ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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四十七層の再現度高すぎぃ!!
二十七層編続きです。途中、砂糖注意報あり。読む前にブラックコーヒーの用意を。


ep.31 戦う理由

アスナから指示されたことを一通りこなしたハルト達四人は、現在、圏内にある一軒の武具店にいた。

 

「ありがとうございましたー!またのお越しを!」

 

つい先程、店を出ていったプレイヤーを笑顔で見送るコハル。

しかし、その直後にプルプルと体を震わせた。

 

「・・・町のクエストだから、戦闘とかないと思ってたし、走り回ったりしなければいいなって思ってたけど・・・」

 

「まあまあ、そんなこと言わなさんな。似合ってるわよ。かなりね」

 

感情を押し殺すような小さい声で呟くコハルをリズベットが宥める。

しかし、リズベットの言葉によって、コハルの感情を押さえていたものが一気に溢れ出し

 

「だからって、こんな恰好!」

 

コハルは店中に響くような声で叫んだ。

コハルが今着ている服装は可愛らしいメイド服であった。

何故、コハルがメイド服を着ながら接客をしているのかというと、時は少し遡り、「血盟騎士団」がクエストを受注したことをアスナから聞いたことから始まる。

アスナの指示に従い、ハルト達はフィールドでクエスト進行に必要な素材を集めながら、順調にクエストを進めていった。

そんな中、次の指示が『その流派に関係する武器屋の売上を一定の数上げろ』と出された。

当然、売上を上げるとなると、客をより多く店に寄せ付ける必要があるが、そこでリズベットが提案したのが、可愛い子で客引き作戦である。

その内容はというと、男なら誰もが惹かれるであろうメイド服(リズベットが用意した)で接客し、客引き(主に男性プレイヤー)しようという魂胆であり、その役目にコハルが選ばれた。というか、リズベットは接客の他にも店の武器の仕入をしなければならなく、ハルトとソウゴは、そもそも可愛いとは無縁&男である為メイド服が着れないので、消去法でコハルとなっただけである。

話し合いの結果、リズベットが武器の仕入、コハルが接客。そして、やることがない男子二人はというと

 

「へぇー、砂糖を入れてないのに意外と甘味があるね」

 

「中々いけるじゃねぇか。今度、自力で作れるかどうか試してみるか」

 

店のテーブル席で優雅にティータイムしてた。

そんな二人をよそに、コハルとリズベットのやり取りは続く。

 

「あのね、武器屋の店先で、そういうカッコをしている女の子がいる店って売上が上がるのよ。これ、経験談だから本当よ」

 

「(経験談ってことは、その恰好・・・やはり、男捕まえる為に着てたってことか・・・)」

 

紅茶を飲みながら脳内でリズベットの服装について思案していたソウゴだったが

 

「・・・今なんか失礼なこと考えてなかった?」

 

「・・・気のせいだ」

 

リズベットがなにやら勘付いたことで、思考を停止させた。

そんなソウゴをリズベットは怪し気に睨んでいたが、まあいいかっと言わんばかりの顔をすると視線をコハルの方に戻した。

 

「結果的に売上も上がってるんだし、文句言わないの。ハルトはどうなのよ?コハル、可愛いでしょ?」

 

そう言いながら、リズベットはソウゴと一緒に紅茶を飲んでいるハルトに問いかけた。

 

「それはもちろん、とっても可愛いよ」

 

「あう・・・そんな笑顔で見ないでよ・・・でも・・・その・・・ありがと」

 

笑顔で答えたハルトの言葉にコハルは顔を赤らめながらもまんざらでもないっといった感じで返した。心なしか、二人の間に若干桃色の空気が漂っている。

 

「? 気のせいか?なんだか、紅茶が急に甘くなったんだが・・・」

 

「あんた達は今日も平常運転ね。安心したわ」

 

ソウゴは顔をしかめながら手に持っている紅茶を見つめ、リズベットは相変わらず平常運転のリア充(二人)のやり取りに安心感を持った。

その後も、コハルとリズベットの二人で接客しながら店の売上を上げていたが、しばらくするとクエストログに変化が起きた。

 

「あ、クエストが進行しましたって出たよ」

 

「お!おめでとさん。ノルマクリア達成ね」

 

「ふぅー、やっと終わった・・・後は店長さんに報告するだけだね」

 

コハルがようやくメイド服から解放されると言わんばかりの顔で喋る。

クエストが進行したハルト達は、ハルト達に留守を任せて何処かに行った店の店長に報告するべく、店長が向かったと思わしき場所へ向かう。

フィールドをしばらく進んでいくと、店長が見つかったが

 

「あの人!最初にクエストを受けた時にお話した人だよ!」

 

