ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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お前もカオスにならないか?
この話を書くためだけにタグにクロスオーバーを追加する作者


カオスランド(前編)

とある圏内の酒場

ここにハルトとコハルはDKBリーダー、リンドに呼び出されていた。

 

「街中で行方不明者続出ですか?」

 

「ああ、この階層の街中で次々と行方不明者が出ているんだ。圏外ならともかく圏内となると事情が違ってくる。メッセージも届かないし、一応《黒鉄宮》の石碑も確認したが、行方不明者の中で横線が引かれた者は一人もいなかったよ」

 

リンドは今起きている出来事を一通り説明した。

圏内での神隠し事件。この層の街中で次々と行方不明者が続出しているという。

最初は普通の一般プレイヤーが消える程度で、そこまで話題にはならなかったが、トウガやザントといったトッププレイヤーをはじめとする実力者たちが次々と姿を消してき、遂には二大ギルドのリーダーの一人、キバオウまでもが行方不明になった。

事態を重く見たリンドは現在、トッププレイヤーであるハルトとコハルの二人に神隠しについて調査を依頼している。

リンドの説明を聞いて、ただ事ではないと感じた二人は早速神隠しについて調査することにした。

 

「ここが問題の市街地だね」

 

そう言いながら、コハルは神隠しが起こっている街中を見渡す。

見た感じ、これといった怪しいものは見つかっていない。

 

「とりあえず、ここら辺の聞き込みから始めよう」

 

「うん、住民に聞けば、何か分かるかもしれないしね」

 

二人は辺りの住民に神隠しについて聞き込みを始めた。

しばらく聞き込みをしていると、路地裏に辿り着いた。

 

「ん?何か聞こえてこない?」

 

二人に近づいてくる足音が聞こえ、コハルは足音がする方へ向いた。

ハルトも同じように振り向くと、そこにいたのは一人の女性だった。

 

「あのー、何か用ですか?」

 

「待って、何か様子がおかしい」

 

女性に近づこうとしたコハルをハルトが庇うように手で制した。

すると、二人を黙って見つめていた女性が口を開いた。

 

「タイプ:天然、遊び心カウンター62334、非常に適任」

 

「はい・・・?」

 

「タイプ:のんびり、遊び心カウンター23988、まあまあ適任」

 

「えっと・・・何か変?」

 

女性のわけ分からない言葉にキョトンとするハルトとコハル。

すると、女性は突如右手を開いて二人に向けた。

 

「喜びなさい、俗物。あなた方は《カオスランド》のゲストに選ばれました。それでは、転送開始」

 

「!? コハル!」

 

「きゃーーー!」

 

嫌な予感がしたハルトはコハルの手を掴み、距離を取ろうとしたが、直後、女性の右手から放たれた眩い光に二人は呑まれた。

そして、光が収まると、そこには誰もいなくなり、静寂だけが残った。

 

 

 

 

気がついたら、二人は見知らぬ場所にいた。

周りはどれもファンタジックな雰囲気を感じる建物ばかり建てられており、何処か遊園地を思わせるような場所だった。

 

「《カオスランド》におかえりなさいだにゃ~!」

 

見知らぬ景色に困惑していると、二人に声を掛ける者が現れた。

声がした方へ振り向くと、頭に猫耳を付けたメイドがいた。

 

「えっと・・・どなたですか?」

 

「にゃはマスターから《カオスライズNo.21》って呼ばれているにゃ」

 

「カオス・・・ライズ?」

 

「《カオスライズ》は生きている中でカオスのみを楽しむために作られた存在だにゃ。にゃはスペックが低いから、遊園地を猫耳メイド服で案内をするっていうカオス度が低いことしかできないけど、上位《カオスライズ》には、目を光らせて、その目を見た人間を操って、あんなことやこんなことをする個体や、架空の女を探し続けている個体や、矢で何回も打たれても、謎のポーズを取りながら倒れると復活する個体もいるんだにゃ」

 

「すみません、ちょっと意味が分からないです」

 

コハルが半ば疲れた様子で言うと、《カオスライズ》は向こうに立てられている立て看板を指差した。

二人はその看板の所へ向かう。そこに書かれていたのは――

 

