ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
皆さん、念のためブラックコーヒーのご用意を
「この教会でクエストを受けられるみたいよ」
そう言いながら、リズベットは目の前にある教会を見上げる。
「どんなクエストなんでしょうか?」
「確か、テーマがジューンブライドだったよね?結婚式とか・・・ウェディングドレスに関するクエストかな?」
「ウェディングドレスかぁ・・・私、着たことがないから楽しみだな。どんな感じなんだろう」
「あたしもないわよ。ていうか、ここにいる全員、着たことなんてないでしょ?」
リズベットの後ろからシリカ、サチ、コハルの三人がやってきて、話しながら教会を見上げる。
「あーあ・・・折角の休みだってのに、よりによってこいつらのお供かよ」
「まあまあソウゴ君、こういう季節限定のクエストも悪くないと思うよ」
「そうっすよ!期間限定ですし、楽しめる内に楽しまないとダメっす!」
「レイスの言う通りだね。そう言えば、カズヤは?」
「俺達よりも早くにホームから出ていった。何でも『これからクラインさん達と一緒に綺麗な花嫁さんを見に行ってくるぜ!』って言いながら、張り切って出ていったよ」
その後ろでカズヤを除く「紅の狼」の面々とハルトが会話していた。
すると、彼らの後ろから一人の女性が話しかけてきた。
「あのー・・・すみません」
「!? 誰だ!」
「失礼いたしました。私はトロイメライと申します。あなた達がこのクローゼットに封印されているドレスを解放してくれるお方ですか?」
「何?」
「ちょっとストップソウゴ!とりあえず、一旦刀から手を下ろしなさい。この人、クエスト開始のNPCじゃない?ほら、頭の上に!マークが出てるわ」
訳が分からないことを言われ、刀に手を当てながら警戒してたソウゴをリズベットが制止すると、同時に彼女の頭上にある!マークを指差した。
トロイメライの話によると、フィールドに置かれてある巨大クローゼットにはドレスが封印されており、封印を解くためには、同じくクローゼットの中にあるアイテムが必要だということ。クローゼットの中は異空間になっており、アイテムは中にいる魔物から手に入れることができる。
一通り話を聞いて、理解したハルト達は早速言われたアイテムを手に入れる為、クローゼットの手前に置いてある三段の階段を上り、クローゼットの扉を開けた。
「中は真っ暗だな。それじゃあ、俺から先に行くぞ」
トウガが先頭に立ち、奥を見据えながらクローゼットの中に入ろうとしたその時
バン!
「グアッ!?」
ドタッ!バタッ!
激しい音を立てながら止まったと思いきや、クローゼットの手前に置いてあった三段の階段から崩れ落ちた。
「・・・ギャグをやれって言った覚えはねぇぞ」
「やるわけねぇだろ!ボケっ!!・・・何だったんだ?見えない壁にでもぶつかったような感覚だったが・・・」
ソウゴの言葉に一瞬粗い口調になりつつも、すぐ冷静になり、元の口調で先程自分の身に起きた出来事について思案するトウガ。
すると、トロイメライがおずおずと喋り出した。
「すみません、言い忘れていたのですが、このクローゼットの中には二人の組、それも男女のペアで同時に足を踏み入れないと入れないんです」
「・・・先に言え」
若干怒りを感じたトウガだが、失敗することは誰にだってあるし、いちいちキレてたらキリがないので、何とか怒りを治める。
「うーん、男女のペアってことは、きちんと戦力を考えて、順番を決めた方が良さそうね」
「あぁ、個人の力だけじゃなく、誰となら上手く連携できるとか、それらのことも考えた上で決めとく必要があるな」
リズベットとソウゴの言葉に頷き、ハルト達は一緒に行動するペアについて話し合った。
十分後、ペアが決まったハルト達は再びクローゼットの前に立った。
「それじゃあ、あたし達から行くわよ」
「やれやれ、ようやく出発だな」
話し合いの結果、一番先に出発することになったソウゴ&リズベットペア。