「思いのほか早く見つかったわね・・・まあ、Mobに襲われているなんて予想してなかったけどね!」

 

エネミーに襲われており、危機的な状況に陥っていた。

すぐさま、エネミーを全て倒し、店長を救出したハルト達。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「うぅ・・・助かった。ありがとう」

 

コハルが店長の安否を確認する。

何箇所か切り傷が付けられているが、致命傷には至ってなかった。

 

「良かった・・・店長さんが無事で安心しましたよ」

 

「あなた方が来てくれなければ、危ないところだった。私としたことが、襲われたとはいえ、魔物の縄張りに入ってしまうとはうっかりしてたよ」

 

「ちょっと待て、襲われただと?魔物にか?」

 

聞き捨てならぬ単語が聞こえ、ソウゴが真剣な表情で問いかける。

 

「いや、あなた方と同じ、旅の者らしき人達だったよ。『聞いた通りにやってみようぜ』だの『本当に攻撃できたぜ』だの訳の分からないことを口走っておったよ」

 

『!?』

 

店長の言葉に全員が目を見開いた。

しばらくして店長と別れた後、ハルト達は店長を襲った旅の者と思わしきSAOプレイヤーについて話し合っていた。

 

「どう思う、ハルト?」

 

「・・・恐らくだけど、あれは本来のクエストの流れじゃないと思う」

 

「あたしもそう思ったわ。店長さんが言ってた旅の者。これはSAO全プレイヤーに当てはまる共通の呼び方だと思うわ。でもって、そのプレイヤーは店長さんを攻撃したのよ。殺そうとしたのか、遊び半分に攻撃しようとしたかは分からないけど、襲ったことは事実だと思う。それで、慌てて逃げた店長さんは誤ってMobの行動指定エリア。所謂魔物の縄張りに入ってしまったっというわけよ」

 

リズベットは一つ一つ丁寧に店長の身に起きた出来事を推理した。

 

「そんな!もし、店長さんが殺されてたら・・・!」

 

「やったことがねぇから分からないが、NPC・・・店長がリポップする可能性は限りなくゼロに近い・・・そうなれば、クエストは失敗しただろうな」

 

「もしそうなら、イタズラじゃすまないですよ!ただでさえ、NPCに攻撃するなんて、いけないことなのに!」

 

コハルが怒った様子で話す中、ソウゴは冷静に犯人について推理した。

 

「襲った奴らは単なる馬鹿か・・・それとも、あいつらの手先か・・・」

 

「あいつらって・・・まさか!?」

 

「? 誰のことよ?」

 

この場で唯一、オレンジプレイヤーの集団(あいつら)について知らないリズベットに、ハルト達は二十層でオレンジプレイヤーの集団に襲われたことも踏まえて説明した。

 

「そんな奴らがいるなんて・・・皆、辛いことがあっても、この世界で精一杯生きようとしてるのに・・・!許せないわ・・・!」

 

遊び感覚で他者を貶めようとしているオレンジプレイヤーの集団に怒りを露わにするリズベット。

そんな彼女の肩に手を置き、窘めるような顔でソウゴが口を開いた。

 

「ひとまず、街に戻るぞ。本当にあいつらが関係しているのか分からねぇ以上、無暗に捜索するのはリスクが高すぎる。決められたクエストはクリアしたんだ。今日はもう遅ぇし、ゆっくり休んどけ」

 

手掛かりがない以上、ハルト達はソウゴの言葉に従い、圏内に戻った。

 

 

 

 

圏内に戻ってきたハルト達は、今日はもう遅いからっとの理由で休むことにし、明日アスナに報告しようと決めた。

 

「それじゃあ、あたしとソウゴは、今日手に入れた素材をこれから整理しなくちゃならないから、先に宿に行ってるわ」

 

「お前ら、圏内だろうと気ぃ張っとけよ。このクエストにあいつらが関わっているとなると、ただで終わるとは思えねぇからな。じゃあな」

 

「はい、お二人も気を付けて」

 

「また明日」

 

お互い挨拶を済ませるとソウゴとリズベットは去っていった。

 

「後は若いお二人で・・・」

 

「お邪魔虫は退散するとしますか」

 

途中、ハルトとコハルの方をチラ見しながら、微笑ましい笑みを二人に向けていたが、二人がそれに気付くことは無かった。

ソウゴとリズベットが去ったのを見届けると、コハルが口を開いた。

 

「どうする?今日はもう宿に戻って休む?」

 

「うーん、どうしようかな・・・」

 

コハルの問いにハルトは腕を組みながら考えていると

 

「あれ?ハルトさんにコハルさん?」

 

「よっ!奇遇だな」

 

