「さて、この前明久の雑用を手伝う際腕輪を使ったからあの老いぼれに報告しないと」
夏休み前のある日の放課後。俺は黒金の腕輪を使用した為学園長に腕輪について話そうと学園長室に行った時のことだった。学園長室の前に着いてノックをしようとしたら中から学園長と高橋先生の話が聞こえたところから始まる。
「ん? 何か話をしているみたいだが何を話してるんだ?」
会話の内容が気になった俺は学園長室の扉に耳を当て話を聞いてみることに。
「ーーというワケで、Aクラスを使って文月学園のプロモーションムービーを制作しようと思うんだよ。いいかい、高橋先生?」
「はい学園長。私からは反対する理由は何もありません」
「やれやれ。助かるよ。最近どうもどこぞのバカどものせいでウチの学園の評判が悪いようでねぇ・・・・・・」
「心中、お察しします」
「それで、Aクラスの生徒たちのうちの何人かにも出演してもらおうと思うんだけど、どうだい? 誰を出演させたら良いかねぇ?」
「そうですね・・・・・・。学年首席の霧島翔子さん、次席の久保利光君、如月亜蘭君を中心に、制作するのが妥当だと思われますが、あの三人は残念ながら愛想に欠ける部分がありますので」
「くくくっ。アンタがそれを言うとはね」
「客観的な意見を述べただけです。私自身も愛想に欠けることは重々承知の上ですから」
「おや、気分を悪くしたかい? それはすまなかったね。話を続けておくれ」
「いえ。・・・・・・そうなると成績優秀で勤勉、且つ明るい性格の生徒ということでーー木下優子さんを中心に制作するのが宜しいかと思われます」
「木下優子ーーああ、あのクソガキのガールフレンドかい」
「ええ。彼女はFクラスの東條斗真君と交際をしていますが彼は吉井君や坂本君程問題を起こしてはおりませんし成績もAクラス上位並ですので心配する必要はないと思います」
「そうだねぇ。あのクソガキはアタシに対する態度は問題あるけどあのバカどもと比べたらマシな方だしねぇ。他にはいないのかい?」
「いないこともありませんが、若干のリスクを伴うかと」
「リスク?」
「はい。例えば、工藤愛子さんという成績優秀で明るい性格の生徒がいるのですが」
「ふむ」
「彼女を中心にする場合、流れによっては放送禁止用語の検閲やモザイク等の処理が必要になる可能性があります」
「・・・・・・・・・・Aクラスだけは・・・・・・まともだと思ったんだけどねぇ・・・・・・・・・・」
「学園長。今のは私の冗談です」
「アンタの冗談は笑えないさね!?」
「ただ、彼女は少々性に関して奔放なところがありますので、勤勉な学舎をイメージさせるには不適かと」
「そうかい。・・・・・・よし。それじゃ、木下優子って子を中心に作ろうか。本人にこの話を伝えておいてもらえるかい?」
「わかりました」
「ところで、その子は歌も達者かい?」
「と、仰いますと?」
「うちの学校の合唱部は人数が少ないからね。校歌斉唱もその子を中心にAクラスの生徒と合唱部でやってもらいたいのさ」
「それはわかりませんが、恐らく彼女であれば問題ないでしょう。木下さんと一緒に東條君と交際している双子の弟の木下秀吉君はオペラをこなせるほどですので、姉である彼女も素質はあるかと」
「それはまた、何でもできる素晴らしい生徒さね。付き合ってる男があのクソガキってのが唯一の欠点だが」
「ええ。東條君とお付き合いをしていることに関してはともかく、彼女ほど品位方性で見目麗しく、成績優秀且つ社交性に富んだ模範的な生徒はいません」
「・・・・・・おいおい。とんでも無いことになるぞこれは・・・・・・」
どうやら高橋先生は優子が
「ただいま帰ったぞい」
「・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・」