「いよいよ、出発だね。緊張してきた・・・」
「フフッ、そんなに不安にならなくても大丈夫だよ。ほら、リラックス、リラックス」
二番目に出発することになったコノハ&サチペア。
「私、思ったんだけど、どうしてペアで行く必要があるのかな?封印と関係あるのかな?」
「うーん・・・まあ、行ってみれば分かるっすよ」
三番目に出発することになったレイス&シリカペア。
「結局、いつも通りになったね」
「うん、いつも通りよろしくね、ハルト」
一番最後に出発することになったハルト&コハルペア。
「・・・・・・」
そして、一人余ったためにクエストに参加することができなくなったトウガは、脇で成り行きを見守ってた。
「ああ・・・なんか悪いな」
「いや、仕方ないさ。今から他の女性プレイヤーを呼び出す時間もないし、俺はこのクエストの成り行きを見守ることにするよ」
申し訳なさそうにしているソウゴに対して、微笑みながら返すトウガ。
それを見て、大丈夫そうだと感じたソウゴは視線を先が真っ暗なクローゼットの中に移した。
「そんじゃ、行くとしますか」
そう言うと、ソウゴとリズベットはクローゼットの中へ入っていった。
他の面々も後に続き、クローゼットの中にあるアイテムを集めにいった。
「よっと、あれ?みんなは?」
「まだ誰もいないね。私たちが一番乗りだね」
クローゼットの中から一番最初に出てきたのは、ハルト&コハルペアだった。
二人は集めたアイテムをトロイメライに渡した。
「《白い糸》・・・確かに受け取りました。次は《黒い糸》を集めて来てください」
「《黒い糸》ですか?」
「はい、それがあれば、ドレスの封印を解くことが可能でしょう」
トロイメライから話を聞いた二人はトウガの下へ行き、三人でクエストについて話をする。
「中はどんな感じだったんだ?」
「洞窟みたいな感じだったよ。エネミーはそんなに強くなかったし、たぶん、次のアイテムも同じエネミーからドロップされるとは思うけど・・・」
「次の《黒い糸》って何に使うんだろうね」
クエストについて話していると、クローゼットの入口が光り出した。
「な、何!?」
「ああ、おそらく誰かが戻ってきたんだろう。お前たちが戻ってくる時もあんな風に光ってたしな」
驚くコハルの横で冷静に説明するトウガ。
その言葉通り、光っているクローゼットの中からソウゴとリズベットが出てきた。
「あ!ハルトにコハル。もう帰ってきたのね」
「流石、熟年夫婦。連携もバッチリみたいだな」
「ちょっとソウゴさん!熟年夫婦って何ですか!?私たちはまだそんな関係じゃ――」
「ほう、まだってことは、なる予定はあるということか?」
「オホホホッ、若いっていいわね~」
「あうぅ・・・」
「・・・悪いな、うちのソウゴが」
「気にしないで、もう慣れてるから・・・二十七層以降、事あるごとにあんな風にからかってくるからね。アハハ・・・」
「・・・本当にすまん」
ソウゴとリズベットにからかわれ、顔を赤くするコハル。その隣で少し疲れ気味で話すハルトを見て申し訳なさそうにしながら謝るトウガ。
二十七層の例のシーンを見られて以降、ソウゴは周りに広めない代わりに二人をこのネタでからかい続けることを決め込み、今日みたく隙があれば、こんな風にからかってくる時がある。お陰でハルトは普段よりも疲労が溜まっているのだという。
そんなハルトにトウガは心の中で再度謝った。
しばらくすると、残りのペアも無事に戻ってきた。
「今度は《黒い糸》を集めるんですね」
「ドレスの封印を解くためって言うけど、なんで糸が必要なんだろう?」
「ドレスを作るってなら、分かるけどね。布系の装備って糸で作られてるのが多いし」
「でも、ドレスの封印を解くために、わざわざ新しいドレスを作る必要ってあるんでしょうか?」
次の内容について聞かされ、それぞれ思案し合うサチ、シリカ、リズベットの三人。
「考察はそこまでにしとけ。どうせ進めてたら、そのうち分かるだろ」
「ソウゴ君の言う通りだね。とにかく今は《黒い糸》を集めてみようよ」
