あに、いもうと   作:ゆうびん

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第十話でございます。
言うほどはじめてないな。


第十話『用務員はじめました』

「昨日なにがあったのか、キッチリ説明して貰おうじゃないの!!」

 

「千棘ちゃん、落ち着いて…」

 

 

翌日、凡矢理高校の教室で楽は机にバン!と手をついた千棘をはじめとする5人に囲まれて席に着いたまま縮こまっていた。

昨日一昨日知り合った男が鶫の義兄かもしれなくて、さらにその男が自分達の学校で用務員になった…、気になるのもやむなしといった所だろう。

 

 

「なにがって言われても…、今の用務員さん具合悪くして人手が欲しかったとかでそれなら短期でやろうって話になって…」

 

 

弁明する楽だが、それを遮るようにさらに千棘が詰め寄った。

 

 

「そんな事を聞いてないわよ!!何の話があってこんなことになったって聞いてんの!!」

 

 

いつになく真剣な千棘に楽だけでなく周りで見ている小咲やるり、集も思わず面食らってしまっているそんな中一人、鶫は少し離れたところで不安そうに経緯を見守っていた。

 

 

「私たちも帰ってからクロードに聞かされたんだけど、あのお兄さんがビーハイブ(こっち)で噂になってんの、見慣れない外国人がいるって。勿論集英組(あんたのところ)でも話になってるんでしょ?」

 

「それは…、大丈夫だ。俺の家のことはうまくぼかして説明したから。だから俺たちが家の事情隠して付き合ってるってことは知られてないってわけ」

 

「そう…」

 

「いや!?ちょっと」

 

「そんなことここで言っちゃ…」

 

 

千棘は妙に納得した様子だが、クラスメートも大勢騒いでいるいる教室内とはいえおいそれと言ってはいけないような事をさらっと言ってしまった楽に集やるりは慌てて止めようとする。

当然自分達は楽と千棘の秘密を知っているがその秘密を知らされていない人間が一人いる、それも渦中の人物と言っても過言ではない鶫がそうなのである。

そういってゆっくり振り向いたるり達の視線の先にいる鶫は一瞬驚いた顔を見せたがすぐに申し訳なさそうに小さく笑った。

 

 

「皆さん、お気遣いありがとうございます。ご心配はありがたいのですが、二人の秘密は私も知るところでして」

 

「そうなんだ、誠士郎ちゃんも知ってたんだね~。そんなら楽も言ってくれてたらよかったのに」

 

「ああ、ちょっと前にな。うっかり千棘と一緒にばらしちまって…」

 

「…そうですか、皆さんもう知ってらしたんですね。その様子だとおそらく橘万里花も…、そうですか、私だけ…」

 

 

不意に悲しげな表情を浮かべた後、自嘲気味に笑う鶫。

そんな彼女を見ていたたまれない気持ちなり顔を見合わせる楽達。

 

 

「鶫、ファルカノさんのことなんだけど…」

 

 

楽はゆっくりと話し始めた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

-昨日-

 

千棘や小咲達を見送ったあと、その場に残った楽とファルカノの二人。

楽はファルカノのたっての希望で、凡矢理高校を案内することとなった。

とはいっても部外者のファルカノを校舎内に入れることは出来ないので敷地内から校舎を眺めるだけだったが。

しばらく歩いて校庭を見下ろせるところに来ると、サッカー部が声を出し合いながら練習に励んでいる様子が目に入ってくる。

それを黙って二人で眺めていると、唐突に楽が口を開いた。

 

 

「…あの、ファルカノさん」

 

「なんだ?」

 

「今更だけど…、ごめんなさい。鶫のこと知らないって嘘ついて」

 

「………」

 

「………」

 

「………フハッ」

 

 

ファルカノと初めて会った日、形はどうあれ楽と千棘は嘘をついてごまかしてしまった。

急なことで戸惑ったからといえばそれまでだが、楽の中にはその申し訳なさがあった。

申し訳なさそうな楽の顔を黙って見ていたファルカノだったが、何を思ったのか急に笑い出した。

 

 

「ハッハッハッ!急にしおらしくなるもんだから何かと思えば、そんなこと気にしてたのか」

 

「そんなに笑うことないだろ!!結構気にしてたんだぞ」

 

「なぁラク、嘘吐かれて怒るのは子供のやることだ。本当に大事なのは何故嘘を吐いたのかよーく考えることだ」

 

「嘘を…?」

 

「ラク達が俺をごまかしたのはツグを守るためだ、一にも二にもなく理由はそれなんだろ?」

 

「ああ、そうだけど…」

 

「ならそれでいい。ありがとよ、あの子を心配してくれて」

 

 

そう言って目の前で笑うファルカノ、そんな男の横顔を見上げて楽は器の違いを思い知らされた気分だった。

 

 

(なんか…、敵わねぇな)

 

 

こういうのをゆとりある対応というのだろうか?

