ソードアート・オンライン IF(アイエフ) 作:イノウエ・ミウ
「見事!見事!」
「スゴーい!ナイスファイト!」
「白熱した戦いでしたねキリトさん!」
「あぁ!見てるこっちも熱くなったよ」
激闘を見届けたサクヤ、アリシャ、コハル、キリトが感嘆の声を上げる。後ろでは他のプレイヤーの歓声と拍手が鳴り響く。
それほどまでに先の戦いは素晴らしいものだったのだろう。リーファもまた笑顔で拍手しながら、こちらに戻ってくるセツナを迎えた。
丁度魔法の効果も切れて、セツナは息を整えながらリーファ達のいる所に戻る。
リーファの回復魔法でギリギリまで減ったHPを回復してもらいながら、セツナはサクヤに言った。
「サクヤ、彼に蘇生魔法を」
「大丈夫なのか?あんな得体の知れない男を蘇生して」
「聞きたいことがいくつかある。心配しなくても、多分もうこちらを襲わないと思う」
蘇生することに反対だったサクヤだが、セツナに説得されて、ザントがいた紫色の残り火の所まで飛ぶと、詠唱を開始する。
やがて詠唱を終えると、紫色の残り火が人の形を取り戻し、蘇生したザントが無言のまま舞い降りた。
周りが緊張感に包まれる中、ザントはセツナに話しかける。
「大した野郎だ。初回ログインからまた数時間しか経っていないとはいえ、この俺がやられるとはな」
「・・・装備を見て薄々感じていたが、やっぱりお前もニュービーなんだな」
ザントの言葉と彼の強さに見合っていない装備を見ながらセツナが言う。
最近のニュービーはどいつもこいつも初心者とは程遠い化け物染みた強さを持っているため、ニュービーの定義が崩壊しかけている気がする。
そんなことを思いながら、セツナはいくつか質問する。
「聞きたいことがいくつかある。質問してもいいか?」
「敗者は勝者に従うもんだ。いいぜ、好きにしな」
「分かった。まず最初の質問だが、今回あんたはインプ側の任務ではなく、ソロでここに来たのか?」
「あぁ、たまたまここの近くでログインしてな。ここに来たのも偶然だ」
淡々と答えるザント。そこに動揺や嘘は全く見られない。
「次の質問。あんたはこのゲームがどういう内容のものか知ってるか?」
「知ってるぜ。空が飛べる魔法主流のVRMMOだろ。種族同士が世界樹の攻略を巡って争っているって聞いてるぜ」
「・・・世界樹攻略の報酬については?」
「そいつは知らねぇ。けど、興味はねぇな。俺は俺が楽しめればそれでいい」
興味無さそうに語るザントを見て、未だ警戒したままセツナは最後の質問をする。
「これで最後だ。今後、あんたはインプの領主の命令、すなわちインプ側の勢力として動くことはあり得るか?」
「そうだな・・・その領主が俺より強けりゃ従ってやる。俺はテメェより弱い奴の下に仕える気はねぇ」
「・・・今のインプの領主はそれなりに腕はあるが、さっきあんたが倒したユージーン将軍程ではない」
「なら、当分はソロでの活動になりそうだな」
「それを聞いて安心したよ。あんた程の男が敵になったら、インプが勢力のトップになりかねないからな」
セツナは安堵した様子で警戒を解いた。
まだ懸念はあるが、少なくとも今すぐ危害を加えようという気はないようだ。
「質問は終わりか?」
「あぁ、答えてくれてありがとう」
「そんじゃ、俺はそろそろ行くぜ」
「ちょっと待った!その前に俺たちにも話をさせてくれないか?」
去ろうとするザントを呼び止めたのはキリトだった。
ザントが足を止めたのを確認したキリトはコハルと一緒に彼の下に寄る。一方、ザントはまだ二人の正体に気づいてないのか訝しげな目を向ける。
二人がザントの前まで近づいたところで、最初に口を開いたのはコハルだった。
「お久しぶりです。ザントさん」
「なんだテメェ、なんで俺の名前を知って――」
