あに、いもうと   作:ゆうびん

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前話の次回予告をちょっと変更しました。
第四話、お楽しみください。
今回のサブタイトル元ネタはちょっとわかりにくいかな?


第四話『残された手掛かり』

きっかけは一本の電話だった。

 

「千棘?どうしたんだ」

『楽!?もう一度ファルカノさんに会いたいの!協力して』

 

夕食を終え、自室に戻った楽の携帯に千棘から電話がかかってきたのである。

正直今日の一件は楽自身もどうにも煮え切らない結果となり、ノドの奥に引っかかった小骨のように残り続けていた。

だが、それに千棘の方から異をとなえ、声をかけてくるのは予想外だった。

 

「会いたいったって…、どこ行ったかも分からないだろ…」

『…それは分かってる、けどどうしても会いたいの!!』

「もしかして…、あの後何かあったのか?」

 

楽の電話越しの問いかけに千棘は言葉を詰まらせて黙り込んだ。

数秒の沈黙を挟んでポツリと口を開いた。

 

『鶫がね、見たっていうの…』

「見た?」

『家族の夢を見たんだって…、今朝』

「家族…」

『自分が普通の家庭に育って、家族がいる夢だって』

「それって…」

 

千棘の声は震えていた、楽はそれに気づいていたが黙って聞き続けていた。

 

『それ聞いて、私とんでもないことしちゃったんじゃないかって思って』

「でも俺たちは…」

『分かってる、でも鶫…すっごく悲しそうな顔してた』

「鶫が…?」

 

千棘も楽も鶫がどういう人間であるかはよく分かっている。常に他人に気を配り、人一倍純真で真面目な女の子である。そんな彼女が悲しそうな顔をしていると言うことは余程のことがあったのだろう。

 

『私たち、ニセの恋人だって鶫にずっと隠してたでしょ?それを知られたときもあの娘、全然文句も言わなかったじゃない』

「確かにそうだな…」

『私、あのお兄さんに鶫を会わせたら鶫がどこかに行っちゃうんじゃないか、今の関係が変わっちゃうんじゃないかって思ったの』

 

電話越しに鼻を啜る音が楽の耳に入ってきたが、これにも黙って聞き続けた。

 

『でも、自分の家族の事を知りたいと思うのって…、当たり前のことだよね…』

「………」

『私、鶫をあのお兄さんに会わせたい、お兄さんのためじゃなくて鶫のために!』

「…千棘…」

『…だからお願い、楽。…無理だって言うんだったら私一人でも捜すから!!』

「わかった…、ちょっと落ち付けって」

『…楽…』

「俺もあの人にちゃんとお礼言いたかったし、ずっとモヤモヤしてたんだ」

 

楽がファルカノにもう一度会いたいと思うのはある意味本当のことだった、礼を言いたいというのもあるが今日の昼の鶫と女の子を助けた際の迷い無い動きや男らしさを人の形に押し込んだようなその佇まいなど彼について聞きたいことや知りたいことがあった、それだけの求心力があの男にはある。

 

「夢の話って聞いてなんか他人事に思えないし、お前一人放っぽらかすと何しでかすかわかんないしな」

 

皮肉のように言ったが、千棘にはそれが楽の照れ隠しだと分かっていた。

 

『…ありがとう』

「とりあえず何人か声かけとこうか」

『それは私の方からしておくわ』

「わかった、じゃあ明日な」

『うん、おやすみ』

 

 

 

◇◇◇

 

「それで俺たちが集められたってワケ?」

「鶫さんにお兄さんって…」

「にわかに信じられないわね」

 

翌日、午前中にファルカノと別れた駅前に集合した楽と千棘、合流したのは同じクラスの“舞子集”“小野寺小咲”“宮本るり”の三人、鶫に兄がいる…かもしれないという事実に三人とも疑わしい目線を向けていた。

 

「最初は俺たちもそう思ったんだ、けど話を聞くと偶然とは思えなくて」

「あと写真!!あれ見たら絶対納得するはずよ」

 

捲し立てる二人の勢いに、三人は気圧される。

 

「まぁ仮にそうだったとして、どうやってそのお兄さん見つけるんだい楽さんや」

「………」チラ

「………!」ブンブン

 

