ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
クリスマスイベント(三年目)後編です。
今回の話では、あのオリキャラの過去が少し明かされます。
ワープゲートの先は雪原と同様、一部が闇に飲まれている氷の洞窟だった。
辺りを警戒しながら、キリトが呟く。
「やはり、ここも闇に浸食されているか・・・」
「浸食はどんどん進んでいくの。時間がないの。暴走しているモンスターを倒してピースを集めるの」
雪うさぎを作る為のピースを集めるべく、ハルト達は氷の洞窟を進んでいった。
途中、フィールドに潜んでいる数々のゴブリンを倒して、ゴブリンからドロップした《プレゼント・ピース》を集めながら、ハルト達は洞窟の奥へと進んでいく。
その最中、ザントはマテルに話しかける。
「・・・一つ教えろ。お前が助けようとしているミューティは今、どんな状態なんだ?」
「・・・もうそろそろだし、伝えておくの。この先にある、もみの木が立っているエリアで強いモンスターに襲われたの。そいつから攻撃を受けたミューティは傷口が黒くなって、徐々に消滅していったの」
「その黒い傷って・・・もしかして、闇の浸食?」
コハルの問いにマテルは頷く。
「その通りなの。私は、ミューティの傷を治すべく、色んな所を走り回っていたの。でも、ミューティがこう言ったの、『もう、時間がないから、せめて私の心残りを果たして欲しい』って・・・」
「心残りって?」
「ミューティが大切な人から貰ったクリスマスプレゼントなの。ミューティはこのエリアで集まる素材を使って同じ物を作ろうとしていたの」
「そのプレゼントに使われている素材って、《プレゼント・ピース》のこと?」
「そうなの。でも、ある日突然、モンスターに襲われて、ピースはほどんど奪われしまったの・・・プレゼントをミューティに渡すためには、もう一度ピースを集めて、一から作るしかないの」
「・・・私、ミューティさんの気持ち、分かるかも。その大切な人にも、同じプレゼントを渡したかったんじゃないかな?二人だけのお揃いのアイテムを・・・」
マテルの説明を一通り聞いたコハルは、釣り大会の時にハルトから貰ったブローチに手を当てた。ハルトもまた、コハルから貰ったブローチに手を当てる。
このお揃いのブローチは、二十二層で沢山の思い出を作ることができた二人の絆を繋ぐ証であった。
ミューティもまた、大切な人との思い出を繋ぐ証のようなものが欲しかったのだろう。たとえ、己の命が尽き果てようとも。
マテルは決意に満ちた表情で喋る。
「私は必ずミューティの心残りを果たすの。たとえ、ミューティが死の運命から逃れることができなくても」
「運命っか・・・」
すると、ザントが何か思うような顔をしながら小さく呟いた。
急に雰囲気が変わったザントに、皆、何事かと彼の方を向くと、ザントはゆっくりと口を開いた。
「俺は十五の頃に、親父を事故で失い、その三日後に母親を病で失った」
『!?』
突如話されたザントの家族の話にハルト達は絶句した。
今まで、リアルでの自分の事について他人に話すことがなかったザントが、いきなり自身の過去を語り出すとは思わなかった。何より、十五歳。つまり高校生、或いは高校受験を受ける歳に両親を一気に失ったという事実にハルト達は言葉を失った。
「親父は陸上自衛隊の人間だった。その強さは周りの部下や上司から化け物と言われるくらいの強さだった。俺も、親父とは何回か戦ったことがあるが一回も勝てなかった」
「お前が一回も!?」
キリトが信じらないっと言った感じの顔をする。
SAOでかなりの実力を持っている。というか、明らかに戦い慣れしているような動きをするザントを、キリトはリアルでも凄い運動神経がある奴だと思っていた。
しかし、その父親は、それ以上の強さを持つ化け物であった。
「だから、親父が死んだって聞かされた時は信じられないって思った。あんなに無敵だと思っていた人がこうも簡単に逝っちまったからよ」
『・・・・・・』
上を見上げながら語るザント。その表情から何を思っているのか分からず、ハルト達はただ黙っていることしかできなかった。
暗い空気が漂う中、ザントは突如ハルト達に問う。
