翌日の放課後、アタシと秀吉は周囲の目が確認してから体育用具室に入る。
「じゃあ秀吉。さっそく服を取り替えー」
「あ、待つのじゃ姉上。しばらく待っといてくれんかのう・・・・・・」
「え? どうしたのよ急に」
秀吉は制服のズボンから何らかの機械を取り出しては何かを探すように辺りを彷徨き始める。手に持っている物はなんていうかリモコンみたいに見えるけど。
「ねぇ秀吉。それって一体何なのかしら?」
「何って小型カメラを探す為の探知機じゃが」
「ちょっと待ちなさい!? なんでアンタがそんなものを当たり前のように持ち歩いているのよ!?」
「し、仕方なかろう・・・・・・。斗真からムッツリーニはどこかでワシを隠し撮りしてるだろうからコイツを肌身離さず持っておけって渡されたのじゃ」
「・・・・・・アンタたちは普段からなにしてるよ」
盗撮をする土屋君もそうだけど、それを見越して対策を取る斗真もFクラスに染まってきたのかしら。
「ほら、時間が無いんだからさっさとここで服を取り替えましょう。秀吉、さっさと服を脱ぎなさい」
「う、うむ。了解じゃ」
そうしてアタシたちは素早く服を取り替え入れ替わりを終えた。
「ホント、アンタってアタシそっくりね」
「双子じゃからな。似ておっても不思議はあるまい」
「二卵性なんだから、ここまで似ていなくてもいいと思うんだけど」
でも今回はその似ている容姿のおかげでこんな真似ができるのだから少しは秀吉に感謝しようかしらね。
「では行ってくる。姉上は補習を頼むぞい」
「あ、待って秀吉。コレを持っていきなさい」
秀吉を呼び止めると、アタシは秀吉にあるモノを渡す。
「んむ? コレは盗聴器みたいじゃがどこで入手したのじゃ?」
「アンタがさっき言ったムッツリーニって人から借りたのよ。頼んだら喜んで貸してくれたわ」
その頃ムッツリーニはというと
「・・・・・・・・・・新作入荷」
優子から貰った秀吉の寝顔や自宅のリビングで寛いでいる写真を見てはとても喜んでいた。
「ムッツリーニめ。まったく、あやつは・・・・・・」
「いいから、それを身につけて行動しなさい。アタシはそれでアンタの行動をチェックするからね」
「監視なんぞせんでも、きちんと姉上を演じきって見せるというのに・・・・・・」
「アンタの『きちんと』は全然信用できないのよ」
「まぁ良いじゃろ。コレを持っているだけで姉上が安心すると言うのであればそうしよう」
秀吉は盗聴器を身につけると、女子の制服姿で体育用具室を出ていった。
「さて。アタシも斗真がいるFクラスの教室に行かないとね」
本当なら秀吉がヘマをやらかさないよう近くで見ておきたいけど、流石にアタシの代わりをさせた上にアイツの補習をすっぽかすのは酷すぎるので、おとなしくFクラスの教室に向かうことにする。
神様、どうかアイツがバカなことをしでかしませんように・・・・・・。
「相変わらずボロい教室ね・・・・・・」
Fクラスの教室に着き、あまりにもの酷さに思わず愚痴をこぼしたアタシは教室の扉に手を掛けようとしたその時
『しまった! 須川が窓を伝って隣の教室に逃げたぞ!』
『あのブタ野郎・・・・・・! 異端審問会の血の掟に背いて、Dクラスの玉野さんにLINEのアカウントを迫っていたという噂は本当だったのか・・・・・・! いいか! 今この時よりヤツは会長ではなく反逆者だ! 見つけ出して始末するんだ!』
『『『了解! 指示を!』』』
『A〜E部隊はヤツを捕らえ次第異端審問にかけろ! スマホのデータの削除も忘れるな! アカウントの交換に成功していた可能性もある! F〜G部隊はあらゆる手段を用いてヤツの悪評を流せ! 特にDクラスには念入りにだ! H部隊は船越先生(四十六歳♀独身)のところに向かえ! あの裏切り者に人生の墓場というものを教えてやるんだ!』
『『『了解っ!』』』
教室から聞こえたFクラスの怒号を聞いたアタシは呆然とするしかなかった。
・・・・・・このクラス、何やってるんだろう・・・・・・。
そうして恐る恐る教室の扉を開けては中を見てみると
ジャラジャラジャラ(トゲ付き鉄球を構えた時の音)
キーンキーン(藁人形に釘を刺す音)
ジャリジャリジャリ(砥石で鎌を研ぐ音)
中ではーー覆面をつけた連中が手に忙しなく武器を研いだり、壁に藁人形をつけては釘打ちをしていた。
「ホントになにやってんのよーっ!?」
なんで皆補習前だってのいうのに授業の準備もしてないの!? っていうか、授業云々の前にその格好は何!? どこぞの武闘派宗教団体にしか見えないんだけど!?
