ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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最近忙しくて執筆の時間が取れん・・・
今回はリズベットの話ですが、時系列は心の温度より少し後の話になっています。


ep.40 その温もりは偽物か否か

これは、とある鍛冶師の少女と《黒の剣士》との出会いから少し後の物語である。

アインクラッド第四十八層に自分の店を持つ少女リズベットは、店の工房で作業に没頭してた。

SAOが始まって間もない頃に<鍛冶>スキルを取得したリズベットは、それ以来<鍛冶>スキルを鍛え続けていき、遂には自分の店、《リズベット武具店》の看板を掲げるまでに至った。

初めは女の鍛冶師(スミス)と言うこともあって、中々客が来なかったが、この世界で友達になった「血盟騎士団」副団長の尽力もあり、最近は客も増えて、店の売上も上がった。

リズベットにとって<鍛冶>スキルというものは、もはや無くてはならない存在となっていた。

工房で依頼者の武器を作っていたリズベットだったが、突然鳴り響いた来客用の鐘の音を耳にし、作業していた手を止める。

リズベットは作業を一旦中断し、鏡の前に立って身なりを整えると、来店したと思われる客を迎えるべく、工房を出る。

 

「よっ、久しぶりだな」

 

「あ、あんたは・・・!」

 

工房を出た自身を出迎えてくれた赤髪(・・)の少年にリズベットは驚く。

装備や髪の色は以前に会った時と変わっているが、そこにいるのは、紛れもなく彼女の専属スミスの一人である少年、ソウゴであった。

二十七層での出来事以来、中々会う機会がなく、久しぶりに再会した少年にリズベットは一瞬驚いたが、すぐさま平静を取り繕って、彼に話しかける。

 

「珍しいじゃない。最近、ここに顔を出してなかったのに」

 

「最近は攻略等で忙しくてな。それに、うちは少数ギルドだからな。効率の良いレベル上げやら資金の調達やらで、五人平等になるよう色々頭使いながら動かないといけねぇから大変なんだよ」

 

「そう・・・まっ、元気そうで何よりだわ」

 

ぶっきらぼうに言うリズベットだが、内心ではいつも通りのソウゴの姿にホッとしていた。

その感情を隠しながら、リズベットは来訪の目的を問う。

 

「それで、今日はどういう目的で来たの?まぁ、あんたの事だから、また新しい刀を作ってくれとかだと思うけど・・・」

 

「察しがいいな。そろそろ刀を新調しようと思ってな。俺が知ってる中で、最高の刀を作れるスミスはお前だけだからな」

 

「そ、そう、ありがと・・・それで、素材はどれにするの?」

 

照れくさそうにしながらも、リズベットは武器を作る素材についてソウゴに問い掛ける。

ソウゴはストレージからいくつかの素材を取り出し、リズベットに見せた。

 

「そうね・・・この素材だけだと、あまりいいものは作れないかな。作ったとしても、今攻略してる層から三層くらい上がった所で壊れると思うわ」

 

「なるほどな。なら、何処かいい素材が取れる場所はねぇのか?」

 

「それだったら、五十五層にある《竜地の雪山》にレアな鉱石やインゴットがいくつかあるから、案内してあげるわ」

 

「お前も行くのか?」

 

「勿論よ。こんな宝の山みたいな場所、何度来たって飽きないわ。それに、五十五層は前にも行ったことあるし、その時にマッピングも済ませてあるから、心配しなくても大丈夫よ」

 

「別に心配してるわけじゃねぇが・・・まっ、戦略は多いに越したことはねぇか」

 

渋々と言った様子だが、ソウゴはリズベットと一緒に行くことを決めた。

 

 

 

 

翌日、二人は五十五層の《竜地の雪山》へやって来た。

二人は上にコートを羽織り、岩陰などに隠れ潜んでいるモンスターに注意しながら雪原を歩いていると、リズベットが口を開く。

 

「ここに来ると、あいつとの出来事を思い出すわ」

 

