バカと双子と二刀流   作:ペンギン太郎

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俺とバイトと危険な週末 後編

 色々あったものの、時間が流れ。

 

 

 ━━カランコロン

 

 

 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 

 俺が入店したお客さんに笑顔で応対をする。入ってきたのは

 

 「二人です━━あれ? 斗真じゃないか。どうして君がここで働いているんだい?」

 

 「ああ、アランか。ちょっと、姉ちゃんにここを手伝ってくれって頼まれてな」

 

 やってきたのは俺の親友でありライバルでもあるアランだった。

 

 「そういうことか。ん? 向こうに秀吉君と吉井君がいるってことは、いつものメンバーがここで働いているってことだよね」

 

 「ああ。明久達もここで今アルバイトをしているところだ。ところで、もう一人は?」

 

 「やっほ〜斗真君。その姿中々似合っているよ」

 

 「あれ? もう一人って愛子のことだったのか。意外な組み合わせだな」

 

 アランと一緒に来たのは意外にもアランと同じクラスの愛子だった。まぁ、二人は色々と気が合うから二人っきりでいるのはそんな珍しくもないか。

 

 「ねぇねぇ斗真君。ムッツリーニ君はどこにいるか教えてくれないかな」

 

 「ムッツリーニなら奥のキッチンで料理しているよ。生憎、そこは従業員しか入れないから気をつけておけよ」

 

 「は〜い。からかえないのはちょっと残念だなぁ」

 

 「工藤さん。僕達はここで軽食をする為に来たんですからそれはまた今度にして下さい」

 

 「あ、そうだね。じゃあ斗真君、折角来たんだから案内して頂戴」

 

 「了解。コホン、お席にご案内しますが、よろしいですか?」

 

 「お願いします」

 

 「は〜い」

 

 俺はアランと愛子を席へと案内する。そして、直ぐ様お冷とメニュー表を出す。

 

 「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」

 

 アラン達に会釈してカウンターに戻る。離れた位置で客を案内していた秀吉と明久が戻ってきた。

 

 「おい、三人とも」

 

 お客さんが注文を決めるまでの間におしぼりを用意していると、カウンター越しに雄二が話を掛けてきた。

 

 「どうした雄二?」

 

 「ドリンクなんだが、今日はミルクの搬入が遅れているようで、もう在庫がない。注文が入ったら気をつけてくれ」

 

 そういや、ラ・ペディスでは新鮮な牛乳が売りの一つだったな。注文が入ったら気を付けないと。

 

 「わかった。気を付けておくよ」

 

 「了解じゃ。ミルクを使うものには気をつけよう」

 

 「ああ。宜しく頼む」

 

 雄二はそれを言い終えると、カウンターの奥に戻って行った。

 

 『すいませーん』

 

 お客さんから声が掛かる。あっちは秀吉の担当のお客さんだな。

 

 「はい、只今伺います」

 

 秀吉がメモを片手に注文を取りに行く。

 

 『お決まりでしょうか?』

 『はい。えっと、アイスコーヒーとアイスミルクティーを一つずつ』

 『申し訳御座いません。只今ミルクを切らしておりまして、アイスミルクティーはアイスティーになってしまうのですが、宜しいでしょうか?』

 『あ、そうなんですか。それじゃ、アイスティーでいいです』

 『畏まりました。アイスコーヒーとアイスティーですね。少々お待ち下さい』

 

 一礼して秀吉が戻ってくる。

 秀吉は手際良く注文の断りを入れたか。流石は俺の彼女なだけはあるな。

 

 「斗真。何か良からぬことを考えておったか?」

 

 「いや、そんなことはないよ。あははは」

 

 「ところで、明久はどうしたのじゃ?」

 

 「明久なら向こうの客の相手をしているが・・・・・・ん?アイツらは・・・・・・」

 

 

 『お決まりですか?』

 『ああ、俺はアイスコーヒー』

 『俺はアイスミルクだ』

 

 

 明久が相手にしてる客は俺達に散々嫌がらせをしてきた常夏コンビだった。まさかこの店に客として来るとは予想だにしてなかったな。

 明久は常夏コンビにミルクを切らしたことを伝えようとする。

 

 

 『お客様、申し訳ありません』

 『ん? なんだ?』

 『只今ミルクを切らしておりまして、アイスミルクはアイスになってしまいます。ご了承下さい』

 『それ、ただの氷だろ!?』

 『では、少々お待ち下さい』

 『話を聞け!』

 

