秀吉のせいで色々あり、疲れ切った体のままFクラスに戻ると、いつの間にか戻ってきた吉井君がこちらにやってきた。
「あれ? 秀吉、どこかに行ってたの」
「あ、吉ーーじゃなくて明久。少々トイレに行っておったのじゃ。お主こそ、もう逃げ回らんでも良いのか?」
「うん。逃げている途中で斗真が姫路さんと楽しそうに会話をしてるって情報があったからね。今は皆、そっちにかかりっだよ」
ふ〜ん。斗真が瑞希と楽しそうに会話をしてたとはね・・・・・・。もうちょっと詳しく聞こうかしら。
「それで斗真はみーー姫路とどう話しておったか聞いとるかの?」
「え? う〜ん。なにを話してたかまでは聞いてないけど姫路さんは顔を赤らめて嬉しいような恥ずかしいような顔をしてたかな・・・・・・。 待って秀吉!? なんで今にも斗真を殺してしまいそうなほど恐ろしい顔をしてるの!? 今の会話に何か引っかかるところがあったの!?」
斗真。瑞希と何を話してたかは知らないけど瑞希の様子からしてスケベなことを言ったのは確実ね。後で全身のありとあらゆる関節を全部曲げてやらないと。
「あ、そうだ秀吉。お姉さんと言えばさ」
「あ、姉上がどうかしたかの?」
「? 何慌ててるのさ」
「べ、別に慌ててなぞおらんぞ」
「まぁいいけど・・・・・・。それで秀吉のお姉さんだけど、学園の宣伝用PVに出るんだってね」
あ、そのことね・・・・・・。入れ替わりがばれたかと少しヒヤヒヤしたわ。
「折角の自習だし、様子を見に行ってみない?」
「ん? そ、そうじゃな。確かに気になるし、見に行くのも悪くないのう」
このまま教室で会話をしていても吉井君にばれる可能性が高まるだけだし、秀吉の行動も気になるから様子を見に行った方がいいかもしれない。
怒号が飛び交う教室を後にして、アタシと吉井君はAクラスの教室を目指して行くことに。
「でも、秀吉のお姉さんって凄いよね?」
「? 何がじゃ?」
「だって、可愛いし勉強もできるし運動だってできるし、今日はカメラの前で合唱までやるんでしょ? 何でもできて凄いじゃないか」
「そ、そうじゃな」
「それにーー」
「それに?」
「『優子は秀吉にも負けないくらい魅力的な女の子で、俺の自慢の彼女だ』って斗真が誇らしげに言ってたからね。・・・・・・彼女がいない僕からすれば憎たらしいけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ん? どうしたのさ秀吉? 物凄く顔が赤いんだけど・・・・・・」
「な、なんでないのじゃ!?」
「?」
吉井君の無垢な瞳と斗真がアタシを自慢の彼女だって吉井君に言ったせいで一瞬言葉に詰まってしまう。なんだか二人を裏切っているようで、ちょっとだけ罪悪感が湧いてきた。実はアタシは音痴で、カメラの前で合唱なんてできっこないんだけどね。
斗真はともかく、吉井君の期待に応える為にも、秀吉には是が非でも成功してもらうしかない。音痴がばれるなんてアタシのプライドが許さないし、あれだけの酷評を流されたんだからせめてこれくらいは成功してもらわないと困るし・・・・・・!
「? どうしたのさ秀吉? さっきから怖い顔なんかして。まるでお姉さんみたいだよ?」
「あ、い、いやっ。別になんでもないのじゃ。気にするでない」
どうして怖い顔=アタシなのよ。吉井君の関節を抱きしめながらゆっくり聞いてみたいけど、ここで吉井君をシメたら全てが台無しになるから堪えないと。
偽りの笑顔を浮かべたまま歩くこと少々。不意に何かの旋律が聞こえてきた。
それとAクラスの入り口の前には授業を終えたのか、斗真と瑞希が一緒に教室を覗いていた。
「あ、斗真と姫路さんだ。おーい斗真〜。姫路さーー」
「しっ! 静かにしろ明久。今撮影をしてるところだ」
「あ、ごめん。木下さんの邪魔をしちゃいけなかったね」
「あれ? 木下君。なんだかいつもと雰囲気が違いますけどどうかしましたか?」
「え? そ、そうかの・・・・・・。わ、ワシはいつも通りなのじゃが」
瑞希も意外と鋭いわね。下手な動きはしないほうが良さそうかな。
「あ。これって校歌かな? 先に校歌斉唱から撮っているみたいだね」
「うむ。そのようじゃな」
Aクラスに置かれたグランドピアノが伴奏を奏で、二十人程度の歌声が重なっている。校歌だからアルトやテナーといった区分もなく、あくまでも主旋律だけの簡単な曲。けれども揃えられたその歌声は、澄み切った夏の空を彷彿とさせるような爽やかさと、そこに浮かぶ入道雲の壮大さを併せ持つような、そんな素晴らしいもののように聞こえた。
「斗真。木下さんは?」
「優子は今真ん中で歌っているよ」
斗真が指差した方を見てみると、アタシに扮した秀吉は一番目立つセンターで堂々とその歌声を披露していた。