それとも大人の余裕というのだろうか?

目の前の男の底知れない大きさに楽はただ黙るしかなかった。

 

そんな黙ったままの二人の間にコロコロと白と黒のサッカーボールが弾みながら転がってきた。

楽は転がるそれを足の裏で地面と挟んで止めると練習中のサッカー部の方に蹴り返そうとするが、面白そうなものを見たという顔で手のひらを上に向け指先を曲げて“こっちに頂戴”のハンドサインを送る。

軽く蹴ってパスを送るとつま先でボールを跳ね上げるとインステップで受け止め器用にリフティングを始めた。

 

 

「むしろ礼を言うなら俺の方だよ、昨日会ったばかりの俺にここまで気使ってくれたんだから」

 

「そりゃまあ…、鶫のこと助けてくれたし」

 

「しかしまぁ、もう少し腰入れて探す気だったんだが色々予定が変わっちまったな」

 

「でも他にもやること色々あるんだろ?親父さんのこととか」

 

「ああ、|義父≪親父≫の昔の職場をな、…俺、そんなことまで話したか?」

 

「ッいや、何となくそんな気がして、出身が日本なの親父さんだけみたいだし…」

 

 

しどろもどろで答える楽にファルカノは返事とばかりにインサイドでボールを送り、慌てて受け取った楽とまるでパス練習のようにボールのやりとりをする。

 

 

「そうだな、義妹(いもうと)を探すのもそうだが義父(親父)の事もそれはそれではっきりさせときたい」

 

「………」

 

「こいつは俺の人生を懸けた大勝負なんだよ」

 

(…勝負…)

 

 

 

◇◇◇

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 

気づけば楽は肩で息を切らしていた、全ては目の前にいる涼しい顔をした男が原因だ。

足下で遊ばせているボールを捕ろうとするもファルカノの小躍りするような軽やかさでトリックやフェイントで上手く股抜きされ、結果殆どその場から大きく動いていないファルカノに対し地面にはまるでドーナツを描くように楽の足跡が残っていた。

 

 

「…ファルカノさん、何でも出来すぎだろ」

 

「あんまり褒めるなよ、俺だって出来ねぇ事くらいあるさ」

 

「でもすげぇよ、鶫じゃないけど俺もファルカノさんみたいな兄貴がいたらなって考えちゃうよ」

 

「ラク…、お前|兄弟姉妹≪きょうだい≫いるのか?」

 

「いないよ、一人っ子ってやつ」

 

 

動けなくなった楽にボールを渡さず一人でリフティングを始めそのままフリースタイルに繋げるファルカノ、相変わらずその腕前に楽も思わず舌を巻く。

 

 

「そうか、じゃあトーチャンカーチャンと三人暮らしか」

 

「そうじゃないんだけど、話せば長くなるというか、言うほどのことでもないというか」

 

「じゃあ聞かねぇ、よ!!」

 

 

語尾を跳ねさせると共にボールを額で受け止めヘッドストールでバランスを取る。

サッカーをしている男とそれを見ている男、そんな無言の二人の耳にざわざわと小さくも騒がしい声が届いた。

その音の方を向く楽とファルカノ。

 

 

 「…スゲェ、あの外国人。変なシャツ着てるけど」

 

 「すごいバランス感覚だったぞ」

 

 「カッケェ…」

 

 「一緒にいるの一条だよな」

 

 

視線の先にはボールの本来の持ち主であるサッカー部が連れ立って肩で息をしながら先ほどのファルカノの足業に目線を奪われていた。

 

 

「俺も見てて楽しかったけど、ボールは返してあげなきゃ」

 

「そうみたいだな」

 

 

そういって軽く手前にボールを放ると地面に付く前にボレーシュートを放ちサッカー部員達の頭上高く弧を描いて視線をそちらに誘導した。

 

 

「行こうぜ」

 

 

それだけ言って楽の肩をたたいてその場を後にしたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「これでよし…と」

 

「これで何かあっても連絡は取れるってわけだな」

 

 

場所を変えて校門近くでお互い携帯電話を近づけて連絡先を交換する二人。

こうして楽はなんとか千棘から課せられたノルマを達成となった、だがどうにもモヤモヤするものがあった。

 

 

「ファルカノさんはこれからどうするの?」

 

「そうだなぁ、さっき言ったとおり義父(親父)の事をハッキリさせなきゃならねぇ。また病院探すかな、気の長い話だが」

 

「そっか」

 

「ツグにちゃんと言ってやれなかったのは心残りだが、まぁラク達がいれば大丈夫だろ」

 

「…買いかぶりすぎだよ」

(それに千棘がもう言ってるかもしれないし…)

 

「そんなことは無ェ、人間一番大事なもんって何か知ってるか?」

 

「お金とか権力…じゃないよね」

 

「当たり前じゃねーか!!」

 

「友達ってこと?」

 