 

 明久は頭を下げて、カウンターに戻る。おい明久。アイスミルクは冷やしたグラスにミルクを入れるだけなのに、なんで氷だけの飲み物になるんだ。おかしすぎるぞ。

 

 

 「すいませ〜ん。注文良いですか〜?」

 

 「あ、はい。只今伺います」

 

 愛子が注文を掛けてきたので俺はメモ帳を持ってアランと愛子が座っている席へと向かう。

 

 「お決まりでしょうか?」

 

 「んっとね。ボクはミルクティーとシュークリームを一つずつ」

 

 「僕はアイスコーヒーとホットケーキを一つずつを頼みたいんだけど」

 

 「申し訳御座いません。只今ミルクを切らしておりまして、ミルクティーはご注文頂けないんです」

 

 「え〜。そうなんだぁ、ガッカリ。じゃあ、ミルクティーの代わりにレモンティーを一つね」

 

 「畏まりました。レモンティーとアイスコーヒーとシュークリームが一つですね。少々お待ち下さい」

 

 二人から注文を取った俺はメモ帳に書き、カウンターに戻ろうとしたその時。

 

 

 『てめぇ、表に出ろやコラぁっ!』

 

 

 どういうことか。常夏コンビの片割れである夏川が明久に逆上していたのだ。あれはおそらく明久が何かやらかして夏川を怒らせたと見て間違いなさそうだな。

 

 

 『食らうかっ!』

 

 

 夏川がコーヒーをぶちまけようとしたが、明久は咄嗟に躱す。すると、目標を見失ったコーヒーはそのまま飛んでいき━━

 

 

 『っっ!?』

 

 

 近くに来ていた秀吉に降り注いだのだった。

 

 

 『『あ・・・・・・』』

 

 秀吉のYシャツが染まっていき、完全にコーヒーの染みが付いてしまった。

 

 『す、すまねぇ。アンタを狙ったわけじゃねぇんだ・・・・・・』

 

 夏川が秀吉に頭を下げる。流石にこれは悪いと思ったみたいだな。原因は明久にあるんだが。

 

 『いえ、お気になさらず、お客様』

 

 対する秀吉は演劇用のにこやかなスマイルで返す。凄いな秀吉は。

 

 「はぁ、なにやってんだよ明久は・・・・・・」

 

 「あははは。やっぱりFクラスは面白いねぇ〜」

 

 「斗真。僕達の注文は後にして良いから秀吉君のとこへ行ってあげなよ」

 

 「すまない。二人共」

 

 俺はすぐさま秀吉のところへ行き、大丈夫かどうか尋ねる。

 

 (巻き込んでごめん、秀吉)

 

 (ごめんじゃないだろ! なにやってんだよお前は!)

 

 (僕はただ変態コンビの機嫌を直そうと思って・・・・・・)

 

 (何を言ったかはわからんが、明らかに怒ってただろうが。とりあえず、秀吉は急いで制服を着替えてこい。後は俺がなんとかするから)

 

 (すまぬ斗真。それと明久、さっきのことは気にするでないぞ)

 

 (そう言ってもらえると助かるよ)

 

 そうやって俺達三人は小声でやり取りをした後、秀吉はお客さんに会釈をして奥へと消えていった。

 常夏コンビには俺から謝罪をして、お代は要らないと伝えて許してもらったのだった。

 

 

 

 

 

 ━━カランコロン

 

 

 「はい、いらっしゃいませ」

 

 秀吉が着替えに行っている最中に、お客さんが来たので俺が迎えに出る。そのお客さんはこちらの顔を見るなり明るく微笑んだ。

 

 「こんにちは東條君。遊びにきちゃいました」

 

 「あ、姫路さんか。いらっしゃい」

 

 「え? 姫路さん?」

 

 俺が姫路さんの名前を出すと、明久は驚き、こちらに来た。

 

 「明久君。その格好とても似合ってますよ」

 

 「え、そうかなぁ。あははは・・・・・・」

 

 「やってるわねアキ。へぇ〜。東條と同じくらい結構似合ってるじゃない」

 

 「あれ? 美波まで?」

 

 姫路さんの隣にいるのは島田さんだ。今度は同じクラスの女子が来てくれるとはな。

 

 「ほらほら、店員さん。ぼーっとしてないで席まで案内してくれない?」

 

