ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
ログインしたコハルの目に映ったのは暗闇の空間だった。
様々なセットアップを終えて、自身の体に感覚が宿ったのを感じた彼女は、足元から迫る虹色のリングをくぐり、ストンっと着地した。
そこから『アルヴヘイム・オンライン』と書かれたロゴとその下にキーボードが出現した。
アナウンスが流れ、内容からして、どうやら初期設定を行うようだ。
「ID、パスワード入力。名前は・・・Koharu。性別は女」
名前を入力する際に、一瞬戸惑いはしたが、コハルは自身のアバターを作成していく。
次に表示されたのはキャラクターの選択。この世界で生きるための種族を決めることだった。
種族は九種類あり、それぞれに多少の不得手がある模様。
名前はそれぞれ、火妖精サラマンダー、水妖精ウンディーネ、風妖精シルフ、土妖精ノーム、闇妖精インプ、鍛冶妖精レプラコーン、猫妖精ケットシー、音楽妖精のプーカ、影妖精スプリガン。
コハルは悩んだ末、シルフを選んだ。SAOでの彼女は短剣や細剣を主体としたスピード重視の軽装備だったのと、なんとなくこれが一番しっくり来たからだ。
『それでは、シルフ領に転送します。幸運を祈ります』
そんなアナウンスが流れ、コハルの体が光に包まれる。
次にコハルの視界に映ったのは、満点の星々と白い月に照らされた夜空だった。
下を見ると、町の明かりが一面に照らされている。恐らくここがシルフ領のホームなのだろう。
「――って、キャ!?」
突如襲い掛かる浮遊感と落下感覚に、思わず悲鳴を上げる。
そう、コハルの体は今まさに上空から地上へ落下しようとしていたのだ。
「キャァァァァァァ!!」
まさかの事態に、コハルは大声で悲鳴を上げるが、落下速度が止むことはない。
その時、突如全ての映像がフリーズした。
辺り一面のポリゴンが欠け、雷光のノイズが走り、徐々に辺り一面は何もない暗闇に包まれ、その中にコハルは落ちていく。
「え?」
思わず呆けたコハルだったが、次第に映像は光を映し出していき、何事もなかったかのように戻っていく。
再度辺りが月に照らされた夜空に変化する。下を見ると、そこには先程までの町の明かりは無く、暗い森が目に映る。
様々な現象が次々と起こり、半ばパニックになっているコハルだが、上空から真っ逆さまに落ちている状況に変わりはない。
「噓でしょォォォォォォ!!?」
星々彩る夜空の上で、コハルの悲鳴が響き渡るのであった。
場所は変わって、シルフ領付近の森の上空。
この場所でシルフとサラマンダーの部隊で激しい戦闘が行われていた。
「ヤァ!」
金髪ポニーテールのシルフの少女リーファは、目の前の敵に向けて太刀を振り下ろす。
振り下ろした太刀がサラマンダーの男の体を斬り裂くと、その体は消滅して、小さな赤い火が残った。
この世界で死んだ者はポリゴンではなく、小さな残り火を残して消滅するのだ。
敵を一人倒したリーファだが、その表情は優れない。
なぜなら、自分たちが残り三人しかいないのに対して、敵はまだ多数いるからだ。
リーファは気を引き締めて、迫り来るサラマンダー達を迎え撃つべく太刀を構えると、横からサラマンダーが、こちらに剣を振り下ろしてきた。
「このっ!」
「うっ!」
間一髪、サラマンダーが振り下ろした剣を太刀で受け止めるリーファ。
しばらくの間、剣を打ち合い、鍔迫り合いの状態になる。
しかし、単純な力ならサラマンダーの方が上なのか、リーファは徐々に押されていった。
「(このままじゃ・・・!)」
やられる。そう思ったその時、天から一筋の流星が降り注いだ。
