バカと双子と二刀流   作:ペンギン太郎

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俺とバイトと危険な週末 中編

 ロッカー室はそんな広くないので、最初に明久とムッツリーニが着替えることに。二人が着替え終わるまでの間、俺と秀吉と雄二はロッカールームの前で待っていた。

 

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 「どうしたんだ秀吉。自分だけウェイトレスの格好をすることがそんな気に食わんのか?」

 

 「当たり前じゃ。ワシは男じゃと言うのに何故これを着らねばならぬのじゃ・・・・・・」

 

 「でもな秀吉。制服を取り替えようにも明久とムッツリーニが邪魔するかもしれないからどうしようもないだろ」

 

 「それに、さっさと着替えて作業に取り掛からないといけないから時間を無駄に過ごすわけにもいかねぇし、今日一日はそれで我慢してくれねぇか」

 

 「はぁ。・・・・・・この中でワシを男として認識してくれるのは斗真と雄二だけじゃろうか」

 

 「そう拗ねるなよ。いつか二人が秀吉を男として認識してくれる日が来るだろうから今はそれで我慢してくれ」

 

 「わ、わかったのじゃ・・・・・・」

 

 俺達三人がそう話していると。

 

 「お待たせ、三人とも」

 

 「・・・・・・・・・・待たせた」

 

 明久とムッツリーニがお揃いの格好で部屋から出ては声を掛けてきた。

 

 「ははっ。意外と似合うもんだな。それっぽいじゃないか」

 

 「なかなかの男前じゃぞ、二人とも」

 

 「結構決まってるぞ、お前ら」

 

 「そ、そうかな・・・・・・?」

 

 「・・・・・・・・・・照れ臭い」

 

 本物の喫茶店の制服を着た二人は中々似合っており、普段の明久とムッツリーニとは思えないくらい様になっていた。

 

 「では、ワシらも着替えるとするかの」

 

 「そうだな」

 

 「んじゃ、中に入るとしますか」

 

 明久達が出た後で入れ違いに中へ入る俺と秀吉と雄二。すると

 

 『斗真!バカ雄二! 何を堂々と秀吉と一緒に着替えようとしているのさ!』

 

 『・・・・・・・・・・万死に値する・・・・・・!』

 

 ドアを閉めて直ぐ様、明久とムッツリーニがドンドンとドアを蹴破る勢いで叩く。

 

 「なぁ斗真。アイツらは何をやっているんだ?」

 

 「どうせ秀吉を女だと思い込んでるだけだろ。気にすることはねぇよ」

 

 「とりあえず、さっさと制服に着替えるかのう」

 

 明久達の戯言を無視して、私服から制服に着替え始めるが二人は未だにドアを叩き続けている。

 

 「お前らは何を言っているんだ。一緒に着替えも何も、男同士なんだから全然問題ないだろうが」

 

 「それに、俺は秀吉と付き合っているんだから別にいいだろ」

 

 『二人とも! それはあくまで戸籍上の話だよ!』

 

 「待つのじゃ明久! 事実でもワシは男じゃぞ!?」

 

 「ほっとけ秀吉。今のアイツらには何を言っても無駄だからな」

 

 「う、うむ。そうじゃな」

 

 『二人とも! それでも出ないと言うのならこっちにだって考えがあるんだから!』

 

 「あー、わかったわかった。着替えが終わったら話を聞いてやるから、今は落ち着け二人とも」

 

 雄二は面倒くさそうに言葉を返す。

 

 『雄二っ! どうしても考えを改めないのなら』

 

 「あん? 突入はするなよ? ドアの弁償なんて冗談じゃないからな」

 

 『霧島さんにこの状況を包み隠さず暴露する!』

 

 ガチャ

 

 「俺は廊下で着替えよう」

 

 雄二は命が惜しいからか、明久の言うことに従った。霧島さんにバレたら只ではすまされないからな。

 

 「はぁ、アイツらはなにやってんだよまったく・・・・・・」

 

 雄二が廊下に出た直後に俺はロッカー室の鍵を閉めた。

 

 『斗真! 君も廊下に出てから着替えるんだ! 何自分だけ秀吉と一緒に着替えようとしてるんだ!』

 

