ソードアート・オンライン IF(アイエフ)   作:イノウエ・ミウ

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今回は現実世界パートです。時系列はセツナ達が《スイルベーン》に出発した日の出来事です。
また、先行公開その3の内容も含まれています。なので、先行公開に登場した眼鏡の少女の名前も判明します。


ep.13 現実世界での日常

ピピピピピピ!!

 

スマホから流れるいつも通りのアラームの音で目が覚める。

耳に響く音を止めて、ベットの上にゴロゴロとのたうち回ることはせずにゆっくりと起き上がり、寝る前に閉めていたカーテンを開ける。

窓から差す朝日がぼやけている意識を徐々に覚醒させる。

やがて、意識がハッキリと覚醒し、そこから洗面所に向かって顔を洗い、自分の顔を確認する。鏡の先には、いつもと変わらない神宮寺統夜の顔がそこに写っていた。

己の顔を確認した統夜は、そのまま歯磨きを行う。それを終えると、今度は台所へ向かう。

フライパンを取り出し、上に油を敷いたら、冷蔵庫から卵を取り出すと、殻を割って中身をフライパンの上に乗せる。

そのフライパンを一人暮らしを始めた時に買ったIHのコンロに乗せて温める。その隣に、冷蔵庫から取り出した昨日のオニオンスープが入った鍋を置き、こちらも温める。

更に食パンを一枚袋から取り出して、これまた買ったばかりのトースターに入れると、電源を入れて焼いていく。

本当なら、もっと凝った物を作りたいところだが、今日はいつもと違って、出掛ける予定があるのだ。だからこそ、手短に作れる物で済ます。

目玉焼きに火が通り、フライパンから皿に移す。同時にトースターの音が鳴り、焼いた食パンを別の皿に移すと、手にそれぞれの皿を持って、テーブルまで運んでいく。

台所に戻り、温まったオニオンスープをお椀に入れて、こちらもテーブルに運ぶ。

買ったばかりのソファーに座り、いただきますと手を合わせてから作った朝食を食べていく。

素朴で簡単な物ばかりだが、一日の活動を始めるための英気を養うなら、このぐらいが丁度いいだろう。

朝食を終えた統夜は、着ていた寝間着を脱ぐと、クローゼットから愛用のジャケットとジーンズを取り出して、それに着替える。

前の日に荷物を詰め込んだハンドバッグを手に持ち、玄関まで行ったら靴を履いて、入口の扉の鍵を開けて外に出た。

 

「「あ」」

 

鍵を閉め終えた途端、同様に部屋の鍵を閉めていたであろう隣の住人である眼鏡の少女と目が合った。

一ヶ月程前から統夜はこのアパートに住み始め、その時から隣に住んでいるがこの少女だ。

目立ったお洒落はせず、少しクールな雰囲気を持つ文系っぽい見た目の少女。季節は2月で寒くなるこの季節、上着を羽織って首にマフラーを巻いており、その下から僅かに制服が見える。恐らく高校生だろう。

初めて挨拶しに行った時は、自分と同い年くらいの少女が出てきて大いに驚いたが、今ではこうして偶然会っては軽く世間話をするし、年が近いこともあって、仲はそれほど悪くはないと統夜は思っている。

統夜に気づいた少女が彼に話しかける。

 

「珍しいね。神宮寺君がこの時間に出歩くなんて・・・」

 

「今日は春に俺が通う学校の説明会があってな。それで、早く起きることになったんだ」

 

「そうなんだ・・・(この時期に説明会なんて、珍しいわね。中学生なら、まだ受験のシーズンなのに・・・)」

 

まだ2月であるにも関わらず、既に説明会を行う学校に、少女は内心疑問を浮かべていた。

彼女は知らないだろうが、これから統夜が通う予定の学校は、ある意味特殊な事情持った学校なのだ。

 

「元々その学校に通う為に、実家からここに引っ越して来たからな。まぁ、電車で通うから、途中近くの駅まで歩く必要があるんだが・・・」

 

「っ!?私と同じね・・・せっかくだし、途中まで一緒に登校しない?神宮寺君、ここに引っ越して来てから、まだそんなに経ってないでしょ?もし良かったら、駅まで案内してあげるわよ」

 

「・・・そうだな。地図で見るより、場所を知っている人間に案内してもらう方が効率的だな。それじゃあ、案内よろしく頼むよ」

 

少女の提案に、統夜が断る理由はなかった。

 

 

 

 

