ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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新年あけましておめでとうございます。
今年はSAO編完結までを目標をしているイノウエ・ミウです。
こんな小説を見てくださっている読者の皆さん。今年もマイペースで投稿してくつもりですので、何卒よろしくお願い致します。
それでは、新年最初の話は第二十五層ボス攻略です。


ep.29 第二十五層ボス攻略

迷宮区を難なく進んでいき、ボス部屋前までたどり着いた攻略組。

すると、ボス部屋前に人だかりが見えた。

 

「あれは・・・血盟騎士団?」

 

「紅の狼とレジェンド・ブレイブスの人達もいるよ」

 

見覚えのある集団にハルトとコハルが呟く。

フロアボス攻略の参加経験がある3ギルドがボス部屋前に溜まっていることに二人が疑問を浮かべる中、キリトがトウガに話しかける。

 

「よう、トウガ。元気そうだな。なんで、お前らは血盟騎士団とレジェンド・ブレイブスの人達と一緒にいるんだ?」

 

「ん?キリトか。出会って、早々質問するとは自己中にも程があるぞ。まあいい、俺らとレジェンド・ブレイブスの人達は血盟騎士団、いや、正確にはヒースクリフに頼まれて一緒に行動してたんだ。それで、本隊よりも一足早くボス部屋前にたどり着いたから、ここで待っていたんだ。もっとも、協定の結果、今回のフロアボス戦はALSが主体となって挑むから、ボス攻略が始まっても俺らはここで待機することになるけどな」

 

「なるほどな。それで、他のメンバーは不機嫌そうな顔をしているんだな」

 

「まぁな、ALSに何かあるまでは暇だからな。まぁ、何もなければ、それに越したことはないが・・・」

 

そう言いながら、戦闘準備をしているALSを見つめるトウガ。

そこにハルトとコハルが話しかける。

 

「久しぶり、トウガ」

 

「こんにちは、トウガさん」

 

「ハルト、コハル、久しぶりだな。元気そうでなりよりだ」

 

再会を喜び合いながら、会話を弾ませる三人。

すると、ハルトがある人物に目を向ける。

 

「あれって・・・ヒースクリフ?」

 

「ホントだ。ヒースクリフさんがフロアボス戦に参加するなんて珍しいね」

 

「二人もそう思うだろ。今まで、血盟騎士団がボス攻略に参加することは稀にあったが、本人が参加することなんてなかったからな」

 

「最後に参加したのは確か十三層だったよな。わざわざ、他ギルドであるトウガ達を集めて攻略しようしてたし、ここがクォーター・ポイントだから警戒しているのかもしれないな」

 

「血盟騎士団」団長、ヒースクリフ。

高い指揮能力と持ち前のカリスマ性を生かし、ギルド「血盟騎士団」を作り上げた人物。元々は少数しかいなかった「血盟騎士団」を攻略組に匹敵するレベルまで育て上げて、本人も高い戦闘力を持っており、その力は、ハルト、キリト、トウガ、ザントなどと言ったトッププレイヤーと同じレベルだと言っても過言ではない。

底知れぬ力を持っているであろうヒースクリフをハルト達は興味深そうに見つめていた。

 

「おいコラそこッ!いつまでも無駄話せえんで早よ来いや!だらだらしとると置いていくで!」

 

「ああ、悪い。じゃ、行ってくるぜ」

 

キバオウの怒鳴り声が聞こえ、振り向くと既にボス部屋の扉は開いており、ALSを中心とした攻略組が次々と部屋の中へなだれ込んでいた。

それに気づいたキリト達は、トウガに一言挨拶すると、ボス部屋に入っていった。

ボス部屋は背景に夜の雪原が映し出されており、薄暗い印象の部屋だった。

レイドメンバー全員が部屋の中に入った瞬間、部屋に入った全員が目を見開いた。

 

「あれが・・・クォーター・ポイントのボスか・・・!」

 

キバオウが薄っすらと声を漏らすが、その声は僅かに震えている。

それもそのはず、ボスの見た目は大人の身長の何十倍もあるであろう大きさで、体から生えている四本の手にはそれぞれ巨大な鎌、斧、鎖で繋がれた鉄球が左右に一つずつ持たれていた。

今まで戦ったボスの中で一番の大きさを持つであろうボスに誰もが圧倒される中、ボスの横にHPとボスの名前、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》と表示された。

 

「・・・クォーター・ポイントって言うだけあって、確かに今まで一番ごっつええ奴や。せやかて、ワイらもこん時の為に準備して来た!そうやろ!」

 

驚きから、いち早く回復したキバオウが後ろにいるALSの面々に向かって叫ぶと、面々は我に返り、『うおおーーー!!』と気合いの雄叫びを上げた。

 

「気合い入ってるな、キバオウの奴」

 

「ええ、私たちも行きましょう!」

 

「うん!必ず勝って、全員で生き残ろう!」

 

ハルト達もまた、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》を倒すべく動き出した。

《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の攻撃は、その見た目通り威力はかなり高かったが

 

「四連撃が来るで!回避や!」

 

《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のモーションを確認していきながら、強力な攻撃には回避、そうでない攻撃にはタンク隊が防御して、その隙にアタッカーが攻撃するという戦法で、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のHPを着実に削っていった。

そんな中、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の鎖鉄球がザント目掛けて振り下ろされた。

 

「ザントさん、危ない!」

 

アスナがザントに向かって叫ぶが、当の本人は特に慌てる様子もなく

 

「どんだけ強力だろうと、当たんなきゃ意味ねぇだろうが」

 

