの言葉に、アスナは顔を赤くする。
「え?それはないだろ?」
「どうしてキリト君が私のことを決めつけのよ!」
「・・・なんで、俺は怒られたんだ?」
突然怒られたことにキリトが疑問を浮かべる。
その間にもスティラはうっとりとした顔で妄想を進めていく。
「はぁ~素敵・・・!これがいわゆる、恋の揉め事ってやつですね!」
「違います!」
このままでは、アスナが恥ずかしさによって暴走し兼ねない為、そこら辺で止めようとコハルが口を開こうとしたその時
「何やってんだ?テメェら」
部屋のドアが開き、こちらの様子を怪訝そうな顔で見ているザントとラピードがいた。
「ザント?なんでここに・・・?もしかして、アルゴが言ってた助っ人って・・・」
「俺だろうな。たく、アルゴの野郎。ここから先は俺一人じゃ危ないからって理由で助っ人を呼んだのは別に構わねぇが、よりにもよってバカップル二組かよ」
「なんでザントさんは私とキリト君が付き合っている前提なんですか!?」
「おいおい、テメェらはいつも二人でいるだろ。そんだけ一緒にいりゃ、もう付き合っているも同然じゃねぇか」
「そりゃ、俺とアスナはよくコンビを組んでるけどよ、それだけで付き合っているって決めつけるのはどうかと思うぞ?ハルトもそう思うよな?」
キリトが同意を求めるかのようにハルトの方を向いたが
「「・・・・・・」」
ハルトは何も言わずにキリトから目を逸らした。コハルも同様に同意を求めてきたアスナの目線から目を逸らした。ついでに言うと、二人共顔が若干赤かった。
「ハルト・・・お前・・・!?」
「コハル・・・あなた、まさか・・・!?」
キリトとアスナが驚愕の表情でそれぞれの友の顔を見つめる。ザントはやっぱりかと言わんばかりの表情で二人を見ていた。あれだけいつも二人一緒に居るのに、寧ろそういう関係にならない方がおかしいだろう。
衝撃の事実にキリトとアスナが驚いていると、またもやスティラがトリップし始めた。
「はぁ~アインクラッドで出会った二人が、幾つもの困難を二人で乗り越えて、やがて恋に落ちる!なんてロマ「まあいい。フィールドでイチャイチャしねぇ限りは同行を認めてやるよ。とりあえず、テメェらをここに呼んだ訳を話しておく必要があるな。ここに来たってことは、既に例のクエストの事について知っているな?」ンチックなんでしょう!」
「は、はい(ザントさん、スティラさんのことに気づいているのかな・・・?)」
完全にスティラの存在を無視しているザントに、コハルは心の中で呟いた。
ザントの話によると、この二十五層で迷宮区攻略に必要なアイテムが手に入るとのことで、ザントはアルゴからそれに関するクエストの調査の依頼を受けた。
クエストを進めている最中、同じクエストを攻略していると思われるALSがダンジョン《旧刻の塔城》でピンチに陥っている場面に出くわし、彼らをその場で救出した。その後、助けたことを恩として、このクエストを自分に任せてほしいと提案した。当然、ALSは反発したが(主にジョーと名乗る黒レザーマスク男が)、先程ピンチになったことを踏まえた誠心誠意を込めたOHANASHIと報酬の半分をALSに渡すことを条件として下がらせることに成功した。
そして、《旧刻の塔城》も無事攻略し、クエストを進めたザントだったが、今度は《旧刻の塔城》の最上階にいるボスを倒すとのこと。
ザントは一度アルゴの所に行き、彼女に調査の中間報告を行った。そして、彼女から「これ以上、ソロで攻略するのはいくらザントでも危険ダ」との理由で、助っ人を用意するから彼らと一緒に攻略して欲しいと言われた。
ザント自身も《旧刻の塔城》での経験からクォーター・ポイントの難易度の高さをその身で味わった為、特に否定することなく、助っ人と合流するべくアルゴが指定した場所へ向かった。
「つー訳だ。んで、テメェら四人にはこれから俺と一緒にその城のてっぺんを目指してもらう。別に強制はしねぇ。来たい奴だけ名乗りを上げろ」
一通り説明を終えたザントは、ハルト達に来るか来ないかの選択を与えた。
そんな中、真っ先に手を上げたのはコハルだった。
「私は行ってみようかな。こういうのって、ちょっとでも面白そうだなって思ったら、なんでもやってみるといいと思うの」
「コハルの言う通りだ。RPGで塔と来れば、てっぺんを目指すって決まっているからな」