「突然だが、お前らに一つ質問する。この世で一番強ぇ存在はなんだと思う?」
「つ、強い存在ですか・・・?えっと・・・ライオンとかでしょうか?」
「いや、俺はクマだと思うな。パワーもスピードもかなりあるって聞くし」
「うーん。でも、クマは陸でしか生活できないし、大きさでいったらクジラとかかな?」
「考えれば考える程、色々と思い浮かぶわね」
四人が地球最強の存在について色々と話し合っていると、ザントが口を開いた。
「俺は・・・自然だと思っている」
「自然、ですか?」
予想してなかった答えにハルト達が首を傾げる中、ザントは言葉を続ける。
「人間はどう足掻いても自然には絶対に勝てねぇ。何せ、人間自体が自然から生まれたようなもんだからな」
「そうですか・・・でも、それと先程の話に何の関係が・・・?」
「そうだな・・・親父が死んだ飛行機事故も、その日は何の変哲もない快晴な空だった。しかし、突如発生した雷雲と雷によって機体の一部が炎上。飛行機はそのまま墜落した」
「・・・思い出したわ。その事故、確か何年か前にニュースで見た気がするわ」
「うん、当時はかなり大きく取り上げられていたから、私も覚えているよ」
「僕も聞いたことがあるな」
「え?マジか!?一回も聞いたことがないぞ、そんな事故」
「それはキリト君だけでしょ。全くもう・・・」
他の三人が知っている一方、全く聞いたことがない様子のキリトにアスナは呆れた。
いくらゲーマーだからといって、流石に社会のことについて、こうも関心がないと、見ているこっちが心配になってくる。
「当時、飛行機の整備には特に異常が見当たらず、事故が起きる前までは快調に飛んでいたと聞いている。あの時の事故、俺は自然によって引き起こされたものだと思っている」
「自然によって?」
「ああ。あの日、飛行機が雷に当たって、そこから炎上して墜落したことも、全ては自然が定めた運命だったと、親父が死んだ今でも、そう思っちまうんだ」
「運命・・・」
運命、その言葉にハルト達は深く考えさせられた。
ザントの父親が事故で死んだのは、自然によって定められた運命だとザントは語った。
ならば、ミューティがこのまま死んでしまうこともまた、自然が定めた運命なのか。
すると、今までのやり取りを黙って聞いていたマテルが口を開いた。
「あなたのことは分かったの。でも、それは今ここで話すべきことなの?」
「そうだな・・・あぁ?」
ザントは歩いていた足をふと止めた。
前を見てみると、いつの間にか洞窟の最深部らしきエリアへとたどり着いており、そのエリアに巨大なゴブリンがいた。
「悪りぃが、この先の話はまた今度だ。今は、さっさとやるべきことを済ませるぞ」
ザントの言葉に頷きながらハルト達は一斉に武器を構えた。
巨大ゴブリンを難なく倒し、マテルは集めた《プレゼント・ピース》を使って、早速ミューティのプレゼントである雪うさぎを作り出した。
「これでピースは全部揃ったの。早速オブジェクト作成するの」
《プレゼント・ピース》が集まっていき、光を放ちながら一つのアイテムへと形成していく。やがて光が収まり、そこから現れたのは、ハルトが夢で見たガラス細工の雪うさぎそのものであった。
「間違いない。夢で見たのと同じ物だ」
「綺麗・・・」
光が反射して神秘的な輝きを放つ雪うさぎにコハルが見惚れる。
「早くミューティに届けるの!時間がないの!」
マテルの言葉によって我に返り、急いで氷の洞窟から出るべく、先程のワープゲートに向かった。
氷の洞窟から先程の闇のエリアに戻ってきたハルト達はフィールドを走っていた。
「どうか間に合って・・・お願いなの!」
祈るように先頭を走るマテル。その表情からは普段の冷静な様子は見受けられない。
必死に走り、やがて一つの転移門にたどり着いたのだが、その転移門を見てハルト達は目を見開いた。
「転移門にも闇の浸食が・・・門が機能しなくなっている!」
「そんな・・・!」
「遅かったか・・・!」
コハルとアスナ、ハルトが悲鳴に似た叫び声を上げた。
転移門は既に闇に覆われており、その機能を停止させていた。
「ミューティ・・・」
ここまで来たのに、最後の希望を奪われて膝から崩れ落ちるマテル。