「あ、おかえり秀吉」
アタシの前で鎌を研いでいた人が覆面を外してこちらに寄ってきた。学年どころか学校全体で有名になっている吉井君だ。こんなことばっかりやってるから斗真にバカ呼ばわりされるんじゃないかな・・・・・・。見た目はそれなりにまともなのに、勿体無い。
「ん? あれ? なんだろ?」
その吉井君がアタシの顔をジッと見ていた。
「な、なにーーごとじゃ、明久?」
「君、ひょっとしてーー木下さん?」
う、嘘でしょ!? 斗真以外にもアタシと秀吉を見分けることができる人がいたなんて・・・・・・。
「ち、違うぞい。 わ、ワシは秀吉じゃぞ!何故姉上と間違うのじゃ!?」
ここでバレでもしたらマズいので敢えて誤魔化す。
「いや、この前斗真からどうやって秀吉と木下さんを見分けられるか聞いたんだけどね。それに当てはまってたからもしかしたらと思って・・・・・・」
そういえば前から気になってたけど、アタシと秀吉は身内でも区別がつかなくなるのに斗真はどうやって見分けられるのかしら。ちょっと吉井君に聞いてみようと。
「と、斗真はどうやってワシと姉上を見分けとると言っておったのじゃ?」
「えっと、斗真が言うには女の子らしくて可愛いのが秀吉で、逆に男らしいのが木下さんだって言ってたかな」
どうしよう。突然このバカと斗真の頸動脈をかっ切りたくなっちゃったじゃない。
「それより、補習はどうなったのじゃ? 皆はそれどころではなさそうじゃが」
「あ、うん。補習なら、さっき鉄人が来てプリントを置いていったよ。それをやった後で解説授業をするってさ」
「なるほど。それで皆が自由に動き回っているというワケじゃな」
「後で鉄人が来るまでは自習みたいなもんだからね」
「ん? そういえば斗真はどうしたのじゃ? 斗真も補習を受けてはおるのじゃろ?」
「え? 秀吉は知らないの? 斗真は姫路さんと一緒に高橋先生の特別授業を別室で受けているからここにはいないんだよ」
「そ、そうじゃったのか・・・・・・」
確かに斗真ならFクラスレベルの授業は普通にこなせるし、西村先生からの出題にも難なく答えられるから吉井君たちとは別に高橋先生の授業を受けるのは当然ね。瑞希も一緒にいるってことはAクラスレベルの授業を受けているのかな。
「でも僕としては斗真が姫路さんと一緒に授業を受けられるのが羨ましいかな」
「む? それはどうしてなのじゃ明久?」
「だって僕たちは鉄人が指導するのに向こうは高橋先生から教わるなんて羨ましいじゃないか。それに姫路さんと一緒に別室に向かう際、『たまには姫路さんと二人っきりで授業を受けるのも悪くないかな』って嬉しそうに言ってたし・・・・・ん?どうしたのさ秀吉。なんか顔が物凄く怖いんだけど・・・・・・!?」
ふ〜ん。どうやら斗真には後でたっぷりお仕置きをしてあげないといけないわね。ふふふっ。補習が終わった後が待ち遠しいわ。
『・・・・・・・・・・!?(ビクッ)』
『? どうかしましたか?』
『いや、ちょっとただならぬ殺気を感じたんだけど・・・・・・』
『ほぇ?それは一体・・・・・・?』
『お二人とも。今は授業中ですので私語は謹んでください』
『『すみません』』
「それはそうと、雰囲気だけじゃなくて秀吉の声もいつもと違ってちょっと高い気がするんだけど、もしかして風邪でーー」
『報告! 新情報です! 須川の悪評を流す為にF部隊がDクラスの玉野に接触したところ、彼女は須川に興味はなく、「それよりアキちゃんについて聞かせて欲しい」と繰り返していたとのこと! 繰り返す! Dクラスの玉野美紀は吉井明久に興味あり! Dクラスの玉野美紀は吉井明久に興味あり!』
「さらばだっ!」
報告を聞いた瞬間、吉井君は覆面を放り捨てて脱兎の如く駆け出した。
『逃がすな! 予備戦力で追撃隊を組織しろ! これ以上ヤツの横行を許すな!』
『だが待て! 玉野はアキちゃんと言っていたらしいじゃないか! 正直、吉井には虫酸が走るがアキちゃんなら俺も興味がある!』
『実は俺もだ!』
本当にこのクラスってバカばっか。
でもおかげで堂々と秀吉の様子をチェックできるもんね。えっと、確か土屋君から教わった盗聴器を傍受する為のアプリを起動してーーっと。
アプリを起動してしばらく待つと少しの間だけ耳障りなノイズが走り、徐々に音がクリアーになっていった。
『ーー下さん。』
『え? アタシ、久保君に何かお礼を言われるようなことをしたっけ?』
ん?この声は久保君?なんでかわからないけど久保君にお礼を言われるようなことをしたかしら。
『ああ。キミのおかげで勇気が出てきたよ。クラスメイトに同志がいると知ることができただけでも心強い』
『同志?』
一体何の話をしていたんだろう。まだ撮影は始まっていないようだし、適当な雑談でもしていたのかな・・・・・・。でも、久保君と同志だなんて、どんな話を・・・・・・?
