バカと双子と二刀流   作:ペンギン太郎

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 今回はアルバイト編です。


俺とバイトと危険な週末 前編

 「ねぇ、とうくん。ちょっといいかな?」

 

 「ん? どうした姉ちゃん」

 

 「実はね。今度の週末に私がアルバイトをしている『ラ・ペディス』でちょっとお手伝いをして欲しいんだけど」

 

 「ラ・ペディス? それって、文月学園の生徒達が頻繁に通う喫茶店のことだろ。 どうしてそこのお手伝いをしないといけないんだ?」

 

 「それがね。 店長の清水さんが奥さんと娘さんに逃げられてしまって、今人手不足になっているの。だから、娘さん達が戻って来るまでの間だけとうくんに手伝って欲しいんだ。勿論、バイト代は弾むよって言ってから安心して」

 

 「そういうことか。それなら手伝ってあげてもいいよ。どうせ週末は特に予定もないしな」

 

 「ありがとう。とうくん」

 

 「ところで、姉ちゃんはその日は何か予定が入ってるの?」

 

 「うん。私はちょっと用事があって行けないけど、とうくんなら心配する必要はないね。もし良かったら、とうくんのお友達を誘っても構わないわ」

 

 「明久達をか?」

 

 「吉井君達ならきっと上手くやってくれると私は思うけど、とうくんからしてどう思う?」

 

 「そうだな。アイツらなら心配する必要は・・・・・・ないな」

 

 「とうくん。 どうして間を開けるのよ?」

 

 「いや、別になんでもないよ。心配するなって、あははは」

 

 どうしよう。いつもバカやってる明久達のことだから、なんかしでかしそうな気がするのは俺の気のせいだよな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 「・・・・・・それで、嫌がらせ撃退音を鳴らされた後に着信拒否に設定された、と」

 

 「うん。酷いと思わない? あの人、きっと僕の母親じゃないと思うんだ」

 

 「そうか。お前も苦労しているんだな・・・・・・」

 

 「いや、どっからどう聞いたって明久の自業自得だと俺は思うんだが」

 

 翌日の昼休み。いつものように明久達と会話をしている俺は明久が親から仕送りが止められた理由を聞いては物凄く呆れていた。

 話によると明久は二年生になってから自分の成績を定期的に報告しなければならないのを下手に言えば止められると思い母親に言わなかったそうだ。

 

 「大体、明久がちゃんと自分の成績を報告しておけば良かったのに、下らない嫌がらせをするからそうなったんだろ」

 

 「うぅ〜。だって・・・・・・」

 

 「まぁそう言ってやるな斗真。このバカにだってそれなりの事情があるんだしよ」

 

 「珍しいな。雄二が明久をフォローするとか」

 

 「そうだよ。一体どうしたのさ雄二? そんなに同情してもらっても気味が悪いんだけど」

 

 「いや、母親についての苦労は俺もよくわかるからな・・・・・・」

 

 「「・・・・・・・・・・」」

 

 遠い目で窓を眺める雄二。俺と明久は以前雄二の母親に会ったことがあるので雄二の苦労が理解できた。

 

 「して、明久はどうするのじゃ」

 

 飲み物パックを片手に問い掛けてきたのは俺の恋人である秀吉だ。飲んでいる物は豆乳で、健康に良いものを飲んでいるな。

 

 「う〜ん・・・・・・。正直、困っているんだよね。向こうも意地になっているみたいでなかなか電話が繋がらないし、会いに行こうにも海外なんて遠すぎるし・・・・・・」

 

 おそらく明久の母親は反省を促す為に敢えて無視してるだけかもしれんな。これを機に少しはお金の使い方を改めるべきだなコイツは。

 

 「明久、こうなってしまった以上するべきことはもう決まってるだろ」

 

 「え? それってひょっとして・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・・自分で稼ぐしかない」

 

 雑誌を見ながらムッツリーニが呟く。あだ名の由来はムッツリスケベからなんだがーー最近は只のスケベにしか見えない。

 

 「だよね。何か良いアルバイト見つけないとなぁ」

 

 「それなら明久にとっておきの話があるんだが聞いてくれないかな」

 

 「え? とっておきって?」

 

 「ああ。実は昨日、姉ちゃんに頼まれたことなんだけどーー」

 

 俺は姉ちゃんに頼まれた『ラ・ペディス』の件について話をする。あそこは学園の生徒御用達なので明久達も当然知っており興味津々に俺の話に耳を傾けていた。

 