「・・・それもそうね。それじゃあ、集め終えたら、またここで作戦会議ってことで、みんなよろしく!」
ソウゴとコノハの言葉により、ハルト達は一旦考えるのを止め、《黒い糸》を手に入れる為、再度クローゼットの中へ入った。
ハルト達がクローゼットから出ると、既にソウゴ&リズベットペアがトロイメライに《黒い糸》を渡していた。
「あ!来たのねあんた達。今回はあたし達の方が早かったわね」
「俺らも今来たところだけどな」
そんな二人の会話を耳にしながら、ハルトは《黒い糸》をトロイメライに渡した。
その後、コノハとレイスの二組も無事に戻ってき、《黒い糸》を渡した。
「ありがとうございます、皆さん。これで、衣装を作ることができます」
「衣装を作るって、やっぱりドレスを作るんですか?」
コノハが疑問を述べると、トロイメライは首を横に振った。
「いいえ、ドレスはクローゼットに封印されていますので、作るのは・・・」
そう言いながら、トロイメライは渡した《白い糸》と《黒い糸》を両手に合わせると、合わさった《白い糸》と《黒い糸》は姿を変えて、一つの服になった。
「これって・・・タキシード!?」
「どうぞ」
「あ、どうも・・・」
ハルトは驚きながら、トロイメライから白いタキシードを受け取る。
トロイメライは同じように、集めた《白い糸》と《黒い糸》からそれぞれ色の違うタキシードを作り出し、ソウゴ、コノハ、レイスの三人に渡した。
「タキシードねぇ。まっ、結婚式には必要な衣装だけど・・・」
「これは予想外でしたね」
「つか、俺のタキシードの色赤だぞ。白と黒の糸からなんで赤のタキシードができるんだよ」
「ソウゴさん、これに関してはツッコまない方がいいと思うっすよ」
手渡されたタキシードを見ながら、それぞれ言い合うハルト達。
すると、トロイメライから封印されているドレスの来歴について聞かされた。
クローゼットの中に封印されたドレスは、着る人が現れずに役目を終えてしまったドレスであり、忘れ去られたドレスの無念の思いや悲しみが、いつしか封印という形になってしまった。
そして、その封印を解くためには、タキシードを着た花婿が必要であるということ。
「このクローゼットの奥底。ダンジョンの最奥にはドレスが入ったクローゼットがあります」
「クローゼットの中にクローゼットがあるんですか?」
「まるでマトリョーシカだな」
トロイメライの言葉に反応するコノハとソウゴ。
トロイメライはコノハの問いに答えるかのように続きを喋る。
「そうです。それこそが封印の化身。ドレスを隠す、悲しみの砦です。そして、タキシードを着た花婿とドレスを着た花嫁。それと介添人が揃えば、封印が解かれる筈です。介添人は私が務めさせていただきます」
「・・・ちょっと待て」
話していたトロイメライの言葉をソウゴが制止させる。
「つまり、ドレスの封印を解くためには結婚式擬きをしなきゃダメで、その花婿と花嫁役を俺らがやれってことか?」
「はい、その通りです」
ソウゴの問いに平然と答えるトロイメライ。
それを聞いたハルト達は気難しそうな顔をし始めた。
「・・・そりゃ、ジューンブライドと言ったらウェディングドレスであって、ウェディングドレスと言ったら結婚式だけどさぁ・・・」
「ドレスを着れるのは嬉しいんですけど、いきなり結婚式をやれって言われると・・・」
「心の準備が、ね・・・」
何処か浮かない顔をしながら呟くリズベット、シリカ、サチの三人。
すると、トロイメライは悲しそうな顔をしながら下に俯いた。
「あのドレスは・・・いえ、この世の全ての衣装は着るために作られています。着てくれる主人を失ったドレス程哀れなものはありません。どうか、哀れなドレスに袖を通して、無用とされたものの悲しみを救ってくれませんか?」
「・・・なんなら、この後の内容は僕たちだけで進めようか?僕とコハルは、まぁ・・・一応はそう言う関係だし、恥ずかしさはあるけど、やりたくないって気持ちは無いし・・・コハルはどう?」