 「だ・か・ら。秀吉は男で俺と付き合ってるから別に問題ないってさっきから言ってるだろうが。うるさいからお前らは先に行って待ってろ」

 

 「むぅ・・・・・・。背中のファスナーが上がらん・・・・・・。斗真、手伝ってくれぬかのう」

 

 「ああ、いいよ。ちょっとジッとしてろよ」

 

 「うむ」

 

 俺は秀吉と二人っきりで着替えを続けるが

 

 『斗真! いくら君が秀吉と付き合ってるからと言って、それは許されることじゃないんだよ!』

 

 『・・・・・・・・・・おとなしく出てこい・・・・・・!』

 

 「あー、はいはい。今はお前らに関わってる暇はないから後にしてくれ」

 

 「明久よ。ワシは斗真と着替えたいのじゃからおとなしくしてほしいのじゃ」

 

 俺が呆れながら明久に返事をして、秀吉が俺と着替えたいと言ったものの。

 

 『秀吉! 君は何を言っているんだ!年頃の女の子が男子と一緒に着替えるのはダメに決まってるじゃないか!』

 

 「明久。いい加減にしろ。いつまでも着替えに時間を割くわけにいかないから大人しくしてくれないか」

 

 『斗真! これでも出ないって言うのなら力ずくでもーー』

 

 「仕方ない。・・・・・・それ以上続けるって言うのなら姫路さんからキスしてもらったことを玲さんに報告しても構わなーー」

 

 『それだけは勘弁して下さい!もう観念しますので!』

 

 『・・・・・・・・・・斗真。自分一人だけ独占するなど・・・・・・!』

 

 「ムッツリーニ。この前愛子とデートしてたことを須川達にバラしてもいいよな?」

 

 『・・・・・・・・・・卑怯な・・・・・・っ!』

 

 俺が軽く脅しをかけると二人はようやく鎮まった。

 

 「漸く大人しくなったか。秀吉。着替えは終わったか」

 

 「うむ。後は自分でなんとかなるから問題ないぞ」

 

 「そうか。じゃあ俺は先に行って待ってるから早く着替えを済ませろよ」

 

 制服に着替えた俺はロッカールームを後にして、明久達が待つホールへと向かっていくことに。

 

 「さて、そろそろ準備を始めるぞ」

 

 「そうだね。それにしても、本物の喫茶店か・・・・・・。学園祭ともちょっと違って新鮮だよね」

 

 「・・・・・・・・・・面白い」

 

 「そうは言うけどな。これは学園祭と違って本当の商売だから下手なことはするなよ」

 

 「わかってるって」

 

 「で、役割はどうするんだ?」

 

 「確か、雄二がドリンクを担当で、僕と秀吉と斗真がホール、ムッツリーニがキッチン担当だったよね?」

 

 「(こくり)・・・・・・・・・・面接の時にはそう言っておいた。調理は任せろ・・・・・」

 

 「そっか。ムッツリーニなら安心だね」

 

 「それはそうと、店長はどうしたんだ?」

 

 「さっきからあそこでボーッと椅子に座っているよ」

 

 明久が指差した方を見ると、店長は椅子に座って口から魂を吐き出していた。

 

 「店長。大丈夫ですか?」

 

 「ん・・・・・・。ああ、大丈夫、大丈夫さ・・・・・・。こうやってボク一人でも立派に切り盛りしていたら、きっと二人とも帰ってきてくれるさ・・・・・・」

 

 口ではそう言ってはいるが、本当に大丈夫なのか心配だ。

 

 (二人とも。あの店長ヤバくない)

 

 (・・・・・・・・・・危険かもしれない)

 

 (そうだな。明久、店長に何か話題を振ってやったらどうだ?)

 

 (だよね。ちょっと確認してみるよ)

 

 (・・・・・・・・・・どうやって?)

