あに、いもうと   作:ゆうびん

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第二話です、よろしくお願いします。


第二話『さがすは妹』

「妹?」

「探すって…」

 

ファルカノはコップに半分ほど残ったコーヒーにシロップを継ぎ足し、マドラーでかき混ぜ一息で飲み干す。

ふぅ、息を吐き出すと机の上に出した両手に力をこめてグッと握り真っ直ぐ強い目線で楽と千棘の方を向き直す。

 

「ことの発端としては今から20年前のことなんだが、当時ブラジルで生まれた俺は産んでくれたお袋と母一人子一人の二人で生活していたんだ。俺のお袋っていうのがこれまたいい女でさ。名前がヒセルマリアっていうんだ、名前の由来は12月25日に生まれたからで日本風にいうならゲンを担いだっていうのかな?俺がカトリック教を信仰しているのもお袋の影響でさ、浅黒い肌がお祈りの雰囲気によく合ってるんだコレが。あと、よく作ってくれた料理が鶏肉の…」

「「話が長いし関係ない!」」

「ッおおう!?」

 

仲のいいツッコミを入れられたファルカノはコホンと咳払いをすると、すこしバツが悪そうにしゃべり出した。

 

「まぁ要するにだな、20年前にたった一人の家族だった母親を亡くして失意のどん底だったわけだ。そんな現地で俺を拾ってくれた恩人がいたんだ」

「その恩人の家族を捜しているの?」

「まぁ平たく言えばそうなんだが…」

「でもなんでそんな話を俺たちに?」

「確かにこの町外国人多いけど…、あんたブラジル人の知り合いいる?」

「いやいねぇよ…、そういうのはお前の方が詳しいんじゃないか?」

「私だっていないわよ…」

「あぁ、違う違う。そうじゃない」

 

二人でモニョモニョ喋っていたが、ファルカノがそれを制する。

 

「説明が下手くそで申し訳ないんだが、その家族は現地の人間じゃな…」

 

訂正しようとしたファルカノだが、勢いよくドアを開ける音とともにこちらに早足で向かってくる音にその集中を乱される。

 

「あ!お客さん、バッグ忘れてた方ですね!お待たせしました、先ほどのタクシーの者です!」

「ああ!さっきの運転手さん!悪いねぇ」

「はいこちらがバッグになります、中身足りてるか確認してもらっていいですか?」

「はいはい…、うん!大丈夫、全部入ってるわ」

「はぁ~、よかったもし足りないとかだったら大ごとなもんで、では私はこれで」

「すいませんね、どうもありがとう!」

 

よほど急いでいたのか額に浮かんだ汗を拭うことなくそのまま早足で去っていく運転手を三人は黙って見送った。

 

「カバン忘れたってもったいつけるからどんなんかと思ったら、ただのショルダーポーチじゃない」

「あんな小さいカバンで日本に来たのか…」

「で、どこまで話したかな…」

「恩人の家族がナニ人かって話です」

「あ、そうそう、その恩人なんだけど日本人なんだよ」

「「日本人!?」」

「そう、日本人で医者をやっていた人なんだけど、その人…っつうかその家族が助けてくれたワケなんだ。まぁ俗に言う無医村で働く日本人医師…国境なき医師団っていうのかな、とくにそういった団体には入ってはいなくてフリーでやってるんだけど、そこで知り合った日系人の…」

「「話が長くなる!」」

「ッおおう!?」

 

 

 

「「「…………」」」

 

しゃべり疲れとツッコミ疲れなのか三人そろってグラスを傾け喉を潤す。

 

「そうだな、声だけだと分かりにくいから立体で説明しよう」

「「立体?」」

 