そう言いながら、迫りくる鉄球をザントは《蒼嵐》で横っ面に叩き付ける。

すると、弾かれた衝撃により鉄球は旋回し、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》目掛けて思いっ切りぶつかった。

 

『・・・・・・』

 

ザントの常識外れした技に、誰もが驚く中、キリトが真顔で話しかける。

 

「なぁ、ザント。さっきお前がやった<体術>って・・・」

 

「あのミステリアス女みてぇに鉄球の軌道を逸らしただけだ」

 

「そ、そうか・・・」

 

キリトはこれ以上ツッコまず、黙ってボス攻略を再開する。ツッコめば負けだと悟ったからである。

<体術>で攻撃の軌道を逸らしてみせたスティラもそうだが、それを簡単にやってみせたザントも十分常識外れしていた。

そんなことをしている内に、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のHPが半分を切った。

 

「よし!ボスのHPが半分切ったで!ボスもさっきから情報通りの攻撃しかしてへん!勝てる!この戦い、ワイらが勝てるで!」

 

「(!? 情報通りだぁ・・・?)」

 

キバオウの発したある言葉に疑問を覚えるザント。

そんなザントをよそに、キリトはボスのHPを半分まで削り、少し慢心している感じのキバオウに注意する。

 

「キバオウ。今まではゲージがある程度削れたら、攻撃に変化が起きるボスが多くいた。それを忘れてないよな?」

 

「当ったり前や。そう何回も同じ失敗を繰り返すワイらとちゃう。敵のHPの残量とモーションの変化に注意するよう、皆にも言い聞かせとるわ。今まで大丈夫だった、だからこれからも大丈夫。そないな慢心で仲間を失うのはもううんざりや!」

 

「そうか・・・やっぱり、ALSのリーダーがあんたで正解だったよ」

 

キバオウとの会話で、キリトはキバオウがきちんとリーダーとしての責務を全うしていることに安心すると、持ち場に戻った。

すると、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》は巨大鎌と巨大斧を持っている二本の腕を上げた。

 

「二連撃来るで!タンク隊!」

 

キバオウの指示に従い、すぐさまタンク隊の3人が前に出る。

 

「こちとら攻撃パターンは既に見切っとるんや!タンク隊!さっきやった通りに受け止めるんや!」

 

「了解!ここで止めます!」

 

「任せてくれ!キバオウさんよぉ!」

 

「さっきと同じ攻撃とは、俺らも嘗められたもんだ!」

 

タンク隊は全く臆する《アスラ・ザ・エクスキューショナー》が繰り出す巨大鎌と巨大斧の二連撃を先程と同様、正面から受け止めようとした。

《アスラ・ザ・エクスキューショナー》には特に変化は見られない。攻撃力上昇のバフ等も付与されていない。

ボス攻略の為に準備を重ねてきた彼らなら先程と同様、受け止めることができる・・・はずだった・・・

 

「「「!?」」」

 

振り下ろされた二連撃を受け止めようとしたタンク隊の体が宙に浮いた。

 

「・・・なんや・・・?そないなことが・・・あってええんか・・・!?」

 

キバオウが信じられないといった顔で目の前の惨劇を見つめる。

先程までと同じ攻撃だと思っていた《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の攻撃は数倍の威力を持っており、タンク隊の面々を一気に吹き飛ばして、半分くらいあったと思われるそのHPを全損させた。

 

「ジブンら!!」

 

我に返り、倒れた仲間たちの所へ走るキバオウ。

しかし、彼らの体は既に青白く光り輝いていた。

 

「キバオウ・・・さん・・・後は・・・頼みます・・・」

 

ALSの一人が小さく呟くとポリゴン状に四散する。

キバオウは倒れている他の二人に駆け寄るが、二人の体も青白く輝き始めた。

倒れている一人の下に駆け寄り顔を見下ろすが、その表情は絶望と後悔に満ちている。

 

「そんな顔するんじゃねぇよ。あんたはリーダーだろ・・・?」

 

「殺生な・・・ホンマに殺生な・・・ジブンらがこんなことになっているのに、どないな顔をせぇっちゅうねん・・・」

 

悲しみに満ちた顔でキバオウは己の判断が間違っていたことを後悔する。

すると、もう一人のプレイヤーがホッとした顔をしながらキバオウに話しかける。

 

「良かった・・・あなたは無事だったんだな・・・ほら・・・そんなところで座ってないで、早く指揮を取らないと・・・」

 

「何を言うとるんや!ジブンらを置いて行けるか!行くな・・・!行くんやない!!リーダー命令やぞ!リーダーの命令が聞けんのか!?」

 

キバオウが祈るよう必死に叫ぶが

 

「すまんな・・・けど・・・ありがとう・・・キバオウさん」

 

「最後にあんたと一緒に戦えて・・・楽しかった・・・ぜ・・・」

 

僅かな言葉を残し、二人もまた、ポリゴン状に四散した。

悲しみに沈み、先程までALSの一人が倒れてた場所にかがんだままキバオウは小さく呟く。

 

「ワイが・・・殺したんや・・・ワイのせいで・・・!」

 

「しっかりしろ、キバオウ!戦いはまだ終わってないぞ!」

 

キリトが悲しみに沈んでいるキバオウに向かって叫ぶ。

キリトの言う通り、戦いはまだ続いている。先程の光景によりALSはすっかり混乱していた。

 

「ガハッ!」

 

「うああーーー!!」

 

「や、やめてくれーーー!!」

 

その隙を逃さず、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》は次々とALSのプレイヤーをポリゴンに変えていった。

 

「くっ、流石に厳しいか!」

 

「このままだと、犠牲者が増える一方だよ!」

 