歌っている時の秀吉は本当にやりたいことをやっているかのような魅力に溢れたいい顔をしている。音痴のアタシからすれば羨ましく思えるわ。
「やっぱり、木下さんもすごく綺麗だね」
「そ、そうじゃろ?」
「ま、優子は姫路さんに負けず劣らず可愛いから当然だな」
「そ、そんな・・・・・・。私が優子ちゃんと同じくらい可愛いだなんてお世辞がお上手ですね」
吉井君の一言もそうだけど、斗真の口から嬉しい言葉が出てきて少し救われたようだ。“やっぱり”ってことは、いつものアタシも少しは綺麗に見えているってことだから。
「だからその分、残念だよね・・・・・・」
「ん?何が残念なんだ明久」
「さっきさ、逃げ回っている途中で偶然聞いたんだけどーー」
なんだろう。凄く嫌な予感がする。
「ーー木下さんっていつもはノーパンで、女の子か小さな男の子にしか興味がないって噂をーー」
「忘れなさいぃぃっ!!」
「あがぁっ! 何秀吉!? どうしたの!? どうして突然僕に卍固めを!?」
「おい、ゆーじゃなかった。秀吉!? 急にどうしたんだ!?」
「き、木下君!? どうして明久君に関節技を掛けるのですか!? ず、ズルいですよ!」
「いいから全て忘れなさい! この痛みで全部記憶を書き換えて上げるから!」
「落ち着け秀吉! んなことしたら明久の全身がシャレにならなくなるぞ!」
「ひ、秀吉! よくわからないけど胸が! 微かに柔らかい感触が僕の腕にあがぁっ!」
「『微か』って何よ! 一応あるにはあるんだから!」
「どうしたのさ秀吉!? 急に暴力だなんて、一体僕が何をふぎゃぁああっ!」
「とにかく全部忘れなさいぃぃぃっ!」
「なに!? どうして僕がこんな目に遭ってるのさーっ!?」
「はぁ、やっぱりこうなったか・・・・・・」
「え? 東條君。こうなったっていうのは何のことですか?」
「ああ。今目の前にいる秀吉はーー」
「アンタもここでくたばりなさいぃぃっ!」
「え!? ちょっと待て優子! 俺が一体何をーぎゃあぁぁぁっ!」
「・・・・・・姉上よ」
「・・・・・・何よ、秀吉」
「最近クラス連中の間で、どうにもワシの胸が成長しているらしいという噂が流れておるのじゃが・・・・・・」
「奇遇ね。実はアタシもクラスメイトの間で、木下優子は東條斗真と付き合ってるにも関わらず、いつも下着を身に着けずに可愛い女の子か幼い男の子を物色しているらしいって噂が流れているのよね・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・」」
「姉上どうしてくれるのじゃ!? こうなってしまってはワシは斗真や明久たちと一緒に風呂はおろか体育の更衣室にも行けぬではないか!?」
「アンタは大して今までと立場が変わらないからいいじゃない! アタシなんて優等生から一転して三重苦の変態よ!? 責任取りなさいよ!」
「姉上が入れ替わりなぞ言いだすから悪いのじゃ! そのせいで最近は島田までもがワシの胸を親の敵のように凝視するのじゃぞ!?」
「自業自得よ! アンタがおかしな演技ばかりするからじゃない!」
「いいや、姉上が原因じゃ!斗真もワシらが入れ替わっとることに最初から気づいておったのじゃからな!」
「いいえアンタよ!斗真だってアタシを気遣って色々と手を回していたのにアンタが全てを台無しにしてくれたじゃない!」
「「・・・・・・・・・・」」
「まぁ、こうなっては仕方がないから放っておくかの・・・・・・」
「それもそうね・・・・・・。気にしたって仕方がないし・・・・・・」
「「少し待てばもっと凄い話題が出て、こんな話は忘れられるだろうから(の)」」
「ところで姉上よ。撮影が終わった後、斗真を物凄い形相で問い詰めておったのじゃが。何があったのじゃ?」
「何って、斗真が瑞希とどんな話をしていたか尋問しただけよ」
「普通は尋問なんてせずとも何を話してたか聞いたら良いじゃろうに」
「で問い詰めた結果。斗真は瑞希から『夏休みに行く海水浴でどういう水着を着れば明久君は喜んでくれるんですか』って聞かれただけだって言ってたわ」
「つまり斗真は明久について姫路から相談を受けていたわけじゃな」
「それに関してなんだけど。斗真は瑞希に今度の日曜日に吉井君と一緒に水着を買いに行ってその時に決めてもらえば良いよって言ったらしいわ」
「そうじゃったか。ん?今度の日曜と言ったらワシら三人でデートする予定が入っておるのじゃがもしや・・・・・・」
「そうよ。アタシとアンタの水着もその日、斗真に決めてもらうから覚悟しておきなさい」
「わ、わかったのじゃ。しかし斗真はワシらにどんな水着を薦めるのか気になるがのう」
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