ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
今回でようやく原作の話に戻ります。やっと青眼の悪魔の話に入れる・・・
SAOが始まってから二年近くが経とうとしていた。
既に4000人以上のプレイヤーが亡くなり、日に日に強くなっていくエネミーやボスに苦戦を強いられている。
それでも、攻略組は諦めることなく、この世界から脱出する唯一の条件である百層クリアを目指して、日々攻略に励んでいる。
それは、ついこの間結婚したばかりのハルトも例外ではなく、攻略組の一員として、SAOクリアに奮起していた。
そんなハルトだが、今日は攻略に参加せず、五十層の主街区《アルゲート》に来ていた。
パートナーのコハルと娘であるナエを六十一層のマイホームに残し、《アルゲート》にやった来たハルトは、目的の場所に向かって街中を歩く。
そして、目的の店に辿り着くと、店の中に入った。
中に入ると、「いらっしゃい!」とエギルが景気よく挨拶してきたので、「こんにちは」と返すハルト。
「来たな、ハルト」
エギルと何気ない会話をしていると、ハルトをここに呼び出した人物、キリトが店の階段から降りてきた。
「キリト、僕をここに呼び出した理由は何?」
「まぁ、ひとまずは二階の部屋まで来てくれ。そこで説明するからさ」
キリトに案内されて、ハルトは階段を上り、二階の部屋に入る。
部屋に入ったら、キリトはアイテムストレージのウィンドウを開くと、指でウィンドウを動かしながらハルトにストレージの中身を見せる。
キリトのアイテムストレージを眺めていたハルトだが、あるアイテムを見た瞬間、驚愕の表情でそのアイテムを凝視した。
「こ、これって、S級食材《ラグーラビットの肉》じゃないか!」
取得率が極めて低いと言われているS級食材《ラグーラビットの肉》。ハルト自身も手に入れたことが一度もないため、初めて見るS級食材の存在に驚く。
「こんな凄い食材。どこで手に入れたんだい?」
「七十四層の迷宮区を攻略した帰りに、たまたま見つけて手に入れたんだ。けど、手に入れたはいいけど、俺って<料理>スキルが低いから、料理しようにも上手く作れないかもしれないんだ。ハルトは今、<料理>スキルはどれくらいなんだ?」
自分では上手く料理できないと悟ったキリトは、<料理>スキルが高い者に作らせようと思い、こうしてハルトを呼んだのだった。
「僕はそこそこ鍛えてはいるけど、焼く、煮るくらいしかできないかな」
「そうか。やっぱりそうだよな・・・」
「あ!そう言えば、コハルがつい最近<料理>スキルをコンプリートしたって言ってたよ」
「マジで!?」
思わぬ情報を耳にして、シェフ発見と言わんばかりの顔をするキリト。
「その<料理>スキルの高さを見込んで頼みがあるんだが、この食材を料理してくれるか?勿論、料理してくれたら、二人にも分けるつもりだ」
「本当かい?ちょっと待ってて。コハルにメッセージを送るから」
そう言って、コハルにメッセージを送るハルト。
すると、すぐに返信が来て、ハルトは返信内容を見る。
「料理するのは問題ないけど、《ラグーラビットの肉》をコハルともう一人・・・この間言ったナエにも分けてくれるならいいってさ」
「うーん・・・まぁ、食う奴が一人増えても問題は無いか・・・」
「分かった。それじゃあ、大丈夫って返信しておくから」
「頼んだよ・・・よし!」
メッセージを返すハルトの隣で、《ラグーラビットの肉》を美味しく頂けることが可能になり、思わずガッツポーズするキリト。
すると、エギルが部屋の中に入って来て、二人に声を掛ける。
「おい、お前ら。お前らに客が来てるぞ」
客の言葉に、疑問符を浮かべるハルトとキリトだが、ひとまず部屋から出る。
階段を降りて、店の入り口の方を見ると、護衛らしき男を引き連れているアスナがいた。