 ニヤニヤと島田さんが明久に手を振って見せる。

 

 「明久、案内してやってくれないか」

 

 「わかった。そ、それじゃ。えっと、何名様ですか?」

 

 「四人です」

 

 「え? 四人?」

 

 「一人はちょっと遅れているわ。それと、もう一人は」

 

 ん?さっき俺達の横をスゥっと通った気配がしたのだが・・・・・・ひょっとして。

 

 

 『・・・・・・雄二。妻への隠し事は浮気の始まり』

 『なんだ!? いるはずのない翔子の声が聞こえるぞ!? 呪いか!?』

 

 

 アランと同じAクラスの代表を務める霧島さんがいつの間にか雄二の真後ろに立っていたのだ。

 

 「明久君たちがバイトしているって教えてくれたの、翔子ちゃんなんですよ」

 

 「あ、そうなんだ」

 

 「明久、姫路さん達の接客をしといてくれ。俺は雄二のところへ行くから」

 

 「了解。とにかく、こちらへどうぞ」

 

 「「はーい」」

 

 姫路さん達を明久に任せ、俺はすぐさま雄二のところへ行き。霧島さんに説明をする。

 

 「ごめん霧島さん。ここは関係者以外立ち入り禁止だからちょっと出てくれないかな?」

 

 「・・・・・・東條」

 

 「斗真の言う通りだ。早くここから出るんだ翔子!」

 

 「・・・・・・それはできない。雄二には色々と聞かなければならないことがあるから」

 

 はぁ、これは最早どう説明しようが雄二は霧島さんに折檻される運命だな。仕方ない。

 

 「あのね霧島さん。雄二は霧島さんにサプライズでプレゼントを買って上げる為にアルバイトをしてただけなんだよ」

 

 「・・・・・・雄二が、私にプレゼントを?」

 

 (斗真!なんてことを言ってくれるんだ・・・・・・!)

 

 (仕方ねぇだろ。ああでも言わなきゃ霧島さんはお前を折檻するところだったんだぞ)

 

 「・・・・・・東條。その話は本当なの?」

 

 「本当さ。雄二は相変わらず素直じゃないからな。でも霧島さんのことを一途に愛しているのは確かだからここは大目に見てやってくれないかな?」

 

 「・・・・・・わかった」

 

 (斗真、俺はそんなつもりは・・・・・・!)

 

 (いいから黙ってろ! お前が酷い目に合わないよう誤魔化してやってるんだぞ)

 

 (だからって、んなこと言ったら本来の目的を果たせなくなるどころか逆効果になるだろうが!)

 

 「・・・・・・雄二が、私の為に・・・・・・」

 

 (ほら、霧島さんが俺の言ったことを真に受けてるからこれで一安心だろ)

 

 (チッ!後で覚えてろよ・・・・・・)

 

 (なんで助けてやったのに、恨まれなきゃいけねぇんだよ)

 

 とりあえず、霧島さんはこれで落ち着かせたから良しとして。明久の方はどうなってるんだ?

 

 

 『そう言えば、前に来たときに食べたクレープは美味しかったよ』

 『? 前に来たとき、ですか?』

 

 

 あのバカ。姫路さんに薦めるつもりで言っただけかもしれないけど、もし島田さんとここに来たことを姫路さんが聞いたら・・・・・・。

 

 

 『あ、あの、それって誰と、ですか・・・・・・?』

 『え? 美波と一緒にだけムグぅっ』

 『ば、バカ! 瑞希、それはその、違うの! 別に二人で来たわけじゃなくて・・・・・・!』

 

 

 島田さんが咄嗟に明久の口を塞いだ。

 

 

 (アキっ! 余計なことは言わないの! とにかくウチに合わせなさい!)

 

 

 島田さんは口裏を合わせるよう忠告する。もし、明久と二人でここに来たことが姫路さんに知れたら色々とややこしくなるだけなのに何やってるんだよアイツは。

 

 

 『え? 二人じゃなかったんですか? そ、そうですか。それなら・・・・・・』

 『もちろんじゃない。ね、アキ?』

 『う、うん。もちろんだよ! 雄二も入れた四人で来たのさっ』

 

 

 ゴキン

 

 

 明久は右手首の関節を外された。

 

 

 (どうしてアンタはそうやって底の浅いウソをつくのよ! すぐそこにいるんだから、本人に確認されちゃうでしょ!)