「リーテンさん!シヴァタさん!」

 

リーテンとシヴァタが二人に声を掛けてきた。

 

「奇遇ですね。お二人も例のクエストを?」

 

「はい、与えられた内容を丁度終えて、今は休んでいるところです」

 

「そうなんですか。私たちも分担された分を一通り終わらせたので、こうして、シヴァと一緒に街を歩き回っているんです」

 

「私たちって・・・シヴァタと一緒に行動してたの!?」

 

リーテンから聞き捨てならない言葉が発せられ、思わず声を上げるハルト。

三人から人差し指を口の前に出しながら「シィー」と注意され、慌てて冷静さを取り戻すと、今度は不安気な顔でリーテンに問う。

 

「そんなことして大丈夫なんですか?」

 

「・・・仲間たちに知られたら、ただじゃ済まないと思います。ハルトさん達じゃなきゃ話したりしません」

 

「今回のクエストはただの武器獲得クエストじゃないからな。なんて言うか・・・鍛冶師たちの流派を使ったギルド同士での競争・・・いや、あれはもはや戦争だぜ」

 

不安気な顔で二大ギルドの現状を語り始めるリーテンとシヴァタ。

 

「二十五層での一件以来、ALSの皆は損害を埋めようと焦っているんです。仲間をこんな風に言いたくないですけど・・・怖くて・・・」

 

「怖いってんなら、DKBも同じだよ。ここぞとばかりにALSを引き離そうと、より一層勢力を強めようとしているんだ。キバオウ不在の今だからこそって理由で息を巻いててさ。暴走しないようリンさんが押さえているけど、持て余し気味でな・・・」

 

どちらか一方しかクリアできないクエストだからこそ、ALSは名誉挽回の為に、DKBはALSを引き離す為に殺伐とした空気の中でクエストを進めている。その現状に恐怖を覚えるリーテンとシヴァタ。

二人の話を聞き、二大ギルドの現状に深刻な顔をするハルトとコハルだったが、ふとハルトが思い出したかのように口を開いた。

 

「そう言えば、キバオウは?」

 

「今は拠点で休んでもらっています。あんな事があった後だったから、無理にでも出てくるかと思って心配してたんですけど、『ここはケジメを付ける為にも謹慎させてくれんか』って言ってくれたから、ちょっとホッとしてるんです」

 

「そう・・・なら、あの人が戻ってきたら、その時はきちんと迎えて上げてください」

 

「ハルトさん・・・はい、そうですね」

 

そう言うと、リーテンは少しだけ笑顔になった。

その様子を見たシヴァタもホッとした表情になるとパンッ!と両手を叩いた。

 

「よし!りっちゃんも元気になったことだし、そろそろ戻ろっか!そうだ!お前ら、せっかくここに来たんだから、屋台に行ってみたらどうだ?」

 

「屋台?」

 

知らない店の名前に疑問の声を上げるハルト。

 

「特定の時間に開かれるごはん屋のことです。私たちは別々の流派だから同じ店には入れませんけど、この屋台だけは、流派関係なく誰でも利用できるお店なんです」

 

そう言いながら、リーテンは屋台の場所が記されている地図のデータをハルト達に渡した。

 

「この時間帯なら、まだ開いてると思いますけど、急いだ方がいいですよ」

 

「それじゃあ、俺たちはこれで。屋台、楽しんどけよ」

 

そう言うと、リーテンとシヴァタは去っていった。

 

「ねぇ、ハルト。私たちも屋台に行ってみようよ」

 

コハルの言葉に頷くと、二人は屋台へと向かった。

リーテンから記された場所へたどり着くと、地図の通り屋台が置いてあった。

 

「いらっしゃい!食ってきな!お二人さん!」

 

「はい!二人分、お願いします!」

 

活気のいい男の言葉にコハルは力強く返した。

 

「はいよ!二人分おまち!」

 

数分後、特製ソースがたっぷりと絡められた炒め飯が二人分出された。

料理を受け取った二人は、近くのベンチに座って食べ始める。

 

「いただきます・・・っ!これは・・・!」

 

「美味しいね。アインクラッドの料理では珍しい、濃い目で大味な味付け・・・結構好きかも」

 

「そうだね・・・んんっ?」

 

料理の感想を言い合ってた二人だったが、ふと、コハルの方へ振り向いたハルトは彼女の顔を見つめ、何かに気づいた。

そんなハルトの視線に気づき、コハルは疑問の声を上げる。

 

「どうしたの?」

 

「・・・口元にソースついてるよ。取ってあげるからじっとしてて」

 

そう言うと、ハルトはコハルの口元についていたソースを指で拭き取ると、指についたソースを舐めた。

 