ハルト達やALSに所属してない面々が必死にカバーするも、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の猛攻を押さえきることができず、次々とALSのプレイヤーが犠牲になっていく。

 

「クソ!キバオウ!これ以上の攻略はもう無理だ!ALSを撤退させてくれ!このままだと、全滅するぞ!」

 

一度身に染みた死への恐怖は、中々振り払うことはできず、死への恐怖に飲み込まれていくALSの姿を見て、これ以上の戦闘は無理だと判断したキリトはキバオウに撤退を促す。

しかし、キバオウはその言葉に答えず、ゆっくりと立ち上がると、キリッと目線を《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の方に向ける。

 

「・・・おどれか・・・おどれがワイの大事な仲間たちを・・・!おどれかぁーーー!!!」

 

「!? よせ、キバオウ!」

 

怒りを露にしながら《アスラ・ザ・エクスキューショナー》に向かって突撃しようとしたキバオウをキリトが制止する。

 

「放せ、キリト!ここはワイの死に場所や!例え死んだとしても、あいつに一矢報いない限り、ワイは仲間たちに顔向けできへん!」

 

キバオウがそう言った直後

 

「死ぬことは、報いることじゃねぇだろうが!」

 

ザントがキバオウの胸ぐらを掴みながら叫んだ。

 

「あの雑魚共がテメェに死んで欲しくて命を懸けたと思ってんのか!?違うだろ!?タンク隊の奴らも、さっき死んでいった奴らもテメェを守る為に死んだんだよ!あいつらが、命を懸けてまで守ろうとしたもんをテメェ自身の手でぶっ壊してんじゃねぇ!もう、テメェ一人の命じゃねぇだろうが・・・!?」

 

「うぅ・・・!すまん・・・皆・・・ホンマにすまん・・・!」

 

ザントの言葉にキバオウは弱々しく膝を付いたが、ゆっくりと立ち上がると未だ混乱しているALSの面々に撤退を促した。

 

「・・・ワイらの完敗や。ALS!全員撤退や!外の連中と交代せえ!」

 

キバオウがそう叫ぶと残ったALSの面々は部屋の隅へ避難し、キバオウは部屋の外にいるヒースクリフ達に救援を要請しに行った。

 

 

 

 

「事情は理解した」

 

ボス部屋に入ってすぐに、ヒースクリフは辺りを見渡して状況を確認した。

 

「ALSが抜けた穴は我々で埋めよう。まずは一人でも多くのプレイヤーが生き残ることを考えるんだ」

 

「無論、我らレジェンド・ブレイブスも力を貸そう」

 

「まったく、あれだけ言いたい放題言ってたくせに、結局はこれか・・・」

 

「そう言ってやるな、ソウゴ。こうした事態に対応する為に俺たちはここにいるんだ」

 

「ああ、今こそプレイヤー同士一丸となって戦うべきだ」

 

各ギルドリーダーの会話後、攻略組は再び《アスラ・ザ・エクスキューショナー》に挑む。

ボス攻略を再開して、しばらく経ったが、戦局は攻略組側に向いていた。

ALSが抜けた穴を他のギルドの面々がカバーし、ALSがやられたこともあってか、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の攻撃を迂闊に防御せず、腕一本の攻撃に対しては一人が防御して、四本まとめて攻撃してきたら回避に専念する戦法のおかげで、攻略組は犠牲者を出すことなく順調に《アスラ・ザ・エクスキューショナー》にダメージを与えていた。

その中でひときわ目立っていたのは「血盟騎士団」団長、ヒースクリフだった。

 

「KoBのメンバーは想定通りの陣形を維持。DKBと協力して攻撃を継続。常に多数で攻撃し続けろ。最低でも四人以上だ。四本腕による攻撃を一撃辺り一人で受け止めることができるよう、敵の狙いを分散し、ダメージを分担させるんだ。タンクはHPと防御が高い者から順に前へ。タンクが攻撃を受け止めている間にアタッカーは攻撃後の膠着状態を狙うんだ」

 

適切な指示を次々と出していきながら「血盟騎士団」を動かしていき、攻略組の損傷を最小限に抑えながら《アスラ・ザ・エクスキューショナー》にダメージを与えていた。

ヒースクリフの指揮もあり、士気が高まってきた攻略組。

しかし、こんな絶好調な状況にも関わらず、指揮をしているヒースクリフ本人はあまりいい顔をしなかった。

 

「(・・・KoBが助けに入ったことで最悪の状況から脱することはできたが・・・)」

 

浮かない顔で思案しながら、周りを見渡す。

すると、自分と同じような顔をしている人物。現時点で今の状況を最も理解しているであろう人物が二人も目に入った。

 

「(ほう・・・この中で状況を正しく理解している者が二人もいたか・・・どうやら、私の予想は正しかったようだな)」

 

自分と同じような事を考えている人物をヒースクリフは頭の中で考えていたが、それは彼の予想通りに的中した。

自分の勘の鋭さに思わず感心しながらも、ヒースクリフは自身と同じことを考えているであろう人物、アスナとザントの下に駆け寄った。

 

「一つ聞きたいことがある。アスナ君、ザント君、君たちは今の状況を見てどう思う?どうすれば、我々はこれ以上の犠牲者なしで勝てると思う?」

 

「!? ヒースクリフさん!・・・そうですね・・・」

 

突如声を掛けられたアスナは、声を掛けられた相手がヒースクリフだと分かり、一瞬驚いたが、すぐに険しい表情になりながらヒースクリフの問いに答える。

 