「うん、私も大丈夫だよ。リズベットさん達はどうします?別に無理にやらなくても、私は問題ありません」
コハルの言葉にリズベット達は更に悩み続ける。
「・・・少し相談させてくれませんか?」
時間がかかりそうだったから、トロイメライから少し離れた所で話し合うことにした。
「正直に言うと、あたしはこのまま続けたいって思ってる。ウェディングドレスにも興味はあるけど、それ以上にクエストを途中でやめることなんてしたくない。でも・・・いくら疑似的とはいえ、こっちの我儘で無理矢理結婚式をさせられて相手がどう思うのかって思うと少し不安で・・・」
「「・・・・・・」」
不安気な顔で語るリズベット。サチとシリカも言葉を発しなかったが、同じ気持ちだった。
彼女たちの意図を理解し、ソウゴ達も何も言わずに黙り込む。
長々と時間が経ったが、最初に口を開いたのはソウゴだった。
「お前のやりたいようにやりゃいいんじゃね?」
「え?」
「結婚だどうとか関係なく、今お前がやりたいと思う道を選べばいいだろ。それに対して俺は別にお前を恨んだりはしねぇよ」
「・・・ありがとう。それじゃあ、改めて・・・最後までよろしく頼むわよ、ソウゴ」
「ああ、それに一度乗り込んだ船だ。それを途中で降りるなんざ、俺だってごめんだ」
リズベットの決意を聞いて、ソウゴは小さく微笑んだ。
更に、サチとシリカも覚悟を決めたような顔をしながら、それぞれのパートナーの方へ向いた。
「私も最後までクエストを続けるよ。だから・・・その・・・最後までよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしくね」
「頑張ろうね、レイス君」
「勿論っす!いつでも胸を貸すっすよ」
三組共、クエストを続行することを決めた。
それを確認したコハルはトロイメライの下へ向かい、クエストを続行することを伝えた。
「お待たせしてごめんなさい。準備もできたし、早くドレスを解放しに行きましょう」
「それでは、クローゼットを開きます。皆様、中にお入りください」
トロイメライの言葉と共に、再度クローゼット扉が開き、ハルト達は意を決して中に入っていった。
「ここが、ドレスを封印している魔物がいる場所だね」
クローゼットの中、洞窟のようなダンジョンを先程よりも奥に進んだ場所でコハルが辺りを見渡しながら喋る。
すると、エリアの中心に眩い光が放ち、そこから一体の巨大エネミーがポップされた。
そのエネミーの見た目は巨大なヤドカリだが、体を中に入れている貝殻が巨大なクローゼットになっていた。
「あれが、ドレスを守る魔物・・・ヤドカリみたいな見た目をしてるね」
「あの、巨大なハサミが厄介そうだな・・・気をつけて行こう!」
二人は武器を構え、巨大ヤドカリに接近する。
すると、こちらの接近に気がついた巨大ヤドカリが巨大バサミで二人を切り刻もうとした。
二人は巨大バサミを難なく躱し、その隙を付いてコハルが短剣でハサミに攻撃するが
キン!
「くっ!やっぱり固い!」
鉄並みの固さを持つハサミに短剣がはじかれてしまい、顔をしかめるコハル。
「だったら、固くない箇所を狙えば・・・!」
そう言いながら、ハルトは迫ってくる巨大バサミをしゃがみ込んで躱し、その勢いのまま、ヤドカリの腹の下に滑り込むと、腹部目掛けて剣を振った。
すると、巨大ヤドカリは苦しそうに声を上げた。HPバーを見てみると先程よりもHPが削れている。
「よし!これで行ける!」
弱点を見つけた二人は、ハサミの攻撃を躱していきながら腹部を攻撃して、順調に巨大ヤドカリのHPを削っていった。
そして、巨大ヤドカリのHPが1/4以下になった時、ハルトが止めを刺すべく動いた。
「これで決める!」
殻で覆われている部分を<ファイア・スラント>で二回攻撃すると、迫りくる巨大バサミを跳んで躱す。
そのまま空中で武器を片手棍に変えると、頭上目掛けて<ウォータリング・フォール>で攻撃する。すると、頭に強烈な一撃を食らった巨大ヤドカリが怯んだ。
