玲さんが招いた誤解を解くのにかなりの時間を要した後、俺達は明久が持ってきたスイカを使い、夏の定番の一つである『スイカ割り』を行った。俺はスイカの一歩手前で外してしまい、次にやった優子と秀吉も空振ってしまった。
「むぅ。あまり上手くいかぬものじゃな」
「アタシなんかカスリすらしなかったわ」
「そうガッカリするなよ二人とも。次にやる明久が外したら丁度一周するんだし、その次にやらせてもらえばいいんだしさ」
次にスイカを割る番に周った明久は目隠しをしてバットを手に持ち始めた。
「明久君、もっと右ですよー」
「違うわアキ。実は左よ」
「吉井君、もっと前だよー」
目隠しをした明久は姫路さん、島田さん、愛子の声を頼りに、右往左往しながらスイカを探っていく。たまに秀吉が女子の声真似をすることもあってか、少し戸惑ってはいるみたいだ。
「アキくん。そこから左前方32度、直線距離4・7メートル程度の方向です」
「・・・・・・・・・・明久。実は逆方向」
玲さんとムッツリーニの声も加わり、異なる内容を言っている為、正しい方向がわからなくなっている明久。これは最早空振りになるのは時間の問題か。その一方で雄二はと言うと
「・・・・・・雄二。この水着、どう・・・・・・?」
「どう、と言われてもな。前に見ているし、別になんとも」
「・・・・・・それはきっと、きちんと見てないから。もっと近くで見るべき」
「ってオイ!? そんな格好でくっついてくるな! 色々当たってるだろうが!」
「・・・・・・遠慮しなくても、いい」
「チッ、雄二のヤツ。相変わらずいい思いをして━痛だだだだ!」
「そういうお主も全く懲りぬやつじゃのう・・・・・・」
「斗真にはアタシと秀吉がいるんだからうつつを抜かさないでよね」
毎度の如く、秀吉と優子に頬を抓られてしまう俺。すると
「くたばれぇぇええっ!!」
「うぉおっ!? 危ねえ━━っ!!」
「オイ明久!何やってんだよお前は!?」
明久はわざとなのか。雄二の手前に来るとバットを振り下ろしたが雄二は咄嗟に躱した為、バットは雄二の手前でめり込む。
「ああ、ごめん雄二。スイカと間違えちゃったよ」
明久はそう言いながら目隠しを外すが今のはどう考えたって雄二を狙っていたものだ。一歩間違えれば事故になりかねんのにコイツは何考えてんだか。
「明久よ・・・・・・。今お主、雄二の声がした途端に迷わずダッシュをしておったように見えたのじゃが・・・・・・?」
「あははっ。何を言ってるのさ秀吉。酷い誤解だよ」
「いや、今のはどっからどう見たってわざとだろ」
明久の事だから大方霧島さんに迫れた雄二に嫉妬して攻撃したに違いなさそうなんだが。
「・・・・・・まぁ、気にするな二人とも。明久はあくまでもスイカを探していただけだからな。そうだろ明久?」
「うん。勿論だよ」
「じゃあ、次は俺の番だな。明久、バットをよこせ」
「いやいや、何を言ってるんだよ。雄二はさっきやって失敗したばかりじゃないか」
「そう言うな明久。今のお前で全員一回目が終わったから、次は二周目だろう? それならまた俺の番からじゃないか」
「いやいやいや。二周目が始まるなら、今度は順番を逆にする方が公平だと思うよ。だから僕がもう一回挑戦するよ」
「待てお前ら。どっからどう見ても互いに向けてバットを振り下ろそうとしてるのがバレバレだぞ」
「あ、あの、明久君に坂本君。折角のスイカを割って飛び散らせちゃうのもなんですから、スイカ割りはその辺で・・・・・・」
「「スイカは絶対に割らないから大丈夫(だ)」」
「お主ら、一体何を割るつもりなんじゃ・・・・・・」
「放っておけ秀吉。バカ二人は後にしてさっさとスイカ割りを続けるぞ」
結局スイカは霧島さんが均等に割ったおかげでなんとかなったものの、明久と雄二は下らない喧嘩をしていたので俺が二人を気絶させてなんとか沈めた後、時刻はお昼時となった。
男性陣がスイカを持ってきたということで、今女子陣がお昼の焼きそばやカレーなどを買いに行っている。
「ねぇ二人とも」
「なんだ?」
「どうした明久?」
「急に肩の辺りが軽くなった気がするんだけど」
「奇遇だな。俺もだ」
「さっきまでは異常な気配を感じたんだが今はさっぱりだな。まぁそうなった一番の理由はやっぱり・・・・・・」
「うん。女性陣がいなくなって妬みの視線がなくなったから、だよね」
「だろうな。まったく、厄介なもんだ」