 

 

 『・・・・・・吉井。残りの一人は、誰?』

 

 

 あ、霧島さんが無表情な顔をしながら明久の左手首の関節に手を掛けたよ。あのままだと明久は二人に悲惨な目に合わされる。

 

 

 『も、もう一人はあの人よね、アキっ』

 『そ、そう! あの人だよ、えっと━━』

 

 

 明久は誤魔化そうと必死に頭を動かす。その結果

 

 

 『えっと━━高橋先生と一緒に来たのさっ』

 

 

 明久ぁっ! さっき俺が雄二を助けようと必死に誤魔化してやったのに霧島さんになんてことを言うんだぁ!

 

 

 ゴキッゴキン

 

 

 『ふぬぁぁっ!? 手首の関節が一度ハメられてまた外された!?』

 『だからどうしてアンタはそうやって頭の悪いウソしかつけないのよっ! 高橋先生と一緒に来るわけないでしょ!?』

 『え!? え!? やっぱりウソなんですか!? そうなると美波ちゃんと二人で来たんですか!?』

 

 

 『・・・・・・A hellish gate has opened. Compensate the crime with your death. Are you ready,Yuuji?』

 『な、なんだ!? どうして翔子が戦闘態勢になっているんだ!?』

 

 

 雄二が霧島さんに処刑される状況になり、明久は島田さんから関節技を掛けられそうになるという最悪な状態になってしまった。マズイ、このままだと店の中は滅茶苦茶に━━

 

 

 ━━カランコロン

 

 

 「ごめんね、遅れちゃったーーって、皆何をしているの・・・・・・?」

 

 「・・・・・・優子」

 

 一触即発の中、店に入ってきたのは秀吉と同じ俺の彼女である優子だ。遅れてくるって言ってたのは優子のことだったのか。

 

 「あれ? 斗真じゃない。ひょっとしてここでアルバイトをしていたの?」

 

 「あ、ああ。そうなんだ。ごめん優子、来て早々悪いけど、霧島さん達を止めてくれないか」

 

 「わ、わかったわ・・・・・・。代表に美波、ちょっとは落ち着きなよ。お店で暴れるなんて良くないよ?」

 

 「・・・・・・でも雄二が?」

 

 「アキのバカが」

 

 「言い訳しないの。他のお客さんに迷惑でしょ」

 

 「・・・・・・わかった」

 

 「確かにその通りね・・・・・・」

 

 優子が二人に注意したことで、霧島さんは雄二にアイアンクローを、島田さんは明久に関節技を掛けるのを止めてくれた。

 

 「とりあえず、収拾はついたみたいですね」

 

 「まぁ、見てる分には面白かったけど他のお客さんに迷惑をかけちゃいけないしね」

 

 「あれ? 如月君と愛子もここに来ていたの?」

 

 「ああ。二人は優子が来る前からここにいたぞ」

 

 「そうだったんだ」

 

 「それはそうと、ありがとな優子。おかげでなんとかこの場は収まったよ」

 

 「別に礼を言われるほどじゃないわ。アタシたちにとってはいつものことだけど、周りに迷惑を掛けるのは良くないから止めて当たり前じゃない」

 

 「うむうむ。姉上も良いことを言うのう」

 

 「お、秀吉。着替え終わったか━━って、なんでまたウェイトレスの格好をしてるんだ?」

 

 いつの間にか来ていた秀吉は、最初に着たウェイトレスの制服を再び身につけていた。

 

 「うむ。それがじゃな、サイズの合う替えの制服が見つからんかったので、こっちで代用しておるのじゃ」

 

 「そういうことだったか。まぁ、替えの制服が無いんじゃ仕方ないな。秀吉、悪いけどバイトが終わるまでその格好でいてくれんか」

 

 「ワシは別に構わぬが。斗真よ、ワシがこの格好をするのはおかしいかのう?」

 

 秀吉が短いスカートの裾を摘みながら俺に尋ねる。

 

 「そんなことはないよ秀吉。お客さんもウェイトレス姿の方が嬉しいだろうし」

 

 「明久の言う通りだ。秀吉のウェイトレス姿はとても魅力的で優子より女らしさが際立っているから俺としてはずっとその格好でいてほしいくらいかな」

 

 

 ブチッ

 

 

 「「あ」」

 

 

 ん? アランと愛子の口がハモった気がしたのだが気のせいかな。とりあえず、騒ぎも治まったし、仕事の続きを━━

 

