ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
今回は先行公開その2の内容が公開されます。
サラマンダーの話によるとこうだ。
今日の夕方、自分の隊のリーダーに呼び出されて、4人のパーティを20人で狩ることが伝えられた。
何でも近頃サラマンダー全体で大きな作戦があるらしく、そのパーティが作戦の邪魔になる恐れがあるので排除しようと目論んでいるとのこと。
初めは4人相手に20人も必要なのかと内心思っていたが、昨夜行われた狩りでランス隊の隊長でシルフ狩りの名人であるカゲムネが率いるパーティを退けたことや、ターゲットがサラマンダー部隊の長であるユージーンと互角に戦えるプレイヤーであるセツナのパーティだと聞いて納得させられた。
「正直、あのセツナのパーティを狙うと聞いた時は驚いたよ。こっちも20人のパーティでしかも念入りに準備したのに結果はこの様だ。ホント二度と戦いたくないな。ところでよ、さっき空を飛んでたけど、どうやって飛んだんだ?」
一通り説明し終えたサラマンダーは、セツナがどのような方法で空を飛んだのか問う。
「地面に魔法を撃って、その反動で飛んだ」
「・・・は?」
「だから、地面に高火力の風魔法を撃ち込んで、その反動を利用して飛んだだけだ」
「・・・マジで?」
サラマンダーが驚いた表情で目を丸くし、聞き間違いでないのを確認した。
これが本当なら、セツナは地面に風魔法を撃って、その反動で飛ぶという普通なら考えもしない方法で空を飛んでいたのだ。
「マジよ。あたしも最初は耳を疑ったわ。そんな飛び方、爆裂魔法をまともに受けるようなものだもん。でも、実際にやってみて、こうも上手くいくとは思わなかったわ。本当びっくりよ」
「そうか?俺は面白い方法だなって思ったけど」
呆れるように答えたリーファに対して、キリトは感心した様子だった。
しばらく唖然としてたサラマンダーだったが、やがて落ち着いた様子で口を開いた。
「たく、こんなスゲー奴らと戦わせられるなんてとんだ貧乏くじを引いた気分だぜ。これなら、今日北に行った軍隊に混ぜてもらった方がマシだったかもな」
「北って・・・世界樹攻略に挑戦する気なのか?」
「まさか。前の攻略で全滅してから、装備を整えるために金貯めてるとこだぜ。まだ目標の半分も貯まってないらしいけどな・・・俺が知っているのはこんなところだ。それで、さっきの話は本当だろうな?」
「取引で嘘はつかないさ」
先程の取引について問うサラマンダーに、キリトは笑みを浮かべながらウィンドウを操作し、アイテムやユルドを渡す。
サラマンダーは嬉しそうにそれを受け取ると、追って来た方へ去って行った。
その様子を呆れながら見守っていたセツナ達だが、ひとまず鉱山都市へ入ることにした。
鉱山都市の中に入ったセツナ達は、街の中にあるベンチで休憩していた。
「おー、この串焼き中々美味いな」
「本当ですね。見た目はちょっとあれですけど・・・」
キリトとコハルは街で買った紫色の串焼きを食べながらゆったりと休んでいるのに対して、セツナは一人浮かない顔をしていた。彼の隣にはサラマンダーと戦う前に来たレコンからのメッセージが気になって、リアルで連絡を取るために一旦ログアウトしたリーファが座っていた。
そんなセツナの様子に気づいたコハルが彼に声を掛けた。
「セツナさん、そんな難しい顔してどうしたんですか?」
「あぁ、さっきリーファに届いたレコンからのメッセージが気になってな。あれからあいつに何回かメッセージを送っているが、一向に返事がなくてな」
「向こうが気づいてないだけじゃないか?」
話を聞いてたキリトが横から割り込むが、セツナは首を横に振る。
「それはないな。リーファの方でもメッセージを送ったが、返信がまだ来てないみたいなんだ。あいつ、リーファからのメッセージにはすぐ返信するからな」
そう言い切るセツナは更に言葉を続ける。
「それと、さっきサラマンダーが言ってたことも気になってな。今朝サラマンダーの大部隊が北の方に飛んでいったらしいな」
「どうしてまた?」
「いや、大したことはないんだが・・・俺たちの領主も今朝、少数の部隊を連れて遠征に出かけたんだ」
「ふーん、何か用事でもあるのか?」
「・・・悪いがそこまでは言えない。ただ、サラマンダーが領地から飛んでいった先が領主が向かっている場所と同じなんだ」
「それは・・・確かに不安にもなるか。偶然とかなんじゃないのか?」
「だと良いんだが・・・」
その時、ログアウトしたはずのリーファが急に立ち上がった。
「行かなきゃ!」
「うおっ!」
キリトが驚く中、リーファが焦った様子でセツナに話しかける。
