ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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ep.55 咎人たち

翌日、教会で一夜を明かしたハルト達は、複数ある大テーブルの席について朝食を食べている子供たちに圧倒されていた。

 

「これは凄いな・・・」

 

「そう、だね・・・」

 

キリトとアスナもこの光景に驚いている。

 

「フフッ、でも、素敵な光景だよね」

 

「ここの子供たちは皆元気だからね。いいことだよ」

 

ハルトとコハルは何度かここに訪れているため、この光景も見慣れており、無邪気に朝食を食べる子供たちに微笑みを向けていた。

そこにサーシャが話しかける。

 

「毎日こうなんです。ハルトさん達はご存知かもしれませんが、ここの子供はこのゲームが開始した直後に現実世界に帰れなくなったせいで、心に傷を負ってしまった子達なんです。それを見て、放っておけないと思って、この教会で一緒に暮らすことにしたんです」

 

「そうなんですね。それでサーシャさん、ユイちゃんのことなんですけど・・・」

 

アスナはユイと出会った経緯とここを訪れた理由をサーシャに話した。

話を聞いたサーシャは、少し顔を暗くしながら首を横に振った。

 

「残念ですけど、ユイちゃんも《はじまりの街》で暮らしてた子ではないと思います。私は毎日、困っている子供がいないか《はじまりの街》を見て回っているのですが、ユイちゃんみたいな子は見たことないです」

 

「そうですか・・・」

 

アスナは顔を俯かせて残念そうな顔をする。

今度はハルトが昨日見た碧の騎士について質問する。

 

「昨日の碧の騎士は何ですか?僕らが前に来た時は、そんな人いなかったし、聞いたこともなかったんですが・・・」

 

「あの人は、ここ最近《はじまりの街》に現れるようになって、ここに住んでいる人達に食料やコル、生活品を分けたり、昨日みたいにプレイヤーから税金を巻き上げようとしてる軍を追い払ってるみたいなんです」

 

「へぇー、騎士を名乗るだけあって、結構人助けしてるんですね」

 

「はい。ですが、こちらが何かお礼を渡そうとしても、『俺はあなた達からお礼をもらう資格はありません』って言って、断られるんです」

 

「なんだか、不思議な人ですね。でも、子供たちを助けてくれたし、悪い人ではなさそう」

 

碧の騎士の話を聞いて、悪い人ではないと結論付けるコハル。

 

トントン

 

その時、ノック音が部屋に響き、全員が入口の方を見た。

サーシャが対応しようと席を立ち、念の為ハルト達も付いていく。

入口の扉を開けると、一人の女性が立っていた。

 

「え?ユリエールさん!?」

 

「!? あなたはコハルさん。それにハルトさんも・・・!」

 

扉の先に立っていたのは、嘗てアインクラッド第十層でハルト達と行動を共にした元MTDのメンバーで、現在は軍に属しているユリエールだった。

予想だにしなかった人物の来訪に驚くコハル。ユリエールもまた、予想外の再会に驚いていた。

そんな中、彼女のことを知らないキリトが少し警戒した様子でハルトに話しかける。

 

「知り合いか?」

 

「うん。この人はユリエールさん。元MTDのメンバーで、今は軍に所属している」

 

「軍の人間なんだよな・・・まさか、昨日のことを抗議しに・・・!?」

 

キリトとアスナは警戒を強めるが、ハルトは二人を落ち着かせるように言う。

 

「大丈夫。この人はそんなことをする人じゃない」

 

「ハルトさんの言う通りです。寧ろ、このことに対して、謝罪させてください。碧の騎士が現れてくれたおかげで、未遂に終わりましたが、同じ軍の者がこのような非道をしてしまい、申し訳ございませんでした。その恥を承知の上で、ハルトさんとコハルさん。そして、キリトさんとアスナさん。最前線で戦う皆さんにお願いがあって来ました」

 