「そうね、私もそう思う」
「てっぺんまで行けば、どんな景色が見れるのかワクワクするしね」
コハルに続いてキリト、アスナ、ハルトと次々と参加を表明する。
ザントは決まったな、と言わんばかりの表情で口を開こうとしたその時、もう一人参加を希望する者が名乗りを上げた。
「私もご同行します。あの城のてっぺんには私も興味ありますし」
興味深そうにザントを見つめるにスティラ。
そこで、ようやくザントはスティラに目を向けた。
「待てや、妄想メルヘン女。何、勝手についていこうとしてんだ。俺が何時テメェの同行を許可した?」
「あら?私だけ仲間外れだなんて酷いですよ」
「俺からも頼めないか?彼女は一応二十五層をソロで攻略してたみたいだし、それなりに強いとは思うけど・・・」
キリトがスティラの同行を願うも、ザントは首を縦に振らず、代わりに人差し指を立ててキリトに向けた。
「一つ、俺は余程の事がない限り、初対面の人間とパーティーを組むつもりはねぇ。組んでも、相手の能力が分からなけりゃ連携がしづらくなるからな。二つ、攻略組でもなければ、中層ギルドにも所属してない無名のプレイヤー。そんな得体の知れない奴と組むつもりはねぇ」
中指、薬指と指を立てていきながら、ザントは三つの理由を話す。
「三つ、クォーター・ポイントをこんな軽装備で来る自殺願望者をパーティーに入れる馬鹿が何処にいる?」
ザントの言葉に、ハルト達は一斉にスティラを見る。
言われてみれば、彼女の見た目はレアな装備ではなく、何処にでも売ってそうな安物の防具。攻撃をまともに食らえば、HPはすぐゼロになるだろう。
そんな格好でクォーター・ポイントの二十五層に来れば、周りから変人と思われても何の不思議ではない。
「以上、三つの理由でこいつの同行は俺が認めねぇ。得体の知れない自殺願望者を連れていこうなんて馬鹿のすること――「つまり、私があなた方とご同行させていただくには、あなたに私の力を認めてもらう必要があるっと?」っ!?」
ザントは突如後ろに気配を感じ、その場で飛び退きながら後ろに振り向く。
すると、先程ザントがいた場所にスティラが微笑んでいた。
油断してた訳ではない。ただ、一瞬だけスティラから目を逸らした瞬間、後ろに回り込まれていた。
アインクラッドに来てから今まで後ろに、それもこんな近くにまで回り込まれることなんてなかった。だからこそ、目の前の女が自分の後ろに回り込んだことと、それに気付けなかった事に驚きを隠し切れないザント。そんなザントを、スティラはきょとんとした顔で見つめる。
「あら?どうしたんですか?そんな怖い顔をして。ひょっとして・・・私、何かやっちゃいましたか?」
「う、嘘・・・!?」
「いつの間に・・・!」
ハルト達もスティラがいつの間にかザントの後ろに回っていたことに驚愕する。
ザントは冷や汗をかきながら、スティラを警戒する。
「(何者だ?この女・・・)」
「それで、ザントさん。改めてお聞きしますが、あなた方に私もついて行っても構いませんか?」
そんなザントをよそに、スティラは微笑みながら問う。
スティラの底知れぬ何かを感じ取ったザントは険しい表情でスティラを睨んでいたが
「・・・好きにしろ」
最終的には彼女の実力を認め、同行を許可した。
《旧刻の塔城》へやって来たハルト達。
城の中は雪原フィールドということもあって、神秘的な城だった。
そんな城の中を進めていくと、大広間に出た。
円形となっている大広間には、上を見上げると地面からかなり離れている天井が見え、その端には螺旋状の階段が置かれていた。
そして、氷でできたゴーレムが複数、大広間を歩いている。
「どうやら、ただでは行かせてくれないみたいだな」
「さっさと倒して、上に上がるぞ」
キリトとザントが喋りながら剣を抜く。
ハルト達は先に進むべく、大広間にいる複数のゴーレムと交戦した。
ゴーレムは攻撃力は高いが足が遅い為、ハルト達は攻撃に注意しながら隙を付いて攻撃し、次々とゴーレムを倒していった。
そんな中、応戦していたスティラの背後に一体のゴーレムが拳を振り上げていた。
「スティラさん!危ない!」
「!?」
コハルの叫び声に反応しスティラは後ろを振り向いたが、その直後、ゴーレムの拳はスティラ目掛けて振り下ろされた。
スティラは特に防御や回避する動作をしておらず、誰もが当たるっと思い込んだその時
ズシン!