「こんにちは、キリト君、ハルト君」
「珍しいなアスナ。こんなゴミ溜めに顔を出すなんて」
「キリト、エギルに失礼だよ」
さり気なくエギルの店に毒を吐くキリトに、ハルトが呆れ半分で咎める。
「もうすぐボス攻略があるから、生きてるかどうか確認しに来たのよ。まっ、無事に生きてるみたいだし、その様子だと、問題はなさそうね。それよりも、ハルト君がここに来るなんて珍しいわね。何かあったの?」
来訪の目的を話したアスナは、普段あまり《アルゲート》に来ないハルトが、この店にいる理由を問う。
すると、キリトは不敵な笑みを浮かべながら、アイテムストレージのウィンドウを開いた。
「フッフッフッ、これを見ろ」
不敵な笑みを浮かべるキリトを怪訝に思いながらも、アスナはウィンドウに書かれたアイテムを見て、ハルト同様驚愕の表情になる。
「こ、これって!?」
「ついさっき、フィールドで手に入れたんだ。これから、ハルトの家に行って、コハルに料理してもらうのさ」
驚くアスナに向けて、自慢するかのように言うキリト。
一方アスナは、《ラグーラビットの肉》と書かれた文字を凝視しながら、「むぅー・・・」と唸っていたが、突如キリトに勢い良く頭を下げた。
「一生のお願いキリト君!そのお肉、私にも分けて!」
「えぇ!?」
いきなり分けて欲しいとお願いされて、キリトは心の中で焦った。
既にハルトとコハルとナエの三人に分ける約束をしてるのに、そこにアスナも加われば、自分が肉を食える量が少なくなる恐れがある。せっかくのS級食材を十分に味わえないかもしれない。
何とか上手い言い訳が無いか考えていたキリトだったが、ここで予想外の援護射撃がキリトを襲った。
「いいんじゃないかな?美味しい物は皆で食べた方が美味しいと思うし、アスナと一緒にご飯を食べるのは、久しぶりだしね」
「ちょ、おい!?」
予想外の援護射撃に、キリトは慌てながらも、ハルトを制止しようとする。
しかし、それよりも先に、アスナが満面の笑みを浮かべながら聞いた。
「ハルト君もそう言ってることだし、いいわよね?キリト君」
「うぅ・・・分かった」
「やったー!」
「良かったね。アスナ」
喜ぶアスナとそれを微笑ましく見つめるハルトの隣で、トホホと言わんばかりの顔をするキリト。
すると、今までの話を黙って聞いてたエギルが話しかけてきた。
「へぇー、S級食材の料理か。そいつはきっと美味いだろうな・・・なぁ、俺も食べに行ってもいいか?」
「勿論いい――むぐっ!?」
「悪いなエギル。この《ラグーラビットの肉》は5人前だから、お前の分はもう無いんだ。味が気になるなら、後で感想文を300字程度書いて送ってやるよ。それじゃあな」
エギルも誘おうとしたハルトの口元をキリトが片手で押さえた。
流石に6人となれば、肉を食える量が少なくなる。貴重なS級食材だからこそ、なるべくたくさんの量を食べたいという想いがあっての行動だった。
「そりゃないぜ」と落胆するエギルの声を尻目に、キリトはハルトとアスナを連れて店を出た。
そして、しばらく街中を歩いたところで、アスナは護衛と思わしき男に声を掛けた。
「今日はもう大丈夫です。お疲れ様」
「・・・アスナ様。百歩譲って、そちらの《
そう問いながら、護衛の男は不満いっぱいの目でキリトを見つめていた。
そんな護衛の男をアスナは一瞬怪訝そうな顔で見つめるが、すぐさま顔を元に戻して口を開く。
「・・・素性はともかく、彼は腕だけなら確かよ。レベルもあなたより上だと思うわ」
「私がこんな奴に劣るだと・・・まさか《ビーター》!?」
ビーター。その言葉を聞いた途端、アスナの視線が鋭くなる。
そんなアスナの視線に気づかぬまま、護衛の男は感情を高ぶらせながら言葉を続ける。
「アスナ様!こいつは自分さえ良ければいいと思っている奴です!こんな奴と関わると碌なことになりませんよ!」