その隙に、巨大ヤドカリの腹部に近づき
「いっけぇーーー!!」
渾身の叫びと共にバーストスキル、<ブレイジング・ベル>を腹部目掛けて放った。
ハルトの放った一撃は、巨大ヤドカリの体を大きくのけぞらせ、大ダメージを与えた。
しかし、HPは僅かに残っていた。
「もう、しつこい!これで終わりよ!」
そこにコハルが追撃した。
コハルの声と共に放たれた<ブレイジング・ベル>によって、巨大ヤドカリは今度こそポリゴン状に四散した。
フィールドには巨大ヤドカリが入っていた巨大なクローゼットが残った。
すると、巨大クローゼットの扉が勢いよく開き、そこからクリーム色のドレスが出てき、コハルの手元に収まった。
「これが、封印されていたウェディングドレス・・・」
「綺麗なドレスだね」
「うん、持ち主さんはきっと着るのを楽しみにしてたんだろうね・・・」
何処か暗い表情で自分の手元に置いてあるクリーム色のウェディングドレスを見つめるコハル。
そんな彼女の姿を見たハルトは、話題をドレスのことから儀式のことに変えようと彼女に話しかけた。
「これで後は教会に戻って、ドレスを解放する儀式をするだけだね」
「うん・・・一つ思ったんだけど、この儀式って本当に結婚したことになるのかな?例えば・・・結婚システムが勝手に発動しちゃうとか・・・」
「いや、確かトロイメライさんは『儀式はあくまで儀式です。花婿と花嫁らしく仲良く衣装を着てくだされば、ドレスは無事に解放されるでしょう』って言ってたから、システム的な結婚にはならないと思うよ」
「そう・・・でも、やっぱり緊張するな・・・儀式とは言え・・・その・・・結婚式をするのは・・・ほら・・・まだ早いかなぁ・・・って思ってたし・・・」
「まあ・・・そこは・・・頑張ろう・・・うん」
会話をしていく内に顔を赤くしていくハルトとコハル。
これ以上いると、差恥感に吞まれそうだったので、二人は急いでクローゼットから出た。
クローゼットから出ると、トロイメライ(とトウガ)しかいなく、他の面々はまだ来てない様子だった。
「ドレスを取り戻したようですね。これで後は儀式をするだけ――」
「その前に一つ聞いていいですか?トロイメライさん」
トロイメライが何やら喋っていたが、それをコハルが制止し、真剣な表情でトロイメライに問いかけた。
「はい、なんでしょうか?」
「私たちが手に入れたドレス。確か、着る主人を失ったって言ってましたよね。その主人って・・・トロイメライさんなんですか?」
「・・・その質問にはお答えできません。皆さんには、気持ちよくドレスを着てほしいですから」
「そっか・・・もし、私が持ち主さんの代わりにドレスを着たら・・・持ち主さんは喜んでくれると思いますか?」
「ええ、それは間違いありません。持ち主も・・・着られたドレスもきっと喜ぶと思います」
「うん・・・そうだったら、私も嬉しいです」
二人が会話をし終えると同時にソウゴ達が戻ってきた。
「どうやら、皆さん無事に戻ってきたようですね。それでは、教会の中へ入りましょう」
トロイメライは全員揃ったのを確認すると、ハルト達をフィールドにある教会へ案内した。
教会の中はこれまた広く、建物のあちこちに豪華な物が置かれていた。
ハルト達は教会のチャペルに案内されると、トロイメライがハルト達を見ながら口を開いた。
「皆さん、お揃いですね。それでは、儀式を始めましょう」
「つ、ついに本番ですね!」
「シリカちゃん、大丈夫だから落ち着いて。私も緊張してきちゃったけど・・・」
「そうよね・・・儀式とはいえ、結婚だもんね」
何処か緊張気味にチャペルを見渡すシリカ、サチ、リズベットの三人。
「別にシステム的な結婚じゃねぇし、そこまで緊張することねぇだろ」
「あんた、何も分かってないわね。女の子にとって、結婚は一生に一度の一大イベントなのよ!」
「分かったから、顔近づけんな。暑苦しい」
「なんですって!」
「り、リズさん!落ち着いてください!」
「・・・一応緊張は解けたみたいだね」
