ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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ep.39 狼の怒り

翌日、ザント達は四十七層の街《フローリア》へ訪れていた。

別名フラワーガーデンとも言われているこの場所は、円形の広場を中心に、たくさんの花々が咲き誇っている。

 

「わぁー!夢の国みたい」

 

「そうっすね。花がたくさん咲いていて、とても綺麗な場所っす」

 

シリカとレイスはしゃがみながら辺り一面に咲き誇る花々に見惚れる。

そんな二人を遠目で見ながら、ザントは辺りを見渡す。

フィールドにいるプレイヤーの内、ほとんどが男女の二人組。手を繋いだり、腕を組んで談笑したりなど、完全にカップル(リア充)の溜まり場だった。当然、自身の正面にいるレイス、シリカのちびっ子コンビもそれに該当するだろう。

 

「・・・・・・」

 

普段からこういった恋愛事には、あまり関心の無いザントだが、こうも数多くのカップル(リア充)に囲まれると、流石に居心地が悪い。

やはり、自分にはこういう綺麗な場所よりも、強敵が数多く潜んでいるダンジョンの方がお似合いだ。

そんなことを思いながら、さっさとこの場から離れるべくザントは未だ花々を見つめている二人に声を掛けて、《思い出の丘》へと向かう。

広場を出て、街の南門をくぐると、ザントが二人に《転移結晶》を渡した。

 

「持っとけ。テメェらの実力なら、ここのエネミーは問題ねぇかもしれねぇが、万が一のことがある」

 

二人は多少戸惑ったが、《転移結晶》を受け取った。

それを確認すると、ザント達は《フローリア》を出発して、《思い出の丘》へと向かった。

 

 

 

 

《思い出の丘》に向かう途中で、何回か戦闘があったが、三人は何とか《思い出の丘》に辿り着くことができた。

 

「ここに蘇生の花が・・・?」

 

「あぁ。あの白い岩に近づいたら、《プネウマの花》って名前の花が生えてくるはずだ」

 

シリカはザントが指差した白い岩に向かって走り出すと、彼の言った通り《プネウマの花》が岩から生えた。

 

「これでピナが・・・」

 

「良かったっすね。シリカちゃん」

 

「うん!」

 

《プネウマの花》を手に取ったシリカは、レイスの言葉に嬉しそうな顔で頷いた。

その様子を微笑しながら眺めていたザントが、シリカに話しかける。

 

「後はこいつの中に溜まってる雫を羽に掛けりゃ蘇生できるが、ここは厄介なエネミーも多いからな。生き返らせるなら、街に戻ってからにしとけ」

 

「はい」

 

シリカは手に持った《プネウマの花》の花を見つめると、ザントとレイスに頭を下げた。

 

「ありがとう、レイス君!ピナを助けるのを手伝ってくれて。ザントさんも、ありがとうございました!」

 

「礼なら生き返らせてから言え。まだ終わったわけじゃねぇんだ」

 

「はい!」

 

無愛想に言うザントに、シリカは特に気を落とすことなく笑顔で返した。

 

 

 

 

帰り道では、ほとんどエネミーと出くわすことはなく、ザント達は順調に進んでいった。

だが、石橋を半分程渡った所で、ザントはレイスとシリカの前に手を出し、二人を庇うかのように前に出た。

 

「・・・出てこいよウジ虫共。昨日の盗み聞きといい、コソコソ隠れるのが好きみてぇだな」

 

そう言いながら、ザントは対岸にある木々を睨みつける。

すると、木々の影から武器を持った複数の人物が現れた。その内の一人は三人にとって見たことのある顔だった。

 

「ろ、ロザリアさん!なんで、ここに!?」

 

「あたしの<隠密(ハイディング)>を見破るなんて、随分高い<索敵>スキルを持ってるのね、灰色の剣士さん。まっ、それはいいわ。その様子じゃ、無事《プネウマの花》を入手できたみたいね。おめでとう・・・それじゃあ、その花を渡してちょうだい?」

 

ロザリアの言葉に一瞬理解が追いつかなかったシリカだが、すぐさま言葉を返した。

 

「な、何言ってるんですか!?」

 

「そうはいかねぇな。オレンジギルド、タイタンズハンドのリーダーさんよぉ」

 

「え!?じゃあ、この人が!?」

 

「・・・へぇー、まさかそこまで見抜いてたなんて・・・」

 

遮るように言ってきたザントの言葉にレイスは驚き、ロザリアは少し目を細めながら感心した様子で喋った。

一方、予想外の言葉が出されたシリカは、未だ理解が追いついておらず、不安気な顔でザントに問いかける。

 