冬の寒さが猛威を振るうこの時期に隣同士で歩くクールな雰囲気の男女。傍から見れば、学生カップルにも見える光景だが、生憎と二人共そんな色気付いたことは一切考えていなかった。

隣同士で歩きながら、統夜と少女は会話していた。

 

「そう言えば、この間の連中、あれからどうしているんだ?」

 

統夜がそう聞くと、少女は少しだけ顔を俯かせた。

この間の連中というのは、統夜が引っ越して来て間もない頃、隣の部屋がやけに騒がしかったことがあったのだ。

最初は耐えていたが、あまりにもうるさ過ぎて、注意しようと統夜は隣の部屋を訪ねたのだが、そこで見たのは、食べ物のカスやゴミがあちこちに散らばっている室内、そこに居座って盛大に笑い合う男女の集団。

そして、その光景を部屋の隅で見守る少女。その顔は今まで統夜が見たことない悔しそうな顔をしていたのが印象的だった。それは目線の先にいる男女ではなく、自分自身に対しての悔しさを露わにしていると、見てた統夜はそう感じた。

何故少女がそんな顔をしているのか疑問を抱きながらも、統夜は周りに迷惑だから静かにするよう注意したのだが、向こうは聞き耳持たずで、終いには痺れを切らした集団の内の男子の一人が統夜に殴り掛かってきたのだ。

しかし、統夜とて元々身体能力が高く、小学5年の頃に総司と一緒に集団相手に喧嘩して勝ったこともある。増してや、SAOで命懸けの戦いをいくつも切り抜けてきた統夜にとって、この程度の暴力は赤子同然だった。

殴り掛かった男子の腕を掴み、そのまま一本背負いして床に叩きつける。

そして、少し殺気の籠った声で再度注意すると、今まで騒いでた集団は顔色を変えて、一斉に部屋から出ると逃げるよう去っていった。

部屋に残ったのは、この部屋の住人である少女だけ。

少女は「ありがとう」とお礼を言ったのに対して、統夜は先程抱いた疑問について問おうとしたが、少女の安堵しきった顔を見て、やめることにした。

それ以来、少女の部屋にあの集団が訪れることはなかったが、統夜自身は少女の生活に何か支障がないか、ずっと気になっていたのだ。

 

「心配しなくて平気よ。あの人達は学校の同級生で、普段は普通に話すし、特にいじめられているわけでもないから安心して」

 

そう言って笑う少女だが、それが強がりの笑顔だということは見てすぐに分かった。自分もよく、似たように笑うことが多々あるからだ。

しかし、それを無理矢理追求しても、本当のことを言うつもりはないと、少女の様子を見て判断した統夜は、少しだけ忠告する。

 

「・・・人の関係について、どうこう言うつもりはないが、友達はもう少し慎重に選んだ方がいいぞ。最近は友達と言い張って、いじめを行う下劣な奴も多いからな」

 

「うん・・・気をつけるわ」

 

今度は少女が統夜に問い掛ける。

 

「神宮寺君は・・・そんな人とは違うのよね?」

 

「・・・さぁな。友と呼べる奴はいるが、俺自身がそういう人間かどうかは・・・まだ分からないな」

 

「分からないって・・・?」

 

「そのままの意味だ。誠実に生きてるつもりであっても、どこかで自分は間違いを犯したのかもしれない、あの時ああすれば良かったと後悔したり、悩んだりすることもあるってことだ」

 

「・・・神宮寺君でも、そんな風に悩んだり、後悔することがあるのね」

 

「人間だからな。誰だってそうだろ?」

 

「そう、だね・・・」

 

統夜の言葉に、少女はコクリと頷くのであった。

そんな話をしている内に、最寄りの駅へ辿り着いた。

駅内は既に人で埋め尽くされていた。出社、或いは出校のため、数多くの学生や社会人が溢れかえっている。

人混みに押されながらも、二人は駅内を進んでいく。

電光掲示板を確認しながら、少女は統夜がどの電車に乗るのか問い掛ける。

 

「神宮寺君はどの電車に乗るの?」

 

「俺はこの電車だ」

 

「あ、私と違う電車ね・・・ということは、ここでお別れってことになるのかしら?」

 

少女がそう言うと、統夜は「そうだな・・・」と少し名残惜しそうに言いながらも、別れを告げた。

 

「またな・・・朝田」

 

隣人である朝田詩乃と別れた統夜は、改札口を通って電車に乗り込んだ。

 

 

 

 