『《カオスランド》圏内でカオスを楽しまない者は、原則的にカオス目録違反です』

 

「・・・なにこれ?」

 

コハルは再度疲れた様子で小さく呟いた。

その横でハルトはまじまじと看板を見つめていたが、パンッと両手を叩いて口を開いた。

 

「よし!それじゃあ、早速ここら辺を探索しよう。ひとまず、コハルはさっきの人みたいに猫耳メイド服に着替えて――」

 

「ちょっと待って!なんで、さっきの人が着てたメイド服に着替えないといけないの!?あの服を着ながら歩き回るなんて、流石に恥ずかしいよ!」

 

ハルトから発せられたトンデモ発言に物凄く反応するコハル。

対するハルトは、首を傾げながら喋る。

 

「なんで?ここはカオスを楽しまないと、カオス目録違反として罰せられるんでしょ?だったら、探索しながらカオスを楽しんでいかないと」

 

「いや、探索するのはまだいいとして、カオスを楽しむって何!?そもそもカオスになるってことからして意味が分からないよ!」

 

訳が分からない(コハルにとって)ことを言い出したパートナーにツッコミを入れるコハル。

すると、突如二人の目の前に先が見えない黒い穴のようなものが現れた。

突然現れた謎の穴に警戒してると、穴の奥からこちらに近づいてきている影が見えた。

 

シュッ!

 

「キバオウ!」

 

その黒い穴からはキバオウ――

 

「――の顔だけ!?」

 

の顔だけ現れた。

突如現れた顔だけキバオウに戸惑う中、顔面キバオウは二人の方を見つめながら、何やら呟く。

 

「シンギュラー、ユニット、デデ・・・ちゃう。えっと・・・せや、デティクテッドや。デティクテッド、アイディ、トレーシング、コーデネート、フィクスト、レポート、コンプリート・・・チクっといたで」

 

「誰に?」

 

ハルトの質問の答えは、突如二人の周りにポップした複数の女性によって明かされた。

 

「カオス目録違反を確認。カオスを楽しんでいない者たちがいる模様。違反者として認識します」

 

「「違反者・即・滅砕!!!」」

 

一人の女性がそう言うと、残りの女性二人が謎の掛け声と共に襲ってきた。

 

「これって・・・もしかして!?」

 

「戦闘準備!構えて、コハル!」

 

「わあああ!やっぱり!?」

 

ハルト達は咄嗟に武器を構え、応戦する。

エネミーを思わしき女性は、そんなに強くはなく、落ち着いて戦えば簡単に倒せる相手である。

しかし、戦っている二人の顔はあまりよくない。

 

「ダメ!倒しても倒しても、どんどん増えてくるよ!」

 

「流石にキリがないな・・・ここは一旦退いた方が良さそうかも・・・」

 

その理由は、いくら倒しても、人型エネミーの数は減るどころか増え続けているからである。

このまま倒し続けてもキリがないと思った二人は一度退こうと考え始めたその時

 

「こっちダ!」

 

二人を呼ぶ声が聞こえ、声がした方に振り向くと、アルゴがいた。

 

「アルゴさん!」

 

「食らエ!ECMグレネード!」

 

アルゴはグレネードのようなものを人型エネミーの集団に目掛けて投げつけると、グレネードから大量の煙が吹き出した。

すると、人型エネミーは突如動きを止め、次々とその場に膝をついた。

 

「今のうちダ!逃げるゾ!」

 

「は、はい!」

 

アルゴに言われ、二人は走り出し、その場から退いた。

しばらくの間、走り続けて、追手が来てないのを確認すると、アルゴを含む三人はホッと息を吐いた。

 

「追手は捲いたナ。休んでいいゾ」

 

「ハァ、ハァ・・・助けていただいて、ありがとうございます」

 

呼吸を整えながら、アルゴにお礼を言うコハル。

その隣でハルトがアルゴに問う。

 

「アルゴって、いつからここにいたの?」

 

「そうだナ・・・ざっと、二日くらいかナ。色々と聞きたいことがあると思うから、ひとまず、オレッチが二日間ここにいて得た情報を説明するヨ。勿論、料金はタダにしとくゼ。状況が状況だしナ」

