「どうしたんだ二人とも、急に黙っちまって」
二人は言葉を失っていた、さながらイタズラがばれて怒鳴り散らしている被害者の前で縮こまってる子供のようである。
だがそのようなシチュエーションと現状とでは決定的な違いがあった。
楽と千棘は別段なにも悪いことをしていないのである。
あっけらかんとした目の前の男の雰囲気とは裏腹に、自分たちの周りの空気だけが重圧となってのしかかっていた。
今日道すがら倒れていた外国人を介抱したと思ったら、その外国人は生き別れの妹を捜しておりさらに写真に写っている妹の母親と姉は鶫にそっくりだった。
この男は、自分たちの大事な友達である鶫の一体何なのか、見つけて一体どうするつもりなのか。
(この人…、鶫のなんなの?分からないよ…)
(……ッ!)
楽は千棘の手が、相手からは見えないように自分の手に重ねられてるのを感じた。
意地っ張りで恥ずかしがりの彼女が無意識に手を重ねてきて、その上でフルフルと震えている。
その手はビックリするほど冷たかった。
(…千棘)
(………)
自分が何とかしなければ、そう思いながら楽は張り詰めた表情で面を上げた。
「ファルカノさん!」
「何だ?」
「…紅茶飲みます?ここのドリンクバー紅茶も種類多いんですよ」
「………」
楽の提案にファルカノは考える素振りを見せ…
「…じゃあ飲もうかな、いれてくるわ。君らも何か飲むか?」
「じゃあアップルティーで、千棘は?」
千棘はなにも言わず、黙って首を横に振った。
ファルカノは“そうか”とだけ言い、グラスを持ち席をたつ。
彼が視界から消えると同時に千棘は“ハァッ”と堰き止められていたかのように肺から息を吐き出した。
「千棘…、大丈夫か?」
「うん…、ちょっと考えが纏まらなくて。あんたは…?」
「俺は…、まぁ厄介事って言ったらあれだけど想定外の事態とか持ち込まれることも多いから…な」
「本当にあの人が捜してるのが鶫だったら…、どうすればいいの…?」
「…あの人のこと、どう思う?」
「ちょっと…いきなりは信じられないかな…」
千棘の率直な感想だった。物心ついた時から一緒にいる鶫、一緒にいるのが当たり前でありこれからもそうだろうと思っていた。
そんな彼女の素性を知る人物がいたとしてそれを信じられないというのは千棘自身の意地でもあるのだろう。
「あんたは…?」
「…率直に言うと悪い人じゃないと思う、でもやっぱりたまたま出会った俺たちが全部話すのはなんかおかしい気がする」
「…そう」
「鶫と一番長くいたのは千棘だ、言い出しにくいのなら俺があの人に知らないって言うから。お前が決めたことなら俺もそうする」
「ありがと、…やっぱり言えない。あの人が誰かもよく分からないし…」
千棘の答はNoだった。
「わかった、俺の方から言うよ。辛いなら席、外しとくか?」
「ううん、私もいる。ゴメンね、嫌なことさせちゃって…」
「そんな顔するなよ、自然に振る舞ってないと怪しまれちまうぞ」
「うん…」
目尻を拭う千棘、楽は弱気になった千棘を優しく宥める。
丁度タイミングよく両手にカップを持ったファルカノが戻ってきた。
「お待たせ~、はいアップルティー」
「どうも…、あの、ファルカノさん!」
「何だ?ラク」
楽は意を決した。
「その…、俺たちやっぱりそういう女の子のことは分からないっつーか…、中途半端に聞いてもどうしようもないし…、これ以上力になれないのに込み入った話は聞くべきじゃないと思うんだ」
「…そうか」
「ファルカノさんが長い間妹さんを捜してるってのはよく分かったし、だからこそ関係ない俺たちが立ち入るのは申し訳ないよ」
「………関係ない、か…。そっか、そうだよな…」
「だから…、ごめんなさい。役に立てなくて」
申し訳なさげに頭を下げる楽。
「ちょ、ちょっと待てって!頭なんて下げるな!」
「………」
「俺だって本気で聞いたんじゃないよ、ただ助けてもらった手前何も言わないってのはちょっと不人情かなって思っただけでさ…」
ファルカノは楽を座り直させ、今度は自身が頭を下げる。
「
「…恩義」
「君達が行き倒れになってた俺に声を掛けてくれなかったらもっと面倒なことになってたしもしかしたら入管沙汰になってたかもしれない、けど助けてくれたのがうれしかったからさ。だからなるべく隠し事はしないようにしようって決めてたんだ。まぁちょっと期待はしてたけどな」
そういってカップの残りを煽り、飲み干す。
「そういう一つ一つの出会いを大事にしたいわけなんだよ、“
(……何語?)