「俺なんか秀吉と優子がくっついてたからかなり視線が痛かったしな」
美人揃いで目立つし、一緒にいる男としてはキツい部分もある。外野からすれば男と女のレベルが釣り合ってないと思ってるに違いない。
「あれ?ところで、ムッツリーニは?」
「ああ。さっきカメラのレンズを洗浄するとか言ってどっか行ったぞ」
「ま、すぐに女の水着を見て気絶するのは目に見えてるが」
「そうだね。どうせまた鼻血で汚しちゃうくせにね」
「それでも動かずにはいられないんだろ」
「ムッツリーニという名に恥じないだけのことはあるな」
「まぁ、それがムッツリーニっていう男だもんね」
俺達三人は適当な会話をしながら周囲を見回す。ここに来ているのはカップルだけに留まらず、女子だけのグループや家族連れなど様々な組み合わせがいた。なんだかやけに好気の眼差しで見られている気がするが気のせいだよな。
「意外と女の人だけで来ているグループもいるんだね」
「ん? そういやそうだな。って、ナンパをする男連中がいるんだから、ナンパされる女がいて当然か」
「海でナンパというのは夏の定番みたいなもんだし、そんな珍しくもないだろう」
「それもそうだね」
おそらくここにFクラスのヤツらが来ていたら突拍子に女性達に声を掛けてナンパをし、尽く失敗するだろうな。
「お待たせしました三人とも。ただいま戻りました」
「あ、お帰り。結構時間がかかったね。混んでたの?」
話している途中、女性陣が色々な食べ物や飲み物を携えて帰ってきた。
「いや、そこまで混んでおったわけではないのじゃが・・・・・・」
秀吉がジュースを片手に苦々しく呟く。ひょっとして・・・・・・
「まさか、またナンパでもされてたのか?」
「うん。斗真君の言う通り、ボクたちまたナンパされちゃったんだよね」
「え? また?」
やっぱりな。女子達だけで行ったんだから、おそらく彼氏がいないだろうと思った男達にしつこく声を掛けられたに違いない。
そうなるのなら、俺か雄二がついて行けば良かったな。
「さっきは特に、美波ちゃんと翔子ちゃん、それから優子ちゃんが随分と迫られて困ってましたよね」
姫路さんが苦笑いを浮かべながら島田さんと霧島さんと優子に視線を送る。
「ホント、ウチああいうのって苦手なのに・・・・・・」
「・・・・・・私も、苦手」
「アタシなんか彼氏がいるって言ったのに、全然聞いてくれなかったわ」
執拗に迫られてたのか、三人は疲れた顔をしていた。
「ふぇ〜。それは大変だったね」
「いつものように腕力で片付ければ良かったんじゃないか?」
「或いはその場で関節を外してやっても文句は言われなかったかもな」
言いながら、俺達三人で荷物を受け取ろうと手を伸ばす。
「こらこら、そんな態度じゃダメだよ三人とも」
俺達が伸ばした手をペチンと、愛子に叩かれてしまった。
「そんな態度って言われても」
「何がダメなんだ?」
「あ、そういうことか」
「何がダメなんだ━━って、はぁ・・・・・・。斗真君はともかく、二人とも、本当に女心がわかってないね・・・・・・」
さっきは無意識に言ってしまったが、愛子に注意されてすぐさまその意味を理解した。明久と雄二は未だにわかってないみたいだが。
「こらアキ。アンタ、ウチらが困っていても気にならないって言うの?」
「明久君。それはちょっと冷たいと思います」
「あ、いやそういうわけじゃ・・・・・・」
島田さんと姫路さんがジト目で明久を見る。明久は心配はいらないと思って言っただけかもしれんが、二人からすれば自分達がどうなろうと構わないと明久に思われてるだろうな。
「・・・・・・雄二」
「ん?」
「・・・・・・雄二はもっと、ヤキモチを妬いたり心配したりするべき」
「いやだから俺なりに心配はしていると痛だだだっ! ちょっと待て! お前が俺に何を要求しているのかさっぱりわからねぇ!」
「・・・・・・わかるまで教えてあげる。・・・・・・身体に」
「ふぐぁぁあっ!」
霧島さんは感情表現をストレートに怒りの丈を雄二にぶつけていた。
「ねぇ斗真」
「ん?」
「こ、これは、もしもの話なのじゃが・・・・・・」
「アタシと秀吉が他の男にナンパされたら、斗真はどう思う?」
「どうって、秀吉と優子は俺の彼女なんだし、ヤキモチを妬くに決まってるだろ」
「そ、そう・・・・・・。良かったぁ〜」
「お主からその言葉が聞けて嬉しいぞい」