キリトと関わらせまいと言わんばかりの勢いで、アスナを説得しようとした護衛の男だったが、直後、彼の言葉を黙って聞いていたハルトがゆっくりと口を開いた。
「・・・取り消してくれるかい。今の言葉」
「何?」
怒気を含んだ声に、護衛の男は思わず言葉を止めて、こちらを睨み付けているハルトを見る。
「彼が《ビーター》の名前で呼ばれていたのは、かなり前の話だ。そんな古い悪名を今更持って来て、彼を貶めるような事をするなんて・・・攻略組として、恥ずかしくないのかい?」
「貴様・・・!」
護衛の男は怒りに満ちた顔で腰にある剣に手を当てる。対するハルトも視線を鋭くさせて、一触即発の空気になる。
「そこまでよ。ハルト君も気持ちは分からなくないけど、ひとまず抑えて」
見かねたアスナが二人の間に入った。
「とにかく、今日はここで帰りなさい。これは副団長命令よ」
護衛の男にそう言うと、アスナは「行きましょ」とキリトとハルトを連れて去っていった。
その光景を護衛の男は憎らし気に見つめるのであった。
六十一層にやって来たハルト達は、ハルトとコハルが住んでいるホームに向かっていた。
しかし、ハルトは先程の出来事をまだ引きずっているのか、未だに顔を顰めたまま歩いていた。
そんなハルトに、キリトが声を掛ける。
「そろそろ機嫌直せよ。俺が《ビーター》って呼ばれてたことは事実なんだし、お前がそこまで気にすることないだろ?」
「・・・一層のボス攻略からもう二年も経つのに、まだ君を悪いように言う人がいるんだ。君がどんな思いでその異名を背負っていたのかも知らないで・・・友達があんなこと言われて、怒るなって言われても、少なくとも僕にはできない」
「ごめんなさい。後で私から言っておくわ」
そう言うと、アスナは暗い顔のままポツリと話し出す。
「昔の血盟騎士団はもっと統率が取れていて、今日みたいに護衛を付けることなんて無かったわ。でも、最近は最強ギルドなんて言われて、ギルド自体がどんどんおかしくなっちゃって・・・」
暗い顔で呟いていたアスナだったが、すぐさま表情を取り繕い、二人に笑顔を向けた。
「まぁ、大したことじゃないから、あなた達が気にする必要はないわ。それよりハルト君。ハルト君が住んでる家まで後どのくらいなの?随分歩いたけど、もうすぐ主街区を抜けるわよ」
「僕たちの家は、主街区を抜けた所にあるんだ。だから、もう少しだけ歩くんだ」
「へぇー、そうなんだ。私が住んでいる場所がこの辺りだから、少し距離があるわね」
「その分、値段はここら辺の家より少し安かったけどね」
そんな会話をしながら歩いていると、主街区を抜けて、そこから更に数分歩いたところで、ハルトのホームに着いた。
「ここが僕たちが住んでいる家だよ」
「わぁー、素敵な場所ね」
「凄いな。これだけ立派な建物なのに、主街区のホームより安いのか・・・」
ログハウスを見て、感嘆の声を上げるキリトとアスナ。
そんな二人に微笑みながら、ハルトが玄関のドアを開けると、中から私服のコハルとナエが出迎えてくれた。
「ただいま、二人共」
「お帰り、ハルト」
「パパ、おかえりなさい。あれ?その人達は誰ですか?」
ハルトを出迎えたナエが、彼の後ろにいたキリトとアスナに気づいた。
「紹介するよ。こっちの黒い服の人がキリトで、その隣の白い服の人がアスナだ」
「初めまして、キリトさん、アスナさん。ナエです。よろしくお願いします」
「あ、あぁ、よろしく」
「よ、よろしくね、ナエちゃん」
挨拶してきたナエに、キリトとアスナは戸惑いながらも挨拶を返す。
互いに挨拶を済ませたら、今度はコハルがキリトとアスナに話しかける。
「お久しぶりです。キリトさん、アスナ」
「久しぶりだな。その様子だと、ハルトとは上手くやってそうだな」