「あいつ?」

 

「確か、キリトだったかしら?この間、あたしの店にやって来たんだけど、売り物の剣を壊すわ、あいつの武器を作るのに必要なインゴットを取りにここへ来たはいいんだけど、その後でっかいドラゴンに襲われた挙句、ドラゴンの巣穴に落ちて、そこで一夜過ごされるわで、大変だったのよ」

 

「そりゃ、災難だったな」

 

「それと、あいつの武器を作った後に、アスナが店に来たんだけど、ちょっといい感じの雰囲気だったわあいつら」

 

「それは分かる」

 

リズベットの言葉にうんうんと頷くソウゴ。最近はあまり二人でいるのを見かけないが、この二人が一緒に歩いているのを見ると、お似合いの二人だと思うことが度々ある。

そんなことを思いながら歩いていると、リズベットが向かっていた目的の場所へ着いた。

 

「ここよ。あたしが探していたインゴットが取れる場所は」

 

辿り着いたのは、大量の水晶があちこちに置かれているエリアだった。地面のほとんどが水晶に埋め尽くされて、まともな道が少ない。

そんな印象を抱きながらも、ソウゴは進んでいくと、巨大な穴が見えた。

 

「その縦穴の中にインゴットを生成するドラゴンがいるはずよ。そのドラゴンは夜行性で、今は昼間だから大丈夫だと思うけど・・・」

 

「ご丁寧な説明どうも。ところで・・・なんで水晶の陰に隠れてんだ?」

 

「万が一ドラゴンが起きても、襲われないように、あたしはこの水晶の陰に隠れてるから」

 

「サラッと人を囮にするとはぁ良い根性してんなお前」

 

「適切な防衛策と言いなさい。それに・・・前に来た時は、キリトに隠れてろって言われてたのに、あたしが不用意に出て来たせいで、大変な目にあったから・・・」

 

少し沈んだ顔で語るリズベットを見て、ソウゴはこれ以上何も言わず、穴に近づいていく。

 

「この縦穴の下を覗いてみて。そこにドラゴンが眠っているはずよ」

 

リズベットに言われて、ソウゴは穴の中を覗き込んだ。

穴は深さ五十メートル程あり、僅かに見える穴底には雪が降り積もっていた。

しかし、リズベットが言っていたドラゴンの姿は見つからなかった。

 

「おい、インゴットどころかドラゴンすら見当たらねぇぞ」

 

「そんな!前に来たときは、朝になったらここに戻ってきたのに!」

 

慌てた様子でリズベットも穴の中を覗き込む。

しかし、穴の中は変わらず、前に見たあの迫力のあるドラゴンの姿は見当たらなかった。

 

「おかしいわね。いったいどうなっているのよ・・・?」

 

「・・・ん?なんだあの足跡?」

 

困惑するリズベットの横で、ソウゴは辺りを見渡していると、人間のものとは思えないくらいの巨大な足跡を見つけた。

その巨大な足跡は、穴の近くから奥の方にまで続いていた。

正体不明の足跡に警戒する二人だが、他に手掛かりはないため、ひとまずその巨大な足跡を追うことにした。

その足跡を追っていると、二人の視界に洞窟が映った。足跡は洞窟の方まで続いている。

その時、洞窟の入口で誰かが倒れているのを見つけ、二人はすぐさま倒れている人物の方に駆けつける。

その人物は男性で、頭上に?マークが付いていることから、クエストNPCだと瞬時に理解したソウゴは、ひとまず男の安否を確かめるべく、体を揺すりながら声を掛ける。

 

「おい、あんた!しっかりしろ!すぐに回復を――」

 

「無駄だ。私はもう助からない。それよりも私の頼みを聞いてくれ・・・」

 