「んむ? どうしたのじゃ姉上?似合わぬ溜息なぞついてからに」
演劇狂いのバカな双子の弟は、部活を終えて帰ってくるなりアタシの顔を見て目を丸くしていた。
「何よ秀吉。アタシが溜息ついてたらおかしいって言うの?」
「いや、そうまでは言わんが・・・・・・」
秀吉は口ではおかしくないと言ってはいるけど、怪訝な表情で眉根を寄せている。
その顔はまるでアタシそっくりね。
容姿が瓜二つのアタシが言うのもなんだけど、秀吉はとても顔が整っている。大きな瞳に、透き通るような肌に、小さな顔。女から見たら誰もが羨む紅顔(?)の美少年でーーって、これだとただの自慢になるのかな。
でも、日々の手入れやダイエットをしているアタシはともかく、何もしていないこのバカが可愛い顔をしているなんて不公平よ。男子の間ではアタシより人気があるって話だし。斗真だってアタシがいない間はいつも秀吉とイチャイチャしてるって言うんだから本当に腹立たしいったらありゃしないわ。
「・・・・・・って、そんなことも今はどうでもいいのよね・・・・・・ハァ・・・・・・」
「本当にどうしたのじゃ? 姉上が大好物の美少年同士が絡み合う小説を放っておいてまで呆けておるなんぞ、何かあったとしか思えん。オマケに、服装も下着姿でもジャージ姿でもないし・・・・・・」
「アンタはアタシをどういう風に見てるのよ。アタシだって斗真と付き合うようになってからは少しくらいは改善してるに決まってるでしょ」
「そうじゃったな。斗真にズボラな姿を見られた時は斗真に関節技で口封じをーあ、姉上!その関節はそっちには曲がらな・・・・・・!」
「思い出さないで!あの時斗真に露わな姿を見られたことは恥ずかしかったんだから!」
「痛たたたっ。す、すまぬ姉上。じゃが、一体何があったのじゃ。いつもとは様子が違うぞい」
アタシに掛けられた部位を擦りながら秀吉が聞いてくる。悩み事というか、困り事というか・・・・・・。
「秀吉。アンタ、歌とか得意よね」
「歌? まぁ得意というほどでもないが、姉上に比べれば幾分マシなのは確かじゃな」
「く・・・・・・っ! 言ってくれるわね・・・・・・!」
腹立たしいけど、事実だから仕方ない。
「ハァ・・・・・・。どうしてアンタにできることがアタシにはできないんだろ・・・・・・」
「その分、姉上は勉学に秀でておるからの」
「今だけは勉強よりも歌の才能が欲しいわ・・・・・・」
声質はそんなに悪くないんだけど、どうにもアタシは音感というものが致命的なまでに存在しない。カラオケに行っても専ら手を叩くだけだ。
「なんじゃ。人前で姉上が歌声を披露する機会でもあるのかの?」
「そうなのよ。担任の高橋先生が『木下さんにしかお願いできないことです』なんて言って、学園の紹介ムービーに出演して欲しいって・・・・・・」
「学園の紹介で歌となると、校歌でも歌うのかの?」
「ご名答よ。・・・・・・ハァ・・・・・・」
「そこまで思い悩むのであれば高橋女史に頼まれたその場で断れば良かったじゃろうに」
「そんなの絶対にイヤ。折角今まで何でもできる優等生を演じてしたのに、この程度のことでギブアップなんて冗談じゃないわ」
「姉上。相変わらず見栄っ張りは筋金入りじゃな・・・・・・。斗真からも『人間誰しも出来ないことがあるのは恥ずかしいことじゃないから無理なお願いは断ったらいいじゃないか』って言われたじゃろうに」
「木下の血みたいなもんでしょ。アンタは舞台で役を演じる。アタシは日常生活で優等生を演じるってね」
「むぅ。そう考えると、ワシらは似ておるかもしれんのう」
