ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

50 / 83
お待たせして申し訳ございません。
プログレッシブの映画がだんだん近づくにつれて、私のSAO熱も徐々に燃え上がっています。


今回は例の場面です。先に言うと原作と多少展開が違います。
果たして、サチ及び黒猫団の運命は!?


ep.35 悪夢

サチの秘密を知った日から数か月経った今日、ケイタは念願のギルドホームを買うため、別行動を取ることになった。

その間、他の五人はギルドの資金を稼ぐべく、二十七層の迷宮区へ足を踏み入れていた。

 

「前に来た時はそこまで苦戦しなかったし、今回も楽に進めそうだな」

 

「油断するなよテツオ。ここの層はトラップにも注意しないといけないからな。特にササマル、お前は前科があるから気をつけろよ」

 

「分かってるよ。前に似たようなトラップに引っかかったし、そう何度も引っかからねぇよ」

 

元気そうに話す黒猫団の面々の様子を見て、キリトは安堵していた。

迷宮区に入った時ははまだ彼らには早いのではないかと不安に思っていたが、自分の予想以上に上手く連携しながら立ち回ってたり、かつてこの層に来た際に、トラップがフィールド中にたくさんあることを知ったらしく、トラップに引っかからないよう慎重に行動していた。

そんな感じに、攻略は順調に進んでおり、迷宮区の奥まで進んでいくと、ボス部屋までやって来た。

 

「ここってボス部屋だよな?」

 

「みたいだな。ここで攻略組はボスと・・・くぅー!俺たちも早く最前線で戦いたいぜ!」

 

いつか攻略組と一緒に戦う時を夢見て、キリト達は部屋から出ようとしたその時、入口の扉が突如バンッと音を立てながら勢いよく閉まった。

突然閉まった扉に驚く一同。しかし、そんな驚きを凌駕する出来事がすぐに起きた。

突如部屋が明るくなり、部屋の中心に一体のエネミーがリポップされた。

そのエネミーは数十メートルもある巨体に首が二つあって、腕が左右二本ずつあり、それぞれの手に巨大ハンマーと鎖付き鉄球が左右対称に握られていた。

 

「う、噓だろ・・・!」

 

「あれって・・・!まさかボス!?」

 

そう、リポップしたエネミーは、かつてこの部屋で攻略組と激闘を繰り広げた二十七層のボス《タロス・ザ・クロスギガス》だった。

 

「(フロアボスのリポップなんて聞いたことないぞ!いや、そんなことよりも、どうして今この状況でリポップしたんだ!?)」

 

キリトはかなり焦っていた。何故、攻略組が倒したはずのボスがリポップしたのか。よりにもよって、何故'今'なのか。

色々な感情がごちゃ混ぜになっているが、今はこの場から逃げることを優先すべく、黒猫団の面々に向けて叫んだ。

 

「全員!今すぐ部屋を出ろ!それか、《転移結晶》を使え!」

 

キリトに言われ、四人はすぐさま行動に移す。サチがストレージから《転移結晶》を取り出し、他の三人は閉まった入口の扉を開けようとしたが

 

「ダメだ!ビクともしねぇ!」

 

「《転移結晶》も使えない・・・!」

 

扉を押そうにも開く気配が無く、《転移結晶》を使おうとしても効果が発揮されない。

そうこうしているうちに、《タロス・ザ・クロスギガス》は五人の姿をを目に捉えると、「ヴォーーー!!」と雄叫びを上げながら、こちらに近づいてきた。

 

「各自散開しろ!二十七層のボスはハンマーや鉄球を振り下ろす単調な攻撃しかしてこない!しっかり攻撃パターンを見切って、回避に専念しつつ隙を付いて攻撃しろ!」

 

戦うしかないと結論付けたキリトの指示は早かった。

キリトの叫び声に反応した黒猫団の面々は、それぞれの武器を構え、《タロス・ザ・クロスギガス》に応戦し始めた。

幸い、ボス攻略の時にあった磁力のトラップが、今は作動していなかったため、キリト達は磁力に振り回されることなく動けていた。

そんな中、《タロス・ザ・クロスギガス》の右手に持っている巨大ハンマーが、ササマル目掛けて振り下ろされる。

 

「うわぁ!」

 

ササマルは何とか回避したものの、床に衝突したハンマーの衝撃に巻き込まれてしまい、床に転がった。

そんなササマルを見て、仕留めるチャンスと思ったのか、《タロス・ザ・クロスギガス》は立ち上がろうとしているササマルに向けて、左手に持っている巨大ハンマーを振り上げた。