ハルト達もまた、ミューティの願いを果たすことができず悔しそうに俯く中、ザントは崩れ落ちているマテルの横に移動するとゆっくりと口を開いた。
「・・・マテル・・・さっき言ったよな。人間はどれだけ強くなろうが、自然に勝つことはできねぇって」
「・・・それが・・・どうしたの・・・」
「運命もまた似たようなモンだ。どれだけ体を鍛えようが、人間はいつか必ず死ぬ。死の運命にだけは絶対に勝つことはできねぇ。けどな、勝つことは無理でも抗うことならできる・・・もし、ミューティが死ぬことが最初から決められた運命だとしたら、お前はそれを認めるか?」
「認めたく・・・ないの」
「そうか・・・運命ってのは、時に残酷な現実を告げるし、それを受け入れ、乗り越えない限り、人はいつまでたっても弱ぇままだ。けど、お前は抗う選択をした・・・だからよ・・・」
そう言いながら、ザントはゆっくりと背中の《蒼嵐》を引き抜くと
「俺も抗ってやろうじゃねぇか!その運命によぉ!」
叫びながら、転移門を覆っている闇に目掛けて《蒼嵐》を振った。
すると、闇は少しだけ周りに飛び散ったが
「ぐっ!?」
突如ザントは苦しそうに呻き声を上げた。
右腕を見てみると、闇のような物が彼の右腕を蝕んでいた。
「(なんだこいつは!?右腕が自分のものでなくなるようなこの感覚は!?)」
「ザントさん!離れてください!このままじゃ・・・!」
アスナが悲鳴のような叫び声を上げたが、ザントは苦しそうに唸りながらも足を踏ん張り
「なめんじゃ、ねぇーーー!」
雄叫びと共に《蒼嵐》が突如光り出し、彼の右腕を蝕んでいた闇が飛び散った。
「何が闇だ!!たかが一人の人間が作ったシステムなんぞに、この俺が飲まれるわけ――」
ザントは力強く叫びながら、《蒼嵐》を上に持ち上げ、<ホーリー・ロード>のモーションに入る。そして
「ねぇだろうが!!」
光り輝く《蒼嵐》の一撃が転移門の周りを纏っていた闇を打ち晴らした。
「今だ!!」
「!? 閉ざされた森へ!」
ザントの言葉で我に返ったマテルは闇が打ち晴らわれたことで機能が回復した転移門ですぐさまミューティがいると思わしきフィールド名を叫ぶ。
その瞬間、六人の体は光に包まれた。
「もう!無茶し過ぎですよ!」
「あのまま放っておいたら、全員に闇に飲まれて御陀仏だった。だから、反省してねぇし後悔もしてねぇ」
「だからって、あんな得体の知れない闇に突っ込んでいくことあります!?」
「まあまあ、みんな無事だったんだし、いいじゃないか」
あんな無茶をしてまで強引に道を切り開いたザントに、心配していたアスナは怒り心頭であり、キリトがそれを宥めていた。
次に転移した場所は木々が生い茂る雪原だった。辺りは夜空で暗く、生い茂る木々の奥には赤い光を放っている木が見えた。
ハルトはこの景色に見覚えがあった。
「ここって・・・夢で見た景色とそっくりだ」
「本当か!?となると、もしかしたらこのエリアの何処かにいるのかもしれないな」
「・・・きっと、この先にあるもみの木にいると思うの。付いてきて」
マテルが再び先頭に立ち、案内しようと歩き始めたその時
「っ!?止まれ!」
ザントが咄嗟にマテルの肩を掴んで制止させる。
その直後、空から何か落ちてくるような音が聞こえ、ハルト達は上を見上げると、暗闇の空に微かだが小さな影が見えた。
その影は徐々にこちらに近づいていき、ズドーン!!、と地面に着地すると
「ココロヲヨコセェーーー!!」
叫び声を上げながら、こちらを睨みつけた。
影の正体は、人間の数倍はありそうな高さに、右手には巨大斧、左手には巨大な袋を持っており、その巨体には何やらサンタの衣装のような物を着ていたが、その衣装の色は一般のサンタが着ている赤い衣装と違って、おどろおどろしい雰囲気を感じる真っ黒な衣装だった。
「サンタクロース・・・?」
「いや、あれはブラックサンタだな。ドイツで有名な黒いサンタ、クリスマスの時期にクソガキを攫って粛清する悪魔だ。日本で言うなまはげみてぇなもんだな」
ザントは説明しながら、巨大ブラックサンタを見つめる。
顔もクリスマスでよく見る優しい雰囲気を持つおじいさんではなく、如何にも悪魔という言葉が似合うおっかない顔だった。