「大変よセツナ君!すぐにここから出るわよ!」
「どうした何があったんだ?」
急に慌て出したリーファを見て、セツナは何があったのか聞く
しかし、次に彼女から告げられた言葉によって、その冷静な表情は崩れた。
「シルフとケットシーの会談にサラマンダーの軍団が向かっているのよ!このままじゃ、サクヤ達が危ないわ!」
「何だと!?」
ログアウトした直後、リアルでレコンから電話がかかってきて(その前にもレコンは何度も電話したのか、リーファのスマホには大量の着信履歴が残っていた)、これから起ころうとしていることを聞かされた。
話によると、シグルドがサラマンダーと内通していて、今日行われるシルフとケットシーの領主会談をサラマンダーの大部隊が襲撃することを企んでいた。
シグルドのことを調査してたレコンは、そのことに気づいたが直後サラマンダーに捕まり、メッセージが飛ばせない状態となってしまい、リアルでリーファに連絡しようとしていたらしい。
「クソっ、シグルドめ。俺たちに何か仕掛けてくるとは思っていたが、まさか会談にまで手を出そうとしてたなんて・・・!」
鉱山都市から出て、洞窟内を走りながらセツナは悪態をつく。
その後ろでキリトがリーファに問い掛ける。
「いくつか聞いていいか。シルフとケットシーの会談を邪魔して、どんなメリットがあるんだ?」
「まず同盟を邪魔できるよね。シルフ側から漏れた情報で領主を討たれたらケットシー側は黙ってないでしょう。下手したら、シルフとケットシーで戦争になるかもしれないわ」
「なるほど。サラマンダーからしたら、ライバル同士で争わせる絶好のチャンスってことですね」
コハルが納得していると、セツナから説明が追加される。
「それと、領主を討つと領主館に蓄積されてる資金の3割を入手できて、10日の間街を占領状態にして税金を自由に掛けられる。昔サラマンダーは前のシルフの領主を中立域に誘い込んで討ったことで、勢力を拡大することに成功した。恐らく、世界樹攻略の為にサラマンダーはまた同じことを実行して、更に勢力を拡大させることが目的のはずだ。そんなこと、絶対させるわけにはいかない・・・だから――」
そう言うと、セツナは足を止めて顔を後ろに向けた。後ろを走っていたキリト達も足を止めてセツナの顔を見た。
「ここでお別れだ」
「「え?」」
「聞いた通り、ここから先はシルフ側の問題だ。世界樹を目指しているお前たちには関係のない話だ。そのいざこざに巻き込む訳にはいかない」
「セツナ君の言う通りよ。このまま会談に向かったら生き残れる可能性は低い。そうなったら、また《スイルベーン》からやり直し」
「この洞窟を出たら、お前たちは俺たちの飛行ルートから外れろ。その後は《脱領者》のような領地争いに興味のない中立のプレイヤーに頼んで案内してもらうんだ。俺たちの目的とお前たちの目的が食い違ってしまった以上、お前たちがそれに付き合う必要はない」
真剣な表情で喋るセツナとリーファを見て、キリトとコハルはしばらく無言のままだったが、やがてキリトがゆっくりと口を開いた。
「所詮、ここはゲームなんだから何でもあり。殺したければ殺すし、奪いたければ奪う。そういう奴に嫌というほど会ってきたし、俺も昔はそう思ってた。だけど、プレイヤーとキャラクターは一体なんだ。この世界で欲望を身を任せれば、その代償はかならずリアルの人格へと返っていく。だから、仮想世界だからこそ、守らなきゃならないものがある。俺はそれを親友や大切な人に教わった」
「ここであなた達を見捨てたら、私たちはきっと後悔します。あなた達は理由も言わないで世界樹に向かおうとしている私たちを助けてくれた。だから、今度は私たちがあなた達を助ける番です」
「・・・俺たちはまだお前たちを世界樹に送り届けていない。何もしてやれていない。ここで俺たちに付いていけば、戻るのに数日掛かるかもしれない。それでもお前たちは俺たちに付いていくのか?」
「当たり前です。だって・・・私はあなた達の仲間だから」
笑顔でそう言い切るコハルに、キリトもコクリと頷いた。
そんな二人を見て、セツナは呆れながらも言葉を返した。
「全く・・・たった数日の付き合いなのに、普通ここまで人を信頼できるか?どうやら、俺たちはとんでもないお人好しに出会ってしまったな・・・でも、ありがとう」
そう言って、セツナは微笑を浮かべた。リーファも目元に涙を浮かべながら微笑んでいた。
暗い空気はいつの間にか明るくなり、いつまでも立ち止まっているわけにはいかないと気づいたキリトが口を開いた。
「おっと、時間が無かったな。ユイ、走るからナビゲーションよろしく」
