ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

63 / 95
2022年11月6日はSAO正式サービス開始日!
まさか、生きている内にこの日を迎える日が来るとは思っていませんでした。これからもSAOは永遠に不滅です!
今回の話で新キャラが登場します。察しの良い人なら、タイトルを見て、どんなキャラが登場するのか気づくはずです。


ep.48 苗木の少女

「ハッ、ハッ、ハッ」

 

乱れた呼吸の音が森の中に響く。

アインクラッド第六十一層。この層の特徴としてまず挙げられるのは、住みやすさだろう。

主街区《セルムブルク》を始め、層の至る所に人が住める住居が存在している。そのレパートリーの数々は多彩で、部屋が整っているけどお高い物件もあれば、《セルムブルク》から少し離れているがお手軽な価格で買える物件もある。それらの理由もあって、六十一層はSAOで最も住みやすい層とも言われている。

そんな夢のような層に存在する《セルムブルク》から少し離れた所にある森の中。

とても人が住めるような所ではない場所で、一人の少女が息を切らしながら走っていた。

少女は白いワンピースの上に黒い合羽のような物を着ていて、髪は染めているのか紫色のロングヘア。瞳の色は凛とした翠色で、エメラルドグリーンのように光り輝いていた。

少女は自分が何者なのか分からなかった。一つだけ分かるのは、自分が今危機に陥っていること。後ろから迫って来ているモンスターからひたすらに走って逃げている。逃げ惑う少女の瞳には、様々な感情が混ざっていた。恐怖、困惑、悲しみ。

少女は一人だった。気づいたらこの森の中にいて、右も左も分からないまま歩いていると、巨大なカマキリに出くわして、少女は「ここはどこ?」と尋ねたが、返ってきたのは、高い咆哮と巨大な鎌だった。合羽の一部を斬り裂かれた少女は、訳も分からないまま逃げた。

自分は誰なのか。何故今こうして逃げているのか。そもそも自分は何に対して逃げているのか。心の中で問おうとしても、その問いかけには誰も答えてくれず、少女はただひたすらに逃げ惑う。

 

「あ!」

 

ふと足元にあった蔓に足が引っかかり、少女は転んで地面に倒れ込んでしまう。

当然、その絶好のチャンスをモンスター(巨大カマキリ)が見逃すはずなく、少女が顔を上げた時には、既にその距離は目と鼻の先だった。

少女は恐怖でその場にへたり込み、涙を見せながら体を震わせるが、モンスターは少女の怯える姿を見ても躊躇う素振りは見せず、目の前にいる獲物を仕留めようと自分の武器である巨大鎌を動かす。

モンスターが巨大鎌を振り上げ、少女が目を瞑った瞬間、モンスターが突如呻き声を上げながらパリンッと消滅した。

いつまで経っても自分に攻撃が来ず、恐る恐る目を開けると、自分を襲おうとしてたモンスターの姿はなく、代わりに一つの人影が目に映った。

 

「・・・大丈夫?」

 

その影がこちらに振り向いた直後、少女は意識を失い、その場に倒れた。

少女が最後に見たのは、こちらに向かって優しく微笑む茶髪の人間の顔だった。

 

 

 

 

「ハルト、あなたはコハルを生涯の伴侶とし、病める時も健やかなる時も愛し続けることを誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

神父の問いに、白いタキシードを着たハルトは答える。

それを確認した神父は、今度はハルトの隣にいるクリーム色のウェディングドレスを着たコハルに問う。

 

「コハル、あなたはハルトを生涯の伴侶とし、病める時も健やかなる時も愛し続けることを誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

コハルもまた、同じように答える。

そして、お互い見つめ合うと、ハルトはコハルの手を取り、彼女の薬指に結婚指輪をはめた。

 

カラーン、カラーン

 

その途端、教会の鐘が鳴り響いた。まるで、二人の新たな門出を祝うかのように。

結婚に至るまで数々の強敵と戦い、どんな困難も共に乗り越えてきた二人だが、この日ばかりは祝福の鐘に包まれながら、幸せそうな表情を浮かべるのであった。

その後、結婚式を終え、いつもの装備に戻った二人は、圏内エリアを歩きながら結婚式の余韻に浸っていた。

 

「ありがとうハルト。こういう結婚式に憧れてたから、君と一緒にできて、すっごく嬉しい」

 

「僕も同じ気持ちだよ。まぁ、あれだけ立派な教会で式を挙げたから、値段は高かったけどね」

 