「あいつがラスボスか?」
ブラックサンタを見上げながら、ザントはマテルに問う。
しかし、マテルはザントの問いに答える様子はなく、何やら恐怖しているかのように体を震わせていた。
「・・・不可能なの」
「あぁ?」
「ミューティが全く敵わなかった相手なの。それが、完全に暴走している・・・」
恐怖で体を震わせながらブラックサンタについて語るマテル。
そんなマテルを見て、ザントはめんどくさそうに「はぁ~」とため息を付いた。
「怖気づいたなら、下がってろ。戦いに足手纏いはいらね」
「そのレベルでは、絶対に倒せないの!」
「誰が決めたんだ?レベルが低けりゃ倒せないなんて言葉なんざ、アインクラッド。ましてや、リアルでも存在しねぇよ」
「それは・・・でも・・・」
未だ悩んでいるマテルにザントはビシッと指を突き付けた。
「いいか!俺はテメェに頼まれたから、ここまで付いてきてやったんだ。それを、途中でくだらねぇ理由をつけて諦めるくらいなら、最初っから俺らに助けてくれって頼んでんじゃねぇ!」
「・・・・・・」
顔を俯かせて黙り込むマテルに、ザントは「ちっ」と舌打ちしながらブラックサンタの前に出た。
「運命に抗う気がないなら、そこでじっとしてろ。俺はお前に頼まれた身だ。なら、最低限の義理くらいは果たしてやるよ」
そう言いながら、ザントはブラックサンタの方へ歩いて行った。
ハルト達も、一人顔を俯かせているマテルを心配そうな表情で見ながら後に続く。
「少し言い過ぎじゃないか?」
「その程度で折れるなら、あいつはそこまでだったってことだ。俺はテメェが決めたことを最後までやり通す奴には最低限の手助けはしてやるが、それを途中で折る奴なんざ助けたいとは思わねぇ」
キリトの言葉を軽く受け流すと、ザントはブラックサンタの方に歩み寄る。
ある程度、ブラックサンタに近づいたところで、ハルト達は一斉に武器を構えた。
ブラックサンタはハルト達が接近してきていることに気づくと
「ココロヲヨコセェーーー!!」
袋から紫のガスをハルト達に向けて噴出させた。
「回避!」
キリトの叫び声に従い、横に回避するハルト達。
その隙を逃さず、ブラックサンタはハルトに近づいていき
「ヨコセ!」
「くっ!」
ハルトに向かって巨大斧を振り下ろしたが、ハルトはそれを剣で防いだ。
それだけでは終わらずと、ブラックサンタは次々とハルトに向かって斧を振り下ろしていき、それを防いでいくハルト。
しかし、ハルトはタンクではない。防御することができても、HPは僅かに減っている。それが、何回も繰り返されれば、ハルトのHPはあっという間にゼロになるだろう。
「これ以上はやらせるかよ!」
これ以上、ハルトに攻撃を受け止めさせるのはマズいと思ったキリトは自身にヘイトを向けさせるべく、ブラックサンタに攻撃した。
「どうだ!?」
これでブラックサンタのヘイトは自分に向いたはず。
キリトの予想通り、ブラックサンタは動きを止めると、巨大斧を持っている右手を振り上げて
「ヨコセェーーー!!」
「うわっ!」
ハルトに向かって斧を振り下ろした。
「・・・え?」
思わず、疑問の声を漏らすキリト。
目の前にいるブラックサンタは先程から他のメンバーなど眼中にないと言わんばかりに、ハルトに襲い掛かっている。まるで、ハルトのみを狙っているかのように
「ヨコセッ!!」
「うわっ!また来た!」
「なぁ、さっきからやたらハルトが狙われていないか?」
「やっぱりそう思うよね。何か引き付けるアイテムとか持っているとかかな?」
キリト達がブラックサンタの特性に気づき、様々な考えを出し合っていた。
すると、ブラックサンタから発せられた言葉にキリトが反応した。
「ヨコセッ!!ココロヲヨコセェーーー!!」
「ココロ・・・そうか!あのボスはきっとハルトの持っている雪うさぎを狙っているんだ!」
「なるほど、それなら確かにハルトだけが狙われている理由になりますね」
キリトとコハルがハルトのみ狙われている理由が分かった頃、ハルトは未だに一人でブラックサンタと応戦していた。
流石に一人だけでは、ブラックサンタの強烈な攻撃に対応しきれず、ハルトは防戦一方だった。
