「明久。明日の海水浴に行く人数は玲さんを含めて十一人なんだが、車は大丈夫なのか?」
「え?車って?」
「聞いた話じゃ借りてくる車はワンボックスカーらしいけど、それだと乗れる人数は最大で十人だった筈だ。そうなったら一人だけ乗れないことになるんだがどうするつもりだ?」
「あ、そうだった。どうしよう」
海水浴を翌日に控えたその日の夕方、夏休みとはいえ補習がある為学校に来ていた俺と明久は目的地である海辺に行くための移動手段について話をしていたのだった。
「もし一人だけ乗れないんだとしたら、そいつは現地に電車かバスで行くしかないんだが」
「そうだね。そうなったとしたら一人だけ仲間外れにならないといけないよね・・・・・・」
「明久だと乗る電車を間違えて南半球に行きかねないしなぁ・・・・・・」
「普通、乗り間違えてもそこまでは行かないと思うけど」
「雄二の場合だと霧島さんが付いていくかもしれんが、霧島さんのことだからそのまま結婚式場に連れて行く可能性もあるからな」
「確かに」
「となると、俺が一人で現地に向かうとしようかな」
「え?いいの?姉さんから聞いた話じゃかなり距離があるって聞いてるんだけど」
「心配ねぇよ。俺は二輪の免許を持っているし、知り合いからバイクを借りて乗って行くから大丈夫だ」
「へぇ〜意外だね。斗真がバイクに乗れるだなんて」
「まぁうちの学校じゃバイクで登校するのは禁止になってるから知らないのも無理はないな。というわけだから車には俺以外のやつだけで行っといてくれとーー」
「ねぇ斗真。さっきから何の話をしてるのよ」
俺が明久と話している間に優子が割って入ってきた。
優子は学校に来る必要はないんだが、俺と秀吉が補習がある為学校に行くと伝えると「秀吉がアタシを差し置いて斗真とイチャイチャするのが気に入らない」という理由だけでわざわざ自主登校しに来ていた。
「ん? ああ優子か。別に大した話じゃないよ。海水浴当日に乗って行く車だと全員が乗れないかもしれないから俺は当日バイクで行くって話をしてたんだよ」
「ふーん・・・・・・」
俺の話を聞いた優子は急に考え始める。
「ねぇ斗真。それに関してなんだけど、アタシも斗真と一緒に行っても良いかしら?」
「? それってつまり、優子は皆が乗る車じゃなく俺が運転するバイクに乗るってことか?」
「ええそうよ。だって、斗真が一人だけじゃ寂しいかもしれないでしょ。だから、アタシと一緒になっても構わないよね?」
「ああ、それなら構わんぞ。じゃあ当日は俺と優子がーー」
「待つのじゃ斗真。ワシも斗真と一緒に行きたいのじゃからワシが斗真の後ろに乗せてくれんかのう」
今度は秀吉が俺と優子の間に割って入ってきた。
「ちょっと秀吉!何勝手なことを言ってんのよ!アンタは吉井君たちと一緒に吉井君のお姉さんが運転する車に乗っていきなさい!斗真はアタシと一緒にバイクで行くんだからね!」
「嫌じゃ!こればかりは姉上とて譲りたくないのじゃ!」
「秀吉!お姉ちゃんの言うことを聞けないのならーー」
「まぁ落ち着けよ二人共。俺はどっちと一緒に行ってもいいからここは公平にじゃんけんで決めようか」
「そうだよ。美人の姉妹二人が喧嘩する姿なんて見たくないしね」
「明久。ワシは男じゃから姉妹というのはおかしいのじゃが」
「そうね。じゃあ秀吉。お互い恨みっこなしで一発勝負で行きましょう」
「了解した。勝っても負けても文句は無しじゃぞ」
そして二人はじゃんけんをする姿勢に移り、手を振りかざす。
「「最初はぐー。じゃんけんーー」」
待ちに待った海水浴当日。その日の空は抜けるような青空で大きな入道雲が浮かんでいた。僅かにそよ風が吹いては雲の形を少しずつ変えていき、いかにも夏だなという雰囲気を漂わせていた。
「今日は海に行く最高の天気だな」