 

そう言うと、アルゴは今ここで起きていることについて説明し始めた。

ここ、《カオスランド》では、ありとあらゆる常識を覆したカオスによるカオスのための楽園であり、カオスに関する決まり事、所謂禁忌目録みたいなものが存在している。

もし、それを破り、先程の人型エネミーとの戦いに敗れ、捕まってしまうと、《カオスライズ》というカオスであり続ける存在。アルゴ曰く、黒歴史とも言える恥ずかしい人格になってしまうとのこと。

 

「今のところ、あまり有力な情報は掴めてないけど、さっき、メイド服の《カオスライズ》が言ってたマスターって単語。もしかしたら、ここから出る方法をそのマスターって奴が知っているのかもしれないけド・・・」

 

アルゴは少し言い淀んだが、意を決するかのように喋った。

 

「そのボスを倒そうとしたトウガ達は、みんな返り討ちにあって、《カオスライズ》にされたんダ・・・」

 

「トウガさん達が!?」

 

「なるほど・・・ここ最近、トウガや他の皆との連絡が取れなかったのは、皆ここに来て、《カオスライズ》にされてたってことか・・・」

 

コハルが驚き、ハルトが納得したかのように一人呟く。

ここ最近、プレイヤーが行方不明になる事件の真相は、皆ここに連れて来られて、《カオスライズ》にされてたからである。

 

「今のオレッチ達にできることは、プレイヤーの《カオスライズ》化を引き起こしている原因を突き止めて、無事に元の世界へ帰ることだナ」

 

「うーん・・・そうなると、少しでも味方を増やしておきたいかな」

 

「そうだね。皆を元に戻しながら、この事件の黒幕を暴き出そう」

 

「簡単に言うけど、《カオスライズ》にされた人間は、話の通じる相手じゃないゾ。いったい、どうやって元に戻すつもりなんダ?」

 

アルゴが険しい表情をしながら警告する。

それに対して、ハルトはきっぱりとした顔で言う。

 

「勿論、説得するよ。話が通じないんだったら、通じるまで何度でも」

 

「・・・できるとは思えなイ。けど・・・ハル坊の自信に賭けてみるカ」

 

アルゴは後ろに回り、顔を後ろにいるハルトに向けた。

 

「それじゃあ、さっさと行こうゼ。案内するから、ついてきてくレ」

 

そう言うと、アルゴは歩き出し、二人も後に続いた。

 

 

 

 

「トウガがいるのはこの屋敷、《ウィアード・スクエア》の中ダ」

 

アルゴが目の前に立ってある屋敷を見上げながら喋る。

ハルト達は辺りに《カオスライズ》がいないか、警戒しながら屋敷の中に入っていく。

屋敷の中は薄暗く、けれども何処かメルヘンチックな雰囲気を感じた。

そんな屋敷を進んでいくと、広間の中央に『可愛くない禁止』と書かれている立て看板が立てられていた。

 

「わー・・・凄く嫌な予感がします・・・」

 

「可愛いを楽しめってことかな?」

 

コハルがめんどくさそうな表情で看板を見つめ、ハルトが看板を見ながら思案していると、三人に声を掛ける者が現れた。

 

「よお!お前らも猫耳メイドちゃんに惹かれて、ここに来たのか?」

 

「クライン!!」

 

声を掛けてきたのはクライン。

久しぶりに見たクラインに安堵するハルト。

 

「うわー・・・嫌な予感がすル・・・」

 

そんなハルトとは対象に、冷めた目でクラインを見つめるアルゴ。

 

「どうしたんだよ?そんなギャグで滑った芸人を見るような目で人のことを見つめてよぉ」

 

「・・・別に、ただオチが見えただけダ」

 

「はぁ!?オチってなんだよ!」

 

冷めた目で自分を見つめるアルゴにクラインが更なる理由を問いだそうとしたその時

 

「ジジ・・・ジジジジジジ・・・」

 

「キバオウ!?また来た!」

 

またもやキバオウが顔面のみで現れ、ノイズ混じりの声で何やら言おうとした。

 

「シンギュラー、ユニット、デティクテッド・・・なんやったけ?」

 

