ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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ep.6 冷たい人間

レコンと別れたセツナ達は酒場に入り、奥にあるテーブル席に座っていた。

テーブルには既に注文した料理や飲み物が置かれており、この世界の料理をキリトとコハルが興味あり気に見ていると、リーファがグラスを持ちながら口を開いた。

 

「それじゃあ改めて、助けてくれてありがとう。それと、アルヴヘイム・オンラインにようこそ」

 

リーファが音頭を取ると、四人はグラスを合わせて、一斉にグラスに口を付けて喉を鳴らす。

中身を飲んで一息ついたところで、キリトが口を開いた。

 

「それにしても、さっきの連中えらい好戦的だったな」

 

「私なんて、ログインしたらいきなり襲われましたからね。あぁいうのは、よくあることなんですか?」

 

「元々シルフとサラマンダーは仲悪いからね。最近は組織的なPKもするようになってきたし、近いうちに世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな」

 

リーファの世界樹という言葉に、キリトとコハルが大きく反応した。

 

「それだ。その世界樹について教えて欲しい」

 

「私も知りたいです。どうしたら、その世界樹の上に行けるんですか?」

 

「キリト君だけじゃなくてコハルも?まぁ、別にいいけど・・・ていうか、元々世界樹の上に行くこと自体がこのゲームのグランドクエストなのよ」

 

「グランドクエストですか?それはいったい・・・」

 

コハルが口にしたグランドクエストについてリーファは説明する。

 

「滞空制限があるのは知ってるでしょ?どんな種族でも、連続して飛べるのはせいぜい10分が限界なの。でも、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、妖精王オベイロンに謁見した種族は、全員アルフっていう高位種族に生まれ変われる。そうなれば、滞空制限なしに自由に空を飛ぶことができるようになる」

 

「なるほど。確かに魅力的な話だな。世界樹の上に行く方法は分かっているのか?」

 

「世界樹の根元が大きなドームになっていて、そこから空中都市に行けるんだけど、ドームを守ってるガーディアンが凄い強さなのよ」

 

「そんなに強いんですか?そのガーディアン」

 

コハルが疑問を口にすると、リーファの説明を黙って聞いてたセツナが説明する。

 

「ガーディアン一体だけなら大したことない。問題はそいつらが何百体も出てくるんだ。数十人で挑んでも、その倍以上の圧倒的な物量で押し切られる。シルフでも何回か挑戦して、俺も参加したことはあるが、ハッキリ言ってあの数は異常過ぎる。一人1分、いや30秒もてば充分だ」

 

「そういうこと。そのせいで、オープンしてから1年経つのにクリアできた種族は未だにいない。ありだと思う?こんなクエスト」

 

そう言いながら、リーファは料理を食べる速度を少し早めた。説明していた本人もその理不尽さを思い出したのか、若干不貞腐れているように見えた。

 

「世界樹の上に行くのは思ってた以上に大変なんですね・・・」

 

「・・・何かキークエストを見逃している。もしくは、単一の種族だけじゃ絶対に攻略できない?」

 

キリトの呟きに、リーファはスプーンを動かしてた手を止めて、笑みを向けてきた。

 

「いい勘してるじゃない。でも、後者の方は絶対に有り得ないと思う」

 

「なんでだ?」

 

「だって矛盾してるじゃない。'最初に到達した種族'しかクリアできないクエストを他の種族と協力して攻略しようなんて・・・」

 

「そのクエストが今後定期的に実装されるようになれば、他の種族と手を組める可能性はゼロではないな。その可能性を口実に他の種族に同盟を持ち掛けるのも一つの手だが、一歩間違えれば種族間の戦争になりかねない。何より、それを決めるのは種族の長を担う領主だ。現にシルフでは――いや、こっちの話だ。忘れてくれ」

 

途中誤魔化しながらも、セツナの言葉を聞いて、コハルは難しい顔をする。

 

「つまり、世界樹の上に行くのは今の段階では不可能ってことですか?」

 

「そうなるな。特別なアイテムや魔法が無い限り、一つの種族だけで攻略するのは絶対に無理だな」

 

「あたしもそう思うよ。でも、いったん飛ぶことの楽しさを知っちゃうと諦め切れないよね。例え何年かかっても・・・」

 