集がふざけた態度で楽に問いかける、楽は持ちかけた千棘の方に目線を向けるが彼女はものすごい早さで首を横に振った、それを見た楽はため息をつく。

 

「知らないんだ…」

「知らないのね…」

「……でも!」

 

冷静に突っ込んできた小咲とるりに、反論するように千棘が声を上げる。

 

「無茶なこと言ってるのは分かってる。けどどうしても会わせてあげたいの!!」

「「「「………」」」」

「鶫があんなに悲しそうな顔してるの見たくない、いつも助けて貰ってるのにこんな時に何にも出来ないのは嫌なの」

「…俺からも頼む、何とか力になってやりたいんだ」

 

ガラにもなく頭を下げる楽と千棘。

三人は顔を見合わせる、尤もそんなことしなくても答は決まっていたようだが。

 

「まったく…、このお人好しコンビは…」

「誠士郎ちゃんのお兄様なら俺たちもご挨拶しとかないとね」

「何が出来るか分からないけど、私も協力するよ」

「「ありがとう!!」」

 

いい雰囲気に纏まりかけた一同だが、るりが次に発した一言でその雰囲気は凍り付いた。

 

「でも、結局どうやって捜すの?」

「「…あ」」

「…打つ手は無し、か」

「……ふふっ」

 

言葉を無くして、頭を抱えだした楽と千棘に小咲が思い出したかのように笑みを零した

 

「どうしたのよ、小咲」

「うぅん、なんだか一年生の頃みたいだなぁって思って」

 

千棘が転校したての頃、鶫や今はアメリカに療養に行った万里花が転校する前はこうして五人で集まったり勉強会などをしていた。

そんな思い出がふとよみがえったのであった。

 

「あぁ、そういやそんなこともあったような…」

 

そんな小咲の笑顔に癒されたのか、楽も表情を綻ばせ千棘の方を向いた。

だが千棘は他所を向いてワナワナと震えていた。

 

「千棘?どうかしたか…」

「楽!!あれ!!あれ!!あれ!!あの人!!あの人!!あの人!!」バンバンバン

「痛痛痛!!!!なにすんだよ!!!!」

「あれよ!!あれ見てってば!!」

「…あれ?…あ~!!」

「「あの人だ~~!!」」

「「「………あの人?」」」

 

楽と千棘が手を取り合い飛び上がっているのを見て、残された三人はその当の人物が居たのを察した。

 

(たまたまいたの?)

(エライ運を持ってるな)

(凄い偶然ね…)

 

それでは早速そのご尊顔を拝見…、と言わんばかりにその人物の方に向き直る。

そこにいたのは…

 

「はい、こちらお荷物になります。どうもありがとうございましたー」

 

額に汗を浮かべて、ビリケンのような笑顔で客の荷物をトランクから取り出す中年のタクシー運転手であった。

 

 

「「「ええ…、あの人がお兄さん…!?」」」

「あ、違う違う…」

「あの人はそのお兄さんをこの町までタクシーで連れてきた人なの」

「なるほど。けどそんな人見つけてどうすんの?」

「あ…、どうしよう楽…」

「俺も千棘もあの人が他にどこ行ったか分からないんだ、ダメ元で聞いてみるしかないな」

「迷惑じゃないかな…?」

 

小咲の心配を他所に、楽はたったひとつの手がかりである運転手の方へ足を運び、千棘もそれに続いた。

 

「あの~、ちょっといいですか?」

「お客さんですか!?ドーゾドーゾ…、あら、あなた方は確か昨日の」

「はい、ファミレスで外国人のお客さんに忘れ物渡してましたよね」

「私たちあのお兄さんを捜してるの、どこにいったかを知りたいの」

「は、はぁ…」

 

二人の剣幕に戦きながら、対応する運転手。

 

「行きのタクシーでどこに行きたがってるとか、どんな目的で来たとかどんなことでもいいの」

「あのお客さんですか…、昨日の夜またお乗せしましたねぇ」

「夜に?」

「ハイ」

 

楽と千棘は顔を見合わせた、これは大きな前進であった。これに続き、有力な情報をいくつか手にすることが出来た。

ファルカノは昨日楽と千棘と別れた後、なぜか病院からタクシーに連絡し迎えに来てもらった。それが昨日の運転手に偶々繋がったのであった。運転手の話ではファルカノは大層機嫌が悪く、イライラした様子だったそうだ。空気の悪さをなんとかしようと運転手は自社で作成しているグルメ冊子をあげると目を輝かせてラーメン屋に進路を変え、意気揚々と食べに行ったそうだ。

