機動戦士ガンダムafter UC 可能性を信じた者達 作:naomi
「ボリス・マッカートニー。職業は機械整備士ね…あんなの乗ってその経歴で通せると思ってる。もしかして」
オグロスナの一同は自分達の拠点に戻り。カズキが捕らえた男を尋問していた。
「…」
「黙りですかい」
マツウィンの拳が男に容赦なく襲い掛かる。
「なぁ、あんたジオン崩れだよな。でなきゃあんなの持ってる訳ねぇもんな」
男はマツウィンに唾を吐く
「…それくらい自分達で調べろ。連邦の犬が」
「てめぇー」
「落ち着けマツウィン少尉。俺が代わろう」
カズキが席に着くと小さな紙を差し出した。男の表情が変わる。カズキは指で机を叩きながら問詰めた。
「何故今また動き出したんだ。ジオン共和国解体まで残り僅か、最後の悪足掻きか」
「連邦政府に不満を持つ奴なんてうじゃうじゃいるんだ。そういう人間に手引きして貰った。それだけだ」
「あの演説…どう思った」
「あの演説だ」
「ジオンのお姫様を名乗る少女が行った演説だよ」
「隊長。その質問意味ありますか」
「いいから、いいから」
「…あの演説に価値があったのかはわからない。だが少なからず、自分達の行いに正当性が持てたという希望を持った輩はいるんじゃないか」
「希望とは…」
「オリジナルの『ラプラス憲章』には最後の条文にこう書かれてたそうじゃないか【第七章。地球連邦政府は、大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備することとする。
第十五条
一、地球圏以外の生物学的な緊急事態に備え、地球連邦政府は研究と準備を拡充するものとする。
二、将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者たちを優先的に政府運営に参画させることとする。】
これは、かのジオン公国の指導者『ジオン・ズム・ダイクン』が唱えた『ジオニズム』に一致する内容だ。この内容がもしも事実ならジオン公国…今はジオン共和国か、ジオン共和国は『ニュータイプ』と呼ばれる人間をリーダーに出来れば、自治権は認められ連邦政府からの独立を正式に宣言出来る。はずだ」
「…しかし共和国にそのような動きは無い」
「だろうな。そもそもその憲章が本当にオリジナルなのか怪しい。もう宇宙世紀が始まって100年になろうとしている。そりゃあ『ラプラス事件』の数年後とかなら検証して証明出来たろうが100年も経っちゃ検証しようにも証明する物が無いんじゃないか」
「あのお姫様が嘘をついてると」
「そうじゃない。ただ実物をこの目で実際に見たことのない俺達にとって、あれは只の『可能性の産物』であってそれを利用し世界を変えようと試みたとして。自分の一生を擲ってまでやる価値があるのか考えた時。そこまでする必要は無いそう結論に達する人間の方が多いってことだろ」
「そもそも、あの放送で映ったジオンのお姫様自体本物か怪しいしな」
「…」
「俺は」
暫く続いた沈黙をカズキは神妙な面持ちで破った。
「あの放送が流れているとき、あの放送を止めようと動く部隊のMSに乗っていた。彼方から放たれた巨大な光を2機のMSが受け止めた。あの場にいた部隊の全員が驚いたよ。コロニーを一撃で破壊出来る光をたった2機のMSが止めたんだからな」
「…」
「直ぐに俺達は出撃した。いつまでもその事実に驚いてる訳にはいかなかった。そしたらさ、その内の1機が腕を振ると、俺達のMSが刻を遡ったかのように動きを止めバラバラに解体されたんだ。ただ眺めているしかなかったよ、2機が何処かに跳んで行くのを」
「何故そんな話をここで」
「わからない。でも必要だと思ったんだ。なんとなく」
「…」
「まあ、ここまで黙りだと今日は口を割ることは無いでしょう。また明日にしようか」
男は連れられ部屋を後にする。1人になりカズキは机に置いた紙を手に取る。
貴方に取って【星】とは
その紙には一文追加されていた。
人類の希望
カズキは笑みを浮かべ部屋を後にした。