言うや否や机に備え付けられた白い紙ナプキンを三枚手に取り丸めて机に並べる。

横に二つ並べた紙ナプキンの間にストローをおいて婚姻関係を表し、この二人が夫婦であることを示す。

さらにそのストローを渡って縦にもう一本ストローを置き、T字を作り二本目のストローの端にもう一個丸めた紙ナプキンを添え血縁関係を表し、子供であることを示す。

さらに二本目のストローの真ん中辺りに蛇腹を使いL字に曲げたストローを数本置いて端をくっつける、このストローの反対側には茶色の紙ナプキンを置く、これがファルカノ自身とその実母を表す。

 

 

 

 

   義父━━━義母 実母(死去)

      ┃      ┃

      ┃      ┃

    Γ━━━━━━━━━¬

    ┃         ┃

   義妹        俺

 

 

 

 

 

「とまぁ、こんな感じかな、よく出来てるだろ!」

「「……・・」」

((わざわざ図式にするほどでも無かったんじゃ…))

 

大それた口ぶりの割に、家族構成が典型的な核家族に+αしただけであったことに二人は閉口を覚えた。

おまけに亡くなっているということを証明するために用意した実母を表す茶色の紙ナプキンを握り拳でペシャンコに潰している辺りが趣味が悪い。

 

 

「つまり養子にしてもらった家の子供を捜してるわけね」

「子供がいたのに養子にしてくれたのか、いい人だったんですね」

「いい人なんてもんじゃ無いぜ、あれが無きゃ今頃生きちゃいないよ」

 

懐かしい記憶を思い出すように目を配りながらカップに口を付ける。

 

「その家で2年ほど家族として迎えられて一緒に生活してたわけなんだけども、ある日故郷で大火事が起きてな」

「「……大火事…」」

「いや、火事なんてカワイイもんじゃねぇ、ありゃ災害と呼んでもおかしくないレベルだった」

 

火とは文明の利器である、はるか昔から人類の生活を助け豊かにしてきた。だがその反面武器や兵器に使われる、放火や暴行に使われる等の負の側面も計り知れない。今更ながらそんなことを“大火事”というワード一つで改めて思い知らされた楽と千棘は思わず息を呑んだ。

 

「俺一人がおめおめ生き残っちまったってわけ、それが18年前だ」

「ご家族が亡くなられたんですね…」

「ああ」

「…でも、妹さんを捜してるってことは…、生きてたんだろ!?」

「………」

「…ファルカノさん?」

「まぁ大体そんなもんだ、かれこれ10年以上世界中まわって妹を捜している」

「「………」」

 

二人は何も言えなかった、自分たちも12年前に会っているという朧気な記憶を追っているが目の前にいる男が追い求めているものも果てしなく長く先の見えないものじゃないだろうか。

 

 

「でも何で日本に?今回が初めて来たんでしょ?」

「確かに…、10年以上さがしていて日本に来たのが初めてなんていうのはヘンだな」

「…それを話すとまた長くなるんだが…、そうだ!写真見るか?」

「写真?」

「そう、写真。18年前に撮ったもんだ」

「何の?」

「家族の」

「誰の?」

「俺の」

「「………」」

「…あれ?」

 

楽と千棘はお互い目を合わせ、せーの、と息をあわせ…

 

「「 最 初 に 言 え ! ! 」」

 

本日最大ボリュームのツッコミが店内に響き渡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、写真があるなら早く出せっての!」

「ホントよ、こんな小学生の暇つぶしみたいな家系図だって作らなくてよかったのに」

「そ、そこまで言うこと無いだろ…」

 

ショルダーポーチの外ポケットから革のパスケースを取り出すファルカノ。

ネコ科の動物のようなエンブレムの入ったやや草臥れたそれを机に置く。

千棘はそのパスケースを手に取り、二つ折りを開いて中に目を通す。

 

「イチジョウラク…っていったか、君」

「楽でいいですよ」

「じゃあラク、…トイレ行きたいんだけどどこにあるんだ?」

「飲み過ぎですよ…、レジの方に行って出口の反対側に曲がるとありますから、青い看板の方にMaleって書いてるからそっちで」

「わかった、サンキューな」

 