 「秀吉、斗真、ちょ〜〜〜〜っといいかしら?」

 

 ━━しようと思ったら、優子が怖い笑顔を浮かべながら俺達の前にやってきた。

 

 「んむ? なんじゃ姉上?」

 

 「どうしたんだ優子。何故俺と秀吉の手首を強く握っているんだ?」

 

 「いいからいいから。吉井君、このお店ってトイレはどこにあるの?」

 

 「え? むこうの奥だけど」

 

 「そう。ありがとう」

 

 明久がトイレのある場所を指すと、優子は俺と秀吉の腕を掴んだままそちらへと歩き始める。

 

 「あ、そうそう。代表と美波」

 

 そして、トイレに入る前に一言。

 

 「さっきの台詞、撤回するね。他のお客さんに迷惑でも、気に入らないものは気に入らないもの。存分にやっちゃいましょ♪」

 

 「待て優子! 今それを言ったら状況は更にマズイことにーー」

 

 「斗真。・・・・・・さっき、秀吉に言ったこと、詳しく聞かせてもらうわよ」

 

 「え? さっき言ったことって・・・・・・あ」

 

 そして、バタン、とトイレのドアを閉め、鍵を掛ける。

 

 

 「姉上、どうしたのじゃ? 何故ワシと斗真の腕を掴むのじゃ?」

 

 「アンタ、どうしてそんな短いスカートで動き回っているのかしら? 前に言わなかったっけ。アンタが余計なことをすると私までそういう目で見られるからやめろ、って」

 

 「はっはっは。何を言っておるのじゃ。姉上は家におる時はほとんど下着姿で生活をしておるではないか。今更体裁を取り繕わんでも━━あ、姉上っ! ちがっ! その関節は曲がらなっーー!」

 

 「お、落ち着け優子! 今ここで秀吉にお仕置きするのは止めておけ━━」

 

 「斗真。秀吉のウェイトレス姿がアタシより女らしさが際立っているって言ってたよね。それって一体どういうことか、関節を抱きしめながら聞かせてもらおうかしら」

 

 「あ、いや。さっきの台詞は秀吉を気遣って言っただけだ。いくら本当の事とはいえ、そんな真に受けんでも━━ま、待て! その関節はそっちには曲がらな━━」

 

 俺と秀吉が優子からお仕置きをされている頃、ホールではどうなってるかというと。

 

 

 『・・・・・・雄二。許可が降りた。高橋先生とのデートのこと、全部聞かせてもらう』

 『なんのことだ!? それと聞かせろと言いながら聞く耳持たないように見えるのは気のせいか!?』

 

 

 『あ、あの、明久君! さっきの話ですけど、本当は美波ちゃんと二人っきりだったんじゃ・・・・・・!』

 『ちちち違うのよ瑞希! アキはバカだから記憶が違っているだけで・・・・・・!』

 『あがぁっ! 美波、落ち着いてまずは僕の腕を解放して! このままだと僕の腕に関節が一つ増えちゃう!』

 

 

 トイレと同様に阿鼻叫喚の地獄絵図が店内で繰り広げられようとしていたその時

 

 

 「き、君たち! お客様の前で何をしているんだ!」

 

 

 鋭い叱咤が店内に響き渡った。

 

 「て、店長・・・・・・?」

 

 「まったく、人が倒れている間に何をしているんだ君たちは。店をあけてしまったことはともかく、お客様の前でこんな真似をしているなんて、何を考えているんだ!」

 

 力強い声にこの場にいた全員が思わず背が伸びてしまう。

 そのまま暴れだそうとしていた女子三人を抑え込み、漸く鎮まった。

 

 「いたたた・・・・・・。ようやく解放されたか・・・・・・」

 

 優子のお仕置きから一時的に解放された俺は外された部位を擦りながらホールに戻る。

 

 「お客様、大変失礼致しました。どうぞお気になさらずにごゆっくりと━━」

 

 

 ━━カランコロン

 

 

 店長が頭を下げてお客さんにフォローを入れた直後、カウベルの音が甲高い音を上げた。入ってきたのは母娘と思しき二人組である。

 

 「どう、お父さん。少しは反省した?」

 

 「み、美春・・・・・・!?ディア・マイ・エンジェル・・・・・・!」

 

 「え? どうして清水さんがここに? さっき店長のことをお父さんって━」

 

