ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
二十七層編です。今回の話はあの鍛冶師が登場します。(何気に本編初登場という事実)
とある圏内の一軒家。
SAOで数少ない鍛冶屋を営んでいる少女、リズベットは椅子に座って、依頼者が来るのを待っていた。
事の発端は、とあるプレイヤーがリズベットに武器作成の依頼をアルゴを通して知らされたことである。
何でも、その武器は今のNPCの鍛冶屋では作ることができず、鍛冶スキルが高いプレイヤーに頼まないと作ることができない代物だという。
どうしようかと悩んでた時に、ギルドの仲間からリズベットの事について聞いた依頼者が、依頼とその武器のことについて直接話しをするべく、アルゴを通じて、リズベットをこの一軒家に呼び出したのである。
こうして、依頼されたことはリズベットにとって嬉しい限りだが、依頼をこなすとなると真剣に挑まなければならない。
頼まれた依頼はしっかりこなす。プレイヤーの半身とも言える武器を鍛える職に就いているリズベットにとって、一つ一つの依頼には重大な責任が伴われている。
自分のミスでプレイヤーが死なないよう、常に最高の武器を鍛える。それが、鍛冶師の責務であると、リズベットは日々心に決め込みながらプレイヤーの武器を鍛えている。
待ち合わせの時間が刻一刻と迫り、ただ黙々と椅子に座っていると、家の扉が開かれた。
そこに入ってきたのは、甲冑のような赤い鎧を装備しており、歳は見た感じリズベットとそんなに変わらなそうな少年だった。
依頼者の顔をリズベットはまじまじと見つめる。
程々の長身に、濃い目の茶髪。目つきは鋭いが、中々整っている顔立ち。
「(ふ~ん、顔は中々イケてるじゃない・・・)」
少なくとも、イケメンの部類に入ると、心の中で思いながらリズベットは依頼者と思わしき少年に話しかけようとしたが
「すみません。家、間違いました」
「え!?ちょっと、待ちなさい!」
扉を閉めて、立ち去ろうとした依頼者と思わしき少年をリズベットが慌てて制止する。
「何、さり気なく出ようとしてるの!あんた、あたしに依頼してきた人でしょ!?」
「いや、俺が依頼しようとしたのはリズベットって言う鍛冶師で、お前みたいな如何にもそこら辺にいそうな小娘じゃ――」
「あたしが、そのリズベットよ!!」
「お前が?・・・あぁ、なるほど」
「気がついたみたいね。それじゃあ、早速だけど――」
「お前は本物が用意した偽物。所謂レプリカ、或いはホムンクルスか。どっからどう見ても鍛冶屋の恰好じゃねぇなと思っていたが、そうだったのか・・・」
「あたしは正真正銘の人間よ!!ていうか、そんなファンタスティックな物を作れるシステムがSAOにあるわけないでしょ!!」
なんなのこいつは!?出会って早々、この依頼者の第一印象はリズベットにとって、かなり悪いものだった。
しばらくの間、依頼者に振り回されていたリズベットだったが、10分くらい経った後に、ようやく鍛冶屋であることを理解してもらえると、依頼者から依頼について話された。
「お前が本物のリズベットだってのは分かった。さて、早速依頼について話すが、いいか?」
「あんた、この状況からいきなり依頼について話すなんて、いい度胸してるじゃない・・・まぁ、いいわ。それで、あんたが作って欲しい武器ってどんなの?」
自由奔放な依頼者に一瞬イラッとしたが、リズベットは依頼について尋ねた。
「俺が作って欲しい武器・・・それは刀だ」
「刀?」
「ああ、刀だ」
そう言いながら、依頼者はストレージからインゴットを取り出しリズベットに見せた。
「俺が出せるのはこれくらいだが、他にも何か必要な物はあったりするか?」
「そうね・・・この素材なら、作れなくはないけど・・・成功しても、正直いまいちな性能になると思うわ。何かレアな素材があれば、もっと強力な刀を作れるかもしれないけど・・・」