「あうう・・・」

 

「あ!・・・ご、ごめん、嫌だった?」

 

「う、ううん!驚いたけど、ありがとう・・・」

 

恋人っぽいやり取りを実際にやられ、コハルは顔を赤くする。

ハルトもまた、勢いでやってしまった自分の行いに気づいて顔を赤くした。

二十層で互いの思いに気づき、恋人同士(まだ一部にしか知られていない)になった二人だが、こういったやり取りには慣れておらず、未だに羞恥心を感じるのであった。

その後、羞恥心から回復した二人は宿に戻る前に街を回ってみることにした。

道中、店で珍しい装備やアクセサリーなどを買ったりなど色々と楽しみながら、二十七層の街を回るハルトとコハルであった。

余談だが、二人のやり取りを見ていた周りのプレイヤー達の反応はというと

 

『(畜生!!リア充爆発しやがれ!!)』

 

ALS、DKB関係なく、この場にいた非リア充全員が血の涙を流しながら、心の中でリア充への憎しみを嘆くのであった。

 

 

 

 

ハルト達と別れたソウゴとリズベットは圏内にある一軒家に。正確には、ソウゴが借りている部屋があるキッチン付きの一軒家で武器の作成について話し合っていた。

 

「さて、今日ドロップした素材を使うとなると・・・こんな感じになるかしら?」

 

ドロップした素材を取り出し、机に並べながら、最高の刀を作れる素材を選別していくリズベット。

ソウゴが腕を組みながら見守る中、リズベットは素材を整理し終わると、一つのインゴットをソウゴに見せた。

 

「とりあえず、今の段階で最高の刀を作るってなら、あたしの見立だとこの素材が一番ね。後は刀を渡す予定日を決めるだけね。この調子でいけば、ボス戦前までにはできるとは思うんだけど・・・」

 

「例のクエストもあるから、そっちが優先になるんだろ?」

 

ソウゴの言葉にリズベットは頷く。

鍛冶師のクエストは他のクエストと違い、攻略に必要な武器が手に入れるかもしれない大事なクエストだ。

「血盟騎士団」が受注した流派に所属している身としては当然、そちらの方が優先になるだろう。

 

「別に構わねぇよ。このクエストは二十七層を攻略するために必要なクエストだ。一人の我儘でクエストの進行を遅らせるわけにはいかないだろ」

 

「・・・ごめんなさい。でも、ありがとう。それじゃあ、一通り決まったことだし、あたしはそろそろ行くから」

 

そう言って席を立とうとしたリズベットだったが、その前にソウゴが制止した。

 

「待て。今日お前には色々と世話になったからよ。帰る前に一つ礼をさせてくれねぇか?」

 

「お礼?もしかして・・・夜のお相手とか!?」

 

「アホ、そんなんじゃねぇ。ただ・・・お前に一つご馳走させてくれないか?」

 

「ご馳走?」

 

疑問に思っているリズベットを尻目に、ソウゴは装備を外すと、ストレージを開き、普段着にエプロンを着用した恰好に着替えた。

その姿を見て、リズベットはソウゴのやろうとしていることを察した。

 

「あんた、料理作れるの!?」

 

「あぁ、家が食堂でな。現実世界に帰った時、腕を鈍らせない為に<料理>スキルをそこそこ鍛えてあんだよ。ちなみに、メンバーの飯も毎日俺が作ってるぜ」

 

そう言いながら、ソウゴは料理を始めた。

食材を切り、切った食材を沸騰したお湯が入ってる鍋に入れ、そこに黄色味が混ざった茶色い塊を入れると、香ばしい匂いが部屋中に漂った。

この匂いから、リズベットはソウゴが作ろうとしている料理が分かった。

 

「この匂い・・・もしかして、カレーライス!?」

 

「正確にはライスがないただのカレーだ。米はまだ作れねぇから、パンでいいか?」

 

「え、えぇ・・・構わないわ」

 

まさかSAOでカレーが食べれると思わなかったリズベットは、久しぶりに食べれる料理への嬉しさよりも、それをいとも簡単に作っているソウゴの凄さに、あっけにとられていた。

そんなリズベットをよそに、ソウゴができたカレーを皿に装い、別の皿にパンを二つ乗せると、リズベットの下へ持っていく。

 

「ほら、食え」

 

出されたカレーをリズベットは見つめる。

薄茶色のルーに肉やじゃがいも、玉ねぎ、人参などといった定番の具材。カレー本来のスパイシーな香りに、リズベットはゴクリと喉を鳴らした。

いつまでも睨めっこしている訳にはいかず、リズベットはスプーンを手に取り、カレーを口に入れた。

 

「!? 美味しい・・・」

 