《セルムブルク》に建てられている結婚式場。その見た目は大聖堂のような造りであり、中も豪華な装飾が数々施されている。当然、そんな豪華な場所で式を挙げようとすれば、その分値段はかなり高くなる。

しかし、二人はお互いにクエストやボス攻略で貯めたお金を出し合い、無事結婚式を挙げることができた。

 

「フフッ、これだけ凄い結婚式だったんだし、リアルではもっと凄い結婚式にしようよ」

 

「そうだね。場所もそうだけど、皆も呼んで、盛大に祝ってもらおう」

 

現実世界でも結婚式を挙げる約束をしながら歩いていると、目的の場所に辿り着いた。

二人の目の前には、木造のログハウスがあった。

このログハウスもまた、二人でお金を出して買ったマイホームだ。

 

「わぁ!おしゃれな家だね!」

 

「ここが僕たちの新しい家だよ。主街区のホームはどれも高かったから、ちょっと遠いけど、値段がお得なこのログハウスを買い取ったんだ」

 

「へぇー、主街区のホームも良かったけど、ここも自然が豊かで素敵な場所だね」

 

この家の周辺は木々で覆われていて、草花や動物が生息していて、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

ここら辺は《セルムブルク》から少し離れた場所にあり、モンスターも殆ど出現しない安全地帯でもある。

ちなみに、この家は貸別荘としても使われていて、レンタルすると、買取価格よりもかなりお得になるとのこと。ただし、一度買い取られると、持ち主がこの家を手放すまでレンタルできなくなるが・・・

 

「早く入ろうよ、ハルト」

 

「分かってる・・・お邪魔しまーす」

 

二人が家の中に入ると、そこには木製の床と壁が視界に入った。

靴を脱いで家に上がると、奥の方にはキッチンがあり、リビングには暖炉とソファーが設置してある。

他にも部屋がいくつかあり、寝室と書斎、ベランダもあるようだ。

 

「結構広いんだね。それに、家具も揃ってる。これなら、すぐに生活できそうだね」

 

「うん。後は配置かな?それと、ストレージにある物もいくつか家に置いておきたいし、少しずつでいいから整理していこう」

 

ハルトの言葉に、コハルは頷いた。

その後、コハルは中の家具などを整理したいと言い、ログハウスに残って作業することになった。

その間に、ハルトは外に出て、家の周りを探索しに行った。

そうしている内に、気づいたら森の中にいた。

森の中を歩いていると、ハルトはあるものを見つけて、少しだけ驚いた。

 

「《セルムブルク》から一番離れた場所に売られていた家はあの家だと思ってたけど、こんな森の中にも家があるなんて・・・」

 

森の深くに建てられている木造の建築物を見て、感心しながら呟くハルト。

流石SAOで最も住みやすい層と言われるだけある。そんなことを思っていると、不意に草木が激しく揺れる音が森の中に響いた。

 

「!?・・・何の音だ?」

 

一向に止まない音に警戒しながら、ハルトは森の中を進んでいると、衝撃の光景が目に入った。

 

「あれは!?」

 

ハルトの目の前には、尻餅を付きながら震えている紫色の髪をした少女と、その少女に今も斬りかかろう言わんばかりに鎌を振り上げている巨大カマキリがいた。

ハルトは咄嗟に《フォルネウス》を引き抜き、素早い動きで巨大カマキリの鎌を斬った。

そして、そのまま巨大カマキリの胴体に《フォルネウス》を突き刺すと、巨大カマキリは叫び声を上げながらポリゴン状に四散した。

 

「・・・大丈夫?」

 

《フォルネウス》をしまい、少女の方に顔を向けながら声を掛けるハルト。

その直後、少女が突然倒れた。

 

「ちょ、え!?た、大変だ・・・!」

 

ハルトは慌てながらも、倒れた少女を背中に背負うと、ログハウスへ一目散に駆け出した。

 

 

 

 

ログハウスへ戻ってきたハルトは、玄関のドアを思いっきり開ける。

 

「大変だコハル!女の子が森――でぇ!?」

 

勢い良く入ってきたハルトの視界に、驚きの光景が目に映った。

 

「え、えっと・・・おかえりなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・ワ・タ・シ?」

 

ハルトの目の前にいたのは、メイド服を着たコハルが、顔を真っ赤にしながら立っていた。

恥ずかしさを我慢しながらも笑顔で出迎えたコハルに対して、ハルトの脳内は混乱していた。

何故、彼女はいきなりこんな恰好をして、こんな新婚ほやほやのプレイをしようと思ったのか。しかも、恥ずかしさを我慢してまで。

思考を停止しかけているハルトを見て、コハルは慌てて弁解する。

 