出されたインゴットをじっくりと観察していきながら、色々と考えていたリズベットだったが、ふと、何日か前に開放された最新階層の話を思い出した。
「そう言えば、つい最近、第二十七層が開放されたらしいわよね。そこなら、ちょうどいい素材が見つかるんじゃないかしら?」
「二十七層?なんでだ?」
「二十七層のテーマは洞窟。しかも、ただの洞窟じゃなくて、坑道だって話なのよ。そこなら、すっごいレアな素材とか見つかるかもしれないわよ」
リズベットから二十七層のことについて聞いた依頼者は腕を組んで考えていたが
「そうか・・・なら、俺は今から二十七層に行ってきて、そいつを取ってくる。後日、連絡するから、それまで待っててくれ」
そう言うと、依頼者は席を立ち、家から出ようとしたが、またしてもリズベットが制止した。
「待ちなさいよ。あたしも一緒に行くわ」
「・・・は?」
「さっきも言ったけど、二十七層のテーマは洞窟であって、坑道でもあるの。レアな素材もたくさん手に入るって噂だし、鍛冶師としては見過ごせないのよ」
そう言いながら、リズベットはにぃと笑みを浮かべる。
しかし、その直後に発せられた依頼者の言葉によって、その笑みは消え失せた。
「やめておけ。お前みたいなひ弱な女が俺に付いて行ったところで、邪魔になるだけだ」
「(カチーン)」
リズベットは激怒した。
初対面とはいえ、見た目だけで邪魔者扱いするなんていくらなんでもひどすぎる。
必ず、目の前にいる生意気な依頼者にギャフン!と言わせてやるとリズベットは決意した。
「ひ弱ね・・・言ってくれるじゃないの・・・!こう見えて、あたしはマスターメイサーなの!いいわ!見てなさい、すぐにあたしの実力を分からせてやるわ。それで、そのひ弱って言葉を訂正させてやるんだから!」
ビシッと依頼者に向かって指を指しながらリズベットは宣言した。
そんなリズベットを見て、依頼者は「はぁ~」とめんどくさそうにため息をついた。
この調子だと断り続けても付いてきそうだと察した依頼者は仕方ないっといった感じで口を開く。
「仕方ねぇな。付いて来たければ勝手にしろ。その代わり、お前は俺が依頼した身だ。勝手に行って、勝手に死なれたら許さないからな」
「分かってるわよ。依頼者の依頼も果たせないまま死んでたまるもんですか」
依頼者の忠告に強気で返すと、リズベットは椅子から立ち上がった。
「さて、それじゃあ早速行きましょうか!・・・と、その前に、あんたの名前を教えてくれない?これからパーティーを組むんだし、名前を知っておいた方が何かと便利でしょ?」
「ん?あぁ、そうだな・・・」
依頼者は一度一息ついて、リズベットに向かって自身の名を告げた。
「俺はソウゴ。ギルド、紅の狼のメンバーだ」
二十六層を突破し、二十七層へやって来たハルトとコハル。
「ここが二十七層・・・今回は、何とか犠牲者無しで突破できたね」
そう言いながら、コハルは辺りを見渡す。
テーマが洞窟、それも坑道と言うだけあって、周りには様々な岩石やトロッコの線路のような物が置かれている。更に、陽の光が届いておらず、街灯のみが二十七層のフィールドを照らしていた。
「気を引き締めておけよ二人共。さっき言った通り、ここの層のクエストは少し特殊なんだからヨ」
二人の隣でアルゴが真剣な表情で呟く。
ここで、アルゴの言う特殊なクエストについて説明しておこう。
この二十七層には、三つの鍛冶屋の流派が存在し、互いに火花を散らし合っている。
クエストを受注するプレイヤーは、三つある内の一つの流派に属して、その流派を勝たせる為に鍛冶師の依頼を一つ一つこなしていく必要がある。それが、この特殊クエストの主な内容である。
そして、無事クエストをクリアできたら、《業物》と呼ばれる武器をその流派の頭領に作ってもらうことができる。