「・・・アイディ」

 

何やら忘れていたようなので、ハルトがフォローした。

 

「せやった!アイディ、トレーシング、コーデネート、フィクスト、レポート、コンプリート――」

 

「アッハッハッハ!なんだ、このキバオウ。顔だけじゃねぇか」

 

クラインが笑いながら、未だシステムコールを唱えているキバオウのほっぺたを両手でつねる。

 

「あ、コラ!ほっぺをつまむなや!」

 

「顔だけになっても偉そうだな」

 

「・・・チクっといたで」

 

「誰にだ?」

 

顔面キバオウのほっぺをつまみながら、疑問の声を上げるクライン。

すると、クラインの周りに複数の猫耳メイドが現れた。

 

「カオス目録違反を確認。可愛くない者がいる模様。違反者として認識します」

 

「「違反者・即・滅砕!!!」」

 

先程と同様、謎の掛け声と共にメイド達は一斉にクラインに襲い掛かった。

 

「ちょ、可愛くない者って俺のことか!?って、うわぁぁーーー!!」

 

「クラインさんが襲われちゃった!早く助けないと《カオスライズ》にされちゃいます!」

 

襲われるクラインを見て、コハルが助けようって視線を二人に向けたが

 

「面白いから、そのままデ」

 

「右に同じ」

 

「えぇーーー!?」

 

まさかの放置という二人の選択に驚くコハル。

そうこうしているうちに、クラインの周りにいた猫耳メイドは離れていった。

一方、囲まれていたクラインはというと、いつの間にか床に座り込んでおり、言葉も発さずに黙っていたが、いきなり仰向けに倒れ

 

「ばぶぅばぶぅばぶぅ!アパパパ☆」

 

何処から取り出したのか、おしゃぶりを口に銜えながら無我夢中で手足を動かし、その場で赤ちゃんプレイをし始めた。

 

「これはひどい・・・」

 

「これが《カオスライズ》の恐ろしさダ。お前たちも油断してると、こんな風にされちまうゾ」

 

「自分がこうなったと思うと、ゾッとしますね」

 

おっさんの赤ちゃんプレイを見せられ、ドン引きするハルトとコハル。

 

「フハハハハハ!!」

 

「え?こ、この声は!?」

 

すると、何処から高笑いが聞こえ、聞き覚えのある声にコハルが反応した。

その直後、屋敷の階段から足音が聞こえ、ハルト達が振り向くと、そこには

 

「カオスが全てのこの楽園でカオスにならない愚か者共よ!この私、トウーガ・ブリタニアが貴様らをカオスにしてくれよう!」

 

全身スーツマントに黒仮面を付けているトウガと思わしき少年と

 

「フフッ、素敵なドレスを着ただけでこの可愛いさ・・・ああ!僕はなんて罪深いんだろう!」

 

水色のドレスを着て、優雅に紅茶を飲んでいるコノハがいた。

 

「・・・えっと・・・二人共、なんかものすごーく人格が歪んでません?ていうか、もはや別人になってません!?」

 

「別人になってる分、厄介度がかなり増してるナ。ところで、《カオスライズ》になった連中を説得してみせるって、どっかの誰かさんが言ってたけド・・・」

 

「ごめん、無理」

 

「諦めるの早すぎぃ!?」

 

あれほど説得する気満々だったハルトだが、先程カオス化したクラインともはや別人と化したトウガとコノハを見て、そのやる気は一瞬で消し飛んだ。

 

「まあ、こうなることは分かってたことダ・・・こうなったら、プランBで行くゾ」

 

「どうするんですか?」

 

「物理ダメージで説得すル」

 

「・・・力尽くってことですね」

 

「よし、乗った」

 

「気持ちの切り替えが早すぎるよ!」

 

先程まで説得モードだったのに、一瞬で戦闘態勢に入ったハルトにコハルがツッコむ。

しかし、ハルト達が戦闘態勢に入ったのを見たトウガは、突如バッと両腕を広げた。

 

「フッ、そう簡単に私を倒せると思うな。トウーガ・ブリタニアが命じる!貴様たちは・・・カオスになれ!!」

 