 

「ラーメン屋?それホントですか」

「ホントホント、この冊子に載ってる店ですよ」

 

運転手から冊子をうけとる楽、それを覗きこむように後ろの四人が集まってきた。

 

「よ~し、手がかりゲット!早速そこ行ってみましょ‼」

「ちょっと待ってくれ」

 

明るい表情を見せた千棘が一行の行動の指針を示すが、楽がそれに待ったをかけた。

 

「ファルカノさん、昨日もうひとつ気になること言ってたの思い出した」

「何を?」

「“見つからなかったら神様にお祈りする”って」

「神様ァ!?」

「あ~、確かに言ってたわね…、信仰してる宗教がどうのとか…」

「それってあてになるのかな?」

「一気に胡散臭くなったわね…」

 

集とるりからの指摘に楽はう~んと頭を抱える。

 

「でも、それっぽいセリフも言ってたし情報は多い方がいいだろ?神様だから…、何かそれらしい場所とか」

「それらしいって…、教会とかかな…?」

「そう!それだよ小野寺!」

「へ?…う、うん」

(……教会、ね。そうだ)

 

小咲からの答えに楽は表情を明るくし小咲の方を向いた、逆に小咲は思いを寄せる楽に急に振り向かれ照れて目線を下げた。

それを見てるりは、ニヤリと微笑み目を光らせた。

 

「よし!だったらこうしましょう」

「「「「………?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

るりの提案により五人は、楽と小咲の二人組、千棘と集とるりの三人組という二組に分かれた。

 

「な、なぁ宮本、なんでこの分け方なんだ?」

 

楽が頬をニヤつかせ、目線を泳がせながらるりに問いかけたが、るりは涼しい顔で答えた。

 

「あら、だってそのお兄さんの顔を見たのは一条君と千棘ちゃんの二人だけなんでしょ?そして行き先の予想は二ヶ所、だったら二人に指揮をとって貰って二手に分かれた方が効率的でしょ」

(小野寺と二人きりなんて…、予想外だったな)

(確かにそうだけど…、何か釈然としないわね…)

(る、るりちゃ~ん)

(うまくやったね、るりちゃん)

「はい、じゃあこれで決まりね。お互い何かあったら連絡を取り合うようにしましょ」

 

パンと手をついてその場を解散させるるり、だがそんなるりの元に小咲がやってきて小さな声で何やら抗議をしだした。

 

「るりちゃ~ん!急にこんな振り方するなんて~」ヒソヒソ

「好都合でしょ?ふたりで教会に行くなんてロマンチックねぇ、ついでに二人きりで式もあげてきたら?」ヒソヒソ

「し、式だなんて…」ヒソヒソ

「いいからつべこべ言わず行ってこい!」バシン

「ひゃうっ!!」

 

るりにお尻を叩かれ、小咲は顔を赤らめたまま楽の元へ戻った。

 

「小野寺…、やっぱ俺と二人は嫌だったか?」

「ううん!!そんなこと無いよ!!全然!!」

 

やや落ち込んだ顔で問いかける楽に、小咲は両手をブンブン振って否定の意を伝えた。

 

「それじゃ~ね~!!」

「お~う、そっちも頑張ってな~!!」

 

お互いの健闘を祈って鼓舞し合い二手に別れる二組、ちょうど方向も逆であり足早にその場を後にした。

騒がしい五人組が去ったその後には…

 

「え…、タクシー乗ってくれないんだ…」

 

タクシーの運転手がたった一人残されていた。

 

 

 

◇◇◇

 

楽、小咲班

 

「小野寺、ごめんな。ヘンな話につきあわしちゃって」

「ううん、なんだかワクワクしてきちゃった。刑事ドラマみたいだね」

「ハハ…、刑事ドラマか」

「………」

「………」

((嬉しすぎて会話が続かない…))

 

手掛かりの一つかもしれない教会に向かうため、楽と小咲の班は駅前からのバスに揺られていた。普段利用しない路線である為、混み具合も分からなかったがあまり利用客のいない路線だったのか後ろの座席に二人並んで座れ、尚かつ談笑していても白い目で見られない程度には余裕のある旅路となった。

