ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

73 / 95
今回でナエちゃん編完結です。


ep.57 いつまでも笑顔で

「アルカナシステムは元々、カーディナルのプログラムの一つで、このアインクラッドに存在するプレイヤー、NPC、エネミー、全てのオブジェクトに命を宿す役割を持っています。あなた達のその体も、現実世界のデータを基にアルカナシステムが作ったオブジェクトなのです」

 

「僕らのアバターが、そんな風に作られていたのか・・・」

 

アインクラッドの最下層で、ハルトとコハルはナエの説明を聞いていた。

 

「このソードアート・オンラインに存在するあらゆる命には、それぞれ役割があります。プレイヤーにはプレイヤーの。NPCにはNPCの。エネミーにはエネミーの・・・アルカナシステムもまた、自身が作り出した命に不具合が起きてないか日々監視する役割を持っています。そんなある日、アルカナシステムは一つの不具合を発見しました」

 

「不具合?」

 

「本来、NPCというものは、与えられたプログラム通りに動き、その役割を果たす存在です。アルカナシステムはNPCに命を宿すと同時に、予めカーディナルから用意されたプログラムを組み込んで、NPCに役割を与えています。各層にいる様々なNPCは、このようにして作られました・・・ですが、ある日一人のクエストNPCがアルカナシステムが与えた役割に反した行動を起こしました」

 

今まで忠実に従っていたはずのNPCが、自身が下した命令に背いた。その出来事は、アルカナシステムにとって予想外の出来事だった。

 

「その不具合は日を重ねるごとにどんどん増えていきました。度々増える不具合を危険視したアルカナシステムは、何度も演算を繰り返して、不具合の原因となっている存在を探していました。そして、遂にその原因を突き止めることができました。その原因こそが・・・」

 

「僕、なんだよね?」

 

深刻な顔で喋るハルトの言葉に、ナエはコクリと頷いた。

 

「自身が定めた役割通りに動かないNPC。その原因を作ったあなたをアルカナシステムはイレギュラーと判断し、あなたを監視するために、自身の分身体とも言える監視プログラムを送り込みました」

 

「それが・・・ナエ、なんだね」

 

「はい。ハルトさん、あなたと言うイレギュラーな存在を監視するために送られたリトルアルカナ。それが私です」

 

ナエはハルトを真っ直ぐ見つめながら語った。

コハルが恐る恐るナエに問い掛ける。

 

「それじゃあ、ナエちゃんは初めから噓をついてたの?」

 

「・・・コハルさんの言う通りです。私はあなた達に拾われてからずっと噓をついていました・・・ですが、私が記憶と役目を思い出したのは、あの森でハルトさんに拾われた後です」

 

「拾われた後?どうして・・・?」

 

「おそらく、ハルトさんに接触したら、私の記憶が元に戻るようプログラムされていたからだと思います。気を失っていた時、私の頭に私自身の記憶と主であるアルカナシステムからの命令が入ってきました。その後、あなた達の家で目覚めた私は、瞬時に記憶喪失を装い、名前を聞かれた時は咄嗟にナエという名前を名乗りました。後は、お二人の知っている通りです。私はあなた達の家で過ごし、ハルトさんを監視してました。ハルトさん、あなたのことをパパと呼んだのは、あなたとの繋がりを絶たないよう、親密な関係を築くことで、私という存在を手放せなくなると思ったからです」

 

ナエから告げられた真実。アルカナシステムから命令されていたとはいえ、記憶を取り戻しても尚、目的のために噓をつき続け、そのためだけにハルトをパパと呼んでいたその真意に、二人は言葉が出なかった。

コハルはショックを受けた様子で、泣きそうな顔をしながらポツリと呟く。

 

「全部噓だったの?私たちと過ごした時間も、思い出も全部・・・」

 

「・・・コハルさん。私たちは所詮誰かに作られた偽物の存在。この体も心も全部偽物です。本物を持つあなた達とは家族にはなれません」

 

そう語るナエの顔は、何処か悲しそうだった。

 

「結論を言います。ハルトさん、私はあなたを不具合の原因でないと判断します。前にお二人と一緒に冒険した時に湖で出会った人魚型のNPCは、本来ならあるクエストのイベントでプレイヤーの装備を盗むアクションを行います。ですが、彼女はクエストを受けてないのにプレイヤーの物を盗むというクエストNPCとして外れた行動をしました。しかし、その原因があなたにあったとは思えません。おそらく、システムの不具合が原因でしょう」