しかし、このクエストは一度受注してしまうと、属した流派以外の店は使えず、一度決めた流派は変えることができないというデメリットがある。更に、どれか一つの流派が《業物》を作ってしまうと、他の流派の鍛冶屋は店じまいをしてしまう。ズバリ、一人のプレイヤーがクエストをクリアしてしまうと、他のプレイヤーは最初に《業物》を作った流派以外の店が全て使えなくなってしまうというトンデモ仕様になっている。
そして、運命のいたずらか、現在ALS、DKBの二大ギルドがそれぞれ別々の流派でそのクエストを受注しており、どちらが先に《業物》を完成させて優位に立てるかで競い合っている。
二十七層へ来たハルト達は圏内にいるクエストNPCに話しかけ、クエストを受注しようとしたところアルゴに止められた。そして、彼女から一通り説明を聞いて、今やトッププレイヤーの二人が、どちらか一方の流派に属したとなれば、属さなかった方のギルドから睨まれ、ギルド間のパワーバランスを崩しかねないと言われた二人は、そのクエストを受けることを断念し、そのままフィールドに出て、冒頭のセリフに至る。
そして現在、三人は二十七層を回りながらレベリングしていた。
「うん?あれって・・・」
すると、前の方に見知っている二人の姿が見えた。
一人はピンク色のエプロンドレスを着ており、右手に片手棍を持っている少女。もう一人は槍を背中に背負っている少年。
滅多に見ないであろう組み合わせに疑問を抱きながら、ハルト達はその二人に話しかける。
「こんにちは!リズベットさん!ソウゴさん!」
「あら~!ハルトにコハルじゃない!久しぶり!」
「お前らか・・・相変わらず、二人一緒だな」
互いに挨拶を済ませると、コハルはリズベットとソウゴが一緒にいる訳を問う。
「それにしても、珍しい組み合わせですね。お二人はどうして一緒にいるんですか?」
「あぁ、俺はこいつに刀の作成を依頼したんだが、それを作るための素材がこの層で手に入るって聞いてな」
「この層のテーマって洞窟、それも、坑道でしょ。レアな素材も手に入るし、鍛冶師として見過ごせないのよ。それで、パーティーを組めば、協力しながらレアな素材がたくさん手に入るし、こいつの刀の素材もその場で確認できるってわけよ」
「つか、お前ら、この女と知り合いだったのか?」
「そう言うあんたこそ、二人のことを知ってるみたいじゃない?」
「知ってるも何も、俺は攻略組だ。お前と違って、最前線に居れば飽きるほど見らさる」
「ふーん・・・まあ、それもそっか」
「お前の方こそ、こいつらとは、どういった関係なんだ?」
「あたし?あたしは二人とは友達よ。一緒にクエストもしたし、ハルトの武器を作ってやったりしたわ」
「そっか・・・なんというか・・・底知れないな。お前ら二人の人脈」
「確かに・・・言われてみれば、私達って色んな人と出会っているよね?」
「きっと、これからも色んな人と出会っていくんだろうなぁ・・・」
他愛のない会話を弾ませていく四人だったが、一人蚊帳の外にいたアルゴがジト目で話しかける。
「あの~、そろそろ話を進めてもいいかナ~?」
「ん?あぁ、アルゴか。いたのか?」
「最初っからいたよ!まったく、おねぇさんをほったらかして、四人で楽しそうにおしゃべりするなんて酷いゼ」
「悪かったよ。んで、お前はいったい何の用で来たんだ?」
アルゴの存在に気づいたソウゴは、気づかなかった事に謝罪しながらも素っ気ない態度でアルゴに問いかける。
すると、アルゴは暫し考えるような素振りをした後、口を開いた。
「そのことに関しては、歩きながら話そウ。月夜の黒猫団が近くに来てるみたいでネ。悪いけど、探すのを手伝ってくれないカ?」
「・・・俺は別に構わねぇが、お前はどうなんだ?」
「あたしも大丈夫よ。さっさと見つけちゃいましょ!」
「悪いネ、二人共。急ぐヨ!」
二人の返答を聞くと、アルゴは先頭に立ち、急ぐようハルト達に促した。
しばらく歩いていると、戦闘の音が聞こえてきた。
「あれって・・・サチ!?」