「そうだね」
ソウゴの物言いにリズベットが嚙みつき、シリカが宥める。その様子を見て、リズベットの緊張が少し解けたことに安堵するコノハとサチ。
「あのー・・・そろそろ着替えて欲しいんですけど・・・」
「そ、そうね。ごめんなさい」
トロイメライに言われ、リズベットはソウゴに嚙みつくのをやめると、ストレージを開いた。
「それじゃあ、ドレスを装備して・・・」
「僕もタキシードに着替えないと・・・」
ハルトとコハル、他の面々もストレージを開き、着替えようとしたその時
「待て!!お前ら、一緒の場所で着替えるつもりか!?」
『あ・・・』
この場でただ一人クエストを受けていないトウガが慌てて制止した。
先程まで緊張感に包まれてたために、誰もが一番大事なことを忘れていた。
「で、では、花嫁の皆さんは控室で着替えましょう。案内しますので、ついてきてください」
トロイメライに案内され、コハル達はチャペルから出た。
「・・・俺たちもさっさと着替えようぜ」
「そ、そうだね!それじゃあ、ストレージを開いてと・・・」
残ったハルト達は気を取り直してタキシードに着替え始めた。
「着てみたはいいけど、やっぱり、落ち着かないなぁ」
何処か照れくさそうにしながら、白のタキシードを着てるハルト。
「うん、こういう衣装って滅多に着ないもんね」
同じく、少し照れくさそうにしながら、黒のシャツの上に白のジャケットを羽織ったタキシードを着てるコノハ。
「ちっ、着づれぇな」
そんな二人と違って、鬱陶しそうに赤のタキシードを着てるソウゴ。
「へへっ、どうすかトウガさん。似合ってるすか?」
白のタキシードを着て、首元に黒の蝶ネクタイを締めた自分の姿をトウガに見せつけるレイス。
「ああ、似合ってるぞ、レイス」
そして、
「そう言えば、ソウゴ君がスーツを着ている姿なんて見たことがないな。小学校の卒業式や中学の入学式の時も袴で出席してたよね?」
「そう言えばそうだな。初詣の時も俺たちが私服で来てる中、一人だけ袴だったよな」
「うちは侍の家系だからな。こういうめでたい行事ではいつも和服で祝うんだよ」
こんな感じで、会話を弾ませていると
ガチャ
「あ、コハル、着替えが終わったんだね――っ!?」
チャペルの扉が開き、コハル達が来たのかとハルト達は扉の方へ目線を向け、そして絶句した。
扉を開けて入ってきたコハル達は、それぞれのウェディングドレスに身を包んでおり、そのドレスの一つ一つがコハル達の可愛さや普段では見れない美しさや可憐さを引き出していた。
そんな普段とは違うコハル達の姿にハルト達が見惚れている中、コハル達はそれぞれのパートナーの下へ歩み寄る。
「ど、どうかな?私のドレス姿・・・に、似合ってないかな・・・?」
「そんなことはないよ。凄く綺麗だよ」
「あ、ありがとう。お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいな・・・」
「お世辞なんかじゃない。心からの気持ちだよ」
お互い恥ずかしがりながらも、それぞれ感想を言い合うコノハとサチ。
サチのドレスは、少し緑身が混ざった白いドレスであり、頭に付けてある花飾りやベールを踏まえて、神秘的な雰囲気を感じる。
「うわぁ~シリカちゃん、すっごく可愛いっす!」
「えへへ、ありがとう。レイス君もとってもカッコイイよ」
素直に褒められ、照れくさそうにしながらレイスのタキシード姿をカッコイイと言ったシリカ。
シリカのドレスは、四人の中で唯一のミニスカドレスであり、ドレスの腰についてあるリボンや彼女のツインテールを纏めてある花の髪飾りが、小柄で可愛らしいシリカに合ったアクセサリーとなっていた。
「どうよ、ソウゴ。あたしのドレス姿は?」
「・・・そうだな。馬子にも衣装って言うしな」
「ちょ、それどういう意味よ!」
「ふっ、冗談だ。まぁ、いつもの十倍は綺麗だと思うぜ」
「なっ!?・・・最初っからそう言いなさいよね。たく・・・」