 

「避けろササマル!」

 

キリトが叫びながら、ササマルの方へ走り出すが、その前に《タロス・ザ・クロスギガス》の巨大ハンマーが振り下ろされた。

 

「あ"ぁ!?」

 

回避が間に合わなかったササマルは、《タロス・ザ・クロスギガス》の巨大ハンマーに潰された。

ササマルが潰されたことに誰もが呆然とする中、《タロス・ザ・クロスギガス》がハンマーを持ち上げると、そこにいたのは、うつ伏せに倒れているササマルだった。

そして、数秒経たずして、ササマルの体はポリゴン状に四散した。

 

「ササマル!」

 

「チキショー!」

 

ササマルの死に、悔しがる黒猫団の面々。

 

「足を止めるな!止まったら死ぬぞ!」

 

そんな彼らに向かってキリトが叫ぶ。今は悲しんでいる暇はない。

黒猫団の面々は気持ちを切り替えて、再び《タロス・ザ・クロスギガス》と対峙する。

その後、ひたすらに攻撃し続け、《タロス・ザ・クロスギガス》のHPは半分になった。

 

「よし!このまま行けば・・・」

 

順調に事が進み、徐々に顔色が良くなっていくキリト。

だが、いくら昔のボスと言えど、《タロス・ザ・クロスギガス》はフロアボス。簡単に倒せる相手ではない。

 

「うわぁ!?」

 

《タロス・ザ・クロスギガス》の鎖付き鉄球を防御したテツオだが、鉄球の威力が凄まじく、防御したと同時にテツオの体がぐらつき、不安定な状態になる。

その隙を逃さず、《タロス・ザ・クロスギガス》は巨大ハンマーをテツオ目掛けて振り下ろした。

 

「ぐわぁーーー!!」

 

防御が間に合わなかったテツオは、ハンマーをもろに食らい、そのままポリゴン状に四散した。

 

「テツオ!グハッ!?」

 

散りゆくテツオの姿に目を取られたダッカーの背後に鎖付き鉄球が襲い掛かり、咄嗟のことで回避が間に合わなかったダッカーは部屋の端まで吹き飛ばされる。

そして、彼もまたポリゴン状に四散してしまった。

 

「あぁ・・・あぁ・・・!」

 

今まで一緒に助け合ってきた仲間たちが次々と死んでいった。そんな残酷な現実にサチは恐怖で立ち尽くすしかなかった。

だが、無情にも《タロス・ザ・クロスギガス》は、動けないサチを恰好の的だと思い、巨大ハンマーを振り上げる。

 

「サチ!避けろ!避けてくれ!!」

 

キリトが必死になって叫ぶも、今のサチに聞こえてる気配はない。

そして、立ち尽くすサチ目掛けてハンマーが振り下ろされたその時だった。

 

『どうか君も、この世界に負けないでほしいんだ。どんなに辛くても、最後まで生きることを諦めないで』

 

「!?」

 

サチの脳内に、前にコノハが言っていた言葉が聞こえてきた。

その瞬間、止まっていたサチの体が自然と動き出した。

 

「ヤァーーー!」

 

《タロス・ザ・クロスギガス》のハンマーが床に激突する瞬間、サチは咄嗟に体を捻らしてハンマーを躱し、その隙をついて槍を《タロス・ザ・クロスギガス》目掛けて突いた。

強力な槍の一撃を食らって怯む《タロス・ザ・クロスギガス》をよそに、サチは再度槍を構え、《タロス・ザ・クロスギガス》を見据える。

 

「私は・・・諦めない!何がなんでも、生き残ってみせる!」

 

迫りくる《タロス・ザ・クロスギガス》猛攻に、彼女はただひたすらに戦い続け、そして・・・

 

 

 

 

場所は変わって、第二十層にある「紅の狼」のギルドホーム。

自然豊かなこの場所に建っている二階建ての一軒家は、リーダーであるトウガが気に入ったこともあり、「紅の狼」のギルドホームとして成り立っていた。

そんなギルドホームの中で、「紅の狼」の面々は、次の攻略の為の作戦会議をギルドホームの会議室で行っていた。

 

「前回のボス攻略で、タンクを務めるカズヤのHPの減りが予想以上に早かったこと。レイスの動きや短剣の動きにブレが生じて、コノハとのタイミングがづれたこと。これら二つのことから、二人の装備をそろそろ最新の装備に切り替える必要があると俺は考えている。そこで、今回は階層攻略をしないで、二人の新しい装備を作ることとそれの強化を優先したいと思っている。これに関して、何か質問や意見はあるか?」