 

 (軽い日常会話をしてみるよ)

 

 明久が店長の前に歩み出る。まぁ日常会話くらいなら多分いけるだろう。

 

 「・・・・・・ん? ああ、なんだい・・・・・・?」

 

 「今日は良い天気ですね」

 

 明久が天気の話を降るが

 

 「ああ・・・・・・。そうだね・・・・・・。お父さんってウザいよね・・・・・・」

 

 折角の良い天気が台無しになるリアクションで返された。

 

 「えーっと・・・・・・、お客さん一杯来るといいですね」

 

 明久は話題をお店の話に変える。流石に経営者ならこの話題は無視しないと思うが。

 

 「ボクの可愛い娘はね・・・・・・、一歳になるまでは『お父さん大好き』が口癖だったんだよ・・・・・・」

 

 「店長。それは記憶の捏造です」

 

 明久が思わずツッコミを入れる。普通、赤ん坊との会話が成立するのは二歳からの筈だ。

 

 (どうしよう斗真。全然会話になってないんだけど)

 

 (それなら娘の話を振ったらどうだ。あの様子からして娘を溺愛してるのは間違いないしな)

 

 (なるほど。それなら反応があるかもね)

 

 さっきから娘のことについて呟いてるし、きっと娘の自慢話でもして乗ってくれるだろう。

 

 「あの・・・・・・」

 

 「うん・・・・・・。うん・・・・・・?」

 

 「店長の娘さんってどんな━━」

 

 「五秒やる。神への祈りを済ませろ」

 

 一瞬で息を吹き返すと同時に明久の首元にナイフを押し当てた。

 

 「ま、待って下さい店長! って言うかそのナイフどこから出したんですか!?」

 

 「店長!? 吉井に何をするつもりですか!?」

 

 とんでもないことをしようとした店長を止める為に、俺は思わず二人の間に割って入った。

 

 「あ、ああ、ごめんね・・・・・・。そう言えば君はアルバイトに来てくれた子だったよね・・・・・・。ボクの可愛い可愛い天使に手を出すクソ野郎じゃないもんね・・・・・・」

 

 「そ、そうですよ。嫌だなぁ」

 

 「店長。とりあえずそのナイフを締まってください」

 

 「あはは・・・・・・。ごめんね・・・・・・」

 

 店長が笑いながらナイフを懐に戻す。まさか店長がこれ程ヤバい人だったとは。姉ちゃん、どうして頼む際教えてくれなかったんだよ。

 

 (ムッツリーニ。斗真。この店長はセーフ? アウト?)

 

 (・・・・・・・・・・スリーアウトチェンジ)

 

 (いや、一発で退場だろ)

 

 はぁ、こうなるんだったら引き受けるんじゃなかった。今更後悔しても仕方ないか。

 俺達が今日一日、この店長をどう扱うか頭を悩ませていると。

 

 「むぅ・・・・・・。やはりワシだけ別の制服というのは・・・・・・」

 

 「諦めろ秀吉。これも仕事だ」

 

 「確かにこれも給金のうち。諦めるかの・・・・・・」

 

 後ろから着替えを済ませた秀吉と雄二の声が聞こえてきた。

 

 「お、漸く済ませたか━━」

 

 雄二のギャルソン姿はどうでもいいとして、肝心の秀吉はというと

 

 「すまぬ。この服は存外複雑な作りでのう。着付けに難儀しておったのじゃ」

 

 秀吉は困ったようにヒラヒラのエプロンドレスの裾を摘んでいた。その姿は立派なウェイトレスになっておりそれを見た俺は思わず

 

 「━━可愛い」

 

 と本音を零してしまう。

 

 「な、なんじゃ斗真!? そうジッと見られると恥ずかしいぞい」

 

 秀吉のウェイトレス姿をジッと見ていた俺に気づいた秀吉は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。

 

 「いや、秀吉のウェイトレス姿は凄く似合っている上可愛いから見惚れてしまってな」

 

 「そ、それを言われると尚更恥ずかしいのじゃが・・・・・・」

 

 「でも、斗真の言うこともわかるよ。僕から見ても秀吉の服装は凄く似合ってーー」

 

 明久が秀吉のギャルソン姿を褒めようとすると

 

 「ディア・マイ・ドウタァアアアアア━━ッッッ!!」

 