帰還者学校。SAOから生還した高校生以下のプレイヤーが二年の間仮想世界での生活で厳かになった学業の遅れを取り戻すため、政府主導で東京都内に設立された学校である。

待遇もそれなりに備わっており、卒業できたら高卒の資格認定や大学の受験も便宜してくれる。

ログイン当時中学二年生だった統夜もまた学校に通える権利があり、今日は学校の入学説明会が行われるため、電車でここまで来たのだ。

説明会自体は思いのほか早く終わった。体育館で学校や入学式に関する説明を聞き、校内の案内と指定の制服を貰って解散となった。

時間は丁度お昼前で、周りを見渡すと他のSAOサバイバー達が久しぶりの再会に花を咲かせている。

俺も誰かに話しかけようか。そんなことを思いながら歩いていると、彼にとって馴染みのある声が聞こえた。

 

「やっと見つけたぜ」

 

声を掛けられて後ろを向くと、SAOで苦楽を共にしたギルドのメンバーであり、小学校からの幼馴染みでもある三人がいた。

 

「総司、翔斗、連弥」

 

「久しぶりっす!統夜兄ちゃん」

 

連弥の元気な返事を聞いて、笑みを浮かべる統夜。

 

「SAOをクリアして以来、しばらく会ってなかったが、三人共元気そうで何よりだ」

 

「お互い色々あったからね。遅れた二年の時間を取り戻すのは大変だったよ。そう言えば、統夜君はどこから学校に通うつもりなの?」

 

「俺は今、隣町にあるアパートを借りている。そこから電車で通うつもりだ。皆はどうだ?」

 

「俺は実家から近いからそのまま行く。翔斗と連弥は寮に住む予定だ」

 

「寮にか?翔斗はまだしも連弥は一人で大丈夫なのか?」

 

「大丈夫!翔斗兄ちゃんと同じ部屋だから寂しくないっす!」

 

嬉しそうに語る連弥を見て、統夜は安堵する。しっかり者の翔斗が一緒にいれば問題は無さそうだ。

 

「ねぇ、あんた達。もしかして、紅の狼?」

 

そう思っていると、またもや声を掛けられる。しかも、個人ではなくギルド名で。

声質からして女子だろうか。そう思いながら振り向くと、三人の女子がいた。

 

「お前・・・リズベットか?」

 

「それにシリカちゃん!」

 

「サチ、君まで・・・」

 

リズベット、シリカ、サチ。全員SAOで出会い、紅の狼にとっては顔馴染みのある少女たちがそこにいた。

 

リアル(こっち)じゃ初めましてよね。あたしは篠崎里香、呼び方はSAOみたいにリズでもいいわよ」

 

真ん中にいたリズベットこと篠崎里香が我先に自身のリアルネームを言う。

他の二人もそれぞれ本名を教えて、統夜たちも本名を明かした。

 

「お前達もここに通うんだな」

 

「SAOにログインする前までは立派な女子中学生だったからね。そりゃ通うわよ」

 

「お前が立派?ガサツの間違いだろ」

 

「ぶつわよ!」

 

統夜の言葉には普通に答えた里香だが、続く総司の揶揄いの言葉にはキレた。

その様子を見て、苦笑いしながらシリカこと綾野珪子が口を開く。

 

「でも、知っている人たちが身近にいて良かったです」

 

「そうだね。私もSAOに入る前は黒猫団以外の友達は少なかったから、皆と同じ学校に通えて嬉しい」

 

サチの言葉に里香は共感した。

 

「サチの言う通りね。SAOじゃあたし達みたいな女の子のプレイヤーが少なかったから、同年代の友達が近くにいると安心するわ。ところでさ、あんた達今暇?あたし達これからお昼を食べに行くんだけど、あんた達も一緒に来る?」

 

「いいのか?」

 

「勿論よ。お互い知らない仲じゃないんだし、久しぶりの再会を祝ってパーっといきましょう!」

 

飲み会の親父みたいな言い方だなと思いつつも再会を祝う食事自体は賛成だったので、その誘いを受けることにした。

統夜たちは帰還者学校を出て、東京の町を歩きながら会話する。

 

「行く店はもう決まっているのか?」

 

「うーん、実はまだ決まってなくて。せっかくの東京だし、お洒落な店が良いんだけど、あまり高そうな店はちょっとね・・・」

 

「SAOと違って、モンスターを斬っても金は手に入らない。贅沢はできねぇな」

 

