ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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ep.49 ナエの冒険

あの後、ハルトとコハルがナエを連れてやって来た場所は第一層《はじまりの街》にあるサーシャが営む教会だった。

アインクラッドに迷い込んだ子供たちを日々保護している彼女なら、何か知っているのではないかと思い、訪ねたハルト達だったが、事情を説明した後に返ってきたサーシャの言葉は、それらの期待に応えられないものだった。

 

「ごめんなさい。ナエちゃん、だったわよね?この子は、ここの子供でもなければ、《はじまりの街》でも見かけたことはないわ」

 

「そうですか・・・」

 

サーシャの言葉を聞いて、残念そうに言いながら顔をナエがいる方に向けるコハル。その視線の先には、ナエが子供たちと楽しく遊んでいた。

それを見ていたサチが、ハルトとコハルの二人に問う。

 

「二人はナエちゃんを六十一層の森の中で見つけたんだよね?その時に、誰か他の人とかいたりしなかったの?」

 

「いや、倒れたナエを運ぶ時に、少し辺りを見渡したけど、人影は見えなかったよ。それに、大分前に攻略されたとは言え、六十一層はまだ攻略難易度が高い層だ。当然、レベルの高いモンスターだっていっぱいいる。攻略組ならともかく、低層や中層レベルのプレイヤーが、しかも子連れで行くなんて、ハッキリ言って、異常と言わざるを得ない」

 

「そうだよね。私も、そんな危険な場所に子供たちを連れていけないよ・・・」

 

「となると、ナエちゃんの保護者は攻略組?」

 

「或いは、本当に一人で六十一層に来て、そこで何らかの事故にあって、記憶を失ってしまったか・・・」

 

ナエについて様々な考察をするハルト、コハル、サチの三人。

すると、子供たちと遊んでいたナエが、ハルトとコハルに話しかけてきた。

 

「パパー、コハルー。一緒に遊ぼー」

 

「そうだよ!兄ちゃん達も一緒に遊ぼうぜ!」

 

子供たちも無邪気な様子で二人を遊びに誘う。

お互い顔を見合わせたハルトとコハルは、ひとまずナエの事を考えるのは止めにして、ナエや子供たちと時間いっぱい遊ぶのであった。

 

 

 

 

その帰り道、ハルト達は夕暮れの《セルムブルク》を歩いていた。

ナエは子供たちを遊んで疲れたのか、ハルトの背中におんぶされながら寝ていた。

スヤスヤと寝ているナエを見て、コハルが口を開く。

 

「ねぇ、ハルト。ナエちゃんのことなんだけど・・・」

 

「言いたいことは分かるよ。だけど、それじゃあ攻略はどうするつもり?ナエの面倒を見ながらじゃ、流石に難しいと思うよ」

 

「うん、分かってる。でも・・・」

 

コハルの言いたいことはハルトにも分かる。ナエは今、保護者もおらず、一人ぼっちの状態だ。当然、そんな彼女を見捨てることはできない。

けれども、自分たちは攻略組であり、常に危険と隣り合わせである。最近は強くて怖いモンスターも増えてきているし、そこにナエを連れていくことはできない。だからといって、ナエばっかりにかまって、攻略を疎かにするわけにはいかない。

二人は思い悩み、しばらく時間が経った後、ハルトがゆっくりと口を開いた。

 

「・・・明日、もう一度あの森に行ってみよう。もしかしたら、ナエの記憶を戻す手がかりが見つかるかもしれない。今後どうするか決めるのは、それからでも遅くないと思う」

 

ハルトの言葉に、コハルは弱々しくだが頷いた。

 

 

 

 

翌日、ハルトとコハルはナエを連れて、彼女を見つけた森の中を歩いていた。

 

「へぇー、主街区は賑やかだったけど、ここは自然で溢れているね」

 

「うん、森にはモンスターもいるから、気をつけて進もう・・・ナエ、何か思い出したかい?」

 

周りに注意しながら、ハルトは手をつないでいるナエに問いかけるが、ナエは首を横に振る。

 

「そう。もし、何か思い出したら、すぐに言ってね」

 

「・・・・・・」

 

自分が怖い目にあった森を歩いているからなのか、ナエは何処か不安そうな様子だった。

そんなナエに、ハルトは優しく言う。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。またモンスターに襲われそうになっても、ちゃんと守ってあげるから」

 

「うん・・・ありがとう、パパ」

 

「むぅー・・・」

 

