ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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ep.9 《ルグルー回廊》の戦い

「マズいよ。ここの湖には超高位レベルの水竜型モンスターがいるの。この洞窟内じゃ飛んで回り込むのはシルフとスプリガンは無理だし、ウンディーネの援護なしに水中戦するのは自殺行為よ」

 

「そうなると戦うしか道はないってことか」

 

「うん。だけど、ちょっとヤバいかもよ。サラマンダーがこんな高位の土魔法を使えるってことは、よっぽど手練のメイジが混ざってるんだわ」

 

不安そうに語るリーファだが、そんなことを気にともしないキリトは己の武器を手に取り、セツナも腰にしまっている二本の刀を抜いて構える。

リーファとコハルもそれぞれの武器を手に取ろうとした時、キリトがリーファとコハルの方をちらりと見て言った。

 

「リーファ。君の剣の腕を信用してないわけじゃないんだけど、ここはコハルと一緒にサポートに回ってもらえないか?」

 

「え?」

 

「どういうことですか?」

 

「キリトの言う通りだ。相手は役割を分担して攻めてくるはずだ。なら、こっちもアタッカーとヒーラーに分かれて戦うべきだ」

 

二人の言葉を聞いて、リーファとコハルは頷くと、武器を収めて後ろの方に退いた。

前衛がキリトとセツナで後方援護がリーファとコハル。このスタイルで戦おうとするセツナ達。

向こうも既に戦闘の準備を開始しているようで、重装備のサラマンダーが五人セツナ達の正面に立った。全員左手に片手棍を持ち、右手に全身が隠れる程の盾を装備している。

 

「俺が相手を崩す。セツナはその隙をついて一気に倒してくれるか」

 

「分かった」

 

作戦を決めた二人はそれぞれ一斉に駆け出す。

 

「ウォォォォォォ!!」

 

キリトは先頭にいるサラマンダー達に大剣を振り下ろす。

サラマンダー達は右手の盾を前面に突き出し、盾の陰に身を隠した。

 

キンッ!

 

大きな金属音が響き渡る。盾を構えていたサラマンダー達は少し後ろに押し動かされただけで、HPも少ししか減っていなかった。

しかし、そこに刀を持ったセツナが接近する。

 

「ナイス。その隙に後ろに回り込めば――っ!?」

 

直後、後ろにいた数人のサラマンダーが魔法のスペルを詠唱すると、先頭にいるサラマンダー達のHPが回復する。

続けて残りのサラマンダー全員が別の魔法のスペルを詠唱すると、火玉が次々と発射されて、セツナとキリトに目がけて飛んできた。

 

「くっ!」

 

セツナは咄嗟に体を捻らせて回避しようとするが、玉は誘導弾のようでセツナに向かって迫り、そのまま彼とキリトの体に直撃した。

 

ドカーン!

 

「キリト君!セツナ君!」

 

リーファが悲鳴のような声を上げながら慌てて詠唱する。コハルも彼女に続いて回復魔法のスペルを唱える。

二人はダメージを受けたが何とか無事のようで、減ったHPもリーファ達の回復魔法で元に戻った。

 

「完全に対策されているわ」

 

「そうなんですか?」

 

コハルの言葉にリーファは頷き、聞こえていたのか前にいるセツナが説明する。

 

「恐らく、タンクの五人が一切攻撃しないで防御に専念。そして、他の全員がメイジで一部が前衛の回復、残り全員が魔法で攻撃する物理攻撃に特化したボスモンスター用の方法だ。それに、俺の対策なのか追尾性能に優れた魔法も使っている」

 

「だけど、このまま大人しく引き下がってたまるか!」

 

そう言って、先程と同様に前衛のサラマンダーがキリトの攻撃を防ぐ。

その隙に、今度はキリトの肩を踏み台にして、タンク隊を飛び越えようとするセツナだが、後ろのサラマンダー達はそれを予感していたのか、彼がタンク隊を飛び越えるタイミングで魔法を浴びせ、後ろにいるキリトにも食らわせる。

セツナ達は再び地面に転がり、リーファとコハルの回復魔法でまたHPを回復させる。

それから何度も方法を変えながら攻撃するが、結果は同じだ。

 

「もういいよキリト君!やられたら、また《スイルベーン》から何時間か飛べば済むことじゃない!もう諦めようよ!」

 

傷つく彼らを見て、悲痛な顔で叫ぶリーファだが、キリトは首を横に振る。

 

「嫌だ!俺が生きている間はパーティメンバーを殺させはしない!」

 

「キリトさんの言う通りです。必ず全員で生きて、ここを乗り越えるんです!」

 

「コハル・・・」

 

「ごめんなさいリーファさん。だけど、目の前で仲間が、大切な人達が死ぬのを私は見たくないんです」

 