「フフッ、最近はあまり顔を見かけなくなったけど、前よりも元気そうでなによりね。これも、ハルト君と結婚したからかしら?」
「も、もう、二人共・・・!」
二人にからかわれ、顔を赤くしながらも、コハルは二人を家の中に招いた。
そして、リビングに来たところで、キリトがコハルに話しかける。
「ところで、あの子が前に言ってたナエ、で良いんだよな?この辺りの森で見つけたって言ってたけど・・・」
「ごめんなさい。その話はまた後でします。それよりキリトさん、噂のS級食材は・・・」
「あぁ、そうだな。これだ」
「ふむふむ、なるほど・・・」
テーブルの上に置いた《ラグーラビットの肉》を見つめながら、顔に手を当てて考え込むコハル。
そんな彼女にアスナが声を掛ける。
「ねぇ、コハル。料理なんだけど、私も手伝っていいかしら?」
「え?うん、別に構わないけど、アスナって<料理>スキルはどれくらいなの?」
「フフッ、先日コンプリートしたわ」
「ま、マジかよ・・・!?コハルに続いてアスナまで・・・!」
「本当!?それなら、大歓迎だよ!着替える必要があると思うから、奥の寝室に案内するね」
驚くキリトをよそに、コハルは嬉しそうな顔でアスナを寝室に案内した。
女子二人が奥の部屋に行ってしまい、取り残される男子たち(&ナエ)。
「・・・女子って、どうしてこんなに料理にこだわるんだろうな?あんなスキル、ちょっと上げる程度で十分だろ」
「うーん、価値観の違いとかかな?ていうか、君はそのちょっとすらも上げてないだろ」
「ぐうの音もありません・・・」
ハルトに指摘されて、気まずそうに顔を逸らすキリト。
しばらくして、コハルとアスナが戻って来た。
「お待たせ、二人共」
二人に声を掛けながら、アスナは私服に着替えた姿を披露する。
「へぇー、似合ってるねアスナ。キリトもそう思う?」
「え?あ、あぁ、似合ってると、思うぞ・・・」
その姿を見て、笑顔で称賛するハルトに対して、キリトは若干頬を赤く染めながら褒めた。
そんな二人に微笑を返したアスナは、視線をコハルに移して問い掛ける。
「それで、作る料理はもう決まってるの?」
「うん、シチューにしようと思う。人数もいるし、シチューなら余計な手間を考えないで作れるし、たくさん食べれるからね。勿論、食材を持って来たのはキリトさんだから、リクエストがあれば、変えようと思ってるけど・・・」
「俺はどれでも構わないよ。元々、頼んでもらっている身だ。文句は言わないさ」
キリトから許可をもらい、コハルとアスナは早速調理を開始した。
二人共、<料理>スキルをコンプリートしてるだけあって、作業を分担しながら手際よく料理を進めている。
ちなみに、二人が料理してる間、私服に着替えたハルトとキリトは、ナエと一緒にトランプで遊んでいた。
やがて、シチューと付け合わせのサラダが完成し、コハルとアスナは作った料理を皿に盛りつけたら、テーブルの上に置いた。
「よし!これで完成!」
「皆、できたよー!」
コハルがハルト、キリト、ナエの三人に呼びかけると、三人はトランプを中止して、テーブルに置かれたシチューを目にする。
「おぉ・・・!これは美味そうだな」
「いい匂いです・・・!」
ゴロゴロと切り分けられた大きな肉が入ったシチューを見て、感嘆の声を上げるキリトとナエ。
五人は椅子に座り、それぞれの顔を見合わせた後に手を合わせる。
「「「「「いただきます」」」」」
そう言うと、一斉にスプーンを手に取り、肉入りのシチューを口にする。
「(!?・・・お、美味しすぎる・・・!)」
一口入れた瞬間、とろりとしたシチューのソースが流れ込み、肉を一嚙みするごとに肉汁の旨味が口いっぱいに広がる。
あまりの美味しさに、ハルトは喋ることを忘れ、何度もスプーンを往復させる。
他の四人もハルトと同じ気持ちなのか、黙々と美味しそうに食べ進めていた。