何度もかの攻撃をまた防ぐべく、ハルトは剣を前に出したが、その前にザントがハルトの前に立ち、ブラックサンタの攻撃を防いだ。
「そう長々と防ぎ続けることはできねぇだろ?後ろに下がって回復してろ」
「!? 分かりました!」
ザントの指示に従い、ハルトは後退してポーションでHPを回復した。
ブラックサンタはハルトの方へ向かおうとしたが、その前にザントと戦線に復帰した三人がブラックサンタの正面に立った。
「残念ながら、あの雪うさぎは既にミューティのモンだ。欲しきりゃ、俺らを殺してからにしろ」
ザントが《蒼嵐》を肩に担ぎながらブラックサンタに向かってそう言い放つ。
ブラックサンタが「ヨコセーーー!!」と叫びながら攻撃体勢に入り、ザント達は応戦すべく武器を構えると、レイピアを構えたマテルがザントの隣に立った。
「私も・・・戦うの・・・!運命に抗ってみせるの!」
「!? へっ、行こうぜ!」
抗うことを選択したマテルにザントは小さく笑った。
戦いはザント達の方が優勢であった。ブラックサンタとのレベルの差を彼らは己の技と闘志、そして、運命に抗う気持ちの強さで補っていた。
余談だが、
「アギャギャギャ!その程度で俺を殺せると思うなよ!」
めちゃくちゃはっちゃけてた。
楽しそうに笑いながら、ブラックサンタの斧と打ち合っていくザント。おそらく、この中で一番楽しんでいるのは紛れもなくザントだろう。
そんなザントにハルト達は少しドン引きしながらも彼の援護に回り、ブラックサンタにダメージを与えていった。
しかし、ザントの力があっても、ブラックサンタとは互角に渡り合っているだけであって、決定打には至っていない。
この調子で戦っていれば、ザントのスタミナがいずれ尽きてしまうだろう。
ザントもそれを理解し、一旦打ち合いを切り上げると、ハルトの下に向かい
「一旦交代だ。作戦を立てるから、その間時間を稼げ」
「え!?ちょ、まっ!」
ほぼ強引にハルトと前衛を交代すると、自身はキリトとアスナの方へ向かった。
「ココロヲヨコセェーーー!!」
「くっ!しつこい!」
「ハルト!」
「加勢するの!」
ハルトが前にでたことで、ブラックサンタは案の定雪うさぎを持っているハルトを狙ってきた。
コハルとマテルも参戦し、三人でブラックサンタと応戦してる最中、ザントはHPを回復させているキリトとアスナと共に作戦を立てていた。
「それで、どうするんだ?このまま戦えば、スタミナ切れになるぞ」
「分かってるわ。けど、現状ボスの弱点らしき箇所なんて見つからないし、どうすればいいのかしら・・・」
作戦を立てようにも中々いい案が浮かばず、その場に立ちずさんでいた三人だったが
『心配ないわ。今、最後の力を使うから』
「「「!?」」」
フィールドに突如聞き覚えのない女性らしき声が聞こえた。
唐突に聞こえてきた知らぬ女性の声に誰もが驚くが、ハルトは違う意味で驚いた。
「これは・・・ミューティ?」
この声は夢で自身に語りかけてきた人物、ミューテの声であるとハルトは感じていた。
ミューティらしき女性の声は続いていく。
『妙なる静謐の光よ、混沌の闇を祓って!<ノーマライズコード・エンジェルフォール>!!』
システム的要素が混じった女性の言葉がフィールドに響いた次の瞬間
「!? こいつは・・・!」
ザントは《蒼嵐》が突如光り出したことに目を見開いた。
この光が何を示しているのかは分からない。けれど、一つだけ分かったことがあった。
こいつなら、やれるっと。
「テメェら!一瞬でいい!こいつの動きを止めろ!」
「!? 分かった!」
「任せて!」
ザントの指示に少し驚きつつも、キリトとアスナはブラックサンタと戦っているハルトとコハルに加勢する。
キリトとアスナが加勢したことで、戦況はハルト達の方に向いていた。
「オオオーーー!!」
「今だ!」
ブラックサンタの強力な一撃を躱した五人はそれぞれ強力なソードスキルをお見舞いした。
「オオ・・・ココロヲ・・・!ヲ・・・?」
怯んで尚、ブラックサンタは雪うさぎを奪おうとハルトに向かって手を伸ばしたが、その横で突如出現した光り輝く巨大な金色の刃に目を奪われた。