コハルの言葉を聞いて、リーファは呆然とする。別にここで死んでも現実世界で死ぬわけじゃない。所詮このゲームは'遊び'に過ぎないのに、どうしてそこまで生きることにこだわるのか彼女には理解できなかった。

そんな彼女に対して、セツナはやれやれと言わんばかりに口を開いた。

 

「随分と熱い連中だな。たかがゲームにこうも熱くなる奴は見たことない・・・だけど、このまま戦うことには賛成だ。俺も簡単に負けを認めるのは嫌いだ」

 

そう言って、セツナは真剣な表情で三人の方を見る。

 

「一旦状況を整理しよう。確かにあのパーティの連携は驚異的だ。特に前方のタンク、目立った武装もせず、強力な盾と鎧を装備した。正に鉄壁のディフェンスだ。だから、まずは後ろのメイジ。特に回復役を倒すべきだろう」

 

「それは俺も分かってる。だけど、連中があのタンク隊の後ろにいる以上、それが難しいのは分かっているだろ。現に俺たちはそこまで辿り着くことができていない」

 

「あぁそうだ。だから、攻撃パターンを少し変えよう」

 

そう言って、セツナはコハルの方を向いて言った。

 

「コハル、次からはあんたも攻撃に回って欲しい。俺たちだけでは数が足りない」

 

「え?でも、私が増えたところで、あの物量の攻撃はどうにかできないと思いますよ」

 

「いいや、あの攻撃は俺たちの行動範囲がこの狭い橋でしかないからこそ成立している。相手も同じことを思っているはずだ。逆に言えば、この橋以外の場所から攻めれば、相手の裏をかけるということだ」

 

「橋以外の場所からって・・・どうやって?ここは一本道ですし湖に潜れない以上、他に動ける場所なんて――」

 

「ある。一つだけな」

 

コハルの言葉を遮ったセツナは、軽く笑みを浮かべながら言った。

 

「一つアドバイスしておく・・・羽が使えないからといって空を飛べないわけではない」

 

その言葉の後、セツナは三人に作戦を伝える。

三人は驚いたり心配したり納得したりと様々な顔をしたが、最終的には全員納得してそれぞれ持ち場についた。

一連の流れを様子を見してたサラマンダー達だが、彼らがこちらに視線を向き直したことで再び戦闘態勢に入る。

 

「行くぞ。作戦通りに」

 

「任せろ!」

 

セツナの言葉に頷いたキリトは、魔法のスペルを唱える。

全て唱えた直後、キリト達の周りに黒煙が広がり、彼らの姿を隠した。

 

「目くらましの魔法か!?そんなこけおどし・・・!」

 

黒煙に隠れたキリト達を前にサラマンダーの一人が悪態付く。

 

「ウォォォォォォ!!」

 

しばらくして煙からキリトが出てきて攻撃を繰り出し、タンク隊はその攻撃を防ぐ。

黒煙には驚いたが結局やっていることは変わらず、拍子抜けしたリーダーのメイジが指示を出す。

 

「フッ、無駄なことを。全隊!攻撃用意――」

 

その時、煙の中から上に飛び上がった人影が目に映り、その正体を見た瞬間、彼らは驚愕に染まった。

その人影はセツナだった。彼はどうやったのか羽を使わないで空を飛んできたのだ。

圧倒的な高さでタンク隊を飛び越えたセツナは、落下する勢いのまま後ろのメイジ隊に接近する。

 

「と、飛んだ!?」

 

「落ち着け!どの道空中なら逃げ場はない!」

 

動揺するも一人のサラマンダーの激を受けて、メイジは一斉に詠唱に入り、一部が空中にいるセツナに火球を放つ。

 

「甘いな」

 

複数放たれた火玉の一部をセツナは持っていた二本の刀を投げて、自身の体に当たる前に爆発させた。

しかし、火玉はまだ残っており、それらがセツナに襲い掛かる。

 

ドカーン!

 

火玉は彼の体に当たり、空中で爆発が起きた。

 

「やったか!?」

 

サラマンダーの一人がそう言って、他のメイジも全員が上を見上げる。

だからこそ、こちらに接近してくる人物に気づくのが少し遅れた。

 

「ヤァァァァァァ!!」

 

キリトの肩を踏んで、タンク隊を飛び越えたコハルが正面にいるメイジに接近し、細剣の連撃を食らわせた。

連撃を食らったサラマンダーは、そのまま残り火となって消えていき、他のサラマンダー達は予想外の奇襲に思わず動揺する。

 

「隙だらけだ!」

 

そこにHPを削られながらも爆煙から抜けたセツナが、マントの後ろに隠していた第三の刃に手を掛けて、下にいた回復役のサラマンダーにそれを振り下ろした。

その剣はサラマンダーの体を真っ二つにして、一撃で残り火に変えた。そのまま両手で剣を持ち上げて、残りの回復役のメイジを斬り倒した。

 