 

「しっかし、ホントに調子狂うなあの人。マイペースっつうか適当っつうか…、なぁ千棘」

「………」

 

トイレの方向が自分の背中側だったので、わざわざ立ち上がって指さしての説明をし終えた楽がやれやれといった顔で席に座り直した。

相方に同意を求めるように尋ねるが、当の本人は無言だった。

 

「………」

「…千棘?どうかしたのか?」

「………ねぇ、…」

 

普段の快活ぶりからは考えられないような震えた声を絞り出すように楽に問いかける。

顔は青ざめ、片手でその口元を隠すように押さえ、パスケースを持つ手はフルフルと震えていた。

 

「ど、どうしたんだよ!?具合悪いのか?」

「…これ、見て…」

「そんなことより、顔真っ青だぞ!?」

「…いいから…、お願い…ッ!」

「………」

 

楽は千棘のこんな様子に覚えがあった、二年生の時の転校騒動等の自分や仲間達に大きな転機を迎える、取り繕う余裕も無いような状況を態度が示していた。

それを察知した楽は黙って千棘の手からパスケースを受け取った。

パスケースは二枚折りで内側が両面とも透明のポケットになっていてそれぞれボロボロの写真が収められていた。

左側には母子の写真、民族衣装を纏ったラテン系の淑やかな女性が静かに微笑み、五、六歳頃のファルカノと思しき少年が無邪気に笑っていた。

そして右側には…

 

「こ、これって…、この女の人…」

「…ねぇ、そっくりでしょ…?」

 

左側には家族の写真、薄汚れた白衣の日本人男性が小さな女の子を抱き上げ、その反対には十歳頃のファルカノと思しき少年、そして中央には椅子に腰掛け白のワンピースを着た女性。

先ほどファルカノが見せた家系図と丁度あっている。

だが、楽と千棘の気にしているところは写真に写っている人物の顔であった。

写真の中の母親と娘、この二人の顔がよく知る“彼女”によく似ていたからだ。

 

「この写真の母親…」

「これに移ってる女の子…」

 

 

 

 

 

「「鶫にそっくり…」」

 

 

 

 

一組のカップルが頭を突き合わせて一枚の写真を食い入るように眺めている。

普通のカップルだったら仲睦まじい微笑ましい光景だっただろうが、その表情は凍り付いていた。

 

「この母親、今の鶫と瓜二つだ…」

「こっちの女の子も、子供の頃の鶫とそのまんまだわ…」

 

もちろん二人は鶫の生い立ちは知っている、赤ん坊のころにビーハイブの幹部であるクロードに拾われヒットマンとして徹底的な教育を受けさせられ今に至る。

普段は少し天然だが礼儀正しく控えめで、護衛対象である千棘の一番の友達として接し接されてきた。

ヒットマンの肩書きとは裏腹に掛け値なしで皆に慕われ、その信頼には一切の打算や駆け引きは無い。

彼女に身寄りがいないのは分かり切ったことだし、今更気にしている者などいなかった。

そんな彼女の素性を知るかもしれない人間とこの日偶然出会ってしまった。

 

「「………」」

 

何かいけない物を見てしまったように顔を見合わせる二人、言葉を交わす余裕は無かった。

 

「この女の人が鶫のお母さんで…、この女の子が…鶫?」

 

千棘は震える声でポツリと呟いた、明らかに困惑しているようだった。

 

「ちょっと待てって!そりゃ考えすぎだろ!」

「でも!ずっと見てきたから分かるわよ、子供の頃にそっくりなんだもん!」

 

今度は声を荒げ机に手をついて立ち上がる、ワナワナと震えながら。

 