「手掛かりはまだあるし、地道に捜していくさ」
「見つからなかったらどうするんですか…?」
この辺りは楽の単純な好奇心だった。
「見つからなかったら…、そうだな神様にでもお祈りするかな」
「…ファルカノさん」
「何だ?チトゲ」
ここでさっきから俯いていた千棘が顔を上げ、口を開いた。
「妹さん…、見つかるといいですね」
「…ああ、ありがとう!」
男の笑顔は晴れやかだった。
こうして宴もたけなわといったところで、ファミレスを出て行く三人。尚、会計の際に『いろいろ世話になったから』という理由でファルカノがまとめて払おうとしたが財布の中にアメリカドルしかなく、仕方なく楽が立替えたのは別の話である。さらに財布の中の紙幣を千棘が両替してあげたのも別の話である。
◇◇◇
ファミレスを出て通りを歩く三人、せめて駅前まで送ろうということで楽と千棘も同行しているのだ。
「まだ聞けてなかったんだけど、ファルカノさんは妹さんを見つけてどうしたいんですか?」
“ところで…”という前置きを置いて、千棘が問いかけた。
当のファルカノはというと…
「どう…か、ぶっちゃけた話、引き取っても問題ないくらいの蓄えはあるんだ」
「「引き取る!?」」
「お、おう、まあ仮にだけど。相手の気持ちとかも考えなきゃダメなんだけどさ」
答は曖昧で不明瞭、どこかファルカノ自身の声も弱々しかった。それは楽の目にも誤魔化しやはぐらかしている以前に自分自身でも答を出していないように見えた。
「そうだ!見つかったら君達にも紹介しようか。年も近いからいい友達になるかもしれないな」
((いや、その最有力候補がもう友達なんですが…))
アハハ…と渇いた笑いを発する二人、交通量の多い通りに差し掛かり風が一層強くなるのを感じた。
男同士気が合うのか、軽い談笑を交わしていた楽とファルカノの後ろにいた千棘は目を凝らし向こうから歩いてくる相手を見て表情を凍らせた。
「ら、楽!楽!」
「痛ッ!ちょっ、何だよ!」
バンバンと楽の背中を叩いて呼びかける千棘、楽は目を白黒させる。
「あれ!あれ見て!」
「アレ?…あれって…えぇ~!!」
「……?」
◇◇◇
鶫は自身の用事の為、外出をしていた。用事自体はすぐに終わったが足取りはどこか重かった。
その重さの原因は今朝の夢であった。
(いままで見たことの無いような鮮明な夢だった…、私の家族)
家族の夢、自分が持って生まれなかったものを見せたそれは未だに色濃く脳裏に残っていた。
自分の運命は受け入れてきたつもりだった、過酷な訓練だって泣き言も言わずにこなしてきた。
(そういえば…、昔私の家族のことをクロード様に尋ねて大目玉をくらったことがあったな。当たり前か、拾っていただいた恩を忘れて情に出生を気にするヒットマンなんて何の役にも立たないからな…)
これまでの訓練や実戦を思い返して雑念を消す鶫、これまで多くの仕事をこなしてきた。傷を負うこともあったが今では“
(私も大分甘くなったものだ、これも“一条楽”の影響か…)
当初は最愛の主である千棘の恋人としてであった楽、当然気に入る存在である筈が無く衝突することも多かった。だが生来のお人好しである楽はそんな自分も受け入れ、ただの護衛である自分の学生生活に彩りを添えてくれた。
(私の恋した相手…、一条楽…)
つい最近になって千棘と楽のニセの恋人関係を知ったと同時に、彼への恋心に気づいたがそれを表に出すことは決して許されず、この気持ちは自身の胸にしまい込んだ。
(私の願いはお嬢に幸せになってもらうこと…、一条楽ならきっとそれを成し遂げてくれる。だったら命に代えてもお嬢をお護りすること、それが私の使命…)
そんな鶫のそばを小さな女の子が通り過ぎていった。
「パパ~、ママ~、はやくはやく!」
「こら、慌てて走ると危ないぞ」
「そんなに急がなくても大丈夫よ」
その少女の後を父親と母親が歩いて追いかける、幸せそうな家族の風景だった。
(家族か…、ッ!?)