降り注ぐ日差しを気にせず、Tシャツにハーフパンツといった、夏って感じの格好をした雄二が呟く。雄二は体格が良くラフな格好が凄く似合っているな。俺も雄二程ではないが体格では明久やムッツリーニには負けてはいない。
「むぅ。まったくじゃ。むねーーではなく心が踊るのう」
「秀吉。さっきの台詞はアタシに対する嫌味じゃないよね?」
「ま、待つのじゃ姉上。今のは嫌味ではなく、素で間違えただけじゃからその関節を外すのは堪忍してーー」
秀吉は薄手の白のパーカーと七分丈のパンツの組み合わせている。秀吉は不満げな顔でスポーツバックを抱えながら車を待ち構えていた。
「・・・・・・・・・・血液パックが傷まないか心配」
ロールアップのジーンズ姿のムッツリーニは抱えているクーラーボックスを心配そうに目をやる。今回は海水浴に行くんだから一緒に行く女子は勿論、海辺には大多数の水着を着た女がいるだろうからムッツリーニの命が保つのか心配になるな。
「ところで明久君。今更なんですけど、この人数が車に乗り切れるんですか?」
タイトなデニムのスカートとTシャツの上にキャミソールを重ね着している姫路さんが旅行鞄を両手に抱えながら明久に質問している。
「そういえばそうね。バイクで行く東條と優子を除いてお姉さんを入れたら九人だから普通の車の免許で大丈夫なの?」
「えーっと、姉さんは大丈夫だって言っていたけど・・・・・・」
「俺も事前に聞いたが、借りてくる車はワンボックスカーらしいから多分俺と優子以外は全員乗れると思うぞ」
明久の隣に立っている島田さんはロングの巻きスカートにTシャツという格好をしている。私服のスカート姿は初めて見るが、島田さんは手足がするりと長いから映えている。
「・・・・・・自動車の中型免許は十一人以上から」
「ボクも昨夜ネットで調べたけど、普通免許でも車次第で十人までは乗せても大丈夫みたいだよ」
優子と同じAクラスの霧島さんと愛子が明久の代わりに説明をしてくれる。霧島さんはミニスカートにペールトーンのセーターを合わせており。暑い外気を忘れさせてくれるようなピンクと白の組み合わせが目の保養になる。
愛子もショートパンツの上にキャミソールという露出が激しい格好をしていた。水泳部に所属しているだけに所々に水着の日焼け跡が残っているからそれはそれでエロいだだだだ!
「ちょっと斗真。なに愛子に見惚れてるのよ」
「いたたた。そう怒るなよ優子。ただちょっと見てただけなんだしよ」
「ふん。どうせアタシは可愛らしい格好をしてませんよ」
「いや、仕方ないだろ。俺達は今日バイクで行くんだから露出が派手な格好はできないんだしさ」
俺と優子はバイクで目的地へ向かう為、怪我をしないように長袖のジャケットにジーンズという露出が控えめな格好をしている。
因みに昨日のじゃんけんは優子がグーで秀吉に勝ったので、俺と優子がバイクで行き、秀吉が明久達と一緒に車で行くことになった。
「むぅ。じゃんけんで負けたとはいえ何か生けすかんのじゃ・・・・・・」
秀吉は自分が俺と一緒に行けないことに不満気な顔を露わにしていた。
「まぁ落ち着きなよ弟君。着いた後で斗真君と楽しめばいいんだしさ」
「そ、そうじゃな。工藤の言うように行った後で楽しめばいいからのう・・・・・・」
愛子が秀吉にフォローを入れてくれたことより、秀吉は少しは機嫌を良くしてくれた。
「さて、後は玲さんが来るのを待つだけだな」
そうして車が来るまでの間雑談をしていると、ムッツリーニが最初にその気配に気付いた。
「・・・・・・・・・・車が来た」
「んむ? おお、そのようじゃな」
目の前にワンボックスカーがやってくると、俺達の前にゆっくりと停まった。
「あら・・・・・・?すいません。お待たせしてしまったようですね」
そう言いながら車から降りてきたのは明久の姉である吉井玲さんだ。前に会った時は明久の前で散々非常識な行動をとっていたから今回の海水浴では何をしでかすか正直不安としかいいようがないが・・・・・・多分、大丈夫だよな?