 「へぇ〜。あのお店、バイトの募集なんてしていたんだ」

 

 「あの喫茶店はAクラスとの試召戦争後に優子達と行ったことがあるからどんなところか把握してるし、金銭面で困ってる明久にとっちゃ渡りに船みたいなもんだろ」

 

 「そうだね。もうなりふり構っている余裕もないから、折角だしやってみようかな」

 

 「勤務時間は11:00〜20:00で日給八八〇〇円程度、姉ちゃんの話じゃ未経験者歓迎だとよ」

 

 「日雇いで未経験者歓迎? それは僕にとって都合がいいけどーー何かありそうだね」

 

 明久は勤務内容を聞くと疑り始めた。普通に考えたら余りにも都合が良すぎるから怪しいと思うのも無理はない。

 

 「確かに珍しい募集の仕方じゃが、そう訝しむほどのことではなかろう。大方、突然人員が減って急場をしのぐ為に募集をかけておる、とかその程度じゃろ」

 

 「ご明察。姉ちゃんから聞いた話じゃ店長の奥さんと娘さんが家出してしまったらしく、戻ってくるまでの間を埋める為の募集だってさ」

 

 「へぇ〜。かなり切羽詰った状況になっていたんだね」

 

 「・・・・・・・・・・そもそも、明久に選り好みをする余裕はない」

 

 「う・・・・・・。それは、確かに・・・・・・」

 

 ムッツリーニの言う通り今の明久にはそんな余裕は無く、何がなんでも生活費を得るためにはそれに縋るほかない。

 

 「んじゃ、そういうことなら俺も一緒にやろうかな」

 

 「え? 雄二もやるの?」

 

 「そのつもりだ。というか、元々俺も広告を見てやろうと思っていたしな」

 

 「なんじゃ。雄二も何か入用じゃったのか?」

 

 「ああ。ちょっと・・・・・・自分の部屋に鍵をつけたくてな。とびきり頑丈なやつを」

 

 雄二の様子からしておそらく霧島さんが関わってるな。でも彼女のことだからどんなに頑丈にしてもこじ開けてしまいそうな気がするんだが。

 

 「それで、募集って何人くらいだったの?」

 

 「確か、四〜五名だった筈だぞ。あそこは結構広いし、それなりの人数が必要だからな」

 

 前に行ったときのことを思い出してみる。フロアはちょっとしたファミレス並で、メニューも豊富だからキッチンも含めてかなりの人数を要するしな。経験者なら少人数で済むかもしれないけど。

 

 「五人くらいか。それなら、秀吉とムッツリーニも一緒にどう?」

 

 そうだな。折角やるんだったら気の知れたヤツとやった方がいいし。姉ちゃんの話じゃお店の人数が足りなくて困ってるみたいだから多分大丈夫だろう。

 

 「そうじゃな・・・・・・。演技の幅が広がるかもしれんし、真理さんからの頼みじゃ断らんわけにもいかんしのう」

 

 「・・・・・・・・・・カメラの購入資金の足しになる。・・・・・・斗真、お姉さんはその日は来るのか?」

 

 「ああ、姉ちゃんはちょっと用事があって休むんだと」

 

 「・・・・・・・・・・くっ!」

 

 「何故そこは悔しがるんだよ・・・・・・」

 

 まぁ何はともあれ、二人は快く引き受けてくれたことだし、これで人数は揃ったか。

 

 「そうと決まれば、早速今日の帰りに面接に行こうよ。募集が終わっちゃっても困るし」

 

 「そうだな。そうすっか」

 

 「了解じゃ」

 

 「・・・・・・・・・・(コクリ)」

 

 「まぁ、姉ちゃんからの紹介だって言えば一発で採用してくれるかもしれんけどな。でも、やるからには予め話をつけておかないと」

 

 そういうわけで俺達五人は学校帰りに件の喫茶店に寄り、その場で面接を受けて全員採用ということになった。

 

 

 

 

 

 「ああ・・・・・・。よく来てくれたね・・・・・・。今日一日宜しく頼むよ」

 

 「は、はい。宜しくお願いします」

 

 アルバイト当日の土曜日。開店一時間前に集合した俺達を、店長は今にも倒れそうなほどの弱々しい姿で迎えてくれた。

 

 「斗真君だったね・・・・・・。君のことは真理ちゃんから聞いてるから頼りにしてるよ」

 

 「あ、はい。お任せ下さい・・・・・・」

 

 なんだろう。姉ちゃんに頼まれたとは言え、店長がこの調子じゃ今日一日やり過ごせるか不安なんだけど。

 

 (ねぇ。この店長さん、本当に大丈夫なのかな?)