「それじゃ遅すぎるんだ!!」

 

リーファが喋っている最中、キリトが叫んだ。

喋っていたリーファもそれを聞いてたセツナも驚き、キリトを見ると苦虫を嚙み潰したような顔をするキリトが目に映った。

 

「キリトさん・・・」

 

「パパ・・・」

 

「!?・・・驚かせてごめん。でも、俺たちはどうしても世界樹の上に行かなきゃならないんだ」

 

心配そうな表情を向けてきたコハルとユイの声を聞いて、キリトは力が抜けた様子で。けれども、その瞳にただならぬ決意の灯を宿しながら言った。

そんな彼の瞳に内心驚きながらも、セツナはその真意を問う。

 

「どうして世界樹にこだわるんだ。これはあくまでALOのクエストの一つに過ぎない。そこまで必死になって世界樹の上に行こうとするあんたの目的は何なんだ?」

 

「・・・人を探しているんだ」

 

「人だと?」

 

「はい、私たちの大切な人です」

 

リーファがコハルの言葉の真意を問いだす。

 

「ど、どういうこと?」

 

「・・・ごめんなさい。そこまでは説明できません」

 

そう言って、申し訳なさそうにするコハルだが、彼女もまたキリトと同じような瞳で二人を見つめていた。

その横で、キリトが立ち上がって二人に礼を言う。

 

「ありがとう。君たちには色々教えてもらったよ。ログインして最初に出会えたのが君たちで良かった」

 

「ここの料理美味しかったです。ご馳走様でした」

 

コハルも立ち上がり、二人にお礼を言ってキリトの後を追ったが、リーファが慌てた様子でキリトとコハルを呼び止めた。

 

「ちょっと待って。本当に世界樹に行く気なの?」

 

「あぁ、この目で確かめないと」

 

「無茶だよ。もの凄く遠いし、途中には強いモンスターもいっぱい出るし・・・」

 

「それでも私たちは行きます」

 

二人は既に覚悟を決めた様子だった。

 

「――じゃあ、あたしが連れていってあげる!」

 

リーファの口から出てきたまさかの提案にキリト達は目を丸くする。

真っ先に反応したのは、彼女が属するパーティのリーダーであるセツナだった。

 

「待てリーファ。何を勝手に――」

 

「ごめんねセツナ君。でも、あたしは決めたの」

 

「お前は俺のパーティの一員だ。リーダーの許可もないまま勝手な行動はするな」

 

「なら、しばらくの間あたしはパーティを抜けるから」

 

「馬鹿なことを言うな。そもそも、案内したところで何のメリットがある。途中で死んだら装備を失ってホームに戻される。仮に世界樹に辿り着いたところで、攻略するのは不可能。報酬があるわけでもないし、無駄足になるだけだ」

 

「・・・どうしてそんなこと言うの?セツナ君、本当にそれでいいと思ってるの・・・?」

 

「なんだと?」

 

悲しそうな顔をしながらこちらを見つめるリーファに、セツナは顔を顰める。

 

「確かに、キリト君たちは出会って間もないし、世界樹に行きたがる理由も分からないのに助けようとするなんて、自分でもおかしい事をしてる自覚はあるよ。でも、困っている人を見て、助けたいって思うのは当然のことなんじゃないかな?」

 

「・・・・・・」

 

「セツナ君が何を言ってもあたしは行くよ。パーティは抜けるけど、セツナ君やついでにレコンにも迷惑を掛けるつもりはないから」

 

「・・・勝手にしろ」

 

そう言いながら、セツナは席を立ち、キリト達の方を向いて口を開いた。

 

「話は終わりだ。出発するなら早めにした方がいい。ホームの中とはいえ、PKされないわけではない。他種族なら尚更な」

 

その言葉を最後に、セツナはウィンドウを開いて、そのままALOからログアウトするのであった。

 

 

 

 

意識が徐々に覚醒し、ゆっくりと目を開ける。

見慣れた天井を目に映した時枝雪斗は、体を起こすと頭からアミュスフィアを外して、再度ベットに背中を付ける。

 

「冷たいな・・・」

 