「だから落ち着けって、大体年齢が合わないだろ」

「年齢?」

「そうだ、ファルカノさんも言ってただろ、18年前に撮ったもんだって」

「…言ってたわね、確かに」

「この写真の女の子はパッと見5歳くらいだろ、だったらもう22~23歳になってるはずだろ」

「…そうね」

「確かに鶫は大人びてるところもあるけど、さすがに22歳はありえないって!羽姉( ユイねえ)より年上だなんて考えられないだろ」

「それは…、そういえば赤ちゃんの頃に保護されたって聞かされてるわね」

「だろ?世の中よく似た人は3人はいるって言うし、とにかく当人が戻ってきてからちゃんと話を聞こうぜ」

 

ひとまず千棘を宥めて座らせる楽、二人は静かになったが内心穏やかではいられなかった。

そんな二人の心境を知ってか知らずか、すっきりした顔つきのファルカノが戻ってきた。

 

「あ~、スッキリした!ジェットタオルなんて初めて使ったわ。気持ちいいね、アレ」

「「………」」

「…どうかしたの?」

「「…いえ、……別に」」

「…そうか」

 

こんな時まで息の合った会話をする二人にファルカノは思わず苦笑をもらした、そして二人の前に置いてある自身のパスケースを見つけると手に取りカバンにしまい込んだ。

 

「写真見た?」

「はい、見ました」

「そっか、美人だったろ、俺のカーチャン」

「それは…、どっちの?」

「…どっちもだよ!!」

「そ、そっか~、そうよね!もう、失礼なこと聞いちゃダメじゃないダーリン」

 

楽の問いに少しムッとした返事をしたファルカノをフォローするように会話をもたせる千棘、二人のファルカノに対する空気感が如実に変わっていた。

 

「それで…だ、俺さっき妹探しているって言ったよな」

「…はい」

 

力無さげに返事をする楽そこに千棘が割って入った。

 

「それなんだけど、その妹さんって今22歳くらいなんでしょ?さすがに私たちは…」

「22歳?誰が?」

「誰が…?って、妹さんでしょ!!」

「そうだよ、ファルカノさん、さっき妹を探してるって言ってただろ?」

 

楽の援護射撃を得て、千棘はいよいよ真相究明に乗り出した。

 

「18年前に撮った写真に写ってる女の子が4歳くらいだから今22歳くらいなんでしょ?」

「俺たちは大人のそういった生い立ちの知り合いはいないんだ、力になれないのは申し訳ないけど、こういうのはハッキリさせないと」

 

言いたいことはすべて言った、あとはこのマイペースな外国人青年が『それじゃあしょうがないな』とでも言ってくれればこの話はすべてが終わる。

心臓に悪い時間だったが、二人はハラハラしながら待っていた。

 

 

「そっか…、俺が逐一説明しなくてもそこまで考えてくれてたのか、申し訳ないな~ゴメン!!」

 

両手を合わせて、謝罪のポーズを見せるファルカノ、二人の予想とは全く違っていた。

なんとなくだが…、いやな予感を感じさせた。

 

「あの…、いったいどういう…」

「完ッ全に俺の説明不足だった、“お前説明がド下手なんだよ!!”ってよく言われるんだ俺」

 

ファルカノは自虐的に笑っているが、二人は心中穏やかでなく背筋にゾクリと冷たいものを感じた。

 

「俺が探してる妹ってのはな、この 写 真 の 女 の 子 じ ゃ な い ん だ」

 

二人は足の指先がピリピリと痺れてくるのを感じた。

 

「写真じゃわかりにくいと思うんだけど、俺の義母(お袋)の お 腹 が 大 き く な っ て る のが見えるか」

 

二人はノドがカラカラに乾くのを感じた。

 

「ん~、だからつまり…、この後生まれた子供な訳だから…、ちょうど 君 た ち と 同 じ く ら い の 年 の 女 の 子 を探してるんだよ」

 

二人は心臓が止まりそうになるのと同時に、全身が総毛立つのを感じた。

きっとこの予感は、ホンモノだ。




次回、第三話『彼女の視界が遮られた午後』よろしくお願いします。
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