二人は他の女子達と違って、自分達は心配されてると知るやほっとしていた。
「いいよね木下と優子は東條に心配されて。それに比べてアキたちはもっとウチらのことを心配するべきよね」
「ですね・・・・・・。東條君みたいに少しは妬いてもらえないと、なんだかちょっと・・・・・・」
「じゃあ、少し心配させてやりましょ。このままじゃ釈然としないし」
「いいですね。ちょっと意地悪しちゃいましょうか」
あ、どうやら姫路さん達は明久に仕返しをする為に、からかい始めようとしてるな。
「ん?どしたの、姫路さんに美波?」
明久は二人が何を話そうとするのか未だにわかってないようだ。
「ねぇ瑞希。ああいうのって、いつどこに行っても出てくるから困るわよね」
「そうですね。困っちゃいますね」
「あれ? 美波や姫路さんってよくナンパされるの?」
「はい。それはもう、いつでも!」
「そうよ。それはもう、どこでも!」
姫路さん達は力強く返事を返す。そこまでして明久に意識してもらいたいっていう気持ちが見て取れるよ。
「でも、その割にはさっき随分と慣れていない反応に見えたけど・・・・・・」
「そ、そんなことないです! いつものこと過ぎて呆れて声も出なかっただけです!」
「そうよ! 瑞希の言うとおりだわ! 鈍く恋愛ごとに縁のないアキにはわからないでしょうけどねっ!」
「言われてるぞ明久」
「失礼な。そんなことないねっ! 僕だってナンパくらい余裕で━━」
「明久君。余裕で、なんですか?」
「アキ。余裕で、何かしら?」
明久は反論するが、ナンパくらいできると言ったら殺されると感じたのか即座に口を閉ざした。
「えーっと、余裕で、その・・・・・・」
「明久。言いたいことがあるのならはっきりと言ったらどうだ」
「まさか、できる、とでも言うんですか? 明久君が?」
「アキ。アンタ何を言ってるの? アンタにナンパなんてできるわけがないじゃない」
「む」
「そうですよ。明久君にナンパなんて似合いませんし、うまくいくとも思えません。見栄を張っちゃダメです」
「むむ」
「アキくん。人には向き不向きというものがあります。アキくんは恋愛ごと全般に向いていませんから、異性との交遊はお友達までにしておくべきだと思います」
「むむむっ」
酷い言われようだな明久。でも明久のことだ。ここまで言われたからには黙っている筈がない。
「・・・・・・雄二も、全然女心がわかっていない。・・・・・・だから、モテない」
「く・・・・・・っ! 言ってくれるじゃねぇか・・・・・・っ!」
霧島さんにアイアンクローをされたまま、雄二が呻く。よくあの状態で普通に話せるな。
「ねぇねぇ斗真君。もし斗真君がナンパしたらどうなるかな?」
愛子が面白そうな顔をしながら俺に尋ねる。
「俺か? そうだな。やったことはないからなんとも言えんけど、多分・・・・・・いけるかもしれんな」
「へぇ〜。その理由を聞かせてもらえるかな?」
「この前『ラ・ペディス』でバイトをした時に接客したOL風の女性達から『格好良い』とか『メルアドを聞こうかな』って言われたことがあって━━痛だだだだ!」
「斗真。その話詳しく聞かせてもらえるかしら?」
優子は気に障ったのか、俺の腕に関節技を掛けてきた。
「痛だだだだ。落ち着け優子!俺はただその人達から言われただけで、決して仲良くなったわけじゃないから!」
「そう。なら良かったわ」
俺が弁明をして誤解だと知るや、すぐさま俺の腕を解いてくれた。
「まったく、吉井君も坂本君も反省しないとダメだよ? ほらほら代表も、その程度で許してあげなよ。買ってきた飲み物が温くなっちゃうから、ね?」
愛子がそう言って締めると、渋々と言った感じで霧島さんは雄二の顔面から手を離した。
(くそっ。なんか、妙に納得いかねぇぞ)
(だね。理不尽に怒られた気がするよ)
解放された雄二は明久と愚痴り合う。お前らが女心を理解してないからそうなったんだろうに。
(しかも、ちょっと自分らがナンパされたぐらいで調子に乗りやがって。何が俺たちがそんなにモテない、だ。そんなワケがあるかっての)
(全くだよ。僕が恋愛に不向きだなんて、そんなこと全然ないのに。僕だって本気を出せばナンパくらい━━)
(お前ら、無駄に見栄を張らなくていいだろ。たかが、ナンパ如きでそんなムキにならなくても━━)
((お前(君)にだけは言われたくねぇよ(ないよ)!))
(なんだとっ!)