そのとき鶫の脳裏に直感にも似た悪い予感が走った、その家族や鶫が歩いているのは駅近くの工事をしている大通り。あまり整地がされていないのか風が吹いたり車が通ったりするたびに砂埃が舞い、車線は片側一車線ずつである。資材を積んで走るトラック、その対向車線にある乗用車がトラックとは逆方向に進む。何事もなければそのまますれ違って終わりである、だが対向車線の乗用車の後ろから無茶な追い越しを計った別の車が車線をはみ出し危うくトラックとの接触事故を起こしそうになる、幸いトラックの運転手が慌ててハンドルを切ったことで接触は免れたがその代わりにコントロールを失い左側に逸れた。
急ブレーキの音を上げながらトラックはそのまま縁石もガードレールも無い歩道に乗り上げた。そしてその先には少女がいた。
「危ないッ!」
「そっちに行っちゃダメよ!!」
少女の両親は声を張り上げ、少女に注意を促す。が、幼い少女に周囲の環境を察知する能力は乏しく自分にトラックの影が差し掛かったのを見て体を強張らせた。
「そこに居て下さい」
言うが早いか鶫は少女の両親に伝え、走り出した。
(間に合えッ!間に合ってくれ…)
両手で顔を覆って惨劇から目を背けようとする少女の両親を残し、トラックが少女に接触するまでの間に助けようと無我夢中で駆け出す。
(ッ!足場が悪い…、だがまだ間に合う!)
工事現場から漏れ出た砂埃が歩道に被さり、接地の悪さを感じる。が、持ち前の超人的な運動神経で渡りきり、少女を抱えてトラックの進行方向から飛び出す。鶫は少女を抱えたまま歩道に倒れ込んだ。数瞬間を置いて、トラックが工事現場の仮囲いに衝突する音が聞こえた。
鶫は目線を向けてそれを見届けると“ほっ”と安堵の息を漏らす。
「ケガは無いですか?」
「うん…、ありがとうおねえちゃん」
地面に倒れ込んだまま鶫が優しく問いかけると、胸元に抱えられた少女は大人しげに答えた。
(…お姉ちゃん、か。…ッ痛!)
鶫は“お姉ちゃん”という言葉に今朝の夢を思い出した。夢の中に出てきた自分の家族、目の前の女の子の家族、形は違うが幸せそうなのはどちらも同じだ。
無茶な動きをしたせいか、足首がズキリと痛みが走ってきた。だが、そんな家族の幸せを守れたのならそれもきっと意味のあることだったのだろうと納得させた。
「さ、ご両親が待ってます、立てますか?」
「うん!」
少女を促して、自身も立ち上がろうとする鶫。そのとき“ブチッ”という音とともに二人に差し掛かっていたトラックの影が大きく揺れた。仮囲いに乗り上げていた前輪がバランスを崩し荷台が揺さぶられ積まれていた大きな建材を括っていたロープが切れ中身が崩れ落ちてきた。一つで数キロもある建材が列を成して倒れ込んだままの二人に降ってきたのだった。
「ダメだ!!ここにいたら…痛ッ」
「……?」
起き上がろうとしていた女の子は気づいていないようだった。鶫は建材が落ちてくるのを察知しそこから逃れようとするが、痛めた足に気をとられてその場から動けなかった。
「…おねえちゃん?わぁっ!!」
(せめてこの子だけでも…!)
鶫は少女の腕を掴んで引き戻し、自分が上になるように倒れ込む。一刻の猶予も無く、状況は絶望的だった。
◇◇◇
時は少々遡り…
「ねぇ!?あれ鶫でしょ」ヒソヒソ
「間違いないな…」ヒソヒソ
ファルカノの案内をしていた楽と千棘は前方からこっちに歩いてくる人物を見て驚愕の表情を見せた。
先ほどファルカノが話していた人物の最有力候補である。
「…どうしよう、どうする?鶫すれちがったら絶対私たちに声かけて来るわよ」ヒソヒソ
「まずいな…いまさら方向転換出来ないぞ」ヒソヒソ
ヒソヒソ話してる二人は、急に足を止めたファルカノにぶつかりそうになり慌てる。
「ど、どうしたんですか?」
「…何だか、嫌な予感がする」
((え?そういう感じ方?))
何かを感じたファルカノの予感は正しかった。急ブレーキの音とともにトラックが車線をはみ出し歩道に乗り上げその先にいた少女を巻き込みそうになっていたのだった。
「嘘!?あそこ…女の子が…」
「ラク、ちょっとこれ持ってろ」
「え?」
ショルダーポーチを楽に放ると太ももに手を当て押し込み、膝を曲げるファルカノ。そこからの動きは早かった。
◇◇◇
女の子に覆い被さり、体が外にでないように自身の体で隠そうとする鶫。建材の落下の有効範囲から逃れられないと判断した鶫はせめて女の子にまで被害が及ばないようにするのだった。
(せめてこの子だけでも…!)