思わず、口から声を漏らしてしまう。

野菜と肉の旨味がルーに絡み合い、カレー本来の旨味とスパイシーな味わいが体中に伝わるのを感じた。

その後、あまりにも美味しかった故にリズベットはあっという間にカレーとパンを完食し、今はソウゴから出された紅茶を堪能していた。

 

「紅茶までホントっ美味しいわね。あんた、将来いい嫁になれるわよ」

 

「コックって言え。一応将来は家の食堂を継ぐつもりだからな」

 

食後のティータイムをゆったりと過ごしていた二人だったが、ふとリズベットが真剣な表情で問いだす。

 

「ねぇ、ちょっと聞いていいかしら?あんたって、どうして最前線で戦おうって思ったの?」

 

「どうしてか・・・そういや、考えたことなかったな」

 

「・・・はっ!?」

 

「デスゲームが始まった、百層行かねぇと出ることができない、だから戦おうってことぐらいしか考えてねぇ」

 

「えっと・・・生き残るためにとか・・・そういったことを思ったことは・・・」

 

「ない」

 

きっぱりと言ったその言葉に、リズベットは暫し呆然としていたが、テーブルに頬杖をつけながらゆっくりと口を開いた。

 

「なんて言うか・・・あんたって、意外と適当?」

 

「適当もなにも、俺は当たり前のことを言っただけだ。ここから出る為に、仲間達と一緒に攻略する。戦う理由なんて、それだけあれば充分だろ?」

 

「そりゃそうかもしれないけど・・・」

 

未だ納得していない様子のリズベット。

そんな彼女に対して、ソウゴは少し考え込む素振りをしていたが、突然何か思い当たった顔をしながら口を開いた。

 

「まぁ、強いて言うならば・・・俺たちの居場所を守る為ってか」

 

「俺たち?それって、あんたが所属しているギルドのこと?」

 

「あぁ、リアルではよく一緒に行動したりする仲だ」

 

そう言いながら、ソウゴは顔を上に上げ、暫し天井を見つめていたが、顔を下げて目線をリズベットの方に戻した。

 

「俺がリアルであいつらに出会ったのは小5の時だった。それまでの俺は基本的に他人と関わることはしなかった」

 

「確かにあんたって、そう言うのが嫌いそうな顔してるもんね」

 

何気に失礼なことを言うリズベットだが、ソウゴは気にしない。

 

「あれは家庭科の調理実習の時だった。俺たちの班は順調に進んでいて、このまま失敗することなく終わると思ってた時に、別の班からガシャン!って音がしてな。見てみると、当時の悪ガ・・・ゴミ屑が一足先にその班が完成した料理を断りもなくつまみ食いした挙句、不味いって言って、料理が入った皿を床に投げ捨てやがった」

 

「なんて奴なの!せっかく一生懸命に作った料理を!」

 

「だろ?だから、俺はそいつをフルボッコにした」

 

「え?」

 

「食い物を粗末にする奴なんざ、ゴミ同然だ。全員死ねばいい。まぁ、そこは置いといて、問題なのは、その後だ」

 

「・・・なんか、あんたの黒い部分が出てきたけど・・・まあいいわ。それで、その後どうなったの?」

 

途中、明らかに聞いてはいけない言葉が出てきたが、気を取り直してリズベットは続きを促した。

 

「後日、複数のゴミ屑共が俺の前に現れてな。何でも、俺らのダチを傷つけられたから、その報復をしに来たってな」

 

「そんな!結果的にあんたが傷つけたとはいえ、元はと言えば、そいつが料理を粗末にしたからじゃない!」

 

「向こうにとっちゃ、そんなことは関係ないみてぇだった。ゴミはゴミと惹かれ合うとはよく言ったもんだ。俺もただでやられるつもりはねぇし、応戦したはいいが、数が多くてな。途中から全然歯が立たねぇで何回も殴られたぜ」

 

リンチとも言える行いは続き、仲間の一人が「俺らのダチに手ぇ出してんじゃねぇ!」って言ったその時

 

『なら、お前らが俺の友達に手を出しても、文句は言わないよな?』

 

その言葉と共に、仲間の一人が殴り飛ばされ、誰もが仲間を殴ったと思わしき人物の方へ振り向くと――

 

「そこにいたのは、調理実習で俺と一緒の班だったトウガだった。トウガが来てくれたおかげで形勢は逆転。俺はトウガの野郎と一緒にゴミ屑共を一人残らず病院送りにした」

 

「・・・・・・」

 

「その後は、仕掛けたのは向こうとはいえ、病院送りにする程の大怪我を負わせた俺とトウガは一週間の停学処分。その期間中、俺はトウガの家を訪れた」

 