 その姿を見た店長は、両手を大きく広げて怪鳥の様に秀吉に飛びかかった。

 

 「な、なにごとじゃ!?」

 

 「て、店長!? 何をトチ狂っているんですか!?」

 

 「店長、しっかりして下さい!? 目の前にいるのは貴方の娘さんじゃありませんよ!?」

 

 「ディア・マイ・ドゥタァアアアアア━━ッッッ!!」

 

 ダメだ!俺達の声が耳に届いてない!チッ、仕方ない。力ずくで止めるしかないか。

 

 「仕方ない! 雄二、迎撃を!」

 

 「了か━━ダメだ、あたらねぇ! なんて動きだ!?」

 

 「ムッツリーニ! 店長にスタンガン!」

 

 「・・・・・・・・・・目標が絞れない・・・・・・!」

 

 「斗真! 店長に関節技を!」

 

 「任せ━━クソッ! 速すぎてまったく掴めないぞ!」

 

 まるで残像でも伴うかのような店長の動きに、俺と雄二とムッツリーニも対応できずにいる。この人は本当に人間なのか?

 

 「こうなったら、秀吉っ!」

 

 「な、なんじゃ!?」

 

 「店長の動きを止めるから『お父さんなんて大嫌い』って言ってくれ!」

 

 「よ、よくわからんが了解じゃ!」

 

 俺が秀吉に指示を出すと、秀吉の顔は役者に早変わりする。そして

 

 『・・・・・・お父さんなんて、大っっっキライ!!!!』

 

 秀吉は店長に嫌悪や怒りを込めた台詞を言う。娘を溺愛してる人がそんな言葉を言われたら動揺して動きが止まる筈

 

 「そうかっ! それじゃあ今夜はお父さんと一緒にお風呂に入ろうっ!」

 

 全然効いてないぞ! というか、言葉のキャッチボールがおかしいだろ!? どこをどうつないだらお父さんと一緒にお風呂に入るって選択肢になるんだよ!?

 

 「こうなったら実力行使しかない! 秀吉は下がって急いで服を着替えて! 雄二、ムッツリーニ、斗真! 全力で行くよ!」

 

 「「「「了解っ!」」」」

 

 「ディア・マイ・ドゥタァアアアアア━━ッッッ!!」

 

 俺達全員が店長を取り押さえ、俺が店長の関節を外し、最大出力のスタンガンを四回押し付けて、やっと店長は店に沈んだ。

 

 

 

 

 

 「で、どうしようか?」

 

 「どうするもクソも、店長がこんなじゃ何もできないだろ。『本日臨時休業』とでも書いて入口に貼っておこうぜ」

 

 「それもそうだな。店長が白目を剝いて倒れている今、俺達だけじゃどうしようもないし、店を閉めるほかないな」

 

 「バイトはまたの機会じゃな」

 

 店長の暴走対策の為、エプロンドレスからギャルソンスタイルに着替えた秀吉が呟く。その姿も似合ってはいるがさっきのウェイトレス姿と比べたら少し物足りないな。

 

 「仕方ないな。また他のバイトを探すとするか」

 

 「・・・・・・・・・・残念」

 

 「とりあえず、姉ちゃんに手伝いはできなかったって連絡はしておくか」

 

 「え? ってことはバイト代は?」

 

 「出るわけないだろ。働いてないんだから」

 

 「そ、そっか・・・・・・。そうだよね・・・・・・」

 

 明久が残念そうな顔をする。何しろ明久はバイト代が手に入らなければ生活に苦労するから落ち込むのも当然だ。

 後はこの状況をどう処理しようか考えていると

 

 

 ━━カランコロン

 

 

 「いらっしゃいませっ」

 

 考えている途中でお客さんが入店してしまい、何故か明久が『いらっしゃいませっ』と応対してしまう。

 

 「良かった、あいてるみたい。時間潰す場所なくて困ってたのよね〜」

 

 「ほんと、助かったよね」

 

 OL風のお姉さん二人が明久の言葉を聞いて店が開いてると勘違いしてしまった。これじゃあ臨時休業にすることもできず逃げ道が無くなってしまったな。

 

 (おい明久! 何を勝手に招き入れてるんだ!?)