「今は皆のHPにもまだ余裕がありますが、じきにそれもジリ貧になると思います。そうなる前に、こちらの最高戦力を投入して短期決戦で押し切るしかありません」

 

「だろうな。このまま行きゃ、二十層の時みてぇに体力切れになんのがオチだ。んで、最高戦力と言ったが、具体的には誰を投入するんだ?」

 

二人のやり取りを聞いていたザントがアスナに問う。

その問いに対して、アスナは真剣な表情で答える。

 

「ヒースクリフさん、キリト君、トウガ君、ザントさん、そして・・・ハルト君です」

 

「・・・その理由は?」

 

今度はヒースクリフが聞いてくる。

 

「現状、攻略組・・・いいえ、全プレイヤーの中で最高クラスの防御力を持つヒースクリフさん。全プレイヤーの中で最高クラスのスピードを持つキリト君。全プレイヤーの中で最高クラスの瞬発力を持つトウガ君。全プレイヤーの中で最高クラスの攻撃力を持つザントさん。この四人が前に出ない理由はありません」

 

「ふむ、防御、スピード、回避、攻撃・・・それぞれの能力の中で最も優れているプレイヤーを選んだという訳か・・・」

 

「んで、ハルトを選んだ理由はなんだ?《全属性使い(オールラウンド)》って理由だけじゃなさそうだが・・・」

 

「勿論、《全属性使い(オールラウンド)》だからって理由もあります。彼は攻略組で唯一の《全属性使い(オールラウンド)》であり、色々な状況に応じた判断力が備われています。ですが、理由はそれだけではありません」

 

アスナは一呼吸入れると、真剣な表情で再度口を開いた。

 

「ハルト君はここに至るまで、いくつものフロアボス戦に居合わせてきました。それ以外でも、様々なピンチに見舞われてきましたが、彼はいつも生き残ってきました」

 

「なるほど。さしずめ、勝負強さと言ったところか」

 

アスナの説明を聞いて、納得したかのように頷くヒースクリフとザント。

ここに至るまでの間に、彼はいくつもの経験をし、強くなる為に様々な努力をしてきた。それらの経験と努力によって備えられた勝負強さこそ、他の四人にはない、ハルトの一番の強み。

そんなハルトの強みを、アスナはこの作戦に掛けるつもりなのだろう。

 

「すみません。重要な場面なのに、抽象的な説明しかできなくて・・・」

 

「いや、君の判断は正しいと私は思う。この世界がゲームである以上、勝負強さを持ち味とする者を選ぶのも上策だ」

 

「俺も異論はねぇ。こういう時だからこそ、力を最大限に発揮できる奴は貴重だし、俺らも安心して信頼できる。けどよ、問題はそれだけじゃねぇだろ?」

 

ハルトを加えることに異論はないザントだが、今度は別の問題についてアスナに問う。

アスナは再度険しい表情をしながら口を開く。

 

「ザントさんの言う通り、今言った五人で突撃しても、ボスのHPは削り切れません。削り切る為には、ここにいる全員でボスを追い込んで、最後に五人で止めを刺す必要があります。けど・・・今の戦力では犠牲者を出さずにボスのHPを削り切るのは難しいと思います」

 

「ほう。では、どうすれば削り切れると思う?」

 

「例えば・・・ここにいる全員。或いは、半数以上が同時に強化されるような事態。それこそ、規格外のバフが付与されることなんて――」

 

アスナが喋っている途中、今までのやり取りをこっそり聞いていたキリトが不意に口を開いた。

 

「・・・《フラッグ・オブ・ヴァラー》だ」

 

「え?」

 

「あのアイテムなら、全員とまではいかないけど、半数以上にバフを付与することができる!」

 

かつて五層のボス攻略で手に入れた《フラッグ・オブ・ヴァラー》。使用すれば、旗から半径までの範囲にいるプレイヤー全員に強力なバフが付与される。ただし、バフが付与されるのはフラッグを装備しているプレイヤーとそのプレイヤーが所属しているギルドのメンバーのみ。

元々はALSとDKB両ギルドを統合させる為にディアベルが手に入れるはずだったが、ボス攻略の最中にディアベルが行方不明になり、それ以来、キリトがずっと持ち続けていた。

 

「今、この場にいるレイドメンバーの中で一番数が多いギルドはKoBだ。《フラッグ・オブ・ヴァラー》の効果で彼らにバフを付与させれば、この戦況を覆せるかもしれない。けど、俺の一存では・・・」

 

《フラッグ・オブ・ヴァラー》を使用するに当たって一番最適なギルドは、今現在、ボス攻略に挑んでいるレイドメンバーの半数以上を占めている「血盟騎士団」だ。

しかし、キリトは《フラッグ・オブ・ヴァラー》をALSかDKBのどちらかに渡すに当たって、《フラッグ・オブ・ヴァラー》がもう一つドロップしたら。或いは、ALSとDKB二つのギルドが合併して新ギルドが結成された時に渡すことを条件としている。

故に《フラッグ・オブ・ヴァラー》を「血盟騎士団」が使用する為には、キリト一人の独断で決めることはできない。両ギルドのリーダーであるキバオウとリンドの承諾が必要になる。

 

「俺は構わない!今ここで使うべきだ!」

 

「ワイも異論はない!今一番大事なんは、SAO攻略に必要なモンらが無事生き残って、ここをクリアすることや!」

 

キリトの考えていたことを察したのか、リンドとキバオウが《フラッグ・オブ・ヴァラー》を「血盟騎士団」が使うことに異論はないとキリトに向かって叫んだ。

 

「リンド・・・キバオウ・・・ありがとう」

 