最初は冗談を言われ、嚙みついてきたリズベットだが、その後綺麗と言われ、照れくさそうに顔を赤らめた。
リズベットのドレスは、ピンクと白の生地で作られたドレスであり、白いグローブやベールを踏まえて、髪がピンクのリズベットに見合ったドレスとなっている。
「ハルト、どうかな?私のドレス姿・・・似合ってる?」
「勿論、似合ってるよ」
「ありがとう!ハルトもカッコイイね」
こちらもお互いの姿に対して、褒め合っているハルトとコハル。
コハルのドレスは、ボリュームのあるクリーム色のドレスであり、ドレスの胸元やスカートの所々に青薔薇が付いている。また、ドレスと同じ色のグローブやセミロングの髪を纏めた頭にクリーム色のベールを付けており、ドレスの魅力さと、それを着てるコハルの可愛さをより一層引き出していた。
とまぁ、こんな感じで四者それぞれドレスやタキシードの感想を言い合っており、中々動く気配がない。心なしか、彼らの周りに桃色の空間が漂っている。
「君たち、さっさとクエストを進めてくれないかな!?」
そのため、一人取り残されたトウガが(何故か泣きそうな顔をしながら)大声でクエストを進めるよう叫ぶと、リア充達は我に返った。
「それでは皆さん、これより、儀式を行います。そちらの方に並んでください」
トロイメライに言われ、ハルト達はトロイメライの前に並んだ。(向かう際、
ハルト達が横一列に並んだの確認したトロイメライは神父のように誓いの言葉を述べる。
「あなた方は、病める時も、健やかなる時も・・・――共に歩み、愛し合うことを誓いますか?」
「「「「「「誓います」」」」」」
「誓う」(←ソウゴ)
「誓うっす」(←レイス)
ハルト達が誓いの言葉に応えたその時、トロイメライの体が光り出し、その体に純白のウェディングドレスが纏った。
「トロイメライさんの体にドレスが・・・!?」
「・・・やっぱり、ドレスの持ち主はあなただったんですね」
コノハが驚き、コハルが悲しそうな顔で呟いた。
その呟きに答えるかのように、トロイメライはコハルに向けて微笑んだ。
「ええ、遠い遠い昔・・・あの日、なんで着ることができなかったのかも思い出せないくらい昔の話です。だけど、あなた達のおかげで報われることができました。私も、このドレスも・・・」
そう呟くトロイメライの体が薄く光り出し、その体は徐々に透け始めた。
「こんなにも晴れやかな気持ちで着られるなんて・・・待ち続けて良かった・・・ありがとう。あなた達のおかげで、私は幸せな気持ちで旅立つことができます」
そう言うと、トロイメライは顔を上に向ける。
「今行くわね、あなた・・・」
その頬に一滴の涙を流した瞬間、トロイメライは淡い光と共に消えていった。
「消えちゃった・・・」
「未練が晴れて成仏したんすね・・・」
そう呟くシリカとレイスは暗い顔でトロイメライがいた場所を見つめた。
「なんにせよ、これでクエストクリアってわけね」
「ああ・・・久しぶりに疲れた・・・特に最後」
「結婚式って聞いたから、結構緊張したけど、いざ終わるとホッとするね」
「フフフ、私も緊張したけど、最後までやっておいて良かったよ」
その横で、クエストの感想について述べ合うリズベット、ソウゴ、コノハ、サチ。
すると、今までの成り行きを黙って見守ってたトウガが、ハルト達に近づきながら口を開いた。
「どうやら、クエストは無事クリアしたみたいだな。よし、皆結構疲れてるだろうし、今日はこのまま解散――」
「せっかくだし、皆で記念撮影しましょうよ!」
仲間たちと一緒に帰ろうとしたトウガだが、リズベットが割り込んできた言葉に、思わず「え?」と声を漏らした。
そんなトウガをよそに、ハルト達はリズベットの提案に賛成した。
「いいですね!ドレスやタキシードはイベントが終わるまでにストレージの中に残るみたいですし!」
「そうだね。それに、こんな衣装、滅多に着ることなんてないし、いい思い出になると思うよ」
「思い出か・・・うん!とっても素敵だね!」
「そうっすね!俺も賛成っす!」
「お前ら。ちょ、まっ――」