「了解です」
ユイが元気よく返事すると、その横でコハルが恐る恐る問い掛けた。
「キリトさん、走るってまさか・・・」
「そのまさかだ。コハル、どっちにする?」
「やっぱり・・・とりあえず同性のリーファさんの方で」
「了解。それじゃ、俺はセツナだな」
二人だけで話を進めており、置いてけぼりのセツナは二人に声を掛ける。
「おい、何の話をしている――?」
「ちょっと手を拝借」
「すみませんリーファさん。ちょっと手を借りますね」
「え、ちょっと何を――うわぁ!?」
キリトはセツナ、コハルはリーファの左手をそれぞれ掴む。
呆気に取られるセツナとリーファだったが、次の瞬間キリトとコハルは先程よりも遙かに超えたスピードで走り出した。
「わああああああ!!」
「うおおおおおお!!」
突然の猛スピードにリーファとセツナは悲鳴を上げながら手を引かれている。
そして、全力疾走で洞窟を駆け抜けていたことで二人の体はほとんど水平に浮き上っている。走っていく先にオークの集団がいたが、その隙間を通って突き進んでいく。
やがて前方に白い光が見えてきた。
「出口だ!」
「二人共!羽を出して飛ぶ準備を!」
「羽・・・そういうことか!」
「ええええええ!今どこ!?どうなっているの!?」
意図を察してすぐ羽を出したセツナに対して、リーファはパニックになっていたが、コハルの指示通り羽を出した。
そして、洞窟から出た瞬間、キリトとコハルは勢い良く飛んで共に飛行を開始する。セツナとリーファもその勢いのまま飛行して、彼らの横に並び立った。
「じゅ、寿命が縮むかと思ったわ・・・」
「同感だ。こんな攻略方法、普通じゃないぞ」
ようやく落ち着いてきたリーファとセツナが疲れた様子で喋る。
そんな二人にキリトは笑顔で話しかけた。
「ワハハハハハ!時間短縮になったじゃないか」
「・・・急いでたから良かったが、せめて事前に説明しろ。俺たちじゃなきゃ、そのまま失神してたぞ」
「アハハハハ、すみません・・・」
呆れ顔でこちらを見つめるセツナに苦笑いしながら謝罪すると、コハルは正面を見てその絶景に圧倒されていた。
「わぁ・・・」
無限に広がる高原の先に、雲海を突き抜ける程の巨大な樹が伸びていた。いくつもの枝葉が枝分かれしており、垂直に天地を貫いている太い幹は空と大地を支える柱だと言ってもいいだろう。
コハルは無言で世界樹を眺めていたが、我に返ってリーファに聞いた。
「リーファさん、領主会談はどこで行われるんですか?」
「ケットシー領につながる《蝶の谷》の内陸側の出口だから北西のあの山の奥よ」
「残り時間は?」
「後20分」
「もうそのくらいしか残っていないのか・・・」
キリトがそう呟くと、話を聞いてたセツナは飛行スピードを更に上げる。
「間に合ってくれ・・・!」
顔に焦りを見せながら、セツナは猛スピードで飛行する。
その後ろをキリト、リーファ、コハルの三人が続く。
「ユイ、向こうの今の状況が分かるか?」
キリトは胸ポケットにいるユイに問い掛けると、ヒョコっと顔を出したユイが質問に答える。
「プレイヤーの反応を確認しました!前方にサラマンダーの部隊が60人。それと、すぐ近くにシルフとケットシーが14人います!恐らく、会議の出席者と予想されます!双方の接触まで――あ!プレイヤーの反応が次々と消えています!」
「そんな・・・!」
「遅かったか・・・!」
間に合わなかった事に、苦渋に満ちた顔をするリーファとセツナ。
せめて、領主であるサクヤだけは何としても逃がそうと、セツナが決心したその時、ユイから更に声が掛かる。
「待ってください!反応が消えたのは、サラマンダーの方です!」
「え!?」
「こちらが押しているのか?」
シルフ、ケットシー側が押している。その事実にリーファが驚き、セツナが疑問の声を上げる。
今回の調印式で各領主の護衛を担当するプレイヤー達は、セツナ程ではないが、それなりの実力者だと聞いている。
しかし、相手は多数でこちらは少数。強いプレイヤーが複数人いたとしても、これだけの数の差を覆せれるのだろうか。
そう思っていると、ユイが困惑した様子で答えた。
「そ、それが・・・サラマンダーの部隊を倒しているのは、シルフでもケットシーでもありません。一人のインプのプレイヤーです!」
「インプだと!?」
セツナは増々訳が分からなくなる。
60人もいるサラマンダーの部隊をたった一人で相手する。しかも、それがこの会議とは無関係なはずのインプのプレイヤー。
この場にインプがいるのもそうだが、サラマンダーの部隊を相手に一人無双するインプ。そんなプレイヤー、インプどころか全種族の中でも聞いたことがない。
ドーン!