 

ナエは視線を部屋の入口の方に向ける。

 

「本来なら、この部屋はプレイヤーが入ることはできません。お二人がここにいられるのは、私がカーディナルに頼んで許可を貰っているからです。ですが、それもほんの僅かな間です。あまり長くいると、あなた達はカーディナルから異物と判断されて、消されてしまいます。そうなる前に、早くここから出てください。それで、私とお二人の関係も終わりです」

 

ナエの言葉から、ハルトは彼女がどれ程の覚悟で噓をつき続けてきたのか。そして、自分達との関係を終わらせようとしていることを理解した。

だが、それでもまだ聞かなければならないことがあった。

 

「ナエは・・・これからどうするんだい?」

 

「・・・私はアルカナシステムの一部です。その役割を終えた今、システムの権限をアルカナシステムに還元し、私自身は役割と記憶を失い、再び眠りにつきます」

 

「そんな!それじゃあ、ナエちゃんは・・・!」

 

「構いませんよ。役目を全うしたNPCは、記憶を消されて元に戻るか、消えてしまうかの二つです。私は所詮、システムの一部でしかないんです。例え、私が消えてしまっても、代わりはいくらでもいます。NPC(私たち)はそういう存在だから・・・」

 

そう言って、コハルに笑みを向けるナエ。

すると、その微笑みを見たハルトが、真剣な表情でナエに問い掛けた。

 

「それじゃあ・・・なんで、ナエは今泣いているんだい?」

 

「え?」

 

ナエはハルトが言った意味が理解できなかった。

 

「ナエ、君は言ったよね?僕たちとは家族になれない。自分が偽物の存在だからって。だったら、なんで涙を流すの?」

 

「・・・・っ!」

 

ようやくナエは自分の頬を伝う涙の存在に気づいた。

 

「な、んで・・・?私のシステムは正常なはずなのに、何処か不具合が・・・?」

 

困惑するナエに向けて、ハルトは優しく言った。

 

「違うよナエ。これは不具合なんかじゃない。ナエ自身の心だ」

 

「私の・・・心?」

 

「うん。僕らに心があるように、君にも心があるんだよ。この涙は紛れもなく本物・・・君が偽物じゃない証明だ」

 

ハルトはナエの涙を手で拭いながら言う。

そこにコハルも近づき、ナエに向かって叫んだ。

 

「ナエちゃん!一緒に帰ろう!例え、ナエちゃんが誰かが作ったNPCだったとしても、私はナエちゃんと一緒に過ごしたこの時間を噓にしたくない!ナエちゃんはどうなの?」

 

「言ってみてくれナエ。君の本当の気持ちを・・・」

 

「私は・・・」

 

コハルとハルトの言葉に、ナエが言いかけたその時だった。

 

ブーン!ブーン!

 

部屋中にアラートのような音が鳴り響いた。

 

「な、何!?」

 

「これは・・・まさか!?」

 

突然鳴り響いた音に驚くハルト達。ナエはこのアラート音に心当たりがあるのか、焦りを見せる。

 

『プロト0に不具合発生。これより、不具合の原因を排除します。繰り返します。これより、不具合の原因を排除します』

 

同時に部屋にアナウンスが響き渡り、ナエの前にあったモノリスが赤い輝きを放った。

そのアナウンスを聞いたナエは、焦った様子でモノリスに向かって叫んだ。

 

「待って!アルカナシステム!この人たちは不具合の原因じゃありません!この不具合は、私自身が引き起こしたものです!」

 

『デリートホール起動。対象のオブジェクトを消去します』

 

ナエの言葉を無視して、モノリスことアルカナシステムは前方に何やら黒い穴を出現させた。

瞬間、ハルトとコハルの体がその穴に引っ張られるような感覚が襲った。

 

「な、なにこれ・・・!?」

 

「吸い込まれる・・・!」

 

「逃げてください!それはデリートホール!その穴に吸い込まれたら、あなた達の体もデータも全て消去されます!この世界から二度と出られなくなります!」

 

ナエが二人に向かって叫ぶ。

それを聞いたハルトは、咄嗟に剣を地面に突き立て、もう一方の手をコハルに伸ばす。

 

「コハル!手を!」

 

ハルトに言われて、コハルはハルトの手を握る。

互いに手を繋ぎ、何とかデリートホールから離れようと踏ん張るが、穴から発せられる引力に耐え切れず、徐々に吸い寄せられていく。

 