その光の刃の下には、光の刃を発生させている《蒼嵐》とその持ち主であるザントが両手で《蒼嵐》を頭上に上げながら<ホーリー・ロード>のモーションを取っていた。
「あれは!エ○スカ○バー!?」
「まさかSAOでかの有名な勝利の剣を見れるなんて思わなかったぜ!これで勝てる!」
「二人共、何言ってるの?」
「なんだと!?アスナ、お前まさか、あの某騎士王が使用する宝具を知らないのか!?」
「強大な敵をも一掃する必殺の一撃。それが、SAOで見れる日が来るなんて・・・胸が踊るよ・・・!」
「・・・分かる?」
「さぁ・・・」
ゲーマー魂を燃え上がらせながら興奮気味に語るハルトとキリトを冷めた目で見つめるアスナとコハル。
一方、ブラックサンタもまた、光り輝く巨大な金色の刃に目を奪われていた。
光り輝く刃にブラックサンタが見惚れる中、ザントは笑みを浮かべながら、《蒼嵐》を思いっ切り振り下ろした。
「悪りぃが、こっちにも譲れねぇもんがあるんだ。さっさと闇に帰ってろ」
「ギッ・・・!」
一瞬の出来事だった。
悲鳴すら上げることなく、ブラックサンタは巨大な光の刃に飲まれ・・・その体は一刀両断された。
フィールドに強い衝撃が伝わり、光が収まる頃には先程まで戦っていたフィールドには巨大な光の刃によって切り裂かれた地面が見え、その地面の上で縦半分に斬られたブラックサンタはポリゴン状に四散した。
その光景を見届けたザントは黙って《蒼嵐》を背中にしまうとハルト達の下に戻った。
「急いでミューティの所に行くの!」
邪魔者がいなくなり、マテルが奥にある赤いもみの木に向かって走り出し、ハルト達も後に続く。
赤いもみの木にたどり着くと、木の前に一人の女性が佇んでいた。
その女性は、神秘的な長髪の黒髪におっとりとした目。そして、体のあちこちに付いている黒い闇が女性の体を蝕んでいた。
ハルト達に気づいた女性は笑みを浮かべながら喋り出す。
「皆さん、よく来てくれましたね・・・」
「ミューティ!!」
マテルが険しい表情をしながらミューティの下に駆け寄る。
「マテル、皆を連れて来てくれてありがとう。大変だったでしょう?」
「ミューティ・・・体の闇が拡がっているの・・・」
「ええ、ここまでもっていられたのが奇跡だわ・・・」
そう言いながら、ミューティはハルトの方を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「あなたがハルトね。導きに応じてくれて、感謝の言葉もないわ」
夢で伝えた通りに動いてくれたハルトに感謝を伝えるミューティ。
ハルトは何も言わずにミューティの前に出ると、ストレージからガラス細工の雪うさぎをミューティに渡した。
「・・・どうぞ、受け取ってください」
「それは・・・ガラスの雪うさぎ・・・」
ハルトから雪うさぎを受け取ったミューティは嬉しそうに微笑むと、今度は申し訳なさそうな表情になりながらハルトに謝罪した。
「ごめんなさい。こんなつまらない物のために命を懸けてもらって・・・」
「つまらない物なんかじゃない。これは、あなたの心ですよね?」
ハルトの言葉に、ミューティは少し悲しそうな顔をした。
「・・・これは、私の大切な思い出で、これを私にくれた人は、私の大切な人よ・・・」
悲しそうな顔で雪うさぎについて語るミューティ。
すると、マテルは拳を震わせて顔に怒りを表しながら喋った。
「でも、あいつはミューティを・・・!」
「その先は言わないで、マテル。あの人は高みを目指している。そのためには切り捨てなければいけないものもあったのよ」
「そんなの、合理的じゃないの・・・」
「合理的ってフレーズはもう忘れなさい。これからはあなたの心の思うがままに生きて」
怒りに震えているマテルの肩を掴み、優しく告げるミューティ。
すると、ミューティの体が突如光り出した。
「ミューティ・・・?」
「自分の感情をさらけ出してもいい。少し我が儘になってもいい・・・誰よりも人間らしく生きられるように・・・」
会話をしている間にも、ミューティの輝きは徐々に強くなっており、心なしか少し体が薄くなっている。
「ミューティ、消えているの!」
マテルがミューティの異変に気づいて叫ぶ。
ミューティの体は既に終わりを迎えようとして、その証に体が徐々に薄くなっている。