「ち、違うの!結婚したばかりの女の人は、家に帰ってきた旦那さんに、必ず裸エプロンでこんなやり取りをしなければならないってさっき言われて・・・!それで、流石に裸エプロンは恥ずかしいから、たまたまストレージに入ってたメイド服を代わりに使おうと思って・・・!」

 

「(なんで、たまたまでメイド服があったんだろう?)・・・ちなみに、そのやり取りは誰が教えたの?」

 

「えっと・・・ソウゴさん・・・」

 

「あのドS・・・ハッ!今はそんなこと言ってる場合じゃない!」

 

とりあえず、コハルに変な事を教えたソウゴには、「何やってんだお前!」と文句を言おうと決め込んだハルトは、今はそれどころじゃないと気持ちを切り替え、背中に背負っている少女を見せた。

それに気づいたコハルも、赤かった顔が一転して、驚愕の表情になる。

 

「え!?その子は・・・?」

 

「この近くの森でモンスターに襲われていたのを助けたんだ。でも、助けた後に倒れちゃって、流石に放っておけないから・・・」

 

ハルトの説明を聞いて、事情を理解したコハルは、すぐさまハルトを寝室まで案内し、二つあるベットの内の一つに少女を寝かせた。

少女は顔色が悪かった先程までとは違い、スヤスヤと眠っている。

少女を眺めていたハルトとコハルだったが、ハルトがあることに気づいた。

 

「・・・カーソルが無い」

 

「え?」

 

「もし、この子がNPCでも、頭の上にはカーソルがあるはずなんだ。でも、この子には、そのカーソルすらもない」

 

「それって、バクかもしれないってこと?」

 

「多分・・・今の所、クエストは発生していないし、もしかしたら、他に誰かと来ていて、その人とはぐれてしまった可能性もなくは無いかもしれない・・・」

 

二人の間に無言の時間が続いたが、コハルが不安そうな表情でハルトに問う。

 

「・・・目、覚めるよね?」

 

「うん、体が消滅していない以上、この子のHPはまだあるってことだよ。今日はもう遅いし、明日になればきっと・・・」

 

「そう、だね・・・」

 

そう言いながら、コハルはハルトの肩に寄りかかる。

ハルトは彼女を安心させるかのように、背中を優しく撫でた。

その後、二人はもう一つのベットを二人で使い、一緒に眠りについた。

 

 

 

 

そして、翌朝。

 

「ハルト!起きてハルト!」

 

「うーん、おはよう。どうしたの?」

 

こちらを呼ぶコハルの大声に叩き起こされ、ハルトは目を擦りながら彼女に近づく。

 

「!?」

 

すると、ベットに横たわりながらこちらを見つめる紫色の髪をした少女が見えて、一気に目が覚めた。

対するコハルは、安心したかのように少女をゆっくり起こしながら話しかける。

 

「良かった。目が覚めたんだね。自分の身に何が起きたのか分かる?」

 

「私は・・・森を、歩いて・・・そうしたら、大きな、目とあって、それで・・・っ!」

 

少女はその時のことを思い出したからなのか、顔を真っ青にする。

 

「わぁ!後は言わなくていいから!」

 

顔を真っ青にする少女を見て、これ以上は思い出させない方がいいと感じたコハルは、慌てながら少女の口を止める。

 

「ごめんね。辛いこと思い出させちゃって。あなたの名前を聞かせてくれないかな?」

 

「な、まえ?」

 

「そう、名前。自分の名前を言える?」

 

「なまえ・・・私の・・・?」

 

少女は少し戸惑う素振りを見せながらも、ゆっくりと口を開いて自分の名前を言った。

 

「ナエ・・・」

 

呟くように名前を言った少女ことナエ。

 

「ナエちゃんか・・・いい名前だね。ナエちゃんはどこから来たのか分かる?家族とか、他に一緒だった人はいない?」

 

そう問いかけるコハルだが、ナエは顔を少し俯かせながら答えた。

 

「・・・分からない」

 

「え?」

 

「気がついたら、森の中にいた。私、一人・・・」

 

「そっか・・・」

 

「(やっぱり、他のプレイヤーと一緒に来たってわけじゃなさそうだな)」

 