弱々しい様子で男は喋る。数日前、ここら辺に怪物が現れ、そいつはドラゴンの巣穴から卵を持ち去ってしまった。そのせいで、ドラゴンは怒り狂い、各地で暴れ回っている。

このままでは人里にも被害が出ると恐れた村の人々は、村の守備隊を派遣し、怪物から卵を取り返そうとした。しかし、怪物は想像以上に強くて、男以外の者達は皆怪物にやられてしまった。男は命からがら逃げ出して今に至ると言う。

一通り説明を終えた直後、ソウゴの目の前に『クエストを受諾しますか? Yes/No』と書かれたウィンドウが現れた。

 

「もしかして・・・この人はクエストNPC?」

 

「らしいな。見ろ、こいつの頭上に?マークが浮かんでいやがる。んで、どうする?」

 

「・・・受けましょう。ドラゴンが絡んでいるとしたら、このクエストをクリアしないと、目的のインゴットは取れないかもしれないし」

 

リズベットの言葉に頷くと、ソウゴはYesのボタンを押した。

直後、男は事切れて、そのままポリゴン状に四散した。

 

「・・・行きましょう。足跡は奥にも続いているわ」

 

「だな・・・」

 

男を救えなかしばらく進んでった悔しさを押し殺しながら、先に進むソウゴとリズベット。

足跡は洞窟の奥にも続いており、二人は警戒しながら洞窟へ入る。

そこから更に進むと、ソウゴの視界に怪物の姿が映った。

 

「あれが怪物か。ただのデカゴリラじゃねぇか」

 

そう呟きながら怪物を見つめていると、怪物はこちらに気づき、襲い掛かってきた。

ソウゴは特に焦ることなく、怪物のパンチを横に避けると、そこから腹に一太刀浴びせた。

 

「図体だけだな。これなら楽勝に下ろせる」

 

その言葉通り、ソウゴは苦戦することなく刀で怪物の体を斬り刻んでいった。

やがて怪物のHPはゼロになり、怪物はドサッと地面に倒れると、ポリゴン状に四散した。

ソウゴは刀を鞘にしまい、リズベットの下に戻ると、彼女の両手には白い卵が持ち上げられていた。

 

「卵、こっちで見つけておいたわ」

 

「OK、これで後は巣穴に持ってくだけだな」

 

任務完了と言わんばかりの様子で、ソウゴは洞窟から出ようとした。

しかし、洞窟の入口付近に近づいた所で、外の異変に気がついた。

 

ビュゥゥゥゥ

 

「あの音・・・まさか・・・!?」

 

「雪原のフィールドだ。当然と言やぁ当然かもしんねぇが・・・」

 

外から強い風の音が聞こえ、嫌な予感がするリズベットとソウゴ。

入口から外を見ると、案の定外は猛吹雪に見舞われて、視界が全く見えなかった。

 

「チッ、これじゃ先に進むのはムズイな」

 

「・・・仕方ないわね。ひとまず、吹雪が止むまでここでキャンプしましょう」

 

先に進めないと判断したリズベットの提案によって、二人は先程怪物がいた広い空間まで戻り、そこでキャンプすることにした。

ソウゴは行動開始と言わんばかりに、早速火を焚かせると、その上に三本の柱で支えられている鍋敷きと小さい鍋を置いた。

ストレージから携帯用のポットを取り出し、予め入れておいたお湯を鍋に注いで沸騰させる。同時に今度はコーンスープの素を取り出し、沸騰させているお湯の中に入れる。

しばらくすると、ソウゴは温められたスープを二つのカップに注ぎ、一つをリズベットに手渡した。

 

「飲め。寝る頃になれば更に冷えるだろうし、今のうちに体を温めておけよ」

 

「ありがとう・・・あったかい・・・」

 

コーンの甘味とスープの温もりが口内に広がり、体があったまるのを感じた。

スープを飲んだら、互いにベッドロールを取り出し、体を中に入れて横になった。

お互い一言も話さないまま時間が過ぎていると、ふとリズベットが口を開いた。

 

「・・・この間の夜もこんな感じだったわ。ドラゴンの巣穴に落ちて、こうして隣同士向かい合って、あいつと眠ったわ」

 

