サブタイトルにはとある元ネタが隠されています。
ここは凡矢理市、ニセの恋人関係である“一条楽”と“桐崎千棘”はニセの定期デートに出かけていた。
「さっきの映画、なかなか面白かったわね」
「動物が出てたのが良かったな!」
「ホントあんたって動物好きね―」
二人並んで談笑する姿は緊張やぎこちなさは微塵も感じられない。
「腹減ったな、そろそろ昼食食べに行くか?」
「いいわね、アタシラーメンがいい!」
「ラーメンて…、もっと色気あるもん食べようぜ」
「なにアンタ?そんなにム、ムードとか大事にするヤツだった?」
「違ぇよ、どこでお前ンとこの監視が見てるか分からないのにトッピング全部載せとか替え玉とか喜んで食べるヤツがいたら怪しまれるだろ、まぁ今日は居ないみたいだが…」
彼氏はヤクザの組長の一人息子、彼女はギャングのボスの一人娘、そんな二人が付き合うのはいろいろ障害も多い。
「あぁ、そっか。アンタってそういうヤツだったわね」
呆れたようにため息をつく千棘だった。
「まぁ無難にファミレスとかでいいんじゃね?」
「そうね、じゃあそうしましょ」
「ここから近い所は…と、ん?なんだアレ」
目的地をファミレスに変え、足を進める二人だったがその道中で人だかりを見つけた、歩道に集まって一様に何かを見下ろしている。
「なになに?なにがあるの?」
「おい、あんまり楽しそうにするなよ。何か大変な事態かもしれないだろ…」
ワクワクしながら人だかりを進む千棘,一歩下がって毒づく楽。
人混みを掻き分けて最前列まで出た二人の目に飛び込んできたのは予想外のものだった。
そこに居たのは“地面に突っ伏して倒れた男”であった。
「「…………」」
「…ゥーン…、ムニャムニャ」
何かを呟いているところから、意識があるのは理解できる。
俗に言う行き倒れである、では何故周りの人たちは眺めているだけで何もしようとしないのか?楽と千棘の二人はここで合点がいった。
それはこの男の様相であった。
年の頃20代後半であろうか?日本人離れした精悍な顔立ちに、日本という国柄にあまり当てはまらないメンズのポニーテール、服装は無地のTシャツに履き古したジーンズ、スニーカーなど別段コレといって特徴的では無い格好ではあったが一番目を引くのがその体格であった。地面に寝そべっていてもよく分かる、成人男性より一回りも二回りも大きな身長とそれに見合う筋肉質な体…、とにかく浮世離れした近づきがたい雰囲気を醸し出していたのであった。
早い話がとにかく関わり合いになりたくないのだった。
とくにこの町はヤクザとギャングが跋扈する町、もしかしたらそんな連中の関係者かもしれない。
そんな人間に借りを作るのはもってのほか、不用意に貸しを作ることだって絶対に避けたい。
なので通りすがりを装ってことの顛末を見届けているのだった。
「この人…、お前んところの構成員か?見たことない顔だけど」
「ううん、知らない…、あんたのところじゃないの?」
「ウチに外国人の組員はいねぇよ…」
「じゃあ…、全然関係ない人?」
「多分…」
そうこうしている間に周りで見ていた人たちが散り散りに離れていった、暗に『後はあんた達に任せた』とだけ言い残したように。
そしてこの場所には楽と千棘と行き倒れの男性の、三人だけになった。
「……ゥーン…、ブツブツ…」
「…で?どうするの、この人」
「そりゃあ、やっぱほっとけないよな」
「フフッ、あんたならそういうと思ったわ」
そういって頬を緩める千棘、他人の厄介事も背負い込んでしまうのが楽の性分だが、それが彼の魅力でもあるのだ。
そして千棘は彼のそんな面に惹かれたのだった。
「とりあえず起こしてみるか…、もしもーし」
「こんなところで寝る?普通」
「いや、分からないけど…」
倒れている男の肩を揺さぶりながら声を掛ける楽、それを千棘は膝に手を添えて身を乗り出すようにのぞき込んでいた。
そして幾たびかの問答のあと、目覚めの時は来た。
「…………ウ、ウン!」ガシッ!