背中に伝わるベットの温度のせいなのか。そんなことを呟きながら、今日の出来事を思い返す。

合同パーティで始まった今日の狩りだが、ニュービーの女の子が空から落ちてきたり、初心者なのに自分と互角に戦ったスプリガンの剣士と出会い、パーティメンバーのリーファに言いくるめられて彼らをシルフ領に案内し、その彼らが世界樹を目指していることを聞き、最終的にリーファが世界樹まで彼らを道案内することになった。

中々濃い一日だったなと思いながら、セツナはリーファのことを思い浮かべる。

思えば出会って間もない頃から彼女はこんな感じだったなと思う。

直葉とは同じ中学の剣道部であり、共に競い合うライバルでもある。初めは苗字で呼んでいたが、気づけばお互い名前で呼び合う仲になっていた。

ALOを始めたタイミングも同じだ。兄が見ている仮想世界がどんなものか。それが気になった雪斗はVRMMOについて調べる中で、同じく仮想世界についてクラスメイトの長田(レコンのリアルネーム)からVRMMOのことを聞いてた直葉を見つけて、最終的に長田を含む三人でALOを始めることになった。

その時から直葉はお人好しで、時には大胆な一面を見せるようになり、ALOにいるとその性格が頻繫に見られるようになった。

純粋にALOを楽しみ、時にはシルフの仲間と助け合い、交流を深めていき、いつしか周りから信頼を寄せられる程の強いプレイヤーになっていた。

 

「・・・・・・」

 

反対に自分はどうだろうか。兄を超えようとその力だけを求め続けた結果、シルフ最強の称号は手に入れたが、力に固執するあまり、自分の名前にもある'雪'を彷彿させる冷たい人間になってしまった。

そんな性格もあって、基本的に領主やパーティメンバー以外の仲間との関係はあまり良くない。

今日だってそうだ。きっと彼らに悪い印象を与えたに違いない。

 

「・・・つくづく、自分が嫌になるな。直葉、お前が羨ましいよ」

 

冷たい人間である自分にとっては、あまりにも眩しすぎる少女のことを思い浮かべながら、雪斗は小さく呟いた。

 

 

 

 

一方、セツナがログアウトした後、場の空気は暗いものになっていた。

 

「えーと・・・良かったのか?」

 

「いいの。セツナ君は元々ああいう人だから。頼りになるけど、少し会話が下手っていうか何というか・・・それよりも、二人共明日も入れる?」

 

心配するキリトをよそに、リーファは何事もなかったかのように、明日もログインできるか聞いてくる。

 

「え?あ、うん」

 

「入れます」

 

「それなら明日の午後3時にここで集合ね。あたしもう落ちなきゃいけないから。ログアウトには上の宿屋を使ってね。それじゃあ、また明日」

 

ほぼ一方的に約束すると、リーファはウィンドウを操作してログアウトしようとする。

 

「あ、待って!・・・ありがとう」

 

「今日は助かりました。また明日会いましょう」

 

二人からお礼を受け取り、笑みを返しながらリーファはログアウトした。

 

 

 

 

やってしまった・・・

そんなことを思いながら、ログアウトして目覚めた桐ヶ谷直葉はベットに置いてある枕を抱きながら羞恥心に見舞われていた。

大胆な性格だと自覚している直葉だが、いくらなんでもあれは流石に大胆過ぎたと多少後悔してた。

 

「キリト君、か・・・」

 

恥ずかしさを抑えながら、直葉は先程まで少年の事を思い浮かべる。

不思議な少年だった。やんちゃな言動をするが、妙に落ち着いて掴み所が全くない。まるで兄のようだった。

兄弟であるものの直葉にとって兄の桐ヶ谷和人は初恋の人だった。

今から数年前、兄は自分が今も続けている剣道を途中で辞めて、気づいたら家族の事など眼中になく、ただひたすらVRMMOに熱中していた。

そして、二年前のSAO事件に兄は巻き込まれてしまった。

当時はショックで泣いてしまい、時間が経ってからも毎日心配したし、兄が戻って来た時は凄く嬉しかった。

だけど、SAO事件を得た兄は変わっており、自分に対しても優しく接するようになった。

また、兄はSAO事件で大切な人ができたらしく、その人に何かあったのか昨夜まで絶望し、泣いていた兄を直葉は慰めた。

兄が苦しむのは見たくない。だけど、兄には自分の傍にいて欲しい。その矛盾した想いを込めながら。

そんな兄とキリトという少年はどことなく似ており、彼とのやり取りを思い出した直葉は思わずクスッと笑った。

ただ気になるとすれば、キリトと知り合いらしきもう一人の人物。

 