フィールドの奥で、サチ及び「月夜の黒猫団」の面々がエネミーの集団と戦っている様子が見られた。
しかし、メンバー全員の顔色は険しく、このままだと全滅し兼ねない感じだった。
「嫌・・・来ないで・・・!」
そんな中、迫りくるエネミーを怯えながら必死に捌いているサチの姿が目に映った。
「ちっ!」
見かねたソウゴは真っ先に飛び出し、二人の間に入ると、持っている槍でエネミーを突き、ポリゴンに変えた。
「そ、ソウゴさん!?」
「槍使いはリーチが長い分、接近されると弱い。だから、ある程度距離を保ちながら、相手の隙をついて一気にぶっ刺せ。そう教えたはずだぞ?サチ」
驚くサチをよそに、冷たく言い放つソウゴ。
そこに、ハルトが駆けつけて、サチの隣に立った。
「大丈夫?サチ」
「は、ハルト・・・!」
「力を貸して!一緒にここを切り抜けよう!」
「う、うん!」
サチはハルトの言葉に頷くと、気を取り直して槍を構えた。
その後、ハルト達の援護もあり、エネミーの集団を全て倒すことができた。
「お疲れサチ。なんか、前よりも更に強くなったね?」
「そ、そんな・・・!ハルト達の方がまだ強いよ・・・槍だって・・・ソウゴさんの方が・・・」
サチを褒めるハルトに対して、サチは遠慮しがちに喋っていると、横からソウゴが話しかけてきた。
「確かにまだまだだな。戦ってる時もかなり怯えてたし、そのせいで、敵にあんな近くにまで接近されてたからな。そこら辺の克服も踏まえて、鍛えていく必要があるな」
「は、はい・・・ありがとうございます・・・せんせ・・・じゃなくて、ソウゴさん」
「・・・先生って呼ぼうとするな・・・たく、ホントっめんどくせぇ」
そう言いながら、悪態づいたソウゴだったが、今のやり取りを見ていたハルトとコハルはそれどころじゃなかった。
何せ内気なサチが、少し近寄りがたいイメージのあるソウゴと、臆することなく普通に会話をしていたのだから。しかも、先生って・・・
コノハと親しいのは知っていたが、ソウゴとも親し気に話しているサチを見て、コハルはおずおずと問いかける。
「あの~、やけに親し気に話しているんですけど、サチとソウゴさんって、どんな関係なんですか?」
「ん?あぁ、一言で言えば師弟だ」
「師弟?もしかして、同じ槍使いとして、とかですか?」
「まぁな、俺たちがこいつらとたまにパーティーを組んで行動しているのは、お前らも知ってるだろ?それで、ある日こいつから槍の扱い方を教えてくださいって頼まれたんだよ。正直、めんどくさかったが、コノハやトウガの野郎も教えてやってくれないか?って頼んできてよ。仕方なく師事してやってんだよ」
「おかげで、前よりかは上手く槍を扱えるようになったし、モンスターを相手にしても、少しだけ怖くは無くなったんだよ」
自慢げに言うサチに、コハルは安心感と彼女を鍛えてくれたソウゴに感謝した。
初めの頃は、あんなにも戦うことに怯えていたのに、今では生き生きとこの世界で生きている。それは彼女の友達として凄く嬉しいことであった。
一方、ソウゴはサチから目線を外すと、今度はアルゴに向けた。
「それで、わざわざこいつらまで集めておいて、俺らにいったい何の用があるんだ?」
「まぁ、そう焦らさんナ。他のメンバーも集まったみたいだし、早速話すヨ」
アルゴはハルト達の時と同様、クエストの事をリズベット達に説明した。
「事情は分かったわ。でも、特定のギルドを贔屓にしないのはいいけど、このクエストをこのまま放っておくわけにもいかないんじゃないかしら?」
「・・・それはその通りだナ・・・ひとまず焦って決めずに、じっくりと考えればイイ」
「それじゃ、手を動かしながら考えることにするわ。とりあえず、素材集めとレベリングの続きといきましょ。そうだ!何ならあんた達も一緒にどう?」
ひとまずは保留ていうことにしたリズベットは、狩りの続きをやるついでに、ハルト達と「月夜の黒猫団」の面々を誘った。