「でも、ロザリアさんのカーソルはグリーンじゃ?」

 

「簡単なトリックだ。グリーンが獲物を見つけて、オレンジが待ち伏せているポイントまで誘導する。オレンジは常に警戒されるし、そもそも圏内に入れねぇからな」

 

「じゃあ、この二週間一緒のパーティーにいたのは・・・」

 

「そうよ。戦力を確認して、冒険でお金が溜まるのを待ってたの」

 

そう言いながら、舌なめずりするロザリアを見て、シリカは恐怖を感じた。

 

「一番楽しみな獲物だったあんたが抜けて残念だったけど、レアアイテムを取りに行くって言うじゃない。でも、そこまで分かっててその子に付き合うなんて、あんた達って馬鹿ぁ?それとも、本当に誑し込まれたってわけぇ?」

 

「なわけあるか。寧ろこっちがこいつを誑し込んでやったんだよ。俺の目的の為にな」

 

「何?」

 

ザントの言葉が予想外だったのか、ロザリアは目を丸くした。

 

「俺らはテメェを探してたんだよ。テメェ、10日前に三十八層でシルバーフラグスってギルドを襲ったよな。リーダー以外の4人が殺されたが・・・覚えてるか?」

 

「あぁ、あの貧乏な連中ね」

 

ザントの言葉を聞いて、ロザリアは思い出した様子で頷いた。

 

「リーダーだった野郎は、朝から晩まで最前線の転移門の広場で、泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたんだよ。けどな、あいつはテメェらを殺すんじゃなく、牢獄に入れてくれって言ったんだぜ。本当は殺したい程憎いだろうに、その憎しみの感情を押さえてまで、あいつは殺して償わせる道じゃなく、生かして償わせる道を選んだんだ。そんな馬鹿なお人好しの気持ちがテメェに分かるか?」

 

「分かんないわよ。マジになっちゃってバカみたい。ここで人を殺したところで、本当にそいつが死ぬ証拠なんてないじゃない」

 

「・・・そうだな。俺も弱者の気持ちなんざ分からねぇ」

 

再び発せられた予想外の言葉に、またもやロザリアは目を丸くする。

 

「俺がそいつを見た時、スッゲーだせぇって思ったぜ。いい大人が鼻水たらしながら街のど真ん中で頭下げてんだ。みっともないったらありゃしねぇ」

 

「けどな」と言いながら、ザントは怒りが含まれた鋭い視線をロザリアにぶつけた。

 

「少なくとも、テメェらみてぇな他人から何もかも奪おうとするカス共よりかは何万倍もマシだ!だから、あいつの代わりに俺がケジメを付けてやるよ」

 

そう言いながら、ザントは一歩前に出た。

一人で相手するつもりだと察したレイスとシリカは、慌ててザントに声を掛ける。

 

「ザントさん!」

 

「一人じゃ危ないっすよ!」

 

「心配すんな。こんな雑魚共、武器が無かろうが倒せらぁ」

 

心配する二人をよそに、ザントは堂々と歩み寄る。

すると、ザントという名を聞いた「タイタンズハンド」の一人が目を見開き、慌てた様子で口を開いた。

 

「マズいっすよロザリアさん!あの灰色の髪に鋭い目!何より背中に背負っている大太刀!あいつ、《狂狼》だ!攻略組で最も危険なプレイヤーって言われている最強のソロプレイヤーだ!」

 

男の言葉に周りのプレイヤー達も慌て出す。

ロザリアも一瞬焦りを見せたが、強気になって言った。

 

「攻略組がこんな所にいるわけないじゃない!ほらっ!とっとと始末して、身ぐるみ剥いじゃいな!」

 

ロザリアの言葉によって、男たちは勢いを取り戻し、一斉にザントに襲い掛かった。

それに対して、ザントはというと・・・特に反撃する様子はなく、黙々と攻撃を受けていた。

 

「(た、助けなきゃ・・・!)」

 

怖い気持ちを押し殺しながらも、シリカはザントを助けようと腰にある短剣に手を掛けたが

 

「待ってシリカちゃん!」

 

「え?」

 

肩をレイスに掴まれ、顔をレイスの方に向けると、彼は驚いた顔で視線をザントの方に向いていた。

レイスに釣られて、シリカも視線をザントの方に向けると、衝撃の光景に目を見開いた。

今も尚斬られ続けているザントのHPは、全くと言っていい程減っていなかった。いや、減ってはいるが、数秒経つと、凄まじい量で回復していき、あっという間に満タンの状態に戻ってしまうのだ。