一度頭を下げて謝罪した後に、ユリエールは真剣な眼差しをハルト達に向ける。

ハルト達も只事ではないと感じ、ひとまず話を聞こうとした瞬間、新たに声を掛けられた。

 

「その話、俺にも詳しく聞かせてくれるか?」

 

「!? あんたは・・・」

 

そう言って、ハルト達の前に現れたのは、昨日の揉め事を解決してくれた碧の騎士だった。

 

 

 

 

ユリエール。そして、碧の騎士を教会に招き入れたハルト達は、ユリエールから話を聞いていた。

 

「軍は元々リーダーのシンカーが作ったMMOトゥデイという名のギルドで活動してました」

 

「それは私も知ってます。私とハルトは前に聞いてますから。MTDが《はじまりの街》に住んでいる人の為に、色々支援をしていることも」

 

「だからこそ、MTD・・・いや、軍から悪い噂が広がっていると聞いた時は、正直信じられなかったです。だけど、前に僕らが《はじまりの街》で見たのは、この街に住んでいる人達から税金を巻き上げようとする軍の笑い声だった」

 

コハルとハルトの言葉に、ユリエールは顔を俯かせながら言葉を続ける。

 

「お二人の言う通り、私たちは・・・いいえ、シンカーは多くの人をこの身を削ってまで助けようとする人でした。しかし、ある日私たちは一人の男をMTDに招き入れました。思えば、それが全ての始まりでした・・・」

 

「一人の男?・・・そいつがいったい何をしたんだ?」

 

「合併したんです。彼が元々率いていたギルドとMTDを。それでできたギルドが今のアインクラッド解放軍です。結果的にギルドは大きくなりすぎて、内部分裂するようになりました。そんな中、シンカーと対する形で作られたのが、その男を中心とした一派です」

 

「その男は、いったい誰なんだ?」

 

「・・・あなた方もよく知っているはずです。元アインクラッド解放隊のギルドリーダー、キバオウ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ユリエールから聞かれたその名前にハルト達四人。そして、何故か碧の騎士も大きく反応した。

 

「そんな!確かに、性格は少し・・・いや、かなり悪かったけど、キバオウさんは他のプレイヤーに迷惑を掛けるようなことをする人じゃありません!」

 

コハルが叫ぶが、ユリエールは首を横に振る。

 

「残念ながら事実です。キバオウ一派は徐々に勢力を増していき、効率の良い狩り場の独占や一般のプレイヤーに徴税と称した恐喝紛いの行為をするようになりました」

 

「・・・信じられないわ。あの人がそんなことを命じるなんて」

 

嘗ての不器用ながらもギルドをまとめていた彼の姿を知っているからこそ、アスナはキバオウの行いを聞いて、信じられないと言わんばかりの顔をする。

 

「当然、そんなことを続ければ、悪い噂が広がるのは時間の問題です。ゲーム攻略を蔑ろにするキバオウの行いに軍の不満はどんどん大きくなって、焦ったキバオウはハイレベルのプレイヤーのパーティーを最前線に送り出しました」

 

「それが、コーバッツさん・・・」

 

アスナが七十四層で散ったコーバッツの顔を思い浮かべる。

 

「結果はあなた方の知っている通りです。キバオウはこの出来事で糾弾され、もう少しで彼を追放できると思ったその時、彼は強行策に出ました」

 

「強行策?」

 

ユリエールの言葉に首を傾げるキリト。

その顔は、次の彼女の言葉で驚きに変わった。

 

「キバオウはシンカーを罠に嵌めて、彼をダンジョンの奥深くに置き去りにしたんです・・・!」

 

「なんですって!?」

 

「《転移結晶》はどうしたんですか?・・・まさか、シンカーさんは丸腰で!?」

 

驚くコハルの横でハルトがそう聞くが、ユリエールは無言のまま何も答えない。

そのことから、シンカーは《転移結晶》どころか武器すらも装備しないでキバオウの誘いに乗ってしまったと予想した。

そして、その予想は当たっていた。

 