リズベットの声に反応したソウゴが寝ている体を動かして、リズベットの方に顔を向けると、彼女はこちらが向くことを予想していたのか、横向きになりながらソウゴに笑みを向けていた。

 

「あたしは、時々自分が分からなくなるの。SAOに来て、ここで毎日過ごしていくうちに、あたしの心の一部に乾きが生まれたの」

 

「乾き?」

 

「そう。決して濁せない心の乾き。あたしの本当の肉体は何処か別の所にあって、今仮想空間(ここ)にいるあたしは、幻だって感じてね。それでも、へっちゃらな顔で毎日を過ごしていたら・・・気づいたら、あたしの心は、あるべき温度を失っていたわ」

 

暗い顔で語るリズベットだったが、「でもね」と言いながら微笑んだ。

 

「あの日の夜に、あいつの手を握って感じた温もり。あれは本物だって思ったんだ。その時分かったの。現実も仮想空間も関係ない。例え、肉体が離れていても、あたしの心はいつだってここにあるんだって」

 

そう言いながら、微笑むリズベットだったが、再び暗い顔で語る。

 

「ただ一つだけ心残りがあるとしたら、あたしの求めている心の温度がまだ見つかっていないことね」

 

「・・・貪欲な女はモテねぇぞ」

 

「うっさい。あの日キリトから感じた温もりには、確かに心の温度は存在したわ。でも、ほんの少しだけ、あたしの求めているものとは違った気がしたの・・・」

 

「・・・・・・」

 

暗い顔で語るリズベットの言葉を黙って聞くソウゴ。

 

「ごめんなさい。こんな状況なのに、こんな自分勝手な話を聞かせちゃって。このクエストだって、元はと言えばあたしが引き受ける事を決めちゃって、あんたは巻き込まれただけなのに・・・」

 

「アホ、お前の意見を尊重して、クエストを受けたのは俺の意思だ。ハナから巻き込まれたなんて思っちゃいねぇよ。それに・・・こういう時だからこそ、思ってることは出しておけよ。後に溜め込んで、取り返しが付かなくなるよりマシだろ。俺程度でも、愚痴を聞く相手ぐらいにはなってやるよ」

 

「・・・あんたって、優しいね」

 

「優しい?俺がか?」

 

「そう。普段は無愛想な癖に、こういう時だけ気遣いが良いんだから・・・」

 

「俺は別にそういうつもりはねぇけど・・・まっ、リズベットがそう思うなら勝手に思ってな」

 

「コラそこ、また名前で呼んだわね。いい加減リズって呼びなさいよ」

 

「・・・そのうちな」

 

少し間を空けながら無愛想に答えるソウゴ。心なしか、少し照れくさそうにしてた気がした。

そんなソウゴに呆れ半分で微笑みながらも、リズベットは一つ彼にお願いする。

 

「ねぇ、手を握ってもいい?もしかしたら、あたしが求めている温もりが何なのか、今なら少し分かる気がするの」

 

「・・・好きにしろ」

 

無愛想ながらもソウゴから差し出された手を握るリズベット。

 

「・・・あったかいか?」

 

「えぇ・・・あったかいわ」

 

ソウゴの手から感じる温もりに、リズベットは中々手を離せずにいた。

しばらくの間握り続けていたリズベットだったが、長い時間握られて流石に気まずくなったのか、ソウゴが口を開いた。

 

「・・・そろそろ離せよ。流石に握られたままだと、気が散って寝れねぇ」

 

「そうするわ・・・おやすみ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

その言葉を最後に、二人は深い眠りにつくのであった。

焚き火はいつの間にか風によって消えており、微かに聞こえる吹雪の音が静寂な洞窟に響いていた。

 

 

 

 

翌日、二人はほぼ同時に起床すると、外の様子を確認した。

吹雪はもう収まっていて、これを好機と判断した二人は、キャンプの道具を片付け、卵がストレージに入っていることを確認してから洞窟の外に出た。

向かう場所は、昨日行ったドラゴンの巣穴。来た道は覚えていたため、道に迷うことなく、ドラゴンの巣穴へ辿り着いた。

 