「そうだ、人間ってのは誰彼危ういもんだ。もし道を踏み外しそうになった時止めてくれる奴がいるならそれは最高の宝ってヤツだろ?部外者の俺がずっとここには居られないからな、ラクやチトゲ達がいれば俺も安心だ」

 

「ああ、…なんか照れくさいな」

 

 

気恥ずかしそうに言うと傷だらけの拳を楽の前に突き出す、楽もそれを見て察したのか同じように拳を突き出しそれを軽くぶつけ合った。

まるで少年漫画のようなクサいワンシーンだが、それに水を差すように物音が響いた。

その物音の主は、散乱した資材と倒れた猫車の側で腰を押さえて辛そうにしている青いツナギを来た老年の用務員だった。

 

 

「アイタタタ…」

 

「っとに、この町はトラブルに事欠かないな。ジーさん大丈夫か?」

 

 

やれやれといった様子で用務員の近くに行くと猫車を立て直し、散らばった道具や資材を掴んで収めていくファルカノ。

楽もそれに続く、二人がかりなのですぐに終わったが用務員の方はそうは行かなかった。

 

 

「おい大丈夫かジーさん」

 

「すまんのぉ、持病の腰痛が…」

 

 

楽に支えられながらトントンと腰を叩き体勢を立て直す用務員、表情も辛そうだ。

 

 

「腰悪くしてるのにこんな仕事しなきゃならねぇのか?」

 

「募集しても人が来んでの、長い休み貰えりゃ治療に専念出来るんじゃが…」

 

 

それを聞いていた楽、ふと何かをひらめいた。

 

 

「用務員さん、その募集ってどこでしてるんですか?」

 

「この町のシルバー人材センターじゃが」

 

「要するに人材派遣会社ってことだろ?」

 

「おいラク、いったい何話してるんだ?」

 

 

問いかけるファルカノに楽は表情を明るくして振り向いた。

 

 

「ファルカノさん、ここで働けばいいじゃん!」

 

「は!?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ということであの人が用務員になった訳で…」

 

「そうだったの…」

 

一同を沈黙が包む、そして次に楽が問いかけたのはやはり火中の人物である鶫だった。

 

 

「鶫」

 

「…!?」

 

 

楽に呼ばれてビクリと体を震わす鶫、動揺してるのは一目瞭然だった。

 

 

「やっぱり戸惑うよな?自分のことなのに自分のいないところであれこれ決められて」

 

「それは…」

 

 

それだけ言ってグッと下唇を噛む鶫、本音と建前で心が揺れる。

 

 

「一条楽、何故お前はそこまでしようとしたんだ?正直手掛かりを探すのとここで働くのは別の話だろう」

 

「ここを拠点にして働けば情報も集めやすいし、やっぱり家族は近くにいた方がいいと思ったんだ」

 

 

チラッと横を向いた楽の目が千棘の目線と合う、千棘も実母である華との関係を楽に取り持ってもらったこともあって複雑そうな表情をしている。

 

 

「急なことで迷惑かけてるのは分かってる、俺も出来る限りフォローするしもしあの人がもし鶫とホントになんの関係もない人だったら俺のこと好きなだけ殴ってもらってかまわない。だから…」

 

「写真…」

 

「え?」

 

 

ポソリと呟いた言葉がうまく聞き取れず、思わず楽は聞き返した。

 

 

「あの方…、ファルカノ殿の持っていた写真というのを見たいのだが、今あるのか?」

 

 

写真…言わずもがなファルカノの写真入れに入れている家族の写真のことである、だが写真はファルカノが持っている物なのでそれは叶わぬ筈。

その時るりがハッと思い出したように顔をあげた。

 

 

「舞子君、昨日写真を撮るのに御執心だったじゃない」

 

「あぁそうだったね、写真写真…」

 

 

ポケットから携帯電話を取りだそうとする集だがそれより早く楽がとある物を机の上に置いた。

猫を模したレリーフの施されたファルカノの写真入れである。

 

 

「これあのお兄さんの写真じゃない!何であんたが!?」

 

「“見せるなら早い方がいいだろ”ってことで俺に渡して来たんだ、ファルカノさんが」

 

「これが…」

 

 

震える手で写真入れを受けとると鶫はそれをゆっくりと開いた。

目に映るのは薄汚れた白衣を着た医者の男、南米系の少年、今の自分と昔の自分にそっくりな自分ではない母と子。

 

 

「これが、私の家族…?」

 

 

写真の中の母親を見ていると一昨日の夢が鮮明に甦ってくる。

 

 

 “ツグちゃん”

 

 

顔も見えなかった夢の中の母の姿、立ち振舞い、声がまざまざと頭のなかに浮かんでくる。

 

 

「………」

 

「鶫?…!?」

 

 

心配そうに千棘が鶫の顔を覗きこむ、食い入るように写真を見ていた少女の目からは水晶のように透き通った二筋の涙が流れていた。

 

 




次回に続きます。
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