「私です。コハルです」
「!?」
コハルが名乗り出た瞬間、ザントは目を見開いて驚いた。
「どうやら気づいたみたいだな。ちなみに俺はキリトだ」
「・・・まさか、こんな場所でお前らと会えるとは思っていなかったぜ」
「私もです。またザントさんに会えて嬉しいです!」
SAOで共に戦った戦友との再会にコハルは嬉しそうに笑う。キリトとザントも軽く笑みを浮かべた。
ひとまず少し離れた場所で話すことになり、移動したザントはキリトとコハルからALOにログインした経緯を一通り聞いた。
「なるほどな。アスナとハルトが他の未帰還者と同じ状況になっていたとはなぁ」
「お前も知ってたんだな。SAOが終わってもまだ眠っている人達がいること」
「ニュースでやってたからな。結構話題になってたぜ」
言われてみればそうだ。あのSAOに関する話題だ。ニュースで報道されたり新聞に乗ったりするのは当然のことである。寧ろ、何も取り扱わない方がおかしいだろう。
「しっかし、その眠っているはずのアスナがまさかALOにいるなんてなぁ」
「確証はまだないけど、少なくとも無関係ではないと思う」
「ほう、そいつはどうしてだ?」
「それは・・・」
ザントの疑問に思わず言い淀むキリト。
ALOのメーカーであるレクト。その会社はSAOサーバーも管理しており、その責任者がアスナの婚約者でもある須郷信之。
何かしらの関係があると思われるが、まだ不確定な上に須郷が何をしてくるか分からない今、下手にザントを巻き込んでいいのだろうか。
そう思っていると、キリトが悩んでいるのを察したザントが口を開いた。
「言いたくないならそれでいい。無理に聞くつもりはねぇよ」
「・・・悪いな」
ザントがキリトに告げると、キリトは申し訳なさそうに言った。
その様子を隣で見てたコハルは、話題を変えるべくザントがALOにログインした理由を聞く。
「ところで、ザントさんはどうしてALOに?」
「ん?まぁ、あれだ。どうもSAOでの戦いの記憶が忘れられなくてな。似たようなVRMMOが無いか探したら、たまたまこのゲームを見つけたんだよ」
「・・・もう一度仮想世界に入ることに抵抗は無かったのか?」
「ハッ!ここで死んでも現実じゃ死なねぇって分かってる今、何にビビる必要があんだよ。強ぇ奴らと思いっきり暴れられるんだ。入らねぇ理由なんざ一ミリもねぇよ」
そう語るザントの言葉を聞いて、この男は変わらないなと思いながらキリトは苦笑いした。
「とりあえず、お前らの事情は分かった。その世界樹ってのを攻略する日が来たら俺に報せろ。すぐに駆けつけてやるよ」
「本当か!?」
「おう、誰も攻略したことがない高難易度クエスト。やらねぇなんて選択があるわけねぇだろ・・・!」
楽しそうに笑うザントを見て、キリトは心強いと思った。こういう時の彼は10パーティ並の強さを発揮するのをSAOの時から見ているからだ。
「私たちと一緒に来ないんですか?」
コハルがそう聞く。目的が同じなら世界樹まで一緒に行動してもいいはずだ。
「俺は今日ログインしたばっかだぜ。大した準備も無しにそんな大掛かりなクエストをやるなんざ、いくらなんでも無謀すぎんだろ。しかも、数時間くらい戦ってたからな。流石に疲れた」
疲れた様子でそう語るザントを見て、二人も無理に誘おうとはしなかった。
「そういうわけで俺はそろそろ行く。また会おうぜ。その世界樹の攻略でな・・・あぁ、それとそこのお前」
「ん?」
歩き出したザントだが、一度止まって少し離れた場所で見守ってたセツナの方に視線を向けた。
突如呼びかけられたセツナは、まだ何かあるのかと首を傾げる。
「お前、名前は?」
「・・・セツナ」
「セツナか・・・次は俺が勝つ」
挑戦的な笑みを向けながらそう告げると、ザントはこの場を去ろうとする。