主役の二人はお互い思いを寄せている相手と隣り合ってることに緊張して、どうにもぎこちない空気が漂っていた。

 

「それにしても…、すごい偶然だね」

「…何が?」

「偶々一条君たちが通りかかった所にいた人が鶫さんのお兄さんだったなんて…」

「俺もビックリしたよ、正直まだ信じられない」

「…どんな人だったの?」

「あの人は義理の兄だって言ってたから似てる似てないは別として、単純に男としてスゴイって思うかな」

「それに鶫さんの家族の写真も見たって言ってたよね?」

「ああ、あの写真な…」

 

楽が思い出したのは一枚の古びた写真、ファルカノが見せた一つの家族の思い出が描かれたものであった。

自分の知らない土地で生きた見知らぬ少年がたどり着いた家族という一つの器、その幸せそうな光景からどのようにあの雄壮な男が出来上がったのか、大人になりきれない十代の楽にはまるで計り知れないもののように見えた。

 

そして、トラックの事故から鶫と女の子を助けた一件、小咲に事細かに伝えると彼女は目を白黒させて驚いていた。

無理もない、あれだけの人間離れした運動神経を持ち、責任感も人一倍強い鶫のピンチを助けてのけたというその話。だがそれをまるで新しい友達が出来たように楽しげに話す楽に小咲はいつもと変わらない安心感を覚え頬を緩めるのだった。

 

「すごい人なんだね、そのお兄さん」

「ああ、ある意味鶫の兄らしいっていえばらしいかな。まぁ確証は無いんだけどさ」

「でも…、捜してる人が鶫さん本人だったら一条君はどうするの?」

「…どうしたらいいんだろうな、あの人のこと何にも知らないしな…」

 

楽が答えに詰まっている間に、目的地に着いたというバスのアナウンスが流れ二人は料金を払いバスを降りた。

この町で一番大きな教会、煉瓦で造られた礼拝所が二人の前にそびえ立つ。階段に続く入り口の大きな門の大きさに面食らってしまう。

 

「キレイだね…」

「でかいな…」

「そういえばちょっと前に万里花ちゃんのご実家に行った時も教会行ってたんだよね…」

「あー、あったな…あの時はそんな余裕無かったけど」

 

“ご実家に行った”なんて言えば聞こえはいいが実際はのっぴきならない事態があった。

楽はそんなこともあったなと苦笑し、小咲は気まずくなったのか目線を外すと『見学歓迎・ご自由にどうぞ』の看板が目に入った。

 

「とりあえず入っていいみたいだし、入ってみよ!!」

「ああ、そうだな。誰かいるかもしれないし」

 

ギイイと音をたてて門を開けると、天井からの光に暖かく照らされた教会堂が現れた。

白を基調とした内装と祭壇までの赤い絨毯、独特の彫刻がされた柱頭や色鮮やかなステンドグラス等間近で見るとまるで別世界のように飛び込んできた。

 

「これは…、すごいな」

「綺麗…」

 

周りを見渡しながら身廊を一歩一歩と歩く二人、他に礼拝者はおらず厳かな雰囲気が漂っていた。

 

「…しかし、だれか居ないことには話も聞けないな」

「でもこんなのもいいよね…」

 

小咲の口からか細い声で何か呟いたようだが、壁の飾りを眺めていた楽にはよく聞こえていなかった。

 

「…小野寺?何か言っ…」

「………」

 

祭壇前に伏し目がちに佇んで耳にかかる髪を手櫛で流す小咲を見て楽は言葉を失った。

木目の祭壇、赤い身廊の上で白のワンピースと薄桃色のカーディガンを羽織り、天使かあるいは聖女が描かれたステンドを通した陽の光に浴びるその姿は、まさに神聖な儀式の主役と言っても信じてしまう輝きをはなっていた。

だから楽の無意識に発した言葉も何ら間違いでは無かった、…のかもしれない。

 

 

 

 

「…綺麗だ」

「……えっ、うん…」

 

 

二人は言葉を交わすことなく目線が重なり合わせ、そしてお互いどちらからでもなく片手をのばし指が絡み合う…。

 

 

 

 

その時だった。

 

「あら、お客さまですか?」

「「………ッ!!!!」」

 