「彼は良い人過ぎたんです。キバオウの丸腰で話し合おうという言葉を信じて・・・!」

 

「・・・キバオウは、その後どうなったんだ?」

 

「キバオウがしたことは悪質なポータルPKです。今は《黒鉄宮》に閉じ込めています」

 

キリトの質問に答えるユリエール。

 

「シンカーが置き去りにされたダンジョンは、まだ分かっていません。キバオウはずっと黙秘を続けていて、しらみつぶしに探そうにも、私のレベルではダンジョンの奥深くまでは辿り着けない。そんな時、物凄く強いプレイヤーが《はじまりの街》にやって来たと聞いて、ここに来たんです」

 

そう言って、ユリエールは勢い良く頭を下げた。

 

「お願いします!シンカーを助けてください!私一人ではダンジョンを突破できない。軍の助力も当てにできない今、あなた方だけが頼りなんです!どうか、どうか・・・!」

 

「ユリエールさん・・・分かりました。私たちが必ず――」

 

「待って、コハル」

 

コハルがユリエールの頼みを引き受けようとしたが、そこに待ったを掛けたのはアスナだった。

見ると、キリトも深刻な顔をして、そう簡単に頷けないといった様子だ。

 

「私たちにできることなら力を貸して差し上げたいと思っています。でも、こちらであなたの話が正しいのか裏付けをしないと、私はそのお願いに頷くことができません」

 

「そうだな。俺もアスナと同じ意見だ。いくらハルト達の知り合いとは言え、軍にあまり良い印象が持てない以上、話の真偽が分かるまで、簡単に動くことができない・・・」

 

「そんな・・・!」

 

ユリエールは悪い人ではない。初めて会う二人でも、それは感じられた。

しかし、軍の今までの悪行を知っていると、いくら友人の知り合いとはいえ、簡単に頷くことはできなかった。

何とか説得しようとコハルが再度口を開こうとしたが、その前にユリエールが必死に懇願する。

 

「無理を言ってるのは分かってます!でも、彼が今どうしているのかと思うと、おかしくなりそうで・・・!」

 

涙を流しながら懇願するユリエールを見て、キリトとアスナに迷いが生じる。

すると、今までの話を黙って聞いていた碧の騎士が席を立って、キリトとアスナに頭を下げた。

 

「俺からも頼めないだろうか?」

 

予想外の人物からの懇願に驚く二人をよそに、碧の騎士は言葉を続ける。

 

「確かに、今の軍を見れば、君たちが疑念を抱くのも無理はない。俺は軍の腐敗を《はじまりの街》で何度も見てきたからな。君たちの気持ちも理解できる。だけど、軍の中には腐敗を少しずつ変えていこうとする人達もいる。ユリエールさんやシンカーさんもそのうちの一人だ。だから、どうか力を貸して欲しい。頼む」

 

「あんたは・・・」

 

碧の騎士の言葉を聞いて、二人の心が更に揺れ動く。

そして、チェックメイトと言わんばかりにユイが口を開いた。

 

「大丈夫だよ。その人、噓ついてないよ」

 

「ゆ、ユイちゃん、分かるの?」

 

「うーん、上手く言えないけど・・・分かる」

 

そう語るユイの目は真剣だった。

ユイの顔を見て、キリトは遂に折れた。

 

「俺たちの負けだな。疑って後悔するより、信じて後悔しようぜ。行こう、アスナ。きっと、なんとかなるさ」

 

「・・・相変わらず吞気な人ね」

 

アスナもまた、ユイとキリトの言葉で折れて、ユリエールの方を向いて口を開いた。

 

「先程の言葉を撤回します。微力ながら、私たちもお手伝いさせていただきます」

 

「ありがとうございます・・・!」

 

「良かった・・・」

 

頭を下げるユリエールを見て、コハルもホッと安堵した。

その横で、ハルトはシンカーの居場所について問う。

 

「それでユリエールさん。シンカーさんがいるダンジョンについて、何か心当たりはありませんか?」

 