ナエの顔色が少しだけ良くなり、それに釣られてハルトも笑みを浮かべる一方、コハルは未だ名前で呼ばれる自分と違い、パパと呼ばれるハルトを見て、不満そうに頬を膨らませた。

そうして歩いていると、三人は森を抜けて、代わりに辺りが多くの崖に囲まれた岩場のエリアに辿り着いた。

 

「どうやら、森エリアはここまでみたいだね。ここから先は、この崖の下を歩くのか・・・」

 

「えっと、名前は・・・《潮騒の岩場》。日の光があまり届いていないし、はぐれないで行こう」

 

「うん・・・ナエ、行けるかい?」

 

ハルトの言葉にコクリと頷くナエ。

三人は足元に注意しながら岩場を進んでいく。

そうしている内に、岩場の周りが水で囲まれたエリアに辿り着いた。

 

「見て、ナエちゃん!あそこにでっかい滝があるよ!」

 

「滝・・・綺麗・・・!」

 

コハルが指を指す方向に視線を向けると、そこには巨大な滝があった。

ナエは滝を初めてみるのか、目を輝かせながら見ていた。

すると、岩場を囲んでいる水面から、パシャと音が聞こえてきた。

 

「おやぁ?珍しいじゃないか。こんなところに人間が来るなんて」

 

女性の声が下から聞こえ、ハルト達は驚きながらも岩場から水面を覗き込むと、一人の女性がこちらに顔を向けていた。

 

「よっと!」

 

女性は驚異的なジャンプ力で飛び、ハルト達がいる岩場に降り立った。

 

「!? ハルト!この人、足がヒレだよ!」

 

「ということは、人魚か・・・」

 

女性の足がヒレであることから、彼女が人魚だと見抜くハルトとコハル。

すると、人魚はコハルを見ながら不敵な笑みを浮かべた。

 

「あんた、中々いいもの持ってるじゃない。アタイに寄こしな!」

 

「きゃ!」

 

人魚はコハルに急接近し、彼女の薬指にはめていた指輪を奪った。

 

「あ!返して!」

 

「やなこった。この綺麗な物はアタイが気に入ったんだ。だから、アタイの物だ。そんじゃ!」

 

「逃がさない・・・!」

 

大切な指輪を奪われたコハルは、怒りながら人魚に細剣を突き刺そうとするが、人魚はそれをヒラリと躱すと、水面に飛び込み、そのまま泳いでいった。

 

「追えるもんなら追ってみな!言っとくが、水中だと人魚は人間の数倍速く泳げるんだぜ!」

 

その言葉通り、人魚は猛スピードで泳ぎ、あっという間にハルト達を突き放していく。

 

「どうしようハルト!このままじゃ、大切な指輪が・・・!」

 

「・・・コハル、悲しい?」

 

涙目になりながら焦るコハルを見て、ナエが少し悲しそうな表情で問いかける。

その問いに答えるように、ハルトが口を開く。

 

「そうだね。あの指輪はコハルにとって、とても大事なものだし、それを奪われてコハルは今、凄く悔しい気持ちになっていると思う。そして、それは僕も同じだ」

 

「パパも?」

 

「勿論さ。あの指輪は僕とコハルが結婚した時に、どんなことが起きてもずっと一緒にいようって誓った証なんだ。それをあんな風に奪われてしまったら、コハルはとても傷つくだろうし、僕だって許せないさ」

 

「うん。ナエも、パパと同じ気持ち」

 

ハルトの言葉を聞いて、ナエはコハルの手を握る。

そんな二人の姿を見て、コハルは涙を拭って微笑むと、自分の胸に手を当てた。

 

「ありがとう二人共。おかげで、落ち着いたよ」

 

「よし、それじゃあ、早く取り返そうか・・・って行きたいところだけど、ここは水場が多いフィールドだ。人魚である彼女とは違って、僕らはあんなに早く泳げないから、普通には追いつけないだろうね」

 

「そうだね・・・何とか、あの人魚を陸におびき寄せることができればいいんだけど・・・」

 

何か良い方法はないのかと考えていると、ハルトが何か思いついた。

 

「そうだ。この間手に入れたこのアイテムを使おう」

 

そう言って、ハルトはストレージからあるアイテムを取り出した。

 

 

 

 

十分後、水中にいた人魚は、ゆっくりと水面から顔を出して、辺りを確認する。

先程彼女がいた場所には、茶髪の男(ハルト)紫色の髪の少女(ナエ)。少し視線を変えると、違う岩場に黒髪の女(コハル)が立っていた。

 