認めたくないことだけど、性別や性格はともかくアタシたちの本質は似ているのかもしれない。外見なんて身内でも間違えるくらいだし。唯一斗真だけはアタシと秀吉を見分けられるけどね。
「・・・・・・・・・・(じーっ)」
「な、なんじゃ姉上? そんなにワシの顔をじっと見て。何かついておるかの?」
「・・・・・・アンタ、物真似とか得意よね」
「できれば演技と言って欲しいのじゃが」
「そんなのどっちでもいいの。・・・・・・アタシの演技とかもできる?」
「それくらいならば簡単じゃ。姉上の特徴は把握してるからの」
「そうよね。生まれてからずっと一緒だものね」
前の試召戦争で余計なことをしてくれただけじゃなく斗真を誑かしてもくれたしね。
「撮影の時のほんの少しの間ならアンタでも・・・・・・」
「まさか姉上、ワシに代わりにでろと・・・・・・?」
秀吉は嫌な予感がしたのか一歩後退る。
「そのまさかよ。アタシの制服を着て胸に詰め物でもしたら、よほどのことがない限りばれないでしょ」
「胸に詰め物? 何を言うのじゃ姉上。その程度のサイズであればそんなものはなくともーーあ、姉上っ!ちが・・・・・・っ! その関節はそっちには曲がらな・・・・・・っ!」
「秀吉。アタシね、すっっっごく困っているの。お姉ちゃんのお願い、聞いて貰えないかなぁ?」
「ワシも今すっごく困っておるのじゃが!?」
「じゃあ、お互い様よね? 姉弟仲良く助け合いましょ?」
「いや、明らかにその理屈はおかしいとーー痛たたたっ! りょ、了解じゃ! 喜んで姉上の代役を務めよう!」
「そう。良かった。それならアタシもアンタの腕を折るのを我慢してあげる」
「うぅ・・・・・・。まったく、姉上は暴力的で困るのじゃ・・・・・・」
「何よ。アンタが斗真と同じ様に余計なことを言うからでしょ」
「むぅ・・・・・・。事実を言ったまでなのじゃが・・・・・・。それはそうと、入れ替わりはいつやればいいのじゃ?」
「明日の放課後に、体育用具室あたりで待ち合わせてお互いの服を交換しよっか。・・・・・・詰め物はアンタが必要ないって言うならなくてもいいから」
「明日の放課後じゃと? その時間、ワシらのクラスは補習があるのじゃが」
「補習? それって出ないとまずいの?」
「うむ。サボると留年の階段を一段上ってしまうのじゃ」
「アンタねぇ。あれだけ斗真に勉強を教わっておきながらどれだけ進展してないのよ・・・・・・」
「そればっかりは返す言葉もない・・・・・・」
「まぁ、そういうことなら仕方がないわ。そっちはアタシがアンタの振りして出席しておいてあげる」
「姉上が?」
「うん」
「いや、それは・・・・・・」
「なによ。アタシじゃアンタの代役は務まらないとでも言うの?」
「いや、姉上に代役ができんとまでは言わんが・・・・・・。もし斗真に気づかれてしまうとどうなるか心配じゃからのう」
「う!そうね。斗真だったらひと目見ただけでアタシと秀吉を見分けられるし、そこは気をつけておくわ」
「それから、くれぐれもクラスメイトとの下手な接触は無いように頼むぞい。万が一入れ替わっておるときに中身が女じゃとばれたらーー」
「ばれたら?」
「翌日からはワシは本物の女じゃと言われてしまうじゃろう・・・・・・」
「・・・・・・アタシと入れ替わってるとは考えないで、アンタが実は女だったって考えるんだ・・・・・・。さすがはFクラスね」
「じゃから、接触にはくれぐれも気をつけて欲しいのじゃ」
「わかったわ。そっちも絶対にばれないようにね。うまくいったら何かお礼はするから」
「任せておくのじゃ」
その後に秀吉の歌う校歌を聞いて問題ないか確認してから、アタシはいつものように大好きな乙女小説を手に取った。
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