鶫は女の子を抱きしめ、ギュッと目をつむり運命に身をゆだねた。
永遠のように感じる時間の中、金属が地面に叩きつけられる鼓膜が破れそうなほどの甲高い金属音が耳に障る。
(私もここで終わりか…)
自然と痛みは無かった、いままで訓練や任務で傷を負うこともあったが本当に命の危機に瀕したときというのはこういうものだったのか。
自身の胸元に納まっている女の子の息づかいを感じる、きっと無事だったのだろう。天涯孤独の自分が家族の夢を見た日に通りすがりの家族を助けて果てる、こんな運命のイタズラもないだろう。だが後悔はなかった。
(悔いはない…、だが)
刹那、鶫の頭の中をよぎったものは、自分の主である千棘、初恋の相手である一条楽、そして自分の仲間達。
(先立つ不義理をお許しください…、せめて私のことは忘れて幸せになって下さい)
最後に思い出したのは今朝の家族の夢、あの夢に出てきた母親は
(私が生まれ変わったらあんな家族という形で会えるという意味だったのか…、予知夢というやつかな)
(………)
(………)
(……アレ?)
建材が落ちる轟音でキーーンとなっていた耳が段々と聴力を取り戻してきた、ザワザワとした周囲の声や落ちてきた建材が触れ合い鳴る金属音などが鮮明に耳に入ってきた。恐る恐る目を開く鶫、砂埃が目に入り、逆光で姿は見えないが
「私は…、生きてる?」
「…おねえちゃん。くるしいよ…」
「あっ…、ごめんなさい、ケガはないですか?」
「…うん」
「そうですか…よかった」
目がうまく見えない鶫は、少女の反応を耳で確認すると抱擁を解いて改めて安堵の息をもらす、と同時に自分たちをトラックの積荷から守った大きな影が声をかけてきた。
「よぉっ、二人とも無事みたいだな。お嬢さんたち‼」
◇◇◇
~一分前~
「ラク、ちょっとこれ持ってろ」
ファルカノは楽にショルダーポーチを放り渡すと脇目もふらず前に走り出した。
「…?あれは、女の子…、俺の出る幕なさそうだな…。いや、ダメだ!!」
トラックとの衝突から少女を庇おうとする千棘と同年代くらいの女の子が少女を救い出し、間一髪でトラックの側面に放り出されるのが見えたが荷台の建材が揺らぎ、固定用のロープが切れかかるのが目に映った。落ちてくる事までに少女たちが逃げ切れそうにない事、自分が助けに行っても落下の有効範囲から抜け出せない確率が高いという事を察知し、辺りを見渡した。
(…あれだ!)
すぐ隣の工事現場の入り口に敷いてある、タイヤの轍が出来るのを防ぐための大きな銅板を持ち上げると、それを背中に担ぎ少女と荷台から落ちてくる建材の間に捩じ込ませ銅板の下に入り込み両腕と背中で支えて斜めに構えて少女たちを庇う態勢をとる。
鼓膜に響く、劈くような金属音を耐え、衝撃が少女たちにいかないように落下を凌ぎ切る。降りやむと膝に力を込め銅板とその上に乗ったままの建材を持ち上げる。
(ふぅ、この女の子が縮こまっててくれたおかげで相当やりやすかったな)
ガラガラと音を立てて銅板の上の建材を落とすと、目線を下に向けた。
「…おねえちゃん。くるしいよ…」
「あっ…、ごめんなさい、ケガはないですか?」
「…うん」
「そうですか…よかった」
こっちに気づいてない二人を見て安心したファルカノは、一心地つけて声をかけた。
「よぉっ、二人とも無事みたいだな。お嬢さんたち‼」
「あの…あなたは…」
「ちょっと待った」
高らかに声をかけたファルカノは鶫の問いを遮り、誰もいない方向に銅板を降ろすと膝を曲げて目線を合わせる。
「面倒な話は後。とりあえず、ケガが無くてよかったぜ!早いところココを出よう。立てるか」
「うん!」
「…はい、痛ッ!」
二人に手を伸ばすファルカノ、小さな女の子は危なげなく立ち上がるが視界が回復していない鶫は痛めた足の痛みも相まって大きくバランスを崩した。
「すみません足が…、私はいいのでその子を助けてあげてください」
「なんだ、ケガしてるのか。じゃぁ掴まりな」
「はい?…ひゃぁッ」
ファルカノは足を痛めてうまく立てない鶫の片腕を自身の首に回し、自身の片腕で鶫の両膝を持ち上げる。いわゆる“お姫様だっこ”というやつである。