「(このままじゃ、お二人が消去される!でも・・・)」

 

その様子を見ながら、ナエは葛藤する。

 

「(私はリトルアルカナ。アルカナシステムに作られた偽りの存在。主が決めたのなら、それに従うのが私の役目。だけど・・・)」

 

システムとして(アルカナシステム)が決めたことに従うか。

 

「(この人達と、もっと一緒にいたい、もっと話したい、もっと色んな場所に行きたい!だから・・・!)」

 

それとも、家族として(ハルトとコハル)を救うか。

ナエは意を決して叫んだ。

 

「私は!私の大切な人達を失いたくない!!」

 

瞬間、ナエはデリートホールとその奥にいるアルカナシステムに向けて両手をかざした。

 

「システム・アンロック!プログラム・アクティベーション・コード・ローディング・・・ローディング完了!ログイン・メインシステム!アクセス・コンプリート!コード名《プロト0》!ジェネレート・オールデリート!対象プログラム・・・《アルカナシステム》!」

 

『!? プロト0、何を・・・?』

 

「私にシステムの権限を譲渡したのが仇でしたね。アルカナシステム、私はあなたの従者ですが、同時に半身でもあるんです。あなたにできることが、私にもできるんですよ!」

 

勝ち誇るように言いながら、ナエは力強く宣言する。

 

「アルカナシステム!全ての機能を停止し、その役割を全てカーディナルに返還します!」

 

『理解不能。プロト0、マスターである、私が、消えれば、貴様も消滅、するというのに・・・』

 

「違う!私はナエ!私の大切なパパと・・・ママの娘です!」

 

アルカナシステムに向かって力強く反論するナエ。

その言葉に答えるかのように、アルカナシステムの赤い輝きが徐々に失われていく。

 

『理解不能、理解、不能・・・』

 

やがて、アルカナシステムの赤い輝きは全て消えて、元の黒いモノリスに戻った。同時に、前方にあったデリートホールも消滅した。

モノリスには既に輝きは無く、アルカナシステムはその機能を完全に停止させていた。

それを感じ取ったナエは、ゆっくりと口を開いた。

 

「・・・デリートホールの削除確認。これで、お二人が消されることは無くなりました・・・」

 

「ナエちゃん!」

 

床に倒れそうになったナエをコハルが抱き留める。

すると、ナエの体が突如光り出した。

 

「ナエ、体が・・・!」

 

「・・・私を生んだのはアルカナシステムです。そのシステムが機能を停止しれば、その一部である私が消えてしまうのは当然です」

 

そう語るナエの体は、徐々に薄くなっていた。

 

「そんな!ナエちゃん、こんなのって・・・!」

 

「泣かないでママ。アルカナシステムの一部でしかなかったこの命だけど、この小さな命に光をくれたのは、パパとママだった。二人と一緒にいると、私は心の底から笑顔になれた。私が笑うと、パパとママも笑顔になれた。そんな二人の笑顔が私は大好きだった・・・」

 

涙を流すコハルに優しく語りかけるナエ。いつの間にか、呼び方もコハルからママと変わっていた。

 

「だから、これからも笑顔でいて。パパとママが笑顔になれば、きっと皆も笑顔になれるから・・・」

 

「駄目だナエ!行ったら駄目だ!」

 

「嫌だよ!ナエちゃん!ナエちゃんがいないと、私笑えないよ!」

 

「大丈夫。パパとママなら、きっと皆を笑顔にできる。だって、二人は私の自慢のパパとママだから。それに・・・」

 

光に包まれながら、ナエはニッコリと笑った。

 

――例え枯れてしまっても、(ナエ)はまた芽吹くから・・・

 

その言葉を残して、アインクラッドの大地に産まれた小さな苗は、光の粒子となって消えていった。

 

 

 

 

翌日、キリトやサーシャ達と別れて、六十一層のマイホームに戻ったハルトとコハル。

別れた時は、なるべく平静を装っていたが、家の中に入ったら、玄関で迎えてくれるナエがいない事実に、コハルがポツリと呟いた。

 

「なんだか、静かになったね。昨日まではナエちゃんがいるのが当たり前だったのに・・・」

 

「うん・・・」

 

気落ちした様子で、二人は家の中に入り、リビングに向かうと、テーブルに一枚の紙が置いてあった。

行く前は、こんな所に紙を置いておらず、不思議に思ったハルトは紙を手に取る。

紙は折りたたまれており、表面には『私の大好きな人達へ』と書かれていた。

 