「すみません。第一層にあるダンジョンの奥にいることは分かっていますが、どのダンジョンかまでは分かりません。キバオウなら、何か知っていると思いますが、未だに黙秘を続けています」

 

「そうなると、虱潰しに探すしかないか。でも、あまり時間が無い以上、一つ一つ探索してる暇は無さそうだな」

 

キリトが難しい顔をしながら呟く。

第一層と言えども、フィールドのあちこちにダンジョンがあり、それらを全て調べていたら時間が掛かり、既に三日も行方不明になっているシンカーの身に何が起こるか分からない。

キリトの呟きに、他の者達も暗い顔をする中、ハルトが意を決した表情で言った。

 

「ユリエールさん、お願いがあります・・・キバオウに会わせてくれませんか?」

 

 

 

 

《黒鉄宮》の地下深くにある牢獄。

そこは、犯罪を犯したプレイヤーを閉じ込めておく為の場所であり、元オレンジギルドの「タイタンズハント」や「ラフィン・コフィン」のプレイヤー達もここに入れられている。

そこの一室に入れられているキバオウは、目を閉じたまま腕を組んで、黙々と椅子に座っていた。

ふと、足音が聞こえてきて、閉じていた目を開けると、自身が罠に嵌めたシンカーの側近であるユリエールが立っていた。

 

「あなたに面会したい人がいます。くれぐれも妙な真似はしないように」

 

面会と聞かれて首を傾げるキバオウ。

すると、ユリエールと入れ替わるように複数の人物がキバオウの前に立った。

その人物たちは、キバオウの知っている顔だった。

 

「久しぶりだね。キバオウ」

 

「・・・なんや、ジブンらか・・・」

 

思いもよらなかった人物の登場に内心驚いたが、キバオウはぶっきらぼうな態度で、こちらに話しかけてきたハルトに言葉を返す。

 

「ワイを笑いに来たんか?ほな、好きなように笑ったらええや」

 

「悪いけど、お前を笑いに来る程暇じゃないよ・・・単刀直入に言うぞ。あんたが騙したシンカーさんをどこに飛ばした?」

 

横にいたキリトがそう聞くが、キバオウは鼻で笑った。

 

「ハッ、わざわざそんなん聞くために、こんな辛気臭い所まで足を運んだんかい。ご苦労なこった。せやけど、ワイがそれを素直に教えると思うか?教えたとしても、もう三日も経ってんや。今頃、モンスター共に骨の髄まで食われとるちゃうんか?」

 

「っ!?」

 

キバオウの物言いに、ユリエールが思わず激昂しそうになる。

しかし、その隣で碧の騎士がキバオウの前に立ち、頭を下げた。

 

「頼むキバオウさん。正直に答えて欲しい」

 

頭を下げる碧の騎士を見て、キバオウは一瞬呆けるも、すぐさま悪態付きながら言葉を返す。

 

「なんやジブン。散々ワイらの邪魔をしといて、今度はワイに説教か?知っとるで、お前の事は部下からよう聞いとるからな。ヒーロー気取りで《はじまりの街》の連中にちやほやされて、いい気分やったろうな?」

 

「そんなつもりはない。俺はただ、過去に犯した罪の償いの為に動いてるだけだ」

 

「ハッ!ワイらからすれば、ただの迷惑や。このクソゲーを攻略しようともせず、今まで吞気に道草食ってた奴が偉そうに言いおって。ワイに説教したけりゃ、こいつら(ハルト達)みたいに最前線で死に物狂いで戦ってから言うんやな!」

 

「・・・そうだ。今も尚、最前線で戦う彼らと違って、俺には君がしたことを咎める資格は無い」

 

あっさりと認めた碧の騎士に、キバオウは顔をしかめる。

そんなキバオウの心情をよそに、碧の騎士は頭に被っている兜に両手を置いた。

 

「俺は嘗て、最前線で戦っていた。まだ、二大ギルドが誕生してなかった時の攻略組のリーダーとして・・・」

 