「は、外れた・・・?」
「助かりました。わぁ!拳が床にめり込んで抜けないみたいですね。コハルさん!今のうちですよ!」
「は、はい!ヤァーーー!」
拳はスティラに当たらず、彼女の横に振り下ろされて、そのまま地面にめり込んでしまった。
その隙にと、スティラの言葉で我に返ったコハルは短剣でゴーレムに攻撃すると、ゴーレムはそのままポリゴン状に四散した。
「ふぅー」と息を吐きながらコハルは辺りを見渡す。
大広間にはゴーレムの姿はなく、どうやらコハルが倒したので最後だったようだ。
「ひとまず片付いたみたいだな」
「また出てくるかもしれないし、先を急ぎましょう」
アスナの言葉に頷くとハルト達は螺旋階段へ向かう。
スティラもハルト達の後に続こうとしたが、その前にザントによって制止させられる。
「・・・テメェ、マジで何者だ?」
「ん?どうかしました?もしかして・・・愛の告白とか・・・?」
「妄想はいい。テメェ、どれだけ<体術>を鍛えていやがるんだ?」
「・・・レベルを上げてたら、いつの間にかこのスキルが使えるようになったんです。だから、せっかくだし使いこなせるようになってみようと思ったんですよ。まだまだ手探りなんですけどね」
「ざけんな。手探りの奴が拳が当たる直前にゴーレムの拳を殴って軌道を逸らす真似なんざできるわけねぇだろ。仮にできたとしても、それこそ相当<体術>の熟練度を上げてねぇと、あそこまで完璧に軌道を逸らすことなんざできねぇだろうが」
「うふふ、買い被りすぎですよ、ザントさん」
警戒しながらも探るように問い掛けるザントと自分のペースを崩さず終始笑みを浮かべながら答えるスティラ。
「おーい!二人共、早くこっち来いよ!」
すると、キリトがこちらを呼んでいる声が聞こえ、既にザントとスティラ以外のメンバーは螺旋階段前に来ていた。
「あの時はたまたま上手くいっただけですよ。それよりも、急ぎましょう。早く行かないと置いて行かれちゃいますよ」
「・・・ああ。ひとまずは、そう言うことにしといてやるよ」
クエストを進めることを優先したザントは、一旦話を切ると、彼女と共に螺旋階段に向かった。
螺旋階段は城のてっぺんまで続いており、コハルがてっぺんまで続く螺旋階段を見上げながらハルトに話しかける。
「見て、ハルト。てっぺんまで凄い高いよ。この階段を上っていくんだよね?なんか、リアルの非常階段を思い出したよ」
「確かに形は非常階段と似てるね。足を踏み外さないよう慎重に上ろう」
ハルトは周りに向かってそう言った。
すると、コハルは突然恥ずかしそうにしながらハルトに声を掛ける。
「・・・あのさ。私、しんがりでもいいかな?」
「別にいいけど・・・危険だよ?」
突然しんがりをやりたいと頼んできたコハルに、ハルトは少し不安気な表情で返した。
更にそれを聞いていたキリトとザントもコハルに声を掛ける。
「ハルトの言う通り、しんがりは危険だぞ。上っている間、何時エネミーが襲ってくるか分からないし、後ろから来たエネミーに真っ先に狙われる可能性だってあるぞ」
「テメェがやる気を出すのはテメェの勝手だが、勝手にやっといてピンチになるって展開は俺はゴメンだぜ」
二人共あまりオススメしないといった感じで喋る。
すると、コハルは顔を赤くしながら、ハルトの顔と自身の足元を交互に見ながら喋り出す。
「その・・・えっと・・・ね。これ・・・螺旋階段だし・・・しかも、かなり急だし・・・だから・・・その・・・」
何処か悩んでいるような素振りをしつつも、彼女は両手でスカートの裾を伸ばして、その先端を自身の膝に近づけようとした。
それを見たアスナは「あっ」と言いながら何かを察し、スティラも「あらあら」と手を顔に当てながら困ったような表情を浮かべた。
しかし、男三人の反応はというと
「「「??」」」
三人揃って訳が分からないって表情をしながら首を傾げた。
「まったくもう!!」