シリカ、ハルト、コハル、レイス・・・他の面々が次々と撮影する気満々になり始め、トウガは慌てて制止しようとする。
しかし、ハルト達は止まらない。
「よし!それじゃあ、さっさと行きましょ!」
「たく、しょうがねぇなぁ・・・」
リズベットに手を引っ張られ、文句を言いつつも仕方ないって顔をしながら後に続くソウゴ。
「俺たちも行くっす!」
「あ!レイス君、待ってよー!」
「僕たちも行こっか?」
「うん、エスコートよろしくね?コノハ」
「私たちは、どこで撮ろっか?」
「そうだね・・・教会の近くにあった林の中とか・・・」
残りの面々も記念撮影をしに、次々と教会を出ていった。
そして、教会には
その後、ハルト達はイベント期間中、フィールドに残っているクローゼットの中に入って、中にいるエネミーを狩ったり、たまに、手に入れたドレスやタキシードに着替えて、フィールドのあちこちで写真を撮ったりなど、イベントが終わる瞬間まで楽しんでいた。
最後にその一部始終をお見せしよう。
「えっと、もうちょっと近づいてもいいかな?」
「うん・・・この辺でいいと思う」
フィールドの林で、お互い近づき、恥ずかしそうに頬を赤らめながら撮影するコノハ&サチペア。
「それじゃあ、撮るっすよ!」
「う、うん!せーのっ!」
「「ピース!!」」
教会を背景に、カメラ(記録結晶)に向けてピースするレイス&シリカペア。
「毎回同じポーズで撮るのも飽きてきたな・・・お、そうだ。よっと!」
「ちょ!何やってんのよ、あんた!?」
「ん?嫌だったか?」
「あ、いや・・・別に嫌とは言ってないし・・・できれば、そのままでいてちょうだい・・・」
フィールドにある少し高めの丘で、特に恥ずかしがる様子もなくリズベットをお姫様だっこするソウゴと恥ずかしそうにしながらもまんざらでもない様子でだっこされるリズベット。
「・・・病める時も、健やかなる時も、私を愛し、一緒に歩んでくれることを誓いますか?」
「はい、誓います」
「では、誓いのキスを・・・」
教会のチャペルを利用し、誓いの言葉や誓いのキスをしたりなど、結婚式の予行練習(あくまで予行練習)を行っているハルト&コハルペア。
そして・・・
「今日も風が気持ちいいなぁ・・・」
一人孤独にフィールドのベンチに座りながら風を感じるトウガであった。
・トロイメライ
このイベント限定のNPC。これ以上語ることは・・・無いな。
・例のシーン
詳しくはep.31で。
・<ブレイジング・ベル>
オリジナルスキル。SAOIFだと片手棍の星4スキル。バーストスキルである。イメージイラストはアバターの白タキシードを着て、こちらに向けて手を差し伸べているハルト(SAOIF主人公)進化させると、その手を握っているコハル(ウェディングVer)の手が映し出される。
・<ブレイジング・コード>
オリジナルスキル。SAOIFだと短剣の星4スキル。覚醒スキルである。イメージイラストは【ブーケトス】とは違った白いウェディングドレスを着て、こちらに向けて手を差し伸べているコハル。進化させると、その手を握っているハルト(ウェディングVer)の手が映し出される。
・男性陣のタキシードについて
ハルトはアバターの白タキシード、ソウゴはアバターの赤タキシード。コノハはスキルレコード【ブライド・グルーム】でキリトが着てたタキシード。レイスは本家ブライダルイベントでシノンやユウキが着てたタキシード。
・女性陣のドレスについて
コハルとシリカはスキルレコード及びイベントストーリーで着てたドレス。サチはメモデフの【清純な花嫁】で着てたドレス。リズベットはコードレジスタの【スナッズブライド】で着てたドレス。
・一人風を感じるトウガ
強く生きろ
トウガぁ・・・(憐れみ)
作者の中でかなり好きなストーリー。というか皆可愛すぎる。主にコハルとか!コハルとか!!コハルとか!!!(コハル推し魂の叫び)
そして、次回はまたもや番外編。
内容は・・・『そーどあーと・おふらいん いふ』。お楽しみに。