「気にするなや。それに、あん旗に関しては、これが一番平和的な解決方法かもしれへんしな。あん旗に相応しいのは、全プレイヤーの為に戦える奴ら・・・純粋に攻略の為だけに存在するギルドや」

 

そう言いながら、キバオウはヒースクリフの下に向かう。

 

「ヒースクリフはん。あん旗はジブンらに譲るわ。そん代わりに、仲間の仇を取ってや!」

 

「分かった。血盟騎士団の名に懸けて誓おう」

 

「おおきにな」

 

キバオウが頭を下げてヒースクリフ礼を言う。

それと同時にキリトがストレージから《フラッグ・オブ・ヴァラー》を取り出すと、ヒースクリフの前に立ち、リンドとキバオウがそれぞれキリトの隣に立った。

 

「アインクラッド解放隊リーダー、キバオウ!血盟騎士団の《フラッグ・オブ・ヴァラー》使用に異議なし!」

 

「ドラゴンナイツ・ブリゲードリーダー、リンド!同じく異議なし!」

 

「立会人、キリト。キバオウ、リンドの両名と同じく異議なし!」

 

三人がそう言うと、キリトはヒースクリフに《フラッグ・オブ・ヴァラー》を渡した。

 

「君たちの思い、確かに受け取った」

 

ヒースクリフが《フラッグ・オブ・ヴァラー》を受け取った。

すると、《フラッグ・オブ・ヴァラー》が突如光り出し、光りが収まると真っ白だった旗が赤く染まり、血盟騎士団の紋章が浮かび上がった。

ヒースクリフはそれを地面に突き立てると、「血盟騎士団」のメンバー全員に全ステータス上昇のバフが付与された。

 

「総員!突撃!」

 

ヒースクリフの叫び声と共に「血盟騎士団」の面々が一斉に《アスラ・ザ・エクスキューショナー》に攻撃を仕掛ける。

《フラッグ・オブ・ヴァラー》の効果によって強化された「血盟騎士団」は勢いに乗って《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のHPを削っていく。

しかし、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》もまた、「血盟騎士団」の猛威に抵抗し、逆に「血盟騎士団」を圧倒していく。

戦いは五分五分と言ったところだった。

 

「皆さん、ここが勝負所です!大丈夫!きっと勝ち目はあります!このSAOや、それを作った茅場晶彦は私たちに理不尽を押し付けた存在かもしれません。けれど、ゲームということに対しての姿勢は、真摯さがあるように思えるんです。このゲームは・・・SAOは、厳しくはあっても、悪質なゲームではないはずです。私たちが諦めずに力を合わせて向き合えば、きっとクリアできるはずなんです!」

 

「彼女の言う通りだ。この層を突破し、いつか必ずこのゲームをクリアする為にも・・・彼女が考えた作戦を聞いて欲しい。説明してもらえるかな?アスナ君」

 

「は、はい!」

 

アスナの演説と彼女が考えた作戦を伝えると「血盟騎士団」が。いや、この場にいる全プレイヤーの士気が高まっていき、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》を圧倒していく。

 

「ハハハ・・・アスナ。君はやっぱり凄いよ・・・」

 

キリトはアスナに秘められた力を改めて評価しつつも、少し寂しそうな顔で見つめていた。

 

「(もう、俺が一緒にいる必要はないかな・・・)」

 

始めて出会った時と違って、自分が隣にいなくても彼女は自分の足で前に進むようになった。この世界に迷い込んだアスナ(少女)としてじゃなく、この世界で生きているアスナ(剣士)として

そんな嬉しくも少し寂しい感傷に浸っていると

 

「感心してる場合じゃねぇだろ。俺らがトリを務めんのを忘れた訳じゃねぇだろうな?」

 

ザントに声を掛けられ、振り向くと彼の他にハルトとトウガがいた。

 

「事情はザントから聞いている。ボスのHPがある程度減ったところで俺たちの一斉攻撃で一気に決める。で、いいか?」

 

「ああ、そんな感じだよ」

 

トウガの問いに答えながらキリトは《アスラ・ザ・エクスキューショナー》を見つめる。

《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のHPは順調に削れていき、遂に1/4以下となったところで、フィールドに異変が起こった。

 

「ゴオオオーーー!!」

 

《アスラ・ザ・エクスキューショナー》が突如雄叫びを上げた。それと同時に先程まで薄暗かったフィールドが赤く染まった。まるで、追い詰められて尚、一人でも多くの敵を倒そうとする《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の心情を表しているかのように。

 

「いよいよだな・・・」

 

張り詰めた空気の中、キリトがポツリと呟く。

攻略組が《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のHPをある程度削ったところで、最高戦力の五人が一斉に攻撃して、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のHPを削り切る。これが、アスナの立てた作戦の全容。

そして、その瞬間が今まさに来ようとしていた。

 

「いよいよ我々の出番だ。仕掛ける前に現状の確認をしておこう。今はKoBが引き受けているが、私たちがボスに有効打を与える為には――」

 

「奴の四連撃を凌ぐ必要がある。そうだな?」

 

ヒースクリフが言う前にトウガが答える。

 

「その通りだ。二つの刃物に鎖鉄球、計四つの武器による攻撃は射程、方位ともに隙がない。更には、攻防一対だ。あの四本腕から狙われたら最後、私の防御力によるガード、キリト君やトウガ君のスピードや瞬発力による回避、そのどちらも不可能だろう」

 

「・・・そうだな。だけど、これはゲームだ。なら、一か八かの賭けが必要な時もあるんじゃないか?」

 