そう言って、碧の騎士は頭に被っている兜を取った。

 

「「「「「!?」」」」」

 

その顔が露わになった瞬間、ユリエール以外の全員が驚愕の表情となる。

何故なら、兜を取ったその青年の顔は、彼らにとって見覚えのある人物だったから。

 

「だが、それはもう過去の話だ。今の俺はただの咎人だ。対立するギルドの亀裂を止めることができず、リーダーという責務から逃げ出した臆病者に過ぎない」

 

青い髪を揺らし、髪の色と同じ青い瞳でキバオウを見つめる青年。

そう、まだALSとDKBの二大ギルドができていなかった頃、リーダーとして攻略組をまとめていた元βテスターのプレイヤー、ディアベル。

そんな彼が、今ここで碧の騎士として、嘗て己を慕ってくれたキバオウの前に立っていた。

 

「なんでや・・・なんでディアベルはんがここにおるんや!」

 

しばらく啞然としてたキバオウは、凄い勢いで顔をディアベルの方に近づけながら叫んだ。

鉄格子を掴みながらディアベルを睨むその顔は、驚き、嬉しさ、怒りなど様々か感情が混ざっていた。

 

「あんさんがいなくなってから、ワイらがどれだけ苦労したか分かってんのか!?攻略組は何回も衝突して、その度にワイやリンドはんが止めて、いつ崩壊するかも分からんギリギリの状態だった!」

 

「・・・あぁ、知っているよ。二大ギルドの仲の悪さは、いつも聞いてたから」

 

「!? だったら、なんでもっと早く顔を出さなかったんや!あんさんがいれば、皆あんさんに付いていったはずや!そうなれば、犠牲者だった減らすことができた!ワイの仲間も死なずに済んだはずや!」

 

「よせキバオウ。あの時の出来事は、例えディアベルがいたとしても、防ぎようがなかった。あんただって分かっているはずだろ?」

 

キリトに咎められ、落ち着いたキバオウだが、暗い顔のまま言葉を続ける。

 

「・・・二十五層で大勢の仲間を失った後、失った戦力を立て直すことができず、ALSは三十五層の攻略で最前線を離脱してもうた。他のメンバーは次々とDKBや血盟騎士団に移籍して、残ったのはワイを含むごく僅かな人数。絶望にくれたワイだったが、そんなワイをシンカーはんが拾ってくれた」

 

二十七層以降、ALSはどんどん衰退していき、リーテンを始めとした主力メンバーもDKB改め「聖竜連合」、或いは「血盟騎士団」に移籍してしまい、残ったのはキバオウを慕うごく僅かなプレイヤーのみ。

最前線へ戻ることも叶わず、絶望したキバオウを《はじまりの街》で見つけたシンカーは、彼をMTDに引き入れたのだ。

 

「シンカーはんに拾われた後、ワイは心を鬼にした。NPCを囮にした作戦だって平然と考えたし、軍を強化するために、うまい狩り場やボロいクエストを独り占めして、この《はじまりの街》でのうのうと暮らしとる連中から税金を巻き上げた・・・それも全部、全部!このクソゲーを少しでも早くクリアしたいと思ったからや!そうしないと、ワイに付いて来て、命を落とした連中が報われんやろうが・・・!」

 

先程までの勢いと一転して、弱々しく呟くキバオウ。

 

「なんでや・・・なんで、いなくなったんや・・・!あんさんがいなくならなかったら、ワイはここまで苦しむことはなかった・・・!」

 

そのまま涙を流しながら、キバオウは床に膝を付いた。

そんな彼の様子に、ハルト達もまた顔を暗くする。

キバオウはお世辞にもいいリーダーとは言えなかった。何かあれば、DKBのリーダーであるリンドと喧嘩するし、彼やALSが原因で揉め事やトラブルが発生することも少なくなかった。