そして、問いかけた。「なんであの時、俺を助けたのか」って。それに対する答えが――

 

『友達を助けるのに理由なんているのか?』

 

そう言いながら、トウガは笑っていた。

 

「それを聞いた俺は、人生で始めて大声で笑ったよ。たかが、数時間程度しか絡まなかったってのに、あいつは俺のことを友達と呼んだ・・・馬鹿だって思っちまった」

 

「・・・そんなこと言うもんじゃないの。あんたにとっては、その数時間は大したものじゃなかったのかもしれないけど、そいつにとっては、あんたの事を友達だって言えるくらい大切な時間だったってことでしょ?」

 

「・・・かもな。その後、俺はあいつの友達を紹介されてな。その時、紹介された奴らが――」

 

「あんたのギルドの仲間ね」

 

リズベットの言葉に頷いたソウゴ。

 

「紹介された時、俺はまた驚いたぜ。何せ、クラスじゃ成績、スポーツ共に優秀なあいつの友達が、女好きの脳金、引っ込み思案、年下って、優等生が友達になるような面子じゃねぇだろ」

 

クラスでは成績、スポーツ共に万能であり、優等生とも言えるトウガにはきっと友達が多く、それも優等生みたいな奴ばかりだと思っていた。

しかし、トウガが友達と呼んでいる人間は意外と少なく、優等生どころか、それぞれ個性溢れる面々ばっかであった。

クラスでのトウガの評判を知っているソウゴにとって、これは予想外の出来事であった。けれども・・・

 

「あいつらは、俺のことを友達として受け入れてくれた。今まで一人で生きてきた俺のことを・・・」

 

それは、一人孤独に生きてきたソウゴにとって、始めてできた居場所であった。

それ以来、ソウゴは彼らとつるむようになった。何する時も五人一緒に行動し、五人で馬鹿騒ぎし合った。

何時しかソウゴにとって、そこは心を許せるかけがえのない居場所になっていた。

 

「俺はこれからも、俺を受け入れ、友と呼んでくれた居場所を守り続ける。それが例え、仮想世界だろうと変わりはしねぇ・・・これが、今の俺の戦う理由だ」

 

「そう・・・あんたにも色々あるってわけね。あんたのこと、少しだけ知れて良かったわ。じゃあ、あたしはこれで――」

 

そう言いながら、リズベットは席を立ち、外に出ようとしたが、ドアノブに手を掛けるとピタッと止まり、ソウゴの方へ振り向いた。

 

「ねぇ、ソウゴ。あんた、言ってたわよね。あたしのことは必ず俺が守るって。ここに来るまでの間、あんなにも真剣になって守るって言われたことなんて無かった。だからね・・・あたし、すっごく嬉しかった。じゃあね!」

 

少し照れくさそうにしながらも笑顔でそう言うと、リズベットは外に出ていった。

残されたソウゴは、リズベットが言ったことを思い返す。

 

「真剣もなにも、あいつが死ねば刀作れなくなるし、俺は当たり前のことを言っただけなんだが・・・何が嬉しかったんだあいつ?」

 

残念なことに、鈍感なソウゴには、守ると言われたリズベットが何故嬉しかったのかが分からず、複雑な気持ちになったので、街を歩いて気分転換しようとソウゴは家の外に出るのであった。

 

 

 

 

二十七層の街並みを探索していたハルトとコハルは気づいたら街の裏路地を歩いていた。

 

「街が明るかった分、ここは少し暗いね」

 

辺りを見渡しながら歩いているハルトだったが、その後ろでコハルが急に足を止めた。

 

「コハル?」

 

ハルトが後ろに振り向きながら疑問に思う中、コハルは口を開いた。

 

「・・・今日、トラップで沢山のMobに襲われた時、もし、助けるのが少しでも遅かったらハルトは死んでた・・・」

 

「ああー、あれは危なかったね。でも、助かったんだし、気にすることは――」

 

「気にするよ!!」

 

大声で叫んだ途端、コハルはハルトに抱きついた。

突然抱きつかれて戸惑うハルトをよそにコハルはゆっくりと口を開く。

 

「誰かのために一生懸命になれるハルトのこと、私はとっても好きだよ。でも、少しは周りのことも考えてよ!」

 

「・・・・・・」

 

「お願いだから・・・私の下からいなくならないでよ・・・」

 

二十層でハルトが死に掛ける場面に直面したコハルは自分の想いに、自分にとって彼はかけがえのない存在であることに気づいた。だからこそ、先程大切な人がいなくなるという恐怖を再び味わった彼女は、こうして大切な人が何処かへ行かないよう必死に引き止めていた。