「タイタンズハンド」の面々も、この異常に気づき、息切れしながら戸惑いの顔を浮かべていた。

 

「あんたら何やってんだ!?さっさと殺しな!」

 

目の前にいる男を中々殺せないことに、ロザリアが苛立ち混じりの声で叫ぶが、ザントはそれを無視しながら解説する。

 

「10秒辺り400・・・それがテメェら雑魚共が俺に与えることのできるダメージだ。そして、 俺の<バトルヒーリング>による自動回復が10秒で800だ。つまり、テメェらがいくら俺に攻撃しようが、俺のHPがゼロになることは一生ねぇんだよ!」

 

「そ、そんなのありかよ・・・!」

 

「残念だったな。たかが1と2のレベルの違いだけでも、差ってモンは有り得ないくらい付いちまうんだ。まぁ、ひたすら格下の相手から奪ってきたテメェらには、一生分からねぇだろうがな」

 

そう言いながら、ザントはストレージから《回廊結晶》を取り出すと、その場で使用して、《黒鉄宮》行きのゲートを出現させた。

 

「こいつは俺たちに依頼した奴が全財産を使って買った《回廊結晶》だ。《黒鉄宮》の監獄エリアの出口に設定してある。テメェら全員、これでブタ箱まで飛んでもらおうじゃねぇか。無駄な抵抗は止めときな。俺とテメェらとの力の差は、さっきので十分理解しただろ?」

 

「くっ!グリーンのあたしを傷つければ、あんたがオレンジに――」

 

ロザリアがそう言った直後、ザントは猛スピードでロザリアに接近し、彼女の首を掴んで、そのまま上に上げた。

 

「あぐっ!」

 

「言っとくが、俺はソロだ。一日二日オレンジになろうが、どうってことねぇんだよ」

 

そう言っているザントの目は、激しい怒りに満ちていて、普段の人を嘲笑うような様子は一切無かった。

 

「お前さっき言ったよな?ここで死のうが、現実で本当に死ぬかどうか分からないって。だったら、テメェが死んで確かめてみろよ。ここで死ねば、次に目覚めるのはベットの上か閻魔の目の前かなぁ!」

 

そう言いながら、ザントが首を絞めている手の力を強くする。

徐々に減っていくHPバーが目に映ったロザリアは、今まで感じたことのなかった死の恐怖が頭によぎり、涙目になりながら懇願する。

 

「わ、分かった!分かったから、命だけは!」

 

「命だけは?・・・お前はそうやって命乞いをしてきた弱者を今まで何人殺してきた?自分よりも弱い人間からどれだけ奪ってきた?言ってみろよあ"ぁ!!」

 

既に自分のカーソルがグリーンからオレンジになっていることを気にともせず、彼は憤怒の表情で言葉を続けていく。

 

「お前ら弱者はいつだってそうだ。常に薄汚ねぇ手で強者にへばり込んで、そいつが弱くなったら、色んなモンを奪っていく・・・ふざけんな・・・!奪われた人間の痛みも知らねぇ奴が、命がどうとかほざいてんじゃねぇ!!」

 

首を締める手の力を強めながら吠えるザント。その顔には、怒りの他に、憎しみ、嫌悪などの不の感情が含まれていた。

やがてロザリアのHPがレッドに達し、その命を散らしかたその時

 

「・・・チッ」

 

ザントは舌打ちしながら《回廊結晶》を使用し、ゲートが開くと、そこにロザリアを放り投げた。

しばらくゲートを睨みつけていたザントだったが、その光景を呆然と見てたロザリアの手下たちに目を向けると、低い声で言った。

 

「・・・何してんだ?さっさと行きやがれ」

 

『ひ、ヒイイイイイ!!』

 

ザントの鋭い眼光に恐怖した手下たちは、その場から逃げるように次々とゲートの中へ入っていった。

やがて時間が経ち、ゲートが消えたのを確認したザントは、顔を二人の方に向けた。

 

「・・・俺が怖いか?」

 

「「・・・・・・」」

 