「(なるほど、こっちにいると思わせて、向こうで待ち伏せしようってわけか・・・)これだから、単純な人間は。こんなモンにアタイが引っかかるとでも思ってんのかい?」

 

呆れるように呟きながら、人魚はハルトやコハルがいる場所とは違う方向に向かって泳ぎ、泳いだ先に辿り着いた岩場で休憩しようと、水中から飛んで陸に着陸する。

 

「今だ!」

 

次の瞬間、<隠密(ハイティング)>スキルで気配を消していたハルトが、休憩していた人魚に急接近し、彼女の首下に《フォルネウス》を突き付けた。

突然現れたハルトに、困惑する人魚。

 

「な、なんで!?あんたは向こうの方にいた筈じゃ・・・!」

 

「あぁ、あっちの僕ね。ナエ!解除していいよ!」

 

ハルトが向こうの岩場にいるナエに大声で言うと、ナエは彼女の隣で突っ立ているハルトの鼻を押す。

すると、彼の体は青白い光を立てながら徐々に縮み、最終的には小さな結晶となった。

 

「あれは《人形(ドール)クリスタル》って言って、本物そっくりの人形を作り出すことができるんだ。君がさっきまで認識してた僕は、《人形クリスタル》で作った僕そっくりの人形だよ」

 

視線を人魚の方に向けたまま、《人形(ドール)クリスタル》について解説するハルト。

そうしている内に、コハルとナエもこっちに来て、完全に逃げ場を失った人魚は、顔を青白くする。

そんな彼女に、ハルトは冷静に語りかける。

 

「これで僕たちの勝ちだね。さて、君をどうしようか・・・」

 

「ま、参った!指輪は帰すから、殺さないで!」

 

「どうする、ハルト?」

 

命乞いする人魚を見て、彼女をどうするのか、ハルトに聞くコハル。

しかし、ハルトが決断する前に、怯える人魚の顔をジーっと見つめていたナエが、彼女に向かってゆっくりと歩き出した。

 

「ナエちゃん!?危ないよ!」

 

コハルが慌ててナエに声を掛けるが、ナエはそれを聞かず、人魚に近づくと、彼女の頭にポンと手を置いた。

 

「人魚さん。もう、人の物を勝手に取っちゃ、メっですよ」

 

「!? うぅ・・・分かったよ。もう、悪いことは止めるよ・・・」

 

子供に論されたからなのか、人魚は顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら、指輪をコハルに返した。

その様子を満足そうに見つめながら、ナエは人魚に再度話しかける。

 

「人魚さん、さっきの泳ぎ、すっごくかっこよかったです」

 

「え?」

 

「もし、またここに来たら、私に泳ぎ方を教えてください」

 

「・・・まぁ、あんたがいいなら、いつでも教えて上げるよ」

 

何処かまんざらでもない様子で言うと、人魚は水面に飛び込み、顔を出しながらハルト達に言った。

 

「それじゃあ、アタイはこれで。またね」

 

「バイバーイ」

 

こちらに手を振る人魚に、ナエも手を振り返しながら、去っていく人魚を見送った。

 

「良かったねナエ。友達ができて」

 

「はい!」

 

満面の笑みを浮かべるナエを見て、ハルト達も微笑んだ。

トラブルも無事解決し、ハルト達は先に進む。

 

「ん?あれって・・・湯気?」

 

「もしかして・・・!」

 

岩場を登っていたハルト達は、視線の先に湯気のようなものが見えた。

もしやと思い、ハルト達は早足でその場所に向かうと、驚きの光景が目に映った。

 

「こ、これは!?」

 

目の前には、岩場の隙間から流れている温水が溜まった自然から作られた池。

そう、日本人なら一度は目にするであろう天然の温泉だった。

 

「わぁ!ナエちゃん見て、温泉だよ温泉!」

 

「温泉・・・!大きい・・・!」

 

コハルは勿論、ナエも初めて見る温泉に興味津々で、キラキラした目をしながら見ていた。

 

「二人共。温泉もいいけど、こっちの景色も見てみなよ」

 

「「わぁー」」

 

コハルとナエは感嘆の声を上げる。

ここがゴールなのか、温泉の周りは広大な海の景色が広がり、丁度夕暮れ時なので、綺麗なオレンジ色に染まっている海が広がっていた。

 

「なんか、凄い場所に来たな・・・」

 

思わず呟いたハルトの言葉に、コハルとナエは大きく首を縦に振る。

 