「(コハル・・・もしかして、キリト君の恋人なのかな・・・?)」

 

親しげに話していたのを何回も見たからなのか、微妙な勘違いをする直葉だった。

勘違いしながらも、直葉はもう一人の少年の事を考える。

 

「雪斗くん・・・」

 

直葉にとって、時枝雪斗という少年は一言で言うと不器用な冷徹人間だ。

中学に進学してからも直葉は剣道を続けており、部活でも負けなしの実力者だった。

そんな彼女に敗北を味合わせたのが雪斗だ。

それ以来、直葉は彼を超えようと、今まで以上に鍛錬に励み、全国大会で好成績を残す実力者となった。

しかし、それでも雪斗には勝てなかった。雪斗もまたどんどん強くなっていき、気づいたら全国一位の凄腕剣士に成長していた。

だが、その反面性格はお世辞にも良くはなく、友人関係も良くはない。

目上の人には敬意を払うが、最低限のことしか話さず、周りと関わることはほとんどなく、 彼が誰かと楽しそうに話している姿を見た人間は一人もいない。

彼を評するなら'冷たい人間'という言葉が真っ先に上がる。

そんなある日、彼からVRMMOについて聞かされた時は驚いた。

聞けば、彼には兄がいて、彼の兄もまたSAOに囚われていたのだ。そして、その兄が今見ている景色が知りたくてVRMMOについて調べているのだという。

自分も似たような理由でVRMMOに触れようと思い、彼の言葉に共感した直葉は、長田と一緒に彼をALOに誘った。

ALOでも雪斗は最強だった。セツナと名乗り、自分と長田改めレコンの三人でパーティを組み、常に前に出て自分たちを引っ張ってくれる。

剣道で培った巧みな技で相手を斬り倒していくその姿は、最強に相応しい姿だと思う。

更に、飛行してる時の相性も良く、最高速度で自分と並走する時の彼は、表情こそクールだが何処か楽しそうに感じられた。

しかし、コミュニケーションとなると、やはり彼は冷たい人間のままで、基本的に自分や領主以外のプレイヤーとあまり話さない。

今日だってそうだ。合同パーティの時だって、狩りを終えた帰りでサラマンダーに襲われた際、一緒に組んだパーティメンバーの事など気にともせず、自分とレコンを連れて、シルフ領へ向かったのだから(まぁ、一緒に組んだそのパーティも色んな意味で厄介ではあり、特にそのパーティのリーダーとセツナの相性は最悪と言っていい程悪いのだが、それはまた今度で)。

そして、途中で出会ったキリトとコハルに対しても、最低限の手助けはすれど、基本的に干渉はせず、自分が世界樹を案内すると言っても、彼がその首を振ることはなかった。

だけど、直葉は知っている。雪斗は周りが思っている程冷たい人間ではないことを。

毎日一緒に話し、共に戦っていくうちに分かったが、雪斗は不器用で誤解されやすいだけで、本当は兄みたいな優しい人間なのだと知ったから。

そうじゃないと、いつも自分やレコンを。そして、見ず知らずのニュービーであるコハルを助けるなんてことはしないだろうから。

 

「(信じてるから雪斗くん。君は決して、冷たいだけの人じゃないことを・・・)」

 

友達として、仲間として、直葉は願う。

その心の中にあるものは友情か敬愛か。それとも・・・嘗て兄にも抱いたことのある好意という感情なのだろうか。

複雑な感情を抱いたまま、直葉はベットの上に横たわった。

 

 

 

 

リーファがログアウトしたことで、この場にはコハルとキリトとユイの三人だけになった。

 

「どうしたんだろう?彼女」

 

「さぁ?今のわたしにもメンタルモニター機能がありませんから」

 

疑問を浮かべるキリトとユイに対して、コハルがいたずらっ子ぽい笑みを向けながら言った。

 

「もしかして・・・キリトさんに惚れちゃったとか?」

 