「後は卵をドラゴンに返せば、それでこのクエストはクリアみたいよ」

 

「つまり、卵を巣に置けばいいのか?」

 

「多分ね。あたし長めのロープ持ってるから、これで下に降りましょう」

 

そう言って、リズベットがストレージから長めのロープを取り出そうとしたその時だった。

 

「っ!?・・・リズベット、ちょっと隠れてろ」

 

「ちょ、どうしたのよ?」

 

突然険しい顔をしながら隠れろと言うソウゴに、リズベットが顔を顰めながら理由を問う。

その答えは、直後に聞こえてきた叫び声によって明かされた。

 

「グヴォォォォ!!」

 

「この声って・・・ドラゴン!?」

 

「らしいな。っ!?上だ!」

 

上を見上げると、上空から白いドラゴンがこちらに向かって急接近していた。

ソウゴは腰にある刀を抜いて戦闘態勢に入り、リズベットは昨日のように水晶の陰に隠れる。

その直後、ドラゴンは地面に降り立ち、ソウゴの前に立った。

 

「どうやら、怒り狂ってるのは本当みてぇだな。目がマジだ」

 

ソウゴの言う通り、目の前にいるドラゴンの瞳から尋常な量の殺意が放っており、このまま放っておけば、周りのもの全てを破壊せんとする勢いだった。

その勢いのまま、ドラゴンは右手の鉤爪をソウゴに振るう。

ソウゴは上にジャンプして、鉤爪を躱すと、ドラゴンの右腕目掛けて刀を振るおうとする。

 

「グヴォォォォ!!」

 

「うっ!」

 

しかし、ドラゴンは翼を羽ばたかせて突風を起こし、ソウゴは突然の突風に成す術もなく飛ばされて、受け身を取りながら地面に激突する。

更にドラゴンは追撃をかけようと、立ち上がろうとしてるソウゴ目掛けてブレスを放った。

 

「!? ヤベっ――!」

 

咄嗟のブレス攻撃に回避は無理だと判断したソウゴは、刀を前に出して、少しでも防ごうとする。

そのおかげで、HPこそは減ったが、状態異常の<凍傷>にはならずに済んだ。

 

「チッ、これじゃまともに振れねぇな・・・!」

 

しかし、刀を握っていた両手はカチコチに凍っていた。両手は刀の持ち手ごと凍っていて、両手が固定された状態では、刀を振るう事は困難だろう。

 

「ちょっと!腕が凍ってるけど大丈夫なの!?」

 

「馬鹿野郎!まだ出てくんな!」

 

両手を凍らされたソウゴを心配し、リズベットが水晶の陰から出てきたが、それに対してソウゴが叫んだ。

すると、ドラゴンは姿を現したリズベットを見つけると、標的を彼女に変えたのか、彼女に向かって猛スピードで迫った。

 

「きゃーーーーーー!!」

 

「させるか!」

 

迫りくるドラゴンを見て、悲鳴を上げるリズベットだったが、直後何者かの声と共に剣の一閃がドラゴンの体に浴びせられ、ドラゴンを怯ませた。

恐怖のあまり目を瞑っていたリズベットは恐る恐る目を開ける。そこには、数日前に剣のオーダーメイドを依頼してきた黒衣の剣士、キリトがいた。

 

「ちょ、あんた!なんでここに!?」

 

「話は後だ!それより、今はドラゴンを――!」

 

キリトが言おうとした瞬間、ドラゴンはキリトに目掛けてブレスを放つ。

キリトは体を捻らせてブレスを躱した。直後、ドラゴンの懐に両手が凍ったままのソウゴが接近し、

 

「さっきの仕返しだ」

 