光り輝く己の体を気にせず、ミューティは胸に手を置き、優しく微笑んだ。
「お別れね。ありがとう、皆さん。こんなにも温かい気持ちで最後を迎えられるなんて・・・」
「ミューティ!!」
「生まれてきて良かった・・・本当に・・・よかっ・・・た・・・」
そしてミューティは・・・光の粒子となって消えていった。
その光は幻想的で美しく、天に向かって静かに昇っていった。まるで、ミューティの新たなる旅立ちを祈るかのように・・・
「・・・・・・」
「あばよ、ミューティ・・・」
マテルは黙ってミューティがいた場所を見つめ、ザントは目を瞑り、この世を去ったミューティに静かに黙禱を捧げた。
「・・・助けられなかったな」
「どうして・・・こんな・・・」
ハルト達がミューティを助けられなかったことに悲しむ中、ザントは何も言わずにミューティがいた場所を見つめ続けているマテルの隣に立つ。
「他人を思うことは悪りぃことじゃねぇ。だが、悲しむのはそこら辺にしとけ。あいつは最後に生まれてきて良かったって言ってただろ。あいつはこのアインクラッドで悔いのない生涯を送ることができて逝ったんだ。それを悲しむなんざ、自分の人生に満足して死んでいったあいつへの侮辱だ」
「・・・・・・」
厳しいように見えるが、いつまでも悲しんでいれば、マテルのために消えるその瞬間まで運命に抗い続けていたミューティが浮かばれない、というザントの不器用な優しさが込められていた。
ハルト達はそのザントの不器用な優しさを感じ取った故に何も言えずにいた。
しばらくの間、フィールドには静寂が漂っていたが、ふと、マテルが口を開いた。
「ねぇ、ザント。人間らしさって何?」
「さぁな、その答えは色んな奴が持ってんだ。どれが正解でどれが間違いなんざ、分かるわけねぇだろ」
「人間らしく生きて・・・そう言われたけど・・・分からないの・・・」
「それは、テメェ自身の足で見つけろ。テメェが人間らしく生きるための、テメェらしい答えをな」
「私らしい・・・答え・・・」
すると、マテルの目元からいくつもの水滴がポタポタと流れてきた
「・・・あれ・・・?目から・・・水?私は・・・泣けないのに・・・」
「泣きゃいいだろ」
「え?」
「人間ってのは泣ける生き物だからな。テメェが流しているそれも、人間の証だ」
「これも・・・人間の証・・・?」
「ああ、流せる内に流しておけ。俺みてぇに気づいたら泣くことができなくなる日が来るかもしれねぇしな」
そう言いながら、ザントはマテルの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
「・・・人間は、大きくなれば泣けなくなるの?私も・・・いつかは泣けなくなるの?」
「さぁな。人間ってのは世の中に腐る程いるからな。この先テメェがどうなるか。それは・・・生きてみりゃ、分かるもんだ」
「生きて・・・みれば・・・うぅ・・・ミューティ・・・」
マテルはひたすらに泣き、ザントはそんなマテルの頭をがむしゃらに撫でた。
存在しないはずの雪原フィールドに、少女の泣き声と頭を乱雑に撫でる音がいつまでも響き渡っていた。
しばらくして、マテルが泣き止み
「もう大丈夫。いつまでも泣いていたらミューティに怒られるの。帰り道を案内するから付いてくるの」
と、ハルト達に向かって言いながら歩き出した。
そんなマテルの背中をコハルは不安気な表情で見つめていたが
「大丈夫だよ。マテルは僕らが思っている以上に強い子だし、いつかきっと見つかるはずさ。人間らしく生きる為の答えが」
「そうよ。それに、これから皆でクリスマスパーティーをするって時に、そんな顔してたら、パーティーが台無しになっちゃうわよ」
「うん・・・そうだね。帰ろう!《始まりの町》へ!」
ハルトとアスナの言葉で、コハルは元気を取り戻した。
三人はこれから行うクリスマスパーティーを楽しみにしながらマテルの後に付いていった。
一方、後ろではキリトとザントがミューティのことについて話していた。
「なぁ、ザント。ミューティって何者だったんだろうな?俺たちを助けてくれた時に発した言葉・・・あれは間違いなくプログラム的な単語だったし・・・」