「そうだ!せっかくこんな凄い温泉を見つけたんだし、入っていこうよ」

 

「いいね。ナエも一緒に入ろっか?」

 

「うん、私もパパとコハルと一緒に入りたい・・・」

 

意見が見事に一致した三人は、早速服を脱ぎ始める。

そして、ハルトは腰にタオルを。コハルとナエは体にタオルを巻いて、温泉に入った。

 

「フゥー、気持ちいいなぁ・・・」

 

「うん、疲れが一気に吹き飛ぶみたい・・・」

 

「みたいぃ・・・」

 

温泉にゆったり浸かりながら、心地よい感覚に浸る三人。

 

「今日は本当に色々あったね。ナエちゃんの記憶を探して、あちこち回っていたら、でっかい滝があって、そこから人魚が現れたと思ったら、大事な指輪を奪われて、何とか取り返したら、その人魚とナエちゃんがお友達になって、最後にこんな景色のいい温泉を見つけて・・・大波乱の一日だったよ」

 

「ホント、大冒険だったよ。ナエはどうだった?」

 

「ナエも楽しかった。冒険、また行きたいなぁ・・・」

 

ナエは思いよせるようにポツリと呟く。

そんなナエを見たコハルは、決心した顔で言う。

 

「私、決めたよ。ナエちゃんの記憶が戻るまで、私たちで面倒を見ることにする」

 

「いいのかい?攻略にあまり参加できなくなるけど・・・」

 

「勿論、攻略も大事だよ。私たちはフロントランナーで最前線にいるんだから。でもね、やっぱりナエちゃんを放って置けないよ。だって、記憶を失った状態で、知らない所に来て、一人ぼっちだなんて、寂しいから・・・」

 

「・・・そっか。なら、僕も反対しないよ。まぁ、攻略に行く際には、サーシャさんの所でナエを預けてもらうのもありだし、どうしても攻略に行けない日が続いたら、キリトやアスナには事情を話しておくよ」

 

「そうだね。二人なら、きっと納得してくれると思う」

 

ハルトの提案に同意すると、コハルはナエに話しかける。

 

「というわけでナエちゃん。これからもよろしくね」

 

「ナエ・・・一緒?」

 

「勿論!これからも一緒だよ!」

 

コハルはナエの体をギュウと抱きしめた。

ナエはしばらくの間目をパチクリさせていたが、やがて嬉しそうに微笑み、コハルの胸元に頬ずりをした。

 

「えへへ、ナエちゃん可愛い」

 

「ん・・・もっと撫でて・・・」

 

「フフッ、よしよし」

 

コハルは嬉しそうにナエの頭を優しく撫で、ナエもまた嬉しそうに顔を緩ませながら、されるがままになっていた。

すっかり仲良しになった二人を見て、ハルトもまた微笑みながら口を開いた。

 

「ハハッ、ひとまずコハルは、ママって呼ばれるようにしないとね」

 

「もぉー!一番気にしていること言わないでよ!」

 

ぷくっと頬を膨らませて抗議するコハルを見て、フフッと微笑んだハルトは、視線を夕暮れに染まった海に移した。

 

「そろそろ二年か・・・」

 

この世界に入って、そろそろ二年が経とうとしていた。

最初は戸惑う事ばかりだったけど、今では随分慣れてきたものだ。

だけど、油断はできない。敵は日に日に強くなっていき、油断していれば、あっという間にやられてしまう。

それでもハルトは、この世界に来て良かったと思っている。

なぜなら、こうして最愛の人に出会うことができたのだから。デスゲームであっても、自分と彼女を引き合わせてくれたのは、紛れもなくこのSAO(ソードアート・オンライン)だ。

それだけではない。この世界で知り合った人達が、仲間が、友達が、ハルトにとってかけがえのない存在になりつつある。

だから、少しでも早くこのゲームを終わらせて、現実世界に帰還したい。この世界でできた'(えにし)'をこの世界の中だけで終わらせたくない。

ハルトは夕暮れに染まる海を見つめながら、心の中で決意を新たにした。




・《人形(ドール)クリスタル》
プレイヤーの名前を言うと、その人物そっくりの等身大人形が作れるアイテム。鼻を押すと元に戻る。原作には出ないので、この作品オリジナル。


お気づきだろうか?さり気なく、混浴してますよこの家族・・・
ナエちゃんの話は、ここで一旦終了です。
次回からようやく原作の話に進めそうです。
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