困惑するセツナだったが、前方の森から巨大な衝撃音が響き、驚きながらも飛行を急停止させる。
「なっ!?止まれ!」
セツナの声に反応し、三人も飛行を止めて、爆心地を見る。
「これは・・・!?」
キリトが驚きの声を上げる。
森はあちこちが火に包まれており、木々がなぎ倒されている。そして、サラマンダー達の残骸かと思われる残り火があちこちに散りばめられていた。
その悲惨な様子から、ここで激しい戦闘が行われたのは間違いないだろう。
「見て!サラマンダーの部隊が・・・!」
リーファが指を指しながら声を上げる。
見ると、少数のサラマンダーの部隊がどこかへ飛び去ろうとしていた。
「ば、化け物だぁ!助けてくれぇーーーーーー!!」
そんな声を上げながら、何から逃げるように去っていくサラマンダーの部隊を見て、呆然とする一同。
そんな中、セツナは爆心地の中心で異様な光景を見つけた。爆心地の中心には、二人のプレイヤーらしき人影が見えたが、そのうちの一人は地面に倒れて大の字になっている。
その倒れている男を見て、セツナは驚愕の表情となる。
「あれは・・・ユージーン将軍・・・!」
「その人って確か、セツナ君と互角に戦える可能性があるプレイヤーだよね?」
「あぁ、《魔剣グラム》の使い手で、現ALOで最強と言えるプレイヤーだ。俺もあの人が相手だと、勝つのは難しいと思う。だが・・・」
ALOで最強と言われるプレイヤー、ユージーン。その男が今、無残にも地に背中を付けて倒れていた。その腹には黒色の両手剣が刺さっている。
そして、その隣に身長がかなり高めで灰色の髪をしたインプの男が、ユージーンを踏みつけながら彼を見下ろしていた。その光景は勝負に負けた敗者を見下す強者そのもの。
「あ、あいつは!?」
「まさか!?」
そのインプの男を見て、キリトとコハルが驚いていた。
知り合いなのか?と思いながら、セツナは視線を倒れているユージーンの方に戻すと、ユージーンを倒したと思われるインプの男がつまらなそうに呟いた。
「これがALO最強の剣士の力かよ・・・弱ぇな。"あいつら"の方が10倍強ぇ」
その呟きが聞こえたのか定かではないが、倒れているユージーンは目の前にいる男に恐怖混じりの視線を向けながら恐る恐る聞き出す。
「馬鹿な・・・貴様は、貴様はいったい、何者なんだ・・・?」
その問いに、男はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべながら答えた。
「俺か?いいぜ、教えてやるよ。よく聞け・・・」
「俺の名はザント!どこにも属さねぇ一匹狼だ!!」
その狼の咆哮が森中に響いた瞬間、ユージーンの体は残り火となって消えていった。
・セツナが飛んだ理由
地面に風魔法を撃ち込んで、その反動で飛ぶという割とアグレッシブな方法でした。
当然、飛び上がった際にセツナは反動のダメージを受けており、飛んでる途中でリーファが回復させてなければ、セツナはやられていました。
・ユージーン
サラマンダーの部隊を率いる指揮官。《魔剣グラム》の使い手でALOでも一二を争う程の実力者・・・なのだが、本作ではザントによって部隊を半壊させられ、自身もやられてしまった可哀想なお人。
ちなみに、ファンの皆さんには申し訳ございませんが、フェアリィ・ダンス編の彼の出番はこれで終わりです。すまんユージーン。状況的に復活させることができないんだ。
SAOサバイバーの破天荒な行動に振り回されるセツナとリーファでした。
ザント再登場です。彼がここにログインして来た理由とは?
それはそうと、自分たちの種族に属するニュービーが一人でサラマンダーの大部隊を壊滅させたと知ったら、領主たちはどんな反応をするのだろうか?
インプ側近「つい最近入ったばかりのニュービーがたった一人でサラマンダーの大部隊を壊滅させた件について」
インプ領主「え、何それ?知らない、怖い」