ヒースクリフの言葉にキリトは微笑みながら返した。

ヒースクリフは少し目を見開いて驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「間違っていないよ、キリト君。さて、お喋りはそこまでにしておこうか。団員たちの体力も限界に近い、次の指示で団員たちに一斉攻撃を仕掛けさせる。団員たちによる一斉攻撃でボスが怯んだ隙に私たちで止めを刺す。チャンスは一度。私たち五人の内一人でも欠けてしまえば、ボスのHPを削り切ることはできないだろう。五人全員生還か全滅、二つに一つだ。タイミングは私に合わせろ」

 

四人が頷いたのを確認したヒースクリフは、最後の攻撃を仕掛けるべく、その隙を作ってもらう為に、「血盟騎士団」の団員に向かって大声で命令した。

 

「血盟騎士団!ボスのHPを削れ!総員!突撃!」

 

ヒースクリフの叫び声と共に、「血盟騎士団」が一斉に《アスラ・ザ・エクスキューショナー》に攻撃を仕掛けていく。

それに応じて、各ギルドのリーダーも大声でそれぞれのギルドメンバーに指示を出す。

 

「これで終わらせるぞ!DKB!突撃!」

 

「ドラゴンナイツ・ブリゲード」リーダー、リンドが。

 

「征くぞ、レジェンド・ブレイブス!我に続け!」

 

「レジェンド・ブレイブス」リーダー、オルランドが。

 

「これが最後の攻撃だ!必ず勝って全員で帰るぞ!突撃だ!」

 

「紅の狼」リーダー、トウガが。

各ギルドのリーダーの命令に応えるべく「血盟騎士団」同様、一斉攻撃を仕掛ける。

最後の一斉攻撃だけあって攻略組の勢いは今まで以上に凄まじく、攻略組の気迫に《アスラ・ザ・エクスキューショナー》は圧倒されていき、次第に体勢を崩し始めた。

その隙を狙ってたかのように、ヒースクリフが動き出す。

 

「今だ!」

 

ヒースクリフが先頭に立ち、《アスラ・ザ・エクスキューショナー》目掛けて剣を振り下ろした。

それに続いて、キリト、トウガ、ザントの三人も

 

「うおーーー!」

 

「終わりだ!」

 

「落ちろっ!」

 

片手直剣ソードスキル<ヴァリアント・フィスト>、短剣ソードスキル<カルネージ・サーペント>、両手剣ソードスキル<アルファ・ストライク>を同時に発動させた。

剣の五連撃が、短剣の連撃が、両手剣の強烈な一撃が《アスラ・ザ・エクスキューショナー》のHPを大きく削った。

 

「止めは頼むぞ、ハルト!」

 

そして、止め刺すべく、ハルトが動き出す。

キリトの叫び声と共にソードスキルのモーションに入ろうとしたその時、ハルトの目が見開かれた。

体勢を崩していたはずの《アスラ・ザ・エクスキューショナー》が、最後の力を振り絞り、右腕の鉄球をハルト目掛けて振り下ろした。

この距離からでは、防御も回避も間に合わない。今のハルトだったら、一撃でHPを全損するだろう。

 

「ハルト!」

 

「ハルト!」

 

「ハルト君!」

 

二人の友(キリトとトウガ)パートナーの親友(アスナ)の叫び声が聞こえた。

ちらっと声がした方に顔を向けると、三人共間に合わないと分かっていても、ハルトを助け出そうと動いていた。

皆が諦めず自分を助けようとしているのに自分が諦めるわけにはいかない。

諦めずに打開策を考えていると、ふと、ハルトの脳裏にある言葉が浮かんだ。

 

『受け止めるだけが防御ではありません。耐えるだけがタンクでもありません。耐えられないなら――軌道を逸らしてしまえばいいのです』

 

『どんだけ強力だろうと、当たんなきゃ意味ねぇだろうが』

 

そうだ。攻撃は何も防御や回避するだけじゃない。

ザントとスティラの言葉を思い出したハルトの取った行動は、防御の体勢でもなく、回避の体勢でもない。持っている剣を構えるだけだった。

ハルトに行動に誰もが驚く。けれども、誰もが信じた。これまで幾度も絶望的な状況で奇跡を見せてくれた彼なら今回もきっと乗り越えてくれるはず。

 

「・・・見せてもらうぞ、ハルト君」

 

「信じてる・・・ハルトなら・・・きっと・・・!」

 

ヒースクリフとコハルが真剣な表情で見つめる。

誰もが緊迫した空気の中で見つめる中、ハルトは剣を構えたまま、地面を蹴って空中へ跳び

 

「うおおーーー!!」

 

叫び声と共に迫りくる鉄球に強力な一撃を叩き込んだ。

すると、鉄球はハルトに直撃することなく、軌道を逸れてハルトの横を通り、そのまま何もない地面に激突した。

 

「なっ!?」

 

「上手い!」

 

「ほう・・・」

 

「やりゃ、できんじゃねぇか」

 

咄嗟の判断で成したハルトの神業に各々が驚愕、或いは称賛した。

ハルトは飛び上がった勢いで、そのまま《アスラ・ザ・エクスキューショナー》に近づき、空中で体勢を整えると

 

「いっけーーー!!」

 

<リボルビング・スパイク>で《アスラ・ザ・エクスキューショナー》の体を貫いた。

体を貫かれた《アスラ・ザ・エクスキューショナー》は、雄叫びと共に体をポリゴン状に四散させた。

ポリゴンが部屋中に舞い、辺りに歓声が響き渡る中、キリトはキバオウと向き合っていた。

 

「終わったな」

 

「・・・せやな」

 

「・・・キバオウ」

 