『それにしても、まさか木下さんが東條君と同じ同性愛者だったとはおどろいたよ』
あのバカ何を話していたのよーっ!?
『良かったら、彼のどこが気に入ったか教えて貰えないだろうか。僕にできることならいくらでも協力しよう』
『えっと・・・・・・。そうね。斗真のどこが好きかっていうと』
ドドドドド!!(優子が全速力でダッシュする)
バンッ!
「あら秀吉。どうかしたの?」
「姉上。ちょ〜〜っとよろしいかの? 向こうで内密に話したいことがあるのじゃが」
「? よくわからないけど、いいわよ。それじゃ久保君。ちょっと失礼」
アタシの殺気に気づくことなく、秀吉はひと気のない階段の踊り場までついてきてくれた。よし。ここなら・・・・・・殺れる。
「秀吉。久保君と何を話していたか教えてもらえるかしら・・・・・・?」
「んむ?他愛もない雑談をしておったのじゃが、その際にどうして斗真と付き合うことになったかていう話になっての」
「うんうん。それで・・・・・・」
「姉上の思考を読み、『普通の男に興味がない』というニュアンスを伝えようと思ったのじゃが、どうも言葉の選択を誤ったようでの。久保は『異性に興味がない』という意味に受け取って姉上を同性愛者だと勘違いしたようでーーあ、姉上っ! ちが・・・・・・っ! その関節はそっちには曲がらな・・・・・・っ!」
「このバカ! いつアタシが異性に興味がないって言ったのよ! ただ乙女小説が好きなだけで、普通の男にだって興味があるんだからね!? そうじゃなきゃアタシが斗真と付き合ったりするわけないじゃない!」
「りょ、了解じゃ! 次は間違えぬようにしよう!」
「ホント、頼んだからね・・・・・・っ!」
撮影もあるため、秀吉に怪我をさせるわけにもいかないからここでお仕置きするのは止さないと。でも、全てが終わったら吉井君に変なことを吹き込んだ斗真共々代償は払ってもらわなきゃね。
捻り上げていた手首と肘を解放してやると、秀吉は腕をさすりながら教室へと戻っていった。アタシもFクラスに戻らないと。
『・・・・・・優子』
『あ、代表。なに?』
教室に戻ってイヤホンをつけると、今度はまた別の人の声が聞こえてきた。このしゃべり方だと、多分相手は代表ね。
『・・・・・・そこ』
『そこ? なになに?』
『スカート、めくれてる』
あのバカ、またボロを出して・・・・・・!演技はともかくとして、動きが無防備過ぎるのよ! アタシたちがスカートの時どれだけ気を遣っているのか全然わかってないんだから!
『心配してくれてありがとね、代表。でも、大丈夫なの』
『・・・・・・大丈夫って?』
『見られても大丈夫ってこと』
『・・・・・・でも、スカートがめくれたら』
『ううん。それくらい平気なの。だって』
『・・・・・・だって?』
『だってーー今日は、きちんと下着を穿いているもの』
ドドドドド
「アンタ何てことを言ってくれんのよ!? あれだとまるでいつもアタシがノーパンみたいでしょ!?」
「いつもと違ってスカートの下にスパッツを穿いているから大丈夫という意味じゃったのじゃが」
「そういう風には全然聞こえないのよ!」
「じゃが、スパッツは分類的には下着に入ると」
「黙りなさい! とにかく、ああいう迂闊な発言は二度としないように! あと、スカートの裾には気をつけなさい!」
幸いにも代表くらいしか聞いてなかったみたいだからまだマシだけど、もしこれが愛子か他の女子に聞かれでもしたらアタシの評判が大変なことになっちゃうじゃない。
「むぅ・・・・・・。姉上のスカートは丈が短すぎるしウエストはゆるいし、動きにくくて困るのじゃ・・・・・・」
「それはアタシのスタイルが悪いって言いたいのかしら?」
このバカ・・・・・・。この前斗真と一緒にお風呂に入ったときも秀吉より脂肪はあるねって言われて気にしてたのに。用事が済んだら確実に始末してやる・・・・・・。
「とにかく、動きにも充分気をつけなさい! あんまり挑発的な格好をしていて変な虫が寄ってきたら困るんだからね!」
「了解じゃ。気をつけよう」
「くれぐれも頼んだからね」
秀吉を解放してAクラスに戻らせる。
あのバカは目を離すと何をしでかすかわからないわ。
再びFクラスに戻ったアタシはイヤホンを装着して、秀吉の会話を聞いてみると今度は聞きなれた声が聞こえてきた。