 

一通り説明したトウガは、他のメンバーに質問は無いか聞き出した。

誰も手を挙げたりする様子はなく、異論は無いということでトウガは話を続ける。

 

「よし、それじゃあ、明日から装備を作るのに必要なコルや素材集めをするつもりだ。詳しい話は明日また説明するから、今日はゆっくり休んでくれ。フィールドに出るのは禁止だが、街で十分に羽を伸ばしてきても構わない。それと、ソウゴ。お前は夜になる前に皆の夕食を作っておいてくれないか?」

 

「分かってら。それが俺の仕事だからな」

 

そう言うと、ソウゴは会議室から出て、キッチンへ向かった。

 

「俺たちはちょっくら街に出て、買い物に行こうぜレイス」

 

「はいっす!楽しみっすね、新装備!」

 

カズヤとレイスも外に出る準備をするべく、会議室から出た。

トウガは一人動く様子のないコノハに話しかける。

 

「お前はどこか行かないのか?」

 

「うん、今日は雨降ってるし、特に買う物もないから」

 

「そうか・・・なら、皆を待っている間、二人で話をしないか?先にお茶の用意をしてくるよ」

 

「分かった。それじゃあ、リビングで待ってるから」

 

そう言うと、コノハはリビングに向かい、トウガもお茶を入れるべく、キッチンに向かった。

コノハはリビングにある椅子に座りながらトウガを待っていると、数分後にカップを二つ持ったトウガがやって来た。

 

「すまない、待たせてしまった」

 

「大丈夫だよ。少ししか待ってないし」

 

そんなやり取りをしながら、トウガは紅茶が入ったカップをコノハに渡し、自身のカップもテーブルに置くと、彼と向かい合わせになるように座った。

二人は紅茶を堪能しながら、会話をする。

 

「そう言えば、最近サチとの特訓はどうなんだ?」

 

「順調かな。ソウゴ君もなんだかんだ言って、丁寧に教えてくれるし」

 

「そうか・・・それにしても、意外だったな。彼女から強くしてほしいと頼まれた時に、お前が真っ先に手を上げた時は」

 

トウガの言葉に、少し恥ずかしそうにしながら「うん」と頷いたコノハは、意を決した顔で語り出す。

 

「僕ってほら、昔っから臆病で人見知りな性格だし、このデスゲームが始まった頃も、戦おうとしても戦えなくて、ずっと宿屋で震えてたじゃん。でも、トウガ君があの時戦う勇気じゃなくて、最後まで生きることを諦めないで、どんな困難にも立ち向かう勇気を僕にくれたから、僕は今もこうして戦うことができるんだ」

 

「俺は別に、そんなものあげたつもりは無いんだが・・・」

 

「トウガ君には無くても、僕にはあるんだよ。それで、初めてサチと出会った時、あの時の僕と思い重ねたんだ。だからかな、放っては置けないって思っちゃったのは」

 

コノハは紅茶を一口飲み、真剣な表情で語る。

 

「こんな臆病な僕でも、最前線で戦うことができたんだ。だから、彼女にも伝えたいんだ。例え戦えなくなっても、最後まで生きることを諦めないこと。現実に立ち向かい続ける勇気を持ってほしい・・・そんな勇気を彼女に分けてあげたい・・・!」

 

「そうか・・・まっ、死なない程度に頑張れよ」

 

「うん」

 

トウガの言葉に頷きながら、紅茶をもう一口飲もうとしたその時

 

バン!

 

突如、玄関のドアが勢いよく開かれた音が聞こえ、顔を見合わせた二人は席を立って、リビングを出た。

途中でエプロンを着たソウゴと合流し、三人で玄関に向かっていると、「な、なんだ!?」「あ、あなたは!?」とカズヤとレイスの声が聞こえてきた。

聞こえてきた二人の声を気にしつつも、三人は玄関に辿り着いた。

 

「!? 君は・・・サチか!?」

 

玄関にいた知っている人物に、トウガが驚きの声を上げる。他の二人も、コノハは目を見開きながら驚いており、ソウゴは顔に出さなかったが、何故?と疑問符を浮かべていた。

玄関にいたのは、外の雨によって髪もずぶ濡れになっているサチだった。

サチの突然の来訪。しかも、ずぶ濡れになったり、「はぁ・・・はぁ・・・」と呼吸を整えていることから、ただ事ではない雰囲気を感じる中、サチはこちらを見つめているコノハを見つけると、彼の体に抱きついてきた。