その隣でソウゴがリズベットをジト目で睨んだ。
「おい、何勝手に決めてんだ?」
「いいじゃない!人数が多けりぁ、素材だって沢山手に入るし!」
「・・・なんて言うか・・・自由な女だな」
リズベットの強引さに呆れるソウゴをよそに、リズベットはどうするの?って目線をハルト達に向けながら聞いた。
「勿論、構わないよ」
「お邪魔じゃなければ・・・いいかな」
「決まりね。それじゃあ、先に進みましょ!」
「月夜の黒猫団」の面々と合流したハルト達は、フィールドを探索していた。
「これで!」
サチが止めの一撃を放つと、コウモリ型のエネミーはポリゴン状に四散した。
その様子を見てたリズベットは、サチを称賛する。
「お!サチ、あんたやるじゃん!」
「そんな・・・!偶然だよ・・・ソウゴさんみたいに、もっと上手くやれるようにならないと・・・」
「そうだな。確かにいい一撃だったが、踏み込みに隙がありすぎるし、顔に恐怖が残っているな。素早い敵が相手なら、槍を当てる前に攻撃されるぞ」
「あんたねぇ・・・怖いのは誰だってそうだし、もう少し優しい言葉を掛けてやりなさいよ」
「優しくし過ぎた結果、死んでしまったら元も子もねぇだろ。最前線で戦うつもりなら、恐怖なんて無くせ。でないと・・・いつか死ぬぞ」
サチに冷たい評価を下すソウゴをリズベットは非難めいた視線で睨んだが、彼の言っている事にも一理あるので「そりゃそうだけど・・・」と難しい顔をした。
すると、向こうの方から黒猫団の面々の騒ぎ声が聞こえ、三人はそちらを見た。
「見ろよ!
黒猫団の一人、ダッカーが手に持った宝箱を開けようとしたが
「!? そいつを開けるな!!」
「え?」
ソウゴが突如大声で叫びながら止めようとするも、ダッカーは既に宝箱に手を掛け、そのまま開けてしまった。その次の瞬間
ブー!ブー!ブー!
「な、何!このやかましい音!?」
「ちっ!遅かったか・・・!」
フィールドに突如鳴り響いたブザー音にリズベットは驚き、ソウゴは苦い顔をした。
すると、ブザー音に反応して、近くにいたエネミーが続々と集まってきた。
「こ、こんなにたくさん・・・」
「・・・アラームトラップダ。この音を聞きつけて、大量のMobが押し寄せてくるんダ!」
アルゴの言葉通り、エネミーは次々と集まってき、気づいたら囲まれていた。
エネミーの軍団に応戦すべく、ハルト達はそれぞれの武器を構える。
そんな中、ソウゴは静かに喋り出す。
「お前ら、少しの間敵を引き付けろ。その間に、俺はあの宝箱の方に行って、トラップを解除する」
「持ってるのカ?<解除>スキルヲ?」
「ああ。熟練度は低いが、あの程度のトラップなら解除するのは造作もない」
「よし・・・オレッチ達で周りのMobをおびき寄せておくから、その間にトラップを解除してくレ!」
作戦が決まり、ハルト達はエネミーに攻撃を仕掛けて、ヘイトをこちらに向けながら応戦した。
その隙をついて包囲網を突破したソウゴは、宝箱に近づきトラップ解除に努めていた。
しばらく戦闘が続いていたが、無限に湧いてくるエネミーと違い、ハルト達の体力には限界があり、特に中層ギルドの「月夜の黒猫団」の面々は、ほとんど限界に近い状態だった。
「まだカ!?ソウゴ!」
「もう少し耐えろ!後、少しで・・・!」
声を張りながら慎重にトラップ解除をしていくソウゴ。
すると、サチの背後から一体のゴーレムが腕を上げながらサチに迫ってきた。
「サチ!危ない!」
「え?」
ケイタがサチに向かって叫ぶが、サチの背後には既にゴーレムが攻撃しようと、腕を振り下ろした。
「サチ!」
「きゃ!?」
ハルトが咄嗟にサチを突き飛ばし、ゴーレムの腕を剣で受け止めたが
「がはっ!」
その後ろから、小さめのエネミーが持っていたツルハシを振り下ろし、ハルトは攻撃をもろに受けた。
攻撃を受けたハルトは、HPがイエローまで減り、その衝撃から地面に倒れた。