キバオウの表情は何処かスッキリとした顔だったが、そこから何を思っているのかキリトは読み取れなかった。

仲間を失い、悔しい気持ちでいっぱいのはずのキバオウにどう声を掛ければいいか悩んでいると、ザントがキバオウに話しかけてきた。

 

「一つ聞かせろ。お前、さっきのボス攻略で情報通りに動いているって言ったよな?そのボスの情報、どこで手に入れた?」

 

「そういや・・・確か、圏内の店で攻略会議をしとった時に情報屋を名乗る奴から話しかけられてな。何でも、二十五層のボスは四連撃の攻撃が強力やけど、それ以外は大したことないから四連撃だけは回避に専念して、それ以外の攻撃は防御に専念して隙を付いて攻撃しろって・・・」

 

「「!?」」

 

キバオウの言葉に目を見開くザントとキリト。

キバオウも二人の行動を見て騙されたことを察したが、何処か虚しい笑みを浮かべながら続きを話す。

 

「ワイらも無名の情報屋やったから、最初はそこまで信用せんかった。けど、いざ攻略してみると、ボスは情報通り動いておったし、HPが半分以下になっても奇妙な行動は何一つしてこんかった。せやから・・・大丈夫やと・・・思ってたんやけどな・・・」

 

「キバオウ・・・」

 

「ちっ!まさか既に手を回していやがったとはな・・・!」

 

キリトが心配そうな表情でキバオウを見つめ、ザントは忌々しそうに呟いた。

情報屋というのは、おそらくオレンジ・・・いや、レッドプレイヤーだろう。予め、噓が混ざった情報を流し込ませ、最初は本当の情報で信頼させて安心しきったところで情報に無かったことが起こり、混乱させることで多数の犠牲者が出る。これが、キバオウに噓の情報を与えたレッドプレイヤーの考えたシナリオだろう。結果、ALSは主戦力の半数を失うことになった。

 

「・・・あんな態度だけ一人前のクソ共でも、同じ攻略組だ。死んじまったら、それはそれで胸糞悪りぃもんだな・・・テメェが会った情報屋については、俺がアルゴを通じて調べといてやるよ。じゃあな」

 

そう言うと、ザントは二十六層へ向かった。

 

「これからどうするんだ?キバオウ」

 

今度はキリトがキバオウに問いかける。

 

「・・・ワイは、しばらく最前線を離れるわ。今回の攻略でワイは大勢の仲間たちを見殺しにしてもうた。そんな大罪人がのうのうとリーダーなんてやっていい筈があらへん。ワイはワイのやり方で罪を償っていくわ」

 

「・・・・・・」

 

「そげいな顔すな。別に自分から命を投げ出して償おうとは思わん。もう、ワイ一人の命やない。そう教えてもろたからな・・・ほいなら、ワイはもう行くわ・・・今までおおきに、キリト」

 

キバオウはキリトに背中を向けると、残ったALSの面々と共に二十六層の階段ではなく、ボス部屋の入口から出ていった。

 

「・・・罪を背負って前に進む道でなく、罪を償う為に戻る道。それが、あの人の選んだ道なのね」

 

「そうだな・・・きっと戻ってくるはずさ、彼は」

 

そう言いながら、キリトとアスナはキバオウが出ていった方を険しい表情で見つめていると、ヒースクリフが二人に話しかける。

 

「君たちに一つ問おう。キリト君、アスナ君、我々KoBに加わってはくれないか?」

 

「「!?」」

 

突然のスカウトに驚く二人。

何故、という視線をヒースクリフに向けると、ヒースクリフはゆっくりと話し出す。

 

「無論、君たち二人の実力を見込んでだ。特にアスナ君、先程の戦いで君が見せてくれた戦略眼や指揮の手際は見事だった。君には、KoBの中でも隊長クラスの役割。そして、将来的にはKoBの副団長も務めてほしいと思っている」

 

「副団長ですか!?でも、私は・・・」

 

KoBの副団長を任せてほしいと思われるくらいヒースクリフに期待されているアスナだが、それでも彼女は悩んだ。

すると、意外な人物から援護射撃(ヒースクリフにとっての)が入る。

 

「いいんじゃないか?行けよ、アスナ」

 

「キリト君!?」

 

その人物は、今まさに自身の決断を悩ませている原因となっている人物、キリトだった。

 

「元々は君がふさわしい場所を見つけるまでの臨時パーティーだったんだ。組んでる時間は結構長くなったけど、ここら辺が潮時だろ?君は適材適所に収まって俺の無鉄砲さに振り回されることも無くなる。いい話じゃないか」

 

「キリト君、何言ってるの・・・?」

 

戸惑うアスナにキリトはアスナの顔を正面から見据え、真剣な表情で言葉を続ける。

 

「アスナ。俺はギルドに所属しないって前に言ったよな?俺は自分と自分の周りにいる人を助ける為にしか戦うことができない。でも、君は違う。君は大勢の人間を率いて、もっと多くの人を救う為に戦うことができる。その能力は百層を突破するために必要なんだ。頼む、多くのプレイヤーを救う為に・・・お前の力を純粋にSAOを攻略しているギルドで使ってくれ」

 

「・・・それが、キリト君の結論なんだね・・・分かった」

 

キリトの思いを聞いて決断したアスナは、キリトに背を向け、ヒースクリフの正面に立つと、スカウトの答えを告げた。

 

「ヒースクリフさん。私、血盟騎士団に入ります」

 

「感謝する、アスナ君。我々血盟騎士団は君を歓迎する」

 

二人はこれ以上、何も言葉を発することも互いの顔を見合うことも無かったが、ヒースクリフと共に離れていくにつれてアスナの肩が僅かに震えており、キリトはそれを気づいて気づかぬふりをした。