 「知らなかったのか明久。ここを経営してるのは清水さんのお父さんだったんだよ」

 

 「えぇぇぇ!? そうだったんだ。初めて知ったよその情報」

 

 帰ってきた娘を見た店長の動きが止まり、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

 「店長、良かったですね。娘さんと奥さん、帰ってきてくれたじゃないですか」

 

 「吉井君・・・・・・。ありがとう・・・・・・」

 

 一応、形としては綺麗に収まったみたいだな。後はそのままバイトを続けて給料を貰うだけだ。

 

 「美春・・・・・・。もう、どこにも行かないで━━」

 

 涙を流しながらよろよろと娘である清水さんに近付く店長。対する清水さんも、ゆっくりと店長に歩み寄るが

 

 「ああっ! 美波お姉さまじゃないですか! さては美春に逢いに来てくれたんですね!? それならそうと言ってくだされば、美春もベッドを用意してお待ちしていましたのに!」

 

 「し、清水さん!? ここって、アンタの家だったの!?」

 

 その途中で清水さんは進路を変更して思いっきり島田さんに抱きついた。

 

 「・・・・・・・・・・み・・・・・・は、る・・・・・・?」

 

 「て、店長・・・・・・?」

 

 「あ、あの・・・・・・どうかしましたか?」

 

 その様子を見て店長は動きが止まる。なんだろう、凄く黒っぽいオーラを放っているように見える気がするんだが。

 

 「・・・・・・・・・・キサマが」

 

 地獄の底から響くような、低く、小さい、店長の囁き声。

 

 

 「キサマが、娘を誑かす女かぁぁっ!!」

 

 

 雄叫びを上げると同時に動きが一気に急加速した。何だあの動きは!? ムッツリーニの召喚獣並じゃないか!?

 

 「て、店長! 落ち着いてください! 店長が落ち着いてくれないと、また皆が暴れ出しちゃいます! それと『娘を誑かす女』って言葉はどこかおかしいということに気付いてください!」

 

 「まさか、清水さんがあそこまで男嫌いになったのはあの父親のせいってことだよな・・・・・・」

 

 「ディア・マイ・ドゥタァアアアアァ━━ッ!!」

 

 ああ、これはもう駄目だな。全然止まる気配がしないし、もうどうにもならなくなったぞこれは。

 

 

 『・・・・・・雄二、処刑、再開』

 『だから何を言っているんだお前は!? どうして俺が処刑されなきゃぐぁああっ!』

 

 

 『秀吉、まだ気を失わないでね? ここからが本番なんだから』

 『あ、姉上! ちがっ! その関節もそっちには曲がらな・・・・・・っ!』

 

 

 『明久君っ! まださっきの質問に答えてもらっていません! 美波ちゃんとデートしたんですか!?』

 『お姉さまとデート!? この腐った豚野郎が!? 許せません! 八つ裂きです!』

 『ディア・マイ・ドゥタァアアアアァ━━ッ!!』

 『ち、違うのよおじさん! ウチは清水さんじゃなくてアキと━━』

 『み、美波! 僕を巻き込まないでよ! って、どうして店長が僕に襲いかかってくるの!? 誰か、助け━━っ』

 

 

 

 

 

 「・・・・・・アラン、愛子、すまないけど、手を貸してくれないかな。俺は明久を助けるから、アランは雄二を、愛子は秀吉のところへ行って二人を頼む」

 

 「わかった」

 

 「は〜い。やっぱり斗真君の周りにいる皆って本当に面白いね♪」

 

 「はぁ、これじゃあ姉ちゃんになんて説明をしたらいいのやら・・・・・・」

 

 その後、俺達が暴れまわっている皆を鎮圧し、なんとか事なきを得たのであった。尚、この事は学園の耳にも入ってしまい、アランと愛子を除く問題を起こした人達は全員、大量の反省文を書かされる羽目になったのであった。

 

 

 

 

 

 「というわけで、姉ちゃん。清水さんの家族は戻ってきたけど、店を滅茶苦茶にしてしまったわけなんだよ」

 

 「そう。まさかそんなことになっていたんだね。確かにとうくん達がやってしまったおかげでラ・ペディスは営業停止処分を受けちゃったけどもう起きた事は仕方ないんだし、次からは気をつけなさいよ」

 

 「姉ちゃん・・・・・・。それは俺じゃなくて、誤解を招くきっかけを作った明久達に言ってやってくれないかな」

 




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