「三人共、いくら何でも鈍すぎるわよ・・・」
「あらあら、困りましたね・・・」
あまりにも鈍すぎる男三人にコハルはキレて、アスナとスティラは呆れた。
結局、しんがりは付き添いとしてラピードがコハルに付いておくことになり、男三人はコハルの行動の意味を最後まで理解できず、もやっとした気持ちのまま階段を上っていった。
螺旋階段を上り切り、城の最上階へたどり着いたハルト達。
「やっと最上階だね。ここにボスがいるはずなんだけど・・・あれ?」
「誰も・・・いない・・・?」
コハルが呟き、ハルトが辺りを見渡しながら警戒する。
最上階の部屋には人っ子一人もいなく、部屋には数々の家具や日用品だけ置かれていた。
「気ぃ引き締めろよテメェら。この部屋の何処かにボスが隠れているかもしれねぇからな」
ザントが険しい表情で喋りながら警戒したその時
「っ!?」
横から何かが近づいてくる気配を感じ、ザントは咄嗟に体を捻らす。その直後、ザントがいた場所に燭台が凄まじい速度で通りすぎ、そのまま壁に激突した。
「大丈夫ですか!ザントさん!いったい何処から攻撃が!?」
コハルがザントを心配しながら辺りを見渡すが、部屋にはボスらしき者の姿はなく、家具や日用品のみがただ静かに置かれている。
「遠隔操作・・・?いや、ちげぇな。SAOにそんなハイスペック機能があるはずねぇ。サイコキネシスなら部屋にボスが隠れていてもおかしくはねぇが・・・」
ザントがそう呟くと、今度はテーブルが彼に目掛けて物凄いスピードで迫ってきた。
ザントはそれを冷静に躱した直後
「っ!?」
キン!
背後から突如気配を感じ、咄嗟に反応して《蒼嵐》で防ぐ。
ザントを襲ったもの正体は先程壁に激突したはずの燭台だった。
「あれって、燭台!?でも、どうして・・・?」
「そうか・・・そうだったんだ!」
「え?何か分かったの?」
コハルが疑問の声を出す中、ハルトはボスの仕組みについて気づいた。
「ボスは始めから、この部屋にいたんだよ」
「え?でも、ボスの姿なんて何処にも・・・」
「・・・ポルターガイストだ」
ハルトの説明にキリトが補足する。
その直後、先程飛んできたはずのテーブルや燭台を含む部屋に置かれていた家具や日用品が一斉に浮かび上がる。
「おそらく、見えない何か・・・この部屋に隠れているボスがこの現象を引き起こしているんだと思う」
「そうなると、まずは本体を探す必要があるな。皆、注意しろよ。敵が見えない今、この部屋全体がボスだと思った方がいい」
「だろうね。とは言え、流石にこれだけの数を捌きながら本体を探せとなると、少し厳しいかな」
ハルトが難しい顔をしながら、一点に集まっている家具や日用品を見る。
すると、スティラが手を短く上げながら口を開いた。
「それでしたら、私がタンク役を務めます。専門ではありませんが、守りは得意な方です」
「スティラさん!?でも、そんな軽装備でタンクなんて無茶ですよ!」
「安心しろ。この女の場合、軽装備だろうと当たらなければ問題ないからな」
コハルがスティラを心配する一方、ザントは問題ないだろっといった顔でスティラを見た。
「ザントさんの言う通りです。何も受け止めるだけが防御ではありません。耐えるだけがタンクでもありません。耐えられないなら――」
そう言っていると、スティラに向かって燭台が迫ってきた。
コハルが「危ない!」と言いながらスティラに近づこうとした直後
「軌道を逸らしてしまえばいいのです」
スティラは目に見えない速さで燭台を殴り付け、彼女に向かって飛んできた軌道をずらした。
軌道をずらされた燭台はそのまま壁に激突した。
「え?・・・燭台の方がスティラさんを避けた・・・?」
「殴って軌道を変えたんだ。それもあんなに早く・・・!」
何が起こったのか分からずあたふたしているコハルにハルトがあの一瞬で何が起きたのか説明するが、その表情はとても険しかった。