コハルの不安、そして願いを感じ取ったハルトは、涙を流しながらこちらを見つめる彼女に優しい声で呟く。

 

「ごめん。でも、これだけは約束する。僕は絶対に君を一人にしない」

 

「・・・噓、信じられないよ」

 

「噓なんかじゃない。この約束を噓なんかにはさせたりしない」

 

「・・・じゃあ、信じさせて」

 

「え?」

 

「絶対に死なないって、私を一人にしないって約束できるものを私に頂戴・・・」

 

潤んだ目でこちらを見つめるコハルにハルトは思わずドキッとした。

けれども、すぐさま冷静さを取り戻し、決意に満ちた顔で両手をコハルの背中に回し彼女を抱き寄せる。

コハルもまた、特に抵抗したりせず、ハルト同様彼の背中に手を当て抱きしめた。そして・・・

 

「ん・・・」

 

お互い、目を瞑りながらゆっくりと顔を近づけ唇を重ね合わせた。

口付けは心を通わせる儀式である。

互いの体を抱きしめ合い、思いを相手に伝えていく。離れてしまわないように。何処にも行ってしまわないように。

長い間唇を重ねていた二人だが、やがて儀式が終わったかのようにゆっくりと顔を離れると、お互い見つめ合う。

 

「・・・これからも、一緒にいてくれる?」

 

頬を赤く染めながら笑顔で言うコハル。

 

「勿論だよ。何があっても、僕は絶対に君の下からいなくならない」

 

それに対して、ハルトはコハル同様頬を赤く染めながら自身の額を彼女の額に付け合わせた。

しかし、二人は気づいていなかった。完全に二人っきりだと思っていたこの場所に、もう一人いたことに。

 

 

 

 

リズベットと別れたソウゴは、現在二十七層の圏内の街を歩いていた。

街並みは、鍛冶がテーマなだけあって、それにちなんだ武具店や食い物の屋台などが置かれ、とても賑わっていた。

 

「悪くねぇ味だ」

 

先程、店で購入した串焼きを食べながら歩き回っていると

 

「ん?なんだ、この歌・・・?」

 

どことなく綺麗な歌声が聞こえ、声が聞こえた方に視線を向けると、そこは路地裏だった。

こんな路地裏で歌う物好きは誰だろう、と気になったソウゴは、歌声に導かれ、路地裏の奥へと進んでいく。その先には床に座り込みながら小さく歌うサチの姿があった。

 

「(何してんだ、あいつ?けど、まぁ・・・悪くない歌だな)」

 

何故サチが歌っているのか分からないが、聞いてて気分は悪くないので、ソウゴは歌い終えるまで見守ることにした。

やがて、サチが歌い終えると、ソウゴは遠慮なしに話しかける。

 

「こんな所で歌の練習とは、随分と変わった趣味してるじゃねぇか」

 

「!?・・・ソウゴさん?もしかして・・・聞いてました?」

 

「ああ。そのまま声を掛けてやっても良かったが、中々悪くない歌声だったからな。思わず、聞き惚れた」

 

「そうですか・・・そう言っていただけると嬉しいです」

 

そう言いながら、サチは少し恥ずかしそうにしながら視線を持っている結晶に移す。

 

「そいつで、記録してたのか?」

 

「はい、《録音クリスタル》って言います。この層はこういった結晶やクリスタルがよくドロップされるんです」

 

「なるほどな・・・んで、そいつで自分の歌を録音してたと?」

 

「いえ、歌は録音できる時間がかなり余ってたから、あくまでオマケみたいなもので・・・」

 

そう言っているサチの顔は少し暗くなった。

ソウゴはその変化に気づき、目を細める。

 

「メッセージを残してたんです・・・もし、私が消えちゃった時の為に、私のことを皆に忘れてもらわないように」

 

「・・・コノハが悲しむぞ」

 

簡潔に告げられたその言葉に、サチは一瞬ハッとなったが、すぐさま暗い顔に戻りながら口を開いた。

 

「ソウゴさん、私を鍛え始めた日からずっと言ってましたよね?戦いに恐怖を持ち込むなって」

 

「ああ。それを持てば、いつか必ず死ぬからな。SAOでは臨機応変に対応した判断力が大切だ。恐怖はそれを鈍らせるのに打ってつけだからな」

 

「あくまで、俺個人の考えだけどよ」っと付け足すソウゴ。

 

「あの日以来、レベルも槍の熟練度も上がって、前よりも強くなりました。それでも、たまにモンスターと戦ってる時に怖いって感じちゃうんです。それで、考えちゃうんです。この世界でずっと生きてく為にはどんなに強くなっても、本人に生きようって意思がなければダメなんだって・・・」

 