それでも、このSAOを攻略しようとする想いは強く、二層の頃からずっとALSをまとめていた姿を身近で見てきたからこそ、ハルト達は理解できた。

彼もまた、このデスゲームによって歪んでしまった被害者なのだと。

沈黙が続く中、キバオウの慟哭を黙って聞いていたディアベルが口を開いた。

 

「君の言う通りだよ。五層のボス戦の後、俺が早く君たちと合流していれば、ギルド同士が揉め合って、攻略が遅れたりすることもなかったかもしれない。だけど、俺は逃げ出してしまった。五層のボス戦で地下に落ちた後、俺は目の前の敵を相手に命からがら戦って、三日で何とか外に出ることができた。だけど、装備の破損が酷くて、元に戻すのに一ヶ月くらい掛かってしまった。何とか装備を整えて、最前線へ復帰できるレベルに至った時には、既に攻略組は二大ギルドを軸に構成されていて、そこに俺が戻ったとしても、一度自分勝手な理由でリーダーを降り、二大ギルドを生んだ原因を作った男を果たして皆が受け入れてくれるのか・・・皆から拒絶されるのが怖かった。だから、俺は皆と合流しないで、裏で情報屋に有益な情報を提供したりしながら攻略組のサポートをしてた。けど、二十五層でALSが半壊したと聞いて、俺は後悔した。もしあの時、俺が戻っていれば、二大ギルドの対立は止まり、犠牲者も減らすことができたんじゃないかって・・・どちらにせよ、俺がリーダーを降りてしまったことで二大ギルドが生まれ、攻略組は統率が取りづらくなってしまった。彼らを殺したのは、俺も同然だ」

 

「そんな!ディアベルさんは別に――」

 

悪くない、と言おうとしたコハルの言葉を遮り、ディアベルは真剣な表情で喋る。

 

「だからこそ、俺はその罪から逃げるわけにはいかない。俺は生きて、自分の罪を償っていかなければならない。キバオウさん、君も同じはずだ。二十五層のボス攻略で仲間を失って、悲しみに暮れていた君は、それでもいつか必ず最前線に復帰して、亡くなった仲間たちの為にも、このゲームをクリアしようと誓ったはずだ」

 

「・・・・・・」

 

ディアベルの言葉に、キバオウは何も答えない。

必ず最前線に戻り、このゲームを終わらせる。それは、嘗て二十五層で散っていった仲間との誓いだった。

この誓いがあったからこそ、キバオウは最前線を離脱してからも、何とかALSを立て直そうと奮闘した。

しかし、いつからか歯車が狂いだし、いつの間にか自分はその誓いすらも忘れ、攻略の為なら他人を傷つけても構わないと思うようになった。

今の自分を見て、彼らはどう思うのだろうか。きっと、失望するに違いない。

 

「俺たちは咎人だ。この罪はきっと、一生消えることはない。だからこそ、俺たちはこの先、生き続けなければならない。死んでしまった人達の為に、その想いを背負って生きること。それだけが、俺たちに残された唯一の償いだ」

 

「・・・やり直せるやろうか?ワイに・・・」

 

「やり直せるさ。その想いがあればきっと・・・」

 

そう言って、微笑むディアベルを見て、キバオウもまた、小さく笑みを浮かべた。

その瞳には既に涙や負の感情は無く、強い決意の光を宿しながら、キバオウはシンカーがいる場所を答えた。




・キバオウの処遇
原作では追放でしたが、この作品では牢屋に入れられています。つか、原作でも普通に犯罪案件だろあれ。よく追放で済んだな。

・ディアベル再登場
最後に登場した第五層のボス攻略から約3年。遂に再登場しました!めっちゃかかっとる・・・


ということで、碧の騎士の正体は(予想通り)ディアベルはんでした!原作では第一層で死んでしまい、SAOIFではSAOIF主人公の活躍で生存して、その後第五層のボス攻略で行方不明になってから未だに再登場しませんが、この作品(原作ルート)ではボス戦後何とか生き残り、碧の騎士として困っている人を助けながら贖罪の旅に出てました。
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