困った顔をするコハルの隣で、そんなことを思いつつも、ハルトはベットに座り、ナエに話しかける。

 

「ナエちゃん・・・いや、ナエって呼んでいいかな?」

 

ハルトの言葉に頷くナエ。

 

「とりあえず、僕たちも名前を言うよ。僕はハルト。こっちがコハル」

 

「ハ、ルト・・・コ、ハル・・・?」

 

「そうだよ」

 

「ハルト・・・ハルト・・・」

 

ナエはハルトの名前を呟きながら、ジーっと彼の顔を見つめていたが、しばらくして口を開いた。

 

「パパ」

 

「うぇ!?」

 

予想だにしなかった言葉で言われて、思わず変な声を出すハルト。

そんなハルトの様子を気にともせず、ナエは続けざまにハルトをパパと言う。

 

「パパ・・・ハルト、パパ」

 

「ちょ、ちょっと待って!?ナエ!」

 

「これはどういうことかな?ハルト」

 

肩に手を置かれたハルトが振り向くと、コハルが全く笑っていない笑みを浮かべていた。

 

「なんで、会って間もない女の子からハルトがパパって呼ばれているのかな~?もしかして、私の知らない所で、他の人とそういう関係になっていたのかな~?」

 

「誤解だよ!多分、森でナエを助けた時に、僕のことを父親だと勘違いしたんじゃないかな・・・?」

 

「むぅー」

 

頬を膨らませながら、ジト目でハルトを見つめるコハル。

すると、今度はナエの方に視線を向けて、勢い良く彼女に話しかける。

 

「ねぇねぇ、ナエちゃん!私のことはママって呼んでみて!?」

 

「・・・コハル?」

 

「な、ナエちゃーん!」

 

涙目になりながら声を上げるコハルだったが、ナエは無表情のまま首を傾げ、そのままハルトに視線を向ける。

 

「ハルトはハルトだから、パパ」

 

「え?あ、うん、まぁ、別に構わないけど・・・」

 

困惑しながらも了承したハルトに対して、コハルはガーン!という効果音が出そうなほど落ち込んでいた。

 

「(これはまた、大変なことになりそうだな・・・)」

 

これから訪れるかもしれない波乱の日々に、ため息を付きながらも、ハルトは今だにママと呼ばせようとしているコハルと、きょとんと首を傾げながら彼女を名前で呼ぶナエを微笑ましそうに見つめるのであった。




・《セルムブルク》の結婚式場
SAOIFをやっている人はご存知かと思いますが、二人(SAOIF主人公とコハル)が結婚式(体験)を挙げたあの結婚式場です。

・二人のマイホーム
こちらもSAOIFをやっている人はご存知かと思いますが、二人が一時期住んでいたあのログハウスです。SAOIFではレンタルでしたが、この作品では買い取っています。

・コハルが新婚ほやほやのプレイをしている一方、ソウゴ達はというと・・・
「フッ、俺からの結婚祝いだ。気に入ってくれや・・・」(←ゲス顔のソウゴ)

「「(うわぁ・・・)」」(←ドン引きするトウガとコノハ)

「?」(←何も知らないレイス)

・何やってんだお前
言われる前はそんなに気にしてなかったのに、このネタを知った後に例の予告を見たら、どう見てもウソップに言ってるようにしか見えなくなった。

・ナエ
六十一層の森の奥にいた少女。ハルトとコハルの娘に該当するキャラ。CVは長縄まりあ(「はたらく細胞」の血小板ボイス)


劇場版SAOプログレッシブ冥き夕闇のスケルツォの感想
・シヴァタとリーテンの声、めっちゃイメージ通り
・キバオウ、原作や漫画よりツンデレ度増してて草
・ミトがネズハの上位互換すぎる(というか、完全にチートだろあれ)


裸エプロンコハル、正直めっちゃ見たいです!
遂に登場しました。キリアスでいうユイちゃんポジのオリキャラ。
次回は引き続き、ハルトとコハル、ナエちゃんの親子三人の話になります。


<オマケ>
ザントと今回登場したナエちゃんのイメージ画像をピクルーで作りましたのでどうぞ。
・ザント/狡嚙隼人(使用メーカー:お隣男子メーカー)

【挿絵表示】


・ナエ(使用メーカー:YSDメーカー)

【挿絵表示】


※ザントの髪型、本来なら「鬼滅の刃」の不死川実弥みたいな感じにしたかったのですが、不死川の髪型があまりにも独特過ぎて、探しても見つかりませんでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。