そうした甲斐もあって、気づいたら、五人はあっという間にシチューと付け合わせのサラダを食べ切ってしまった。
「はぁ~、美味しかったぁ。S級食材なんて、初めて食べたわ。今まで頑張って生きて良かったぁ」
「そうだな。俺も同じ気持ちだよ」
満足そうに呟くアスナに共感するキリト。
すると、ナエがあくびをしながら眠たそうな顔をした。
「ふわぁ~、お腹いっぱい食べたら、何だか眠たくなってきました・・・」
「ナエちゃん、今日もいっぱい遊んだからね。先に寝よっか」
コハルがそう言うと、ナエは頷き、そのまま二人は寝室に向かった。
二人が寝室に入り、ハルト、キリト、アスナの三人になったところで、アスナがハルトに話しかける。
「ねぇ、ハルト君。あの子、この辺りの森で見つけたって言ってたけど、他に一緒だった人はいなかったの?例えば、親とかは・・・」
「残念だけど、彼女を見つけた時、周りに人の気配なんてこれっぽちも無かったよ。親を探すにしても、ナエ自身記憶を無くしているし、サーシャさんの所でも、ナエみたいな子を見たこと無いんだってさ」
「ただの迷子って訳でもなさそうだな。カーソルが無いってのも不自然だ。SAOなら、例えNPCであっても、カーソルはあるはずだ」
「バグだったら、まだ楽なんだけどなぁ・・・ナエに関しては、色々謎だらけだよ」
そう言って、困った顔をするハルト。
そこに、丁度コハルが寝室から戻って来た。
「お待たせ。ナエちゃんを寝かすのに、少し時間掛かっちゃった」
「コハル、事情は大方ハルト君から聞いたわ。あなた達が最近、攻略に顔を出せない日が続いている理由も」
「・・・ごめん。でも、私もハルトもナエちゃんを放っておけなくて・・・」
「分かってる。あなた達なら、放っておかないって思ったもの。そんな事情があるんじゃ、攻略に参加できない日が続いても仕方ないわよね。今後も余程の事が起きない限り、攻略に参加しなくても大丈夫よ。他の皆には、私が誤魔化しておくから」
「・・・ありがとう、アスナ」
こちらを気遣うアスナに、コハルはお礼を言った。
「それにしても、ホント不思議よね。この世界に来てから、二年が経つのに、なんだかこの世界で産まれて、ずっと過ごしてきた。そんな感じがする」
「・・・そうだな。俺も最近、現実世界の自分を忘れそうになることがあるんだ」
アスナの言葉に共感しながらキリトが喋る。
ハルトもまた、二人と同じ気持ちなのか、少し表情を暗くさせながら口を開いた。
「前にトウガが言ってたんだ。ゲームの中の世界で暮らすなんて、普通は有り得ないことだけど、最近はその有り得ない日常が、自分たちのいつも通りの日常になりかけているって」
「それって・・・SAOでの暮らしが、現実世界での暮らしそのものみたいになっているってこと?」
「うん。トウガだけじゃない。そんな風に思っている人が、最近増えてきているんだ」
「・・・皆、この世界に馴染んできているってことね」
アスナはそう言いながらも、強い意志を瞳に宿して言う。
「でも、私は帰りたい。やり残したこと、いっぱいあるし・・・」
「・・・うん、そうだね。僕もそう思う。現実世界に帰ったら、やらなきゃいけないこともあるし、知らなきゃいけないこともあるんだ。それに・・・」
ハルトは一旦言葉を区切り、真剣な表情で言った。
「もし無事に現実世界に帰れたら、僕はさ・・・コハルや皆に会いたいって思っているんだ」
「皆?それって、現実での俺やコハル達のことか?」
「うん。だって、せっかくこの世界で出会えて、友達になれたんだよ。現実に戻ったら、もう二度と会えないなんて嫌じゃないか。この世界で手に入れた絆を、この世界の中だけで終わらせたくない。これから先の未来にまで繋げていきたい」
「そうだな・・・俺にとって、お前はこの世界を通じて出会えた仲間でライバルだ。そして・・・大切な友人だと思っているよ。勿論、コハルもな」