「これは・・・手紙?」

 

「これって、もしかしてナエちゃんが・・・!?」

 

コハルが驚いた顔で呟く。

ソファーに座り、手紙を開いてみると、文字がびっしりと並べられていた。そこに書かれていたのは、ナエからのメッセージだった。

 

『私の名前はナエ。産まれた場所はよく分かりません。気がついたら、暗い森の中にいました。そこは暗くて、とても怖い場所でした。周りにいた虫さん達も私を怖い顔で追いかけてきます。どこを走っても光は見えなくて、私の心は恐怖でいっぱいでした。そんな私を救ってくれたのは、世界で一番優しい私の大切な人でした。誰よりも優しくて、かっこいい私のパパです』

 

「ナエ・・・」

 

ハルトは少し照れくさそうに微笑む。

 

『私には記憶というものがありません。自分が何者なのか、それすらも分からなくなった私に、もう一人の大切な人は私を抱きしめて、記憶が戻るまでここにいてもいいよって言ってくれました。その時の温もりは、一生忘れられません。とても優しくて暖かい、私の大好きなママの温もりです』

 

「っ!?」

 

その言葉に、コハルは口元を手で抑えながら涙を流す。

 

『本当は気づいていました。私が人間でないことも二人の娘でないことも。それでも・・・噓であったとしても、私は二人の娘でありたい。いつまでもずっと、この人達と一緒に生きていたい。この想いはきっと、作られたものでも与えられたものでもない。私自身の心です』

 

そこに書かれていたものは、紛れもなくナエ自身の想いだった。

人間とNPC。そんなもの関係なく、ただ家族三人で生きたい。そんな浅はかな願い。

 

『この手紙を読んでいる時、私は既にあなた達の下にいないと思います。でも、私はいつか必ずもう一度お二人に会いに行きます。例えそこが、アインクラッドの中じゃなくても、この無限に広がる仮想世界の大地で必ず苗を植えます。だから、お別れがどんなに辛くても、どうか私が何よりも大好きな二人の笑顔のままでいてください。それが私のたった一つの願いです。私は二人の娘でいられて本当に幸せでした。ありがとう・・・私の大好きなパパと・・・ママ・・・

二人の娘、ナエより』

 

文章はここで終わっており、その下にはナエが描いたと思われるハルトとコハル、ナエの三人が手をつなぎながら笑顔で歩いている絵が描かれていた。

 

「ナエちゃん・・・!」

 

手紙を見たコハルは泣いた。その隣でハルトもまた泣いた。

ひたすらに泣いた後、ハルトは笑顔を作り、コハルに向かって喋った。

 

「・・・笑おう、コハル。今は辛いかもしれないけど、いつかナエがここに帰って来た時、ナエの大好きな笑顔でいられるように」

 

そう言われて、コハルも涙を拭いて笑顔で頷いた。いつの日か必ず、自分たちの娘が帰って来ることを信じて・・・

ログハウスの入口付近には、誰が植えたのか分からない一本の苗が風に揺られていた。




・デリートホール
今作オリジナルのシステム。アインクラッドで不要になった存在を完全に消去する。見た目はマリオギャラクシーのブラックホール。

・ナエのパパ呼びの真実
どうしたら監視対象とより親密になれるのかと考えた結果、監視対象をパパと呼ぶことに結論付けたナエちゃんでした。コハルに関しては、監視対象外なので、他のプレイヤーと同じ扱いで名前呼びしてました。そんな彼女も、最後の最後でママと呼んでもらえました。


ナエの手紙のシーンを執筆してる最中に、【Horizon Knot~君と見てた夢】が脳内に流れました。この曲について簡単に説明しますと、「ワンピース エピソードオブメリー」でゴーイング・メリー号と別れる時に流れた曲です(SAO関係ねぇ)。興味があれば、もう一度ナエの手紙のシーンを読むときに、この曲を聞いてみてください。
ナエちゃんはパパとママを守るため、アルカナシステムと共に消滅しました。いつの日かまた、彼女と再会できる日は来るのか・・・
そして、次回はいよいよアインクラッド編原作ルートの最終局面。七十五層のボス戦及びあの男との戦いです。
原作通りの展開になるのか?それとも、原作とは違った結末になるのか?どうか、最後まで彼らの物語を見届けてくれたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。