そんな彼の背中にセツナが声を掛ける。
「ここから西の方に中立の街がある。ログアウトするならそこがオススメだ」
「そうか、ありがとよ」
軽く礼を告げると、ザントは言われた方向に向かって去っていった。
「とんでもない奴だったな」
「ホントよ。セツナ君とあそこまで互角に戦えるなんてニュービーとは思えないわ」
セツナとリーファが疲れた様子で呟くと、一連の流れを見守ってたサクヤが事態の説明を求めた。
「すまんが、この状況を説明してもらえると助かる」
セツナ達はサクヤに亊の成り行きを説明した。
「なるほどな・・・」
説明を全て聞いたサクヤは険しい顔をしながら頷く。
「ここ何ヶ月かシグルドから苛立ちめいたものを感じていたが、独裁者と見られるのを恐れて彼を側近に置き続けてしまった・・・」
「苛立ち?何に対して・・・」
苛立ちの理由が分からず、リーファはサクヤに問う。
「シグルドはキャラクターの数値的能力だけでなく、プレイヤーとしての権力をも深く求めている男だ。故に、このままサラマンダーがグランドクエストをクリアして、アルフになって空を支配し、己はそれを地上から見上げるという未来図を許せなかったのだろう」
「でも、どうしてサラマンダーのスパイなんか・・・」
リーファの疑問にセツナが答える。
「大方自分をサラマンダーに転生させろと向こうの領主と契約したんだろう。サクヤとアリシャ、二人の領主の首を差し出すと条件付けてな。まぁ、サラマンダー側が約束を守ろうと思っていたかは微妙だがな」
「サラマンダーの領主は知略的だからネー。まっ、流石にあの結果は向こうも予想してなかったと思うけどネ」
「万全の状態で挑んだはずの作戦がたった一人のインプに阻止されるなんて、サラマンダーどころか誰も予想できないだろ」
「だよネー。今頃サラマンダー領は大騒ぎだと思うよ。敵だけど領主やユージーン将軍には少しだけ同情しちゃうネ」
大掛かりの作戦がたった一人のインプに阻止され、勢力の低下や責任などの問題に追われそうなサラマンダー領主とユージーンを思い浮かべたアリシャが彼らに同情する。
一方で一連の流れを聞いてたキリトとコハルは苦笑混じりの顔で呟いた。
「プレイヤーの欲を試す陰険なゲームだな。ALOって」
「これを考えた人は、結構嫌な性格してそうですね」
「フッ、全くだ」
二人の言葉にサクヤも同意した。
「それで、どうするの?サクヤ」
「・・・後は私に任せてくれ。ルー、シグルドに《月光鏡》を頼む」
サクヤがアリシャにお願いすると、彼女は頷いて詠唱を行う。
詠唱を終えると周囲は闇に包まれ、巨大な鏡が出現する。そして、巨大な鏡には領主館の執務室の椅子に座っているシグルドが映し出される。
「シグルド」
サクヤが鏡に向かって喋ると、鏡の中にいるシグルドは驚いてサクヤの方に目を合わせる。
『さ、サクヤ・・・!?』
「そうだ。残念ながらまだ生きている」
『な、何故・・・いや、会談はどうした?』
「無事に終わりそうだ。条約の調印はこれからだがな。そうそう、途中予期せぬトラブルがあったが、何とかなったよ」
「残念だったなシグルド。俺やサクヤを殺そうとサラマンダーと組んでたみたいだが、お前の計画は全て失敗に終わったよ」
シグルドはサクヤが生きていたことに驚き、更にセツナと彼の後ろにいたリーファに気がつくと敵意を剥き出しにして睨む。
『・・・で、どうする気だ?懲罰金か?それとも俺を側近から外すか?』
「いや、シルフでいるのが耐えられないのなら、その望みを叶えてやることにした」
そう言って、サクヤは領主専用のウィンドウを開くと、迷いのない動きで操作を加える。
それを見たシグルドは顔に焦りを見せる。
『き、貴様・・・正気か!?この俺を追放するだと・・・!』
「そうだ。《