両手に持った刀で縦一文字にドラゴンを斬った。

ソウゴの攻撃を食らったドラゴンは、怯みながらも翼を広げて上空へ飛ぶと、スゥーと冷気を口内に溜め込んでいた。

それを見たソウゴとキリトは、ドラゴンの行動を察して、険しい顔をする。

 

「チッ、どうやら最大火力で一気に俺らを愉快な氷像にするつもりらしいな」

 

「マズいな。何とか奴を下に引きずり落とさないと。このままじゃ、倒せない」

 

ドラゴンはこちらの攻撃が届かない場所まで飛び、最大火力のブレスで一気にケリをつけようとしていた。

二人はブレスで狙い撃ちにされる前に何とか倒せないか策を練っていると、そこにリズベットが待ったを掛ける。

 

「いいえ、倒す必要はないわ。あんた達、悪いけど、一回だけでいいからあいつのブレスを防いでくれる」

 

「無茶言うな。まぁ、出来なくはないと思うけど・・・」

 

「俺はいいぜ。客からの注文(オーダー)だ。たかがトカゲ一匹の吐息、余裕で調理してやるよ」

 

リズベットからの注文(オーダー)に、困った顔をするキリトと、両手を固めていた氷が溶けて、刀を肩に担ぎながら豪快に笑みを浮かべるソウゴ。

丁度その時、ドラゴンの方も溜め込みが終わり、最大火力のブレスを放とうとしていた。

そんなドラゴンの目の前に、ソウゴとキリトが立った瞬間、ドラゴンは先程とは桁違いのブレスを二人に向けて放った。

 

「「ウォォォォォォ!!」」

 

それと同時に、二人はブレスに向かって跳んで、それぞれの武器のソードスキルを発動させて、正面からブレスを斬り裂いた。

そのタイミングに合わせて、リズベットがドラゴンの真下に立ち、持っていた卵を上に掲げる。

 

「この馬鹿ドラゴン!その目を開いてよく見なさい!あんたがあたし達と戦う理由なんて、もう一つも残ってないのよ!」

 

そう言いながら、リズベットは卵を雪上に置き、そのまま卵から離れた。

それを見ていた二人も、彼女の後に続き、卵から離れる。

 

「・・・・・・」

 

その光景を黙って見てたドラゴンは、雪上に置いた卵を足で掴むと、リズベット達を襲うことなく、巣穴の中へ戻っていった。

 

「・・・卵は無事ドラゴンの巣に戻った。クエストクリアだ」

 

「良かった。ドラゴンの卵が戻ったことだし、これでインゴットの供給が元通りになるはずだ」

 

「? どういうことよ?」

 

リズベットが何故キリトがここにいるのかを含めて事情を聞き出す。

キリトから五十五層に来ていた理由を聞くと、何でもここ最近、インゴットの供給率が低下しており、その原因が五十五層にあることをエギルから聞いたキリトは、その調査の為に五十五層へやって来た。

調査を進めていく内に、ここ最近インゴットを生成するドラゴンが卵を奪われたせいで暴走し、あちこちで暴れ回っていることを知った。

それを聞いたキリトは、前にリズベットと一夜を過ごしたドラゴンの巣穴に向かっていると、ドラゴンと戦っているソウゴとリズベットを見つけ、ドラゴンに襲われそうになっているリズベットを見た瞬間、反射的に彼女を助けて今に至る。

そして、ソウゴ達が受けたクエストがインゴットを生成するドラゴンの暴走を止める=生成するインゴットの供給率が戻ると結論付けると、彼はそのまま去っていった。

その後、ロープを使って巣穴に入ったソウゴは、寝ているドラゴンを起こさないよう慎重に行動しながら目的のインゴットを無事手に入れ、現在はリズベットと一緒に転移門に向かって歩いていた。

 

「それで・・・お前が求めていた心の温度は取り戻せたのか?」

 

「・・・正直に言うと、あの時キリト(あいつ)から感じた温もりは、あたしが求めていたものとは違ったわ。空虚だった心はあいつが埋めてくれたけど、あたしはどうも足りないって思ったの。でもね・・・」