何せ、飛んできた燭台の早さもそれなりに早かったのに、スティラはそれ以上の早さで一秒にも満たない時間の中で完璧に軌道を逸らしてみせたのだ。そんな神業を見せられて、ハルトは驚かずにはいられなかった。
「それ!もう一発!」
迫ってきたテーブルを今度は拳で殴り飛ばし、近くにあったタンスに当てるスティラ。
「凄い!今度は跳ね返して近くの敵に当てた!」
「・・・ねぇ、キリト君。<体術>って鍛えれば、あんなこともできるようになるの?」
「いや、<体術>であんなことができるなんて、聞いたことないぞ・・・!ある意味、ザントと同レベルの非常識な人だな・・・」
「なるほど、これがゴリラ女か・・・」
「ザ・ン・トさぁ~ん。世の中には言っていいことと悪いことがあるんですよぉ~」
「あ、ああ、悪かった。(なんだ!?この威圧感は!)」
スティラから放たれた謎の威圧に思わずたじろぐザント。
そんなザントには目にもくれず、スティラはパンッ!と手を叩く。
「さて、タンクは私が務めます!皆さんはその間にボスを倒してください!」
「あ、ああ!皆、行くぞ!」
キリトの言葉と共にハルト達は一斉に動き出す。
迫ってくる家具や日用品はスティラが受け流してくれて、その隙にハルト達は次々と家具や日用品に攻撃していき、ボスが纏っていると思わしき家具や日用品を全て引き剝がすことに成功した。
「よし!これでボスにダメージを与えることができるはずだ!また家具を纏う前に止めを刺すぞ!」
「そうね、キリト君。でも・・・ボスの姿が見えないから何処にいるのか分からないわ!」
「早く倒さないと、また家具を纏ってしまう!」
ハルト達が姿が見えない本体をどうしたら見つけることができるのか悩んでいると
「ヴォン!」
ラピードが突如何もない空間目掛けて飛び込んだ。
すると、ラピードは何かに嚙みついているかのように空中に浮いていたが、見えない何かによって飛ばされ、壁に激突した。
「どうしたの!?ラピード!」
「!? おらっ!」
コハルがラピードの行動の意図が理解できずに戸惑っている中、ザントは先程ラピードが飛び込んだ空間に<ウイング・ディストラクション>を放った。
斬撃は何もない空間を通り過ぎていき
ズバッ!
何かが斬れたような音が部屋中に響いた瞬間、宙に浮いてあった家具らは一斉にポリゴン状に四散した。
「読み通りだな」
「えっと・・・どういうことですか?」
「狼ってのは、嗅覚が人間の数万倍優れているんだよ。こういった見えない敵だろうと、匂いで居場所が分かっちまうんだよ」
「それで、ラピードが飛び込んだ場所に斬撃を放ったのか・・・何というか・・・お前は勿論だけど、ラピードもお前の相棒だけあって、めちゃくちゃだな・・・」
「フフフ、ありがとう、ラピード」
「クゥーン」
ザントの相棒だけあって非常に優秀なラピードにキリトは呆れ、アスナはボスを倒す決め手となったラピードにお礼を言いながら頭を撫でると、ラピードは嬉しそうにしながら目を細めた。
「ひとまず、ボスも倒せて全員無事に生き残れたし、一件落着だね」
「そうだね・・・ん?何かドロップしてある・・・?」
そう言いながら、ハルトはストレージから一本の短剣を取り出した。
「そのドロップアイテム、どんな効果があるの?」
「うーん・・・ステータスはかなり高めだけど、特にこれと言った特殊な効果はないみたい。二十層の時みたいに、フロアボスを攻略してる最中に効果が発揮されるかもしれないし・・・」
「随分と個性的な形をしてますね。短剣って言うより鍵みたいな感じですね」
ハルトとスティラが短剣を見つめながら様々な考察をしていると、ザントから声を掛けられる。
「この事に関しては後で考えておけ。とにかく、外に出たら、今日はこれで解散だ。攻略組によりゃ、数日後にフロアボス攻略をやるみてぇだから、参加してぇ奴は迷宮区前に集合な」
ザントの言葉に従い、ハルト達は最上階から螺旋階段で降り城の外に出た。