奥の小さな扉から、黒いゆったりした修道服を纏った修道女がひょっこり現れ声をかけた。

楽と小咲は慌てて手を離し、真っ赤な顔で気まずそうにお互いの背を背ける。

 

「ごめんなさいね、次の礼拝は来週なの…お邪魔だったかしら?」

「………あのッ」

 

悪びれず微笑む修道女に気まずさを隠しきれず楽が問いかけた。

 

「俺たち、人を捜してるんですが…」

 

 

 

◇◇◇

 

千棘、るり、集班

 

三人は昨夜ファルカノの行っていたと思われるラーメン店を片っ端からあたっていた。

 

「有力情報ゲットね!!」

「ここのお店で大盛りチャレンジしてたってことが分かっただけだよね…」

「完食記念のTシャツ貰ったんだから、どこかで着てるかもしれないでしょ!!」

「三軒目でやっと目撃情報が手に入ったわね、それにしても千棘ちゃん」

「……?」

「話聞くだけなんだから、わざわざラーメン食べる必要は無いんじゃないかしら?」

 

タクシーの運転手に貰ったラーメン店の冊子に載ってるお店に出向き、店員に話を聞くだけという作戦だがるりと集が話を聞いている間に千棘はご丁寧にその店でラーメンを食べ売上に貢献していた。

意味のないように見えるが、店員としても金にならない事に時間を使われるよりせめて売上にプラスされているので案外悪いものでもなかったのだが。

 

「い、いいでしょ!?昨日鶫に話聞いてからあんまりご飯が進まなかったんだから!」

「話って…、ご家族の?」

「うん…、両親とか兄姉(きょうだい)がいたって聞いて、お兄さんの持ってた写真と一緒だったの」

「すごい偶然だね」

「でも…それだと鶫さんの引き取られる前の名前とかも聞いてたんじゃないの?そのお兄さんに」

「なんだか聞き出しにくくて…、でもお兄さんの実のお母さんなら名前聞いたわよ」

「…なんで?」

 

るりの指摘と集のツッコミに千棘は言葉を詰まらせる。

 

「あのお兄さん説明が下手くそだって自分で言ってたんだけど、本当に下手くそだったの」

「下手って…」

「話が長いし、自分の母親の話ばっかりするし、コーヒー信じられないくらい飲むし」

「最後のは関係ないんじゃ…」

「でもね」

「「………」」

「ホントに家族の事は大事に思ってるのはよく分かったの。ボロボロの写真を20年近くも大事にしてるし」

「そこにご家族が写ってるのね」

「見たらホントにビックリするわよ、鶫にそっくりなんだから」

「誠士郎ちゃんのお母様とお姉様か…、是非拝見したいな」

「「………」」

 

ニヤけながら言う集に千棘とるりは絶対零度の視線を放った。

 

「間違ってるかもしれない…、けどやっぱり気のせいとは思えないの」

「まぁ、摩可不思議な出来事なんて貴方たちと出会ってから日常茶飯事になってしまったものね」

「退屈しなくていいよね!!」

 

肯定的な二人の表情を見て千棘も頬をほころばせる。

 

「そろそろお昼時で混み出すから早く行きましょ」

「そうね、次は塩味にしようかしらね」

「まだ食べるんだ…」

 

 

 

◇◇◇

 

教会堂の楽、小咲班は長椅子にこしかけ修道女に話を聞いていた、小咲は該当人物の特徴を知らないため質問を楽に任せ、自身は黙って見届けていた。

 

「…ていう理由で、背が高くて髪を束ねている外国人の男の人を捜しているんです」

「その男の人って、筋肉がスゴイ人かしら?」

「そう、その人です!!」

「…やっぱりここに来たんだ」

「昨日の夜ふらっとやってきてはそれは熱心お祈りをされていましたね、貴方たちのお知り合いですか?」

「…私は違うんですけど…」

「今ここにいるんですか!?」

 

目撃情報の持ち主である修道女に詰め寄る楽、人のいない教会堂に大きな声が響き気まずそうに引き下がる。

 

「いいえ、今はもうおられません」

「やっぱりか…」

「昨夜はこちらに泊まられたんですよ」

「泊まったんですか!?」

「はい、この教会では遠くからの礼拝者の為に簡易ですが宿泊施設も用意してるんです」

「そこに泊まったんですね」

「今朝方まで居たんですがね、ふらっと出て行かれてしまいました」

「もう戻ってこないんですか?」

 