 

リズベットはソウゴに笑みを向けながら言葉を続ける。

 

「その足りなかった温度は、あんたが埋めてくれた。おかげでやっと見つけることができたわ。あたしが求めていた心の温度を」

 

「そうかい。まっ、力になれたなら、それに越したことはねぇな。必要な素材は無事手に入れたことだし、後はお前に任せるわ。とっとと帰ろうぜ、リズベット」

 

「・・・名前」

 

ジト目で睨んできたリズベットに、ソウゴは一瞬たじろいでしまうが、観念したかのようにため息を吐くと、少し照れくさそうに顔を背けながら口を開いた。

 

「・・・これでいいかよ、リズ」

 

「!? えぇ!」

 

ぶっきらぼうな態度だったけど、初めてあだ名で呼んでくれたことに、リズベットは喜びでいっぱいの気持ちになった。少なくとも、あだ名で呼んでもらえて、ここまで嬉しい気持ちになったことなんて、今までなかった。

そこで彼女は気がついた。あの日の夜、ソウゴの温かさから感じた心の温度の正体に。

あぁ、あたしは、こいつの事が好きなんだと。

 

 

 

 

《リズベット武具店》に戻ったリズベットは、工房でソウゴの刀を作っていた。

 

「(あの時、ソウゴから感じた温かさ。あれは偽物なんかじゃなかった。あの温かさこそが、あたしが求めていた好きの気持ち(心の温度)だった。満足のいく刀を作れたら、この気持ちを告白しよう)」

 

胸の奥底に宿る想いを抱きながら、真剣な表情でハンマーを振り下ろしていく。

やがて、ハンマーを指定の回数叩き終えると、インゴットは光り輝いて、一本の刀に形を変えた。

藍鼠色の刀身が光り輝いており、刃は切れ味抜群と言えるくらい鋭かった。

 

「刀の名前は《雪柱(ゆばしら)》。私は聞いたことないし、情報屋の名鑑にも載ってないはずよ。試してみて」

 

そう言いながら、リズベットは《雪柱》をソウゴに渡す。

ソウゴは渡された刀を片手に持つと、二、三回程素振りし、刀の感覚を確かめる。

 

「・・・悪くない軽さだ。その上、手にも馴染む。最高の刀だ」

 

そう言って、ソウゴは満足そうに笑みを浮かべた。

ご満悦な様子のソウゴを見て、リズベットは安堵の表情になった。

 

「良かった。今、刀に合う鞘を探してくるから、外の方で待っててちょうだい」

 

「分かった」

 

リズベットに言われて、ソウゴは工房を出た。

しばらくすると、リズベットが工房から出てきて、その手には鞘に収められた《雪柱》が握られていた。

 

「さて、後は金を払うだけだな。いくらだ?」

 

「・・・お金はいらないわ。その代わり・・・」

 

《雪柱》をソウゴに渡したリズベットは、緊張しながらソウゴの前に立つ。

頬が熱を帯び、自分の体が緊張に支配されているような感覚を感じながらも、リズベットは意を決した表情で自分の想いを伝えた。

 

「これから毎日、あんたの武器をメンテナンスしに来るし、あんたが攻略に出かけたら、絶対に見送るし、帰って来たら必ずあんたの事を迎えるわ。だから・・・あたしと付き合ってください!!」

 

それは、一度失った温度を取り戻し、自分の求めていた心の温度をようやく見つけることができた少女の真っ直ぐな告白だった。

そんな彼女の告白に対して、ソウゴの返事はというと・・・

 

「おう、いいぞ」

 

「え・・・?」

 

あっさりと返事を出したソウゴに、思わず面を食らうリズベット。

 

「ほ、ホントに?本当に付き合ってくれるの?」

 

「あぁ、構わないぜ」

 