そこに更なる追撃を掛けようと、エネミー達が一斉にハルトに迫ってきた。
「ハルト!いや!死なないでぇ!!」
コハルの悲鳴が聞こえる中、ハルトは意識が朦朧としてきた。
サチ達がハルトを助けようとするが、圧倒的にエネミーの攻撃が届く方が早い。
「ごめん、コハル・・・みんな・・・後は・・・頼んだ・・・よ」
ここまでかと、後のことを仲間たちに託し、ハルトはそっと目を閉じる・・・
「なに寝ようとしてんだ、アホ」
「え?」
間一髪、ソウゴの<ワイルド・ゲットリド>が周りのエネミーを薙ぎ払い、その光景が薄っすらと見えたハルトは閉じかけた目を思いっ切り見開いた。
トラップを解除してたはずのソウゴが何故自分の目の前にいるのか理解できず、ハルトは困惑する。
「な、なんで・・・?」
「・・・テメェに死なれたら、
驚きのあまり、先程まで朦朧としていた意識が一瞬で回復したハルトは、ソウゴの言葉に従い、エネミーが倒されたことで薄くなった包囲網を抜け出し、ポーションでHPを回復した。
「大丈夫!ハルト!?」
「うん、何とか。でも・・・」
ハルトが不安気な顔で先程まで自身がいた場所を見ると、今度はソウゴが複数のエネミーに囲まれていた。
「ちっ!流石に多いか・・・!」
悪態付きながらも、何とかこの状況を打破しようと、戦いながら考えていると、周囲を囲んでいたエネミー達が一斉に襲い掛かった。
「ちっ!」
こうも囲まれた状態だと先程みたいに薙ぎ払うのは難しいが、一か八かやってみようとソウゴの槍を握る力が強くなり始めたその時
「跳べ!ソウゴ!」
「!?」
突如自分を呼ぶ声が聞こえ、ソウゴは声に従い、空中に飛んだ。
その直後、ソウゴがいた場所に一人の少年が着地し、その瞬間、周りのエネミーはその場に倒れ、一斉にポリゴンと化した。
「危機一髪だったな、ソウゴ」
「トウガ・・・来てたのか」
着地の瞬間に<ラジオナイフ>を発動させ、周りのエネミーを一掃したトウガはソウゴの無事を確認する。
更に、向こうの方からこちらに向かって迫って来ている集団が見え、その集団の中にはギルドメンバーのコノハ、カズヤ、レイスの三人の姿が見られた。
「A隊は全員突撃してください!Mobを掃討しつつ、あの人達の救助を!」
『うおぉーーー!!!』
少女の声と、大勢の人間の叫び声が聞こえる。叫び声を発している集団の正体は「血盟騎士団」の面々だった。
叫び声と共に「血盟騎士団」は集まってくるエネミーを次々と倒していく。
その先頭に立ち、指揮を執っていたのは、二十五層のボス攻略後に「血盟騎士団」に入ったアスナだった。
「あ、アスナ!?どうして、トウガさん達と一緒に・・・?」
コハルが驚きながらも、「血盟騎士団」と「紅の狼」の面々が一緒にいる理由をアスナに問う。
それに対し、アスナは焦っているような声で返した。
「話は後!早くトラップを!」
「そうだな・・・ソウゴ!」
「了解、リーダー」
自身の名を呼ぶトウガの声に、一つ返事で返すと、ソウゴは再度宝箱の方に向かい、解除の続きを始めた。
「後は、こうして・・・どうだ・・・!?」
解除処理を終え、最後にウィンドウのボタンを押したソウゴ。
すると、フィールド中に鳴り響いていたブザー音は、ゆっくりと止まった。
「ふぅー・・・」
「お疲れ、ソウゴ」
解除に成功し、その場に座り込んだソウゴにトウガが近づき、労いの言葉を掛けた。
一方で、ハルトとコハルは、久しぶりに再会したアスナと話していた。
「間に合って良かったわ。あなた達が無事で何よりよ」
「ありがとう!アスナ達が来てくれなかったら――」
コハルが言いかけたその時、ハルトはアスナの服装の変化に気が付いた。
二十五層までの時と違って、「血盟騎士団」の隊服と思わしき赤と白の防具を見事に着こなしていた。
「アスナ・・・その服・・・」
「えぇ、二十六層では、色々と忙しかったから、この服装で攻略に出るのは今日が初めてなの」