『ふざけるな!シルフの軍務を任されている俺を追い出せば、軍事力に影響を及ぼすことになるぞ!追い出すなら、いつも自分勝手に行動して規律を乱すそこの小僧だろうが!』
「・・・・・・」
激昂しながら語るシグルドの言葉を聞いて思うところがあるのか、セツナは少し顔を険しくした。
対するサクヤは表情を変えぬまま真剣な様子で言葉を続ける。
「確かにセツナは自分勝手なところもあるが、不器用ながらも常にシルフの事を考えて行動している。だからこそ、私もセツナの自由行動を許しているんだ。それに、他の種族と手を組んで領主を陥れようとした側近と自身の危険を顧みず領主を助けようとした剣士。どちらを切るかは考えるまでもない」
己の言葉を論破されたシグルドは、最早まともな思考をする余裕がなく、苦し紛れに叫んだ。
『う、訴えてやる!権力の不当行使で運営に訴えてやるぞ!』
「好きにしろ。さらばだ、シグルド」
『サクヤぁぁぁぁぁぁ!!』
ウィンドウのボタンを押した瞬間、シグルドの断末魔と共に彼の姿が一瞬で消えた。シルフ領から追放されて、どこかの中立都市に転移されたのだ。
しばらくして《月光鏡》は砕け散り、サクヤはセツナの方を見る。
「私の判断が間違っていたのか、正しかったのかは次の領主投票で問われるだろう。礼を言うよセツナ。君たちが救援に来てくれて助かったよ」
「気にするな。俺の方こそ礼を言いたい。ありがとうサクヤ。俺をシルフに残してくれて」
「お前ほどの男をただの放浪の剣士にしておくのは勿体ないからな。お前は私たちシルフにとって最高の剣士だよセツナ。後は私の右腕になってくれたら完璧なんだが・・・」
「い、いや、それは少し困る・・・」
セツナの右腕を己の腕に絡ませながら艶のある声で喋るサクヤに、セツナは思わずたじろいでしまう。
すると、今度はアリシャが反対側の腕に絡んできた。
「そうはさせないヨ!せっちゃんはケットシーのナンバーワン剣士になる予定なんだから!」
「いや、だから俺は・・・ちょ、胸が当たって・・・!」
左右からピタッと挟まれて、セツナは顔を赤らめながら慌てていた。
その時、これまでのやり取りを見ていたリーファが後ろからセツナの服を引っ張りながら叫んだ。
「だ、駄目です!セツナ君はあたしの・・・あ、あたし、の・・・」
反射的な行動だったのか、言葉に詰まるリーファ。
そんな彼女を見て、アリシャとサクヤが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ほう、意外と大胆なんだな、リーファ」
「アハハ!君も欲張りさんだネ」
「ち、違います!や、違うというかその・・・!」
二人の笑みを受けて、リーファは顔を赤らめてしどろもどろになっていた。
その横では解放されたセツナがぐったりしていると、キリトが声を掛けてきた。
「よっ、お疲れさん。モテ男は羨ましいぜ」
「・・・うるさい」
こちらを揶揄うキリトに、セツナは無愛想に言葉を返した。
「ところで、さっきから気になっていたが、君たちはいったい・・・」
リーファを揶揄っていたサクヤが視線をキリト達に向けながら言ってきた。
セツナとリーファはこれまでの経緯を説明する。
「そうか。アルンに・・・」
「ちょっとの間だけだ。用が済んだら《スイルベーン》に戻る」
「それを聞いて安心したよ。必ず戻ってきてくれよ。彼らと一緒に」
「たまにはウチにも寄ってネ」
サクヤとアリシャの笑みを見て、セツナもまた笑みを浮かべながら頷いた。
その隣でリーファが二人の領主に提案する。
「ねぇ、サクヤ、アリシャさん。今回の同盟って世界樹攻略のためなんでしょ?その攻略にあたし達も同行させて欲しいの。それも可能な限り早く」