真剣な表情で言うザントに、何も言えずにいる二人。

怖くないって言えば嘘になる。ついさっきまで、目の前で人が殺されそうになったのだから。しかも、それを行ったのが、自分を助けてくれた人なのだから。

そして、レイスも同じ気持ちだった。ザントがプレイヤーに攻撃することは今回に限った話ではない。彼はよく攻略組のプレイヤー(不正な行いをしている者のみだが)を罵倒(或いは正論混じりの言葉)し、それに逆上して襲い掛かってきたプレイヤーに容赦なく刃を振るうことがある。それでも、相手を殺したりするようなことはせず、寧ろ殺さないよう加減するくらいだ。しかし、先程のザントは、明らかに殺す気で首を絞めており、その顔には激しい怒りや憎悪を感じた。自分の知らないザントの怖い部分を見せられたレイスは、何て言えばいいのか分からなかった。

何も言えずにいる二人に向かって、ザントは微笑しながら口を開いた。

 

「まっ、こんな悪党を前に怖くないって言う方が無理あるだろうな。今回の事だって、俺は連中をブタ箱に送るために、お前を利用したからな」

 

そう言いながら、ザントは後ろに振り向いた。

 

「どの道、俺はしばらくの間圏内には入れねぇし、後はお前ら二人で圏内に戻れ。来た道にこれといった手強いモンスターはいなかったし、余程ヘマしなけりゃ何とかなるだろ。じゃあな・・・」

 

「ザントさん!」

 

この場から去ろうとしたザントをシリカが大声で呼び止めた。

シリカの制止で足を止めたザントの背中に向かって、シリカは大声で喋った。

 

「あたし、信じてますから!ザントさんはあたしを助けてくれたって!ピナもきっと、あなたを信じてる!」

 

「・・・そうか」

 

そう呟くと、ザントは今度こそ去っていった。

シリカはザントが去っていった方向を真剣な表情で見つめる。

そんなシリカに向かって、レイスは彼が決して悪い人ではないことを必死に伝えようとする。

 

「あのー、シリカちゃん。ザントさんは・・・」

 

「分かってる。あの人は不器用だけど、誰かの為に怒れて、誰かを思いやることのできる優しい人。私はそう信じてるから」

 

そう言いながら、シリカはありがとう、と心の中でザントに感謝の気持ちを伝えた。

 

 

 

 

《フローリア》の街に戻った二人は、街の宿屋で話していた。

 

「レイス君はこれからどうするの?」

 

「そっすねー・・・まずはギルドホームに帰るっす。五日も戻ってなかったから、皆心配してると思うし。その後は、また最前線に戻ると思うっすよ」

 

「そう、なんだ・・・そうだよね。レイス君たちは攻略組で、常に最前線で戦っているんだし・・・あのね、レイス君。私・・・」

 

私も一緒に連れていって。シリカは目の前にいる少年にそう伝えたかったが、上手く口にすることができなかった。

今回の冒険で、シリカは思い知らされた。SAOというゲームの不条理さ、それによって歪んでしまった者達。そして、レイスやザントなどの最前線で戦う人間が、自分の知らない所でたくさんの苦難と戦っていることを。

そこに、自分が入れる隙なんて無い。自分みたいな弱い人間じゃ、また彼らに迷惑をかけてしまうかもしれない。

様々な感情がごちゃ混ぜになり、目元に涙が浮かんだその時、シリカの気持ちを察したレイスが、シリカの肩にポンッと手を置き、優しく微笑みながら口を開いた。

 

「そう気負う必要はないっすよ。例え離れていても、心はいつだって繋がっているっす。それに、友達にレベルの差なんて関係ないっす。もし、また困ったことが起きたら、いつでも呼ぶっす。俺は絶対にシリカちゃんの下に駆けつけるっす」

 

「レイス君・・・ありがとう。とっても嬉しい」

 

シリカは目元に浮かんでいた涙を拭うと、とびっきりの笑顔をレイスに見せた。

 

「さて、そろそろピナを生き返らせるっす。ピナもきっと、早く元の体に戻って、自由に飛びたいって思ってるかもしれないっすから」

 

「うん!」

 

シリカはピナを生き返らせるべく、《プネウマの花》から流れた一滴の雫を羽根に垂らした。

そして、無事生き返ったら、たった二日の間だったけど、一生忘れることのない思い出になったこの話を聞かせてあげようと思った。

この世界で出会えた大切な友達と不器用だけど誰かを思いやることができるお兄さんの話を。




以上でキリト不在のシリカ編でした。なんか、レイスよりもザントが活躍してた気がするが・・・まぁ、いいか!ここは一つ、レイスはシリカと年が近いし、心身ともにまだまだ未熟だったってことで大目に見てやってください。
さて、サチ、シリカと来たら次は当然リズベットです。ソウゴは勿論、キリトも登場するのでお楽しみに。
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