その直後、仮面の一部分が開き、そこから見えたトウガの目が赤く輝いた。

 

「うわぁーーー!!」

 

光り輝く赤い目に成すすべも無く、ハルトは自分の顔を両腕で覆い隠すことぐらいしか抵抗できなかった。

随分光っていたが、やがて光が止まり、ハルトは恐る恐る己の体を見た。

 

「うぅ・・・あれ?何も起きてない・・・?」

 

見た感じ、体が大きくなったりなど異常は見られず、精神面に関しても特におかしいところは見当たらない。

精神共に異常が無い自分の姿にホッとしながら、ハルトはアルゴの方を見た。

 

「・・・え?」

 

そして絶句した。

 

「ん?どうしタ?」

 

なぜなら・・・彼女の姿は二つ名の《鼠》そのものと化していたからだ。

 

「えぇーーーーーー!!?」

 

「どうしたんだヨ?さっきから人の体をジロジロと見つめテ」

 

驚くハルトをよそに、疑問の声を上げながらハルトを見上げる黄色いネズミ姿のアルゴ。

 

「大変だコハル!アルゴが本物のネズミに――っ!?」

 

そして今度はコハルの姿を見て、またしても言葉を失ってしまう。

 

「ちょっと黙ってて。今いちごタルトを食べてる途中だから」

 

コハルは無表情で何処から出してきたのか分からない大量のいちごタルトを食べていた。

その目にはいちごタルトにしか目が無く、ハルトのことなど眼中に無いように無我夢中でいちごタルトを食べるコハル。

 

「バブー、バブー!」

 

そして、相も変わらずベビープレイをしているクライン。

屋敷に入ってから僅か数分で、この屋敷は、猫耳メイド数名、女装男子、全身黒マントの仮面の男、黄色のネズミ、いちごタルトを夢中で食べる少女、ベビープレイをするおっさんが集うカオスな場と化した。

 

「残酷だ・・・この世界は・・・!」

 

このどうしようもない状況にハルトは膝から崩れ落ちる。

すると、ネズミと化したアルゴがハルトに話しかけてきた。

 

「しっかりしろハル坊!今、この状況を何とかできるのはお前だけダ!」

 

「え?アルゴ、もしかして自我はあるの?」

 

「何言ってるんダ。オレッチは最初っからオレッチのままだぞ」

 

どうやら、カオス化しても目的は忘れていない様子のアルゴ。

それを見たハルトは自分のやるべきことを思い出し、体をトウガの方へ向けた。

 

「トウガ、悪いけど、少しの間だけ痛い目にあってもらうよ」

 

「ふっ、いいだろう!貴様はこの俺が直々に仕留めてやろう!さぁ、かかってくるがいい!」

 

そう言うと、トウガはハルトに向かって走り出した。

対するハルトは迎え撃とうと、拳を構える。しかし、こちらに迫ってくるトウガを見て、違和感を感じた。

 

「(あれ?なんか、動き遅くない?)」

 

それは、トウガの移動速度である。

普段は攻略組一のスピードを持つトウガだが、このトウガは攻撃を回避するスピード以前にこちらに迫ってきている速度が圧倒的に遅かった。

そのため、トウガが放った(へなちょこ)パンチを簡単に躱したハルトはカウンターに、トウガが付けている仮面ごと彼の顔を思いっ切り殴った。

 

「ぐぁーーー!!」

 

すると、トウガは思いっ切り宙を舞いながら地面に激突すると、そのまま倒れてしまった。

 

「え?」

 

一発でノックアウトされたトウガに再度困惑するハルト。

ハルトは知らないが、カオス化したトウガのステータスは本来のステータスよりも遥かに下がっており、数百メートル走っただけでばててしまう程のクソ雑魚ステータスと化している。

そのため、普段なら攻略組で一番の瞬発力を持っているトウガでも、弱体化したステータスのせいで、いつもの何倍もの力が発揮できず、トッププレイヤーのハルトの前では、一瞬で倒されてしまうくらい弱くなっていた。

 

「ば、馬鹿な・・・この俺が・・・!」

 

「えぇ・・・」

 

「俺は・・・世界を、壊し・・・世界を・・・創る・・・」

 