「似合ってるよ、アスナ。凄くかっこいい。そのレイピアも新しくしたんだ?」
コハルは服装についての感想を述べながら目線を腰に付いてあるレイピアに向けた。
「ありがとう、コハル。これ、団長がくれたの。入団祝いってことでね」
「でも・・・前に使ってたやつ。随分大事にしてたじゃない。キリトさんと一緒に作ったやつで、確か――」
「いいの。もう、私には新しい剣があるから。血盟騎士団の副団長として、今の私が振るうべき剣はこれよ」
今のアスナは「血盟騎士団」副団長であり続ける為に、キリトの事を遠ざけようとしている。それこそ、今までキリトと作ってきた思い出すらも簡単に捨ててしまいそうな勢いで。
「・・・・・・」
そんなアスナの頑な決意にコハルは何も言い返せなかった。
二人の間に気まずい空気が流れる一方、トウガ達「紅の狼」の面々は現状確認をしていた。
「ところで、いったい何があったんだ?」
「その件に関してはオレッチから説明する。今回は事がことなだけに、特別にサービスしとくヨ」
トウガの問いかけにアルゴは例のクエストの事も含めて説明した。
「なるほど・・・助かったわ、アルゴさん。そうなってくると、このクエストは無視できなくなるわね・・・」
アスナは顔を俯かせながら暫し考えていたが、しばらくして顔を上げた。
「KobはALSとDKBのどちらも接触してない流派。そこで、そのクエストを進めることにします。その上で、ハルト君達と紅の狼の皆さんを協力者という形で迎えることにします」
「ふむ・・・確かに、これならばパワーバランスも丁度よくなるし、二大ギルドも文句は言わないだろうナ。お前たちはどうするんダ」
「僕たちは構わないよ。アスナ達と一緒なら心強いよ」
「こちらも問題はない。Kobは今や攻略に欠かせないギルドの一つだ。俺たちみたいな少数ギルドよりもKobが利を得た方が何事もなく済むだろうし、今後の攻略にも影響するはずだ」
「決まりね。この層でもよろしくね。ハルト君、コハル。それと、紅の狼の皆さん」
「よろしく頼む・・・というわけだ。ソウゴ、お前もこちらと合流して――」
自分たちと合流するようトウガがソウゴに向かって言うが
「いや、俺はこのままこいつらと行動する」
「・・・理由を聞いてもいいか?」
ソウゴの言葉に対して特に驚きはせず、トウガはハルト達と一緒に行動する理由について聞く。
「俺は今、こいつに刀を作ってもらっている。こいつは鍛冶屋だ。一緒に行動すれば、どれが一番いい素材なのか、直接見てもらって確かめることができる。何より・・・こいつが死ねば、刀を作ることができなくなるからな」
そう言いながら、ソウゴはリズベットの方を向いた瞬間、この場にいる全員を驚かせるトンデモ発言をした。
「だからこそ、依頼が終わるまでの間、俺にはこいつを守る義務がある。俺の信念に懸けて、こいつは・・・俺が必ず守る」
「!?」
ソウゴから発せられた
「(ソウゴ・・・その発言は色々と誤解を生じかねないぞ・・・)」
ソウゴの
トウガの予想通り、女性陣や他のメンバー達は何やらこそこそと盛り上がっていた。
「あらあら・・・これは・・・」
「ソウゴさん・・・意外と大胆・・・!」
「ソウゴ・・・まさか、お前もか・・・!?」
アスナとコハルは顔を少し赤くしながら、何やらラブコメな展開になりそうな雰囲気を感じ取り、カズヤは、自身のギルドメンバーが、またもや見知らぬ女性とフラグを立てていた事実にショックを受けていた。
そんな彼らをよそに、トウガは発言はともかく理由としては的を得ているので、ソウゴの別行動を了承した。
「分かった。なら、お前はハルト達と行動しろ。その代わり、そいつをしっかり守ってやれよ」
「了解。つーわけだ。しばらくの間、よろしく頼むぜ」
「え、えぇ・・・よろしく頼む・・・わ」
その横で、アルゴがアスナに話しかける。
「オレッチはちょいと野暮用があるから、ここで抜けさせてもらうヨ」