小咲の質問に、修道女はゆっくり首を左右に振った。

 

「“世話になった”といって出て行かれたので、おそらくは戻られはしないでしょう」

「なんだ…、振り出しに戻っちまった」

「一条君…」

 

がっくりと項垂れる楽に寄り添うように小咲が声をかけた。

 

「…どこに行ったとか分かりませんか?」

 

あんまり期待していないような声で楽が修道女に問いかける、すると修道女は何かを思い出したかのように口元を押さえ笑い出した。

 

「どこに…か、フフッ、そういえば…」

「心当たりがあるんですか!?」

「面白いことをおっしゃってましたねぇ、“キリストに挨拶したから今度は仏の神様に挨拶してくる”なんて…」

「…仏?」

「「………」」

 

しばらく小首をかしげていた二人だが、“仏”という言葉に何か引っかかっていた。

そしてハッと顔を上げて、二人は顔を見合わせ…

 

 

 

「「 あ そ こ だ ! ! 」」

 

 

二人揃った大きな声が、再び教会堂内に響き渡った。

 

 

 

◇◇◇

 

千棘、るり、集班

 

五軒目のラーメン屋で聞き込みをしていた三人は興味深い話を聞いた。

 

「ケンカしてた!?」

「はぁ…、ケンカといいますか…、巻き込まれたといいますか…」

 

ラーメン屋の裏口の水道で寸胴鍋を洗っていた店員は昨夜もシフトに入っており、ファルカノと思われる男が来店するところも見ていた。

この町では外国人の客も多く、そういった客が来ることも珍しくはなかった。

だが、日本語を流暢に話すファルカノの存在は殊更強く残っていたようだ。

 

「一人で静かに食べてたんです。けど…」

「けど?」

「うちの店ってちょっとガラの悪いお客さんも来ること多いんです」

 

4.5人のグループ客が店内で大声で大騒ぎをしており周囲の客が迷惑そうな顔をしていた。もちろん店員は注意をしたが迷惑客は聞く耳を持たず、店員に因縁をふっかけてきて胸ぐらをつかむなど警察沙汰一歩手前となっていた。そんな時、一人ラーメンを食べ終えたファルカノが立ち上がり店員につかみかかっていた腕を捩じり上げこう言ってのけた。

 

“店員さんは忙しいから暇な俺が相手してやる”

 

迷惑客たちは嬉々として男を取り囲んだ、店員はもちろん止めたが男は

 

“神に仕える身に誓って暴力は振るわない”

 

といって、迷惑客に店の裏口に連れられていった。店員たちはさすがにこのままじゃまずいと思って裏口を覗きに行ったら案の定男は迷惑客に殴られていた。もう通報するしかないと思いケータイを取り出そうと一旦店の中に戻ると急に外が静かになり、騒いでいた迷惑客の一人が男に連れられ泣きながらお金を払いに来た。

 

「それ本当に?」

「ええ、うまくあしらったのか何か脅しでも使ったのか分かりませんがとにかく助かりましたよ」

「…すごい人だね」

「で、その人どこ行ったか分かりますか?」

「う~ん、そうですねぇ。…あ、そういえば何だか御利益のあるスポットを探してるみたいで、だから教えてあげたんですよ」

「何を?」

「神社に行けばいいですよって、じゃあ明日行ってみるって笑ってましたよ」

「「「……神社」」」

 

千棘たち三人は顔を見合わせた。

 

「神社だって…、これじゃ楽の言ってた通りだったわね」

「行く?」

「行くしか無いんじゃない?」

「じゃあ行きましょうか」

「どうもありがとうございました」

 

一行は進路を神社に定める、そこに店員が声をかけてきた。

 

「あ、お客さん、あの外国人のお客さんに会ったらまた来てくださいって伝えといてもらえますか」

「…わかりました、絶対に伝えますね」

 

やっぱり感謝されてるんだな、と頬をほころばせる千棘。

 

「なんやかんやで昨日のお会計しないまま帰っちゃったんですよ、あのお客さん」

 

何もない道で何故かズッコケそうになる三人だった。




次回第五話『悪霊区域』
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