 

 (ご、ごめん! わざとじゃないんだ!)

 

 (だとしてもどうして入れてしまうんだよ! 店長が気絶してる以上俺達にどうしろって言うんだ!)

 

 (参ったのう。もはやあの雰囲気じゃ追い返すこともできぬような雰囲気じゃし・・・・・・)

 

 (・・・・・・店長が目を覚ますまで頑張るしかない)

 

 (うぅ・・・・・・。ごめん・・・・・・)

 

 別室にて寝かせてある店長がいつ目を覚ますかわからない以上、それまでの間は俺達五人でやり過ごすしかなくなった。

 

 (こうなってしまっては仕方ない・・・・・・。メニューを限定すれば何とかなるかもしれんし、できるだけのことはしておくか。斗真と明久と秀吉がウェイター、ムッツリーニはキッチンを頼む。俺はドリンク関連を担当する)

 

 (ああ、任せろ)

 

 (了解じゃ)

 

 (・・・・・・・・・・わかった)

 

 雄二がカウンターに入り、ムッツリーニは裏手のキッチンへと姿を消す。残った俺達三人はウェイターなのでホールに残る。

 

 (俺があの二人を相手にするから、明久と秀吉は次に客が来た時の準備をしてくれ)

 

 (うん。わかったよ)

 

 (斗真、お主の接客姿見せてもらうぞ)

 

 二人にそう告げた俺は、メニュー表を片手にお客さんの前へと歩み出た。

 

 「二名様ですね? それでは、こちらへどうぞ」

 

 一組目のお客さんを連れて窓際の席へ案内する。お客さんが席に掛けたところでその場を一旦離れ、お冷をトレイに乗せて再びその席へと向かう。

 

 「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」

 

 丁寧に頭を下げてカウンターに戻る。ふぅ、ひとまずこれで良しと。

 

 「流石だね斗真。お客さんも違和感なくついてきてくれたし一安心だね」

 

 「うむ。手際の良さも完璧だったぞい」

 

 「そうか。そう言われるとなんか照れ臭いな。それはそうとドリンクはどうなんだ?」

 

 「雄二、飲み物は大丈夫?」

 

 「ま、簡単な物ならなんとかなるだろ。食べ物もムッツリーニに任せておけば問題ないだろうし」

 

 こういう時の雄二とムッツリーニは頼りになる。後は何も問題なくスムーズに済むといいが。

 

 

 『ねぇ、さっきのウェイターだけど、めちゃくちゃ格好良くない?』

 『それ、アタシも思ってた。後で彼にメルアドでも聞こうかしら』

 

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 最初に来たお客さんからそんな言葉が出ると同時に俺の頬は思わずニヤけてしまった。

 あははは、まさか俺がそういうふうに見られてたとはね。ああ言われるとなんていうか照れくさー痛だだだだ!

 

 「斗真。今はバイト中じゃぞ。うつつを抜かすでない」

 

 秀吉はあの二人に格好良いと言われた俺にヤキモチを妬いたのか顔をムッとしては俺の頬を抓る。

 

 「ごめんごめん。ちょっと調子に乗っちゃって」

 

 「クッ!どうして斗真ばかりモテているんだ! 僕だってやろうと思えば・・・・・・!」

 

 何故か明久は俺に対抗心を燃やし始める。あのな、今はそれどころじゃないから下らないことで暴走するなよ。

 

 「よしっ! 僕も頑張るぞ!」

 

 「明久。張り切るのはいいが、誤って言葉を噛むんじゃねぇぞ」

 

 「斗真の言う通りじゃ。・・・・・・あまり気負い過ぎるでないぞ。緊張は身体の動きや滑舌に影響を与えるからの」

 

 明久のことだから気合が空回りしかねないと思うが、果たして上手くいくのだろうか。

 

 

 ━━カランコロン

 

 

 おっと、二組目のお客さんが来たか。明久が接客をする為に近づき声を掛け始める。

 

 『いらっチゃッ!』

 

 『『『・・・・・・・・・・っ!』』』

 