「私も同じ気持ちよ。最初は一刻も早く現実世界に帰らなくちゃって毎日考えてた。でも、キリト君やコハル達と出会って、この人たちといつまでも一緒にいられたらいいなって思うようになったから」
「私もそう思う。現実世界に帰っても、ハルトやアスナ達と一緒にいたい」
ハルトの言葉に共感するように、キリト、アスナ、コハルの三人はそれぞれの想いを語った。
皆、自分と同じように考えており、それを嬉しく思ったハルトは微笑を浮かべた。
「皆、考えている事は一緒ってことか・・・」
「だな。俺らって案外、似てるのかもしれないな」
「それはないわ。少なくとも、キリト君と似るのだけは、勘弁してほしいわね」
「うん、それは私も分かる」
「おい!どういう意味だ!?お前ら!」
「フフッ、そのままの意味よ」
女子二人にツッコミを入れたキリトに、アスナは微笑みを返すと、何か決心した顔になりながら口を開いた。
「よし、決めたわ。明日、この四人で久しぶりにパーティー組みましょう」
「な、何ィ!?」
いきなりの提案に驚くキリト。
彼は二十五層でアスナと別れてから、ずっとソロで戦っており、誰かと共に戦うことはほとんど無かった。何より、「月夜の黒猫団」の件があってから、彼はパーティーそのものを敬遠していた。
だからこそ、突然のアスナの申し出は、今まで一人で戦い続けてきた彼にとって、衝撃的な出来事であった。
「ど、どうしたんだよ急に。俺たちとパーティーを組むって・・・」
「別に深い意味は無いわ。ただ、久しぶりにこの四人でパーティーを組んでみたいと思っただけよ」
「いいね!アスナとパーティーを組むの、久しぶりだから楽しみだよ!ハルトもそう思うよね?」
「そうだね。普段はギルドの仕事で忙しいから、一緒に戦う機会があまり無いし、アスナがいれば、百人力だから、こっちも大歓迎かな」
しかも、ハルトとコハルの二人は乗り気だった。
既に自分以外はパーティーを組む気満々で、キリトは更に焦り出す。
「ま、待ってくれ!アスナ、お前自分のギルドはどうするんだよ!?あの護衛は!?」
「うちはノルマとか特に無いし、彼は置いていくつもりよ」
「なっ!?じ、じゃ、二人はどうなんだよ!?ナエの面倒を見ないといけないから、攻略に参加できないだろ!」
「あぁ、それなら心配いらないよ。明日、サーシャさんの所に預けておくから」
次々と退路を塞がれて、逃げ場がなくなるキリト。
「それで、どうするの?後はキリト君だけだけど・・・」
アスナが最終確認するかのように問い掛ける。
最早選択肢が一つになったキリトは、一度心を落ち着かせ、冷静になったところで口を開いた。
「・・・足を引っ張らないなら、付いてきても――"ブンっ!"――いいっ!?」
瞬間、ナイフが物凄い速さでキリトの額に迫り、額を突き刺す数ミリ手前で止まった。心なしか、ナイフにはソードスキルのライトエフェクトが纏っているように見える。
キリトはおずおずと正面を見ると、アスナが手にナイフを持ちながら、こちらを睨みつけていた。
「わ、分かりました。参加します・・・」
「ウフッ」
素直に参加を了承したキリトの言葉を聞き、アスナは満足そうに笑った。
「「(アスナさん、怖ぁ・・・!)」」
その光景を間近で見ていたハルトとコハルの顔が引き攣っていたのは言うまでもないだろう。
・護衛の男
別名、クラディール。残念ながら、この先彼の出番は無いです。裏でひっそりと退場させる予定です。まぁ、クズだし、誰もこいつの出番なんて望んでないでしょう(笑)。
今回は《ラグーラビットの肉》の調理及びハルト、コハル、キリト、アスナの原作主人公&ヒロインとSAOIF主人公&ヒロイン四人による久しぶりの会話でした。
次回は七十四層攻略、ボス攻略からユニークスキル発動まで行けるといいな・・・