「分かりました。それじゃあ、早速行動開始と行きましょ。まずは――」
アスナが次々と指示を出していき、ハルト達はそれに従い、それぞれ行動を開始した。
ハルト達がクエストを進めている頃、二十七層のとある一軒家に三人のプレイヤーが集まっていた。
「まいド。頼まれてた件、きっちり裏が取れたヨ」
「すまないな。情報のことになると、いつもお前に頼ってばっかで」
「ニャハハハ!いいってことヨ!それがオネーサンの仕事だからネ!」
アルゴは豪快に笑うと、表情を変えて、調査結果を向かい側の椅子に座っているキリトに話した。
「キー坊の読み通り、やっぱり二十五層のボスが途中でパワーアップするギミックは抜き打ちなんかじゃなかっタ。きちんと事前情報が貰えるボスクエも存在してタ。となると・・・ボスクエをクリアして、それを知りながらも――」
「その情報をわざと隠蔽した・・・そして、別の奴が噓の情報をキバオウに流した。それも、少し本当の情報を混ぜることで、本物の情報だと信用させるために・・・」
「別の奴ってのは、その情報屋だろうな。んで、本物の情報を隠蔽して、ALS単騎でボスに挑もうとさせたのはあいつだな」
キリトの隣で二人のやり取りを黙って聞いていたザントが腕を組みながら呟く。
「ここまで来れば、もう分かったも同然だ。二十五層の出来事は事故なんかじゃない。仕組まれた事件だっタ!」
アルゴはきっぱりと宣言した。
「後は犯人を洗い出すだけだが・・・情報屋の方は、もう既に勘付いてると思う」
「うーん、そうなると、探し出すのはちょっと難しいかナ・・・」
「いや、もう一人いるだろ?二十五層で同じようなことを。いや、それ以上の事件を起こそうとした奴が」
「十中八九、情報屋とそいつは奴らの仲間だろうな。まぁ、情報屋はともかく、あの野郎に関しては既に追い詰める準備はできているがな」
「本当か?それなら話は早い」
「ああ。プレイヤーが集まる時を狙って、大衆の前で化けの皮を剥がさせル!決まりだナ」
一通りの作戦が決まると、キリトは椅子から立ち上がり、アルゴとザントも動き出した。
「それじゃあ、行こうカ」
「ああ、これ以上、奴らの思い通りにはさせない」
「二十五層では奴らにやられたからな。その借りを返してやるよ」
三者それぞれ言いながら、三人は部屋を出た。
彼らが向かう先は果たして何処か・・・それは、彼らのみが知る。
・リズベット
今まで番外編のみ登場してましたが、ようやく本編初登場です。ちなみに、この時のリズベットの髪の色は、まだ茶色です。服装はSAOIF一周年キービジュアルのものとなっております。
・刀
こちらの武器も両手剣同様、SAOIFでは実装されてない武器となっております。その為、ソードスキルもほとんどオリジナルスキルになる予定。
・サチ、ソウゴに弟子入り
まさかの弟子入り。サチが原作よりどんどん強くなっていくぅ!(ちなみに、フラグは既にコノハと立てているので、ソウゴとのフラグは立ちません)
・サチ微強化
同時に生存フラグも立てていくぅ!
・ダッカー
一言で言えば、アニメで
・
言われたら恥ずかしい。けれども、嬉しい。しかし、言った本人は、そういう発言だったという自覚なし・・・どっかのワンサマーかな?
・「ソウゴ・・・まさか、お前もか・・・!?」
後の二人は、果たしてフラグを立てることはできるかな?
二十七層編スタート。今回もまた長くなりそうだ。
そして、本文を見て既に察している方も多いかもしれませんが、今回の話でフラグを立てるのはリズベットです。お相手は毒舌クール系男子のソウゴ。
次回もまた、主にこの二人関係の話になると思います。お楽しみに。
<オマケ>
コハル、メモデフ参戦おめでとう!作者はメモデフやってないけどね!
二十七層編終了後見たい番外編は?
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