『木下さん。ちょっと質問しても良いかな?』
『? え、いいわよ。如月君』
『ありがとう木下さん。今は斗真と付き合っているからこんなことを聞くのは野暮かもしれないけどーー』
この声は如月君ね。彼は斗真とは幼馴染みだから斗真のことを気にかけてるのは当然かもしれないけど何を聞くつもりなのかしら。
『もし、他の男子と付き合うとするならどういったタイプが好みなのか聞かせてもらえないかな?』
ああなるほどね。よくテレビとかでも聞くもし自分が芸能人じゃなかったらどんな職業に就いてたかみたいな質問ね。秀吉、お願いだから変に誤解を招くようなことは言わないでよ。
『どういうタイプが好みかって言われると、そうね・・・・・・』
秀吉はひと呼吸置いて如月君にこう告げたのだ。
『もし、斗真以外の男と付き合うとするなら、十二歳以下の美少年かしら・・・・・・』
『え!? ひょっとして木下さん。ショタコンなの・・・・・・?』
ドドドドド
「殺すわよ」
「あ、姉上、何をいきり立っておるのじゃ。とりあえず落ち着くのじゃ」
「落ち着いていられるわけないでしょ!?」
同性愛者もしくはショタコンで、スカートの中はノーパン主義者。アタシはどんだけ救い難い女になってるのよ! もう音痴のレッテルを貼られるよりもよっぽど酷いことになってるし、斗真に合わせる顔がないわよ!
「ワシなりに姉上の好みを分析したのじゃが、違ったかの?」
「う・・・・・・。そ、それは、その、全然違うとは言わないけど・・・・・・。でも、そういうのはあくまでフィクションでの好みであって、アタシは現実では別の好みがあるし」
「むぅ・・・・・・。難しいのじゃ・・・・・・」
「要するに、アタシにとって二次元の好みと三次元の好みは全く別物なの! だいたい、アタシはいつもそういう趣味は表では隠しているでしょ!? 演技をするならその辺も徹底しなさいよ!」
「む・・・・・・。言われてみれば確かにその通りじゃな・・・・・・。すまぬ姉上。ワシはついつい家にいる時や斗真と一緒にいる時の姉上のイメージが先行して、そちらばかりを再現してしまったようじゃ」
「・・・・・・アンタにとって、アタシはそういうイメージなんだ・・・・・・」
自分ではもう少しまともだと思っていたんだけど・・・・・・。
「ところで、さっきアンタが如月君に言った台詞、当人以外には誰にも聞かれてなんていないわよね」
「十二歳以下の美少年という話かの?」
「そうよ。如月君は口が固いし、人に言いふらすような真似はしないから大丈夫だけど。あんなの誰かに聞かれたら大変だもの」
「目撃者はわからんが、演技の方は心配無用じゃ。今からはきちんと外にいる時の姉上の演技を徹底しよう」
「もうかなり色々と手遅れになってる気もするけどね・・・・・・」
毒を食らわば皿まで。ここまできたら最後までコイツにやらせよう。失う物なんて、もう何もないしね・・・・・・。
「・・・・・・・・・・やっぱりこうなったか・・・・・・」
秀吉に扮した優子と優子に扮した秀吉の会話を秀吉のタイに付けてある盗聴器から傍受した俺はこうなることを粗方予想していたが、優子は最早イメージの回復が難しくなってしまったことに呆れるしかなかった。
「ははははっ。まさかあの二人が入れ替わっていたとはね。どうしてこうなることがわかったんだい?」
「昨日、高橋先生がババァに優子を学園のPVに出演させると聞いた時に想像できたからな。優子は見栄っ張りなところもあるし出来ない頼みでも平気で聞き入れるからもしかしてと思っていたけど、本当に入れ替わるとは・・・・・・」
「そうは言うけど、こうなるのをわかっていながら影からコソコソと盗み聞きしている君の行動はあまり関心できないね」
「仕方ないだろ。下手に動くと優子のプライドを傷付けてしまうかもしれんからこうするほかなかったんだよ」
「それなりに二人のことを心配してたんだね。どうしてあの二人が君に惹かれたかちょっとだけわかった気がするよ」
「べ、別にいいだろ・・・・・・。じゃあ俺は教室に戻るから秀吉は任せたぞアラン」
「了解。下手な行動をさせないようしっかり見ておくからね」
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