その流星は急速に下降していき、両手に持っていた二本の刀でリーファを襲っていたサラマンダーを一閃した。
二本の刀で体を真っ二つにされたサラマンダーのHPは、あっという間にゼロになり、その体は消滅して、赤い炎と化した。
サラマンダーを斬った流星は、空中で体勢を整えながらその場にとどまる。
流星の正体はシルフの少年だった。黄緑のジャケットの上に緑のフード付きマントを羽織り、雪のような冷たい雰囲気を持つシルフの少年だが、その髪の色は緑や黄色が多いシルフでは異色の白だった。
白髪の少年は宙に浮きながら、周りの様子を確認する。
「右に三人、左に四人か・・・」
左右からこちらに迫って来ているサラマンダーの部隊に、どう対処しようか考えていると、後ろから先程少年に助けられたリーファが声を掛けてきた。
「セツナ君!」
「・・・リーファ、二手に分かれるぞ。お前はレコンと一緒に右の三人を頼む。俺は左の四人を相手する。上手く撒けたら、シルフ領手前の森で合流するぞ」
「ちょ、セツナ君!?」
声を掛けてきたリーファに、ほぼ一方的に指示を出すと、白髪の少年セツナは羽を広げて、左の四人いるサラマンダー部隊の方へ飛んでいく。
こちらに接近してきているセツナの姿を確認したサラマンダーの部隊は、前衛の二人が前に出て、その後ろから後衛の二人が呪文を唱えて、火球を放った。
「フン、そんなもので・・・」
セツナは表情を変えぬまま、次々と放たれる火球を閃光のような速さで躱していく。
しかし、火球は飛行するセツナをしつこく追尾し、セツナが下の森に身を隠した瞬間、火球は一気に集まって、一つの大きな火球となり、そのまま森へぶつかる。
ドカーン!
巨大な火球が大爆発を起こし、森一帯が炎に包まれた。
「やったか!?」
そう言いながら、仕留めたと思い込んだ前衛の一人が、燃えている森を見つめる。
それが思い違いだと気づいたのは、もう一人が自分に向かって叫んだ時だった。
「後ろだ!」
仲間に言われて後ろに振り向くと、すぐ目の前に、セツナが二本の刀を構えながら、猛スピードでこちらに接近していた。
相手に防御する隙も与えず、セツナは体を横に回転させて、サラマンダーの男を斬る。
斬られたサラマンダーの男は、HPがゼロになったことで体が消滅し、残り火と化した。
一人倒したセツナは、飛行しながら体勢を整える。
「この野郎ぉ!」
「!?」
すると、セツナの背後から、もう一人のサラマンダーがランスで奇襲して来た。
セツナは咄嗟に刀を前に出して奇襲を防ぐが、しばらくの鍔迫り合いの後、サラマンダーは一瞬の隙を付いてランスを下から振り上げ、セツナが持っていた二本の刀を上に弾き飛ばした。
「ハハァ!今なら奴は丸ごし――」
「フッ!」
絶好のチャンスと言わんばかりにサラマンダーの男がランスを構えた瞬間、セツナは腰にしまっている二本のダガーを抜き、男の両目に向けて投げた。
「目がぁぁぁぁぁぁ!!」
ダガーが両目に突き刺さり、手で目元を押さえながらパニックになるサラマンダー。
その隙を逃さず、セツナは丁度手元に戻ってきた二本の刀を左右それぞれの手で掴むと、そのままサラマンダーに向けて振り下ろした。
Xの字に斬られたサラマンダーもまた、HPがゼロになり、残り火と化する。
「後二人か・・・」
そう言って、セツナは残り二人のサラマンダーに視線を向ける。
対するサラマンダー二人は、あっという間に仲間を二人倒した少年を警戒して、動けないでいる。
さっさと片付けてしまおうと、セツナが動き出そうとしたその時。
「――ぁぁぁぁぁぁ」
「ん?」
僅かだが、人の叫び声が聞こえてきて、セツナは動きを止める。