もし、指摘してしまえば、きっと彼女は足を止めてしまう。彼女が攻略組を率いる者の一人としてSAOを攻略していく為にも、キリトは何も言わず、黙って見送った。

やがて、アスナを含む「血盟騎士団」の面々が二十六層へ上がり、キリトは「血盟騎士団」が出ていった扉を見つめていると、ナーザとトウガが話しかけてきた。

 

「キリトさん・・・」

 

「これで良かったのか?」

 

「・・・いいんだ。遅かれ早かれ、こうなることは分かってたし・・・」

 

キリトがそう答えると、ナーザは何も言わず、トウガは「そうか・・・」と呟くと、それぞれのギルドの仲間たちと共に二十六層へ向かった。

 

「なんか・・・やり切れないね」

 

キリトもまた、二十六層へ向かい、その様子を眺めていたコハルが悔しそうに呟いた。

暗い顔をしているコハルに、ハルトは優しく微笑みながら話す。

 

「大丈夫だよ。別に二人が完全に離れ離れになった訳じゃないんだ。生きていれば、きっとまた会える。今は、前に進もう」

 

「うん。一緒に行こう、ハルト」

 

ハルトの言葉にコハルは気持ちを切り替えて、ハルトと共に歩き出す。

犠牲はあったものの、クォーター・ポイントを突破した二人は気持ちを切り替えて二十六層へと向かった。

 

 

 

 

「以上が、この層で起きた出来事ダ」

 

十層の城下町のひとけのない路地裏でアルゴがザントに事の結末を報告する。

報告を聞いたザントは、忌々しそうな顔で呟いた。

 

「途中まではこっちの読み通りだったが、後一歩のところで、あのウジ虫共に出し抜かれたってわけか」

 

「そういうことになるナ」

 

今回の件、二十五層がクォーター・ポイントであることを利用して、レッドプレイヤー達が動き出すのを読んでいたザントは、アルゴと協力して調査を行った。

そして、迷宮区突破に関するクエストをALSが単独で攻略していることをアルゴは耳にした。

それをアルゴから聞いたザントは、ALSにレッドプレイヤーと繋がりがあるかもしれないプレイヤー、ジョーがいる事を思い出し、ジョーがまた良からぬ事を企んでいると思ったザントは、ALSが単独でクエストを攻略されるのを。強いて言えば、そのまま単独でボス攻略に挑もうとするのを阻止。

ボス攻略にはいつも通りALSとDKB、更には「血盟騎士団」を始めとする少数ギルドまでもが参加することになった。ALSが単独で挑む事態は避けられ、ひとまずは安心だとこの時のアルゴとザントはそう慢心しきっていた。

しかし、既に別の場所からALSに罠が仕掛けられており、結果、ALSは大打撃を受けることとなった。最悪の結果までとはいかなかったが、攻略組がダメージを負ったことには変わりない。

依頼をまともに達成することができず、あのウジ虫共が自分より一歩上手だった事実にザントは怒りを抑えきれなかった。

 

「今回は奴らが一手上手だったが、次はそうはいかねぇ。必ず潰すぞ、あのノミ野郎共」

 

「・・・あまり気負いすぎるなヨ。焦ったところで良いことなんて何もないからナ。レッドプレイヤーの事に関して少しでも怪しいことがあれば、すぐオレッチに連絡してくレ」

 

「分かってら。そこら辺はキリトの野郎とも連携して上手くやっといてやるよ」

 

そう言うと、ザントは路地裏から出ていった。

レッドプレイヤーの闇が攻略組に迫る一方、それらを影から取り除く者達もまた、闇から攻略組を守る為に暗躍していた。




・ヒースクリフ
「血盟騎士団」団長を務めている。原作では、その高い指揮能力とカリスマ性で、結成当時は少数だった「血盟騎士団」を攻略組最大のギルドと言われるレベルまで育て上げたヤベー奴。本人もチートなみの防御力を持っている。

・「レジェンド・ブレイブス」再び参戦
SAOIF本編でのリーファの代理として登場させました。ただし、出番はそんなに無かった。

・《フラッグ・オブ・ヴァラー》
ここで五層のフラッグの話を回収した当時、運営の皆さんに思わず感心してしまった。

・<ヴァリアント・フィスト>
片手直剣の星4スキル。威力は中々あり、防御力アップのバフが付与されていると、クリティカル発生率が上がる。

・<カルネージ・サーペント>
オリジナルスキル。SAOIFだと短剣の星4。高速に移動しながら、範囲内にいる敵を切り刻んでいくスキル。

・<アルファ・ストライク>
オリジナルスキル。SAOIFだと両手剣の星4。敵一体に全力の一撃を放つ。単体攻撃だが、その分威力は高い。

・<リボルビング・スパイク>
オリジナルスキル。SAOIFだと片手直剣の星4。前に剣を構えて突進する。簡潔に言えば、<レイジ・スパイク>の上位版。

・キバオウ離脱
白髪の男が仕掛けた第二の策により、キバオウはここで離脱となります。彼が再登場する日は来るのか?


以上で二十五層編となります。
IFでもキバオウの運命は変えることができなかった。だが、あのナイトが生きているから、もしかしたら原作のようにはならないかもしれない・・・
そして、最後の謎の人物はいったい誰でしょうね~?
次回は番外編です。内容はクリスマスイベント(三年目)です。


<オマケ>
作中に登場するオリジナルソードスキルをSAOIF風にスキルレコード化しました。詳しくは、活動報告。或いは、こちらのリンクから。
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