総司の呟きに心の中で頷く統夜。引っ越したばかりでお金はあまり余裕がない。実家からいくらか送金してもらうこともできるが、実家との関係(・・・・・・)もあって統夜的にはあまり望ましくなかった。

どこか雰囲気が良くて値段も安い店が無いだろうか、そう思いながら探していると、人気が少ない所に喫茶店が建っていた。

 

「ここは喫茶店か。名前は・・・ダイシーカフェ。ここはどうだ?」

 

「喫茶店ね・・・店の外観は普通だけど、メニューは充実して値段もそこそこ安いから、ここにしましょうか」

 

里香の承認を得て、統夜は店の扉を開いた。

カランカランと扉に付いた鈴の音を聞きながら店に入ると、カウンターから店主らしき男が出迎えた。

 

「いらっしゃい・・・ん?」

 

「すみません。6人ですが空いています、か?」

 

男は統夜たちを見ると、見覚えのある顔ぶれに目を丸くする。統夜もまた男の顔を見て言葉を止めた。

しばらくして、男は笑顔で話し掛けてきた。

 

「お前らは紅の狼!それにスミスのお嬢ちゃんか!?」

 

「もしかして、エギルなのか?」

 

「あぁ、アンドリュー・ギルバート・ミルズ。この店の店主だ」

 

そう言って、アンドリューは統夜たちに笑みを浮かべる。

一方、思わぬ再会に里香は目を丸くしてた。

 

「びっくりしたわ。SAOで商売してたのは知ってたけど、リアルでも同じような仕事してたのね」

 

「ジャンルが違うとはいえ、客を相手する仕事だからな。俺にとっちゃこれくらいお手のモンさ」

 

「それにしては人があまりいないじゃない。どうせSAOの時みたいな阿漕な商売してんじゃないの?」

 

「これでも夜は繁盛してんだよ。それよりも、いつまでも突っ立ってないで早く座れよ」

 

アンドリューに言われて、近くにあったテーブル席に座る統夜たち。

すると、店の扉が開いて、新たに人が入ってきた。

 

「うーす、旦那。席空いてるか?」

 

そう言いながら店に入ってきたのは、頭にバンダナを巻いた男だった。

男はサラリーマンのような格好をしてるが、頭にバンダナという特徴的なファッションをした刀使いの面影を感じた統夜は思わず口を開いた。

 

「お前は・・・クラインか?」

 

「あん?なんでその名前を知って――うぇ!?」

 

一瞬疑問符を浮かべていた男は、統夜たちの顔を見ると驚いて声を上げた。

 

「お、お前・・・ひょっとしてトウガか?」

 

「そうだ。やっぱり、クラインなんだな」

 

「マジかよ!久しぶりだな!中々連絡取れなかったから心配したんだぜ。あれ?てことは、他の三人も・・・」

 

「皆いるぞ。紅の狼全員だ」

 

「リアルでもそのダセーバンダナ巻いてんだなおっさん」

 

「ダセーってなんだよ!かっこいいだろうが!後、おっさんって言うな!俺はまだ26だ!」

 

総司の毒のある言葉にクラインこと壷井遼太郎は叫んだ。

 

「ほらほら、席なら空いてるからさっさと座れ。店の中で騒ぐのは御免だぜ」

 

エギルに言われて、遼太郎は渋々といった様子で席に座った。

エギルとクライン、嘗て統夜たちと一緒に最前線で戦った戦友。町にひっそりと建つ喫茶店で旧友たちとの思わぬ再会となった。




・朝田詩乃
統夜の隣の部屋に住んでいる眼鏡の少女。文系ぽい見た目で大人しい印象を持つJK。
統夜とは前に助けてもらったこともあって、それなりに話す仲。

・帰還者学校
この時期に入学説明会があっただろうという想像の下、一足先に出しました。尚、キリトとコハルは現在それどころじゃないので説明会には参加してないです。
余談ですが、SAOIFでは帰還者学校の制服を着たコハルが見れます。興味があれば是非確かめてみてください。

・サチの本名について
(意外にも)未だに本名が公開されてないので、現実世界でも'サチ'の表記のままにしてます。


リアルで再会を果たした統夜たち。そこで語られるものとは・・・
素朴な疑問だけど、帰還者学校って絶対寮とかあると思うんですよね。そうじゃなければ県外に住んでいるSAOサバイバーはどうやって学校に通うんだって話になるんですよね。高校生ならともかく小中学生に一人暮らしは流石に危険だろ。
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