しかし、辺りを見渡しても、いるのはサラマンダーの二人だけだ。当然、その二人から発せられているものでもない。
「な、なんだ?」
「どこから・・・?」
サラマンダーの二人も、謎の声に気づき、キョロキョロと辺りを見渡す。
そうしてる間にも、叫び声は段々と大きくなっていく。
「――けてぇぇぇぇぇぇ!」
「・・・上か?」
声の発生源が上空にあると気づき、セツナは上を見上げる。
すると、満月の夜に僅かだが人の影が見えた。その影は、こちらに向かってどんどん近づいていた。
人影は徐々に大きくなっていき、月の光に照らされた瞬間、その正体が明らかになる。
「誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!!!」
それは自分と同じシルフと思わしき少女が悲鳴を上げながら、真っ逆さまに落ちている姿だった。
ALOの象徴とも言える羽も出さず、手足をバタつかせながら、ただ真っ逆さまに落ちていくシルフの少女を見つめながら、セツナはポツリと呟いた。
「なんだ、あれ・・・?」
見た目からして同じシルフなのだろう。しかし、何故こんな場所に一人でいるのか。今日セツナが組んでいるパーティにも、こんな少女はいなかった。
そんなことを思っている間にも、シルフの少女コハルは暗き森の中へと落ちていく。
「・・・チッ」
知らない相手とはいえ、流石に同族を見捨てるわけにはいかないと、セツナは羽を羽ばたかせて、落ちていくコハルの体を片腕でキャッチする。
「ふぇ?」
落ちていた体が急に止まり、何者かの腕に腰を巻かれたかのような感覚にコハルは困惑する。
そんな彼女の事を気にともせず、セツナは迫りくる無数の火玉を避けながら、右腕に抱えているコハルに問い掛ける。
「おい、あんた。このゲームは初めてか?」
「え?は、はい!初めてです!」
慌てながらも質問に答えるコハル。
その言葉に、セツナは疑問を浮かべる。
「・・・なんで初めてのプレイヤーがここに?普通、ニュービーは最初に選んだ種族のホーム上空に転移されるはずなんだが・・・まぁいい。今からあんたを地上に降ろすから、ここから真っ直ぐに走って逃げろ。その先はシルフ領。俺やあんたが選んだアバターの領地だ。ここまでなら、奴らも追ってこれない」
「で、でも、あなたは・・・?」
「元々俺一人で倒せる相手だ。予定が少し狂ったが、あんたがここから離れてくれれば問題ない」
そう言うと、セツナは地上に降り立ち、脇に抱えていたコハルを降ろす。
「走れ!真っ直ぐに!」
「は、はい!」
コハルが走り去るの確認し、セツナはこちらを追ってきた二人のサラマンダーを相手するべく、再び空へ舞い上がって迎撃する。
しかし、サラマンダーの内の一人がセツナを無視して、逃げているコハルを追ってきた。
気配に気づいたコハルが後ろを向くと、ランスを構えながらこちらに近づいてくるサラマンダーが。セツナはもう一人を相手していて、助けに行くのは難しい。
「こっちに来てる!ぶ、武器は!?・・・あった!これなら――」
走りながらウィンドウを操作し、初期装備の細剣を装備し、襲ってくるサラマンダーと向き合った。
こちらにランスの先端を向けて、コハルを突き刺そうとするサラマンダーに対し、コハルは右腕を曲げて細剣の先端を相手に向けて構えた瞬間、彼女の姿が消えた。
それはまるで流星のようだった。遠目から見てたセツナは、そのように感じた。
消えたと思ったコハルは、次の瞬間には細剣でサラマンダーを一閃。その体は、やがて残り火となって消えていった。
暗い森の中に瞬いた刹那の煌めきに、セツナは戦慄、けれども美しいと感じ、絶句したままコハルを見つめていた。