「そんなことはないですよ。寧ろ丁度いいタイミングで来たところですかね」
「そうだな。俺たちが勝手に早く集まっただけなんだ」
「うむ。つい気が逸ってしまっての」
「・・・・・・・・・・楽しみ」
「玲さん。今日はお招き頂いてありがとうございます」
「ウチもこの旅行を楽しみにしてました」
「お久しぶりです玲さん。今日はよろしくお願いしますね」
最初に面識のある俺達七人が玲さんに声を掛ける。玲さんはその挨拶を聞くと「そう言って頂けると私も嬉しいです」と微笑んだ。
続いて、玲さんとは初対面の霧島さんと愛子が前に立ち、会釈をした。
「・・・・・・初めまして。坂本雄二の妻の翔子「ちょっと待て! 何を勝手に(ブスリーービクンビクン)」・・・・・・翔子です」
「こんにちは、吉井君のお姉さん。ボクは工藤愛子っていいます」
和やかに挨拶が続く。こうして見たら、女子が多くて少し華やかに見えるし、普段はFクラスというバカの溜まり場にいるから新鮮味を感じる。
「あら?東條君と優子さんはなんだか暑そうな格好をしていますがどうしてなのでしょうか?」
「すいません玲さん。俺と優子は昨日バイク屋からコイツを借りてきましたのでそれに乗って現地に向かいます」
俺は昨日バイク屋からレンタルしたバイクを見せ、それを見た玲さんは納得した。
「そうでしたか。さて。こうしていても仕方がありませんので、早速向かいましょうか」
「そうだね。話は車の中でもできるし、時間も勿体無いからとりあえず出発しようか。皆も適当に乗っちゃってよ」
「「「はーい」」」
「じゃあ俺と優子はバイクで行くとしますか。優子。俺から手を離すなよ」
「うん」
荷物とのたうち回る雄二を車に乗せ、俺と優子以外の皆が車に乗り込む。
さて、いよいよ楽しい旅行が始まりとするか。
「斗真」
「ん?どうした優子」
「二人で乗るバイクってこんなにも気持ちいいんだね」
俺は今優子を後ろに乗せてバイクを運転している為表情は読み取れないが、声からして楽しそうにしてるのは理解できる。
「そうだな。いつもは一人で適当にツーリングはしてきたから後ろに彼女を同乗させて一緒に行くのも良いもんだな」
「そうね。ねぇ、後どれくらいで着くのかしら?」
「ちょっと待てよ。今車に乗っている明久に確認を取るから」
そう言って俺はヘルメットに付いているインカムを通して明久に連絡を取る。
「(ピッ)明久、目的地へは後どれくらいーー」
『ほっといて! どうせウチは木下よりも胸の成長が遅いのよっ!』
『なんてことを言うのじゃ島田!?ワシの胸は成長なぞしておらんからの!?』
「・・・・・・・・・・」
二人に何があったのかはわからないが、秀吉と島田さんは胸について話をしてるのは確かだな。
「もしもーし。明久、聞こえるかー?」
『あ、斗真。ごめん。今取り込み中だから後にしてくれないかな?』
「ああ。そうみたいだな。ところで、なんで秀吉と島田さんは胸について話をしているんだ?」
『あ、それはね。姫路さんが少し太っちゃったって話をしていたら美波は夏バテで痩せはしたけど胸の方から痩せてしまったって話をしていたんだ』
「それだけじゃ秀吉と島田さんが言い争う理由が見当たらないんだが」
『秀吉は美波を慰めようとしたんだけど、逆に美波を怒らせちゃったのか今みたいになっちゃって』
「ああなるほど。つまり、島田さんにも例の噂が知れ渡ってしまったってことだよな」
『うん。そうみたいだね』
「斗真。さっきから何の話をしてるのよ?」
優子はヘルメットにインカムを付けていない為、俺と明久が何の話をしているのかわかっていなかった。
「ああなんでもないよ。只、秀吉と優子が入れ替わった時のあの噂が島田さんにも知れ渡ってーー」
「忘れなさいぃぃぃぃ!」
「ま、待て!俺は今バイクを運転してる最中だぞ!このタイミングで俺の腰に手を掛けるのは止せーーぎゃぁぁぁぁあ!!」
優子はあの時の噂が知れ渡っていることに癪が障ったのか俺の腰に強力な力を加え、危うく事故りかけるところであったのだった。
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