「・・・同行は構わない。と言うよりこちらから頼みたいほどだよ。時期的なことはまだ何とも言えないが・・・君たちはどうして世界樹を目指しているのだ?」
サクヤの問いにキリトが答える。
「俺がこの世界に来たのは世界樹の上に行きたいからなんだ。そこにいるかもしれないある人に会うために」
「もしかして妖精王オベイロンのことか?」
「いや、違うと思う。リアルで連絡が取れないんだけど、どうしてもそこに行って会わなきゃいけないんだ」
「へぇー、世界樹の上ってことは運営サイドの人?なんだかミステリアスな話だネ」
話を聞いてたアリシャが興味深そうに言う。
「もしや、さっきのインプの男も世界樹に・・・」
「あぁ、装備が整ったら合流するつもりだ」
ザントのことを思い出したサクヤそう聞き、キリトがそれに答える。
「なるほど。こちらの戦力に加えてあの男も味方になると、かなり有利に攻略できそうだな」
「だけど、こっちは少し時間かかるかも」
そう言って、アリシャは難しい顔をした。
彼女の話によると世界樹攻略に参加するメンバー全員の装備を整えるのにかなりの時間とユルドが必要とのこと。
その話を聞いたキリトは、ウィンドウを操作して何か取り出した。
「これ、資金の足しにしてくれ」
そう言って手渡したのは大きめの革袋。その中には多額のユルドが入っていた。
「それなら、私のも使って下さい」
それを見たコハルも同じような革袋を取り出し、アリシャに手渡した。
渡された額にサクヤとアリシャは一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。
「大至急装備を揃えて、準備が出来たら我々もすぐに世界樹に向かう」
そう言って、サクヤはウィンドウを操作して革袋を格納する。
「何から何まで世話になったな。君たちの希望に極力添えるよう努力することを約束するよ」
「アリガト!また会おうネ!」
サクヤとアリシャはキリトとコハルに握手したら、羽を広げて空に飛び立つ。部下たちも二人の領主に続いて隊列を組みながら追っていく。
夕焼けの中、サクヤ達の姿が見えなくなるまでキリト達は無言で見送った。
やがて姿は消えて、周囲は先程までの激闘が嘘だったかのように静まり返っていた。
「・・・終わったな」
「はい。長いようで、けれどもあっという間に感じました」
キリトとコハルの言葉を聞いて、セツナとリーファも心の中で同意する。
《スイルベーン》から旅立ち、鉱山都市でサラマンダーと戦い、シグルドの裏切りが発覚して急ぎ会談の場に向かったら、めちゃくちゃ強いインプと戦うことになった。これが全て一日で起きた出来事なのが信じられないと感じる程濃い一日だった。
そんなことを思っていると、キリトが声を掛けてきた。
「それにしてもセツナ。さっきの動き凄かったな。あんなスピードで飛び回るなんて、俺でも難しそうだよ」
「・・・あの時はあそこであの魔法を使わないと勝てないと感じたんだ。あの男、俺の動きを見切っていたから、早めに決着をつけないとマズいと思ってな」
セツナがそう答えると、コハルが意外そうな顔をした。
「結構冷静なんですね。戦っている時はかなり熱くなってるように見えましたけど」
「そうか?・・・いや、そうかもしれないな。俺は負けることが嫌いだから、気づかない内に結構熱くなってたかもしれない」
「まぁ、俺もたまに熱くなるし、気持ちは分からなくないけどな。けど、そこまで必死になるなんて、何か嫌な思い出でもあるのか?」
「・・・・・・」
キリトがそう聞くと、セツナは黙ってしまった。心なしか表情も暗い気がする。
もしかして地雷だったか?とキリトは感じ、暗くなった空気を察したリーファが口を開く。
「この話はまた今度にしましょう。ひとまず飛べるとこまで飛んで、今日は休みましょう」
「そうだな。それじゃあ、早く行こうぜ」