 

 (むぅ・・・・・・。何かきっかけがあればスグにでも富士の樹海に行きそうなほどに弱っておるのう)

 

 秀吉の感想は正確に射ている。何せ、家族に逃げられてかなりショックを受けているからな。

 

 (斗真。前にお前が言っていたが・・・・・・この店長、奥さんと娘に逃げられたってのは本当か)

 

 (本当だ。姉ちゃんから聞いたんだから間違いないよ)

 

 (あれ? でも、前に来たときはバイトの女の子も何人かいたはずだけど・・・・・・)

 

 (ん? そう言われるとそうだな。一体何があったのか気になるけど)

 

 まさか、あんな状態の店長とするのに嫌気がさして辞めてしまったんじゃないよな・・・・・・。

 

 「それじゃあこれ、君たちの制服・・・・・・。サイズが合わなかったら言ってね・・・・・・」

 

 俺達は店長から畳まれた制服を受け取る。だが

 

 「「「「サイズが合いません」」」」

 

 渡された瞬間、俺と明久と雄二とムッツリーニの声が綺麗に重なった。

 

 「性別が合いませぬ」

 

 秀吉の方はウェイトレスの制服が渡された。

 

 「あれ・・・・・・? おかしいな・・・・・・。きちんと目測したつもりだけど・・・・・・」

 

 店長が首を傾げている。何をどう見間違えたら採寸が合わないやつを渡すんだよ。

 

 「店長。僕のは少し小さいだけですけど、雄二とムッツリーニと斗真ーーじゃなくて、坂本と土屋と東條のサイズは明らかに合っていないと思います」

 

 いくら調子が悪いとはいえ、余程目が悪くなきゃ間違えることなんてないんだが。

 

 「そうかな・・・・・・。でも、坂本君はSで、吉井君と東條君はMで、土屋君はエローーじゃなくてLに見えたんだけど・・・・・・」

 

 ちょっと待て。この人はサイズじゃなくて性癖を見抜いて制服を渡したのか。それはそれで見事に当てはまってるのが凄いんだが。

 

 「・・・・・・・・・・エロなどに興味はない」

 

 「「なにぃっ!?」」

 

 「おいムッツリーニ。今更何言ってんだよ」

 

 丸わかりな嘘を前に、明久と雄二の声がハモる。

 

 「ムッツリーニ。いくらなんでもそのウソはないよ」

 

 「そうだぞムッツリーニ。ウソは人を騙せる範囲でつくものだ」

 

 「て言うか、あれだけの事をやっておきながら誤魔化せると思うなよ」

 

 「・・・・・・・・・・!!(ブンブン)」

 

 ムッツリーニはお得意の否定ポーズをするが、誤魔化しても無駄だっつうの。

 

 「まぁ、それは置いといて僕のサイズは多分Lだから、ムッツリーニと交換しますね」

 

 「・・・・・・・・・・Mなら丁度いい」

 

 「店長。俺はきっとLLになるので、交換してもらえますか?」

 

 「俺は坂本と同じサイズだと思いますので、それと替えて下さい」

 

 明久がムッツリーニと制服を取り替え、俺と雄二がLLサイズの制服に替えてもらう為に店長に制服を手渡す。

 

 「そっか・・・・・・。そうだよね・・・・・・。うっかりして制服と性癖を間違えちゃったよ」

 

 何をどう間違えたら制服と性癖を見間違えるかこっちが知りたいくらいだ。

 

 「じゃから、ワシのは性別が合わぬと言っておるのに・・・・・・」

 

 「そう落ち込むなよ秀吉。今は女性のウェイトレスがいないからその代わりを務めてくれないか。秀吉からすれば演技の一部だと思えば気が引き締まるだろうし、俺は秀吉のウェイトレス姿を見てみたいから頼むよ。な」

 

 「う、うむ。斗真がそう言うのなら喜んで着ようではないか」

 

 「サンキュー秀吉。流石は俺の彼女だぜ」

 

 「ワシは男じゃと言うとろうに・・・・・・」

 

 すまないな秀吉。一人だけ気が乗らないのはわかるけど、今日一日はそれで我慢してくれ。後で秀吉には何か奢ってやらないと。




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