一方、仲間がやられて啞然としてたもう一人のサラマンダーだったが、いち早く我に返ったセツナに斬られて、彼もまた残り火と化した。
戦闘が終わり、セツナは再び地上に戻ると、細剣を腰にしまうコハルと向き合った。
「・・・一応聞いておくが、さっきの奴から何か攻撃とか受けたりしてないか?」
「うん、私は平気だよ。あなたは?」
「問題ない・・・お前、本当にこのゲームは初めてなのか?やけに戦い慣れしてる動きだったぞ」
「あ!え、えーと・・・前にプレイしたことがあるゲームが、これと似たようなVRMMOのゲームだったから・・・動きとかは、なんとなく体で覚えてるんだと思う」
自分が元SAOのプレイヤーであるのを明かすのは流石にマズいと思い、コハルは咄嗟に誤魔化す。
セツナは訝しげにコハルを見ていたが、ひとまず納得することにした。
「まぁいい。それよりもいつまた敵が襲ってくるか分からない以上、早く移動しよう。この先を進んだらシルフ領に入る。俺の仲間もそこの近くで合流するはずだ」
「分かった。案内よろしくね。私はコハル。あなたは?」
名前を聞かれたセツナは、一拍置いてから自分の名前を名乗った。
「セツナ・・・それが俺の名前だ」
「そう言えば、このゲームって空を飛べるんだよね。私もさっきみたいに飛んで移動できないの?」
「空を飛ぶにしても、無限に飛べるわけではない。飛行時間が限られているから、こうして適度に羽を休めさせる必要があるんだ。それに、空を飛ぶにもコツがいる。けど、今はシルフ領の外だ。敵も潜んでいるかもしれない場所で初心者に教える余裕はない・・・無事に着いたら、少しだけレクチャーしておくよ」
「本当に?ありがとう。セツナ君はこのゲームを初めてどのくらいなの?」
「初めてそろそろ1年は経つな。このゲームだと古参の方だ」
そんな会話をしながらシルフ領に向かって歩いていると、セツナが辺りを見回しながら喋った。
「もう少しでシルフ領に着く。この辺で俺の仲間も合流するはずだが・・・」
「見た感じ誰もいないですね・・・あ!あそこにいる金髪の女の人。ひょっとして、セツナ君の仲間?」
「・・・あぁ、どうやら無事に合流できそうだな――ん?」
コハルの視線の先には奥で誰かと話しているリーファがいた。セツナもリーファを見つけたが、その直後に目を鋭くさせた。
「・・・コハル、少しだけ待ってろ。敵がいる」
そう言って、腰にある二本の刀を抜いた直後、セツナは羽を出現させて、猛スピードで飛行した。
閃光のような早さでセツナは飛び、その先にいるリーファ・・・の隣にいたスプリガンに向けて刀を振り下ろした。
「!? 離れろリーファ!」
だが、スプリガンは咄嗟に叫ぶと同時に、背中にある剣を瞬時に抜いて、セツナの刀を弾いた。
セツナもまさか防がれるとは思っておらず、驚愕の表情をしながら一度距離を取る。
自身の奇襲を防いだスプリガンをセツナは見やる。その人物は、髪から服装、更には剣まで全て黒の少年だった。
・コハルのアバター
この作品のコハルの戦闘スタイルや彼女の性格等を考えて、ALOの彼女はシルフとなっています。
・リーファ
原作でお馴染みシルフの剣士。原作フェアリィ・ダンス編ではヒロインを務めており、今作のフェアリィ・ダンス編でもヒロインとして活躍する予定。きっとリアルでも金髪ポニテ少女なんだろうなー。
・セツナ
先行公開で何回か登場しているが、ようやく本編に初登場した白髪のシルフ。今作のフェアリィ・ダンス編でコハルに並ぶもう一人の主人公となる。きっとリアルでも白髪の少年なんだろうなー。
ようやく先行公開のシーンを執筆できました。ここから先はコハルとセツナ(時々キリト)が中心となって動きます。