その後、クエストは無事クリアとなり、報酬を山分け(ALSに渡す分も含めて)したところで、それぞれ解散となった。
数日後、スティラとラピードを除くハルト一行が迷宮区前にたどり着くと、ALSとDKBが入口の前で何やら困った顔をしながら突っ立っていた。
すると、キバオウとリンドがこちらに近づいてきているハルト達に気づいた。
「なんや、ジブンらか。一応言っておくが、待っとったわけやないぞ。扉が凍り付いて開かん。そこの
「君たちはそのクエストを進めたんだろ?ここに入る手がかりは何かないのか?」
リンドから手がかりについて聞かれるが、手がかりと言える物がなく困った顔をするハルト達。
そんな中、ザントが口を開いた。
「ハルト。あの短剣を出せ」
「え?は、はい」
ハルトからクエスト報酬の短剣を受け取ったザントは、そのまま扉の前まで近づき、扉にあった鍵穴らしき部分に短剣を刺した。
すると、扉はゆっくりと音を立てながら開いた。
「おお!開きよったわ!」
キバオウが笑みを浮かべながら喋ると、ハルト達の方を向く。
「やれやれ、しゃあない。貸しを作るのは不本意や。ジブンらにもフロアボス攻略の参加を認めたるわ」
「ああ、彼らが参加してくれるのなら心強い。では、突入と行こう」
キバオウとリンドがそう言うと、迷宮区の中に入っていき、攻略組も後ろに続く。
「
「まあまあ、俺たちがあのクエストをクリアしたおかげで迷宮区の扉が開いたんだし、結果オーライってことで」
のけ者にされかけたことに不機嫌なザントをキリトが宥めながら、ハルト達も攻略組の後に続いた。
迷宮区の近くの丘で攻略組が迷宮区へ入っていく様子を二人組のプレイヤーが見つめていた。
「・・・予定とは随分と違っているようだな」
「うっ・・・!」
一人のプレイヤーの呟きにもう一人のプレイヤーが気まずそうに声を漏らす。
「迷宮区を開く扉の鍵を手に入れたALSが、そのまま抜け駆けしようと単独でフロアボスに挑むも返り討ちに合い、ALSは戦力を大幅に激減する。なのに何故、奴らはいつも通りフロアボスに挑もうとしているんだ?」
「すいません、サブヘッド・・・」
顔を覆い隠すレザーマスクを被った男は自身の組織のサブリーダーに謝罪する。
「どうも作戦を《
「ふん、たかが一人のプレイヤーに作戦を台無しされるとは、実に無様だな。だが、まあいい」
「ええ!?けどよ、このままじゃ、またいつもみたいに攻略されちまいますよ!」
「心配ない。既に第二の手は打ってある」
そう言いながら、レッドプレイヤー集団のサブリーダーである男は、フードの影から薄っすらと見える白髪を揺らしながら、攻略組が迷宮区へ入っていく様を見つめる。
「(今回のフロアボスはクォーターポイントのボス。かなりの強敵だと思われるが、果たして何人生き残れるか・・・)」
そんなことを思いながら見つめていると、迷宮区へ入ろうとするハルトの姿が目に映った。
男は一瞬驚いたが、すぐに頬を歪ませ口元に笑みを浮かべる。
まるで、獲物を見つけ歓喜を奮い立たせる獣のように
「簡単に死んでくれるなよ。貴様を殺すのはこの俺だ・・・!」
・スティラ
SAOIFのオリキャラ。見た感じうふふ系のお姉さんキャラだが、その見た目とは裏腹に物凄い<体術>の達人。尚、出番はこの話以降ない予定。
・「私、何かやっちゃいましたか?」
スティラは賢者の孫だった!?
・耐えれないなら軌道を逸らせばいい
何処ぞの赤い彗星「当たらなけばどうということはない」
・非常識な人達
ザント:フィールドボスを物理でテイム
スティラ:<体術>で攻撃の軌道をずらす
・有能狼『ラピード』
ザント「俺が育てた」
あまりにも短いですけど、以上で攻略パート終了です。
というか、二十五層のストーリーってシノンがメインだから、それを全て省くと結構短くなるんですよ。
ということで、新年最初の投稿は二十五層ボス攻略となります。
それでは皆さん、良いお年を!