「知るか、知りたきゃ茅場に聞け。一つ言えんのは・・・あいつは、この世界で生きていた。そんだけだ」
「・・・そうだな」
これ以上考えるのは良くないと思ったキリトは、考えるのを辞めた。
話題を切り上げ、二人は先頭ではしゃいでいるハルト達にやれやれっといった感じで見ながら、《始まりの町》に戻った。
《始まりの町》に戻ったハルト達は、一軒家を借りて、クリスマスパーティーをしていた。
あの後、ハルト達は用事があって来れなかった者達も無事に呼び出すことができ、今は部屋全体を使って総代に騒いでいた。
「おい、なんで俺まで参加させられてんだ?」
そんな中、頭にサンタの帽子をかぶっているザントが、かなり不機嫌な感じで呟く。
「何言ってるんですか。せっかくのクリスマスなんですから楽しまないとダメですよ」
「楽しむ必要なんざねぇ。そんなモンに参加するくらいならフィールドを回ってた方がマシだ」
「もう、こういうイベントの時くらいは息抜きしないと勿体ないですよ。ねっ、ラピード!」
「ヴォン!」
コハルはラピードに同意を求めるかのように聞くと、同じく頭にサンタの帽子をかぶったラピードは嬉しそうに吠える。
今回のクエストでのけ者にされたラピードは、最初は不機嫌だったが、今は楽しそうにパーティーに混ざっていた。
そんな能天気なペットにザントは顔をしかめた。
「ラピード、テメェ・・・」
「まあまあ、コハルの言う通り年に一度のクリスマスだし楽しまないと」
「よく言うぜ。さっきまで、あんなにクエストに行きたがってた奴がよう」
ザントの言葉に「うっ」と顔をしかめるキリト。
そんなキリトを無視し、別の場所に目線を移すとコハルとアスナ、それとマテルが写真を取ろうと集まっていた。
「せっかくだし、皆で写真を取りましょう!」
「いいね!それ!ほら、マテルちゃんも!」
「分かったの」
「ヴォン!」
「あ!ラピードも一緒に撮りたいの?それなら一緒に撮ろうよ!」
「それはいいわね!ほら!ザントさんも来てください!」
「おい!なんで俺まで撮らねぇといけねぇんだ!」
「ザントはラピードの相棒なんだから、一緒にいてやらないとラピードが可哀想なの」
「クゥーン・・・」
「ぐっ・・・だぁーーー!!分かったから、そんな目で俺を見るんじゃねぇ!!」
マテルの言葉とラピードのつぶらな瞳で見つめられて、鬱陶しそうに叫んだザントだったが
「(まぁ、こういうのも悪くねぇな・・・)」
心の何処かでそう思いながらも、ザントは写真を撮るべくコハル達の下に向かう。
聖夜に取れた一枚の写真。そこに写っていたのは、微笑む二人と一匹。無表情だが、何処か楽しそうにしている少女。そして、目線を少しずらし無愛想に顔をしかめる青年がいた。
~Happy Christmas For You~
・ザントの過去について
今明かせるのは、両親は既に他界していることだけです。
・ザントの父親の強さ
「暗殺教室」の烏間先生並みの強さに色んな国の武術の知識を兼ね備えています。
・<ホーリー・ロード>
オリジナルスキル。SAOIFだと両手剣の星4。名前の通り聖属性を持っている。イメージは灰色のサンタ衣装を着て、クリスマスの街並みを背景にしながら夜空を飛んでいるソリに座って、こちらに笑みを向けているザント。ちなみに、トナカイはトナカイコスのラピード。
・<ホーリー・ロード改>
<ホーリー・ロード>にミューティの力が加わったことで、かの有名なエ○スカ○バーみたいな斬撃を放つことができる。
・ミューティ
このイベントのみ登場するNPC?マテルとは知り合いみたいだが、セキュリティの権限コードを知っていることから、ユイちゃんみたいな特殊なAI(カーディナル関係の何か)かもしれない。ちなみに、彼女が消える場面で作者は号泣しました。
・あの人
高みを目指しているって意味では、個人的にテュフォンだと私は思っている。
このストーリーの何がいいというとユウキがホント神ってる。
だから、ユウキがいない分、書くのに物凄く苦労した。
次回は二十七層編です。
この二十七層編でまた一人、原作キャラがオリキャラとフラグを立てます。誰と誰がフラグを立てるのか・・・お楽しみに。