「え!?いや、まさか・・・」

 

「駄目です!浮気しちゃ絶対に駄目ですよパパ!」

 

「しない!しないよ!!」

 

「そうですよキリトさん。そんなことしたら、アスナに体中穴だらけになるまで刺されますよ」

 

「だからしないって!」

 

あらぬ疑いをかけられ、キリトは慌てて否定する。

そんな反応を見て、コハルとユイが顔を見合わせながら笑い、自分がからかわれていると自覚したキリトが反撃に出る。

 

「それを言ったら、コハルこそセツナと浮気するなよ。ログインした直後に助けられて、それで惚れたんじゃないのか?」

 

そう言って、反撃しようとするキリトだったが、コハルの反応は予想外のものだった。

 

「それなんですけど・・・セツナさん、どこかで会ったことある気がするんですよ」

 

予想外の言葉に、キリトとユイは目を丸くする。

 

「会ったことあるって・・・彼とは今日初めて会ったんだろう?」

 

「はい、そうなんですけど・・・なんか、初めて会ったような気がしなくて・・・」

 

「もしかして、リアルで彼と会ったとか?」

 

「どうでしょう・・・どちらにしても、私は別にセツナさんに惚れてませんよ。ていうか、セツナさんの隣には既にリーファさんがいるじゃないですか」

 

「あぁ、確かに・・・二人共かなり実力もいいし、息の合ったコンビだと思うよな」

 

「私もそう思います。それに・・・私がパートナーと呼べる人は、現実でも仮想世界でも一人だけですから・・・」

 

「・・・そうか」

 

あくまでも自分のパートナーは一人だけだと、力強く宣言するコハルを見て、キリトは優しく微笑んだ。

しばらくの間、静寂が続いたが、沈黙を破ったのはコハルだった。

 

「今日色々あって疲れましたし、私もそろそろログアウトします。キリトさんは?」

 

「俺は・・・もう少しここで休んでから落ちるよ」

 

「なら、明日またここに集合ですね。それじゃあ、おやすみなさい」

 

「あぁ・・・また明日な」

 

キリトに見送られながら、コハルは二階の宿屋に向かった。

コハルが二階に行ったのを見届けると、ユイが悲しそうな顔をしながら呟いた。

 

「コハルさん・・・泣いていました」

 

「え?」

 

キリトが疑問の声を上げながらユイを見る。

ユイの言う通り、コハルは自分の部屋に入った途端、扉を背中に当てながら崩れ落ち、静かに涙を流していた。

 

「かなり無理しています。本当は寂しくて、すぐにでも泣き出したいのに、その感情を抑えようと必死になっています」

 

「・・・そうだよな。俺はユイがいるからまだ大丈夫だけど、あいつは一人なんだよな・・・」

 

娘と呼べる少女が隣にいる自分に対して、今の彼女にはパートナーも娘もいない孤独な状態だ。

SAOで共に生きたパートナーは未だ目覚めず、一緒に過ごした娘もまたSAOで消えてしまった。

そんな孤独な状態のまま、コハルは今日までずっと過ごしてきたのだ。平気なはずがない。

彼女の気持ちを理解しきれていなかった自分に苛立ちを覚えつつも、キリトは改めてアスナを助けようと決意した。

 

「早くアスナを助けて、コハルに・・・友達に合わせてやろうぜ。これ以上、あいつを一人にさせないためにも」

 

「はい!私も頑張ります!」

 

キリトの言葉に、ユイは力強く返事する。

その力強い返事を聞いたキリトは、一人の少年の事を思い浮かべていた。

パートナーが泣いているにも関わらず、今もなお眠っている寝坊助。長い間親しい友人すら碌にいなかったキリトにとって、唯一無二の親友とも言える存在。

 

「(早く戻ってこいハルト。コハルはずっとお前を待っているんだぞ・・・!)」




・コハルのセツナとリーファの呼び方
フェアリィ・ダンス編ではお互いの年齢も分からないので、さん付けで呼んでいますし、敬語で話すようにしています。
余談ですが、SAOIFでもコハルはリーファ相手に敬語で話しています。


皆それぞれ何かと闇を抱えていらっしゃいますなー。その闇がいつか晴れる日が果たして来るのか!?次回もお楽しみに。


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