そう言うと、トウガは動かなくなってしまった。

あっさりとついてしまった勝負に困惑するハルトだが、カオス化しているのはトウガだけじゃないことに気づき、すぐさまコノハの方へ向かう。

ハルトの接近に気づいたコノハは、己の体を抱き、何故か恍惚の顔で震え始めた。

 

「ああ、僕を倒して、あれやこれやする気なんだね・・・?」

 

「え?いや、そんなつもりは・・・」

 

「・・・(ポッ)」

 

「頬を赤らめないでくれない!?」

 

何やら新しい世界の扉を開こうとしているコノハにハルトが慌てて制止する。

すると、ネズミと化したアルゴがハルトの足をツンツンとつついた。

ハルトが下を見下ろすと、アルゴの手にスプレーのような物が持たれていた。

 

「ハル坊、これを使エ。《カオスライズ》にされた人間を元に戻すクスリダ」

 

「いや、あったんかい」

 

元に戻す手段があっさりと見つかり、思わず関西弁でツッコむハルト。

その後、アルゴからスプレーを渡されたハルトは、トウガとコノハ、コハルやクラインといった《カオスライズ》にされたプレイヤーをスプレーを使って元に戻すことができた。

 

「・・・ん?俺は今まで何を・・・?確か、複数の猫耳メイドちゃんに襲われて、その後・・・何してたっけな・・・」

 

「あれ?私・・・確か、トウガさんの目が赤く光ったと思ったら・・・あれ?なんでだろう・・・その後の記憶が全然思い出せない・・・」

 

「・・・思い出さない方がいいと思うよ」

 

「うぅ・・・俺は・・・確か、ここで猫耳メイドに会ったと思ったら、急に眠くなって・・・」

 

「あれ・・・?確か、僕はトウガ君と一緒にここに来て、それで・・・」

 

「どうやら二人も目が覚めたみたいだナ」

 

スプレーを使った後、アルゴ以外の四人は倒れたが、しばらくすると目を覚まし、カオス化されたことを忘れているのか、ぼやけた顔で辺りを見渡す。

アルゴは事情を知らないトウガとコノハに今の現状について説明した。

 

「なるほど・・・そういうことなら、俺たちも手を貸さないわけにいかないな」

 

「その《カオスライズ》にされた人達を元に戻す作業。僕たちも手伝うよ」

 

「よし、この調子で他の皆も元に戻そう」

 

二人がついてくることを確認したハルト達は次なる目的地へと向かうのであった。

 

 

 

 

「ここから先は《オリエンタル・スクエア》ダ」

 

「なんか、十層の街を思い出すね」

 

そう言いながら、コハルは辺り一面和風尽くしの建物を見渡す。

次なるエリア、《オリエンタル・スクエア》は十層の圏内みたく、和風の建物ばかりが立ち並ぶ和の街だった。

街中には着物姿の《カオスライズ》があちこちにおり、普通に生活している様子が見受けられる。

街並みを見渡していたハルト達だが、コハルが着物の女性の隣に座っている人物に反応した。

 

「あれって・・・エギルさん!」

 

白い肌が多いこの街で黒人であるエギルは異質な存在感を放っていた。

エギルに気づいたハルト達は彼の下に駆け寄ると、エギルはハルト達に気づいて、こちらに顔を向けた。

 

「よぉ、お前ら。よくここまで無事に辿り着けたな」

 

エギルと合流したハルト達は、ひとまず彼が休んでいたお茶屋で休憩することにした。

各々が注文をし、頼んだ菓子が来るまで待っている間、コハルがある看板を見つけた。

 

「ん?なんだろう、この看板?えっと・・・横文字禁止?」

 

「それって、カタ――」

 

「それ以上、喋るんじゃない!」

 

ハルトが'カタカナ'と言おうとした瞬間、キリトが物凄い剣幕で言葉を発するのを制止した。

物凄い剣幕で制止したキリトにトウガが問いかける。

 

「どうしたんだ?キリト。何か言ってはいけない言葉でもあったのか?」

 