 入店したお客さん三人組が必死に笑いを堪えて俯いている。初っ端からやらかしやがったよアイツ。

 明久はひと呼吸をして、もう一度声を掛けるが

 

 『いらっチゃ』

 

 ダッ!(明久、猛ダッシュ)

 

 『あっ! キミ、案内は!?』

 

 『大丈夫だよ! 私たち全然笑ってないから!』

 

 『もう一回だけ頑張ってみて!』

 

 明久。何自分がやらかしたミスを放置して戻ってくるんだよ。

 

 「な、なんじゃ明久!? なにゆえダッシュで戻ってくるのじゃ!?」

 

 「あのお客さん達は気にしてないみたいだからひとまず席まで案内してやれ」

 

 「わ、わかった・・・・・・。器用にできる皆が羨ましい・・・・・・」

 

 俺が明久を説得し、再びお客さんの前に出た明久は応対を再開する。

 

 『す、すいません。ちょっと気が動転してしまいました・・・・・・』

 

 お客さんの前に戻り、頭を下げる。するとお客さんは笑顔で許してくれた。心の広いお客さんが相手で助かった。

 

 『それでは、こちらのお席へどうぞ』

 

 明久はお客さんを窓際のボックス席へと案内する。その後はメニュー表とお冷を出して、注文が決まるまで離れて待機した。

 

 「斗真よ。そろそろ最初のお客さん。注文を決まったようだぞ」

 

 「ん? ああ、わかった。俺が向かうよ」

 

 「いや、ここはワシが行こうぞ。斗真にばかり任せるわけにはいかぬからな」

 

 「そうか、じゃあ秀吉にお願いするよ」

 

 「うむ。了解した」

 

 秀吉は最初に入ってきたお客さんのところへ、メモ帳を持って近づいていった。

 

 『ご注文はお決まりでしょうか?』

 『エスプレッソとレモンティーと季節のシャーベットを二つ下さい』

 『畏まりました。エスプレッソとレモンティーと季節のシャーベットをお二つですね。少々お待ち下さい』

 

 メモを取り、秀吉が戻ってくる。流石だな秀吉。台詞を噛みもせず、完璧に対応できてるじゃないか。

 

 「エスプレッソ一、レモンティー一、シャーベット二じゃ」

 

 「あいよ」

 

 「・・・・・・・・・・(コクリ)」

 

 注文を告げると、雄二とムッツリーニが動き出す。出だしは完璧だな。

 

 「明久。向こうのお客さんの注文が決まったみたいだから聞いてきてくれないか」

 

 「あ、ホントだ。行ってくるよ」

 

 明久がさっき案内したお客さんのところへ行き、注文を聞こうとする。今度はおそらく失敗はしないと思うがーー

 

 『ごチュっ!』

 

 

 ブバァッ!

 

 

 お客さんが噴出した水が、店内に鮮やかな虹のアーチを描いた。

 

 『・・・・・・・・・・ご注文は、お決まりですか・・・・・・?』

 

 おそらく明久はお客さんに対し、凄くいたたまれない気分になってるだろう。

 

 『え、えっと、私はホットココアとチーズケーキ。頑張ってね』

 『私はオレンジジュースとホットケーキで。頑張ってね』

 『わ、私はミルクティーとモンブランを。頑張ってね』

 『は、はい。ありがとうございます・・・・・・』

 

 簡単にメモを取り、雄二とムッツリーニに告げる。

 

 「ホットココア、オレンジジュース、ミルクティー、チーズケーキ、ホットケーキ、モンブランを一つずつと、頑張ってを三つ」

 

 「・・・・・・なんでお前は客に励まされているんだ?」

 

 「・・・・・・・・・・早速何かあった?」

 

 「悪いけどそれは後にしてくれ。明久、後は俺がやるからお前はそこで休んでろ」

 

 裏方にいる二人にはわからないと思うが、お客さんから励まされるなんて明久からすれば辛いだろうな。

 その後、グラスを用意しながらできた料理を待ち、俺が出来上がった順に持って行った。その後、お客さんから『あの子に良くできたねと伝えといて』とお褒めの伝言を頼まれ時は何故か複雑な気持ちになるのだった。




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