「なっ!?」

 

一瞬のうちに回復役が全滅してしまい、動揺するサラマンダー達。

セツナは刀身が真っ白に染まった両手剣をサラマンダー達に向けながら力強く言った。

 

「《聖剣デュランダル》。あらゆる物を斬り裂く伝説武器(レジェンダリーウェポン)。その斬れ味、存分に味わえ!」

 

そう言って、セツナは《聖剣デュランダル》を一振りすると、風が螺旋を描きながら吹き荒れて、メイジ達に向かって突き進んだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「と、飛ばされるぅぅぅぅぅぅ!」

 

風はメイジ達の体を吹き飛ばしていき、一部が湖の中に落ちる。

直後、湖の中に潜む水竜型モンスターにその身を食われ、赤い残り火だけが残った。

《聖剣デュランダル》の圧倒的な力を前に、メイジ達は怯えて体を震わせる。

 

「ひ、怯むな!全員、もう一度魔法の詠唱を――」

 

「させない!」

 

「グハッ!」

 

リーダーが仲間たちを鼓舞するが、直後コハルの細剣の連撃によって吹き飛ばされて、そのまま残り火となった。

そこからは圧倒的な蹂躙だった。

《聖剣デュランダル》の力とそれを扱うセツナの技量によって、サラマンダー達は成すすべもなく斬られていき、逃げようとする者もコハルの素早い連撃にやられていく。正常な判断を失って湖に飛び込んだ者もいたが、その末路は先程湖に落とされた者達と同じだった。

 

「もういいコハル。こいつだけ残しておく」

 

そして、メイジの数が残り一人となり、尻餅を付きながら怯えているのを見て、セツナとコハルは動きを止めた。

後ろを見ると、キリトも相手をしていた五人のタンク隊を全員倒したようで、リーファと共にこちらへ向かっていた。

 

「どうやら、あっちも終わったみたいだな。これでチェックメイトだ」

 

「ヒッ!」

 

《聖剣デュランダル》をサラマンダーに突き付けながらセツナは問い掛ける。

 

「さて、お前に聞きたいことがある。誰の命令で俺たちを狙った?それと、どうして俺たちがここに来ることが分かったんだ?」

 

「お、教えるかよ!殺すなら早く殺しやがれ!」

 

「・・・答える気はなしか。なら、仕方ない」

 

相手の態度を見て答える気がないと判断したセツナは、《聖剣デュランダル》を持ち上げてサラマンダーを斬ろうとする。

すると、キリトが武器を背中に収めながら吞気な様子で近づいてきた。

 

「いやー、暴れた暴れた。よっ、ナイスファイト。いい作戦だったな。俺一人だけなら速攻でやられてたぜ」

 

「は?」

 

キリトはしゃがんで、唖然としているサラマンダーの左肩にポンっと手を置き、爽やかな口調で話しかける。

 

「ちょ、ちょっと、キリト君!?」

 

「何を企んでいる?」

 

「まあまあ、ここは俺に任せて」

 

困惑するリーファとセツナにウインクするキリト。

そして、悪巧みしているかのような笑みを浮かべながらウィンドウを開く。

 

「さて、物は相談なんだけど・・・これ、今の戦闘でゲットしたアイテムとユルド*1なんだけど、質問に答えてくれたら全部君にあげようかなぁなんて」

 

キリトの提案を聞いて、サラマンダーはキョロキョロと周りを見渡して、キリトに向き直る。

 

「・・・マジ?」

 

「マジマジ」

 

キリトがそう言うと、二人はニヤっと笑みを浮かべた。

その様子をリーファとコハルは呆れた様子で見守っていた。

 

「この人達にはプライドというものがないのでしょうか」

 

「ホントね。男ってこうなのかしら」

 

「俺を見て言うな」

 

そして、女子二人からの視線を受けて、とばっちりを食らうセツナであった。

*1
ALOの通貨




・《聖剣デュランダル》
セツナが持つ第三の刃。ユージーンの《魔剣グラム》と同レベルの伝説武器(レジェンダリーウェポン)
斬られたら一撃でHPがゼロになり、一振りするだけで凄まじい風が吹き荒れる程の威力を持つ。重装備でもしない限り、大抵はその風によって身を吹き飛ばされる。
セツナ曰く、使いこなさなければ味方をも巻き込み兼ねない暴君とのこと。


セツナの活躍により、キリト巨大化はカットになりました。あの魔法無しで、しかも原作よりも人数が増えている軍団を倒したセツナは凄いですね(執筆した本人が言うのもなんですが)。
セツナが羽無しで飛んだ理由は次回で。
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