「このエ・・・区間は、一番危険な場所だ。一言でも外来語を使えば、カオ――違反となり、洗脳されて、恥ずかしい自分にされてしまうんだ。もし、少しでも口を滑らして、カタ――外来語を使えば終わりだ」

 

「そ、そうだったんだ。危なかった・・・」

 

危なくカオス化するところだったハルトはホッと安堵した。

ちょうどそこへ、店の店員が、頼んだ茶菓子を運んできた。

 

「注文の品、お待ちしましたえ」

 

「おーい、この'スープ'、おかわりを頼めるか?」

 

『あっ』

 

エギルが発した外来語に全員が反応する。

しかし、時すでに遅し。またもや、顔だけキバオウが現れ

 

「シン――」

 

「横文字禁止どすえ」

 

「・・・以下省略や」

 

「それでいいんだ・・・」

 

横文字禁止の為、システムコールを省略したキバオウにハルトが呟く。

その間にも、いつの間にか現れた着物の姿の《カオスライズ》がエギルを囲み、何やらし始めた。

 

「うわああーーー!!」

 

「エギルさんが襲われちゃった!助けないと!」

 

「面白いから、そのままデ」

 

「右に同じ」

 

「お前ら鬼か」

 

またもや静観を決め込んだアルゴとハルトにトウガが呆れるように呟いた。

しばらくすると、周りにいた《カオスライズ》はいなくなり、囲まれていたエギルはというと

 

「へい!らっしゃい!」

 

いつの間にか頭にねじり鉢巻きを巻き締めて、その場でマグロの解体ショーを始めた。

本場の職人の如く、本格的にマグロを解体していくエギル。その様子を呆然と眺めていたハルト達だったが、キリトが口を開いた。

 

「・・・注目が向こうに集まっている内にこの店を離脱しようぜ」

 

「そ、そうだね・・・」

 

キリトの提案に誰もが賛同し、全員が店から離れようとしたその時

 

「カンロジ?カンロジなのか!?」

 

「え?」

 

コハルに向けて声を掛けられ、声がした方へ向くと、そこには口元に包帯のようなものを巻き、白黒の羽織を着ているソウゴが驚愕の表情でコハルを見ていた。

 

「カンロジ、どうしてここに?一人で逃げ出してきたのか?」

 

「えっと・・・ソウゴさん、ですよね?どうしたんですか?なんか、ちょっと怖いですよ!後、カンロジって誰ですか!?」

 

訳が分からないことを言いながら近づいてくるソウゴに、コハルが困惑していると

 

「ヴっ!?」

 

トウガがソウゴに近づき、無言で腹パンした。

 

「彼女はカンロジではない」

 

トウガが静かにそう言うと、ソウゴはそのままうつ伏せに倒れた。

 

「今のうちにと・・・」

 

その隙にハルトが駆け寄り、ソウゴに正気剤をかけると

 

「うぅ・・・ここは、どこだ?」

 

トウガ達と同様、ソウゴは元の姿に戻ると同時に顔を上げた。

状況が理解できず、困惑しながら辺りを見渡すソウゴにトウガが説明する。

 

「事情は分かった。そうと決まれば、さっさと黒幕を倒しに行くぞ」

 

無事にソウゴを元に戻すことに成功し、ハルト達は《オリエンタル・スクエア》を抜け出して、次なる目的地へ向かおうとしたが

 

「あれ?そう言えば、エギルさんは?」

 

『あっ』

 

エギルを置いてけぼりにしていたハルト達は慌てて彼を回収しに戻るのであった。




・顔面キバオウ
エイプリルフールイベントで毎年運営のおもちゃにされるキバオウ。今年はどんなキバオウが見れるのだろうか。

・トウーガ・ブリタニア
元ネタは「コードギアス」のルルーシュことゼロ。ギアスに関してはカオス化のせい、とだけ言っておきます。

・いちごタルトを大量に食べるコハル
元ネタは「ロクでなし魔術講師と禁忌目録」のリィエル・レイフォード。つまり、中の人ネタです。

・マグロを解体するエギル
もはや何も語るまい。

・「彼女はカンロジではない」
・無言の腹パン
妹と親友と故郷を失って、笑顔にさせられた黒咲さんはマジで泣いていい。


次回に続く・・・
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