 

「ちょ、え!?」

 

突然のサチの行動に、コノハ達が戸惑っていると、サチは大量の涙を流している顔を上げて叫んだ。

 

「死んじゃった・・・黒猫団の皆が死んじゃった!」

 

『!?』

 

サチから告げられた言葉に、コノハ達は驚愕の表情で絶句した。

 

 

 

 

サチの話によると、ケイタを除く「月夜の黒猫団」の面々はマイホームに置く家具等の資金を貯める為に、二十七層の迷宮区を攻略していた。

しかし、攻略の最中ボス部屋に入った途端に、なんと二十七層のフロアボス《タロス・ザ・クロスギガス》が再リポップしたのだ。キリト達は必死に応戦したが、黒猫団の面々はキリトとサチの二人を残して全滅してしまった。

生き残ったキリトとサチは失意にくれたまま、マイホームを買って、戻ってきたケイタに事の全てを伝えた。

ケイタはただ呆然と聞いていたが、やがてアインクラッドの中を囲む柵の上に上がると、キリトの方を向いて一言。

 

『ビーターのお前が、僕たちと関わる資格なんてなかったんだ!』

 

そう言い残し、二人が止める暇もなく、彼は浮遊城の外へ身を投げ出した・・・

 

「馬鹿野郎・・・!仲間を一人残して死ぬギルドリーダーがどこにいるんだ・・・!」

 

一通り説明を聞き、サチを二階にある空き部屋で眠らせた後、トウガはギルドメンバーの残して一人自殺したケイタに怒りを感じていた。

現在、「紅の狼」の面々は一階のリビングで五人用のテーブルを囲いながら話し合っていた。

 

「それで、これからあいつをどうするんだ?」

 

「え?俺たちの所に置いておくんじゃないんすか?」

 

ソウゴの言葉に、サチをギルドに置いておくつもりだったレイスが首を傾げた。

ソウゴは真剣な表情でトウガ達に向かって喋る。

 

「俺らは最前線で戦う攻略組の一員だ。強くなるために、日々レベリングに励んだり、攻略に必要な資金を集める中で、戦えないプレイヤー一人の世話なんて到底できねぇだろ。言っちゃ悪いが、戦える奴ならまだしも、戦えない奴は、俺らにとって邪魔でしかならないな」

 

「そうだな・・・ソウゴの言うことも一理ある。だが・・・ギルドメンバーを失い、心に傷を負った彼女をあのままにしておくわけにはいかないし、どうしたものか・・・」

 

サチの今後についてトウガが頭を悩ませていると、彼に声を掛ける者がいた。

 

「あの・・・僕に考えがあるんだけどいいかな?」

 

そう言って、おずおずと手を上げたのはコノハだった。

 

「何かいい考えがあるのか?」

 

「うん、明日彼女をあそこに連れていこうと思うんだ」

 

コノハから発せられた'あそこ'にトウガは頭を悩ませていたが、納得した顔でコノハに向けて言った。

 

「分かった。この件はお前に任せる。それでいいか?」

 

「うん、ありがとう」

 

サチの事を任せたトウガに、コノハは礼を言った。

仲間を失い、心に傷を負った彼女に、コノハは何をするのだろうか。




・復活の《タロス・ザ・クロスギガス》
ここら辺はSAOIFの要素を持っていきました。正直、共通ルートで一度二十七層に来た(しかも、似たようなトラップに引っかかった)黒猫団があのトラップに引っかかるとは思えないし、引っかかっても、原作より少しパワーアップしてる彼らでは、原作のトラップ程度ではピンチにならないので。

・ケイタ死亡
仲間を大半失った彼は、結局その悲しみに耐えられませんでした。

・あそこ
ヒント:'あそこ'にはコノハとサチの他にレイスも行く予定です。


ということで、以上が黒猫団の結末です。
大抵のSAO二次創作では、黒猫団のピンチにオリキャラが介入してサチや他の黒猫団の面々を救う展開が多いですが、この小説ではサチが周りより強くなりすぎた故に、サチ以外の全員が死亡という結果となりました(コノハの介入を期待してた皆さん、申し訳ございません)。強すぎるっていうのも辛いものですね。
次回はサチのケア回となります。心に傷を負ったサチにコノハは何をするのでしょうか?お楽しみに。

P.S. 現在、一話から順に読み返しながら、一部修正していますので、少し時間が掛かりますが、気長に待っていただければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。