キリトが先陣を切って空を飛び、リーファ達も後に続く。
再び世界樹を目指して羽を広げ、夕焼けに染まる広大な空へ飛び立つのであった。
目を開けると、見慣れた天井が目に写る。いつも目が覚めたら見らさる自分の家の天井だ。
体を起き上がらせた狡嚙隼人は頭に付けたアミュスフィアを取り外すと、ベッドの傍に置いてあるスマホを持つと、番号を入力して耳に当てる。
数回のコールの後にピッと相手が電話に出た音が聞こえた隼人は口を開く。
「俺だ」
『随分と早い報告だね。早速何か見つけたのかい?』
「このゲームには世界樹ってのがあるらしいが、十中八九そいつが黒だ」
『ほう、その根拠は?』
「その世界樹はまだ誰も辿り着けてねぇ未開の地らしい。人様には見られたくねぇ何かを隠すのにはうってつけだろ。オマケにその世界樹の根本にアスナの奴がいるって聞いた」
『アスナ・・・あぁ、キリト君の奥さんだね』
「SAOでのな・・・つか待て、テメェキリトのこと知ってんのか?」
『まぁね。彼が目を覚ました頃、最初に彼の病室を訪ねたのが僕なんだ。それ以来、何かと関わるようになってね。アスナ君が眠っている病院を彼に教えたのも僕だよ』
「ハッ、あいつもとんでもねぇ腹黒男に目を付けられたモンだ」
『腹黒とは心外だな。これでも真面目に業務をこなす立派な社会人だよ』
心外だと言わんばかりに喋る男の言葉に、隼人は呆れるように言う。
「よく言うぜ。レクト本社に関する調査を俺に依頼した時だって、色々条件付けて来やがったくせによぉ。俺が協力する代わりに例の約束、守れるんだろうな?」
『君があの茅場晶彦の弟子だということを世間に公表しないってことだろう。ちゃんと覚えているよ』
「よく覚えてるじゃねぇか。もし少しでも妙な動きをしたらテメェを消すところだがな」
『ハハハ、僕も命は惜しいからね。'君たち'に喧嘩を売るような真似はしたくないよ』
数日前、隼人は電話の向こうにいる男から依頼を受けたのだ。
内容は未帰還のSAOサバイバーについてレクトが関わっているかもしれないから、レクト本社及びそこで運営しているアルブヘイム・オンラインについて調査してほしいと。
隼人は男の依頼を受ける代わりに、自身が茅場晶彦の弟子だという情報を世間に知られないよう工作することを条件付けた。
一見無茶なお願いに見えるが、電話の先にいる男はそれができる立場にいる人間だ。故に隼人も無下にはできない。
『とりあえず貰った情報を下に、こちらでもレクトの調査を進めておくよ。また何か分かったことがあれば報告してくれると助かるよ』
「分かってら。じゃあな」
そう言って、一方的に電話を切った隼人は、画面を見つめながら舌打ちした。
「チッ、どこまでも食えねぇ野郎だ。菊岡誠二郎」
ちゃらけた態度だが一向に素顔を見せる気配のない男、菊岡誠二郎に悪態付きながらも、ALOでの疲れが溜まった隼人は、もう一度ベットに体を預けるとそのまま眠りについた。
以上、領主会談は終了です。
ザントとの再会。ALOでもザントはザントでした。
シグルドの追放は原作通りです。途中シグルドのセツナに対する言い分は一応正論ですが、自由人だが領主への義理は果たす最強剣士と仕事はできるが気に入らなければ裏切る側近を捨てるならサクヤは後者を選びました。
それにしても、美人領主二人からモテモテのセツナは羨ましいですなー(リーファももっと積極的にいかないと・・・)。
そして、最後に聞き覚えのある名前が出てきました。ザントがALOにログインしたのはこの男が一枚絡んでいました。ちなみに、ザントがナーブギアではなくアミュスフィアを被っていたのは、この男が支給してくれたからです。
次回は場面を切り替えて、現実世界の話になります。メインはあのキャラです。