「お、降ろしてください!恥ずかしいです!」
「だ~、暴れんな!ここらももうすぐ崩れそうなんだ、早く出ないとまずいんだよ」
「うっ…、はい…」
「よし!おチビは俺の肩に引っ付いてろ|
「おちびじゃないもん!!」
「わかったわかった、早く出るぞ」
ファルカノは鶫と女の子をまるで小箱でも持ち運ぶかのように担ぎ、建材だらけで悪くなった足場を事もなく進んでいく。
鶫はぼやけたままの視界で男の足の運びを観察していた。
(この男…、並みの訓練じゃこんな動きは身につかない…)
男の並外れた判断力と適応力に感嘆の意を見せる鶫。
数歩歩くと、元の舗装された歩道に出てきた。
壁沿いに鶫と女の子を降ろすとまもなくして女の子の両親が駆けつけてきた。
「あ!ぱぱ、まま」
「良かった!!無事だったのね」
「娘を助けていただいてありがとうございます!!」
「お礼ならこの子に言ってあげてください」
「いえッ!わたしはそんな…」
ファルカノは鶫のほうに顔を向け、自分に頭を下げる女の子の両親の視線を誘導する。が、鶫はしどろもどろしている。
そこに遠くから見ていた千棘と楽が駆けつけてきた。
「鶫!!」
「その声…お嬢!ということは一条楽もいるのか!?」
「鶫、よかった。ケガとかしてない!?」
「…はい」
「…何だ?君ら知り合いか?じゃあ丁度いいや、あとはよろしく」
「ちょっ、ファルカノさん!!」
「悪い!!そろそろ行かねぇと…」
((…この人、気づいてない?))
楽たちの制止を振り切り、ファルカノは今度こそ足早に去っていった。
「…お嬢、さっきの方はお知り合いですか?」
「あ…、いや、その」
「それとも一条楽、貴様の組のものか?」
「そーじゃないっつーか…、あのー」
「……?」
「「通りすがりの外国人ってところかな…?」」
「…はぁ…」
楽と千棘は鶫の問いに声をそろえてやんわりと答えたのだった。
◇◇◇
「それが貴様が負傷したことの顛末か、誠士郎」
「はい…」
その夜、ビーハイブの屋敷に戻った鶫は育ての親であるクロードに今日のことを報告していたが、クロードはあまり機嫌がよろしくないようだった。
「まったく、事故を避けようとして足を痛めるなど貴様はビーハイブの一員としての自覚があるのか!!」
「…申し訳ありません」
「しかも通行人、それも子供を助けようとして巻き込まれたそうじゃないか。恥さらしもいいところだ!!」
厳しい言葉で捲し立てるクロード、鶫は黙って聞き入れていた。
「しばらく見てないうちに鈍ってしまったんじゃないのか?また近いうちに私が鍛えなおしてやる、心しておけ」
「了解しました…」
「今日はもういい、明日までには動けるようにしておけ」
「はい、失礼します…」
クロードの折檻が終わり、足の痛みを悟られないように部屋を後にする鶫。そんな彼女の元に千棘が声をかけてきた。
「お疲れ様、クロードのお説教終わった?」
「お説教だなんて…、私もまだ修業が足りない証拠です」
「鶫はあの女の子を助けようとしてケガしたんでしょ?それで文句言うクロードが間違ってるのよ」
「違うんです!!」
「…どうしたのよ大きな声なんか出して…、何か嫌なこと言われたの?」
鶫の肩に手を当て優しく問いかける千棘、鶫はその手をゆっくり払いのけると千棘に背を向けた。
「…夢を見たんです」
「…夢?」
「今朝、自分に家族がいる夢を見たんです…」
「家族!?」
千棘は心臓が止まったような気分だった、鶫には悟られなかったようだ。
「両親がいて
「それって…」
「お笑い草もいい所ですよね、私が家族の夢を見るなんて…。クロード様にお叱りを受けるのも当たり前です」
「鶫!!」
今度は千棘が青ざめた顔で大きな声を出して鶫を引きとめる。
「な、何ですか?お嬢…」
「そのことクロードに言った?」
「いえ、わざわざ知らせるようなことではないので…」
「そう…ねぇ鶫!!明日空いてるわよね!?」
「は、はい…」
「鶫に“会ってほしい人”がいるの!!」
次回、近日投稿