笑みを浮かべながらそう言われて、リズベットは喜びでいっぱいになった。想いを無事伝えることができ、更に想いを伝えた相手からokを貰えた。

自分は今、人生で一番の幸せにいる。そう思った瞬間、ソウゴが口を開いた。

 

「んで、いつ付き合えばいいんだ?・・・買い物に」

 

「・・・は?」

 

ソウゴから発せられた言葉に、リズベットは自分でもびっくりするくらいのマヌケな声を出した。

そんな彼女を見て、ソウゴは首を傾げる。

 

「何マヌケな顔してんだ?付き合うって言ったら、普通買い物に一緒に行くことだろうが」

 

「えっと・・・なんで、そう思ったのかしら・・・?」

 

「そりゃお前、よくトウガと話している時に・・・」

 

※以下回想

 

『ソウゴ、ちょっと俺と付き合ってくれ(買い物に)』

 

『おう、いいぜ』

 

「――ってやり取りをするが、別に普通だろうが」

 

「・・・・・・」

 

リズベットは無言になりながら、顔を少し俯かせて、拳をプルプルと震わせていた。

いつまでも喋る気配の無いリズベットを見て、様子がおかしいと思ったソウゴが声を掛ける。

 

「おい、どうした?なんか言えよ?」

 

「・・・ば」

 

「ば?」

 

「馬鹿ぁー-----!!」

 

「オワッ!?」

 

リズベットが突如、ハンマーをソウゴの顔に目掛けて振るい、ソウゴは驚きながらも回避に成功すると、いきなりハンマーを振るってきた彼女に嚙みつく。

 

「テメェ!いきなり何しやがるんだ!当たったら、顔が凹むだろうが!」

 

「うっさい!今すぐ凹め!この馬鹿頭!人が一世一代の大勝負に出たってのに、乙女の心を踏みにじって!」

 

「一世一代の大勝負?それほどスゲー戦いだったか?さっきのドラゴン――」

 

「出ていけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「ウォォォォォォ!!?」

 

リズベットは怒り狂いながら店にある商品をソウゴに投げつけて、ソウゴは大量に飛んでくる商品に驚きながら、言われた通り店を出ると、そのまま走り去ってしまった。

ソウゴが去って尚、リズベットは店の商品を投げ続けていたが、ソウゴの姿が完全に見えなくなると、今度は大声で叫んだ。

 

「何なのあいつ!普通、付き合ってを買い物に付き合ってと勘違いする!?何処の鈍感系主人公だ!」

 

鈍感なソウゴに対しての文句をひたすら言い続けていたリズベットだが、やがて「ぜぇー、ぜぇー」と息を整えると、ソウゴが走り去っていった方向に向かって思いっきり叫んだ。

 

「見てなさい、あの馬鹿!絶対!ぜぇーたいに!振り向かせてやるんだからーーーーーー!!」

 

大声で叫んでいるその顔は、怒っているとは思えないほど笑顔だった。

その顔に写っていたのは、叶わない恋に打ちひしがれた哀しみではなく、いつか必ずこの想いを届けてやると決めた少女の決意の表れだった。




・ソウゴ、赤髪と化する
五十層以降、ソウゴの髪の色は赤に染めています。また、恰好も士魂アバターではなく、攘夷戦争時代及び銀ノ魂編の高杉のような服装になっています(ただし、頭にハチマキは巻いていない)。

・リズベット、原作と違ってキリトに好意を抱かなかった
二十七層でソウゴと行動してる内に、彼のことを少しだけ意識してしまったので、原作のようなやり取りをしても、キリトに恋愛感情は持ちませんでした。逆に、今回似たようなことをソウゴとしたことで、彼への好意を自覚し出しました。

・《雪柱(ゆばしら)
イメージは「ワンピース」のゾロが使う刀《雪走(ゆばしり)

・付き合う=買い物
鈍感系ハーレム主人公あるある。


リズベット、告白するも、ソウゴが鈍感すぎて失敗する。ですが、原作と違ってチャンスはまだまだ沢山あるので、これから頑張って欲しいところです。
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