「うッ、痛てて!」
「あ、起きた」
ビクッと体を揺らして目を見開いた男は自身に差し伸べられていた楽の手首を力強く掴んでカッと目を見開いた。
「ちょ、離してくれって!」
「…ッ!…ハァハァ…」
「もしもし!日本語分かりますか?Do you understand japanese?」
「……ハァ、……ハラ…」
「「ハラ?」」
「…ハラガ、…ヘッタ…」
「「…?」」
「………」バタッ
そのまま再びうつ伏せで倒れ込んでしまったのだった。
◇◇◇
「いやぁ~~、助かった助かった。君達には感謝しかないな!」
「「…………」」
「それにしても、日本のコーヒーうまいな!いくら飲んでも飽きないわ」
腹が減ったと訴える男をどうにかして近場のもともと行く予定だったファミレスまで連れて行くと、とりあえずは話しを聞こう、という事でドリンクバーを頼むとコーヒーがよっぽど気に入ったのか、カップを何個も座席に持ち帰り舌鼓を打って堪能していた。
そこに向かいに千棘と並んで座っていた楽が若干あきれたように問いただした。
「…で、具合良くなりましたか?」
「もう絶好調!バッチリ糖分補給出来たし、元気全開!」
「しっかし、よくもまあこんなに飲めたものね。ファミレスのドリンクバーをわんこそばみたいに飲みまくる人そうそういないわよ」
コーヒーを喜び勇んで片手にカップを二つずつ持ってかれこれ十回近く座席とドリンクバーを往復してる男に千棘が毒づく。
「そんなこというならお前だって、それこそこないだ行った定食屋でご飯おかわり無料で炊飯器カラになるまで食べてたじゃねぇか。開店早々入ったのに店出るとき店員さんまた準備中の札かけてたぞ」
「ちょっ、そんなの初対面の人の前でする話しじゃないでしょ!」
「痛ッ!叩くなよ!」
「………」
話を聞く前に揉め事を始めた二人に男は面食らった様子で場の空気を探るように何も言わなかった。
そして…
「君達、仲いいんだな!」
「「良くない!」」
いまいちフォローにならないフォローにニセカップルの二人は仲良く声をそろえて突っ込んだ。
「で?要するに財布にケータイ、パスポート諸々入れた鞄をタクシーに置き忘れて来たワケ?どんな色のタクシー?」
「空港からのタクシーだったら大体会社は分かるな…、空港に電話した方が早いかな…」
千棘が話を聞きながら楽が情報をまとめ連絡先を絞る、面倒事や厄介事の相談は慣れっこな二人の手際は中々なものだった。
「…はい、じゃぁ凡矢理のファミレスで待ってます、はい、それじゃ…」
「連絡とれた?」
「ああ、これからこっちに来てくれるって」
「だってさ、良かったわね」
「良かった良かった、二度も助けて貰えるとは…、日本人いい人」
電話を終えた楽は姿勢を直しつつ、改めて男の様子を見る。
(それにしても…、すごい体してるな。総合格闘技でもやってるのか?)
ファミレスに連れてきたときの様子から人当たりは悪くないことは分かったが、空腹を満たしたことでハリの増した筋肉は明らかに普通の勤め人のものとは思えず、よく見ると手首、手の甲などに決して小さくないキズがいくつも付いていた。
自分や千棘の関係者にも力自慢、喧嘩自慢は大勢いるがそんな連中とは一線を画す肉体を誇っていた。
「そういや、散々世話になっといてなんだが、俺のこと何も言ってなかったな」
「そういえば私たちもそうね、ねぇ楽…、楽?」
「ん、ああ、そうだな(危ねぇ…見とれてた)」
「何よ、ボーッとしちゃって!」
「悪い悪い、じゃあ俺から…、一条ら」
「ちょっと待った!」
一番に自己紹介をしようとした楽を男が静止する。
「人に名前を聞くときはまず自分からっていうだろ、君達への礼儀も含めてまず自分から言わせてくれ」
「はぁ…、じゃあどうぞ」
「俺の名前は“ファルカノ・エス・ペレグリ”、アメリカ系ブラジル人で年の頃28になる、身長が188cm、体重は105kg、靴の大きさが29cm。視力は両目とも裸眼で3.5。カトリック教を信仰していて朝晩の祈りが日課。好きな食べ物が鶏肉料理とコーヒーと甘いもの、それから片手で食べれて手が汚れないものも好きだな。趣味がサッカー、贔屓のチームは特になし、どっちかというと見るよりやる方が好き、ついでにリフティングも得意。最近のマイブームは航空会社の機内食全種類食べること。特技は安い服を探すことで個人的にブルー系が好き、自慢じゃないけど80ドル以上の服を着たことがない。アメリカの人権保護団体で働いていて専らフィールドワークが専門なんだけど、基本的に普段から世界中回っていて年に一、二回くらいしか家に帰らないんだ。久々に長~い休みが貰えてたんでやらなきゃいけないことがあるから日本に来たんだけど、到着するや否やトラブル続出でいやー、参った参った。ついでに言っとくとファルカノってとある事情で付けるに至った二番目の名前であって、本当の名前はセ」
「ちょ、ちょっと!長い長い!」
「情報量多すぎよ!」
「名前と年齢くらいでいいよ。あ、俺一条楽って言います、今高三です」
「私は桐崎千棘。楽とは年と学校が同じなの、日本とアメリカのハーフです」
「こりゃどうも…、おれはファルカノ・…」
「「もういいって!」」
長すぎる自己紹介をもう一度始めようとした男に再び息のあったツッコミが入ったのだった。
◇◇◇
高校生カップルと外国人青年という異色の組み合わせだが意外にも話は弾んでいた。
「なるほど、二人は高校生なのか!若いのに立派だなぁ」
「若いて…、ファルカノさんも十分若いじゃない」
「そうだぜ、10歳年上に見えないくらい貫禄あるし」
「そうか?俺なんてまだまだ若造だよ。ところで高三ってことは17、8歳くらいか?」
「まぁ留年しない限りは大体そうよね」
「…じゃぁあの子と同じ年くらいだな…」ボソッ
談笑を楽しんでいた男ことファルカノだったが、年齢の話になると顔に険を落とし手で口元を覆い考え込みだした。
「?」
「何か言った?」
「ああいや!?何でも…いや、君らには言った方がいいか。コレも何かの縁だ」
「どういうこと?」
「俺がこの国に来た理由さ」
さっきまで柔和に笑っていた向かいに座るファルカノの雰囲気が急に変わった、季節は5月なので比較的暑いほうに分類されるが楽と千棘は急に隙間風が吹いたような寒気を感じたのだった。
「妹を探しに来たんだ、18年前に生き別れた…妹を、な」
次回、第二話『さがすは妹』
よろしくお願いします。