サチの《録音クリスタル》を握る力が強くなる。

 

「おかしいですよね?コノハやソウゴさん達からも、例え戦えなくても、最後まで生きることを諦めないでって言われてるのに、こうやって、自分が死んでしまうことを前提として考えるなんて・・・」

 

サチの言葉に対して、ソウゴは何も言わずに上を向き、夜空を見上げていたが、しばらく経つと上を見上げたままゆっくりと口を開いた。

 

「そうだな。お前のやろうとしてることは、お前を思ってくれている奴らの思いを踏みにじっているようなもんだからな」

 

「!?・・・そう、ですよね」

 

「お前がそんなんだったら、わざわざ自分のレベリングの時間を省いてまで鍛えてやってる俺が馬鹿見てぇじゃねぇか。コノハの野郎だって、お前にそんなことをやらせる為にあんなことを言ったわけじゃねぇ」

 

「分かってます。でも・・・私は、そんな風に思える程、強くは・・・」

 

未だネガティブに考えるサチに、ソウゴは「はぁ~」とめんどくさそうにため息を付いた。

 

「お前は自分を過小評価し過ぎだ。少なくとも、お前は前よりも強くなっている。そうじゃなかったら、最前線にまで来れる訳ねぇだろ?」

 

「・・・・・・」

 

「お前がこうして最前線まで来れたのはお前自身の力か?違うだろ。お前のギルドの仲間や俺たち、それにハルトとコハル。お前がアインクラッドで出会った奴らと積み重ねた経験や記憶があったからだろうが」

 

「あ・・・!」

 

サチがハッとした表情を浮かべた。

 

「もう一度言うが、今のお前は、お前を思ってくれている奴らの思いを踏みにじっているだけだ。お前が死ぬのはお前の勝手だが、お前を思ってくれている奴は沢山いるんだ。そいつらを悲しませるようなことはするな」

 

最後は真剣な表情で、サチの顔を正面から見ながらきっぱりと言った。

それに対して、サチは《記録結晶》をまじまじと見つめていたが、ウィンドウを開き、先程記録したメッセージと歌のデータを削除すると、さっきまでの暗い顔と違って、キリッとした表情で顔を上げた。

 

「ソウゴさん・・・私、もう一度考えてみます。私が死ぬことじゃない、皆で生き残るためのことを」

 

「ああ、頑張れよ」

 

サチの決意をしっかりと聞いたソウゴは、話は終わりだと言わんばかりに再び路地裏を歩き出した。

 

「まぁ、俺らのギルドには、後先考えずに突っ込んでくカズヤ(脳筋)がいるんだ。そいつみたいに気楽になるってのも、ある意味恐怖を無くする一つの案みてぇなもん――」

 

そして、曲がり角を曲がろうとした途端、ソウゴはピタッと足を止めた。

 

「あのー・・・どうしたんですか?」

 

後ろでサチが聞いてくるが、今のソウゴはそれどころじゃなかった。

何故なら・・・ついさっき別れたはずのハルトとコハル(リア充)のキスシーンを目撃してしまったからである。

お互いの体を抱きしめ合いながら幸せそうに愛し合う二人。二人共、目を瞑っているためソウゴの存在には気づいていないようだ。

明らかに見てはいけない光景を見てしまったソウゴは思考が一瞬停止するも、すぐに再生し、すぐさま行動に移した。

 

バシッ!

 

「え?ちょっと、ソウゴさん・・・!?」

 

「コノサキハドウヤライキドマリノヨウダ。ヒキカエスゾ」

 

サチの手を半ば強引に掴み、ソウゴは来た道を引き返した。

 

「(後日、何かあった時、このネタで脅してやろ)」

 

心の中であくどい計画を立て、腹黒い笑みを浮かべながら。




・メイド服コハル
これだけ言おう。超可愛い。

・恋人同士(まだ一部にしか知られていない)
知っているのはキリト、アスナ、ザント、アルゴ、スティラの五人です。ちなみに、何故アルゴが知っているのかというと、どっかの狼がうっかり口を滑らしたからだという。

・鈍感ソウゴ
普段から「紅の狼」の面々以外とはろくに会話してない為、こういったことには鈍いソウゴであった。

・リア充のキスシーンを目撃
もし作者が実際に現場を目撃したら、ソウゴみたく見なかったことにして去ります。そして、後日このネタで思いっ切りいじってやります。


リア充のイチャイチャを目撃したらクールに去るに限るぜ!
次回で攻略パートが終わってボス戦に入る予定です。

二十七層編終了後見たい番外編は?

  • ネージュのクリスマス
  • キリトさんランド
  • クライン&紅の狼の肝試し大作戦
  • アリスランド改めカオスランド
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