二人に言われ、俺達三人が目をバチバチと火花を散らしていると、今度は目の前にムッツリーニのとある光景が写った。カメラを携えて戻ってこようとしていたムッツリーニが、知らない人と話しているという珍しい光景だ。あ、愛子も珍しそうに面白くないなって感じの顔をしている。
『ねぇキミ、凄いカメラ持ってるね』
『・・・・・・・・・・???』
『良かったら、一枚撮ってくれない?』
『・・・・・・・・・・別に構わない』
『本当? ありがとう』
『あ、そうだ。それならキミも一緒に写ろっか♪ 夏の思い出に、ね?』
『あははっ。それいいねっ。この子、結構可愛い顔してるしっ』
「ぐぼぁっ!!」
「ど、どうした明久!? 何を見たんだ?」
「いくらなんでも大袈裟すぎるぞ」
明久はムッツリーニが逆ナンされてるところを見てショックを受けたようだ。
「しっかりしろ明久! お前は一体何を見たんだ!」
「ナンパ・・・・・・されてる・・・・・・!」
「あ? なんだって?」
「雄二、向こうを見てみろ」
「あ?」
俺に言われるがまま、雄二がムッツリーニのいる方を向くと
『きゃーっ。キミ、写真撮るの天才じゃない!?』
『すごーい! メチャクチャ綺麗じゃない!』
『・・・・・・・・・・この程度、一般技能』
『またまた、照れちゃって可愛いっ』
「ごはあっ!!」
雄二もムッツリーニが逆ナンされてるところを見て口から鮮血を出す。
「あ、ありえねぇ・・・・・・っ! どうして、俺たちを差し置いてムッツリーニが・・・・・・っ!」
「ありえない、ありえないよ・・・・・・!」
「いや、ムッツリーニが声を掛けられたぐらいでそこまで落ち込まなくてもいいだろ」
どうやらこの二人からすれば自分達を差し置いてムッツリーニがモテてることが余程ショックだったみたいだな。
「・・・・・・あのさ、雄二?」
「なんだ・・・・・・?」
「もしかして、だけどさ」
「ああ」
「このメンバーでモテないのって、僕と雄二だけなんじゃ・・・・・・」
「ば、バカなことを言うなっ! そんなことがあってたまるか!」
「だ、だよねっ! そんなわけないよねっ! 僕は何を言ってるんだか!」
「全くだ! バカも休み休み言えってんだ!」
「でも、この中で声を掛けられてないのは明久と雄二だけだぞ」
「ぐ・・・・・・っ」
「そ、そういう斗真だって声を掛けられてないじゃないか?それなら僕たちと同じ・・・・・・」
「吉井君。さっきまで一緒にいたアタシが言うのもなんだけど、斗真は他の女の子たちから目をつけられていたわよ」
「「ぐはっ!」」
優子からのトドメの一言を聞いた二人は意気消沈をした。
「やっぱり、姉さんが昔から言っているように、僕は全くモテないんじゃ・・・・・・」
「いやいや、落ち着け明久。女子と斗真はおいておくとして、ムッツリーニはあの通りパッと見は物静かだからな。声をかけられ易かっただけだろう」
「まぁ確かに、ムッツリーニは僕らとはタイプが全然違うね」
「言うなれば、静と動みたいなもんだな」
「ああ。だから俺たちがモテないと判断するのは早計だ。お前はともかく、この俺がモテないわけがない」
「そ、そうだよねっ。僕らはタイプ的に声はかけられにくいけど、だからってまだモテないって決まったわけじゃないもんね!」
明久と雄二は見苦しくも、自分達がモテないわけではないと自分自身に言い聞かせていた。
「そうだとも! 逆ナンされないかもしれないが、俺たちが本気を出せばナンパぐらい余裕のはずだ!」
「うんうんっ! 何が『アンタにナンパなんてできるわけがない』だよっ! 目に物見せてやるっ!」
「お、おいお前ら。ひとまず落ち着け━━」
「その意気だ明久! こうなりゃ、俺たちの本気を見せてやろうじゃねぇか!」
「うんっ! 僕らがちょっと本気を出せばどれくらいモテるのか、皆に見せてやろうよ! いつまでもモテないままだって思われていてたまるかっ!」
「おうともよっ!」
「いや、だからそんなことする必要は━━って、行っちまいやがった」
明久と雄二はつまらないプライドを守る為に、浜辺でナンパをすることとなった。
「斗真、あの二人はどうするのじゃ?」
「どうするも何も、どうせバカやって失敗するのは目に見えてるよ。今はもう昼時だし、さっさと飯を食べて日が暮れるまで遊ぼうか」
「そうね。それじゃあ、吉井君と坂本君抜きで昼食を摂りましょう」
一緒に遊びに来た女子達を放ったらしてナンパしに行ったバカ二人を放ったらかし、俺達はそのまま昼食を食べ始めたのだった。
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